Dec 11, 2013

2013.10.03 「壽製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10415

併用発明の相乗効果と顕著な効果知財高裁平成24年(行ケ)10415

【背景】

「血清コレステロール低下剤或はアテローム性硬化症の予防又は治療剤」に関する特許出願(特願2003-185171号; 特開2005-015434)の拒絶審決(不服2010-8202)取消訴訟。特許庁は、引用例1と引用例2に記載された発明に基づいて進歩性なしと審決した。

請求項1(本件補正発明):
下記化学式(56)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と,コレステロール生合成阻害剤及び/又はフィブラート系コレステロール低下剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はプラバスタチン,ロバスタチン,フルバスタチン,シムバスタチン,イタバスタチン,アトルバスタチン,セリバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチン,及びカルバスタチンからなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤であり,上記フィブラート系コレステロール低下剤はクロフィブラート,ベザフィブラート,シンフィブラート,フェノフィブラート,ゲムフィブロジル,及びAHL-157からなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤である血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤。
本件補正発明と引用例1に記載された発明(引用発明)との一致点:
「β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤と,コレステロール生合成阻害剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はロバスタチンである血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤」である点。
本件補正発明と引用例1に記載された発明(引用発明)との相違点:
本件補正発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「化合物56」であるのに対し,引用発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「コンパウンドA」である点。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 相違点の判断の誤りの有無
引用例1及び2に接した当業者は,引用例1の記載から,β-ラクタム構造を有するβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤とコレステロール生合成阻害剤(HMG CoAレダクターゼ阻害剤)との組合せは,どちらか単独の薬剤を使用するよりも大きく血漿コレステロール濃度を減少させ,それぞれの減少率の和以上の血漿コレステロール濃度の減少率を示すという相乗効果を発揮し得ることを理解し,引用例2の記載から,β-ラクタム構造と加水分解に安定なC-配糖体部分とを同一分子内に有するβ-ラクタム化合物のC-配糖体は,C-配糖体を有しないβ-ラクタム化合物よりも,作用部位である小腸上皮に長時間留まることが可能であり,しかも,小腸上皮からの吸収がわずかであって,副作用が軽減されるので,優れた血清コレステロール低下作用を有すること,引用例2の表13記載の化合物56を含む13個の化合物(β-ラクタム化合物のC-配糖体)は,実際に血清コレステロール低下作用を示したことを理解するものといえるから,β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤としてコンパウンドAとコレステロール生合成阻害剤としてロバスタチンとを組み合わせた引用発明において,血清コレステロール低下作用の更なる改善を目的として,C-配糖体部分を有しないコンパウンドAに代えて,引用例2の表13記載のC-配糖体部分を有する化合物56を含む13個の化合物のそれぞれと置換することを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,引用例1及び2に接した当業者であれば,引用発明のコンパウンドAに代えて上記13個の化合物の一つである化合物56を採用することを容易に想到することができたものと認められる。

(2) 顕著な作用効果の判断の誤りの有無
発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,当該発明と引用発明とを対比して,当該発明と引用発明との構成上の相違点を確定した上で,当業者が,引用発明に他の公知発明又は周知技術とを組み合わせることによって,引用発明において相違点に係る当該発明の構成を採用することを想到することが容易であったか否かによって判断するのを原則とするが,例外的に,相違点に係る構成自体の容易想到性が認められる場合であっても,当該発明が奏する作用効果が当該発明の構成そのものから当業者が予測し難い顕著なものであるときは,その作用効果が顕著である点において当該発明は特許法の目的である産業の発展に寄与(同法1条)するものとして進歩性を認めるべきであるから,当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないものと解するのが相当である。

引用例1及び2に接した当業者は,コンパウンドAとロバスタチンとを組み合わせてなる引用発明において,コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に,引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められる。
一方,本願明細書には,化合物56とロバスタチンとを組み合わせてなる血清コレステロール低下剤あるいはアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤の薬理実験の結果の記載がないことに照らせば,本願明細書の記載に基づいて,上記組合せからなる本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを認めることはできない。
すなわち,実験動物における薬理作用を比較検討するに当たっては,実験条件をそろえることが必須であるところ,本願明細書記載の実験と引用例1記載の実験とでは,被験動物の種類が異なり,投与量等の条件も異なる上,被験動物の種類により薬剤に対する応答が異なることは技術常識であるから,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の効果の顕著性を立証することはできない。
また,コレステロール生合成吸収阻害剤であるアトルバスタチンとロバスタチンとは異なる物質であり,両者がβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤との併用において同等であると認めるに足りる証拠はないから,この点において,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを立証することはできない。
以上によれば,上記の各実験結果によって本件補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると,これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。他に原告は本件補正発明の奏する作用効果の顕著性に関し縷々主張するが,上記判断に影響を及ぼすものではない。
【コメント】

本願明細書には化合物56とアトルバスタチンとの併用がそれぞれ単独の効果に比べ相乗効果があることが示されていたが、そもそも、引用例1及び2(出願人自身のPCT出願(WO02/066464))に接した当業者は、コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に、引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められるから、その相乗効果自体が予測し難い顕著なものであるとはいえないとされた。相乗効果が認められたからといって併用発明が進歩性を有するわけではない。そもそも相乗効果が予測し得るものであるならば、さらにそれを超える顕著性が求められる。

寿製薬のwebpageからの情報やネット上の文献情報(239th ACS National Meeting; March 21-25, 2010; San Francisco, CA, United States. 2010)によれば、塩野義製薬と共同開発中のコレステロール吸収阻害剤S-556971(KT6-971)はC-glycoside analogs of the ezetimibe glucuronide conjugateである。本願補正クレームで出願人が絞り込んだ化合物56が出願人にとって最も重要な化合物(すなわち開発化合物)と仮定すれば、化合物56がS-556971(KT6-971)であると予想される。



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