Sep 22, 2014

小野薬品・BMSがMerckを抗PD-1抗体特許侵害で提訴

抗PD-1抗体の癌治療用途に関する米国特許(US 8,728,474)を保有する小野薬品及びそのexclusive licenseeであるBristol-Myers Squibb(BMS)は、Merckが米国で抗PD-1抗体KEYTRUDA®(pembrolizumab)の承認を2014年9月4日に得たことを受け、同日付けで、Merckに対して特許侵害訴訟をデラウェア地区連邦地裁に提起しました。
2014年8月4日付のMerckのSEC Form 10-Qの22ページによれば、Merckは同米国特許のファミリーである欧州特許(EP 1537878B)について異議申立をしていましたが、2014年6月4日に開かれた口頭審理で特許は有効と判断されたようです。
また、2014年7月には小野薬品とBMSが英国でのMerckのpembrolizumabの上市に対して特許侵害訴訟を提起したり、一方で、Merckは小野薬品が保有する抗PD-1抗体に関する別の欧州特許(EP2161336B)に対しても異議申立をしたり。
小野薬品は2014年7月4日に世界で始めて抗PD-1抗体オプジーボ(OPDIVO)®(一般名: ニボルマブ、nivolumab)の承認を日本で得て、同9月2日に販売を開始しましたが、日本以外の市場参入はMerckに先を越されており、抗PD-1抗体市場が特許係争とともに騒がしくなってきました。

参考:

Sep 16, 2014

2014.08.07 「セルジーン v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10170

異性体の進歩性、一行記載の用途の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10170

【背景】

「(+)-2-[1-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-メチルスルホニルエチル]-4-アセチルアミノイソインドリン-1,3-ジオン,その使用方法及び組成物」に関する特許出願(特願2003-577877; 特表2005-525386)の拒絶審決取消訴訟。引用発明の化合物の(+)異性体を選択して、それを乾癬という特定の疾患の治療用に用いることへの進歩性の可否が争点。

請求項1:
立体異性体として純粋な(+)-2-[1-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-メチルスルホニルエチル]-4-アセチルアミノイソインドリン-1,3-ジオン,又はその製薬上許容される塩,溶媒和物若しくは水和物;及び製薬上許容される担体,賦形剤又は希釈剤を含む,乾癬治療用医薬組成物。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

1.相違点についての判断誤りについて

裁判所は、
「引用例1には,PDE4を特異的に阻害する化合物は副作用を最小限にして炎症の阻害を発揮するであろうことが,PDE4を阻害するとcAMPの分解が抑制される結果,TNF-α及びNF-κB等の炎症性メディエーターの放出が阻害されるという機序とともに記載され,炎症性疾患の一例として乾癬が記載されているのであるから,引用例1に接した当業者は,引用発明の化合物が乾癬を含む炎症性疾患一般に対して治療効果を有するであろうことを合理的に理解することができる。
引用発明の化合物は,不斉炭素原子が1つあるから,2つの光学異性体を有する。
当業者は,前記(3)のとおりの技術常識の下では,引用発明の化合物について光学異性体を得て,それらの薬理活性や薬物動態について検討をし,乾癬に適したものを選択することは,通常行うことと考えられる。そして,引用発明の化合物の光学異性体が容易に入手できるものであることやTNF-α阻害活性,PDE4阻害活性,cAMP上昇活性等の薬理活性が慣用の方法により測定できることからすると,引用発明の化合物の二つの光学異性体のうち炎症性疾患の治療により適した方を選択し,炎症性疾患の一つである乾癬に適用することとして本願補正発明に至ることについては,当業者が容易になし得たことであると認められる。」
と判断した。

2.効果の顕著性の看過について

裁判所は、
「光学異性体が構成として容易想到であるにもかかわらず,当該光学異性体のもつ薬理活性が公知のラセミ体のそれと比較して顕著であることを根拠として当該光学異性体についての進歩性が肯定されるかは,当該光学異性体のラセミ体と比較した薬理活性の意義や性質,薬理活性の差異が生体内におけるものか試験管内でのものか,当該化合物に関する当業者の認識その他の事情を総合考慮して,当該光学異性体の薬理活性が当業者にとって予想できない顕著なものであったかが探究されるべきもので,単に薬理活性がラセミ体の2倍であるとの固定的な基準によって判断されるべきものではないと解するのが相当である。」
と言及し、この点を念頭において、本願発明の効果を、ラセミ体である引用発明の化合物の効果と比較検討した結果、
「本願明細書から把握される本願補正発明の効果は,いずれも引用発明と比較して当業者が予測し得る範囲を超えた格別顕著なものとまでは認めることはできない。また,薬理作用,バイオアベイラビリティ及び低い副作用という三つの側面を総合して評価しても,本願化合物が,ラセミ体については光学異性体に分離してそれぞれの薬理作用等を検討し,目的に適したものを選択するという本願優先日当時の技術常識にのっとって,引用発明の化合物の二つの光学異性体のうちから(+)異性体を選択した結果もたらされたものにすぎないことを考慮すれば,進歩性を肯定するに足りるものではない。」
と判断した。

【コメント】

1. 引用例中のいわゆる用途の一行記載の進歩性判断への取り扱いについて

原告は、
「引用例1には,引用発明の化合物が乾癬に対する薬理作用を有することが実質的に示されていないから,仮に審決が認定した技術常識が正しいとしても,それを適用する前提が欠けている」
と主張したが、裁判所は、
「当業者は,引用例1の記載から,引用発明の化合物がTNF-α及びPDE4の望ましくない作用を阻害する活性を有することが読み取れ,それによって炎症性疾患一般に対して薬理作用を発揮するであろうことを理解することができる。原告は,本願補正発明が炎症性疾患の中でも特に乾癬を対象とするものであることを強調するが,乾癬は,引用例1にも記載されているとおり,炎症性疾患の一つであって,炎症性疾患一般に効果を有する化合物が乾癬に効果を有しないと理解するべき理由もない。本願明細書においても,乾癬は羅列列挙された多数の炎症性疾患のうちの一つにすぎず,本願補正発明が炎症性疾患の中でも乾癬に特化した医薬組成物であると認めるに足りる記載は見いだせない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

審査基準第VII部第3章「医薬発明」2.2.2.新規性の判断の手法、(2)刊行物に記載された発明の認定には下記のように記されている。
「当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に列挙されている場合は、当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることが明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず、当該刊行物に医薬発明が記載されているとすることはできない。」
この「裏付け」とは、当業者が、刊行物の記載から、その疾患に対して作用を発揮するだろうことが理解できるか、効果を有しないと理解すべき理由があるか、等を踏まえて検討されるということであろう。引用例中の医薬用途の記載の程度が新規性または進歩性の判断で問題となった近年の事例として例えば下記のような事件があった。

2. ラセミ体から単一異性体の進歩性について

公知のラセミ体化合物から、単一の異性体の発明の進歩性が争われたケースはこちら
やはり、進歩性のあるケースは稀ということになるだろう。本願に関連して、まだ分割出願が係属中であり、医薬用途がそれぞれ異なる(特願2009-297650は癌治療用途、特願2012-242868はベーチェット病治療用途)。この医薬用途の相違点がどのように判断されるかは別として、引用例のラセミ体との相違点が単一の異性体である点についての主張は、容易想到とされるだろう。

3. 対象製品について

欧州では成立(EP1485087B)したが異議申し立てにより無効と判断され、出願人は審判を請求した。米国は複数の特許に分かれて成立。Orangebook databaseやCelgene websiteの情報によれば、米国特許のうち、いくつかはOTEZLA®(有効成分はapremilast)を保護する特許であることがわかる。


参考:

Celgene Financial Information: First Quarter 2014 Financial Results
OTEZLA®: On March 21, the U.S. FDA approved OTEZLA®, the Company's oral, selective inhibitor of phosphodiesterase 4, for the treatment of adult patients with active psoriatic arthritis. The FDA is reviewing OTEZLA® for the treatment of moderate-to-severe plaque psoriasis with a Prescription Drug User Fee Act (PDUFA) date of September 23, 2014. A combined submission of OTEZLA® for the treatment of psoriatic arthritis and for psoriasis is under review with the EMA and an opinion from the European Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) is expected by year-end.

Sep 8, 2014

2014.07.30 「X v. アルコン リサーチ, 協和発酵キリン」 知財高裁平成25年(行ケ)10058

「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10058

【背景】

「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」に関する特許第3068858号について原告(X)がした無効審判請求(無効2011-800018)を不成立とした審決の取消訴訟。主な争点は進歩性であり、下記クレームの「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」という発明特定事項が甲1及び甲4から動機付けられるか否かである。

請求項1:
ヒトにおけるアレルギー性眼疾患を処置するための局所投与可能な,点眼剤として調製された眼科用ヒト結膜肥満細胞安定化剤であって,治療的有効量の11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸またはその薬学的に受容可能な塩を含有する,ヒト結膜肥満細胞安定化剤。
本件明細書では、11-(3-ジメチルアミノプロピリデン)-6,11-ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン-2-酢酸を「化合物A」と略している。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2011-800018号事件について平成25年1月22日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「甲1には,アレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679(化合物Aのシス異性体の塩酸塩)を含有する点眼剤が記載され,また,甲1には,モルモットに抗原誘発及びヒスタミン誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果,KW-4679の点眼は,10及び100ng/μlの濃度で,抗原誘発したアレルギー性結膜炎症に有意な抑制作用を示したこと,及び抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示したことが記載されていることは,前記~のとおりである。
そして,~本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット,モルモットの動物結膜炎モデルが作製され,点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていたこと,本件特許の優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書(「薬効・薬理」欄)には,各有効成分がラット,モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや,ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミン等の化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていたことからすると,甲1に接した当業者は,甲1には,KW-4679が「ヒト」の結膜肥満細胞に対してどのように作用するかについての記載はないものの,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあるものと認められる。

そして,本件特許の優先日当時,ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において,当該薬剤における肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対する拮抗作用とそれらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用の二つの作用を確認することが一般的に行われていたことは,前記~認定のとおりであるから,当業者は,甲1記載のKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに際し,KW-4679が上記二つの作用を有するかどうかの確認を当然に検討するものといえる。

加えて~甲4には,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)及びその薬理上許容される塩のPCA抑制作用について,「PCA抑制作用は皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられ」るとの記載がある。この記載は,ヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験に基づく記載ではないものの,化合物20(「化合物A」に相当)を含む一般式で表される化合物(I)の薬理作用の一つとして肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーター(化学伝達物質)の遊離抑制作用があることの仮説を述べるものであり,その仮説を検証するために,化合物Aについて肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用があるかどうかを確認する動機付けとなるものといえる。
そうすると,甲1及び甲4に接した当業者においては,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに当たり,KW-4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有するかどうかを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けがあるものと認められる。

~以上によれば,甲1及び甲4に接した当業者は,甲1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW-4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあり,その適用を試みる際に,KW-4679が,ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有することを確認するとともに,ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有することを確認する動機付けがあるというべきであるから,KW-4679についてヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用(「ヒト結膜肥満細胞安定化」作用)を有することを確認し,「ヒト結膜肥満安定化剤」の用途に適用することを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件訂正発明1及び2における「ヒト結膜肥満細胞安定化」という発明特定事項は,甲1及び甲4に記載のものからは動機付けられたものとはいえないとして,甲1を主引例とする進歩性欠如の原告主張の無効理由2は理由がないとした本件審決の判断は,誤りである。」
【コメント】

引用文献甲1には、点眼剤として化合物Aが動物モデルでのアレルギー性結膜炎を抑制することが記載されていたが、本願発明は「ヒト結膜肥満細胞安定化剤」であるのに対し、引用文献甲1には化合物Aがどのように作用するかについての記載はなかった点で相違していた。このように作用メカニズムの観点から発明を特定することが医薬用途の発明として実質的に新たな技術的意義を持たせることになるのかどうかは疑問が残るが、本事案における引用文献甲1には、化合物Aの結膜肥満細胞安定化作用に関して否定的な記載があったことが事案を複雑にしたのかもしれない。本件特許は、存続期間延長登録(2006-700064)がなされたため、存続期間満了日は2021年5月3日だった。ところで欧米では成立している(EP0799044 (B1); US5641805 (A))。

参考:
審査基準第VII部第3章医薬発明2.2(3)新規性の判断(3-2)特定の属性に基づく医薬用途に関して(3-2-1)特定の疾病への適用(d)には下記のように記載されている。
「請求項に係る医薬発明の医薬用途が、引用発明の医薬用途を新たに発見した作用機序で表現したに過ぎないものであり、両医薬用途が実質的に区別できないときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。」
[例]
(引用発明)抗菌剤 → (本願医薬発明)細菌細胞膜形成阻止剤
KW-4679 (Olopatadine hydrochloride):

オロパタジン塩酸塩 (Olopatadine hydrochloride) は、協和発酵工業(株)(現 協和発酵キリン(株))が創製した抗アレルギー剤。日本においては、2000年12月に経口剤(販売名:アレロック錠2.5・5)が「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う 痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚 痒症、尋常性乾癬、多形滲出性紅斑)」に対する効能・効果で承認された。抗アレルギー点眼剤としては、米国アルコン社が協和発酵工業(株)(現:協和発酵キリン(株))よりライセンス供与を受け開発、アレルギー性結膜炎を効能効果とした薬剤として、2006年7月にパタノール®点眼液0.1%が承認された。

2012.5.21 【謹告】オロパタジン塩酸塩に関する特許権等について

Sep 1, 2014

2014.07.30 「エフ.ホフマン-ラ ロシュ v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10208

化合物の製造方法の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10208

【背景】

「炭酸ジメチルを用いたインドール化合物のメチル化」に関する特許出願(特願2007-129662; 特開2007-254487)の拒絶審決(不服2011-22536)取消訴訟。争点は進歩性の有無。

請求項1(本願発明):
一般式(I):

で表わされるメチル化されたインドール化合物の製造方法であって,
炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下で,周囲圧にて,以下の一般式:


で表わされる化合物を炭酸ジメチルと反応させる操作を含む方法。
本件審決が認定した本願発明と引用発明の相違点:
インドール系化合物のメチル化に際し,本願発明は,「炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下,周囲圧にて,炭酸ジメチルを用いて行う」が,引用発明は,NaHの存在下,CH3Iを用いて行う点。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
「上記(ア)ないし(ウ)の事実からすると,本願の優先権主張日において,構造が相当程度異なる様々な有機化合物についてメチル化剤として炭酸ジメチルが使用されており,その際には,弱塩基である炭酸カリウム(K2CO3)と相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行っていると認めることができる。
したがって,①有機化合物の窒素原子をメチル化する場合,炭酸ジメチルがメチル化剤の候補となること,②メチル化剤として炭酸ジメチルを使用する場合には,弱塩基である炭酸カリウムと相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行うことが,当業者に周知であったと認められる。
また,上記(ア)及び(ウ)からすると,この周知のメチル化方法は,ヨウ化メチル(CH3I)のような生理学的に好ましくない薬剤や水素ナトリウム(NaH)のような高価な塩基を用いた方法の問題点(安全上の問題,副生成物の廃棄の問題,経済上の問題)を解決する可能性がある方法としても当業者に認識されていたと認められる。
以上の検討を総合すると,引用発明は,6-ニトロ-1H-インドールの窒素原子のメチル化をヨウ化メチル(CH3I)を用いて水素ナトリウム(NaH)の存在下で反応を行ったものであるが,刊行物1の趣旨からすれば,窒素原子のメチル化が生じれば足り,メチル化剤や塩基は変更し得るものと理解される一方で,ヨウ化メチルには毒性があり,水素ナトリウムは反応性の高い強塩基であることにかんがみると,当業者にとって,安全上,副生成物の廃棄,経済上の問題を解決するために,引用発明のメチル化方法を,周知の方法であった安全性の高い炭酸ジメチルを用いる上記の方法を試してみることには動機付けがあるといえる。そして,本願発明と引用発明の相違点を構成する「炭酸カリウムおよび/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で」との点は,その文言からして,炭酸カリウム(K2CO3),臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)又はそれら両者のいずれかの存在を必須とするが,その他の塩基や相間移動触媒が存在することを妨げないものと解されるから,弱塩基である炭酸カリウムを用いる上記周知の方法は,これに含まれると認められる。
したがって,相違点に係る本願発明の構成は,当業者が刊行物1の記載及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものである。

顕著な作用効果について
~高温又は高圧が必要でなく,環境に配慮した方法でインドール化合物の窒素原子のメチル化を行う点は,上記周知のメチル化方法の効果として知られていたものにすぎない。
また,~少なくとも本願発明全体が,望む生成物が高品質かつ高い収率で得られるという効果を有すると認めることはできない。
したがって,本願発明は進歩性を推認するに足りる格別顕著な効果を有するものとは認められない。」
【コメント】

米国では成立(US6326501 (B1))、欧州ではかなり限定的になっているようだが成立している(EP1276721 (B1))。
ところで、INPADOCでファミリーを調べると、ヨルダンへ出願しており、成立させている(JO2395 (B))。
PatentScopeでOffice CodeをJO(ヨルダン)にしてデータベース上の全ヨルダン出願を検索、出願人別の分析をすればわかるのだが、実は、PCT経由でヨルダンに出願している出願人のトップがF. Hoffmann-La Roche AG(اف . هوفمان لاروش ايه جي)なのである。

本願発明は、プロテインキナーゼC(“PKC”)の選択的阻害剤である3-(1-メチルインドール-3-イル)-4-(1-メチル-6-ニトロインドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオンという化合物の製造中間体の製造方法として、本願明細書に説明されている。


Public availableなデータベースで上記化合物を検索した情報によれば、現在、CASI Pharmaceuticals, Inc.がRocheからライセンスを受けて、MKC-1というコード名(元コード名はRo 31-7453, R 440)で開発中のようである。

CASI Pharmaceuticals, Inc.のSEC Form 10-K (2013)より抜粋:
MKC-1. Through the acquisition, the Company acquired rights to MKC-1, a Phase 2 clinical candidate licensed from Hoffman-LaRoche, Inc. (“Roche”) by Miikana in April 2005. Under the terms of the agreement, Roche may be entitled to receive future payments upon successful completion of Phase 3 developmental milestones. The Company does not anticipate reaching any of these milestones in 2014. Roche is also eligible to receive royalties on sales and certain one-time payments based on attainment of annual sales milestones. The Company is also obligated to make certain “success fee” payments to ProPharma based on successful completion of developmental milestones under the Roche license agreement. MKC-1 is currently not under active clinical evaluation.