Dec 29, 2013

2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

組み合わせてなる医薬に関する特許権の効力
2013年、最もホットだった"特許的"ニュースのひとつは、武田薬品と後発メーカーが争ったピオグリタゾンの併用特許の侵害事件ではないでしょうか?

今年初めに、東京地裁判決がありましたが、それに先駆けて昨年9月の大阪地裁判決では、「複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする発明は,「物の発明」ではなく,「方法の発明」そのものであるといわざるを得ない」、「本件各特許発明が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)を技術的範囲とするものであれば,医療行為の内容それ自体を特許の対象とするものというほかなく,法29条1項柱書及び69条3項により,本来,特許を受けることができないものを技術的範囲とするものということになる。」と言及しています。
一方で、医薬発明の審査基準では、「物」の発明として、いわゆる「組み合わせてなる医薬」を例示しています。この審査基準が作成された経緯は、本件のような併用療法に特徴のある発明をどのように保護するかが議論され、方法的発明でありながら「物」の発明として保護するという取り扱いとすることとなりました。
しかし、その議論から10年が経とうとしている今、これら判決により、審査基準の改定でお茶を濁した併用の特許性と権利行使との不整合の問題が露呈する結果となり、その取り扱いは法改正も視野に入れて再度検討される時期が来たのではないでしょうか。そもそも審査基準の改定で検討された事項の中で大きな論点だったひとつは、経時的な投与方法の発明をどのように権利保護するかということだった(方法的発明を苦肉の策として「物」という「剤」に語尾を「変形」すること(いわゆる「変形剤」クレーム)で29条柱がきの問題を回避できるとした)と記憶しています。これは組合せの薬剤発明だけの問題だけでなく、投与方法に特徴のある医薬用途発明全般に影響する問題であり、もしこのような発明について取得した特許が権利行使できないものというのであれば小手先の審査基準での対応による特許化は全く意味がありません。個人的には、治療方法の特許性を認め、医師の治療行為は特許法69条で特許権の効力が及ばないこととする法改正を再検討してほしいと願っています。

2013年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた製品は...タリオン錠(有効成分: ベシル酸ベポタスチン(bepotastine besilate))でした。


過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら

Dec 28, 2013

2013.12.19 「アンティキャンサー v. 大鵬薬品」 知財高裁平成24年(ネ)10054

リサーチツール特許に関する争い: 知財高裁平成24年(ネ)10054

【背景】

「ヒト疾患に対するモデル動物」に関する特許権(第2664261号)を有していた原告(アンティキャンサー)が、被告(大鵬薬品)に対し、①浜松医大勤務医師らが被告の委託を受けて新規抗がん剤(TSU68)の評価実験に使用した実験用モデル動物(本訴マウス)が、原告の特許発明の技術的範囲に属するものである、②被告が上記医師らに委託して上記動物評価実験を行わせたことが、同医師らを手足として用いた被告による特許権侵害行為又は同医師らの特許権侵害行為を幇助する共同不法行為に当たる旨主張して、特許権侵害の不法行為又は共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。

請求項1(本件発明を構成要件に分説すると以下のとおり):
A ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物であって,
B 前記動物が前記動物の相当する器官中へ移植された脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊を有し,
C 前記移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する
D モデル動物。

原審参照: 2012.04.27 「アンティキャンサー v. 大鵬薬品」 東京地裁平成21年(ワ)31535

【要旨】

主 文
本件控訴を棄却する。(他略)

裁判所の判断

裁判所は、控訴人による本訴の提起が前訴の蒸し返しであること、また、控訴人が本訴マウスについて均等侵害を主張することは訴訟上の信義則に反して違法である、とまで認めることはできないと判断した上で、下記のとおり、本訴マウスの構成要件充足性及び均等侵害の成否を判断した。

本訴マウスが構成要件Bを充足するかについて
構成要件Bは,「前記動物が前記動物の相当する器官中へ移植された脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊を有し,」と規定されているところ,「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」を直接定義する内容の記載は,特許請求の範囲はもとより本件明細書全体をみても存在しない。そこで,裁判所は,「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の意義を,本件明細書の個別の記載を総合的に考慮して解釈し,本訴マウスが有する腫瘍組織塊は,ヒトの器官から採取した腫瘍組織をヌードマウスの皮下で継代したものであって,ヒト器官から採取した腫瘍組織塊そのものではないから,本訴マウスは,構成要件Bを充足しないと判断した。
本訴マウスは本件発明と均等なものであるかについて
本訴マウスは,被告が製造販売認可申請試験中の新規抗がん剤TSU68の大腸癌転移に及ぼす阻害効果等の動物評価実験目的で作成された非ヒトモデル動物。
①乙14発明と乙27発明は,肝癌患者の肝臓から採取した肝腫瘍組織片をヌードマウスの皮下で継代移植して得られた腫瘍組織塊をヌードマウスに同所移植することによってモデル動物を作成するという同一の技術分野に属するものであり,その技術分野において,本件出願の優先権主張日当時,転移過程を再現できるヒトモデル動物を作製することは共通の技術課題とされていたこと,②その技術課題に直接関するヌードマウスに肺転移が認められたとする部分について,乙14は乙27を参照文献として引用していることに照らすならば,乙14及び乙27に接した当業者であれば,乙14発明に乙27に記載された知見を適用して本訴マウスの構成とすることは,容易であるものと認められる。以上のとおりであるから,裁判所は,本訴マウスが本件出願の優先権主張日当時における公知技術から容易に推考できたものであり,均等の第4要件を満たさず,本訴マウスについて均等侵害は成立しない,と判断した。
【コメント】

大鵬薬品は、本件特許無効審判を請求した(無効2012-800093)が、特許庁は請求不成立の審決を下したため、審決取消訴訟を2013年11月12日に提起していた(平25行ケ10311)。しかし、非侵害の知財高裁の判決が出されたため、大鵬薬品にとっては一件落着といえるだろう。

参考:

Dec 27, 2013

2013.12.25 「興和 リバロ後発品 特許侵害訴訟を提起」

興和および日産化学は、2013年8月15日付で高コレステロール血症治療剤「リバロ」後発品の製造販売承認を取得し、販売を開始もしくは販売開始を表明している7社(ダイト株式会社、持田製薬、小林化工、Meiji Seika ファルマ、東和薬品、鶴原製薬、科研製薬)に対し、日産化学が保有する当該有効成分の結晶形についての特許権に基づき、12月25日付で東京地裁に特許権侵害行為の差し止めを求める訴訟を提起しました。

参考:
リバロ錠 1mg・錠2mg(一般名:ピタバスタチンカルシウム)は日産化学工業(株)が原体を合成し、興和(株)が製剤開発を行ったHMG-CoA還元酵素阻害剤である。効能又は効果は高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症。

Dec 26, 2013

2013.11.21 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10114

気血水理論に基づいて開発された栄養剤: 知財高裁平成25年(行ケ)10114

【背景】

「栄養剤,消化器剤」に関する特許出願(特願2002-293904; 特開2004-123671)の拒絶審決(不服2009-14411)取消訴訟。判断された争点は進歩性。

請求項1:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする栄養剤。
審決が認定した引用発明の内容、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおり。

引用発明の内容:
シムノールおよび/またはシムノール硫酸エステルと,大豆イソフラボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体を含む栄養剤,消化器剤。
一致点:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル,
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
を含むことを特徴とする,栄養剤。
相違点:
本願発明は成分Cとしてクルクミンを含むのに対し,引用発明はクルクミンを含まない点。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用と引用例2に記載された「津液作用」とは,共に中国伝統医学の「気血水」の概念に基づくものであり,引用例1の「水の科学」に関連する作用が「血管で運ばれた機能発揮のための必要物質を更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進する作用」とされ,引用例2の「津液作用」が「水分の体外への分泌を司る器官を刺激し,体内水分の体外への分泌を促進させる作用」とされていることから,両者は同等の作用を有するものに対応することが明らかである。したがって,引用例2に記載された「津液改善剤」は,引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用を有する成分に相当する。
そして,引用例2には「津液作用」を有する生薬が多数列挙され,「津液改善剤」を複数用いることが記載されているから,引用例2記載の「津液改善剤」は「津液作用」(「水の科学」に関連する作用)を有する成分を複数併せて用いることが予定されているといえ,一方,引用例1にはシムノール,シムノール硫酸エステル,大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体以外のその他の成分を混合してよいことが記載されている。そうであれば,引用発明の「水の科学」に関連する作用を更に増強するために,引用例2に記載された「津液改善剤」を引用発明に組み合わせることとし,引用例2において実際に作用が確認されたとするカプサイシン,シナピン及びクルクミンの3種のうちからクルクミンを選択することは,当業者が容易になし得る程度のことであり,格別の創意工夫を要しない。
【コメント】

現在3つの分割出願が存在。

本件発明に関連すると思われる出願の判決事例:

関連製品: 髪精丸α

2013.11.27 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10027

育毛剤の予測し得ない効果?: 知財高裁平成25年(行ケ)10027

【背景】

「皮膚用剤」に関する特許出願(特願2002-303878; 特開2004-182600)の拒絶審決(不服2009-14415)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする皮膚用剤。
審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおり。

引用発明の内容:
シムノールサルフェート(魚肝の有効成分)及びダイズイン(大豆の有効成分)を含む,生体活動改善用の組成物
一致点:
A.シムノール硫酸エステル,及びB.大豆イソフラボン配糖体を含む組成物
相違点1:
本願発明は「皮膚用剤」であるのに対し,引用発明は「生体活動改善用の組成物(美肌作用やアトピー性皮膚炎~などの皮膚疾患の改善作用含む)」である点
相違点2:
本願発明は,さらに成分C.としてクルクミンを含むのに対し,引用発明はクルクミンを含まない点
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)について
引用例2における津液改善剤は引用例1における補血・活血作用を有する成分に相当すると解され,また,いずれも,2種以上を組み合わせて使用することもあり得る点で共通している。そして,引用例2には,津液改善剤の例として,カプサイシン,シナピンと共に「クルクミン」が挙げられている。
以上によれば,「クルクミン(ウコンエキス)」は,引用例1において,補血・活血作用を有する生薬として例示され,実施例6でも使用され,また,引用例2に津液改善剤の例として記載されていることに照らすならば,引用例1に接した当業者が,津液作用をより向上させるために,引用発明に係る組成物に,補血・活血作用を有する成分として「クルクミン(ウコンエキス)」を付加して,相違点2に係る構成に至ることは,容易であるといえる。以上のとおり,当業者が本願発明のうち相違点2に係る構成に至るのは容易であり,この点に関する審決の判断に誤りはない。
(2) 本願発明の効果についての判断の誤り(取消事由2)について
本願明細書には,本願発明に係る皮膚用剤の効果に関し,美白,しみ,しわ~等の医薬としてすぐれた効果が得られ,また,抗癌剤による副作用,例えば,脱毛,内出血などに有効であるとの記載がある(段落【0036】)。また,本願明細書には,本願発明の実施例である実施例7の効果として,発毛促進作用のほか,美肌作用,アトピー性皮膚炎治療作用~等の効果が確認できたとの記載がある(段落【0035】)。
しかし,上記の効果の大部分は,引用例1における,津液作用を有する成分と補血・活血作用を有する成分とを含有した生体活動改善用の組成物の効果(段落【0010】【0034】)や,引用例2における,津液改善剤の効果(段落【0026】)と共通するものであり,上記生体活動改善用の組成物や津液改善剤の効果から予測し得る範囲内のものにすぎない。
したがって,本願発明が当業者が引用発明や引用例2から予測し得ない効果を有するとは認められない。
【コメント】

顕著な効果について、原告は、本願発明に係る3成分からなる皮膚用剤が2成分の場合より優れた効果を有していると主張したが、本願明細書にはその効果の違いに関する記載はなく、3成分としたことにより、2成分の場合と比べ、予測し得ない優れた効果を奏しているとは認められないとして、原告の主張は失当であると判断されている。審判請求書に添付した書面も、効果が明確に記載されていないものも多く、効果の対比もなかった。
現在分割出願が存在している。

本件発明に関連すると思われる出願の判決事例:
2013.03.27 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10284
こちらは拒絶審決が取り消され、差戻し審決で特許となっている。

2013.11.21 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10114
こちらは進歩性なしと判断された。

関連製品: 髪精丸α

Dec 25, 2013

2013.11.27 「ドリッテ v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10018

アミジン基を有する化合物のプロドラッグ化: 知財高裁平成25年(行ケ)10018

【背景】

「薬剤中におけるアミジン基を有する活性物質の生物学的利用率の向上」に関する特許出願(特願2009-519786、特表2009-544588)の拒絶審決(不服2010-11032)取消訴訟。争点は新規性(法29条1項3号)。

請求項1:
少なくとも1種の活性アミジン基を有する薬物の生物学的利用率を向上させるために,薬剤中の前記薬物のアミジン基を,下記式[化2](Rは,水素原子,アルキル基および/またはアリル基を表す)のN,N’-ジヒドロキシアミジン(Ⅰ),N,N’-ジヒドロキシアミジンエーテル(Ⅱ),N,N’-ジヒドロキシアミジンジエーテル(Ⅲ),N,N’-ジヒドロキシアミジンエステル(Ⅳ),N,N’-ジヒドロキシアミジンジエステル(Ⅴ)または4-ヒドロキシ-1,2,4-オキサジアゾリン(Ⅵ)とする薬剤の製造方法。

【要旨】

主文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
引用化合物と本願発明におけるアミジン基の構成とを対比すると,刊行物Aに記載された化合物36におけるN,N’-ジヒドロキシアミジンジメチルエーテル構造は,本願発明における「N,N’-ジヒドロキシアミジンジエーテル(Ⅲ)」でRがメチル基である場合に相当し,化合物48及び82におけるN,N’-ジヒドロキシアミジン構造は本願発明における「N,N’-ジヒドロキシアミジン(Ⅰ)」に相当し,また,化合物50における
N,N’-ジヒドロキシアミジンモノメチルエーテル構造は本願発明における「N,N’-ジヒドロキシアミジンエーテル(Ⅱ)」でRがメチル基である場合に相当すると認められる。
また,刊行物Aにおけるアリール-アミジン基を有する化合物は,凝血プロセスを有効かつ選択的に制御する化合物として見いだされたものであることから,医薬製剤における有効成分であり,これは本願発明における「少なくとも1種の活性アミジン基を有する薬物」に相当すると認められる。
そして,刊行物Aに記載された技術は,医薬製剤を製造するための技術に関するものであることから,刊行物Aにおけるアミジン基を有する化合物から各種誘導体化した化合物を得る方法は,本願発明における「薬剤中の前記薬物のアミジン基を,…とする薬剤の製造方法」に相当すると認められる。
以上によれば,本願発明は刊行物Aに記載された発明を包含するものであり,本願発明と引用発明との間には相違点を見出すことができないので,本願発明は刊行物Aに記載された発明であると認められ,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
【コメント】

アミジン基を有する化合物から各種誘導化したプロドラッグ化合物についての新規性が問われた。
欧州(EP2046732)ではObservations by third partiesが提出されている。
米国(US2009270440(A1))では拒絶となり、RCEがfileされている。

Dec 22, 2013

2013.10.30 「シーエスエル v. ノボ・ノルデイスク」 知財高裁平成24年(行ケ)10443

最終比率と最終濃度: 知財高裁平成24年(行ケ)10443

【背景】

原告ら(シーエスエルおよびモナシュユニバーシティ)が有する「安定化された成長ホルモン処方物およびその製造方法」に関する特許(第4255515号)を無効とした審決(無効2011-800051)の取消訴訟。争点は新規性。引例との対比において下記請求項の「最終濃度」の意義が問題となった。

請求項1:
成長ホルモンと,緩衝剤と,安定化有効量の少なくとも1種のプルロニック(登録商標)ポリオールとを含んでなる安定な成長ホルモン治療用医薬液状処方物を製造する方法であって,
処方物中の緩衝剤の最終濃度の2倍より高い濃度の緩衝剤に,成長ホルモンがさらされないような条件下,かつ,処方物中の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度の2倍より高い濃度の1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールに,成長ホルモンがさらされないような条件下で,成長ホルモンを,緩衝剤および1種もしくは2種以上のプルロニック(登録商標)ポリオールと混合することを含んでなり,
ここで,処方物におけるプルロニック(登録商標)ポリオールの最終濃度が0.08~1.0%w/vであり,
処方物のpHが5.0~6.8である,方法。
【要旨】

主文
1 原告らの請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
当裁判所は,審決には原告らの主張する新規性判断の誤りはなく,進歩性判断の誤りの有無について判断するまでもなく,審決に取り消されるべき違法ないと判断する。その理由は次のとおりである。
原告らは,文献7に,引用発明におけるゲル濾過カラム上での緩衝液交換に際して用いられた溶離緩衝液が緩衝剤及び非イオン界面活性剤を「最終比率」で含有するとあるのは,各成分間の割合が最終的に得られる溶液における各成分間の割合と同じであることを指すのであり,これを,緩衝剤及び界面活性剤の濃度が最終的に調製される製剤の濃度すなわち「最終濃度」に等しいことであるとする審決の認定判断は誤りであると主張する。
上記「最終比率」については,①水性ヒト成長ホルモン製剤中の上記三成分間の割合(この場合,製剤中の三成分の各濃度は最終濃度に比例した濃度となる。),②上記三成分の各最終濃度,のいずれかに解釈する余地がある。しかるところ,引用発明が,非イオン界面活性剤を0.1ないし5%(w/v)含む緩衝液により水性ヒト成長ホルモン製剤の安定化を達成しようとするものであり,「〈B.製剤調製〉」の目的が,かかる効果を示すための安定性確認試験において用いる水性ヒト成長ホルモン製剤を調製することにあることに照らすと,ここにおけるゲル濾過カラム上での溶離緩衝液交換とは,緩衝液を上記濃度の非イオン界面活性剤を含む水性ヒト成長ホルモン製剤の緩衝液に交換する操作と考えるのが自然である。これに対し,引用発明の特徴や上記製剤調製の目的に照らすと,ヒト成長ホルモンとその他の三成分の量比に着目する動機はないから,上記「最終比率」を三成分間の割合と解することは不自然である。以上によれば,引用発明におけるゲル濾過カラム上での緩衝液交換に用いる溶離緩衝液は,水性ヒト成長ホルモン製剤における濃度と等しい三成分の濃度を含むものであって,上記「最終比率」とは最終濃度を意味するとともに,緩衝液交換後の希釈に用いる溶液も最終濃度の溶離緩衝液であると解するのが妥当である。よって,これと同旨の審決の引用発明の認定判断に誤りはない。
【コメント】

本願発明と引用発明との対比判断において、引用発明の「最終比率」の意義が、本願発明の「最終濃度」に想到するかどうかが問題となった。

ノボ・ノルディスク(Novo Nordisc)A/Sは、独自の遺伝子組換え技術を用いて開発したソマトロピン(somatropin)(遺伝子組換え)のリキッドタイプ製剤(ノルディトロピン®)を販売している。製剤の組成には、緩衝剤としてL-ヒスチジン、界面活性剤としてポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが含有されており、溶液及び溶解時のpHについてはpH:6.0~6.3となっている。

参考:

Dec 18, 2013

2013.10.24 「ワーナー-ランバート v. サンド」 東京地裁平成24年(ワ)5743(甲事件), 19120(乙事件)

アトルバスタチンの結晶形に関する特許権侵害訴訟: 東京地裁平成24年(ワ)5743(甲事件), 19120(乙事件)

【背景】

本件は,特許権1(特許3296564)(甲事件)及び特許権2(特許4790194)(乙事件)を有する原告(ワーナー-ランバート)が,被告(サンド)が輸入,製造及び販売する被告各製品が上記各特許権を侵害している旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止め等を求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品についての健康保険法に基づく薬価基準収載品目削除願の提出及び被告各製品の廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の甲事件請求及び乙事件請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は,甲事件・乙事件を通じ,原告の負担とする。
裁判所の判断
(1) 別件判決において,本件発明1は乙7発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとして,本件審決を取り消す判断が示され,同判決は確定している。そうすると,特許庁は,別件判決に再審事由があることが明らかであるなど特段の事情のない限り,本件特許1を無効とする審決をするほかないこととなる。本件において上記特段の事情が存在することをうかがわせる事情はなく,また,原告もそのような事情を具体的に主張するものではない。したがって,本件特許1は,特許法123条1項2号,29条2項の定める無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対して本件特許1に基づく権利行使をすることができないものと解される。 
(2) 本件審決を取り消す旨の別件判決が最高裁判所の決定により確定しているところ,これは,本件特許1に関する判断であるから,これと異なる特許である本件特許2について,直ちに無効理由があることになるなどの直接的効果を及ぼすものではない。しかしながら,本件特許権2に係る出願は,原出願である本件特許権1に係る出願を分割してされたものである。そして,本件発明2の構成要件に記載されたアトルバスタチン水和物の結晶性形態が,本件発明1の構成要件に記載されたものと全く同一の結晶性形態を表していることは明らかである。すなわち,両発明は,これらの数値によって特定される結晶性形態のアトルバスタチン水和物に関する発明である点において全く同一であり,前者がそのアトルバスタチン水和物そのものの発明であるのに対し,後者がそのアトルバスタチン水和物に賦形剤等を混合した医薬組成物の発明である点が異なるにすぎない。そうすると,これに賦形剤等を混合して医薬組成物とすること自体に進歩性が認められるなど特段の事情のない限り,本件特許2もまた無効とされるべき筋合いであることは当然の事理というべきである。したがって,本件特許2も,特許法123条1項2号,29条2項の定める無効理由があり,無効審判により無効にされるべきものと認められるから,原告は,被告に対して本件特許2に基づく権利行使をすることができないものと解するのが相当である。
【コメント】

参照: 2012.12.05 「サンド v. ワーナー-ランバート」 知財高裁平成23年(行ケ)10445

Dec 17, 2013

2013.10.16 「沢井製薬 v. 第一三共」 知財高裁平成24年(行ケ)10419

米国カルベジロール試験の信憑性と顕著な効果: 知財高裁平成24年(行ケ)10419

【背景】

被告(第一三共)が有する「うっ血性心不全の治療へのカルバゾール化合物の利用」に関する特許(3546058)に対して原告(沢井製薬)がした無効審判請求を不成立とした審決(無効2007-800192)の取消訴訟。

請求項1:
利尿薬,アンギオテンシン変換酵素阻害剤および/またはジゴキシンでのバックグランド療法を受けている哺乳類における虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率をクラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって,低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤の製造のための,単独でのまたは1もしくは複数の別の治療薬と組み合わせたβ-アドレナリン受容体アンタゴニストとα1-アドレナリン受容体アンタゴニストの両方である下記構造:


を有するカルベジロールの使用であって,前記治療薬がアンギオテンシン変換酵素阻害剤,利尿薬および強心配糖体から成る群より選ばれる,カルベジロールの使用。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2007-800192号事件について平成24年10月31日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断
ある文献に医薬発明が開示されているといえるためには,当該文献に記載された薬理試験が,医薬の有効成分である化学物質が問題となっている医薬用途を有することが合理的に推論できる試験であれば足り,医薬の承認の際に求められるような無作為化された大規模臨床試験である必要はない。

甲1文献記載の試験は,カルベジロールが虚血性のうっ血性心不全の治療に使用されることが合理的に推論できるものであるといえるから,甲1文献は,カルベジロールを虚血性のうっ血性心不全の治療に使用するという発明を完成した用途発明として開示したものということができ,また,甲1文献は,カルベジロールの効果を裏付ける文献としての意義を有しているものといえる。

審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点である,本件発明1では「虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率をクラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって,低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤」であるのに対し,甲1発明では,「8週間の投与により虚血性のうっ血性心不全患者の血行動態パラメータを改善する薬剤」である点については,その構成という観点からは,当業者が容易に想到可能であったものということができる。
審決は,本件特許の優先権主張日当時,カルベジロールが虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率を低下することは知られていなかったところ,米国カルベジロール試験は,プラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたといえるので,優先権主張日当時の技術水準からみて,本件発明の効果が顕著な効果ではないということはできないと判断している。
しかし,米国カルベジロール試験は,治療期間が短いこと等により,その結果の信頼性が低いものであることは,前記説示のとおりである。したがって,米国カルベジロール試験においてプラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたからといって,本件発明に顕著な効果があるということはできない。
したがって,原告主張の取消事由2-1(甲1発明に基づく進歩性の判断の誤り),取消事由3(甲1~6発明に基づく進歩性の判断の誤り)及び取消事由4(本件発明の効果に係る判断の誤り)はいずれも理由があり,本件発明1は,甲1発明に甲4発明,甲5発明,甲6発明及び甲10発明並びに周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。したがって,本件発明1の進歩性に係る審決の判断は誤りである。
【コメント】

引用文献甲1に記載された医薬用途発明が引用発明としての適格性を備えていない旨の被告の主張を裁判所は退けた。医薬用途発明の引用適格性を「薬理試験が医薬用途を合理的に推論できる試験」かどうかで裁判所は判断した事例である。

顕著な効果を判断するに当たっては、米国カルベジロール試験が信頼できるのかどうかという問題だった。米国カルベジロール試験による申請を、FDAの諮問委員会が否決し、新たな未解決の問題に対処すべく評価項目を定めてプロスペクティブな試験をやり直すことを勧告した等の経緯から、明細書に記載された本件発明の効果である米国カルベジロール試験の結果が信憑性の低いものであることを示すものであると裁判所は判断した。従って、米国カルベジロール試験結果に基づいて本件発明に顕著な効果があると判断した審決は取り消された。

関連判決:

Dec 15, 2013

2013.10.10 「ECI v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10014

進歩性判断に後出し実験データが参酌されなかった一事例: 知財高裁平成25年(行ケ)10014

【背景】

「eMIPを有効成分とするガン治療剤」に関する特許出願(特願2007-500440)の拒絶審決(不服2010-8649)取消訴訟。争点は明確性(法36条6項2号)と進歩性(法29条2項)。

請求項1(本願発明1):
放射線照射によりガン局所に炎症を生起させた状態でeMIP を投与することを特徴とするeMIP を有効成分とするガン治療剤。
請求項2(本願発明2):
アブスコパル効果を生起させる放射線照射により炎症を生起させた状態でeMIPを投与することを特徴とするeMIP を有効成分とするガン治療剤。
【要旨】

主文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
1 取消事由2(明確性に関する判断の誤り)について
審決は,拒絶理由通知を引用し,本願発明2の「アブスコパル効果を生起させる」が,「放射線照射」を技術的に限定するものであるのか否かが不明であり,仮に技術的限定であるとしても,いかなる限定を付加するのか不明であるから,本願発明2は不明確である(特許法36条6項2号違反)旨判断した。
しかし,本願発明2の「アブスコパル効果を生起させる放射線照射」が,アブスコパル効果を生起させるような条件の下において放射線の線量を調整して照射することを意味し,「放射線照射」を技術的に限定するものであることは,請求項の文言上明らかである。
したがって,本願発明2は明確であるといえ,この点において審決の明確性に関する判断には誤りがある。

2 取消事由1(進歩性に関する判断の誤り)について
(1) 容易想到性について
原告は,本願発明が,引用発明,引用文献2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではないと主張し,その根拠として,引用文献2及び3にはeMIP が樹状細胞の血中レベルを上昇させることが記載されていないこと,意見書記載の実験結果,及びeMIP とFlt3-L の作用の相違を挙げる。
しかしながら,引用文献2には,eMIP が樹状細胞の血中レベルを上昇させる作用を有すること,及びそれをガンの免疫治療に応用できることが開示されているということができ,引用文献3には,eMIP が血中に樹状細胞を動員する作用を有することが記載されているといえる。原告が審査段階で提出した意見書には,eMIPには樹状細胞の産生を増強する作用が認められないと結論付けられているが,eMIP が樹状細胞の産生を増強する作用がないことは,本願明細書には記載されておらず,本願の優先権主張当時の公知の事実であるとも認められない(むしろ,上記のとおり,引用文献2及び3からみて,eMIP は樹状細胞前駆体を血中に動員する作用を有するものとして知られていたと認められる。)。したがって,意見書に記載された実験結果を本願発明の進歩性の判断において参酌することはできない。また,ガンに対する免疫療法の開発が広く行われていたという本願の優先権主張日当時の技術水準を考慮すると,樹状細胞のみに作用する増殖因子であるFlt3-L よりも,CCR1 やCCR5 を発現する免疫系細胞に広く作用し,増殖ないし活性化させるeMIP の方が,免疫作用増強の観点から有利なものとして,当業者が容易に置換し得るものであるといえる。以上のとおり,審決の容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。
(2) 効果について
原告は,本願発明の顕著な効果として,腫瘍抑制効果が抗原非特異的であること,及び,eMIP が放射線照射の腫瘍抑制作用を増強することを主張した。
一般に,あるガン抑制作用が抗原特異的なものであるか非特異的なものであるかは,抗原性の異なるガンを用いた実験をして初めて確認できることであって,本願明細書の記載からは,本願発明のガン抑制効果が抗原非特異的なものであると推認することはできないから,本願発明の進歩性の判断において,意見書に添付した実験データ及び答弁書に添付した実験報告書に記載されたデータを参酌することはできない。また,引用文献1の著者は,Flt3-L が放射線照射による腫瘍抑制効果を増強しなかったという結果は,予想外のものであり,その原因は,用いたガンモデルにおける腫瘍サイズが,Flt3-L が樹状細胞数を増やして免疫力を増強する能力を上回ったことにあるのではないかと推測していることが理解できるのであって,Flt3-L が放射線照射による腫瘍抑制効果を増強しないとの結論を導いているとは認められない。一方,引用文献2及び3には,eMIP が,樹状細胞の血中レベルを上昇させ免疫力を増強させることでガンの免疫治療に使用できることが記載されているので,引用発明において,免疫力増強によるガン抑制作用が限定的であるFlt3-L に代えて,eMIP を採用することで,放射線照射のガン抑制効果を免疫力増強により高めることができるであろうことは,当業者が予測し得る範囲のことである。
(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。

以上より,審決の本願発明に関する明確性の判断には誤りがあるが,容易想到性についての判断には誤りがなく,結論において相当と認められるから,原告の請求は理由がない。
【コメント】

引用文献2及び3にはeMIP が樹状細胞の血中レベルを上昇させることが記載されていないことを意見書記載の実験結果から原告は主張したが、その主張は本願明細書に記載されておらず、むしろ、引用文献からみて作用を有するものとして知られていたと認められたため、その実験結果は本願発明の進歩性の判断において参酌されなかった。
この事例の判断を基に考えると、先行文献に記載されている内容では実は効果がないことを発見し、それを克服するために効果を示す本願発明を見出した等の主張を繰り広げたい場合には、本願発明が効果を示すことだけではなく、先行文献の内容では効果がないことを示すデータを本願明細書にしっかり記載しておくことを検討する必要がある。
しかしながら、進歩性判断において、本願発明の効果の記載ならまだしも、引用発明の効果についても出願時の明細書に記載しておかなければ、出願後に引用発明の実験データを参酌してもらう機会を与えないという判断には疑問がある。特許法にはそんな記載要件はないからである。

この事例クレームは、放射線照射との組合せという投与方法に特徴のある発明である。投与方法発明あるいは併用発明について進歩性が判断された事例として参考になるかもしれない。

参考:

Dec 11, 2013

2013.10.03 「壽製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10415

併用発明の相乗効果と顕著な効果知財高裁平成24年(行ケ)10415

【背景】

「血清コレステロール低下剤或はアテローム性硬化症の予防又は治療剤」に関する特許出願(特願2003-185171号; 特開2005-015434)の拒絶審決(不服2010-8202)取消訴訟。特許庁は、引用例1と引用例2に記載された発明に基づいて進歩性なしと審決した。

請求項1(本件補正発明):
下記化学式(56)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と,コレステロール生合成阻害剤及び/又はフィブラート系コレステロール低下剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はプラバスタチン,ロバスタチン,フルバスタチン,シムバスタチン,イタバスタチン,アトルバスタチン,セリバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチン,及びカルバスタチンからなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤であり,上記フィブラート系コレステロール低下剤はクロフィブラート,ベザフィブラート,シンフィブラート,フェノフィブラート,ゲムフィブロジル,及びAHL-157からなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤である血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤。
本件補正発明と引用例1に記載された発明(引用発明)との一致点:
「β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤と,コレステロール生合成阻害剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はロバスタチンである血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤」である点。
本件補正発明と引用例1に記載された発明(引用発明)との相違点:
本件補正発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「化合物56」であるのに対し,引用発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「コンパウンドA」である点。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 相違点の判断の誤りの有無
引用例1及び2に接した当業者は,引用例1の記載から,β-ラクタム構造を有するβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤とコレステロール生合成阻害剤(HMG CoAレダクターゼ阻害剤)との組合せは,どちらか単独の薬剤を使用するよりも大きく血漿コレステロール濃度を減少させ,それぞれの減少率の和以上の血漿コレステロール濃度の減少率を示すという相乗効果を発揮し得ることを理解し,引用例2の記載から,β-ラクタム構造と加水分解に安定なC-配糖体部分とを同一分子内に有するβ-ラクタム化合物のC-配糖体は,C-配糖体を有しないβ-ラクタム化合物よりも,作用部位である小腸上皮に長時間留まることが可能であり,しかも,小腸上皮からの吸収がわずかであって,副作用が軽減されるので,優れた血清コレステロール低下作用を有すること,引用例2の表13記載の化合物56を含む13個の化合物(β-ラクタム化合物のC-配糖体)は,実際に血清コレステロール低下作用を示したことを理解するものといえるから,β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤としてコンパウンドAとコレステロール生合成阻害剤としてロバスタチンとを組み合わせた引用発明において,血清コレステロール低下作用の更なる改善を目的として,C-配糖体部分を有しないコンパウンドAに代えて,引用例2の表13記載のC-配糖体部分を有する化合物56を含む13個の化合物のそれぞれと置換することを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,引用例1及び2に接した当業者であれば,引用発明のコンパウンドAに代えて上記13個の化合物の一つである化合物56を採用することを容易に想到することができたものと認められる。

(2) 顕著な作用効果の判断の誤りの有無
発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,当該発明と引用発明とを対比して,当該発明と引用発明との構成上の相違点を確定した上で,当業者が,引用発明に他の公知発明又は周知技術とを組み合わせることによって,引用発明において相違点に係る当該発明の構成を採用することを想到することが容易であったか否かによって判断するのを原則とするが,例外的に,相違点に係る構成自体の容易想到性が認められる場合であっても,当該発明が奏する作用効果が当該発明の構成そのものから当業者が予測し難い顕著なものであるときは,その作用効果が顕著である点において当該発明は特許法の目的である産業の発展に寄与(同法1条)するものとして進歩性を認めるべきであるから,当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないものと解するのが相当である。

引用例1及び2に接した当業者は,コンパウンドAとロバスタチンとを組み合わせてなる引用発明において,コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に,引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められる。
一方,本願明細書には,化合物56とロバスタチンとを組み合わせてなる血清コレステロール低下剤あるいはアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤の薬理実験の結果の記載がないことに照らせば,本願明細書の記載に基づいて,上記組合せからなる本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを認めることはできない。
すなわち,実験動物における薬理作用を比較検討するに当たっては,実験条件をそろえることが必須であるところ,本願明細書記載の実験と引用例1記載の実験とでは,被験動物の種類が異なり,投与量等の条件も異なる上,被験動物の種類により薬剤に対する応答が異なることは技術常識であるから,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の効果の顕著性を立証することはできない。
また,コレステロール生合成吸収阻害剤であるアトルバスタチンとロバスタチンとは異なる物質であり,両者がβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤との併用において同等であると認めるに足りる証拠はないから,この点において,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを立証することはできない。
以上によれば,上記の各実験結果によって本件補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると,これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。他に原告は本件補正発明の奏する作用効果の顕著性に関し縷々主張するが,上記判断に影響を及ぼすものではない。
【コメント】

本願明細書には化合物56とアトルバスタチンとの併用がそれぞれ単独の効果に比べ相乗効果があることが示されていたが、そもそも、引用例1及び2(出願人自身のPCT出願(WO02/066464))に接した当業者は、コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に、引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められるから、その相乗効果自体が予測し難い顕著なものであるとはいえないとされた。相乗効果が認められたからといって併用発明が進歩性を有するわけではない。そもそも相乗効果が予測し得るものであるならば、さらにそれを超える顕著性が求められる。

寿製薬のwebpageからの情報やネット上の文献情報(239th ACS National Meeting; March 21-25, 2010; San Francisco, CA, United States. 2010)によれば、塩野義製薬と共同開発中のコレステロール吸収阻害剤S-556971(KT6-971)はC-glycoside analogs of the ezetimibe glucuronide conjugateである。本願補正クレームで出願人が絞り込んだ化合物56が出願人にとって最も重要な化合物(すなわち開発化合物)と仮定すれば、化合物56がS-556971(KT6-971)であると予想される。



Dec 6, 2013

2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10309

ゾレア(Xolair)皮下注用(オマリズマブ(Omalizumab))特許権の存続期間の延長登録出願: 知財高裁平成24年(行ケ)10309

【背景】

原告は,「特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体」に関する特許権の特許権者であるが,本件特許の請求項15に係る発明の実施に医薬品製造販売承認に係る処分(本件処分)を受けることが必要であったとして,5年の特許権存続期間の延長登録を求めて,特許権存続期間延長登録出願をしたが,拒絶査定を受けたため,拒絶査定不服審判を請求した。これに対し,特許庁は,本件処分の対象とされた医薬品は,451アミノ酸からなるH鎖(重鎖)を有するヒト化マウス抗体であるのに対し,本件特許の請求項15の抗体に含まれるH鎖は453アミノ酸からなるものであり,本件処分におけるオマリズマブ(遺伝子組換え)は,本件特許の請求項15に記載された抗体に該当せず,同請求項15に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないとして,請求不成立の審決をした。本件は,原告がこの審決の取消しを求めた事案である。

請求項15:
配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2010-20810号事件について平成24年4月23日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断
(1) 本判決は,本件発明における抗体はヒト化マウス抗体であり,レシピエント抗体としてヒトのIgG1を使用したと認められるところ,特許請求の範囲の請求項15にはアミノ酸残基の置換部位がカバットらの文献に記載された番号付けに基づいて記載されていることから,本件明細書に接した当業者は,本件明細書に記載されたアミノ酸配列(配列番号8)にカバットらの番号付けを対応させると認められ,その結果,上記アミノ酸配列は,125番にLys,126番にGlyが挿入されている点で,カバットらの文献に記載されたヒトIgG1のCH1領域のアミノ酸配列と齟齬することが理解できると判断した。
そして,本件特許出願時である平成4年8月当時,当業者は,それまでに判明した抗体のアミノ酸配列は,基本的には,カバットらの文献に記載されていると認識していたと認められること,レシピエント抗体として使用されたのは,一般的な抗体(本件発明では一般的なヒトIgG1)であると理解できること,当業者は,カバットらの文献に記載されたアミノ酸配列が一般的なヒトIgG1のCH1領域の配列であると理解し,本件発明で使用されたレシピエント抗体であるヒトIgG1のCH1領域のアミノ酸配列も,これと同じであると認識すると認められることなどから,本件明細書に接した当業者は,配列番号8の125番のLys,126番のGlyは誤って挿入記載されたものであり,これらの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められると判断した。従って,審決が,本件処分の対象とされた医薬品オマリズマブ(遺伝子組換え)が特許請求の範囲(請求項15)の453アミノ酸からなるものであるとの構成を充足しないとの理由のみにより,請求項15に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえない,とした判断には,少なくとも,そのことを理由とする限りにおいては,誤りがあるとして,これを取り消した。

(2) なお,請求項15については,原告は,他の構成(「残基60がアスパラギン酸で置換され」との構成)についても「アスパラギンで置換され」の誤記であるとして,併せて,誤記の訂正を目的とする訂正審判請求をしたが,同構成については,誤記であると認定することはできないとして,訂正審判請求を不成立とする審決を維持する旨の判決(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268)がされた(当裁判所に顕著な事実)ことから,同判決の判断を前提とするならば,いずれにしろ,医薬品オマリズマブ(遺伝子組換え)を対象として本件処分を受けることが,請求項15に係る特許発明を実施するために必要であったとはいえないことになる。しかし,審決は,453アミノ酸からなるものであるとの構成を充足しないとの理由のみにより,結論を導いていることから,再度の審理を尽くすため,主文のとおり判決することとした。
【コメント】

本件特許(第3457962号)はゾレアXolair皮下注用(一般名オマリズマブOmalizumab(遺伝子組換え))を保護するものとして存続期間延長登録出願されたが、請求項の構成が本件処分と合致しないため問題となった。誤記の訂正を目的とした訂正審判請求不成立の審決取消訴訟(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268)では原告が敗訴したため、本件判決の最後に言及されているように審決取消により差し戻されたとしても結局本件特許は存続期間を延長できない可能性が高い。延長できないとなると、本件特許はすでに満了(満了日は2012年8月14日)ということになる。ゾレアXolair皮下注用の処分について存続期間延長登録出願されたのは本件特許(第3457962号)のみのようである。
再審査期間は、成人は2017年1月まで、小児は2017年8月まで。

Dec 4, 2013

2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268

ゾレア(Xolair)皮下注用(オマリズマブ(Omalizumab))特許の誤記の訂正: 知財高裁平成24年(行ケ)10268

【背景】

「特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体」に関する特許(第3457962号)の訂正審判(訂正2011-390107号)についての審決(訂正不成立)取消訴訟。

請求項15:
配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,
残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットら
の番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。
本件訂正審判における訂正事項は以下のとおり、いずれも誤記の訂正を目的とするものであった。
  • 訂正事項1,2: 配列表の配列番号8に示すアミノ酸配列において、第125番目のLys及び126番目のGlyは、誤記により挿入されたものであるからこれを削除し、その削除に伴い配列表における配列の長さについて「453アミノ酸」と記載したものを「451アミノ酸」と訂正
  • 訂正事項3: 「アスパラギン酸」は、「アスパラギン」の誤記であるから訂正

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
(1) 訂正事項1及び2の許否に係る判断の誤り(取消事由1)について
本件明細書に接した当業者は,配列番号8のアミノ酸配列にカバットらの番号付けを対応させ,配列番号8のアミノ酸配列が,125番にLys,126番にGlyが挿入されている点で,カバットらの文献におけるヒトIgG1の配列と齟齬があると認識し,この2つのアミノ酸は誤って挿入されたものであり,これらの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められる。したがって,訂正事項2は,誤記の訂正を目的としたものと認められる。
そして,配列番号8のアミノ酸配列から125番のLys,126番のGlyを削除したアミノ酸配列は,当業者において,Lys,Glyの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められる以上,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものとはいえないと解して差し支えない。また,配列番号8のアミノ酸配列は請求項15における発明の構成の一部であるが,訂正事項2による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
上記訂正事項2に係る削除に伴って,配列表における配列の長さについて「453」と記載したものを「451」とする訂正も,同様に,誤記の訂正を目的としたものと認められ,明細書又は図面に記載した事項の範囲を超えるものとはいえず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
よって,これらの点に関する審決の判断には誤りがある。

(2) 訂正事項3の許否に係る判断の誤り(取消事由2)について
~以上のとおり,請求項15及び本件記載部分中の「残基60がアスパラギン酸で置換され」が「残基60がアスパラギンで置換され」の誤記であると認定すること
はできない。また,当業者が,技術常識に照らして,これを誤記と認識するとは認められないことから,訂正事項3に係る訂正により,請求項15に係るアミノ酸は
技術的に異なるアミノ酸となり,さらに,この訂正は,実質的に請求項15に係る特許請求の範囲を変更するものとなる。
よって,訂正事項3が許されないとした審決の判断に誤りはない。

(3) 以上のとおり,訂正事項3に関する審決の判断に誤りはないから,審決が取り消されるべきであるとする原告の主張は理由がないことになる。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
【コメント】

本件特許(第3457962号)はゾレアXolair皮下注用(一般名オマリズマブOmalizumab(遺伝子組換え))を保護するものである。同日付で本件特許権の存続期間の延長登録出願(2009-700042)に関する審決取消訴訟判決が出されている(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10309)。この延長登録出願が、「処分の対象とされたオマリズマブ(遺伝子組換え)は本件請求項15の発明特定事項の一部を備えていない」との理由で拒絶されたため本件訂正審判が請求されたというのが経緯である。アミノ酸配列が発明の構成の一部である場合、その配列の記載ミスや分析ミスは命取りとなる。

ゾレア(Xolair):
ゾレア皮下注用75mg及び150mgは、有効成分としてオマリズマブ(遺伝子組換え)を含有し、米国Genentech社により創薬され、スイス・Novartis AGがライセンス・インした世界初のヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤である。
オマリズマブ(遺伝子組換え)は、好塩基球及び肥満細胞の細胞膜上にある高親和性IgE受容体(FcεRI)に対するヒトIgEの結合部位(Cε3)を抗原として認識し、IgEと抗原抗体複合体を形成することによりIgEのFcεRIへの結合を阻止する。その結果、好塩基球及び肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミン等の炎症性メディエーターの放出を抑制し、I型アレルギー反応を阻止する。
オマリズマブ(遺伝子組換え)の凍結乾燥製剤であるゾレア皮下注用は、皮下注射にて、既存治療により喘息症状をコントロールできない難治の気管支喘息の治療薬として用いられる。ゾレア皮下注用は、2002年にオーストラリアで初めて承認を取得し、その後、米国、欧州など世界90ヵ国以上でアレルギー性喘息治療薬として承認されている(2013年7月末現在)。

Dec 1, 2013

2013.09.18 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10295

特許権存続期間延長登録出願に係る出張と信義則: 知財高裁平成24年(行ケ)10295

【背景】

原告が有する特許権(3677156号)の存続期間延長登録出願(2005-700093号)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は、本件処分の対象となった医薬品「パシーフカプセル30mg(一般名称:塩酸モルヒネ)」(本件対象医薬)は,本件特許発明の技術的範囲に属するものであると認めることができないから、本件出願に係る特許発明の実施に特許法67条2項に定める処分を受けることが必要であったと認めることができない、というものだった(不服2006-20940号)。

請求項1:
(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物と,
(B)薬物を含んでなる核を,(1)水不溶性物質,(2)硫酸基を有していてもよい多糖類,ヒドロキシアルキル基またはカルボキシアルキル基を有する多糖類,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールから選ばれる親水性物質および(3)酸性の解離基を有しpH依存性の膨潤を示す架橋型アクリル酸重合体を含む被膜剤で被覆してなる放出制御組成物とを組み合わせてなる医薬。
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2006-20940号事件について平成24年7月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断
(1) 本件特許の請求項1の「最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との要件につき,審決はFRGなる組成物の最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内ではないことを根拠として,本件対象医薬が上記要件を充足しないとしている。しかし,FRGの組成は,本件対象医薬に用いられた速放性組成物(本件速放性組成物)の組成とは異なっている。そして,薬剤の最高血中薬物濃度到達時間が,有効成分の含有量のみならず,結合剤の含有量や種類によって影響を受けることは技術常識であると解されるので,本件速放性組成物と組成の異なるFRGの最高血中薬物濃度到達時間を基礎とした審決の認定判断は誤りであるといわざるを得ない。被告の主張するように,原告が出願時から審決時まで一貫して本件速放性組成物がFRGであることを前提とする主張をしていたとしても,本件訴訟における原告の主張が信義則に違反するとはいえない。

(2) 本件特許の請求項1の「薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との文言は,原告の主張するように,組合せ医薬を投与した場合の速放性組成物の最高血中薬物濃度到達時間を意味するものと解釈すべきではなく,速放性組成物のみを投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間を意味するものと解釈すべきである。
もっとも,原告は,本件対象医薬を健康成人男子に投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間(速放部)の平均値±標準偏差が,0.705±0.188時間(本件使用成績)であった旨の証拠を提出しているところ,原告提出の解析結果や本件対象医薬の性質,大学教授の意見書等に照らすと,本件速放性組成物を単独で投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間が,本件使用成績0.705±0.188時間よりも遅くなることはないと認められるので,本件使用成績は,本件対象医薬が本件クレームの「(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内の速放性組成物」との要件を充足することの根拠となるものと認められ,これと反する審決の判断は誤っている。
【コメント】

原告は、出願時から審決時まで一貫して、本件請求項1の構成のひとつである「速放性組成物」が審査報告書(甲8)の7頁(1)3行目にある速放性製剤(FRG)であることを前提とする主張をしていたのだが、実はそうではなかったという主張を訴訟で行った。出願審査から審決時まで具体的にどのような主張を原告がしてきたのか判決文からは定かではないが、結局本件訴訟における原告の主張は信義則に違反するとはいえないと判断された。

ところで、特許権の延長登録制度において、未だに延長登録要件と権利行使の解釈の整合性が不安定な状況である以上、登録時の主張と権利行使時の主張に食い違いが生じる場合もありうるかもしれない。権利行使の場面も想定して、登録時の主張に気を配って対応することも必要である。

参考:

関連判決: