Sep 8, 2014

2014.07.30 「X v. アルコン リサーチ, 協和発酵キリン」 知財高裁平成25年(行ケ)10058

「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10058

【背景】

「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」に関する特許第3068858号について原告(X)がした無効審判請求(無効2011-800018)を不成立とした審決の取消訴訟。主な争点は進歩性であり、下記クレームの「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という発明特定事項が甲1及び甲4から動機付けられるか否かである。

請求項1:
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な,点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって,治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する,ヒト結膜肥満細胞安定化剤。
本件明細書では、11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を「化合物A」と略している。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2011-800018号事件について平成25年1月22日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「甲1には,アレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679(化合物Aのシス異性体の塩酸塩)を含有する点眼剤が記載され,また,甲1には,モルモットに抗原誘発及びヒスタミン誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果,KW-4679の点眼は,10及び100ng/μlの濃度で,抗原誘発したアレルギー性結膜炎症に有意な抑制作用を示したこと,及び抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示したことが記載されていることは,前記~のとおりである。
そして,~本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット,モルモットの動物結膜炎モデルが作製され,点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていたこと,本件特許の優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書(「薬効・薬理」欄)には,各有効成分がラット,モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや,ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミン等の化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていたことからすると,甲1に接した当業者は,甲1には,KW-4679が「ヒト」の結膜肥満細胞に対してどのように作用するかについての記載はないものの,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあるものと認められる。

そして,本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,当該薬剤における肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対する拮抗作用とそれらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用の二つの作用を確認することが一般的に行われていたことは,前記~認定のとおりであるから,当業者は,甲1記載のKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに際し,KW-4679が上記二つの作用を有するかどうかの確認を当然に検討するものといえる。

加えて~甲4には,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)及びその薬理上許容される塩のPCA抑制作用について,「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ」るとの記載がある。この記載は,ヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験に基づく記載ではないものの,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)の薬理作用の一つとして肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)の遊離抑制作用があることの仮説を述べるものであり,その仮説を検証するために,化合物Aについて肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用があるかどうかを確認する動機付けとなるものといえる。
そうすると,甲1及び甲4に接した当業者においては,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに当たり,KW-4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有するかどうかを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けがあるものと認められる。

~以上によれば,甲1及び甲4に接した当業者は,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあり,その適用を試みる際に,KW-4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有することを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有することを確認する動機付けがあるというべきであるから,KW-4679についてヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用(「ヒト結膜肥満細胞安定化」作用)を有することを確認し,「ヒト結膜肥満安定化剤」の用途に適用することを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件訂正発明1及び2における「ヒト結膜肥満細胞安定化」という発明特定事項は,甲1及び甲4に記載のものからは動機付けられたものとはいえないとして,甲1を主引例とする進歩性欠如の原告主張の無効理由2は理由がないとした本件審決の判断は,誤りである。」
【コメント】

引用文献甲1には、点眼剤として化合物Aが動物モデルでのアレルギー性結膜炎を抑制することが記載されていたが、本願発明は「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」であるのに対し、引用文献甲1には化合物Aがどのように作用するかについての記載はなかった点で相違していた。このように作用メカニズムの観点から発明を特定することが医薬用途の発明として実質的に新たな技術的意義を持たせることになるのかどうかは疑問が残るが、本事案における引用文献甲1には、化合物Aの結膜肥満細胞安定化作用に関して否定的な記載があったことが事案を複雑にしたのかもしれない。本件特許は、存続期間延長登録(2006-700064)がなされたため、存続期間満了日は2021年5月3日だった。ところで欧米では成立している(EP0799044 (B1); US5641805 (A))。

参考:
審査基準第VII部第3章医薬発明2.2(3)新規性の判断(3-2)特定の属性に基づく医薬用途に関して(3-2-1)特定の疾病への適用(d)には下記のように記載されている。
「請求項に係る医薬発明の医薬用途が、引用発明の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないものであり、両医薬用途が実質的に区別できないときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。」
[例]
(引用発明)抗菌剤 → (本願医薬発明)細菌細胞膜形成阻止剤
KW-4679 (Olopatadine hydrochloride):

オロパタジン塩酸塩 (Olopatadine hydrochloride) は、協和発酵工業(株)(現 協和発酵キリン(株))が創製した抗アレルギー剤。日本においては、2000年12月に経口剤(販売名:アレロック錠2.5・5)が「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う 痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚 痒症、尋常性乾癬、多形滲出性紅斑)」に対する効能・効果で承認された。抗アレルギー点眼剤としては、米国アルコン社が協和発酵工業(株)(現:協和発酵キリン(株))よりライセンス供与を受け開発、アレルギー性結膜炎を効能効果とした薬剤として、2006年7月にパタノール®点眼液0.1%が承認された。

2012.5.21 【謹告】オロパタジン塩酸塩に関する特許権等について

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