Jun 8, 2014

2014.05.30 「帝人 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10399

特許権の存続期間延長登録が認められなった事例(リノコートパウダースプレー鼻用のノズル(カウンター付)): 知財高裁平成24年(行ケ)10399

【背景】

「粉末薬剤多回投与器」に関する特許権の存続期間延長登録出願(特願2010-700060)の拒絶審決(不服2010-28132)取消訴訟。

本件処分(販売名: リノコートパウダースプレー鼻用25μg)は、粉末薬剤としての成分及び分量、用法、用量、効能、効果等は、本件先行処分と全く同じ。変更事項は、製造方法として、一体型多回噴霧器の「ノズル」を「ノズル(カウンター付)」に変更するもので、容器の形態は、本件先行処分のものから、ノズル部分に噴霧回数を表示するカウンターを設けるため、旧製剤と比較して、噴霧器本体の全高を若干高くし、ノズルの長さも若干短くすることで、容器内にカウンターの搭載スペースを確保し、噴霧操作のノズルの回転動作に連動して噴霧回数を計測し表示するカウンターをノズルに搭載した点で、変更を加えたものだった(カウンターの説明はこちら)。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所は、特許法67条の3第1項1号を理由とする拒絶査定の要件について
「特許法67条の3第1項1号は,特許権の存続期間の延長登録出願を拒絶する要件~のうち,前記①の「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との第1の要件の有無を判断するに当たっては,医薬品の審査事項である「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」の各要素を形式的に適用して判断するのではなく,存続期間の延長登録制度を設けた特許法の趣旨に照らして実質的に判断することが必要となる。
本件においては,本件先行処分は薬事法14条1項に基づく医薬品の製造販売に係る承認であり,本件処分は同条9項に基づく承認事項の一部変更の承認である。
これに対し,特許権の存続期間の延長登録の出願の対象となった本件発明は,粉末薬剤の多回投与器という,特定の薬物を前提としない特許発明であり,前記1(1)カのとおり,多種多様な粉末薬剤を使用することが想定されており,また,前記1(1)オ,キ及びクのとおり,容器の材質,構造等についても多様な実施形態が想定されている。そうすると,本件において,薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「その特許発明の実施」の範囲は,本件先行処分及び本件処分の具体的な内容と本件発明の内容とを照らし合わせて,個別具体的に判断する必要がある。」
と言及し、本件について下記のとおり判断した。
「本件処分を受けたことによって禁止が解除された行為は,ノズルにカウンターを搭載したことのみにあると認められる。~ノズルに,噴霧回数を計測し表示するカウンターを搭載することは,本件特許の特許請求の範囲には記載がなく,本件明細書にも記載がないことは,当事者間に争いがない。~本件製剤は,本件発明1の実施品である旧製剤のノズルにカウンターを付すことによって,旧製剤が奏する~本件発明1の効果に対し,噴霧回数の表示という付加的機能を実現したものにすぎず,カウンターの設置に伴い,ノズルの面積や構造などに若干の設計変更が加えられたものの,旧製剤と形態や機能において異なるものではないことが認められる。
以上によれば,まず,本件製剤と旧製剤とは,粉末薬剤としては,成分,分量,用法,用量,効能,効果等において全く同じであると認められる。
そして,本件製剤は,本件先行処分により禁止が解除された本件発明1の実施形態である旧製剤のノズルについて,カウンターを搭載する実施形態に限定したものにすぎないから,本件製剤は,本件発明1の実施形態としては,旧製剤に含まれるというべきである。
そうすると,本件処分は,本件先行処分により禁止が解除された本件発明1の実施形態について,ノズルにカウンターを搭載するという,より限定した形態について本件処分の承認事項の一部を変更したものにすぎないから,本件出願については,前記①の「『政令で定める処分』を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」の要件を充足するということができる。
したがって,本件出願は,特許法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき」に該当するというべきである。」
原告は、下記の主張をした。
「①本件発明1において,手段(13)は,回転することによって一回分の投与量を秤量する機能を有する部材であり,回転回数を記録するカウンターも,回転する部材と密接な関係にあり,医薬品として大きな技術的意味を有し,本件発明1の手段(13)の一部を形成しているから,手段(13)は,発明特定事項として,少なくともカウンターを有しないもの(旧製剤)と,カウンターを有するもの(本件製剤)の2つの下位概念を含むものである,②本件製剤の本質的な特徴は,有効成分ではなく,多回投与器の構造に基づく性能にあるから,カウンターを付加した構造に関する創意工夫に基づく患者の利便性の向上につき,延長登録による保護が与えられるべきである,③カウンターの付加は,旧製剤と比較して,利便性を大きく向上させた重要な相違点であり,多回投与器を適用して患者の利便を図るという基本的な技術的思想の中には手段(13)においてカウンターを付加するという下位概念も含まれており,本件発明の目的(定量噴霧性や操作の簡便性・迅速性)がより一層高いレベルで実現されるのであって,カウンターの付加は,本件発明の技術的思想として大きな関連性を有する改良であるところ,カウンターを有する本件製剤は,本件処分によって初めて禁止が解除されたのであるから,本件製剤の実施態様について,本件発明を実施するためには本件処分が必要であったことは自明である」
しかし、裁判所は、
「本件発明1において,手段(13)は,前記のとおり,薬剤貯蔵室(5a)底面の下部に設けた穴(5c)に連通するものであり,かつ薬剤導出部(2)を充填位置と投与位置との間で移動させる機能を奏しているものであるのに対し,カウンター自体はそのような機能を奏するものではなく,噴霧回数の表示という付加的機能を実現するものにすぎない。そして,カウンターを付加することは,本件先行処分で禁止が解除された実施形態の範囲内において,これを限定付加するものにすぎない。したがって,本件処分を受けたことによって,新たに禁止が解除されたとはいえない。」
として、原告の上記主張はいずれも採用することができないと判断した。

【コメント】

知財高裁大合議判決(2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198)と同日に下された判決である。本事案では拒絶審決は維持された(大合議で特許庁の審査基準が否定されたので、そのロジックは異なるが)。知財高裁は、第一に、粉末薬剤としては、医薬品の「成分,分量,用法,用量,効能,効果」に着目しており、本件処分では、それらが先行処分と全く同じであったこと、そして第二に、一変承認事項が特許発明の特徴とは無関係の付加的事項だったこと、を理由として、「特許発明を実施すること」が一変承認によって新たに禁止が解除されたということはできない、従って、特許権の存続期間の延長登録は認められない(特許法67条の3第1項1号)、と判断した。

本件発明は、医薬品の成分を対象とする特許ではなく、「粉末薬剤多回投与器」を対象とする特許であるから、大合議判決で判断された事件のような“医薬品の成分”を対象とする特許と同じように、「成分,分量,用法,用量,効能,効果」にだけ着目して同じように判断するだけでは妥当でない。本事案において、裁判所は、カウンターを搭載したノズルという点で新たな審査が必要とされた一変承認事項と特許発明の特徴(奏する効果)との関係も検討し、旧製剤における先行処分で、本来の特許発明の特徴は、既に禁止が解除されていたとの結論を導いた。

大合議判決以後、延長登録が認められた事例と認められなかった事例が蓄積することで、判断の予見性が高まることを期待する。

延長された特許権の効力についての考察:

本判決では、本件製剤と特許発明との関係を検討するに当たり、「本件製剤は,本件発明1の実施形態としては,旧製剤に含まれるというべきである。」と解釈している。この関係性(発明の一実施形態にすぎない製剤は、旧製剤の処分によって禁止が解除された発明に含まれる)の解釈を、後発品は、先発品の処分によって延長された特許権の効力範囲に含まれるどうかという点にまで飛躍して考えてみると・・・まず初めに「成分、効能、効果、用法、用量」に着目して検討するとしても、「特許発明の奏する効果に付加的機能を加えた一実施形態に過ぎないもの」(例えば、添加剤を含めた成分が完全一致しない医薬品であっても一実施形態に過ぎない後発品)に対しては、発明の一実施形態とみなされて、延長された特許権の効力が及ぶ、という考え方が可能と思われる。いわゆる「完全一致製剤にしか延長特許権の効力が及ばない」というrigidな考え方ではなく、後発品の実態と発明の内容も具体的に検討して結論を導き出すという考え方は、大合議判決で言及された下記下線部分

「特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然であるといえる。)」。

と不整合な点はないように思われる。

参考:

9 comments:

Anonymous said...

 大合議判決と同じ日に、こんな判決も出ていたのですね。
 判示された、「より限定した形態について本件処分の承認事項の一部を変更したものにすぎない」とか、「本件先行処分で禁止が解除された実施形態の範囲内において、これを限定付加するものにすぎない」といったロジックは、審決にも被告の主張にも明示的には現れていないようですが、弁論主義には反しないのでしょうか?
 また、「成分(有効成分以外)、分量、用法、用量、効能、効果」の一部の変更であっても、単なる実施形態の限定付加にすぎないものはあると思いますが、そのような場合には、延長登録は認められないのでしょうか?

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、「成分(有効成分以外)、分量、用法、用量、効能、効果」の一部の変更であっても、単なる実施形態の限定付加にすぎないものの場合には延長登録認められるのかどうか・・・。このケースでは薬剤自体に変更は無かったし、発明の特徴とも無関係の部分での変更だったこともあり、「実施形態の限定付加」云々というややこしい話になったのかもしれません。いずれにしても、特許権者の側からすれば、気にせず出願するんでしょうね。
また、弁論主義ですが、その部分は、ロジックというか事実を言い換えただけで、特に主張されていなかった新たな事実ではないでしょう。反しないように思いますが。

Anonymous said...

 コメントありがとうございました。
 実際に単に実施形態の限定付加にすぎないような「成分(有効成分以外)、分量、用法、用量、効能、効果」の一部の変更のケースが拒絶されて出訴されないと、どうなるかは分からないのでしょうね。

Anonymous said...

 仮に、特許明細書に発明の実施形態の一つとして「カウンター付ノズル」が記載されていて、特許請求の範囲にも対応する従属項が記載されていたとしたら、結論は変わっていたでしょうか。

 後行処分の医薬品が、特許発明の「実施形態」としては先行処分の医薬品に含まれる、という理由で、延長登録を認めるべきでないなら、本事件のような場合とは異なり、医薬品の成分を対象とする特許の場合でも、特に新たな効果を奏する訳ではない些細な実施形態の限定を付しただけの従属項が特許請求の範囲に記載されているか否かで、判断が変わってしまうのは不合理ではないかと思います。

 ちなみに、この判決は確定したのでしょうか。それとも原告は上告したのでしょうか。

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございます。
仮に、特許明細書に発明の実施形態の一つとして「カウンター付ノズル」が記載されていて、特許請求の範囲にも対応する従属項が記載されていたとしても、裁判所は①要件で禁止が解除されたとはいえないと判断していますし、カウンター自体は本件発明の本質ではない「付加的」なものであると裁判所はとらえています(これは②要件として検討しているのではなくあくまで①要件としての検討のようです)ので、結論は変わらないように私は思います。

知財高裁の判断は、後行処分の医薬品の実施形態が特許請求の範囲に含まれるか否かは②要件として必須としていますが、「従属項に記載されているか否か」とは無関係だと思います...ご懸念の内容と噛み合っていないコメントでしたらすいません。

J-Plat-Patで特許出願2010-700060の審判情報の出訴上告記事欄によれば上告受理申立したようです。上告受理番号(平26行ヒ00386)と記載されています。

Anonymous said...

 
 コメントありがとうございました。
 
 仮に、本件特許に「カウンター付ノズル」の従属項があったとして、原告が、先行処分の医薬品は当該従属項に係る「特許発明」の技術的範囲に属しないから、本件処分を受けるまで当該発明を実施できなかった、と主張していたとしら、結果は微妙だったのではないでしょうか。
 
 この事件は上告されていたのですね。確認していただき、ありがとうございました。
 
 もしかしたら、大合議事件の上告審と同時に最高裁が判決を下す可能性もありますね。
 

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございます。

最高裁で示された、いわゆる「属しない要件」の考えですね。理解しました。

本事件が最高裁で審理されたとしたら興味深い判決が出るかもしれませんね。

2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326
http://www.tokkyoteki.com/2011/05/20110428-v-21326.html

Anonymous said...

 
 そうなんです。
 
 以前にFubukiさんが記事にされていた、
 
2011.03.28 「シャイアー v. 特許庁長官」 知財高裁平成22年(行ケ)10177
http://www.tokkyoteki.com/2011/08/20110328-v-2210177.html

の判決では、延長登録を認めるべきとされ、その根拠となったのは、従属項である請求項12でしたが、「付加的な活性成分と組み合わせて含む」という事項は、まさに単なる実施形態に過ぎないのではないかと思います。
 
 同じ単なる実施形態でも、従属項として明示があるか否かかで、判断が変わってしまうとしたら、非常に不合理ではないでしょうか。
 
 来るべき(?)最高裁判決で、この従属項の問題にまで踏み込んだ判断が示されるかどうか、注目ですね。
 

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございます。
特許庁、知財高裁、最高裁と、それぞれ異なる要件と視点で個々の判断をしていることもあり、混乱が生じていますね。ご指摘の点は、もっと論文や業界からの提起により、具体的な問題が存在するのだということを世の中に広めるべきなのではないかとも思います。
貴重なご指摘ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。