Jan 26, 2013

2012.08.09 「テバ v. 東理」 知財高裁平成23年(ネ)10057

時機に後れた攻撃防御方法に当たるか否か: 知財高裁平成23年(ネ)10057

【背景】

「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」に関する特許権(特許第3737801号)を有する原告(テバ)が、被告(東理)に対し、被告製品の販売差止め等を求めた事案。

審理の経緯:
  • 本件は、被告製品が本件特許の技術的範囲に属することについては当事者間に争いがなく、本件特許の無効事由の存否が主たる争点である。原審において、被告は、乙1資料及び乙5公報を主引例とする進歩性欠如等の主張をした(乙5公報には純度99.8パーセントのプラバスタチンナトリウムを得たとの実施例が記載されていたものの、本件特許に記載の製造方法については何らの言及がされていないものである。)。
  • 原審は、本件訂正発明は乙5発明と技術常識とを組み合わせることによって、当業者が容易に発明することができた(特許法29条2項)から、本件特許は特許無効審決により無効にされるべきものであると判断して(特許法104条の3)、原告の請求を棄却した(2011.07.28 「テバ v. 東理」 東京地裁平成20年(ワ)16895)。
  • 原告は、本件控訴を提起した。ところで、原告は、訴外協和発酵キリン株式会社に対して、本件特許権に基づき、特許権侵害訴訟を提起し、同事件の控訴審が大合議事件となった。当審では、大合議事件の審理等を優先することとし、当審での第1回口頭弁論期日を平成24年4月12日と指定した(その間,被告は、平成23年12月9日に、控訴状に対する答弁書を提出したが、答弁書においては、乙13公報を主引例とする進歩性欠如の無効理由の主張はされていない。)。
  • 平成24年1月27日,大合議事件において判決の言渡しがされた。
  • その後、当審において同年4月12日に実施した第1回口頭弁論期日において、被告は、本件特許には、乙13公報を主引例とする進歩性欠如の無効理由が存在する旨主張をした。
【要旨】

主 文
本件控訴を棄却する。(他略)

本件特許に関する大合議事件判決(2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043)が本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると判断した内容と同様に、裁判所は、「本件発明及び本件訂正発明は,乙13発明並びに乙1資料及び技術常識から,当業者が容易に発明することができたと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない」と判断した。

なお、乙13公報を主引例とする無効の抗弁は重大な過失による時機に後れた攻撃防御方法であるとする原告の主張について、裁判所は、審理の経緯に照らし、下記のように判断した。
「「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合の発明の要旨認定に関し,原審では,「製造方法」に限定されないとの理解を前提とした審理がされていた。そのような原審の審理を前提として,被告は,より純度の高いプラバスタチンナトリウムについての記載がある乙5公報を主引例とする無効理由を挙げて無効の抗弁をした。しかし,大合議事件判決において,本件発明の要旨の認定について,「製造方法」に限定される旨の判断がされたことから,被告は,当審の第 1 回弁論期日において,同一の製造方法が開示された乙13公報に基づく無効事由を主張した。このような経緯に照らすならば,被告が上記の主張をしたことに合理性を欠く点はなく,また時機に後れたと解することもできない。よって,被告の主張が時機に後れているとの原告の主張は採用できない。」
【コメント】

本件特許に関する大合議事件判決(2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043)が示されたことで、本事件も決着した。

Jan 20, 2013

2012.07.18 「田岡化学工業 v. 大阪ガスケミカル」 知財高裁平成24年(ネ)10016

先使用による通常実施権を認めた事例: 知財高裁平成24年(ネ)10016

【背景】

原判決(2012.01.26 「田岡化学工業 v. 大阪ガスケミカル」 大阪地裁平成22年(ワ)9102)は、特許権者である田岡化学工業(控訴人)の請求を全部棄却したため、控訴人が原判決を不服として控訴した。

【要旨】

主 文
本件控訴を棄却する。(他略)

1 争点3(被控訴人は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権(特許法79条)を有するか)について
~大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであることは明らかであるということができる。また,前記(2)ア(ウ)のとおり,被控訴人は,大阪ガスから被控訴人製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。
2 争点1(被控訴人製品は,本件特許発明1の方法により生産したものであるか)について
控訴人は,本件特許発明1は本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを生産する方法の発明であるところ,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFは,本件特許に係る優先権主張日(平成19年2月15日)前に日本国内において公然知られたものではなく,被控訴人製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFと同一の物であるから,特許法104条の規定により,本件特許発明1の方法により生産したものと推定されるものと主張する。
しかしながら,被控訴人製品が,本件特許発明1の方法により生産したものと推定される場合には,前記1のとおり,被控訴人製品は,本件特許の優先権主張日前から,被控訴人の事業として実施されていたのであって,被控訴人は,本件特許発明2に係る本件特許権について,先使用による通常実施権を有する以上,本件特許発明1に係る本件特許権についてもまた,先使用による通常実施権を有するものというべきである。
他方,被控訴人製品が,本件特許発明1の方法により生産したものと推定されない場合にあっては,被控訴人製品が本件特許発明1の方法により生産した物であることに関する主張立証はないから,これを認めることはできない。
そうすると,被控訴人製品が本件特許発明1の方法により生産したものであると推定されるか否かにかかわらず,いずれにしても,本件特許発明1に係る本件特許権に基づく原告の請求は理由がないこととなる。
3 結論
以上の次第であるから,控訴人の本訴請求にいずれも理由がないとした原判決は相当であって,本件控訴は棄却されるべきものである。
【コメント】

本件侵害訴訟の一方で、大阪ガスケミカルは、田岡化学工業の保有する本件特許の無効審判請求(無効2010-800194号事件)は成り立たないとの審決の取消しを求めて訴訟を提起していたが、知財高裁はその請求を棄却した(2012.04.26 「大阪ガスケミカル v. 田岡化学工業」 知財高裁平成23年(行ケ)10225)。大阪ガスケミカルは田岡化学工業の特許を無効にできなかったが、結果的には本件侵害訴訟で非侵害の判決が出て大阪ガスケミカルの勝訴となった。

参考:



Jan 13, 2013

2012.06.28 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10179

hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用の裏付け: 知財高裁平成23年(行ケ)10179

【背景】

「血管内皮増殖因子拮抗剤」に関する特許出願(平成8年特許願第529682号、特表平11-502853、WO96/30046)の拒絶審決(不服2007-23530号)取消訴訟。審決は、実施可能要件違反およびサポート要件違反であると判断した。

請求項1:
加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)

裁判所は、
「本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを直接的に示す実施例等に基づく説明は一切存在しない(当事者間に争いがない)。そこで,旧特許法36条4項の要件充足性の有無,すなわち,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合して,当業者において,本願発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載ないし開示があると評価できるか否かについて,検討する。

~加齢性黄斑変性の原因である脈絡膜での血管新生は,甲9記載の病的状態を作り出す血管新生のカテゴリーに属するものであるが,上記のとおり,甲9には,血管新生を促進する因子としては,FGFのみではなくVEGFやHGFが知られていたこと,血管新生のメカニズムは解明されつつあるものの,どのような病態でどの増殖因子が血管新生に関与しているかは不明な点が多い点が記載されている。
上記の記載に照らすならば,脈絡膜での血管新生がVEGFにより促進されるとの事項は,本願の優先権主張日当時に知られていたとはいえず,また,同事項が技術常識として確立していたともいえない。すなわち,甲9では,VEGFが血管新生を促進する因子であることは示されているものの,血管新生にVEGFのみが関与している点は明らかでなく,結局,どの増殖因子が原因であるかは不明であることから,甲9から,hVEGF拮抗剤でVEGFの作用を抑制しさえすれば,脈絡膜における血管新生が抑制できることを合理的に理解することはできない。
以上に照らすならば,本願発明~の内容が,本願明細書における実施例その他の説明により,「hVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤」を使用することによって,加齢性黄斑変性に対する治療効果があることを,実施例等その他合理的な根拠に基づいた説明がされることが必要となる。
しかし,前記のとおり,本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを示した実施例等に基づく説明等は一切存在しないから,本願明細書の記載が,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものということができない。
したがって,旧特許法36条4項に規定する要件を満たしていないと判断した審決に誤りはない。」
と判断した。

原告は、
「本願明細書には,加齢性黄斑変性が脈絡膜新血管新生によって特徴づけられることが明確に記載され,「脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本発明のVEGF拮抗剤は,AMD の重篤性の緩和において特に有用であると思われる」などと記載されていることから,当業者であれば,hVEGF拮抗剤が脈絡膜の血管新生を阻害することによって加齢性黄斑変性の治療に使用できることが理解できる」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「同記載は,本件特許の出願時に知られていた血管新生を促進する3種の因子の1つであるVEGFの拮抗剤を,加齢性黄斑変性の治療に利用する可能性があるということを超えては,意味を有しない。前記のとおり,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合しても,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることが何らの説明もされていない以上,同記載部分をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載であると解することはできない。」
と判断した。

また、原告は、
「本願明細書の実施例1ないし6は,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたことを明確にする実験結果であり,同記載をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものと理解できる」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「同実験で使用された~細胞はウシ副腎皮質の毛細血管内皮細胞~ヒトグリオーマ,ヒト横紋筋肉腫及び平滑筋肉腫~ヒトへそ血管内皮細胞であって,脈絡膜の血管内皮細胞ではないから,同実験が,脈絡膜における血管新生の抑制を示すものとはいえない。
以上のとおり,本願明細書の実施例は,これらの実験で使用された血管内皮細胞の増殖活性若しくは走行活性,又は腫瘍細胞の血管新生にVEGFが関与することが示されるとはいえるものの,VEGFの脈絡膜における血管新生に対する作用を示すものではない。上記実施例により,脈絡膜における血管新生とVEGFの関係を示したとはいえない。
したがって,本願明細書に,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとことに関する実施例が記載されていても,同実施例から,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用が裏付けられたとはいえず,原告の主張は採用できない。」
と判断した。

裁判所は、
「~以上のとおり,旧特許法36条4項に規定する要件を充足していないとした審決の判断には誤りはないから,その余の審決の当否を判断するまでもなく,原告の取消事由に係る主張は採用できない。原告は,他に縷々主張するが,いずれも理由がない。」
と判断した。

【コメント】

クレーム自体は、「hVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用」という、いわゆる機能表現クレームである。しかし、本事件で実施可能要件に関して問題となった点は、そのような機能表現クレームの範囲が広すぎて実施可能要件を満たさないということではなく、明細書に記載されたin vitro実験等だけではアウトプットである疾患「加齢性黄斑変性」に対する治療作用が裏づけられていないという点であった。

一般的に、ある疾病治療に関する医薬用途発明の実施可能要件を満たすために、明細書に記載すべき薬理データとして、必ずしもその疾病患者での治療効果を裏付ける臨床試験結果の記載が求められているというわけではない。しかし、本事案のように、その疾病の原因である病態メカニズムに関与する生体内因子として、いくつかの因子が知られているが、結局、どの因子が原因であるかは不明である場合、そのひとつの因子の作用を抑制すれば、その疾病に対する治療作用を期待できる、と合理的に理解できるかどうか、そのような理解が出願時の技術常識であるかどうかを注意深く検討して、どんな薬理データを明細書に記載すべきか決める必要がある。


ところで欧州では下記のようなクレームで成立している。

EP0817648B1
Claims 1. Use of a hVEGF antagonist in the preparation of a medicament for the treatment of age-related macular degeneration, wherein the hVEGF antagonist interferes with the binding of hVEGF to the flt receptor and/or to the flk-1 receptor, and wherein the hVEGF antagonist is an anti-VEGF antibody or fragment thereof.
EP1506787B1
Claim 1. Use of a hVEGF antagonist in the preparation of a medicament for the treatment of age-related macular degeneration in a human patient, wherein the hVEGF antagonist comprises the amino acid sequence of the extracellular domain of a hVEGFr.

作用メカがVEGFに関連する加齢性黄斑変性治療薬:
  • EYLEA™ (aflibercept injection)
  • Lucentis® (ranibizumab injection)
  • Avastin® (bevacizumab injection)
  • Macugen® (pegaptanib sodium injection)

参考:

Jan 10, 2013

2012.12.28 「塩野義 米国Doribax®後発品申請に対する侵害訴訟提起」

塩野義製薬のプレスリリースによると、同社は、Johnson&Johnsonに導出しているカルバペネム系抗生物質注射製剤「Doribax®」(一般名:ドリペネム水和物、doripenem hydrate、国内製品名「フィニバックス®」)の後発品申請をFDAに行ったSandoz Inc.に対し、塩野義が保有する結晶特許(特許満了日 2021年3月30日)の侵害を理由として、米国ニュージャージー州連邦地方裁判所に 2012年12月28日付で特許侵害訴訟を提起したとのことです。

参考: