Sep 29, 2013

2013.03.27 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10284

引用発明の1成分にことさら着目することの動機づけ: 知財高裁平成24年(行ケ)10284

【背景】

「強筋肉剤,抗炎症剤」に関する特許出願(特願2002-303877、特開2004-182599)の拒絶審決取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤
審決が認定した引用例1に記載された発明(引用発明)の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおり。
  • 引用発明の内容:
    「シムノールサルフェート及びダイズインを含む組成物であって,環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物。」
  • 一致点:
    両発明は「A.シムノール硫酸エステル,B.大豆イソフラボン配糖体,のA,およびBの成分を含むことを特徴とする組成物」である点。
  • 相違点1:
    本願発明が成分「C.」として「クルクミン」を含有するのに対し,引用発明はこれを含まない点。
  • 相違点2:
    本願発明が「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。」との特定がなされているのに対し,引用発明が「環境ホルモンの排出を著しく促進する組成物」である点。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-13517号事件について平成24年6月18日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所は、取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について、
「引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,~いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。
そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。」
と判断した。

これに対し、被告は、
「ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。
したがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。」
と判断した。

【コメント】

そもそも本願発明と引用発明とはその課題も用途も相違しており(相違点2)、引用発明から出発して、引用発明の1成分にことさら着目することの動機づけはなく、従って、他の引用発明と組み合わせる動機付けもなく、本願用途発明に容易に想到することはできないと判断された。機械的に安易な引用発明どうしの組合せまたは後知恵的な組合せは排除されるべきである。引用発明から出発して、引用発明の課題から、他の引用発明を組み合わせて本願発明に到ることができるかどうか、という裁判所のロジックは、欧州のProblem-Solution approachに類似しており、わかりやすい。

本件は、差し戻され、再度拒絶理由通知が出されたようであり、今後の推移がどうなるか興味深い。

Sep 22, 2013

2013.03.25 「本州化学工業 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10245

製造方法の進歩性判断: 知財高裁平成24年(行ケ)10245

【背景】

「1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法」に関する特許出願(特願2002-526737, WO02/22536)の拒絶審決(不服2009-22810)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
(a)フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを,酸触媒の存在下に,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのフェノールアダクト結晶を含むスラリー中で反応させる反応工程と,

(b)反応終了後,得られたスラリー状の反応混合物をアルカリにてpH5~8の範囲に中和すると共に,加温して,反応混合物を溶液とする中和工程と,

(c)上記溶液を冷却し,得られた1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンのフェノールアダクト結晶を濾過する一次晶析濾過工程と,

(d)上記一次晶析濾過工程で得られたアダクト結晶を晶析溶媒に加温溶解した後,冷却して,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの結晶を濾過する二次晶析濾過工程と,

(e)上記二次晶析濾過工程で得られた,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを含む濾液の少なくとも一部を上記反応工程に循環する濾液循環工程と

を含むことを特徴とする1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法。
審決では、引用発明と本願発明とは上記(a)から(e)工程を含むことを特徴とする1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法という点が一致し、一方、相違点は4つ認定された。本判決では主に相違点4についての判断が問題となった。

相違点4:
濾液循環工程において,濾液の少なくとも一部が,本願発明においては,「1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを含む」状態で「反応工程に循環」されるのに対し,引用発明においては,そのような特定がなされていない点。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2009-22810号事件について平成24年5月18日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
審決は,相違点4について,周知例4~6の記載からみて,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンやアセトン等のカルボニル化合物を反応させてビスフェノール類を製造する技術において,分離された濾液を製造目的化合物であるビスフェノール類を含んだ状態で上記「反応」を行う工程に「循環」させることが周知であることを前提として,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると判断する。
この点,確かに,上記周知例4ないし6,乙2によれば,一般に,化学物質の製造工程において,目的物質を主に含む画分以外の画分にも目的物質や製造反応に有用な物質が含まれる場合には,それをそのまま,あるいは適切な処理をした後に製造工程で再利用して無駄を減らすことは周知の技術思想であって,実際,フェノールとカルボニル化合物からビスフェノール類を製造する場合においても,さまざまな具体的製造方法において,途中工程で得られた有用物質を含む画分が再利用されているものと認められる。
しかし,ある製造方法のある工程で得られた,有用物質を含む画分を,製造方法のどの工程で再利用するかは,製造方法や画分の種類に応じて異なるものと認められる。この点,引用発明においては,再結晶濾液を再利用できる工程として,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる前反応及び後反応のみならず,中和後の結晶化工程や再結晶工程が想定されるところ,審決には,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させるという構成に至る理由が示されていない(なお,乙2を参照してもこの点が明らかになるとはいえない。)。
これに対し,被告は,周知例4~6が引用発明と目的物質や反応に有用な物質が同様であることから,引用発明における「再結晶ろ液を繰り返し使用する」工程において,再結晶濾液の少なくとも一部を,製造目的物である「1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン」を含む状態で,フェノールと3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンとを反応させる工程に循環させることは,当業者が容易になし得たものであると主張する。
しかし,目的物質や反応に有用な物質が同様であったとしても,具体的な製造方法が異なれば,再利用すべき画分も,その再利用方法も異なり,それぞれの場合に応じた検討が必要となるから,被告の上記主張は採用することができない。
以上のとおり,引用発明に周知例4~6に示されるような周知技術を適用することにより,相違点4に係る構成に容易に想到できたとはいえず,審決の相違点4に係る容易想到性判断には誤りがある。
【コメント】

引用発明が記載された刊行物1(特開2000-128820号公報、出願日1998年10月20日、優先権主張なし)は、本件原告が出願人である出願であり、2000年5月9日に公開された。それから約4ヵ月後の2000年9月11日に優先権の主張を伴わないPCT出願である本件出願を出願人はしたわけである。
刊行物1出願は、日本(JP3774789(B2))のほか、その日本出願を基礎にパリ優先権を主張して出願された欧州(EP0995737(B1))および米国(US6284931(B1))で特許が成立している。
一方、本件出願(特願2002-526737, WO02/22536)も、欧州(EP1318135(B1))および米国(US6673975(B1))で特許が成立している。国際調査報告で刊行物1はA文献として挙げられたが、EPOもUSPTOも何の拒絶理由を与えることなく特許を与えたようである。

本件裁判所の判断について、「目的物質や反応に有用な物質が同様であったとしても、具体的な製造方法が異なれば、それぞれの場合に応じた検討が必要である。」という裁判所の言及は理解できる。しかし、一方で、引用発明と目的物質や反応に有用な物質が同様であるという点から、引用発明に周知例4~6に示されるような周知技術を適用するという特許庁のロジックにも一定の理由があるように思える。
一体、どこまでの「検討」が求められるのか。「それぞれの場合に応じた検討が必要となる」という理由だけで被告の主張は採用することができないとするのではなく、具体的にどの点が足りなかったのか裁判所には示してほしかった。

Sep 14, 2013

2013.03.27 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10354

非外傷性の皮膚の陥没: 知財高裁平成24年(行ケ)10354

【背景】

「老齢関連の軟組織の欠陥の増強と修復」に関する特許出願(特願2001-534337、特表2003-517858、WO01/32129)の拒絶審決(不服2009-005175)取消訴訟。争点は進歩性。

本願発明:
生体外で複数の哺乳類の細胞が単離された後に,患者の組織の欠陥補修や増殖のための医用組成物の調整において生体外で単離された哺乳類の複数の細胞を使用する方法であって,前記欠陥は,括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セルライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され,前記方法は,生体外で単離された哺乳類の複数の細胞から成る組成物を,欠陥の場所の内部又はそれに接近した場所における組織の中に挿入する,ことを特徴とする方法。
審決が認定した本願発明と引用発明の相違点は、本願発明では,「欠陥」が「括約筋構造の機能不良,脂肪沈着(セルライト)の存在,異常に肥大した傷跡,真皮欠陥,皮下欠陥,筋膜,筋肉,皮欠陥,皮膚薄弱化,皮膚弛緩,火傷,傷,ヘルニア,靭帯破裂,腱破裂,禿頭,歯周の不調,歯周の病気,及び胸部組織の欠陥により構成されたグループから選択され」るのに対し、引用例発明では、これらに相当するものが「笑いじわ(鼻唇ひだ),口周囲のしわ,眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,又は光線性頬しわ」である点、であった。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
裁判所の判断(抜粋)
引用例には,引用例発明における治療の対象である「笑いじわ(鼻唇ひだ),口周囲のしわ,眉間の溝,陥没瘢痕,口唇形成不全,及び光線性頬しわ」という欠損以外に,「非外傷性の皮膚の陥没」に対しても,下部隣接組織内に懸濁物(すなわち,自己の皮膚繊維芽細胞)を注入して修復できることが記載されている(特許請求の範囲第1,2,5項)。ここで,技術常識及び「陥没」の語義(乙3)からして,「非外傷性の皮膚の陥没」は,皮膚に外傷はなく,表皮,真皮,皮下組織のうち少なくともいずれかに欠陥がある状態やその部位の皮膚が薄くなっていることを意味すると,当業者には理解できるから,本願発明における補修の対象である「真皮欠損,皮下欠損」,「皮欠損,皮膚薄弱化」に該当するということができる。そうすると,引用例には,本願発明における補修の対象となる欠陥についても記載されているといえるから,「本願発明における真皮欠陥,皮下欠陥,皮欠陥,又は皮膚薄弱化のいずれかに該当する『非外傷性の皮膚の陥没』を改善するため,しわ,陥没瘢痕,及び口唇の発育不全にかえて,『非外傷性の皮膚の陥没』に対して引用例発明を用いてみることは,当業者にとり格別困難な事項とはいえない。
そして,引用例発明はしわ等に対して治療効果を示すことを明らかにしており,非外傷性の皮膚の陥没に対しても同様に効果を示すことが期待できるものといえるところ,本願発明が引用例発明からみて格別優れた作用を示すことは明らかにされていない。」とした審決の相違点に関する判断にも誤りは認められない。
したがって,いずれにしても,原告の上記主張は失当である。
【コメント】

医療関連の発明なので取り上げたが、特に参考になる点はなさそう。

出願人が同じ最近の判決:

2013.03.25 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10324

Sep 9, 2013

2013.03.25 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10324

免疫原性の問題を解決するために培養技術を置換するという動機付け: 知財高裁平成24年(行ケ)10324

【背景】

「真皮,皮下,および声帯組織欠損の増大および修復」に関する特許出願(平成10年特許願第539578号、特表2001-509064、WO98/40027)の拒絶審決取消訴訟。争点は進歩性。

本願発明:
患者の欠損を矯正する医療組成物の製造に,試験管内培養自己由来細胞を使用する方法であって,該医療組成物は該患者の欠損に導入するためのものであり,該試験管内培養自己由来細胞は,試験管内で培養されて,非自己由来血清に暴露されることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす,方法。
審決が認定した本願発明と引用発明の相違点は、本願発明では、「非自己由来血清に暴露させることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす」と特定されているのに対して、引用発明では「非ヒト血清を含む培地中で継代した後,無血清培地で培養する」としている点、であった。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 本判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
裁判所の判断(抜粋)
当裁判所は,以下のとおり,本願発明の相違点に係る構成は容易に想到することができるとした審決の判断に誤りはないと解する。
引用刊行物Aには,非ヒト血清(ウシ胎児血清)中で継代した後に行われる無血清培地中での培養は,「存在すれば被験者に対して免疫原性でありアレルギー反応を引き起こすであろう,ウシ胎児血清由来のタンパク質を細胞から実質的に除去する」目的であることが明示されている。
すなわち,引用発明において,無血清培地中で細胞をインキュベートする目的は,被験者に対して免疫原性でありアレルギー反応を引き起こす危険性のある,ウシ胎児血清由来のタンパク質を細胞から実質的に除去することにある。したがって,免疫原性の問題を解決するために,本願発明が採用する「非自己由来血清に暴露させることなく,自己由来血清を含む少なくとも1つの培地中で細胞数を増やす」との方法を採用することに,何らの阻害要因はないものというべきである。
以上のとおり,「非ヒト血清を含む培地中で継代した後,無血清培地で培養する」との技術を,免疫原性の問題を回避し得る乙1ないし乙3に記載の技術に置換することは,当業者が容易になし得たことと認めるのが相当である。
【コメント】

医療関連の発明なので取り上げたが、特に参考になる点はなさそう。

出願人が同じ最近の判決:

2013.03.27 「ジェリジーン メディカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10354

Sep 2, 2013

2013.03.19 「メリアル v. フジタ製薬」 知財高裁平成24年(行ケ)10037

発明が未完成かどうか: 知財高裁平成24年(行ケ)10037

【背景】

原告が保有する「ペット寄生虫の治療・予防用組成物」に関する特許(第3765891号)を無効とした審決の取消訴訟。争点は、訂正後の請求項1ないし34に係る発明の特許法29条1項柱書該当性の有無及び実施可能要件違反の有無。

請求項1(訂正発明1):
(下線を付した部分は本件の争点となる構成要件の部分であり「構成要件1F(2)」と称する。)
下記の(a)~(d)から成り,
式(I)の化合物は1~20%(w/v)の割合で存在し,
結晶化阻害剤は1~20%(w/v)の割合で存在し且つ(c)で定義した溶媒中に式(I)の化合物を10%(W/V),結晶化阻害剤を10%添加した溶液Aの0.3ml をガラススライドに付け,20℃で24時間放置した後にガラススライド上を肉眼で観察した時に観察可能な結晶の数が10個以下あり,
有機溶媒(c)は組成物全体を100%にする比率で加えられ,
有機共溶媒(d)は(d)/(c)の重量比(w/w)が1/15~1/2となる割合で存在し,有機共溶媒(d)は水および/または溶媒 c)と混和性がある,
動物の身体の一部へ局所塗布することによって動物の全身へ拡散する,直ちに使用可能な溶液の形をした,寄生虫からペットを治療または予防するための組成物:
(以下(a)、(b)、(c)及び(d)は省略)
【要旨】

主 文
特許庁が無効2010-800061号事件について平成23年9月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。

裁判所の判断(抜粋)
1 取消事由1(特許法29条1項柱書該当性の判断の誤り)について

訂正明細書の発明の詳細な説明ないし特許請求の範囲に記載がなくても,当業者は構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の目的,技術的性格に従って,①ガラススライドの大きさ,②温度・湿度の調節及びこれに伴う空気の流れの制御方法,③相対湿度を適宜選択することができ,試験条件いかんで試験結果が一定しないわけではないから,訂正発明1ないし34が未完成の発明であるとはいえない。したがって,甲第5,第6号証の試験結果を根拠に,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験の試験結果が一定しないなどとして,訂正発明1ないし34が未完成の発明であり,特許法29条1項柱書の「産業上利用することができる発明」に当たらないとした審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由1は理由がある。

2 取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について

前記1で認定したとおり,当業者は,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載や特許請求の範囲の記載及び技術常識に基づいて,構成要件1F(2)の結晶化阻害試験を実施し,殺虫活性物質(a),結晶化阻害剤(b),有機溶媒(c)から成る溶液Aのうちから上記構成要件を充足するものを選別することができるから,訂正発明1ないし34に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明を実施可能な程度に明確かつ十分なものである。したがって,これに反する審決の認定・判断には誤りがあり,原告主張の取消事由2は理由がある。
【コメント】

特許庁審決では、構成要件1F(2)に記載された試験方法では、異なる結果が得られる場合があるから、訂正発明1はその技術内容がその目的とする技術的効果を得ることができないものであり、発明としては未完成のものであると判断した。

しかし、裁判所は、結局、当業者が、明細書の記載や技術常識に基づいて、構成要件1F(2)に記載された試験の目的や技術的性格に従って試験条件を適宜選択すれば、一定の試験結果が得られないとはいえない、と判断した。

発明が完成しているかどうか、実施可能要件を満たすかどうかの判断において、特許庁のロジックは、異なる結果が得られる場合があるかどうかという観点のみであるのに対して、裁判所のロジックは、適宜選択すれば一定の結果が得られるかどうかという観点も加味しており、このロジックの違いが結論に大きく影響した。