Jun 30, 2013

2013.02.14 「KBC v. メディオン」 知財高裁平成24年(行ケ)10215

炭酸パック特許: 知財高裁平成24年(行ケ)10215

【背景】

被告(メディオン)が保有する「二酸化炭素含有粘性組成物」に関する特許(特許第4659980号)について、特許無効審判の請求は成り立たないと特許庁が審決したため(無効2011-800244)、原告(KBC)は審決取消訴訟を提起した。本件審決の理由は、実施可能要件及びサポート要件を満足しないものとすることはできない,などとしたものである。

請求項1:
部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ
からなり,
含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
2 サポート要件について
(1) 特許請求の範囲の記載が,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要するとするサポート要件(法36条6項1号)に適合することを要するとされるのは,特許を受けようとする発明の技術的内容を一般的に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという明細書の本来の役割に基づくものである。この制度趣旨に照らすと,明細書の発明の詳細な説明が,出願時の当業者の技術常識を参酌することにより,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていることが必要である。
(2) 本件明細書には,前記1(1)のとおり,炭酸塩と酸を反応させて二酸化炭素を発生させることができること,そのための組合せとして,具体的な試験例で用いた炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組合せのほか,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組合せが記載され,アルギン酸ナトリウムが増粘剤であることや,用いることのできる炭酸塩や酸として具体的化合物が,多数記載されている。
本件明細書のこれらの記載に接した当業者であれば,アルギン酸ナトリウムと各種炭酸塩及び各種酸を,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」として任意に組み合わせて用いることで,酸としてクエン酸を用いた試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)と同様に,二酸化炭素を発生させることができ,部分肥満改善効果が得られることを理解することができる。
(3) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されており,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができるから,本件特許は,サポート要件を満たすものである。

3 実施可能要件について
(1) 物の発明において,その発明を実施することができるとは,その物を作ることができ,かつその物を使用できることを意味する。
(2) 当業者であれば,前記1(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された各種炭酸塩や各種酸をアルギン酸ナトリウムと組み合わせることにより,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」を製造することができ,これらを混合することにより二酸化炭素を発生させて部分肥満改善用に使用することができる。
(3) したがって,発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,本件特許は,実施可能要件を満たすものである。
【コメント】

上記には抜粋していない判決部分であるが、原告の主張に対して、裁判所は、「二酸化炭素が生体に及ぼす作用を当業者がどのように認識していたのか,また,本件発明の作用機序がいかなるものであるのかは,この判断に影響を及ぼすものではない。」と指摘している。「本件発明が,発明の詳細な説明に記載したものであり,発明の詳細な説明が,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている」限り、サポート要件および実施可能要件は満たされているのだから、その判断にとって発明の作用機序はどうであろうと関係ないということであろう。

参考:

Jun 24, 2013

2013.02.12 「MIT v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10071

併用医薬の薬理試験結果と実施可能要件: 知財高裁平成24年(行ケ)10071

【背景】

「処方した人の脳シチジンレベルを上昇させる薬を調合するためのウリジンの使用方法及び同薬として使用する組成物」に関する出願(特願2000-562028; 特表2003-517437; WO00/006174)の拒絶審決(不服2008-23607号)取消訴訟。審決は、本件出願は実施可能要件を満たしていないから拒絶すべきであると判断した。

請求項7(本願発明):
処方した人の脳シチジンレベルを上昇させる経口投与薬として使用する,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物と,(b)コリン及びコリン塩から選択される化合物と,を含む組成物。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
1 実施可能要件の判断
(1) 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある。
本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。
そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,取消事由1において,本願明細書の記載を援用するが,いずれも上記判断を左右するものではない。取消事由1における原告のその余の主張も,脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用に関して裏付けるものではない。
(3) 結局,取消事由1は理由がない。
【コメント】

併用医薬の発明において、明細書には、両成分のうち一方の成分単独での薬理効果は記載されているものの、両成分を併用して用いた場合の薬理試験の結果も他方の成分単独での薬理結果も記載されておらず、さらにそれらの場合に薬理作用があることの技術常識が本願発明の優先日前に存在していたと推認できるような記載もなかった。おそらく、少なくとも、他方の成分単独(本件の場合はコリン)でも薬理作用があるとの技術常識が本願発明の優先日前に存在していたと推認できる合理的な証拠があったならば、併用発明の実施可能要件は認められていたのではないだろうか。残念ながら、出願人が主張した証拠はいずれも本件出願後に公開された文献のみだったようである。

対応する複数の米国出願はいずれもウリジンの単独投与のクレームとして成立しているが、欧州出願は最終的に併用クレームに補正されて成立した(EP1140104(B1)、EP1870103(B1))。しかし、薬理データの有無で実施可能要件が問題となった様子はなさそうである。

参考:

Jun 13, 2013

2013.06.13 「ファイザー・武田 特許侵害訴訟でテバ・サンから21.5億ドルの和解金」

米国においてProtonix®(米国製品名、一般名:pantoprazole)の物質特許(特許番号4,758,579)が満了する2011年1月より前に本剤の後発品をTeva社およびSun社が販売したことに対し、Nycomed社(武田薬品に買収された)とPfizer社が提起していた特許侵害訴訟について、Teva社および Sun社が武田薬品およびPfizer社に合計21.5億USドルの和解金を支払うことで和解が成立した。Press releaseによれば、Teva社およびSun社は、いわゆる"at-risk launch"を決行したが、地裁陪審員には特許侵害と判断され、損害賠償の審理に入ったところで和解に至ったようである。

参考:


Jun 12, 2013

2013.01.31 「X v. アステラス」 知財高裁平成24年(ネ)10052

塩酸タムスロシン関連発明の職務発明対価請求事件: 知財高裁平成24年(ネ)10052
(原審: 2012.04.27 「A1 v. アステラス」 東京地裁平成21年(ワ)34203

【背景】

アステラス(第1審被告)の元従業員である第1審原告(X)が、第1審被告に対し、ハルナールの有効成分である塩酸タムスロシンに関する物質発明(日本物質特許1443699号)及び塩酸タムスロシンの製法に関する発明(日本製法特許1553822号)の上記職務発明に係る特許を受ける権利を第1審被告に承継させたことによる相当の対価の一部請求として10億円等の支払いを求めた事案。原判決は、第1審原告の上記請求について、相当対価額1億6538万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却したことから、第1審原告及び第1審被告は、それぞれ原判決を不服として控訴した。

【要旨】

主 文
1 第1審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 第1審被告は,第1審原告に対し,4478万1600円及び内金2566万1600円に対する平成21年4月1日から,内金1912万円に対する平成23年4月2日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審を通じてこれを20分し,その1を第1審被告の負担とし,その余を第1審原告の負担とする。
4 この判決の主文1項 は,仮に執行することができる。
裁判所は、争点5(消滅時効)の時効利益の放棄について下記のとおり判断した。
ア 時効利益の放棄の対象となる特許について
このように,第1審被告は,本件支払に当たり,上記相当対価請求権の時効の完成を知っていたものであるが,本件支払の対象となった各特許(米国物質特許,欧州物質特許及び日本製法特許)については,これに基づく支払額について当事者間に争いがあったにもかかわらず,被告現行規程に基づき,実施による利益の有無等の検討を行った上で,実施時補償としての本件支払を行ったことが認められるから,本件支払により,当該各特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権について時効利益を放棄したものと認めるのが相当である。
他方,本件支払の対象となったのは,上記のとおり,米国物質特許,欧州物質特許及び日本製法特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権に限られるから,第1審被告による時効利益の放棄の対象も,当該相当対価請求権に限られ,その余の相当対価請求権は,いずれも時効利益が放棄されていないから,第1審被告による本件援用により,確定的に消滅したものと認められる。

イ 日本製法特許について
(ア)前記のとおり,本件支払により時効利益の放棄の対象となった相当対価請求権は,米国物質特許,欧州物質特許及び日本製法特許を受ける権利の承継に基づくものであるが,証拠(乙125,151~166)によれば,日本製法特許が我が国におけるハルナールの製造には使用されていなかったものと認められるから,日本製法特許については,それによる超過売上高等を観念することができない。
したがって,日本製法特許に関する相当対価請求権の額は,零である。
(イ)この点について,第1審原告は,日本製法特許の不使用に関する第1審被告の主張は,第1審被告の従前の行動及び訴訟活動と矛盾し,禁反言の原則に反するばかりか,第1審被告による上記主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,日本製法特許は,ハルナールの製造には使用されていなかったから,その旨の主張がされたのが控訴審においてであったからといって,その一事により禁反言の原則に反するということはできない。また,前掲証拠によれば,日本製法特許が我が国におけるハルナールの製造には使用されていなかったことは明らかであって,第1審被告の上記主張により訴訟の完結を遅延させることとなるものであるとは認められないから,当該主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下することは相当でない。
( ウ)第1審原告は,日本製法特許には防衛特許としての価値が認められると主張する。
しかしながら,日本製法特許が防衛特許として価値を有していたか否かに関する第1審原告の上記主張は,抽象的な可能性を主張するにとどまり,日本製法特許の 相当対価の額を明らかにするものとはいえないし,前記認定の大量合成法の確立に係る経緯に照らすと,日本製法特許がいわゆる防衛特許としてみるべき価値を有していたとは認め難い。
よって,第1審原告の上記主張は,採用できない。

ウ 時効利益の放棄の対象となる時期等について
以上のとおり,日本製法特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権の額は,零であるから,以下においては,本件支払により時効利益の放棄の対象となった相当対価請求権のうち,米国物質特許及び欧州物質特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権について検討する。
ところで,第1審被告は,前記認定のとおり,本件支払に当たって,被告現行規程について説明を加えた上で,実施時補償として支払の対象となる利益の時期を平成17年4月1日以降に限定するとともに,それより前の利益に基づく実施時補償が山之内製薬の旧規程によっては支払対象とならないこと,すなわち当該実施時補償のうち同日以降の利益に基づく部分については支払義務を認める一方,それより前の部分については第1審被告に支払義務がないとの意思をいずれも第1審原告に対して明確に伝えているから,第1審被告による上記時効利益の放棄という意思表示は,米国物質特許及び欧州物質特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権のうち当該各特許による同日以降の利益に基づく部分のみを対象としてされたものと解するのが相当であって,第1審被告は,本件支払により,当該相当対価請求権の同年3月31日以前の利益に基づく部分についてまで時効利益を放棄したものとはいえない。
したがって,第1審被告は,米国物質特許及び欧州物質特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権の平成17年4月1日以降の利益に基づく部分については,本件支払により時効利益を放棄しているから,当該部分について後に本件援用をしたからといって,その支払を拒むことはできない一方,同年3月31日以前の利益に基づく部分について,本件支払後に時効を援用することについて何ら妨げがなく, 当該部分は,いずれも本件援用により確定的に消滅したものというべきである。

カ 小括
以上によれば,第1審被告は,本件支払により,米国物質特許及び欧州物質特許等を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権のうち当該各特許による平成17年4月1日以降の利益に基づく部分について時効利益を放棄した一方,本件発明に係るその余の特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権については,消滅時効の完成後に本件援用を行っており,これについて信義則に反するとみるべき余地もないから,いずれも本件援用により確定的に消滅したものというべきである。
したがって,第1審原告の相当対価請求権は,米国物質特許及び欧州物質特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権のうち当該各特許による平成17年4月1日以降の利益に基づく部分についてのみ消滅時効の効力が及ばないものというべ きであり,以下においては,専ら当該部分の算定について検討することとする。
裁判所の結論は下記のとおり。
 以上の次第であって,第1審原告の請求は,未払相当対価額4478万1600円及び内金2566万1600円に対する平成21年4月1日から,内金1912万円に対する平成23年4月2日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,上記限度を超えて第1審原告の請求を認容した原判決は,失当であって,第1審被告の控訴には一部理由があるから原判決を上記のとおり変更するとともに,第1審原告の控訴には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
【コメント】

・日本製法特許は実はハルナールの製造には使用されていなかったことが判明し、日本製法特許に関する相当対価請求権の額はゼロと判断され、また、当該相当対価請求権の平成17年3月31日以前の利益に基づく部分についてまで時効利益を放棄したものとはいえないと判断されたことによって、相当対価額は第1審に比べ大幅に減額された。

・米国における小児適用による特許の6か月の延長期間も算入すべきとの原告主張は、知財高裁でも認められなかった。

・発明者側の貢献度は、原審と同じく1%と認定された(争点3)。