Aug 25, 2013

2013.03.18 「タカラバイオ v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10252

引用発明の物が本来有していていた作用・効果についての出願後の知見は進歩性判断に参酌できるか: 知財高裁平成24年(行ケ)10252

【背景】

「耐熱性リボヌクレアーゼH」に関する特許出願(特願2006-167465、特開2006-288400)の拒絶審決(不服2009-17666号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1(本願補正発明):
下記の群より選択され,かつ,耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有することを特徴とするポリペプチド:
(a)配列表の配列番号47に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(c)配列表の配列番号46に示される塩基配列を有する核酸にコードされるポリペプチド。

審決は、引用文献3にRNase HIIPkの発明が記載されているとし、本願補正発明との一致点及び相違点は以下のとおりであると認定した。
  • 一致点: 両者は、耐熱性リボヌクレアーゼH活性を有するポリペプチドである点。
  • 相違点: 本願補正発明のポリペプチドが、配列表の配列番号47に示されるアミノ酸配列を有するものであるのに対し、引用文献3の図1に記載されるRNase HIIPkのアミノ酸配列の70%弱は、本願補正発明のものと一致しているものの、その余の配列は相違している点。

【要旨】

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所の判断

1 取消事由2(顕著な作用効果の看過(その1))について

原告は、
「一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することができるという基質切断特異性の点で,本願補正発明のポリペプチドが引用文献3に記載された発明と比べて格別な違いがないとした審決の判断は,その顕著な作用効果を看過した誤りがある」

「本願補正発明のTli RNase HIIは,本願明細書の実施例1ないし実施例7に記載される様々な耐熱性RNase HIIのアミノ酸配列の間で保存されている部分をもとにしてオリゴヌクレオチドプライマーを合成し,遺伝子をクローニングして得られたものであり,これらの耐熱性RNase HIIが共通の性質を有すると推認できること,~当業者は,当該実施例において見出された耐熱性RNase HIIにおける「一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうち,RNA鎖を含む鎖を切断する」という基質切断特異性に関し,~69%前後のアミノ酸配列相同性を有する耐熱性RNase HIIであれば,当該特性を有していると予測することができ,本願明細書の上記記載から,本願補正発明のTli RNase HIIも,基質切断特異性を有すると推認できる」
と主張した。しかし、裁判所は、
「2つのポリペプチドの間のアミノ酸配列相同性が65%であることは,全体のアミノ酸配列の3分の1以上が異なることでもあり,一般的には,このような場合に両者の構造上の差異が小さいとは言い難く,両者のアミノ酸配列相同性が65%であるというだけでは,両者が同じ活性を有しているか否かは不明と考えざるを得ない(当業者が,両者のアミノ酸配列相同性が65%であれば同じ活性を有していると解し得ることを認めるに足りる証拠はない。)。~仮に,基質切断特異性を有する可能性が示唆されるとしても,上記のとおり~アミノ酸配列相同性が65%であるというだけでは,両者が同じ活性を有しているか否かは不明であるから,このような場合,実験等による確認なくしては,基質切断特異性の有無は不明というほかなく,本願補正発明が基質切断特異性を有しているとまでは認められない。加えて,原告主張のように,本願出願時までに基質切断特異性を有する耐熱性RNaseHは報告されておらず,そのようなものは存在しないであろうという技術常識があるならば,なおさらである。以上のとおり,本願明細書の記載から,本願補正発明が,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断するという基質切断特異性を有していることが推認されるとはいえない。」
と判断した。

2 取消事由1(引用文献3に記載された発明の認定の誤り)について

原告は、
「本願明細書の記載に基づいて引用文献3に記載された発明の酵素の基質切断特異性を推認できるとした審決の判断は誤りである,本願の出願後に公表された文献である甲2に基づいて引用文献3に記載された発明の酵素の基質切断特異性を推認できるとした審決の認定は誤りである」
と主張した。裁判所は、
「一般に,発明の進歩性の判断は,審査を行う時点ではなく,出願日(優先権主張がなされている場合は優先権主張日)を基準になされるものであるから(特許法29条2項),発明の進歩性の有無を判断するにあたって参酌することができる知見は,出願前までのものであって,このことは,発明の構成の容易想到性判断のみならず,発明の効果の顕著性の判断に関しても同様である。また,特許出願された発明に関する明細書に記載された知識に基づいて出願前の発明ないし技術常識を認定することは,後知恵に基づいて特許出願された発明の進歩性を判断することになりかねず,同項の趣旨に反するものであり,許されない。
本件において,審決が,本願明細書の記載に基づいて,「引用文献3に記載されるRNase HIIPkも同様に,一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断することができると推認することができ」とし,あるいは,本願出願後の文献である甲2に基づいて,「本願補正発明のポリペプチドが,引用文献3に記載されるRNase HIIPkと比べて,格別な違いはない」とした判断手法は,誤りである。」
と、審決の判断手法が誤りであるとしたが、
「上記1のとおり,「本願補正発明が基質切断特異性を有する」との効果が認められないので,このことを考慮すると,上記の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,原告の取消事由1の主張も理由がない。」
と判断した。

3 取消事由3(顕著な作用効果の看過(その2))について

原告は、「甲9に記載された実験データを参酌すべきである」と主張したが、裁判所は、「本願補正発明について,~を示すという効果が本願明細書に開示されているとはいえないから,その効果について示す上記実験データは本願明細書の記載から当業者が推認できる範囲を超えるものであって,参酌することはできないというべきである」と判断した。

【コメント】

1.本件では、顕著な作用効果は明細書から推認できないとされ、審判中に提出された実験データも参酌することはできないと判断された。引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、明細書にどこまで記載されていなければならないか、を考える上で参考になる一事例かもしれない。

そもそも本願補正発明についての進歩性判断で出願人が主張した効果である基質特異性を有していることが明細書には開示されていなかったわけであり、実施可能要件の問題も潜在していたのではないかと思われるが争点にはならなかった。本願補正発明(配列番号47のアミノ酸配列を有するポリペプチド)について、米国では特許(US 7,422,888)となっている。米国の審査で最後まで問題になったのは進歩性よりも実施可能要件だった。
Claim 2. An isolated and purified polypeptide, comprising the amino acid sequence of SEQ ID NO:47 and having thermostable ribonuclease H activity.
2.取消事由1(引用文献3に記載された発明の認定の誤り)について、裁判所は、特許庁の判断手法は後知恵に基づいて進歩性を判断することになりかねず、同項の趣旨に反するものであり許されないと判断している。一方、特許庁の主張は下記のとおりであった。
 引用文献3に記載された発明であるRNase HIIPkは,引用文献3に記載されたその構造(化学構造であるアミノ酸配列)により特定できるものであり,その構造を有するものが本来有している作用・効果については,物の発明である引用発明を特定する事項として認定する必要はない。言い換えれば,物の作用・効果を物の発明を特定する事項として認定したところで,それはその物であれば当然に有する作用・効果であるから,物の発明として何ら相違することにはならない。
また,引用文献3に記載されたRNase HIIPkが「一方の鎖にRNAを1つ含む2本鎖DNAのうちRNAを含む鎖を切断する」という基質切断特異性を有するか否かは引用文献3において具体的に確認はされていないが,基質切断特異性は,RNase HIIPkが本来的に有している性質である(甲2)。原告が主張する本願補正発明の基質切断特異性に係る効果は,引用文献3に記載された発明の物が本来有していた効果と同様の効果を単に発見したに過ぎないものである。
そして,引用文献3に記載された発明の物が本来どのような作用・効果を奏するものであったのかの認定において,出願後の知見や文献を考慮することは認められるべきである。なぜならば,一般に,技術的貢献のない発明に対しては保護を与えないという進歩性の要件の趣旨からみて,効果の顕著性により進歩性を認めるのは,引用発明との構成の相違により新たな効果が奏される場合に限られるべきであり,そうでなければ,引用発明の物が本来有していた作用・効果を後に発見したことにより,後に出願された発明が進歩性を有することになり不合理な結果となるからである。

上記特許庁の主張に対し、「発明の進歩性の有無を判断において、出願前の発明ないし技術常識を認定するにあたって参酌することができる知見は、出願前までのものであって、このことは、発明の構成の容易想到性判断のみならず、発明の効果の顕著性の判断に関しても同様である」というのが今回知財高裁が示した規範である。

特許庁の上記出張はなんだか筋が通っていない。上記特許庁の主張の1段落目、2段落目、3段落目がそれぞれかみ合っていない。進歩性の判断は、あくまでも出願前の引用発明から本願発明が思いつくのかどうかが原則だから、出願後の知見を参酌することはやはり勇み足であろう。引用発明の物が本来有していた作用・効果を後に発見したことにより、後に出願された発明が、発明の構成として相違しないにもかかわらず、特許されるのは確かに不合理である。しかし、それは効果の相違がどうであれ、構成の相違に関わる新規性の問題であり、進歩性の問題ではない。

Aug 18, 2013

2013.03.13 「X v. Y」 知財高裁平成24年(行ケ)10059

共同出願違反かどうか: 知財高裁平成24年(行ケ)10059

【背景】
被告(Y)が保有する「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」に関する特許第3277180号に対する無効審判請求について、「本件審判の請求は,成り立たない。」との特許庁の審決に対する審決取消訴訟。争点は共同出願違反(特許法38条)かどうか。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
1 共同発明者性の認定について
ある特許発明の共同発明者であるといえるためには,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従前の技術的課題の解決手段に係る部分,すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される。

ところで,特許法123条1項2号は,特許無効審判を請求することができる場合として,「その特許が・・・第38条・・・の規定に違反してされたとき(省略)。」と規定しているところ,同法38条は,「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ,特許出願をすることができない。」と規定している。このように,特許法38条違反は,特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから,特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は,審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し,特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば,特許権者に対して,他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり,不合理である。
特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても,上記と同様に解するのが相当であり,審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告,無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利が共有に係ること」,すなわち,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである。
したがって,本件においては,審判請求人である原告が,自らが共同発明者であること,すなわち,本件発明1~6の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことについて,主張立証責任を負担するものというべきである。
【コメント】

医薬関連の事案ではないが、共同発明者となるための要件を再確認する意味で取り上げた。特許法には発明者、ましてや共同発明者の定義は明記されていない。従って、発明者または共同発明者に該当するのかしないのかは、過去の判決例や学説に依拠せざるを得ない。

参考:

本件原審である特許庁審決でも、共同発明者の解釈について下記観点から、本件各発明の特徴的部分は何であるか検討され、そして請求人が本件各発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したといえるか否かについて検討された。
共同発明者とは、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、複数の者がともに発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した場合における複数の者をいう(例えば、知財高裁平成19年(行ケ)第10278号)。
そして、上記で引用された知財高裁平成19年(行ケ)第10278号によれば、「本件各発明の内容」及び「本件各発明に関与した者の関与の程度」を総合考慮して、共同発明者の一人に該当するか否かを考察するとされている。
発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),「産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている(同法29条1項柱書き)。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。もとより,発明者となるためには,一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。そして,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。

Aug 12, 2013

2013.02.28 「武田薬品 v. 後発品メーカー」 東京地裁平成23年(ワ)19435, 19436

組み合わせてなる医薬に関する特許権の効力: 東京地裁平成23年(ワ)19435, 19436

【背景】

「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる医薬」に関する特許権(特許第3148973号)及び「ピオグリタゾンとビグアナイド剤とを組み合わせてなる医薬」に関する特許権(特許第3973280号)を有する原告(武田薬品)が、被告(後発品メーカー)に対し、原告製品であるアクトスの後発品の販売差止め等を求めた事件。アクトスの添付文書には、上記薬剤と組み合わせて使用する場合に関して【効能・効果】欄及び【用法用量】欄に記載があり、被告後発品の添付文書にも同様に記載があった。
本事件での注目すべき争点は、原告の「組み合わせてなる医薬」に関する特許権の効力が、組み合わせて処方されることが想定される被告製品(アクトスの後発品)の製造・販売にまで及ぶかどうかである。
なお、大阪地裁でも本判決と同様の結論に到る判決が出されている(2012.09.27 「武田薬品 v. 沢井製薬」 大阪地裁平成23年(ワ)7576, 7578)。

【要旨】

主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所の判断(抜粋)
1 争点1(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが本件各特許権を侵害するか否か)について

(1) 争点1-1(被告らが医療関係者や患者の行為を利用,支配して本件各発明を実施しているといえるか否か)について
被告らは,被告ら各製剤を製造販売しているが,さらに進んで,これと本件各併用薬とを組み合わせてなる医薬を生産等したことを認めるに足りる証拠はない。~医師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように使用するかについては,その裁量によって決するものであり,また,薬剤師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように調剤するかについては,医師の処方せんによらなければならないものであるし,さらに,患者が被告ら各製剤と本件各併用薬とを服用するのは,医師や薬剤師の指示や指導に従って行うに過ぎないから,これらをもって,被告らが医師,薬剤師,患者の行為を道具として利用したとか,これを支配したということはできない。

(2) 争点1-2(被告らが医療関係者を教唆して本件各発明を実施しているといえるか否か)について
教唆をする者は,自らが発明を実施するわけではないし,前記(1)に判示したところに照らせば,被告らが,医師や薬剤師等の医療関係者を教唆したということもできない。

(3) したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,本件各特許権を侵害しない。

2 争点2(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが特許法101条2号に掲げる行為に該当するか否か)について

特許法101条2号における「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念で,発明の構成要素以外にも,物の生産に用いられる道具,原料なども含まれ得るが,発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,これに当たらない。すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるようなもの,言い換えれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものが,これに該当すると解するのが相当である。そうであるから,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。
(中略)
これによると,本件各発明が,個々の薬剤の単独使用における従来技術の問題点を解決するための方法として新たに開示したのは,ピオグリタゾンと本件各併用薬との特定の組合せであると認められる(ピオグリタゾンや本件各併用薬は,それ自体,本件各発明の国内優先権主張日より前から既に存在して2型糖尿病に用いられていたのであり,本件各発明がピオグリタゾンや本件各併用薬自体の構成や成分等を新たに開示したということができないのは当然である。)。そうすると,ピオグリタゾン製剤である被告ら各製剤は,それ自体では,従来技術の問題点を解決するための方法として,本件各発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものに当たるということはできないから,本件各発明の課題の解決に不可欠なものであるとは認められない。
(中略)
本件各発明は,ピオグリタゾンと本件各併用薬という,いずれも既存の物質を組み合わせた新たな糖尿病予防・治療薬の発明であり,このような既存の部材の新たな組合せに係る発明において,当該発明に係る組合せではなく,単剤としてや,既存の組合せに用いる場合にまで,既存の部材が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当すると解するとすれば,当該発明に係る特許権の及ぶ範囲を不当に拡張する結果をもたらすとの非難を免れない。このような組合せに係る特許製品の発明においては,既存の部材自体は,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものに過ぎず,既存の部材が当該発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情がない限り,既存の部材は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しないと解するのが相当である。被告ら各製剤の添付文書には,前記前提事実のとおり,【効能・効果】,【用法・用量】欄に,~についての記載はあるが,本件各併用薬との併用投与を推奨するような記載や被告ら各製剤が本件各併用薬との組合せのためのものであるとの趣旨の記載はないから,添付文書の記載内容をもって,被告ら各製剤が本件各発明のためのものとして製造販売等されているということはできず,その他,特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
(中略)
ピオグリタゾン自体は,本件各発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものであり,これが本件各発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情があることは認められないから,被告ら各製剤は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるということはできない。
(中略)
したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,特許法101条2号に掲げる行為に該当しない。

【コメント】

東京地裁では、特許法101条2号に関して「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるかどうかのみを判断したが、大阪地裁では、他の観点でも判断しており、組み合わせてなる医薬に関する特許権の効力を考える上で非常に参考になる。

参考:

Aug 3, 2013

2013.02.28 「マクニール v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10205

ニコチンの口腔内投与製剤: 知財高裁平成24年(行ケ)10205

【背景】

「口腔内投与のためのニコチンを含む液体医薬製剤」に関する特許出願(特願2003-556064、特表2005-518392、WO2003/055486)の拒絶審決(不服2009-7293)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって,スプレーにより口腔に投与するためのものであり,そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液体医薬製剤
本件審決が認定した引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおり。
  • 引用発明1:ニコチンを緩衝液中に含有することを特徴とする、純ニコチンを含有するスプレーであることを特徴とする、薬剤
  • 一致点:ニコチンを含む液体医薬製剤であって、スプレーにより口腔に投与するためのものであり、そして緩衝されていることを特徴とする液体医薬製剤
  • 相違点1:本願発明では緩衝によりアルカリ性化されているのに対し、引用発明1では単に緩衝されることが明らかにされるのみである点
  • 相違点2:本願発明ではニコチンがニコチン遊離塩基であるとされるのに対し、引用発明1では単にニコチンとされるのみである点

【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-7293号事件について平成24年1月23日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
3 相違点に係る判断の誤りについて
(1) 相違点1に係る判断の誤りについて
(略)
(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない。したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない。
ウ 阻害事由について
(ア) 英国特許出願公開第2030862号~は,ニコチンエアゾールに係る文献であるところ,同文献には,希塩酸の添加によりニコチンの塩基についてpH6に滴定し,酸性リン酸塩を用いると,酸性及び緩衝能により,ニコチンによるひりひりする刺激が減少することが記載されている。
(イ) 医学文献(甲11~)には,ニコチン点鼻液には,緩衝されていないpH5の2%のニコチン水溶液が用いられることが記載されている。
(ウ) 特表平7-504164号公報(甲13)は,禁煙補助組成物に係る文献であるところ,同文献には,ニコチン又はニコチン塩を,リン酸緩衝液等の溶剤に溶かし,鼻の粘膜から最適に吸収されるようにpHを約5から約6.5の間(約5.8が望ましい)に調節することが記載されている。
(エ) 特開昭59-135878号公報(甲14)は,鼻投与用喫煙代替物に係る文献であるところ,同文献には,pH7以上ではニコチン含量の10%以上が遊離塩基の形であり,このニコチンを吸収すると,強い局所感覚(灼熱感,強いくしゃみ等)がしばしば経験されるが,2ないし6のpHであれば,このような生理的反応は低減されることが記載されている。
(オ) 引用例2には,揮発性,苦くて舌を焼くような味,粘液膜上での刺激性の感覚,酸素面前での分解というニコチンの遊離塩基の有する問題が,ニコチンの塩形態,すなわち酸付加塩又は金属塩を使用することによって部分的に緩和されたことが記載されている。また,引用例3にも,スプレーによるニコチンの投与があまり快適ではない旨が記載されている。
(カ) 以上によると,本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。
(略)
オ 小括
以上によると,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということはできない。よって,本件審決の相違点1に係る判断は誤りである。

(2) 相違点2に係る判断の誤りについて
(略)
イ 本件審決は,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得たものということができる以上,相違点2に係る構成も,必然的に当業者が容易に想到し得たものということができるとするが,本件審決の判断は,前記のとおり,その前提を欠くものというほかない。
したがって,本件審決の相違点2に係る判断は誤りである。

(3) 小括
よって,本願発明は,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
【コメント】

阻害事由を認めた事例。本判決を受け、差戻審理の結果、特許となった(特許5264036)。

欧州では、EP1458388B1として特許となったが、Niconovum ABによりoppositionが提出され、appealまで到った(T1914/11)。日本で問題となった進歩性ではなく、欧州では記載要件の点で無効とされた点が興味深い。McNeil ABとNiconovum ABとの関係では、Niconovum社のZonnic®Mouth sprayの製造販売に対して争いがある(あった)ようである。McNeil ABもNICORETTE®QuickMistを販売している。