Dec 31, 2014

2014年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

どうなる?延長された特許権の効力。

2014年、最もホットだった"特許的"ニュースは、何と言っても、特許権の存続期間延長登録についての大合議判決です。最高裁へ上告されているようですが、かならずしも先発メーカーにとっては大手を振って喜ぶことのできない大合議判決。今後、日本の特許期間延長制度はどうなっていくのか非常に不安です。

過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら

Dec 30, 2014

2014.12.25 「日産化学 リバロ後発品 特許権侵害訴訟を提起(第5報)」

2014年12月26日付けの日産化学のpress release(高コレステロール血症治療剤「リバロ」後発品に対する特許権侵害訴訟の提起について(第5報))によれば、日産化学は、リバロ後発品製造販売会社であるキョーリンリメディオ、三和化学研究所に対し、同社が保有する当該有効成分の結晶形についての特許権侵害行為の差止訴訟を、12月25日付で大阪地裁に提起したとのことです。

参考:

中外 オキサロール®特許侵害訴訟で勝訴(東京地裁)

オキサロール®軟膏の後発品を販売する岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマ及びこれら後発医薬品の原薬等国内管理人であるDKSHジャパンに対し、中外製薬が保有する製法特許(特許第3310301号)の侵害を理由とする特許権侵害行為の差し止めを求めていた訴訟で、2014年12月24日、東京地裁は中外製薬の請求を全面的に認める判決を下した。

オキサロール®軟膏は活性型ビタミンD3誘導体マキサカルシトール(maxacalcitol)を有効成分とする角化症治療剤。適応症は尋常性乾癬、魚鱗癬群、掌蹠角化症、掌蹠膿疱症の 4 疾患。2001年6月20日承認。

特許第3310301号の出願日は1997年9月3日。掌蹠膿疱症に対して2008年11月に効能・効果が追加承認されたときに、本件製法特許について存続期間延長登録(2009-700014)がなされ、満了日は2022年9月3日となっている。原薬製造会社であるセルビオス―ファーマ及び上記4社が本件特許の無効審判を請求中。

中外製薬press release:

Dec 27, 2014

2014.12.18 「ユーロ-セルティック v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10059

保存安定性に優れたポビドンヨード調製物のパッケージ: 知財高裁平成26年(行ケ)10059

【背景】

「ヨードホールを含有する乾燥リポソーム製薬組成物を含むパッケージ及び同組成物を適用する方法」に関する特許出願(特願2004-129590; 特開2004-346064)拒絶審決(不服2011-14812)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
プラスチック材料,紙又は厚紙製のパッケージ中に,ヨードホールを含有する乾燥リポソーム製薬組成物を含む,保存安定性を備えたパッケージ。
審決が認定した引用例1発明との一致点:
「(使用時に水(媒体)を添加することで医薬製剤として再構築される,)ヨードホールを含有する乾燥リポソーム製薬組成物」である点。
審決が認定した引用例1発明との相違点:
本願発明では,乾燥リポソーム製薬組成物を,(A)「プラスチック材料製のパッケージ中に」,かつ,(B)「保存安定性を備えたパッケージ」に含む(保存する)ことが特定されているのに対し,引用例1発明ではこのような特定はされていない点。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
1. 相違点(A)に係る構成の容易想到性について

技術常識を考慮すれば,引用例1発明のポビドンヨードを含有する凍結乾燥させたリポソーム固体は,医薬製剤として使用されるものである以上,長期間安定に保存できる容器に入れることは自明の課題であり,その容器の材質として,医薬品の容器として通常用いられているガラス又はプラスチック等の材質の中から長期間安定に保存できるものを当業者が選択するものということができる。~さらに,薬剤のキャリアーとしてのリポソームについて,これを凍結乾燥させることによって医薬品として使用するに足りる程度の保存安定性が得られることは,周知の事項である。~凍結乾燥させたリポソームが,合成樹脂と反応する等の合成樹脂容器では保存できない事情があることをうかがわせるに足りる証拠は見当たらない。そして,これらのことに照らすと,当業者であれば,引用例1発明のポビドンヨードを含有する凍結乾燥させたリポソーム固体も,引用例2のポビドンヨード粉末と同様に,特にガラス容器に保存する必要はなく合成樹脂容器に保存することもできることに想到することは容易であり,医薬品の容器として通常用いられているガラス又はプラスチック等の材料の中から,引用例2においてポビドンヨード粉末を保存できるとされた合成樹脂容器(「プラスチック材料製のパッケージ」に相当する。)を保存容器として選択し,相違点(A)の構成に至ることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。

2. 相違点(B)に係る構成の容易想到性について

引用例1発明におけるヨードホール含有乾燥リポソーム製薬組成物について,保存容器の素材の如何にかかわらず本願発明の「保存安定性を備えた」を満足するとして,相違点(B)を実質的な相違点ではないと判断した審決には,この点において誤りがあるといわざるを得ない。~しかしながら,引用例1発明において,相違点(A)に係る本願発明の構成とすることに当業者は容易に想到し得たものであり,それと同時に相違点(B)に係る本願発明の構成も達成されるものであるから,引用例1発明において,相違点(B)に係る本願発明の構成とすることも当業者が容易になし得たものといえる。したがって,本願発明は,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものというべきであるから,審決の判断に結論において誤りがあるということはできない。相違点(B)の判断に関する審決の上記誤りは,審決の結論に影響するものではない。
【コメント】

出願人自らの出願が引用例となり、進歩性が否定された。欧州でも同じ引用例1(特表2002-516265; WO99/60998)が審査で問題となったが成立(EP1479379B1)。

Dec 1, 2014

2014.10.30 「興和 v. 沢井製薬」 東京地裁平成26年(ワ)768

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その2): 東京地裁平成26年(ワ)768

【背景】

薬剤を指定商品とする商標権(第4942833号)を有する原告(興和)が、被告(沢井製薬)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章の使用の差止め及び被告標章を付した薬剤の廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
裁判所の判断
「~被告各標章は本件商標に類似すると解されるところ,被告各商品への使用がいわゆる商標的使用に当たるとすれば本件商標権を侵害するとみる余地があることから,本件商標の商標登録が審判により無効にされるべきか否かについて検討することとする。~需要者ないし取引者のうち一般に医療従事者においては,医薬品に付された「PITAVA」の記載から本件物質を想起すると認められる。そうすると,本件商標の指定商品のうち本件物質を含有しない薬剤に本件商標を使用した場合には,需要者等が当該薬剤に本件物質が含まれると誤認するおそれがあるので,本件商標は「商品の品質…の誤認を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項16号)に当たると判断するのが相当である。したがって,本件商標の商標登録は無効審判により無効にされるべきものであり,原告は本件商標権を行使することができない(同法39条,特許法104条の3第1項)。」
【コメント】

2014.08.28 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成26年(ワ)770では、被告( Meiji Seikaファルマ)標章の使用は被告商品の出所を表示するものではなく有効成分の説明的表示であると認識されるものであり商標的使用に当たらず本件商標権を侵害するものではないと東京地裁(第47部)は判断した。一方、本件では、東京地裁(第46部)は、被告各標章が出所識別機能を有しないとはいえないと判断し、被告各商品への使用がいわゆる商標的使用に当たるとすれば本件商標権を侵害するとみる余地があるとしたうえで、本件商標権を権利行使できるかどうかまで判断した。判決の結論は同じであるが、医薬品の有効成分の一般名の略称を付した被告標章に関して商標の出所識別機能の考え方がこれら二つの判決で異なっていることは興味深い。

参考:

関連判決:

Nov 14, 2014

2014.10.14 「沢井製薬 v. ベーリンガー インゲルハイム」 判定2014-600007; 2014-600008

単剤承認で延長された特許権の効力は配合剤に及ぶか?: 判定2014-600007; 2014-600008

請求人(沢井製薬)が求める請求の趣旨は、判定請求書の記載によれば、「別紙イ号製品目録に記載された医薬品は、平成15年6月25日登録に係る存続期間延長された特許第2709225号の技術的範囲に属しない、との判定を求める」というもの。

同特許はベーリンガーインゲルハイムが開発したアンジオテンシンII受容体拮抗薬テルミサルタン(telmisartan)の化合物特許であり、テルミサンタンを有効成分とする商品名ミカルディスの承認に基づき特許期間が延長登録された(出願番号2002-700137、2002-700138)。つまり、延長登録において処分の対象となった物は「テルミサンタン」であった。一方、イ号製品は、「テルミサルタン/アムロジピンベシル酸塩配合錠」であった。

特許庁は、
「判定について、特許法71条1項には「特許発明の技術的範囲については、特許庁に対し、判定を求めることができる。」と規定されている。そして、この規定に基づき判定を求めることができる対象である「特許発明の技術的範囲」については、平成14年改正前の特許法70条1項に「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定され、同2項には「前項の場合においては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定されている。これに対して、本件特許第2709225号の特許請求の範囲及び明細書の特許請求の範囲以外の部分(図面の添付はない)の記載は、平成15年6月25日登録に係る存続期間の延長の前後において変わらないのであるから、「平成15年6月25日登録に係る存続期間延長された」という事実は、特許法70条の規定に基づいてなされるものである、本件特許発明の技術的範囲の判断には影響を及ぼさない。よって、本件判定の請求の趣旨は、「イ号製品目録に記載された医薬品が、特許第2709225号の技術的範囲に属しない、との判定を求める」ものであると解し、以下判断を行う。」
と前置きしたうえで、本件請求項1及び7に係る発明とイ号製品を対比した結果、イ号製品は、本件請求項1及び7に係る発明の構成要件を充足するから、特許第2709225号発明の技術的範囲に属する、と判定した。

なお、特許庁は、
「判定請求書において、請求人は、「現在本件特許権の効力は特許法68条の2,70条に基づいて、その技術的範囲が解釈される。」との前提の下、イ号製品には本件特許権の効力が及ばない旨の判定を求めているようであるが、特許法68条の2の規定による特許権の効力が及ぶ範囲について、特許庁に判定を求めることができる旨の規定は特許法に存在しないから、特許法68条の2の規定による本件特許権の効力が及ぶ範囲について、請求人は、特許庁に対して判定を求めることはできない。」
として、延長された特許権の効力が及ぶ範囲については判断をしなかった。

【コメント】

当該特許(出願日1992年2月5日)の存続期間は4年11月20日延長され、満了日は2017年1月25日。延長された特許権の効力が仮にミカルディスにしか及ばず、テルミサルタンと他剤との配合剤には及ばないとなれば、出願からすでに20年経過した現在において、同特許はテルミサルタンと他剤との配合剤に対して無力ということになる。延長された特許権の効力範囲について、本件で特許庁は判断しなかったため、やはり侵害事件として裁判の場での判断が待ち望まれる。

関連事件: 判定 2014-600018; 2014-600019; 2014-600020



Nov 2, 2014

2014.09.25 「アストラゼネカ v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10326; 10327

イレッサ(IRESSA)の一変承認に基づく特許存続期間延長登録出願: 知財高裁平成25年(行ケ)10326; 知財高裁平成25年(行ケ)10327

【背景】

「キナゾリン誘導体」に関する特許権(特許第2994165号; 特許第3040486号)の存続期間延長登録出願(2012-700002号; 2012-700003号)の拒絶審決(不服2013-10794号; 不服2013-10795号)取消訴訟。イレッサ錠の「効能又は効果」について「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」とする一部変更承認(本件処分)に対して、先行処分での「効能又は効果」は「手術不能又は再発非小細胞肺癌」だった。本件特許発明1は有効成分であるゲフィチニブ(gefitinib)を包含する化合物クレームである。

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「認定事実によれば,本件先行処分において承認された本件医薬品の効能又は効果は,「手術不能又は再発非小細胞肺癌」であり,その承認書には,化学療法未治療例か既治療例かなどの文言は付されていないことが認められる。一方,本件処分において承認された効能又は効果(特定された用途)は「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」とされている。
そこで,本件先行処分と本件処分の各承認に係る内容を比較してみると,本件処分における本件医薬品の上記効能又は効果は,本件先行処分において承認された本件医薬品のそれ,すなわち,「手術不能又は再発非小細胞肺癌」の範囲を限定したものという関係に立つものと認められる。そうすると,本件処分において禁止が解除された範囲は,本件先行処分の禁止の解除の範囲に包含されるものということになる。
すなわち,本件先行処分は,EGFR遺伝子変異陽性か陰性か,ないしは,化学療法未治療例か化学療法既治療例かを問うものではないから,本件処分の「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」との効能又は効果によって特定される使用方法による本件医薬品の使用行為,及び上記使用方法で使用されることを前提とした本件医薬品の製造販売等の行為の禁止は,本件先行処分によって既に解除されていたものというほかない。
そうすると,本件処分については,「本件先行処分を受けたことによって既に禁止が解除されている」と評価判断することができるものであるから,本件処分を受けたことは,特許法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に第67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」の拒絶要件に該当するものというべきである。」
原告反論の骨子
本件先行処分に当たり、薬事当局は、「本薬の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」(本件注意)との<効能・効果に関連する使用上の注意>を付した上で、本件医薬品を承認して差し支えないと判断した。使用上の注意は、承認書自体には記載されないものの、医薬品の添付文書の記載事項となっており(薬事法52条1号)、実質的に本件先行処分の一部となるものである。従って、本件先行処分での効能・効果は、「化学療法既治療の手術不能・再発非小細胞肺癌」であると理解すべきものである。これに対し、本件処分での効能・効果に含まれる「化学療法未治療のEGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌」は、本件処分によって初めて実施が可能となり、化学療法未治療のファーストライン療法への使用が認められたのであるから、本件延長登録は認められるべきである。
原告反論に対する裁判所の検討骨子
添付文書、同文書における「使用上の注意」は、処分内容とは別に位置づけがされていることは明らか。本件注意の記載は、飽くまでも本件医薬品の効能・効果に関連した使用上の「注意」にすぎず、化学療法未治療例に対しては記載された効能・効果がない旨を表示し、あるいは使用を制限する趣旨の記載とは認められない。
本件先行処分にかかる審査経過に照らすと、原告は、本件注意のような記載を置くことにより、承認の範囲を化学療法既治療例に限定せずに、効能・効果を「非小細胞肺癌」とすることを維持し、化学療法未治療例に対しても本件医薬品を使用することを可能とすることを求めていたことがうかがわれる。また、審査センターも、本件医薬品の効能・効果を「非小細胞肺癌(手術不能又は再発例)」とし、添付文書に本件注意を記載して注意喚起することが適切であるとしているにとどまっており、同センターの判断が、本件医薬の化学療法未治療例における使用を一切認めないとする趣旨であったとは認められない。
したがって、本件注意が実質的には本件先行処分の一部であるとの原告の主張は採用することができない。
特許法67条の3第1項1号の要件の有無の判断についての知財高裁の見解
特許法67条の3第1項1号により審査官が延長登録の出願を拒絶すべき場合の要件について、医薬品の成分を対象とする特許については、薬事法に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は、薬事法14条2項3号が定める審査事項のうち,成分,分量,用法,用量,効能,効果によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である。そして、禁止の解除がされた範囲は、原則として、薬事法14条1項又は9項に基づく医薬品の輸入ないしは製造販売についての承認書に記載された上記事項の記載に基づいて決せられるべきものと解するのが相当である。
審決の解釈は当裁判所とは異なるものであるが、本件において、この点は結論を左右するものではない。
【コメント】

添付文書の記載に使用上の注意を付さなければならなかったとしても、使用上の注意は、承認内容としての使用を制限する趣旨のものではないと裁判所は判断した。禁止の解除がされた範囲は、原則として、承認書に記載された事項の記載に基づいて決せられる。

特許第2994165号及び特許第3040486号は、本件先行処分時に存続期間延長登録を受け、存続期間満了日はそれぞれ2015年10月28日及び2018年8月24日となっている。

イレッサ(IRESSA)®(一般名:ゲフィチニブ(gefitinib)): アストラゼネカ社が合成、開発した上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤。2002年7月、「手術不能又は再発非小細胞肺癌」を適応症として、世界に先駆けてはじめて承認された。

Oct 20, 2014

2014.08.28 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成26年(ワ)770

ピタバスタチンのピタバとPITAVA: 東京地裁平成26年(ワ)770

【背景】

薬剤を指定商品とする商標権(第4942833号)を有する原告(興和)が、被告(Meiji Seikaファルマ)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章の使用の差止め及び被告標章を付した薬剤の廃棄を求めた事案。

被告商品:

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。

裁判所の判断
「被告標章は,被告商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムの略称として被告商品(錠剤)に表示されているものであって,その具体的表示態様は,本件商標権の使用許諾を受けているキョーリンリメディオ株式会社のそれと何ら異なるものではない。そうすると,被告商品の主たる取引者,需要者である医師や薬剤師等の医療関係者は,被告商品に接する際,その販売名に付された会社名(屋号等)「明治」に加えて,被告商品のパッケージであるPTPシートに付された「明治」との表示や被告商品に併せて表示されている「明治」や「MS」の表示によってその出所を識別し,錠剤に表示された被告標章は,被告商品の出所を表示するものではなく,有効成分の説明的表示であると認識すると考えられる。」
原告は、
「ピタバは,取引者,需要者,とりわけ患者において,ピタバスタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえないところ,とりわけ一包化調剤として被告商品を交付された患者は,パッケージであるPTPシート等の表示を認識せず,錠剤の表示に基づいて薬剤の出所を識別する旨主張し,インターネット質問サイトの事例(甲15の1ないし4)からも錠剤の表示が出所識別機能を有することは明らかだ」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「原告の主張のとおり解するとしても,そもそも患者が錠剤の表示に基づいてその出所を識別し当該薬剤の処方を受ける事例は極めて限られていると考えられるし,患者は,医師,薬剤師から被告商品を処方される際に受ける説明等を踏まえて被告標章に接するところ,被告商品には被告標章の他に「明治」や「MS」の表示があること,被告商品は,長期間にわたり反復継続的に購入,服用される薬剤であることも考え合わせれば,患者においても被告標章をもって被告商品の出所の表示であると認識しているとは認め難く,むしろ有効成分の説明的表示であると認識するのが一般的であると考えられる。原告の主張は,採用することができない。
以上のとおりであって,被告標章の使用は,商標的使用に当たらず,本件商標権を侵害するものではないから,原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなく,理由がない。」
と判断した。

【コメント】

やはり、これについては商標権の権利行使は無理だった。

過去記事(参考):

Oct 14, 2014

2014.09.10 「カルピス v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10209

医薬用途発明の進歩性(阻害活性と作用の関係性についての技術常識の認定): 知財高裁平成25年(行ケ)10209

【背景】

「動脈硬化予防剤,血管内膜の肥厚抑制剤及び血管内皮機能改善剤」に関する特許出願(特願2008-500515号)の拒絶審決(不服2011-151号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項10(補正発明):
Ile Pro Pro及び/又はVal Pro Proを有効成分として含有し,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤。
補正発明と引用発明との一致点:
Ile Pro Pro (以下「IPP」という)及び/又は Val Pro Pro (以下「VPP」という)を有効成分として含有する薬剤。
補正発明と引用発明との相違点:
薬剤の用途が,補正発明においては「血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤」であるのに対し,引用発明においては「ACE阻害活性を示す,抗高血圧剤」である点。
【要旨】

裁判所は、本件審決には、本願優先日当時における技術常識についての認定を誤り、結果として、引用発明と引用例2から引用例5との組合せにより補正発明の進歩性を否定した点について誤りがあるから本件審決は取消しを免れないと判断した。
「本願優先日当時においては,ACE阻害剤が血管内皮の収縮・拡張機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示した実例はあるものの,ACE阻害剤であれば原則として上記作用のうち少なくともいずれか一方を有するとまではいえず,個々のACE阻害剤が実際にこれらの作用を有するか否かは,各別の実験によって確認しなければ分からないというのが,当業者の一般的な認識であったものと認められる。~しかも,IPP及びVPPと,引用例2から引用例5に記載されたシラザプリル等のACE阻害剤との間には,以下のとおり,性質,構造において大きな差異が存在する。他方,IPP及びVPPと上記ACE阻害剤との間に,ACE阻害活性を有すること以外に特徴的な共通点は見当たらない。
~前述した本願優先日当時の当業者の一般的な認識に鑑みれば,当業者が,ACE阻害活性の有無に焦点を絞り,引用発明においてIPP及びVPPがACE阻害活性を示したことのみをもって,引用例2から引用例5に記載されたACE阻害剤との間には,前述したとおりACE阻害活性の強度及び構造上の差異など種々の相違があることを捨象し,IPP及びVPPも上記ACE阻害剤と同様に,血管内皮の機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示すことを期待して,IPP及び/又はVPPを用いることを容易に想到したとは考え難い。
また,仮に,当業者において,引用例2から引用例5に接し,前記一般的な認識によれば必ずしも奏功するとは限らないとはいえ,ACE阻害活性を備えた物質が上記作用を示すか否か試行することを想起したとしても,前述したとおり,IPP及びVPPは,性質,構造において上記ACE阻害剤と大きく異なり,特にIPP及びVPPのACE阻害活性は上記ACE阻害剤よりもかなり低いものといえるから,試行の対象としてIPP及び/又はVPPを選択することは,容易に想到するものではないというべきである。
以上によれば,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせて補正発明を想到することは容易とはいえず,本件審決が,「相当程度の確立した知見」を前提として,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせ,これらを併せ見た当業者であれば,引用発明においてACE阻害活性を有することが確認されたIPP及び/又はVPPを,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤として用いることに,格別の創意を要したものとはいえないと判断した点は誤りである。」
【コメント】

医薬用途発明の進歩性判断において、阻害活性と作用の関係性についての技術常識の認定が問題となった。公知化合物の第二医薬用途発明に対して、「その公知化合物の阻害活性(公知)と共通する阻害活性を有する別化合物にその医薬用途が知られていたから、本願化合物にその医薬用途を適用することは容易であり本願医薬用途発明は進歩性が無い」との拒絶理由に反論するために参考になる一事例。

参考:


Oct 5, 2014

2014.08.07 「ノバルティス(脱退前の原告 QLT; 訴訟承継参加人 バリアント) v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10183; 平成26年(行ケ)10019

「反復」の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10183; 平成26年(行ケ)10019

【背景】

「眼の光力学的治療による視力改善用組成物」に関する特許出願(特願2006-64119号)の拒絶審決(不服2012-2261号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
下記処置を含む反復ホトダイナミックセラピーにより,眼に不所望の血管新生を含有する人の視力を改善するための組成物であって,薬理学的に許容可能な賦形剤と光活性化合物を含有し,該光活性化合物がグリーンポルフィリンである薬剤組成物:
a)該光活性化合物により吸収される少なくとも1つの波長の光を,その治療を必要とする人の眼に対し,該組成物を投与して該眼中に該化合物の有効量が局在化した後に照射する第1回の処置(但し,該光活性化合物の投与用量は,2~8mg/M2体表面積の範囲とする),並びに
b)該第1回の処置が反復される第1回の反復処置(但し,該平均視力は,該第1回の反復処置により,平均視力の維持のレベルを超えて,増大する)。
審決が認定した引用発明の内容と本願発明との相違点は、引用発明には、b)を含む「反復」ホトダイナミックセラピーに用いるものであることが記載されていない点であった。

【要旨】

裁判所は、容易想到性について
「引用例1の単回のホトダイナミックセラピー臨床試験では,部分的な新生血管の閉止とある程度の視力の改善という目的に沿った結果が得られたものの,閉止されずに残存する新生血管や再発も観察されたのであるから,それらを閉止して視力をさらに改善するよう再度のホトダイナミックセラピー処置を試みることは,前記アの技術水準からみても,医療従事者にとってごく自然な発想である。
したがって,引用発明のホトダイナミックセラピー処置を反復して本願発明に至ることは,当業者が容易に想到し得たことである。」
と判断した。

そして、効果の顕著性について、裁判所は、
「引用発明のホトダイナミックセラピー処置を反復することで,残存あるいは再発した新生血管を閉止でき,その結果,単回の処置に比べて視力がさらに改善するであろうことは,上記(1)のとおり,引用例1の記載から当業者が予測し得ることである。
~本願明細書~によれば,~反復による改善が認められる。しかし,視力の改善は1回の処置でも得られていることに加えて,複数回の処置を繰り返すことによる改善の程度は相加的というべき範囲内のものにすぎず,反復することで予測される範囲を超えた視力の改善が得られたとまでは認められない。まして,本願発明は,処置の間隔や回数について何らの限定もないから,そのような発明の全体にわたって格別顕著な効果が奏されるということはできない。
したがって,本願発明の効果が引用例1の記載から当業者が予測し得る範囲を超えた格別顕著なものとは認めることができない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本願(特願2006-64119号)は、特願平9-532132号(特表2000-506173; WO97/33619; 出願日1997.02.25)の分割出願である。特願平9-532132号でも、「反復」の進歩性が問われ、拒絶審決取消訴訟で請求棄却となっている。治療を「反復」すると言う点での進歩性について本判決とあわせて参考になる。

欧州では、「反復ホトダイナミックセラピーにより」との構成要件を含めたクレームで特許成立(EP0894009B)。米国でもクレームの文言は異なるものの複数の特許が成立している(US5756541A、US5910510A、US6548542B1)。
特に、米国特許US5756541Aは、Visudyne®のOrangebook収載特許のひとつである(patent expirationはMar 11, 2016)。

日本で仮に本願が特許となれば、2017年2月まで製品を保護する特許になるはずだった。本願には、分割出願として特願2012-023024号(特開2012-092145)が存在しており、現在審査中である。

Visudyne®(ビスダイン®)(一般名:ベルテポルフィン(verteporfin))は、中心窩下の脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration:AMD)の治療剤としてノバルティ
ス社が開発した光線力学的療法用製剤であり、日本では2003年10月16日に輸入承認されている。


参考:

Sep 22, 2014

小野薬品・BMSがMerckを抗PD-1抗体特許侵害で提訴

抗PD-1抗体の癌治療用途に関する米国特許(US 8,728,474)を保有する小野薬品及びそのexclusive licenseeであるBristol-Myers Squibb(BMS)は、Merckが米国で抗PD-1抗体KEYTRUDA®(pembrolizumab)の承認を2014年9月4日に得たことを受け、同日付けで、Merckに対して特許侵害訴訟をデラウェア地区連邦地裁に提起しました。
2014年8月4日付のMerckのSEC Form 10-Qの22ページによれば、Merckは同米国特許のファミリーである欧州特許(EP 1537878B)について異議申立をしていましたが、2014年6月4日に開かれた口頭審理で特許は有効と判断されたようです。
また、2014年7月には小野薬品とBMSが英国でのMerckのpembrolizumabの上市に対して特許侵害訴訟を提起したり、一方で、Merckは小野薬品が保有する抗PD-1抗体に関する別の欧州特許(EP2161336B)に対しても異議申立をしたり。
小野薬品は2014年7月4日に世界で始めて抗PD-1抗体オプジーボ(OPDIVO)®(一般名: ニボルマブ、nivolumab)の承認を日本で得て、同9月2日に販売を開始しましたが、日本以外の市場参入はMerckに先を越されており、抗PD-1抗体市場が特許係争とともに騒がしくなってきました。

参考:

Sep 16, 2014

2014.08.07 「セルジーン v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10170

異性体の進歩性、一行記載の用途の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10170

【背景】

「(+)-2-[1-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-メチルスルホニルエチル]-4-アセチルアミノイソインドリン-1,3-ジオン,その使用方法及び組成物」に関する特許出願(特願2003-577877; 特表2005-525386)の拒絶審決取消訴訟。引用発明の化合物の(+)異性体を選択して、それを乾癬という特定の疾患の治療用に用いることへの進歩性の可否が争点。

請求項1:
立体異性体として純粋な(+)-2-[1-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-メチルスルホニルエチル]-4-アセチルアミノイソインドリン-1,3-ジオン,又はその製薬上許容される塩,溶媒和物若しくは水和物;及び製薬上許容される担体,賦形剤又は希釈剤を含む,乾癬治療用医薬組成物。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

1.相違点についての判断誤りについて

裁判所は、
「引用例1には,PDE4を特異的に阻害する化合物は副作用を最小限にして炎症の阻害を発揮するであろうことが,PDE4を阻害するとcAMPの分解が抑制される結果,TNF-α及びNF-κB等の炎症性メディエーターの放出が阻害されるという機序とともに記載され,炎症性疾患の一例として乾癬が記載されているのであるから,引用例1に接した当業者は,引用発明の化合物が乾癬を含む炎症性疾患一般に対して治療効果を有するであろうことを合理的に理解することができる。
引用発明の化合物は,不斉炭素原子が1つあるから,2つの光学異性体を有する。
当業者は,前記(3)のとおりの技術常識の下では,引用発明の化合物について光学異性体を得て,それらの薬理活性や薬物動態について検討をし,乾癬に適したものを選択することは,通常行うことと考えられる。そして,引用発明の化合物の光学異性体が容易に入手できるものであることやTNF-α阻害活性,PDE4阻害活性,cAMP上昇活性等の薬理活性が慣用の方法により測定できることからすると,引用発明の化合物の二つの光学異性体のうち炎症性疾患の治療により適した方を選択し,炎症性疾患の一つである乾癬に適用することとして本願補正発明に至ることについては,当業者が容易になし得たことであると認められる。」
と判断した。

2.効果の顕著性の看過について

裁判所は、
「光学異性体が構成として容易想到であるにもかかわらず,当該光学異性体のもつ薬理活性が公知のラセミ体のそれと比較して顕著であることを根拠として当該光学異性体についての進歩性が肯定されるかは,当該光学異性体のラセミ体と比較した薬理活性の意義や性質,薬理活性の差異が生体内におけるものか試験管内でのものか,当該化合物に関する当業者の認識その他の事情を総合考慮して,当該光学異性体の薬理活性が当業者にとって予想できない顕著なものであったかが探究されるべきもので,単に薬理活性がラセミ体の2倍であるとの固定的な基準によって判断されるべきものではないと解するのが相当である。」
と言及し、この点を念頭において、本願発明の効果を、ラセミ体である引用発明の化合物の効果と比較検討した結果、
「本願明細書から把握される本願補正発明の効果は,いずれも引用発明と比較して当業者が予測し得る範囲を超えた格別顕著なものとまでは認めることはできない。また,薬理作用,バイオアベイラビリティ及び低い副作用という三つの側面を総合して評価しても,本願化合物が,ラセミ体については光学異性体に分離してそれぞれの薬理作用等を検討し,目的に適したものを選択するという本願優先日当時の技術常識にのっとって,引用発明の化合物の二つの光学異性体のうちから(+)異性体を選択した結果もたらされたものにすぎないことを考慮すれば,進歩性を肯定するに足りるものではない。」
と判断した。

【コメント】

1. 引用例中のいわゆる用途の一行記載の進歩性判断への取り扱いについて

原告は、
「引用例1には,引用発明の化合物が乾癬に対する薬理作用を有することが実質的に示されていないから,仮に審決が認定した技術常識が正しいとしても,それを適用する前提が欠けている」
と主張したが、裁判所は、
「当業者は,引用例1の記載から,引用発明の化合物がTNF-α及びPDE4の望ましくない作用を阻害する活性を有することが読み取れ,それによって炎症性疾患一般に対して薬理作用を発揮するであろうことを理解することができる。原告は,本願補正発明が炎症性疾患の中でも特に乾癬を対象とするものであることを強調するが,乾癬は,引用例1にも記載されているとおり,炎症性疾患の一つであって,炎症性疾患一般に効果を有する化合物が乾癬に効果を有しないと理解するべき理由もない。本願明細書においても,乾癬は羅列列挙された多数の炎症性疾患のうちの一つにすぎず,本願補正発明が炎症性疾患の中でも乾癬に特化した医薬組成物であると認めるに足りる記載は見いだせない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

審査基準第VII部第3章「医薬発明」2.2.2.新規性の判断の手法、(2)刊行物に記載された発明の認定には下記のように記されている。
「当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に列挙されている場合は、当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることが明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず、当該刊行物に医薬発明が記載されているとすることはできない。」
この「裏付け」とは、当業者が、刊行物の記載から、その疾患に対して作用を発揮するだろうことが理解できるか、効果を有しないと理解すべき理由があるか、等を踏まえて検討されるということであろう。引用例中の医薬用途の記載の程度が新規性または進歩性の判断で問題となった近年の事例として例えば下記のような事件があった。

2. ラセミ体から単一異性体の進歩性について

公知のラセミ体化合物から、単一の異性体の発明の進歩性が争われたケースはこちら
やはり、進歩性のあるケースは稀ということになるだろう。本願に関連して、まだ分割出願が係属中であり、医薬用途がそれぞれ異なる(特願2009-297650は癌治療用途、特願2012-242868はベーチェット病治療用途)。この医薬用途の相違点がどのように判断されるかは別として、引用例のラセミ体との相違点が単一の異性体である点についての主張は、容易想到とされるだろう。

3. 対象製品について

欧州では成立(EP1485087B)したが異議申し立てにより無効と判断され、出願人は審判を請求した。米国は複数の特許に分かれて成立。Orangebook databaseやCelgene websiteの情報によれば、米国特許のうち、いくつかはOTEZLA®(有効成分はapremilast)を保護する特許であることがわかる。


参考:

Celgene Financial Information: First Quarter 2014 Financial Results
OTEZLA®: On March 21, the U.S. FDA approved OTEZLA®, the Company's oral, selective inhibitor of phosphodiesterase 4, for the treatment of adult patients with active psoriatic arthritis. The FDA is reviewing OTEZLA® for the treatment of moderate-to-severe plaque psoriasis with a Prescription Drug User Fee Act (PDUFA) date of September 23, 2014. A combined submission of OTEZLA® for the treatment of psoriatic arthritis and for psoriasis is under review with the EMA and an opinion from the European Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) is expected by year-end.

Sep 8, 2014

2014.07.30 「X v. アルコン リサーチ, 協和発酵キリン」 知財高裁平成25年(行ケ)10058

「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10058

【背景】

「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」に関する特許第3068858号について原告(X)がした無効審判請求(無効2011-800018)を不成立とした審決の取消訴訟。主な争点は進歩性であり、下記クレームの「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という発明特定事項が甲1及び甲4から動機付けられるか否かである。

請求項1:
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な,点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって,治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する,ヒト結膜肥満細胞安定化剤。
本件明細書では、11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を「化合物A」と略している。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2011-800018号事件について平成25年1月22日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「甲1には,アレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679(化合物Aのシス異性体の塩酸塩)を含有する点眼剤が記載され,また,甲1には,モルモットに抗原誘発及びヒスタミン誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果,KW-4679の点眼は,10及び100ng/μlの濃度で,抗原誘発したアレルギー性結膜炎症に有意な抑制作用を示したこと,及び抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示したことが記載されていることは,前記~のとおりである。
そして,~本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット,モルモットの動物結膜炎モデルが作製され,点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていたこと,本件特許の優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書(「薬効・薬理」欄)には,各有効成分がラット,モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや,ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミン等の化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていたことからすると,甲1に接した当業者は,甲1には,KW-4679が「ヒト」の結膜肥満細胞に対してどのように作用するかについての記載はないものの,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあるものと認められる。

そして,本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,当該薬剤における肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対する拮抗作用とそれらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用の二つの作用を確認することが一般的に行われていたことは,前記~認定のとおりであるから,当業者は,甲1記載のKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに際し,KW-4679が上記二つの作用を有するかどうかの確認を当然に検討するものといえる。

加えて~甲4には,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)及びその薬理上許容される塩のPCA抑制作用について,「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ」るとの記載がある。この記載は,ヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験に基づく記載ではないものの,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)の薬理作用の一つとして肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)の遊離抑制作用があることの仮説を述べるものであり,その仮説を検証するために,化合物Aについて肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用があるかどうかを確認する動機付けとなるものといえる。
そうすると,甲1及び甲4に接した当業者においては,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに当たり,KW-4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有するかどうかを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けがあるものと認められる。

~以上によれば,甲1及び甲4に接した当業者は,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあり,その適用を試みる際に,KW-4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有することを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有することを確認する動機付けがあるというべきであるから,KW-4679についてヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用(「ヒト結膜肥満細胞安定化」作用)を有することを確認し,「ヒト結膜肥満安定化剤」の用途に適用することを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件訂正発明1及び2における「ヒト結膜肥満細胞安定化」という発明特定事項は,甲1及び甲4に記載のものからは動機付けられたものとはいえないとして,甲1を主引例とする進歩性欠如の原告主張の無効理由2は理由がないとした本件審決の判断は,誤りである。」
【コメント】

引用文献甲1には、点眼剤として化合物Aが動物モデルでのアレルギー性結膜炎を抑制することが記載されていたが、本願発明は「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」であるのに対し、引用文献甲1には化合物Aがどのように作用するかについての記載はなかった点で相違していた。このように作用メカニズムの観点から発明を特定することが医薬用途の発明として実質的に新たな技術的意義を持たせることになるのかどうかは疑問が残るが、本事案における引用文献甲1には、化合物Aの結膜肥満細胞安定化作用に関して否定的な記載があったことが事案を複雑にしたのかもしれない。本件特許は、存続期間延長登録(2006-700064)がなされたため、存続期間満了日は2021年5月3日だった。ところで欧米では成立している(EP0799044 (B1); US5641805 (A))。

参考:
審査基準第VII部第3章医薬発明2.2(3)新規性の判断(3-2)特定の属性に基づく医薬用途に関して(3-2-1)特定の疾病への適用(d)には下記のように記載されている。
「請求項に係る医薬発明の医薬用途が、引用発明の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないものであり、両医薬用途が実質的に区別できないときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。」
[例]
(引用発明)抗菌剤 → (本願医薬発明)細菌細胞膜形成阻止剤
KW-4679 (Olopatadine hydrochloride):

オロパタジン塩酸塩 (Olopatadine hydrochloride) は、協和発酵工業(株)(現 協和発酵キリン(株))が創製した抗アレルギー剤。日本においては、2000年12月に経口剤(販売名:アレロック錠2.5・5)が「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う 痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚 痒症、尋常性乾癬、多形滲出性紅斑)」に対する効能・効果で承認された。抗アレルギー点眼剤としては、米国アルコン社が協和発酵工業(株)(現:協和発酵キリン(株))よりライセンス供与を受け開発、アレルギー性結膜炎を効能効果とした薬剤として、2006年7月にパタノール®点眼液0.1%が承認された。

2012.5.21 【謹告】オロパタジン塩酸塩に関する特許権等について

Sep 1, 2014

2014.07.30 「エフ.ホフマン-ラ ロシュ v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10208

化合物の製造方法の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10208

【背景】

「炭酸ジメチルを用いたインドール化合物のメチル化」に関する特許出願(特願2007-129662; 特開2007-254487)の拒絶審決(不服2011-22536)取消訴訟。争点は進歩性の有無。

請求項1(本願発明):
一般式(I):

で表わされるメチル化されたインドール化合物の製造方法であって,
炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下で,周囲圧にて,以下の一般式:


で表わされる化合物を炭酸ジメチルと反応させる操作を含む方法。
本件審決が認定した本願発明と引用発明の相違点:
インドール系化合物のメチル化に際し,本願発明は,「炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下,周囲圧にて,炭酸ジメチルを用いて行う」が,引用発明は,NaHの存在下,CH3Iを用いて行う点。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
「上記(ア)ないし(ウ)の事実からすると,本願の優先権主張日において,構造が相当程度異なる様々な有機化合物についてメチル化剤として炭酸ジメチルが使用されており,その際には,弱塩基である炭酸カリウム(K2CO3)と相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行っていると認めることができる。
したがって,①有機化合物の窒素原子をメチル化する場合,炭酸ジメチルがメチル化剤の候補となること,②メチル化剤として炭酸ジメチルを使用する場合には,弱塩基である炭酸カリウムと相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行うことが,当業者に周知であったと認められる。
また,上記(ア)及び(ウ)からすると,この周知のメチル化方法は,ヨウ化メチル(CH3I)のような生理学的に好ましくない薬剤や水素ナトリウム(NaH)のような高価な塩基を用いた方法の問題点(安全上の問題,副生成物の廃棄の問題,経済上の問題)を解決する可能性がある方法としても当業者に認識されていたと認められる。
以上の検討を総合すると,引用発明は,6-ニトロ-1H-インドールの窒素原子のメチル化をヨウ化メチル(CH3I)を用いて水素ナトリウム(NaH)の存在下で反応を行ったものであるが,刊行物1の趣旨からすれば,窒素原子のメチル化が生じれば足り,メチル化剤や塩基は変更し得るものと理解される一方で,ヨウ化メチルには毒性があり,水素ナトリウムは反応性の高い強塩基であることにかんがみると,当業者にとって,安全上,副生成物の廃棄,経済上の問題を解決するために,引用発明のメチル化方法を,周知の方法であった安全性の高い炭酸ジメチルを用いる上記の方法を試してみることには動機付けがあるといえる。そして,本願発明と引用発明の相違点を構成する「炭酸カリウムおよび/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で」との点は,その文言からして,炭酸カリウム(K2CO3),臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)又はそれら両者のいずれかの存在を必須とするが,その他の塩基や相間移動触媒が存在することを妨げないものと解されるから,弱塩基である炭酸カリウムを用いる上記周知の方法は,これに含まれると認められる。
したがって,相違点に係る本願発明の構成は,当業者が刊行物1の記載及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものである。

顕著な作用効果について
~高温又は高圧が必要でなく,環境に配慮した方法でインドール化合物の窒素原子のメチル化を行う点は,上記周知のメチル化方法の効果として知られていたものにすぎない。
また,~少なくとも本願発明全体が,望む生成物が高品質かつ高い収率で得られるという効果を有すると認めることはできない。
したがって,本願発明は進歩性を推認するに足りる格別顕著な効果を有するものとは認められない。」
【コメント】

米国では成立(US6326501 (B1))、欧州ではかなり限定的になっているようだが成立している(EP1276721 (B1))。
ところで、INPADOCでファミリーを調べると、ヨルダンへ出願しており、成立させている(JO2395 (B))。
PatentScopeでOffice CodeをJO(ヨルダン)にしてデータベース上の全ヨルダン出願を検索、出願人別の分析をすればわかるのだが、実は、PCT経由でヨルダンに出願している出願人のトップがF. Hoffmann-La Roche AG(اف . هوفمان لاروش ايه جي)なのである。

本願発明は、プロテインキナーゼC(“PKC”)の選択的阻害剤である3-(1-メチルインドール-3-イル)-4-(1-メチル-6-ニトロインドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオンという化合物の製造中間体の製造方法として、本願明細書に説明されている。


Public availableなデータベースで上記化合物を検索した情報によれば、現在、CASI Pharmaceuticals, Inc.がRocheからライセンスを受けて、MKC-1というコード名(元コード名はRo 31-7453, R 440)で開発中のようである。

CASI Pharmaceuticals, Inc.のSEC Form 10-K (2013)より抜粋:
MKC-1. Through the acquisition, the Company acquired rights to MKC-1, a Phase 2 clinical candidate licensed from Hoffman-LaRoche, Inc. (“Roche”) by Miikana in April 2005. Under the terms of the agreement, Roche may be entitled to receive future payments upon successful completion of Phase 3 developmental milestones. The Company does not anticipate reaching any of these milestones in 2014. Roche is also eligible to receive royalties on sales and certain one-time payments based on attainment of annual sales milestones. The Company is also obligated to make certain “success fee” payments to ProPharma based on successful completion of developmental milestones under the Roche license agreement. MKC-1 is currently not under active clinical evaluation.

Aug 23, 2014

2014.07.16 「エイワイファーマ(脱退前原告 味の素) v. 大塚製薬工場」 知財高裁平成25年(行ケ)10089

ダブルバッグ方式のビタミンB1入り経静脈用栄養輸液製剤: 知財高裁平成25年(行ケ)10089

【背景】

味の素が保有していた「2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤」に関する特許4120018(後にエイワイファーマに承継)について、被告(大塚製薬工場)がした特許無効審判請求を一部成立とした審決(無効2011-800164号)の取消訴訟である。争点は,進歩性判断の当否。

2011.02.01 「大塚製薬工場 v. 味の素」 知財高裁平成22年(行ケ)10133の判決確定後に行われた訂正請求後の請求項1に係る発明が問題となった(下記)。

請求項1:
A;連通可能な隔離手段により2室に区画された可撓性容器の第1室にグルコース及びビタミンとしてビタミンB1のみを含有し,pHが2.0~4.5に調整された輸液が収容され,第2室にアミノ酸を含有する輸液が収容され,その第1室及び第2室に収容されている輸液の一方又は両方に電解質が配合された輸液入り容器において,
B;第1室の輸液にビタミンB1として塩酸チアミン又は硝酸チアミン1.25~15.0mg/Lを含有し,メンブランフィルターで濾過して充填し,
C;且つ第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.05~0.2g/Lを含有し,
D;更に2室を開通し混合したときの亜硫酸塩の濃度が0.0136~0.07g/Lとなるように亜硫酸塩を含有し,メンブランフィルターで濾過して充填し,更に高圧蒸気滅菌が施されてなり,
E;2室を開通し混合後,48時間後のビタミンB1の残存率が90%以上であることを特徴とする脂肪乳剤を含まない2室容器入り経静脈用総合栄養輸液製剤。
本願発明と引用発明との相違点:
1:本件発明は,第1室に,ビタミンとしてビタミンB1のみを配合するのに対して,引用発明は他のビタミン類も含んでいること。
2:本件発明は,第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.05~0.2g/Lを含有し,更に2室を開通し混合したときの亜硫酸塩の濃度が0.0136~0.07g/Lとなるように含有させて,2室を開通し混合後,48時間後のビタミンB1の残存率が90%以上であることを特定しているのに対して,引用発明では,第2室の輸液に安定剤として亜硫酸塩0.5g/Lを含有し,連通したときに約0.136g/Lとなることのみ特定されていること。
3:本件発明は高圧蒸気滅菌を施すことを特定しているのに対して,引用発明はそのような特定がない点。
4:本件発明は輸液をメンブランフィルターで濾過して容器に充填することを特定しているのに対して,引用発明ではそのような特定がない点。
【要旨】

主文
特許庁が無効2011-800164号事件について平成25年2月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断

1 取消事由1(引用発明の認定誤りに伴う一致点の認定の誤り,相違点の看過)について
(省略)

2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(省略)

3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
「審決は,引用例3の記載を踏まえれば,引用発明のピーエヌツイン-2号の2室開通後のビタミンB1の安定性を改善する動機があると判断した。
確かに引用例3には,~2室開通後48時間経過した場合には,ビタミンB1の残存率が低下することが示されているが,それとともに,6時間経過後であれば安定性に問題はなく,24時間経過後であっても8割程度以上が残存していることも示されている。他方,ピーエヌツイン-2号は2室合計1100ミリリットル入りであって,通常これを用いた点滴注入は,直前に第1室と第2室が開通され,その後,8~12時間程度で終了するものと認められる。そうすると,引用例3の記載を踏まえても,引用発明の2室開通後,点滴終了後までのビタミンB1の安定性が不十分であると当業者が認識することはない。
したがって,引用例3の記載を踏まえれば,引用発明の2室開通混合後のビタミンB1の安定性を改善する動機があるとの審決の判断には,誤りがある。」
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
「審決は,高圧蒸気滅菌は,輸液製造分野において汎用されている上に,ビタミンB1を配合した2室容器入り輸液製剤に対しても適用されている手段であるから,引用発明に適用することは当業者が適宜なし得ることである旨判断した。
しかし,~引用例1は,第1室に混注した後のビタミン類の安定性について検討した結果,医療機関等のクリーンベンチ内で第1室にマルチビタミン剤を混注し,混注した口に専用キャップをしたピーエヌツイン-2号を,アルミ外包装に脱酸素剤と一緒に入れポリシーラーにより閉じたものを14日分まで患者に交付できることを報告する論文であるから,引用例1から導き出される引用発明において,マルチビタミン剤混注後のピーエヌツイン-2号を滅菌することは予定していないと認められる。したがって,たとえ輸液製剤を高圧蒸気滅菌することが周知であるとしても,引用発明に適用する動機付けはない。むしろ,一般にビタミン類は熱や光によって分解されやすいという技術常識からすれば,マルチビタミン剤を混注した後のピーエヌツイン-2号を高圧蒸気滅菌すると,ビタミン類が分解されてしまい,アシドーシス予防効果を充分に達し得ないことにもなりかねないから,高圧蒸気滅菌することには阻害要因があるといえる。
以上のとおり,審決の上記判断には誤りがある。」
結論
「以上のとおり,取消事由1,2には理由がないが,取消事由3,4は理由があり,取消事由5について判断するまでもなく,原告の請求は理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。」
【コメント】

(株)大塚製薬工場は、ダブルバッグ方式のビタミンB1入り経静脈用栄養輸液製剤「ビーフリード®輸液」を製造販売している。本件特許クレームが「ビーフリード®輸液」を包含するのかどうかは定かではないが、もしそうであるとしたら、大塚製薬工場にとってはどうしても無効にしておきたい存在ということになる。一方、エイワイファーマ(株)は、「ビーフリード®輸液」と同効薬である「パレセーフ®輸液」を製造販売している。エイワイファーマ(株)にとって本件特許は「パレセーフ®輸液」を保護する特許であるのかもしれない。

味の素と大塚製薬工場とは下記判決のとおり輸液関連で何かと争い続けている。

Jul 13, 2014

「シロドシン」(製品名:ユリーフ®錠)に係る物質特許

キッセイ薬品が創製した前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬「シロドシン」(製品名:ユリーフ®錠)に係る物質特許について、公益社団法人発明協会が主催する「平成26年度全国発明表彰」において、発明賞を受賞したというお知らせ。
  • 受賞テーマ:尿道選択的新規排尿障害改善薬シロドシンの発明
  • 対象特許 :特許第2944402号

参考:

ユリーフ®は、選択的α1A遮断作用を有するシロドシン(silodosin)を有効成分とする前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬。キッセイ薬品が創製、第一製薬(現:第一三共)と共同開発し、2006年1月にユリーフカプセルとして製造販売承認を取得。その後、2008年7月、ユリーフ錠が承認された。

  • 存続期間満了日: 2018.12.01
  • 再審査期間: 8年(2006.01.23~2014.01.22)

米国では、すでにSandoz社、Hetero社がANDA申請し、特許権者であるキッセイ及びライセンシーであるActavis等が物質特許(5,387,603)に基づいて特許権侵害訴訟を提起した(2013年6月17日)。

参考:



Jun 21, 2014

沢井製薬の実用新案登録 「切り離し両面カード付き製品包装箱」

2014年6月20日の沢井製薬のプレスリリースによれば、同社は実用新案登録された「切り離し両面シート」を製品化した。
IPDLで検索したところ、その実用新案登録は下記のとおり。

【登録番号】実用新案登録第3189942号
【考案の名称】切り離し両面カード付き製品包装箱
【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】
両面印刷されたカードを備えたことを特徴とする製品包装箱であって、該両面印刷されたカードはミシン目により切り離し可能な製品包装箱。
【請求項2】
両面印刷されたカードの、
(1)表面には製品の製品名、成分名、製造番号、使用期限又はバーコードから選択される少なくとも2以上の項目が、
(2)裏面には製品名のみが
印刷されていることを特徴とする請求項1に記載の製品包装箱。
【請求項3】
切り離したカードが安全管理及び製品識別ラベルとして使用可能な請求項1または2に記載の製品包装箱。


Jun 16, 2014

2014.06.16 「沢井製薬 米国でリバロ後発品申請」

2014年6月16日付けの沢井製薬のpress releaseによれば、沢井製薬は、子会社Sawai USA, Inc.を通じて、FDAに対し、LIVALO®の後発品「Pitavastatin Tablets, 1 mg, 2 mg and 4 mg」について、ANDAを提出したとのことです。

参考:

Jun 8, 2014

2014.05.30 「帝人 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10399

特許権の存続期間延長登録が認められなった事例(リノコートパウダースプレー鼻用のノズル(カウンター付)): 知財高裁平成24年(行ケ)10399

【背景】

「粉末薬剤多回投与器」に関する特許権の存続期間延長登録出願(特願2010-700060)の拒絶審決(不服2010-28132)取消訴訟。

本件処分(販売名: リノコートパウダースプレー鼻用25μg)は、粉末薬剤としての成分及び分量、用法、用量、効能、効果等は、本件先行処分と全く同じ。変更事項は、製造方法として、一体型多回噴霧器の「ノズル」を「ノズル(カウンター付)」に変更するもので、容器の形態は、本件先行処分のものから、ノズル部分に噴霧回数を表示するカウンターを設けるため、旧製剤と比較して、噴霧器本体の全高を若干高くし、ノズルの長さも若干短くすることで、容器内にカウンターの搭載スペースを確保し、噴霧操作のノズルの回転動作に連動して噴霧回数を計測し表示するカウンターをノズルに搭載した点で、変更を加えたものだった(カウンターの説明はこちら)。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所は、特許法67条の3第1項1号を理由とする拒絶査定の要件について
「特許法67条の3第1項1号は,特許権の存続期間の延長登録出願を拒絶する要件~のうち,前記①の「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との第1の要件の有無を判断するに当たっては,医薬品の審査事項である「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」の各要素を形式的に適用して判断するのではなく,存続期間の延長登録制度を設けた特許法の趣旨に照らして実質的に判断することが必要となる。
本件においては,本件先行処分は薬事法14条1項に基づく医薬品の製造販売に係る承認であり,本件処分は同条9項に基づく承認事項の一部変更の承認である。
これに対し,特許権の存続期間の延長登録の出願の対象となった本件発明は,粉末薬剤の多回投与器という,特定の薬物を前提としない特許発明であり,前記1(1)カのとおり,多種多様な粉末薬剤を使用することが想定されており,また,前記1(1)オ,キ及びクのとおり,容器の材質,構造等についても多様な実施形態が想定されている。そうすると,本件において,薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「その特許発明の実施」の範囲は,本件先行処分及び本件処分の具体的な内容と本件発明の内容とを照らし合わせて,個別具体的に判断する必要がある。」
と言及し、本件について下記のとおり判断した。
「本件処分を受けたことによって禁止が解除された行為は,ノズルにカウンターを搭載したことのみにあると認められる。~ノズルに,噴霧回数を計測し表示するカウンターを搭載することは,本件特許の特許請求の範囲には記載がなく,本件明細書にも記載がないことは,当事者間に争いがない。~本件製剤は,本件発明1の実施品である旧製剤のノズルにカウンターを付すことによって,旧製剤が奏する~本件発明1の効果に対し,噴霧回数の表示という付加的機能を実現したものにすぎず,カウンターの設置に伴い,ノズルの面積や構造などに若干の設計変更が加えられたものの,旧製剤と形態や機能において異なるものではないことが認められる。
以上によれば,まず,本件製剤と旧製剤とは,粉末薬剤としては,成分,分量,用法,用量,効能,効果等において全く同じであると認められる。
そして,本件製剤は,本件先行処分により禁止が解除された本件発明1の実施形態である旧製剤のノズルについて,カウンターを搭載する実施形態に限定したものにすぎないから,本件製剤は,本件発明1の実施形態としては,旧製剤に含まれるというべきである。
そうすると,本件処分は,本件先行処分により禁止が解除された本件発明1の実施形態について,ノズルにカウンターを搭載するという,より限定した形態について本件処分の承認事項の一部を変更したものにすぎないから,本件出願については,前記①の「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」の要件を充足するということができる。
したがって,本件出願は,特許法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき」に該当するというべきである。」
原告は、下記の主張をした。
「①本件発明1において,手段(13)は,回転することによって一回分の投与量を秤量する機能を有する部材であり,回転回数を記録するカウンターも,回転する部材と密接な関係にあり,医薬品として大きな技術的意味を有し,本件発明1の手段(13)の一部を形成しているから,手段(13)は,発明特定事項として,少なくともカウンターを有しないもの(旧製剤)と,カウンターを有するもの(本件製剤)の2つの下位概念を含むものである,②本件製剤の本質的な特徴は,有効成分ではなく,多回投与器の構造に基づく性能にあるから,カウンターを付加した構造に関する創意工夫に基づく患者の利便性の向上につき,延長登録による保護が与えられるべきである,③カウンターの付加は,旧製剤と比較して,利便性を大きく向上させた重要な相違点であり,多回投与器を適用して患者の利便を図るという基本的な技術的思想の中には手段(13)においてカウンターを付加するという下位概念も含まれており,本件発明の目的(定量噴霧性や操作の簡便性・迅速性)がより一層高いレベルで実現されるのであって,カウンターの付加は,本件発明の技術的思想として大きな関連性を有する改良であるところ,カウンターを有する本件製剤は,本件処分によって初めて禁止が解除されたのであるから,本件製剤の実施態様について,本件発明を実施するためには本件処分が必要であったことは自明である」
しかし、裁判所は、
「本件発明1において,手段(13)は,前記のとおり,薬剤貯蔵室(5a)底面の下部に設けた穴(5c)に連通するものであり,かつ薬剤導出部(2)を充填位置と投与位置との間で移動させる機能を奏しているものであるのに対し,カウンター自体はそのような機能を奏するものではなく,噴霧回数の表示という付加的機能を実現するものにすぎない。そして,カウンターを付加することは,本件先行処分で禁止が解除された実施形態の範囲内において,これを限定付加するものにすぎない。したがって,本件処分を受けたことによって,新たに禁止が解除されたとはいえない。」
として、原告の上記主張はいずれも採用することができないと判断した。

【コメント】

知財高裁大合議判決(2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198)と同日に下された判決である。本事案では拒絶審決は維持された(大合議で特許庁の審査基準が否定されたので、そのロジックは異なるが)。知財高裁は、第一に、粉末薬剤としては、医薬品の「成分,分量,用法,用量,効能,効果」に着目しており、本件処分では、それらが先行処分と全く同じであったこと、そして第二に、一変承認事項が特許発明の特徴とは無関係の付加的事項だったこと、を理由として、「特許発明を実施すること」が一変承認によって新たに禁止が解除されたということはできない、従って、特許権の存続期間の延長登録は認められない(特許法67条の3第1項1号)、と判断した。

本件発明は、医薬品の成分を対象とする特許ではなく、「粉末薬剤多回投与器」を対象とする特許であるから、大合議判決で判断された事件のような“医薬品の成分”を対象とする特許と同じように、「成分,分量,用法,用量,効能,効果」にだけ着目して同じように判断するだけでは妥当でない。本事案において、裁判所は、カウンターを搭載したノズルという点で新たな審査が必要とされた一変承認事項と特許発明の特徴(奏する効果)との関係も検討し、旧製剤における先行処分で、本来の特許発明の特徴は、既に禁止が解除されていたとの結論を導いた。

大合議判決以後、延長登録が認められた事例と認められなかった事例が蓄積することで、判断の予見性が高まることを期待する。

延長された特許権の効力についての考察:

本判決では、本件製剤と特許発明との関係を検討するに当たり、「本件製剤は,本件発明1の実施形態としては,旧製剤に含まれるというべきである。」と解釈している。この関係性(発明の一実施形態にすぎない製剤は、旧製剤の処分によって禁止が解除された発明に含まれる)の解釈を、後発品は、先発品の処分によって延長された特許権の効力範囲に含まれるどうかという点にまで飛躍して考えてみると・・・まず初めに「成分、効能、効果、用法、用量」に着目して検討するとしても、「特許発明の奏する効果に付加的機能を加えた一実施形態に過ぎないもの」(例えば、添加剤を含めた成分が完全一致しない医薬品であっても一実施形態に過ぎない後発品)に対しては、発明の一実施形態とみなされて、延長された特許権の効力が及ぶ、という考え方が可能と思われる。いわゆる「完全一致製剤にしか延長特許権の効力が及ばない」というrigidな考え方ではなく、後発品の実態と発明の内容も具体的に検討して結論を導き出すという考え方は、大合議判決で言及された下記下線部分

「特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然であるといえる。)」。

と不整合な点はないように思われる。

参考:

Jun 2, 2014

2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198

特許権存続期間延長登録出願の登録要件について知財高裁大合議判決: 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198

【背景】

原告(ジェネンテック)は、アバスチン点滴静注用400mg/16mL及び100mg/4mL(一般名: ベバシズマブ(遺伝子組換え))について、用法及び用量に関する事項を追加することを主な変更内容とする製造販売承認事項一部変更承認(本件処分)を受け、本件医薬品を保護する「血管内皮細胞増殖因子アンタゴニスト」に関する特許権(第3398382号)及び「抗VEGF抗体」に関する特許権(第3957765号)について存続期間延長登録出願をした。
しかし、特許庁は、同じ有効成分及び同じ効能又は効果である先行処分がされていたことを理由に、本件延長登録出願を拒絶とする審決(不服2011-8105; 不服2011-8106; 不服2011-8107; 不服2011-8108)をした。
そこで、原告は特許庁の拒絶審決の取消を求め訴訟を提起した。

特許権3398382号 請求項1:
抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニストを治療有効量含有する,癌を治療するための組成物。
特許第3957765号 請求項1:
以下の超可変領域アミノ酸配列~(省略)~を含む重鎖可変ドメイン,並びに以下の超可変領域アミノ酸配列~(省略)~を含む軽鎖可変ドメインを有している,約1x10-8Mを超えないKd値でヒト血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と結合するヒト化抗VEGF抗体。
【要旨】

本判決は,以下のとおり判断して,審決を取り消した。

(1) 特許法67条の3第1項1号該当性判断の誤り(取消事由1)について
  • 特許権の存続期間の延長登録の出願を拒絶すべきとした審決の判断の当否を検討するに当たっては,拒絶すべきとの査定(審決)の要件を規定した根拠法規である特許法67条の3第1項1号の要件適合性を判断することにより結論を導くべきである(先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点は,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点と,必ずしも常に直接的に関係する事項であるとはいえない。)。
    同法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには,①「政令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと,及び,②「政令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為に含まれることが前提となり,その両者が成立することが必要であるといえる。上記規定は「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と,審査官(審判官)が延長登録出願を拒絶するための要件として規定されているから,審査官(審判官)が,当該出願を拒絶するためには,①「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」(第1要件),又は,②「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」(第2要件)のいずれかを選択的に論証することが必要となる。
  • 薬事法14条1項又は9項に基づく承認の対象となる医薬品は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」によって特定された医薬品である。したがって,上記承認によって禁止が解除される行為態様は,当該承認の対象とされた,上記事項によって特定された医薬品の製造販売等の行為である。
    特許法67条の3第1項1号の規定する前記第1要件の有無を判断するに当たっては,医薬品の審査事項である「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」の各要素を形式的に適用して判断するのではなく,存続期間の延長登録制度を設けた特許法の趣旨に照らして実質的に判断することが必要である。
    医薬品の成分を対象とする特許(製法特許,プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等を除く。)については,薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は,上記審査事項のうち「名称」,「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分,分量,用法,用量,効能,効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である。
  • 本件先行処分では,「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」との用法・用量によって特定される使用方法による本件医薬品の使用行為,及び上記使用方法で使用されることを前提とした本件医薬品の製造販売等の行為の禁止は解除されておらず,本件処分によってこれが解除されたのであるから,本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との要件(前記第1要件)を充足していないことは,明らかである。本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」との要件(前記第2要件)を充足していないことも,明らかである。
  • 以上のとおりであり,本件においては,「本件処分を受けたことによって本件特許発明の実施行為の禁止が解除されたとはいえない」とはいえず,特許法67条の3第1項1号の定める,拒絶要件があるとはいえない。
(2) 特許法68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲について
  • 本判決では,念のためとして,特許法68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲についても検討し,特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,同法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当であると判断した。
【コメント】

1.特許権の存続期間延長登録の要件(特許法67条の3第1項1号)について

今回の知財高裁大合議判決により、医薬品の「成分,分量,用法,用量,効能,効果」いずれかについての追加・一部変更承認が得られれば、原則、その度ごとに特許権の延長登録の機会があることになる。例えば、有効成分に関する物質特許は、医薬品としての最初の承認以降、効能追加、製剤変更、用量追加、用法追加などの追加・一部変更承認の場面で、特許権の延長登録が認められうることになる。もちろん、有効成分に関する特許以外でも、その医薬品がその特許発明の実施に該当する限り、同様に延長登録が認められうることになる。

2.特許権の存続期間延長の審査基準について

改訂されてからまだ2年半足らずの審査基準は、再度改められなければならない。

3.医薬品の製造方法を対象とする特許について

本事案は製造方法特許でなかったため、判決は、医薬品の製造方法を対象とする特許(製法特許,プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等)についてまで検討しなかった。医薬品の製造方法に関わる事項は、承認にとって欠かせない審査事項であるが、医薬品としての実質的な同一性に直接関わる事項とはいえないため、判決で示されたような、医薬品の成分を対象とする特許発明の場合における「禁止が解除されたかどうか」の判断要素(「成分,分量,用法,用量,効能,効果」)を、形式的にそのまま製造方法の特許の場合に適用することはできない。医薬品の製造方法を対象とする特許発明の場合における「禁止が解除されたかどうか」の判断は、当該製造方法と承認審査内容を実質的に検討する必要があるだろう。

4.延長された特許権の効力の及ぶ範囲について

知財高裁大合議は、医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された特許発明の実施の範囲で、効力が及ぶものと解するのが相当であるとしている。

まさか、添加剤を含む全ての成分が一致した医薬品にしか、延長された特許権の効力が及ばないということではないだろう・・・。大合議の検討に従えば、延長された特許権の効力が及ぶと解する特許発明の実施の範囲は下記のとおりになるのではないかと思われる。
  • 医薬品の有効成分を対象とする特許発明の場合: 「有効成分」によって特定され,かつ,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された特許発明の実施の範囲。

    例えば、本件であれば、

    • 「有効成分」が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり、
    • 「効能又は効果」が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であり、
    • 「用法及び用量」が「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」であり、且つ、
    • 特許発明の実施の範囲である、第三者医薬品に対して延長された特許権の効力が及ぶ。

    先行処分として承認されていた「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。」のみとする用法及び用量によって特定された医薬品に対しては、延長された特許権の効力は及ばないということになる。

    例えば、2011.03.28 「シャイアー v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10177の事案(単剤併用から合剤としての承認)であれば、当該特許発明は、ラミブジンの物質特許(請求項1~11。請求項12のみ、ラミブジンと付加的な活性成分と組み合わせて含む抗ウイルス用医薬組成物。)であるが、延長登録は有効成分の合剤の承認に基づいて認められたのであるから、

    • 「有効成分」が「ラミブジンおよび硫酸アバカビル」であり、
    • 「効能又は効果」が「HIV感染症」であり、
    • 「用法及び用量」が「通常、成人には1回1錠(ラミブジンとして300mg及びアバカビルとして600mg)を1日1回経口投与する。」であり、且つ、
    • 特許発明の実施の範囲である、第三者医薬品に対して延長された特許権の効力が及ぶ。
  • 医薬品の用途を対象とする特許発明の場合: 「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された特許発明の実施の範囲。

    例えば、2000.02.10 「グラクソ v. 特許庁長官」 東京高裁平成10年(行ケ)361の事案(小児適用)であれば、当該特許発明(請求項1)は、
    活性成分として、1、2、3、9-テトラヒドロ-9-メチル-3-[(2-メチル-1H-イミダゾル-1-イル)メチル]-4H-カルバゾル-4-オン又はその生理学的に許容される塩又は溶媒和物を含むことを特徴とする、吐気及び嘔吐の軽減及び/又は胃内容物排出の促進のためにヒト及び獣医学で用いるための薬剤組成物。
    であるから、

    • 「有効成分」が「塩酸オンダンセトロン」であり、
    • 「効能又は効果」が「抗悪性腫瘍剤(シスプラスチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の軽快」であり、
    • 「用法及び用量」が「小児: 通常、小児にはオンダンセトロンとして1回2.5mg/m2、1日1回緩徐に静脈内投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。また、効果不十分な場合には、同用量を追加投与できる。」(小児先行処分では適用対象を成人に限るとしていたのに対して、本件処分では小児をも適用対象としてた点で異なる)であり、且つ、
    • 特許発明の実施の範囲である、第三者医薬品に対して延長された特許権の効力が及ぶ。

    このケースでは、成人を適用対象のみとする「用法及び用量」によって特定された医薬品に対しては、延長された特許権の効力は及ばないということになる。

  • 医薬品の有効成分以外の成分を対象とする特許発明の場合(例えば製剤特許): 「製剤成分」によって特定され、かつ、「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された特許発明の実施の範囲。

    例えば、パシーフカプセル事件(2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10460)であれば、当該特許発明(請求項1)は、
    薬物を含んでなる核が,(1)水不溶性物質,(2)硫酸基を有していてもよい多糖類,ヒドロキシアルキル基またはカルボキシアルキル基を有する多糖類,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコールから選ばれる親水性物質および(3)酸性の解離基を有しpH依存性の膨潤を示す架橋型アクリル酸重合体を含む被膜剤で被覆された放出制御組成物。
    であるから、

    • 「製剤成分」が「薬物=塩酸モルヒネ」、「(1)水不溶性物質=エチルセルロース」、「(2)親水性物質=ヒドロキシプロピルセルロース」及び「(3)被膜剤=カルボキシビニルポリマー」を含有するものであり、
    • 「効能又は効果」が「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」であり、
    • 「用法及び用量」が「通常、成人にはモルヒネ塩酸塩水和物として1日30~120mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。」であり、且つ、
    • 特許発明の実施の範囲である、第三者医薬品に対して延長された特許権の効力が及ぶ。

    成分がエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、または、カルボキシビニルポリマーのいずれか一つでも使用しない後発品に対しては延長された特許権の効力は及ばないと考えられる。判決では、特許権の存続期間の延長登録の制度が設けられた趣旨に関して、政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができず、実質的に侵食される特許期間について、
  • このような期間においても,特許権者が「業として特許発明の実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明を実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権の全ての効力のうち,特許発明を実施できなかったという点にのみ着目したものであるといえる。
    と言及しているが、第三者のフリーライドを容易に許すようであれば、延長された特許権の意味は無い。合議体は、
    もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然であるといえる
    と言及しているが、そのような評価はまた容易なことではない。添加剤の成分が異なる後発品への権利行使可能性については、具体的なラインが示せない以上、個別具体的な判断にならざるを得ないだろう。

参考:

May 1, 2014

2014.04.16 「林原 v. 日本食品化工」 知財高裁平成25年(行ケ)10125

先願発明との同一性(酵素の微生物の由来の相違: 知財高裁平成25年(行ケ)10125

【背景】

被告(日本食品化工)が保有する「新規分岐グルカン並びにその製造方法および用途」に関する特許許4397965号について、原告(林原)による特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟。争点は、先願発明との同一性の有無(特許法29条の2)である。

請求項4(本件訂正発明4):
シクロデキストリン生成酵素と糖転移作用を有する酵素とを,デンプン原料に作用させる工程を含んでなる,α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと,少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する,重合度11~35のグルカンまたはその還元物であって,分岐構造がα-1,4-結合以外の結合様式により直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1個以上のグルコース残基であるグルカンまたはその還元物を含有する液糖または粉糖の製造法であって,糖転移作用を有する酵素がアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来の α-グルコシダーゼである,製造法。
原告が主張する無効理由:
先願明細書(原告の出願である再公表公報WO2008/136331)に記載された先願発明と同一であるから、本件特許は、特許法184条の13の規定により読み替えて適用される同法29条の2の規定に違反して特許されたものである。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所の判断
「先願明細書には,特定の菌株由来の新規な酵素を用いた発明(先願発明1)が開示されているのであって,「α-グルコシル転移酵素」について,上記のバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349との特定の微生物由来の酵素以外のα-グルコシル転移酵素について開示があると認めることはできない。」
「原告の指摘するように,段落【0031】には,先願発明1のα-グルコシダーゼは給源によって制限されず,「本発明者らが土壌より単離した微生物PP710株又はPP349株が好適に用いられる。」旨の記載があるが,微生物の株により産生される酵素は異なり,一般に,所望の活性を有する酵素を産生する微生物を単離するには相当の試行錯誤が必要であるにもかかわらず,先願明細書には,バチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349と同様の他の微生物等からα-グルコシル転移酵素を得るための手段についての開示がないことに照らすと,この一文をもって,上記二つの微生物以外の微生物由来の糖転移作用を有するα-グルコシル転移酵素一般,あるいは,α-1,4グルカンの非還元末端にα-1,6グルコシル転移する酵素作用及びα-1,3グルコシル転移する酵素作用を有するα-グルコシル転移酵素一般が開示されているものと認めることはできない。」
「そもそも,前記のとおり,先願発明1には,所望の酵素として,もっぱらバチルス・サーキュランスPP710及びアルスロバクター・グロビホルミスPP349由来のα-グルコシル転移酵素が開示されているのであり,それらは「従来公知の真菌由来α-グルコシダーゼ・・・とは異なる酵素である。」(段落【0027】)と明記されており,単に糖転移作用を有する酵素であれば用いられるというものではない。したがって,従来から広く知られ,市販されてきた真菌由来α-グルコシダーゼであるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来 α-グルコシダーゼが,先願明細書に開示された新規なα-グルコシル転移酵素と同等であると解釈する余地はない。」
【コメント】

先願明細書に開示されたα-グルコシダーゼが由来とされるバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)及びアルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)は細菌(bacteria)に属するが、本件訂正発明4記載のα-グルコシダーゼが由来とされるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)またはアクレモニウム・エスピー(Acremonium sp.)は菌類に属する点でそもそも異なる。

由来が異なってもα-グルコシダーゼ自体が同じである、というのであれば原告の主張は理解できるが、性質や効果の観点で両酵素は異ならないという原告の主張は認められなかった。

参考:

林原press release: 2013.03.05 新規機能性糖質素材「多分岐グルカン」に肝臓への脂肪蓄積抑制効果などを確認 -世界のメタボリックシンドローム予防に新たな光-

日本農芸化学会2013年度大会
商標登録番号5590511(出願番号2012-101909):
【商標】多分岐グルカン
【権利者】(株)林原
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
1 化学品,植物成長調整剤類,肥料,写真材料,人工甘味料,工業用粉類,原料プラスチック
3 口臭用消臭剤,動物用防臭剤,塗料用剥離剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料
5 薬剤,歯科用材料,サプリメント,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用食品,栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)
19 建築用又は構築用の非金属鉱物,陶磁製建築専用材料・れんが及び耐火物,リノリューム製建築専用材料,プラスチック製建築専用材料,合成建築専用材料,アスファルト及びアスファルト製の建築用又は構築用の専用材料,ゴム製の建築用又は構築用の専用材料,しっくい,石灰製の建築用又は構築用の専用材料,石こう製の建築用又は構築用の専用材料,繊維製の落石防止網,セメント及びその製品,木材,石材,建築用ガラス
29 乳製品,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,食用たんぱく
30 茶,コーヒー,ココア,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,調味料,穀物の加工品,即席菓子のもと,食用粉類
32 ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料

Mar 29, 2014

2014.03.07 「レクサン v. 国」 東京地裁平成24年(行ウ)591

補正ミスに気付かず特許査定に。特許査定を取り消せるのか?: 東京地裁平成24年(行ウ)591

【背景】

「1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体」に関する特願2007-542886(WO2006/054830; 特表2008-520653)について、出願人(原告)は、誤った内容を記載した手続補正書を提出したまま特許査定となったことに気付き、特許査定の取消しを求める旨の行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが、特許庁長官は却下決定をした。これに対し、原告が下記請求を求めた事案である。

主位的請求:
①本件特許査定が無効であることの確認(行政事件訴訟法3条4項所定の抗告訴訟としての無効確認訴訟)
②本件却下決定の取消し(行訴法3条3項所定の裁決取消訴訟)
③特許庁審査官につき本件特許査定を取り消すことの義務付け(行訴法3条6項2号所定の申請型義務付け訴訟)

予備的請求:
①本件特許査定の取消し(行訴法3条2項所定の抗告訴訟としての取消訴訟)
②本件却下決定の取消し(上記主位的請求②と同じ)
③特許庁審査官につき本件特許査定を取り消すことの義務付け(上記主位的請求③と同じ)

本件手続補正書では、
「・・・R1はフッ素であり,R2は水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたは塩素であり・・・」
との記載でクレームを補正すべきところを、担当弁理士が、上記下線部分を削除してしまい、
「・・・R1はフッ素であり,R2は塩素であり・・・」
の記載で手続補正書が提出され、そのまま特許査定となってしまった。

【要旨】

原告の予備的請求①及び②は容認。
主位的請求③及び予備的請求③はいずれも不適法であるとされ却下。
主位的請求①及び②はいずれも理由がないとされ棄却。

拒絶理由と補正書の内容が全くかみ合っておらず当該補正書が出願人の真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難い場合であって、そのことが審査の経緯及び補正の内容等からみて審査官に明白であるため審査官において補正の正確な趣旨を理解して審査を行うことが困難であるような場合には、このような補正に係る発明につき適正に審査を行うことが困難であり、また、発明の適正な保護にも資さないのであるから、審査官は、特許出願人の手続的利益を確保し、自らの審査内容の適正と発明の適正な保護を確保するため、補正の趣旨・真意について特許出願人に対し確認すべき手続上の義務を負うものというべきである。

本件において、担当審査官は、本件特許査定に先立つ審査に当たり、特許出願人である原告らに対し、本件補正の内容が原告らの真意に沿うものであるかどうかを確認すべき手続上の義務があったところ、上記義務を怠ったものであり、担当審査官には手続上の義務違背があったものと認められる。

上記手続上の瑕疵により、本件特許査定の内容に影響が及ぶものであることは明らかであるから、本件特許査定はこの点において取消しを免れない。

また、本件却下決定には、特許法195条の4の解釈を誤った点において瑕疵があり、その結果、本来、手続的瑕疵を理由として取り消すべきであった本件特許査定を取り消さず、申立てを却下したものであるから、違法として取消しを免れない。

【コメント】

INPADOC patent family searchによると、対応する欧米特許は下記のとおり。
  • EP1819698 (B1)
  • US8314100 (B2)
  • US8598173 (B2)

そして上記米国特許番号に言及しているレクサン(REXAHN PHARMACEUTICALS INC)のプレスリリース(下記)によれば、本件出願が開発中の抗がん剤であるSupinoxin (RX-5902)をカバーする特許であることが分かる。

そして、レクサン発表のポスターの記載から、RX-5902は、1-(3,5-dimethoxyphenyl)-4-[(6-fluoro-2-methoxyquinoxalin-3-yl) aminocarbonyl] piperazineである。

すなわち、本件補正ミスによって、このRX-5902は本件出願クレームでカバーされなくなってしまったのである。この代理人の誤りは、起きてはならないミスであった。

Mar 18, 2014

サノフィ アレグラ特許侵害訴訟でエルメッドエーザイ及び小林化工と和解

エルメッドエーザイ及び小林化工のプレスリリースによれば、両社が製造販売承認を取得したアレグラ®錠(有効成分: フェキソフェナジン塩酸塩)の後発品に関して、サノフィより、アレグラ®錠の2件の用途特許(第3041954号及び第3037697号)に基づく専用実施権侵害差止請求訴訟が東京地裁に提起されていましたが、サノフィより和解の提案があり、本件訴訟の和解が成立したとのことです。
アレグラ®錠の後発品は、この2社だけでなく、多数の後発品メーカーから既に販売されています。

参考:

過去記事:

Mar 15, 2014

ファスジル: Actelion社の不法な開発中止 旭化成ファーマの損害賠償請求訴訟終結へ

CoTherix社にライセンスしたRho-kinase阻害剤「ファスジル(fasudil)」の開発を、CoTherix社を買収したActelion社が不法に止めさせたことを理由として、旭化成ファーマがActelion社に対して損害賠償を求めていた米国訴訟において、カルフォルニア州最高裁判所はActelion社の上告受理申立を却下した。

参考:

経緯:
  • 旭化成ファーマは、CoTherix社との間で「ファスジル」に関する開発・販売権を供与するライセンス契約を2006年6月に締結。

    2006年6月29 旭化成ファーマpress release: ファスジル経口剤及び吸入剤のライセンス契約締結について

  • 2007年1月にActelion社がCoTherix社を買収し、それ以降CoTherix社が「ファスジル」の開発を中止した。
  • 2008年11月に旭化成ファーマは、Actelion社等に対して、被告らが不法に開発を止めさせたことを理由として損害賠償を求める訴えを米国カリフォルニア州サンマテオ郡地方裁判所に提起。
    "At trial, Asahi presented evidence that Actelion acquired CoTherix specifically because it saw Fasudil as a significant threat to its market dominance with Tracleer and that Defendants used unlawful means to stop the development of Fasudil, thereby interfering with the License Agreement. Specifically, Asahi argued that Defendants used extortion and fraud to “painstakingly kill” Fasudil as a competitive product."
  • 2011年11月に被告らに対して総額415.7百万米国ドルの支払いを命ずる第一審判決が下される。
  • 被告側はこれを不服としてカリフォルニア州高等裁判所に控訴。
  • 2013年12月に同裁判所により第一審判決を維持する旨の判決が下される。
  • 被告側は、更にカリフォルニア州最高裁判所に対する上告受理を申立て。
  • 2014年3月13日(現地時間2014年3月12日)当該申立を却下する旨の最高裁判所の決定。

なお、CoTherix社に対しては、ライセンス契約の違反に基づく損害賠償を求めて国際商工会議所(ICC)において仲裁手続を行い、2009年12月、約91百万米国ドルの支払いをCoTherix社に命ずる裁定を得て、旭化成ファーマが既に全額を受領している。

参考(ライセンス契約に係る開発中止をめぐる損害賠償請求事件):

Mar 1, 2014

医薬品販売名の由来

日本売上げ上位の医療用医薬品販売名の由来は下記のとおり(各製品のインタビューフォームより)。個人的には、クラビットの意味、響き、シンプルさが好み。

医薬品販売名は、商標登録を済ませておくことだけでなく、既存の医薬品との製品取り違え防止の観点からの既存医薬品の名称類似性を評価したものでなければならない(医薬品類似名称検索システム)。

ディオバン
ディオバンは AT1 選択性が高いことから受容体に対してはDual effects(AT1受容体をブロックする作用と AT2 受容体にはアンジオテンシンⅡが刺激する作用)を特長とする。この2つの機能を持つバルサルタン(VALSARTAN)という意味からディオバンと命名された。
ブロプレス
ブロ:ブロック(BLOCK)
ブロプレス:血圧(BLOOD PRESSURE)
つまり、アンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体部位に作用し、AⅡをブロックすることによって血圧を下降させる薬剤です。
オルメテック
一般名オルメサルタン(Olmesartan) メドキソミルの「オルメ(Olme)」と technology の「テック(tec)」との組み合わせより。
ジャヌビア
JANUS(ヤヌス、二つの顔を持つ神)、via(経由)から命名。
レミケード
REMI-(remedy:治療),-CADE(aid:支援)に由来。
アリセプト
Ariceptの[Ari]はアルツハイマーを、[cept]は(アセチルコリン)レセプターをイメージしている。
タケプロン
タケダのプロトンポンプイヒビター。
リュープリン
天然のLH−RHと構造の異なる部位と、下垂体刺激ホルモンを表す語尾をつないで名称とした。(6位の)Leu+(10位の)ロリンアミド+レリン(下垂体刺激ホルモンを表す語尾)
ミカルディス
myocardial disease(心筋疾患)、cardiovascular disease(心血管疾患)の二つから、mycardis→micardisと命名した。
リピトール
脂質Lipidから命名した。
ロキソニン
一般名のロキソプロフェンナトリウム(Loxoprofen Sodium)から命名した。
ネスプ
ネスプⓇは「新しさ」「新規性」を意味する novel の「N」、「赤血球造血」「赤血球生成」を意味する erythropoiesis の「E」、「刺激」を意味する stimulate の「S」、「タンパク質」を意味する protein の「P」に由来している。
パリエット
本剤の標的細胞である壁細胞の英名「Parietal Cell」の一部から命名した。
プログラフ
Protect of graft rejection(移植片拒絶反応の抑制)の下線部から命名した。
リリカ
QOL 改善のイメージが可能であり、読み、聞き、書いた場合に印象が良い言葉「Lyric:叙情詩(Music)」、「Lyrical:叙情的な」を由来とする。
クレストール
波頭、頂上、最上を意味する Crestより命名した。
リバロ
Lipids and Vascular event Lowering
脂質をより低下させることで冠血管イベントの発症をより低下させることを期待し、LIVALO(リバロ)と命名した。
プレタール
platelet(血小板)に由来する。
キプレス
喘息の寛解状態を維持する、喘息のコントローラーをイメージしてキープ(維持)+レスト(寛解期)でキプレスと命名した。
セレコックス
一般名セレコキシブ(Celecoxib)の下線部をとって命名した。
エパデール
本剤の成分 EPA-Eの EPA に由来する。
ティーエスワン
大鵬薬品工業(T)の創薬センター(S)の一番目に開発を手がけた薬剤。なお、S-1 が治験コード。
クラビット
CRAVE(熱望する、切望する)IT」から CRAVITとし、待ち望まれた薬剤であることを表現した。
シナジス
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)の“syn”とギリシャ語で“盾”を意味する“agis”に由来する。
グラクティブ
GLP-1の活性(activity)を保持する、から命名。
オパルモン
ONOとプロスタグランジン(PG)の頭文字よりOP、またPGが局所ホルモンといわれることから、これらを合成し命名した。
ゾラデックス
zola : azaglycine amide(アザグリシンアミド基)
dex : dexterity(器用さ)
LA : Long Acting
10 位の「azagly」と、アストラゼネカ社のホルモン剤に共通する「-dex」とを組み合わせ、発音しやすく「Zoladex(ゾラデックス)」と命名した。
ネシーナ
全く新しい作用機序を有する期待の経口糖尿病薬であることから、New Scienceを由来としています。
マイスリー
MY SLEEPの下線部をとってMysleeと命名した。
アルツ
Arthrosis(関節症)より命名した。
リスパダール
一般名であるリスペリドンより命名。
ガスター
Gaster:Gastric Ulcerを治療するなどの意味。
アレロック
アレルギー(Allergy)症状のブロック(Block)に由来する。
ベシケア
Vesica(膀胱)をCare(保護)する。
アムロジン
一般名の Amlodipine から Amlodin とした。
ハーセプチン
HER:HER2 蛋白、 CEPT:「target する」という意味の接尾語、PTIN:Protein(蛋白質)に由来。
→HER2 蛋白をターゲットとした薬剤(蛋白質)の意味。
エビリファイ
Abilify(~することができるようにする)
Ability(~することができる) + fy(~にする)
カソデックス
caso :去勢 castration
dex :器用さ dexterity
セロクエル
serotoninの「セロ」及びquetiapine(一般名)の「クエ」に由来している。

Feb 23, 2014

オキサリプラチンに関する特許権について

ヤクルト本社及びデビオファーム社は、オキサリプラチンに関する特許権について、2014年2月14日付で下記謹告を掲載した。


オキサリプラチン(oxaliplatin)は白金錯体系抗悪性腫瘍剤。本剤はデビオファーム社(スイス)がライセンスを保有しており、欧米における開発・販売権はSanofi社が保有している(商品名: ELOXATIN)。日本における開発・販売権は(株)ヤクルト本社が取得し、商品名エルプラット(ELPLAT)として製造販売している。2010年6月には水溶性製剤(点滴静注液)を発売し、既存の凍結乾燥製剤(注射用)からの切り替えを行った。また、2013年12月20日には、治癒切除不能な膵癌を効能・効果として、他の抗悪性腫瘍剤との併用において本剤を静脈内点滴投与する用法・用量の承認を取得している。

当該医薬品に関してデビオファーム社が保有する下記特許権が有効に存続している。エルプラットの再審査期間は2013年3月17日で終了。

オキサリプラチンの製造法に係る特許権

  • 特許3022264(存続期間満了日2015.07.25)
    請求項1:
    (化学式は省略)~で表されるシス-〔ジアコ(トランス-1-シクロへキサンジアミン)白金(II)〕とシュウ酸とを反応させて(化学式は省略)~で表されるシス-〔オキザラト(トランス-1-1,2-シクロへキサンジアミン)白金(II)〕を合成する方法において、シュウ酸添加時に、アルカリ溶液を添加してpHを3.0~6.0に調節することを特徴とする白金錯体の合成方法。
  • 特許3154399(存続期間満了日2016.07.04)
    請求項1:
    (化学式は省略)~で示される1、2-シクロヘキサンジアミン異性体のシス白金(II)錯体の製造方法において、原料である塩化白金酸カリウムとトランス-(-)-1、2-シクロヘキサンジアミンの投入から前記1、2-シクロヘキサンジアミン異性体の白金(II)錯体を得るまでの工程を、全て酸素5%以下の状態又は窒素中或いは真空中若しくは不活性ガス中で行い、用いる水は全て脱酸素水とすることを特徴とする白金化合物の製造方法。

製剤に係る特許権

  • 特許3547755(存続期間満了日2020.01.29)
    請求項1:
    濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり、医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
    存続期間の延長登録(延長出願番号2009-700145、2009-700142ともに特定された用途は追加された効能効果である「結腸癌における術後補助化学療法」)がなされ、存続期間満了日は最長2020年1月29日となっている。

用法・用量に係る特許権

  • 特許4468617(存続期間満了日2014.12.15)
    請求項1:
    シス-オキザラート(1R,2R-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)とイリノテカンとの併用剤であって、シス-オキザラート(1R,2R-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)の投与の前にイリノテカンが投与される、併用抗癌剤。
  • 特許4865427(存続期間満了日2014.12.15)
    請求項1:
    シス-オキザラート(1R,2R-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)を含んで成る第一の抗癌剤と5-フルオロウラシルを含んで成る第二の抗癌剤との併用抗癌剤であって、時間差投与計画において、相乗的有効量の前記第二の抗癌剤の投与の2又は3日前に相乗的有効量の前記第一の抗癌剤が投与されることを特徴とする、前記第一の抗癌剤と第二の抗癌剤の相乗作用を有する併用抗癌剤。

参考:

Feb 15, 2014

アバスチン®(有効成分 ベバシズマブ) 特許権の期間延長の拒絶審決取消請求事件 知財高裁 大合議事件に指定

2014年2月14日、アバスチン(Avastin)®(有効成分: ベバシズマブ)の特許権存続期間延長登録出願の拒絶審決取消請求事件(平成25年(行ケ)10195号、平成25年(行ケ)10196号、平成25年(行ケ)10197号及び平成25年(行ケ)10198号)を、知財高裁は大合議事件として取り扱うこととしました。


【背景】

処分の対象となったものを「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」、処分の対象となったものについて特定された用途を「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用における,成人への,ベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)での,投与間隔3週間以上の点滴静脈内注射」として、ジェネンテックが保有する特許権(第3398382号及び第3957765号)についての存続期間延長登録出願(2009-700156、2009-700157、2009-700158、2009-700159)がなされ、審査されました。

しかし、特許庁は、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は、先行処分により実施できるようになっていたとして、本件出願に係る特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当する、と判断し、拒絶審決(不服2011-8105、不服2011-8106、不服2011-8107、不服2011-8108)を下しています。

「血管内皮細胞増殖因子アンタゴニスト」に関する特許権(第3398382号)の存続期間延長登録出願(2009-700156、2009-700157)の拒絶審決(不服2011-8105、不服2011-8106)の概要は下記のとおりです。

特許権(第3398382号)の請求項1~11(「本件特許発明1~11」):
【請求項1】抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニストを治療有効量含有する、癌を治療するための組成物。
【請求項2】抗体が抗hVEGF抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】抗体がモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】抗体がヒト型化されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】抗体が腫瘍サイズを減少させるのに充分な量で用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】腫瘍が固形悪性腫瘍である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】抗体がVEGF介在脈管形成を阻止することにより腫瘍サイズを減少させる、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】抗体が細胞毒性部分に結合している、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】細胞毒性部分がタンパク質細胞毒素またはモノクローナル抗体のFcドメインである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】他の癌の治療剤と、連続的にまたは同時に投与されるように処方される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】放射線学的治療に対して、連続的にまたは同時に投与されるように処方される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
特許庁が拒絶審決とした理由の概要:
(1) 承認の対象となる医薬品は,承認書に記載された事項で特定されたものであるのに対し,特許発明は技術的思想の創作を「発明特定事項」によって表現したものである。したがって,特許法第67条の3第1項第1号の判断において,「特許発明の実施」は,処分の対象となった医薬品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく,処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項(以下,「発明特定事項に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。そして,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分(先行処分)が存在する場合には,特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,先行処分によって実施できるようになっていたといえ,特許法第67条の3第1項第1号の拒絶理由が生じる。

(2) これを,本件について検討する。
ア.本件特許発明1について
本件特許発明1における発明特定事項は,医薬の発明であることを表現したものといえるから,本件特許発明1は,「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」を有効成分とし,「癌」の治療を用途とする医薬の発明であるということができる。
一方,本件処分の対象となった医薬品は,一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり,効能・効果が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であると認められる。
ここで,「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」は,ヒト型化された抗VEGF(抗hVEGF)モノクローナル抗体であってヒトVEGF-Aアイソフォームを中和する性質を有しており,本件特許発明1の有効成分である「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」に該当する事項である。
また,効能・効果である「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」は,本件特許発明1の用途における治療対象である「癌」に該当する事項である。

これに対し,医薬品医療機器総合機構のホームページからアクセス可能な以下のURL:
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P200700027/450045000_21900AMX00910_A100_3.pdf
に掲載された資料によれば,先行処分の対象となった医薬品は,一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり,効能・効果が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であると認められる。
そうすると,先行処分は,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」である「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」及び「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を備えた先行医薬品についてのものである。

してみると,本件特許発明1のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

イ.本件特許発明2~11について

本件特許発明2~11は,いずれも本件特許発明1における発明特定事項をさらに限定した発明であるか,又は,新たな発明特定事項を追加することによりさらに限定した発明である。したがって,これら本件特許発明2~11のうち本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲(以下「範囲2」という。)は,本件特許発明1のうち本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」で特定される範囲(以下「範囲1」という。)に包含されるか又は一致するものである。
そして,上で述べたとおり,範囲1が先行処分によって実施できるようになっていたといえるのであるから,当該範囲1に包含されるか又は一致する範囲2もまた,先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

ウ.請求人の主張について

請求人は意見書において,以下の(i),(ii)のような主張をしている。
(i) 先行処分(治癒切断不能な進行・再発の結腸・直腸癌)との関係において,こと本件処分(本件処分で承認された特定の用法用量での使用)を受けるにあたっては,安全性確認のため臨床試験を実施することが当局から要求され,6年もの相当の期間を要する臨床試験を必要とされた経緯に鑑みれば,先行処分の効果・効能に加えて用法・用量も勘案されるのが相当である。
(ii) 本件処分により「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」について承認された「ベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)での投与間隔3週間以上の点滴静脈内注射」の使用により,XELOX(カペシタビンとオキサリプラチンとの併用レジメン)との併用療法が可能となり,見かけ上の効能又は効果は同一ながら,その適用対象が拡大した。

しかしながら,本件特許発明は,請求人のいう用法・用量に対応する発明特定事項を有するものではないから,上記のとおり,本件特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は先行処分によって実施できるようになっていたというほかない。(i)で主張するように,本件処分を受けるために6年間の臨床試験が必要だったとしても,また,(ii)で主張するように,本件処分を受けたことで特定レジメンとの併用療法が可能になったとしても,それらのことが,本件特許発明が先行処分によって実施できるようになっていたか否かの判断に影響を与えるものではない。」

また、「抗VEGF抗体」に関する特許権(第3957765号)の存続期間延長登録出願(2009-700158、2009-700159)の審決で、特許庁は下記のようにも言及しました。
「本件物質特許等発明ならびに本件用途特許発明は,請求人のいう用法・用量に対応する発明特定事項を有するものではなく,また,医薬品の承認書に記載された用途に該当する事項とは,延長された権利の実効性や第三者による結果の予測性を担保すべきことを考慮すると,承認書に記載された効能・効果であると解するのが相当であるから,上記のとおり,それら本件物質特許等発明ならびに本件用途特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」によって特定される範囲が先行処分によって実施できるようになっていたというほかない。」

【コメント】

2011年12月28日に特許権の存続期間の延長の審査基準が改定されてから初めてその運用が知財高裁で問われる事件と思われます。審査基準改定の契機となった最高裁平成21(行ヒ)326判決以前から当ブログで特許権の存続期間延長制度の問題点についてコメントしてきましたが、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属するとき、どのように登録要件を判断するのか、具体的には、その技術的範囲の先行処分部分については先行処分により禁止が解除されていたとしても、後行処分により本件医薬品の禁止が解除されたことは間違いないので、本件に係る禁止解除部分についてだけは別途延長登録を認めるのか、合議体の判断が待たれます。また、存続期間延長登録要件には、何ら用途(効能効果)だけ特別視できるような規定はありません。用途(効能効果)を特別視してきた運用からそろそろ脱しなければ用途(効能効果)以外の点で改良された製剤発明等について延長登録できることを示した最高裁の判断との整合性は成り立ち得ないのではないでしょうか。

大合議には、日本の延長制度がわかりやすく合理的且つ合目的的に運用されている制度として誇れるような結論を導き出してくれることを願います。

参考:

今回の問題に関連してコメントしてきた主な過去の記事は下記のとおり。

アバスチン(Avastin)®:
アバスチン(一般名 ベバシズマブ(bevacizumab)(遺伝子組換え))は、マウス抗VEGF(vascular endothelial growth factor;血管内皮増殖因子)モノクローナル抗体muMAb A4.6.1をもとにヒト化した、抗VEGFヒト化モノクローナル抗体を有効成分とする抗悪性腫瘍剤。日本では、2007年4月に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対する治療薬(1回5mg/kg又は10mg/kg(体重)・投与間隔2週間以上の用法・用量)として承認された。その後、2009年9月には1回7.5mg/kg(体重)・投与間隔3週間以上の用法・用量が追加承認、2009年11月に「扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能(15mg/kg(体重)・投与間隔3週間以上)追加が承認、2011年9月に「手術不能又は再発乳癌」の効能(10mg/kg(体重)・投与間隔2週間以上)追加が承認、2013年6月に「悪性神経膠腫」において、初発及び再発の効能追加が承認、2013年11月に「卵巣癌」の効能追加が承認された。

Feb 14, 2014

2014.02.14 「興和 リバロ後発品 特許権侵害訴訟を提起(第3報)」

2014年2月14日付けの興和及び日産化学のpress release(高コレステロール血症治療剤「リバロ」後発品に対する特許権侵害訴訟の提起について(第 3 報))によれば、日産化学は、リバロ後発品製造販売会社である陽進堂、日新製薬、日本ケミファに対し、同社が保有する当該有効成分の結晶形についての特許権侵害行為の差止訴訟を、2月13日付で東京地裁に提起したとのことです。

参考:



Feb 8, 2014

エビリファイ(Abilify)®のパテントクリフ

エビリファイ(Abilify®)の有効成分であるアリピプラゾール(aripiprazole)は大塚製薬により合成された抗精神病薬。日本では「統合失調症」の効能・効果で2006年1月にエビリファイ錠の製造販売承認を取得した。2012年度の世界での売上は 4,385億円(そのうち米国は3,361億円)となっており、大塚ホールディングス株式会社の連結売上高の36%を占める。もし、エビリファイの後発品が承認販売されれば、大幅な減収が予想される。

米国Orange bookによれば、エビリファイ錠の米国物質特許(5,006,528)は小児適用による延長を含めて2015年4月20日に満了する。

その米国特許の日本ファミリーの中で存続している特許権は下記のとおり。特許権存続期間延長登録で5年間の延長を獲得し、いずれも2014年10月31日に満了する。しかし、再審査期間は2016年1月22日まで(統合失調症)となっているので、日本での後発品参入は早くても2016年以降になると思われる。

  • 特許2608788
    特許存続期間延長登録出願番号:2006-700034
    存続期間満了日:2014.10.31
  • 特許2893175
    特許存続期間延長登録出願番号:2006-700030
    特許存続期間延長登録出願番号:2006-700031
    存続期間満了日:2014.10.31
  • 特許2987484
    特許存続期間延長登録出願番号:2006-700032
    特許存続期間延長登録出願番号:2006-700033
    存続期間満了日:2014.10.31

Jan 18, 2014

2014.01.15 「興和 リバロ後発品 特許権・商標権侵害訴訟を提起」

興和は、同社が保有する商標に基づき、当該商標権の侵害のおそれのある高コレステロール血症治療剤「リバロ」(一般名:ピタバスタチンカルシウム)の後発品製造販売会社に対し、商標権侵害行為の差し止めを求める訴訟を、日産化学は、相模化成工業、日医工、寿製薬に対し、同社が保有する当該有効成分の結晶形についての特許権侵害行為の差し止めを求める訴訟を、1月15日付で東京地裁に提起しました。
今回は、2013年12月25日付で東京地裁に提起した特許権侵害訴訟(2013.12.25 「興和 リバロ後発品 特許侵害訴訟を提起」)に引き続き 2回目の措置となります。

参考:

商標権侵害訴訟提起ということで、IPDLで調べると、興和株式会社が権利者である登録商標または商標出願として、例えば下記のようなものがある。

  • 「LIVALO」(指定商品: 薬剤等): 登録番号第4306418号
  • 「リバロ」(指定商品: 薬剤等): 登録番号第4600557号
  • 「LIVALO KOWA」(指定商品: 薬剤): 登録番号第4694419号
  • 「Livalo」(指定商品: 薬剤): 登録番号第4937207号
  • 「リバ朗」(指定商品: 薬剤等): 登録番号第5308105号
  • 「PITAVA」(指定商品: 薬剤): 登録番号第4942833号
  • 「ピタバ」(指定商品: 薬剤): 商願2013-80944(出願日2013.10.17)
  • 「ピタバス」(指定商品: 薬剤): 商願2013-080945(出願日2013.10.17)

しかし、一方で、共和薬品工業株式会社が下記商標出願をしていた。
  • 「ピタバ」(指定商品: 薬剤): 商願2013-084267(出願日2013.10.28)
  • 「ピタバ1アメル」(指定商品: 薬剤): 商願2013-084570(出願日2013.10.29)
  • 「ピタバ2アメル」(指定商品: 薬剤): 商願2013-084571(出願日2013.10.29)
  • 「ピタバ3アメル」(指定商品: 薬剤): 商願2013-084572(出願日2013.10.29)

また、キョーリンリメディオ株式会社が下記商標出願をしていた。
  • 標準文字商標 「ピタバ」(指定商品: 薬剤): 商願2013-085199(出願日2013.10.30)

販売されている後発品の本体表示(表)として下記のようなものがある。これらが果たして興和の登録した商標権の侵害となるかどうか。


ところで、上記リストにあった興和の登録商標「リバ朗」(指定商品: 薬剤等、登録番号第5308105号)の正体はこのゆるキャラ?のようだ(登録5308107)。

Jan 9, 2014

オルメサルタン(Olmesartan)のパテントクリフ

第一三共バリューレポート2013によれば、第3期中期経営計画の経営課題は、「オルメサルタンのパテントクリフを越え、持続的成長を実現する」ために、抗血小板剤プラスグレル・抗凝固剤エドキサバンにいかにスムーズにつないでいくか、ということである。オルメサルタンのマーケティング/セールスのグローバル戦略として、欧米市場では、配合剤へのシフトを中心としたライフサイクルマネジメントを展開する。特に欧州では、より長く独占販売期間を確保できるセビカー、セビカーHCTへのシフトを加速させる。新興国では市場開拓の余地がかなり残っており、中国でのセビカー発売を機に継続的な成長を図るなど、オルメサルタンのポジション強化に努める。日本では引き続き、降圧効果の強さや効果の持続性、あるいは心・腎保護作用を有するといった、同じタイプの高血圧治療剤の中でもベストインクラスのプロフィールを訴求し、また低用量5mgから高用量40mgまでの幅広い治療オプションを提供できる薬剤であることをアピールしていく。

Benicar(オルメサルタン単剤)の米国での承認(2002年4月25日)から既に10年以上経過しており、Orangebookによれば、BenicarのOrangebook収載特許は2つ。ひとつはオルメサルタンの化合物特許(5,616,599)であり、2016年には満了する。もうひとつは、6,878,703だが、delistがrequestされている。

オルメサルタンの配合剤としては下記製品が米国で上市されている。
  • BENICAR HCT: 有効成分が、HYDROCHLOROTHIAZIDE; OLMESARTAN MEDOXOMIL。Orangebook収載特許は2016に満了する5,616,599と6,878,703(delist requested)。
  • AZOR: 有効成分が、AMLODIPINE BESYLATE; OLMESARTAN MEDOXOMIL。Orangebook収載特許は2016に満了する5,616,599のみ。
  • TRIBENZOR: 有効成分が、AMLODIPINE BESYLATE; HYDROCHLOROTHIAZIDE; OLMESARTAN MEDOXOMIL。Orangebook収載特許は2016に満了する5,616,599のみ。

日本の化合物特許(登録番号: 2082519、公告番号: 特公平07-121918)は存続期間延長登録され(出願番号2004-700025、2004-700026、2004-700027、2010-700081、2010-700082。いずれも5年の延長)、存続期間満了日は2017年2月21日となっている。

つまり、オルメサルタン製品は単剤及び配合剤も含めて2016年に米国特許が満了、日本でも化合物特許が2017年に満了し、第一三共は、いわゆるオルメサルタンのパテントクリフに直面することになる。

第一三共バリューレポート2013より:


オルメサルタン(olmesartan):
    三共(現:第一三共)が見出したアンジオテンシンⅡ(AⅡ)受容体拮抗薬であり、イミダゾール環カルボキシル基をエステル化してプロドラッグとした化合物(CS-866、オルメサルタン メドキソミル、olmesartan medoxomil)。「高血圧症」を効能・効果として日本では2004年1月29日に10mg錠及び20mg錠について承認された。日本での販売名はオルメテック。米国の販売名はBenicar。
参考:

Jan 4, 2014

2012.12.25 「塩野義 AstraZeneca Crestorのロイヤリティーの枠組みの契約変更へ」

塩野義(Shionogi)は、2013年12月25日の取締役会で、AstraZenecaから塩野義に支払われている高コレステロール血症治療薬Crestor®のロイヤリティーの枠組みを2014年1月1日から変更するための契約を両社間で締結すること等について決議した。新たな枠組みに関する契約の締結後、ロイヤリティーの料率と受取期間は下記のとおり変更される。

(i) 2014年から2016年までのロイヤリティー料率が、従来のロイヤリティー料率から数%を減少させた料率へ変更される。

(ii) ロイヤリティーの受取期間は、現在の2016年までから変更後には2023年までへ、7年間延長される。また、現在は設定されていないが、今回の契約変更により、2014年から2020年までの間、塩野義が受け取るロイヤリティーに年間数億ドルの最低受取額が設定される。

参照:

Rosuvastatinの米国での承認(2003年8月12日)から既に10年が経過しており、Orangebookによれば、収載特許のうち塩野義が唯一保有している特許(Rosuvastatinを包含する化合物特許)(RE37314: 5,260,440のreissue patent)も2016年には満了する。

U.S. Securities and Exchange Commissionのwebsiteから得られる塩野義とZenecaの間で1998年4月20日付けで締結されたライセンス契約情報によれば、塩野義は契約上定義された特許(米国であれば5,260,440)の満了日か、上市から10年、のいずれか遅い日までロイヤリティーを得ることができる枠組みになっていることから、米国におけるロイヤリティー受取期間は2016年までであることがわかる。

各年度の決算短信によれば、クレストールのライセンス収入は下記のように推移しているが、2016年でロイヤリティー収入が途絶えたとき、いわゆる「クレストールクリフ」、へのリスクヘッジとして今回の契約変更を行い、その衝撃をできるだけ緩和させて乗り切ろうという経営判断をしたということになる。

2013年度: ???億円
2012年度: 630億円
2011年度: 647億円
2010年度: 642億円
2009年度: 500億円
2008年度: 343億円
2007年度: 298億円
2006年度: 194億円
2005年度: 81億円