Jul 22, 2013

2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10221

共通する成分が主成分か不純物かは、容易想到性判断に影響を与えるか2: 知財高裁平成24年(行ケ)10221

【背景】

被告(昭和電工)が有している「洗浄剤組成物」に関する特許権(特許3927623号)について、原告(アクゾノーベル)がした無効審判請求(無効2011-800146)を不成立とした審決の取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1(本件発明1):
A)アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,
B)グリコール酸塩,及び
C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤を主成分とし,
C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤1重量部に対してアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類が0.01~1重量部,かつアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対してグリコール酸塩が0.01~0.5重量部含有され,
pHが10~13であることを特徴とする洗浄剤組成物。
本件発明1と引用発明1との相違点1:
本件発明1は,洗浄剤組成物の成分「A)」ないし「C)」を「主成分とし」たものであることを規定するのに対し,引用発明1は,洗浄剤混合物の上記成分に相当する成分についてこれを主成分とは規定していない点
取消事由のひとつとして挙げられた無効理由5(本件発明1は,引用発明1及び甲2文献の記載に基づいて当業者が容易になし得たものであるとの無効理由)について、審決では、
「相違点1については,引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物を含む洗浄剤混合物において,グリコール酸ナトリウムを洗浄効果に寄与する主成分であるとすることは,当業者が通常想到し得る事項であるとはいえない。よって,本件発明1は引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。また,本件発明1の効果は,甲1文献の記載より予測できる範囲を超えたものであって,格別のものであるから,本件発明1は,引用発明1及び甲2文献の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。」
と判断された。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2011-800146号事件について平成24年5月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1の具体的な内容
本件発明1及び引用発明1は,いずれも,生分解性に優れた洗浄剤(金属イオン封鎖剤)の開発を解決課題の一つとする,組成物の発明である。本件発明1の洗浄剤組成物はグリコール酸塩を含有しており,引用発明1の洗浄剤混合物に含まれる金属イオン封鎖剤組成物も,グリコール酸塩の1種であるグリコール酸ナトリウムを含有している。
他方,グリコール酸塩が含有される意義については,本件発明1の洗浄剤組成物では,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤と共に,主成分である3成分の一つであるのに対し,引用発明1における金属イオン封鎖剤組成物では,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢酸を得る際に,二次的反応によって生成される不純物であって,金属イオン封鎖剤の効果を奏する上では不要な成分であるとされている点において相違する。なお,甲1文献の前記記載によると,グリコール酸ナトリウムは不純物ではあるが,これを取り除くことなく,反応生成物(グリコール酸ナトリウム)を含有する溶液をそのまま金属イオン封鎖剤組成物として使用することが可能である。
イ 本件発明1と引用発明1における各成分の含有量等
(ア) グリコール酸塩の含有量について
本件発明1において,グリコール酸塩の含有量は,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.01~0.5重量部とされているところ,引用発明1におけるOS1には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩が60重量%,グリコール酸ナトリウムが12重量%含まれており,グリコール酸ナトリウムの含有量は,グルタミン酸二酢酸塩類の1種であるグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩1重量部に対して0.2重量部であって,本件発明1におけるグリコール酸塩の含有量の範囲内である。第2,3(1)ウに記載のとおり,本件発明1と引用発明1とは,上記の点において一致する。
(イ) 他の成分の含有量について
本件発明1では,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤も主成分であるが,引用発明1においても,グルタミン酸二酢酸塩類の1種であるグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩,非イオン界面活性剤の1種であるエトキシル化アルコール,陰イオン界面活性剤の1種であるコプラ石鹸が含まれており,これらの含有量は,本件発明1で特定されている「陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤1重量部に対してアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類が0.01~1重量部」の範囲内である。第2,3(1)ウに記載のとおり,本件発明1と引用発明1とは,上記の点においても一致する。
ウ 相違点1の容易想到性の有無について--小括
(ア) 以上を総合して判断する。
引用発明1の洗浄剤混合物は,グルタミン酸二酢酸塩類,グリコール酸塩,陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を含んでおり,本件発明1の洗浄剤組成物と組成において一致し,かつ,各成分量は,本件発明1において規定された範囲内である。
このように,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の規定する3つの成分をいずれも含み,かつ,その成分量も本件発明1の規定する範囲内であることに照らすと,単に,グリコール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはできない。
この点,被告は,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムは,洗浄剤の有効成分と認識されず,精製して除去されるべき不純物として記載されているのであるから,本件発明1の相違点1に係る構成は,容易想到ではないと主張する。
確かに,仮に,本件発明1の洗浄剤組成物が引用発明1と対比して異なる成分から構成されるような場合であれば,両発明に共通する成分である「グリコール酸ナトリウム」が,単なる不純物にすぎないか否かは,発明の課題解決の上で,重要な技術的な意義を有し,容易想到性の判断に影響を与える余地があるといえる。しかし,本件においては,前記のとおり,本件発明1と引用発明1とは,その要素たる3成分が全く共通するものであるから,「グリコール酸ナトリウム」が単なる不純物ではないとの知見が,直ちに進歩性を基礎づける根拠となるものではないといえる。(中略)
エ 以上のとおり,審決は,相違点1を本件発明1と引用発明1の相違点であると認定した上で,相違点1が容易想到でないとした判断に,誤りがある。
本件発明1の格別な効果についても、裁判所は認めなかった。

【コメント】

本願発明と引用発明とで共通する成分が、本願発明では主成分として位置づけられるているのに対し、引用発明では不純物として扱われていたとき、容易想到性の判断に大きな影響を与える場合とはどんな場合か、同日付で出された判決である2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10177と本判決を対比すると、おもしろい。成分の役割というものが容易想到性の判断に影響を与えるだろうか。

関連:

Jul 13, 2013

2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10177

共通する成分が主成分か不純物かは、容易想到性判断に影響を与えるか: 知財高裁平成24年(行ケ)10177

【背景】

被告(昭和電工)が有している「洗浄剤組成物」に関する特許権(特許4114820号)について、原告(アクゾノーベル)がした無効審判請求(無効2009-800152)を不成立とした審決の取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1~40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
(3) 容易想到性の判断
ア 本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分から構成され,かつ,グリコール酸ナトリウムは主成分である3成分の一つである。これに対し,引用発明1bの金属イオン封鎖剤組成物は,上記3成分の一つである水酸化ナトリウムを含まない点で,その構成成分が異なるのみならず,グリコール酸ナトリウムはグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を得る際に,二次的反応により生成される不純物であり,金属イオン封鎖剤の封鎖力を高める効果を奏しない不要な成分であると解されていた点で,その技術的意義において,相違する。

イ また,本件発明1は,前記のとおり,3成分を主成分とした洗浄剤組成物である。そして,本件明細書の表1によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,従来品であるEDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏すること,グリコール酸ナトリウムの配合によりその洗浄効果が高まっていることが認められる。これに対し,引用発明1bにおける金属イオン封鎖剤組成物は,グルタミン酸二酢酸塩類とグリコール酸ナトリウムを含み,水酸化ナトリウムを含まないものであるが,甲1文献のFig1及び2によると,この金属イオン封鎖剤組成物の金属イオン封鎖力はTPPよりは優れているものの,EDTA四ナトリウム塩よりは劣る。
以上によると,本件発明1の洗浄剤組成物は,水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を主成分とすることにより,その相乗効果によって,EDTAを含有した洗浄剤と同等の洗浄効果を奏するといえる。

ウ 以上によれば,主成分として,水酸化ナトリウム,アミノジカルボン酸二酢酸塩類であるアスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を混合した洗浄剤組成物は,それぞれの相乗効果により優れた洗浄性能を有するところ,甲1文献にはこの点について,何らの示唆もない。また,甲2ないし6にも,この点について何の示唆もない。したがって,洗浄剤組成物が上記3成分を主成分とし,それによって,洗浄効果を高める効果がある点では,当業者が予測し得ない効果であると認められ,本件発明1は,甲1文献や甲2ないし6から,当業者が容易に想到し得ないものといえる。
のみならず,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムについて,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を高収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された不純物と理解され,金属イオン封鎖剤の金属イオン封鎖力を高める観点からは不要ないし好ましくない成分である旨記載されていた。そうすると,甲1文献に接した当業者は,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩の収率を高めることを目的として,グリコール酸ナトリウムの生成を抑制しようとする動機付けはあっても,グリコール酸ナトリウムを洗浄剤組成物の必須要素として活用することに想到することはないということができる。

エ この点に対し,原告は,グルタミン酸二酢酸塩とグリコール酸ナトリウムを含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1を含む洗浄剤組成物は既に知られており,グルタミン酸二酢酸塩にグリコール酸ナトリウムを組み合わせると洗浄効果が上がることを後に確認しても,その効果は,公知の洗浄剤組成物において既に内在しているものであることから,効果の点から本件発明1の進歩性を認めるのは不合理であると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。
甲1文献には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩60重量%,グリコール酸ナトリウム12重量%を含有する金属イオン封鎖剤組成物OS1は開示されているが,OS1を含む洗浄剤組成物に水酸化ナトリウムが含まれることは開示されていない。
本件発明1(水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,並びにグリコール酸ナトリウムの3成分を主成分とする洗浄剤組成物)は,本件特許の優先日前に公知ではなく,本件発明1における前記効果が甲1文献等公知の洗浄剤組成物から予測できたものとすることはできない点は,前記のとおりである。
以上のとおり,本件発明1の洗浄剤組成物は,引用発明1bの金属イオン封鎖剤組成物と異なる成分により構成されるものであるが,加えて,本件は,当業者の間では,従来,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩を高収率で得ることを阻害する二次的反応によって生成された不純物であると認識されていたことに対して,本件発明1では,逆に,グリコール酸ナトリウムを組み合わせることが,洗浄効果を上げるに当たって有益である旨を確認して,必須の構成としたものであり,その点は,本件発明1の進歩性を認める上で,参酌されるべき一つの要素となり得るといえる。
したがって,原告の主張は採用の限りでない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件発明1の効果は格別のものであり,本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではないなどとして,本件発明1の容易想到性を否定した審決の判断に,誤りはない。
【コメント】

本願発明と引用発明とで共通する成分が、本願発明では主成分として位置づけられるているのに対し、引用発明では不純物として扱われていた場合、容易想到性の判断にどのように影響するか考える事例としては興味深い。
本件では、本願発明は引用発明と対比して異なる成分(水酸化ナトリウム)から構成される場合であったため、両発明に共通する部分である「グリコール酸ナトリウム」が、単なる不純物にすぎないか否かは、発明の課題解決の上で、重要な技術的意義を有し、容易想到性の判断に影響を与える余地があったといえる(対比: 2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10221知財高裁)。

関連:

Jul 7, 2013

2013.02.20 「宇部興産 v. 国」 知財高裁平成24年(行コ)10007

存続期間延長分の特許料納付期限徒過: 知財高裁平成24年(行コ)10007

【背景】
2012.08.31 「宇部興産 v. 国」 東京地裁平成23年(行ウ)443の控訴審。

【要旨】

主 文
1 本件控訴を棄却する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
1 当裁判所は,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄第3の1ないし3(原判決16頁26行目から27頁4行目)のとおりであるから,これを引用する。
(中略)
2 小括
以上(原判決引用部分を含む。)によれば,要するに,控訴人新システムに,システム上の瑕疵又は不具合は認められず,また,本件において,本件特許の第16年分特許料の納付により,完納コードが「完納」に設定され,第17年分の特許料納付期限が設定されなかった原因を明確に特定するに足りる立証はなく,上記原因が特定されない以上,控訴人が,上記原因に関し,通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしたこと及び上記原因が上記注意にもかかわらず避けることができないものと認められる事由に当たることを認めるに足りる主張及び立証もないものといわざるを得ない。そして,控訴人は,自己の自由な判断に基づいて本件移行作業を第三者に委託し,受託した日立情報システムズは,控訴人に対し,作業の各段階において文書で作業内容を報告していたというのであるから,仮に,受託者の過失に起因して本件移行作業に問題が生じ,控訴人が追納期間に本件特許料等を納付することができなかったとしても,当該過失は控訴人側で生じたものというべきであり,いずれにしても,特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとはいえない。
したがって,控訴人の請求は理由がなく,その請求を棄却した原判決は正当である。控訴人は,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
【コメント】

知財高裁に控訴したが、やはり原告の主張は認められなかった。本件特許は、タリオン錠(ベシル酸ベポタスチン)を保護する特許。原審に関しては下記参照。