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2014.08.07 「セルジーン v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10170

異性体の進歩性、一行記載の用途の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10170

【背景】

「(+)-2-[1-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-メチルスルホニルエチル]-4-アセチルアミノイソインドリン-1,3-ジオン,その使用方法及び組成物」に関する特許出願(特願2003-577877; 特表2005-525386)の拒絶審決取消訴訟。引用発明の化合物の(+)異性体を選択して、それを乾癬という特定の疾患の治療用に用いることへの進歩性の可否が争点。

請求項1:

立体異性体として純粋な(+)-2-[1-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-メチルスルホニルエチル]-4-アセチルアミノイソインドリン-1,3-ジオン,又はその製薬上許容される塩,溶媒和物若しくは水和物;及び製薬上許容される担体,賦形剤又は希釈剤を含む,乾癬治療用医薬組成物。

【要旨】

主 文

1 原告の請求を棄却する。(他略)

裁判所の判断

1.相違点についての判断誤りについて

裁判所は、

「引用例1には,PDE4を特異的に阻害する化合物は副作用を最小限にして炎症の阻害を発揮するであろうことが,PDE4を阻害するとcAMPの分解が抑制される結果,TNF-α及びNF-κB等の炎症性メディエーターの放出が阻害されるという機序とともに記載され,炎症性疾患の一例として乾癬が記載されているのであるから,引用例1に接した当業者は,引用発明の化合物が乾癬を含む炎症性疾患一般に対して治療効果を有するであろうことを合理的に理解することができる。
引用発明の化合物は,不斉炭素原子が1つあるから,2つの光学異性体を有する。
当業者は,前記(3)のとおりの技術常識の下では,引用発明の化合物について光学異性体を得て,それらの薬理活性や薬物動態について検討をし,乾癬に適したものを選択することは,通常行うことと考えられる。そして,引用発明の化合物の光学異性体が容易に入手できるものであることやTNF-α阻害活性,PDE4阻害活性,cAMP上昇活性等の薬理活性が慣用の方法により測定できることからすると,引用発明の化合物の二つの光学異性体のうち炎症性疾患の治療により適した方を選択し,炎症性疾患の一つである乾癬に適用することとして本願補正発明に至ることについては,当業者が容易になし得たことであると認められる。」

と判断した。

2.効果の顕著性の看過について

裁判所は、

「光学異性体が構成として容易想到であるにもかかわらず,当該光学異性体のもつ薬理活性が公知のラセミ体のそれと比較して顕著であることを根拠として当該光学異性体についての進歩性が肯定されるかは,当該光学異性体のラセミ体と比較した薬理活性の意義や性質,薬理活性の差異が生体内におけるものか試験管内でのものか,当該化合物に関する当業者の認識その他の事情を総合考慮して,当該光学異性体の薬理活性が当業者にとって予想できない顕著なものであったかが探究されるべきもので,単に薬理活性がラセミ体の2倍であるとの固定的な基準によって判断されるべきものではないと解するのが相当である。」

と言及し、この点を念頭において、本願発明の効果を、ラセミ体である引用発明の化合物の効果と比較検討した結果、

「本願明細書から把握される本願補正発明の効果は,いずれも引用発明と比較して当業者が予測し得る範囲を超えた格別顕著なものとまでは認めることはできない。また,薬理作用,バイオアベイラビリティ及び低い副作用という三つの側面を総合して評価しても,本願化合物が,ラセミ体については光学異性体に分離してそれぞれの薬理作用等を検討し,目的に適したものを選択するという本願優先日当時の技術常識にのっとって,引用発明の化合物の二つの光学異性体のうちから(+)異性体を選択した結果もたらされたものにすぎないことを考慮すれば,進歩性を肯定するに足りるものではない。」

と判断した。

【コメント】

1. 引用例中のいわゆる用途の一行記載の進歩性判断への取り扱いについて

原告は、

「引用例1には,引用発明の化合物が乾癬に対する薬理作用を有することが実質的に示されていないから,仮に審決が認定した技術常識が正しいとしても,それを適用する前提が欠けている」

と主張したが、裁判所は、

「当業者は,引用例1の記載から,引用発明の化合物がTNF-α及びPDE4の望ましくない作用を阻害する活性を有することが読み取れ,それによって炎症性疾患一般に対して薬理作用を発揮するであろうことを理解することができる。原告は,本願補正発明が炎症性疾患の中でも特に乾癬を対象とするものであることを強調するが,乾癬は,引用例1にも記載されているとおり,炎症性疾患の一つであって,炎症性疾患一般に効果を有する化合物が乾癬に効果を有しないと理解するべき理由もない。本願明細書においても,乾癬は羅列列挙された多数の炎症性疾患のうちの一つにすぎず,本願補正発明が炎症性疾患の中でも乾癬に特化した医薬組成物であると認めるに足りる記載は見いだせない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。」

と判断した。

審査基準第VII部第3章「医薬発明」2.2.2.新規性の判断の手法、(2)刊行物に記載された発明の認定には下記のように記されている。

「当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に列挙されている場合は、当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることが明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず、当該刊行物に医薬発明が記載されているとすることはできない。」

この「裏付け」とは、当業者が、刊行物の記載から、その疾患に対して作用を発揮するだろうことが理解できるか、効果を有しないと理解すべき理由があるか、等を踏まえて検討されるということであろう。引用例中の医薬用途の記載の程度が新規性または進歩性の判断で問題となった近年の事例として例えば下記のような事件があった。

2. ラセミ体から単一異性体の進歩性について

公知のラセミ体化合物から、単一の異性体の発明の進歩性が争われたケースはこちら
やはり、進歩性のあるケースは稀ということになるだろう。本願に関連して、まだ分割出願が係属中であり、医薬用途がそれぞれ異なる(特願2009-297650は癌治療用途、特願2012-242868はベーチェット病治療用途)。この医薬用途の相違点がどのように判断されるかは別として、引用例のラセミ体との相違点が単一の異性体である点についての主張は、容易想到とされるだろう。

3. 対象製品について

欧州では成立(EP1485087B)したが異議申し立てにより無効と判断され、出願人は審判を請求した。米国は複数の特許に分かれて成立。Orangebook databaseやCelgene websiteの情報によれば、米国特許のうち、いくつかはOTEZLA®(有効成分はapremilast)を保護する特許であることがわかる。

参考:

Celgene Financial Information: First Quarter 2014 Financial Results

OTEZLA®: On March 21, the U.S. FDA approved OTEZLA®, the Company’s oral, selective inhibitor of phosphodiesterase 4, for the treatment of adult patients with active psoriatic arthritis. The FDA is reviewing OTEZLA® for the treatment of moderate-to-severe plaque psoriasis with a Prescription Drug User Fee Act (PDUFA) date of September 23, 2014. A combined submission of OTEZLA® for the treatment of psoriatic arthritis and for psoriasis is under review with the EMA and an opinion from the European Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) is expected by year-end.

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