Oct 20, 2014

2014.08.28 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成26年(ワ)770

ピタバスタチンのピタバとPITAVA: 東京地裁平成26年(ワ)770

【背景】

薬剤を指定商品とする商標権(第4942833号)を有する原告(興和)が、被告(Meiji Seikaファルマ)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章の使用の差止め及び被告標章を付した薬剤の廃棄を求めた事案。

被告商品:

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。

裁判所の判断
「被告標章は,被告商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムの略称として被告商品(錠剤)に表示されているものであって,その具体的表示態様は,本件商標権の使用許諾を受けているキョーリンリメディオ株式会社のそれと何ら異なるものではない。そうすると,被告商品の主たる取引者,需要者である医師や薬剤師等の医療関係者は,被告商品に接する際,その販売名に付された会社名(屋号等)「明治」に加えて,被告商品のパッケージであるPTPシートに付された「明治」との表示や被告商品に併せて表示されている「明治」や「MS」の表示によってその出所を識別し,錠剤に表示された被告標章は,被告商品の出所を表示するものではなく,有効成分の説明的表示であると認識すると考えられる。」
原告は、
「ピタバは,取引者,需要者,とりわけ患者において,ピタバスタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえないところ,とりわけ一包化調剤として被告商品を交付された患者は,パッケージであるPTPシート等の表示を認識せず,錠剤の表示に基づいて薬剤の出所を識別する旨主張し,インターネット質問サイトの事例(甲15の1ないし4)からも錠剤の表示が出所識別機能を有することは明らかだ」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「原告の主張のとおり解するとしても,そもそも患者が錠剤の表示に基づいてその出所を識別し当該薬剤の処方を受ける事例は極めて限られていると考えられるし,患者は,医師,薬剤師から被告商品を処方される際に受ける説明等を踏まえて被告標章に接するところ,被告商品には被告標章の他に「明治」や「MS」の表示があること,被告商品は,長期間にわたり反復継続的に購入,服用される薬剤であることも考え合わせれば,患者においても被告標章をもって被告商品の出所の表示であると認識しているとは認め難く,むしろ有効成分の説明的表示であると認識するのが一般的であると考えられる。原告の主張は,採用することができない。
以上のとおりであって,被告標章の使用は,商標的使用に当たらず,本件商標権を侵害するものではないから,原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなく,理由がない。」
と判断した。

【コメント】

やはり、これについては商標権の権利行使は無理だった。

過去記事(参考):

Oct 14, 2014

2014.09.10 「カルピス v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10209

医薬用途発明の進歩性(阻害活性と作用の関係性についての技術常識の認定): 知財高裁平成25年(行ケ)10209

【背景】

「動脈硬化予防剤,血管内膜の肥厚抑制剤及び血管内皮機能改善剤」に関する特許出願(特願2008-500515号)の拒絶審決(不服2011-151号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項10(補正発明):
Ile Pro Pro及び/又はVal Pro Proを有効成分として含有し,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤。
補正発明と引用発明との一致点:
Ile Pro Pro (以下「IPP」という)及び/又は Val Pro Pro (以下「VPP」という)を有効成分として含有する薬剤。
補正発明と引用発明との相違点:
薬剤の用途が,補正発明においては「血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤」であるのに対し,引用発明においては「ACE阻害活性を示す,抗高血圧剤」である点。
【要旨】

裁判所は、本件審決には、本願優先日当時における技術常識についての認定を誤り、結果として、引用発明と引用例2から引用例5との組合せにより補正発明の進歩性を否定した点について誤りがあるから本件審決は取消しを免れないと判断した。
「本願優先日当時においては,ACE阻害剤が血管内皮の収縮・拡張機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示した実例はあるものの,ACE阻害剤であれば原則として上記作用のうち少なくともいずれか一方を有するとまではいえず,個々のACE阻害剤が実際にこれらの作用を有するか否かは,各別の実験によって確認しなければ分からないというのが,当業者の一般的な認識であったものと認められる。~しかも,IPP及びVPPと,引用例2から引用例5に記載されたシラザプリル等のACE阻害剤との間には,以下のとおり,性質,構造において大きな差異が存在する。他方,IPP及びVPPと上記ACE阻害剤との間に,ACE阻害活性を有すること以外に特徴的な共通点は見当たらない。
~前述した本願優先日当時の当業者の一般的な認識に鑑みれば,当業者が,ACE阻害活性の有無に焦点を絞り,引用発明においてIPP及びVPPがACE阻害活性を示したことのみをもって,引用例2から引用例5に記載されたACE阻害剤との間には,前述したとおりACE阻害活性の強度及び構造上の差異など種々の相違があることを捨象し,IPP及びVPPも上記ACE阻害剤と同様に,血管内皮の機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示すことを期待して,IPP及び/又はVPPを用いることを容易に想到したとは考え難い。
また,仮に,当業者において,引用例2から引用例5に接し,前記一般的な認識によれば必ずしも奏功するとは限らないとはいえ,ACE阻害活性を備えた物質が上記作用を示すか否か試行することを想起したとしても,前述したとおり,IPP及びVPPは,性質,構造において上記ACE阻害剤と大きく異なり,特にIPP及びVPPのACE阻害活性は上記ACE阻害剤よりもかなり低いものといえるから,試行の対象としてIPP及び/又はVPPを選択することは,容易に想到するものではないというべきである。
以上によれば,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせて補正発明を想到することは容易とはいえず,本件審決が,「相当程度の確立した知見」を前提として,引用発明と引用例2から引用例5とを組み合わせ,これらを併せ見た当業者であれば,引用発明においてACE阻害活性を有することが確認されたIPP及び/又はVPPを,血管内皮の収縮・拡張機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤として用いることに,格別の創意を要したものとはいえないと判断した点は誤りである。」
【コメント】

医薬用途発明の進歩性判断において、阻害活性と作用の関係性についての技術常識の認定が問題となった。公知化合物の第二医薬用途発明に対して、「その公知化合物の阻害活性(公知)と共通する阻害活性を有する別化合物にその医薬用途が知られていたから、本願化合物にその医薬用途を適用することは容易であり本願医薬用途発明は進歩性が無い」との拒絶理由に反論するために参考になる一事例。

参考:


Oct 5, 2014

2014.08.07 「ノバルティス(脱退前の原告 QLT; 訴訟承継参加人 バリアント) v. 特許庁長官」 知財高裁平成25年(行ケ)10183; 平成26年(行ケ)10019

「反復」の進歩性: 知財高裁平成25年(行ケ)10183; 平成26年(行ケ)10019

【背景】

「眼の光力学的治療による視力改善用組成物」に関する特許出願(特願2006-64119号)の拒絶審決(不服2012-2261号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
下記処置を含む反復ホトダイナミックセラピーにより,眼に不所望の血管新生を含有する人の視力を改善するための組成物であって,薬理学的に許容可能な賦形剤と光活性化合物を含有し,該光活性化合物がグリーンポルフィリンである薬剤組成物:
a)該光活性化合物により吸収される少なくとも1つの波長の光を,その治療を必要とする人の眼に対し,該組成物を投与して該眼中に該化合物の有効量が局在化した後に照射する第1回の処置(但し,該光活性化合物の投与用量は,2~8mg/M2体表面積の範囲とする),並びに
b)該第1回の処置が反復される第1回の反復処置(但し,該平均視力は,該第1回の反復処置により,平均視力の維持のレベルを超えて,増大する)。
審決が認定した引用発明の内容と本願発明との相違点は、引用発明には、b)を含む「反復」ホトダイナミックセラピーに用いるものであることが記載されていない点であった。

【要旨】

裁判所は、容易想到性について
「引用例1の単回のホトダイナミックセラピー臨床試験では,部分的な新生血管の閉止とある程度の視力の改善という目的に沿った結果が得られたものの,閉止されずに残存する新生血管や再発も観察されたのであるから,それらを閉止して視力をさらに改善するよう再度のホトダイナミックセラピー処置を試みることは,前記アの技術水準からみても,医療従事者にとってごく自然な発想である。
したがって,引用発明のホトダイナミックセラピー処置を反復して本願発明に至ることは,当業者が容易に想到し得たことである。」
と判断した。

そして、効果の顕著性について、裁判所は、
「引用発明のホトダイナミックセラピー処置を反復することで,残存あるいは再発した新生血管を閉止でき,その結果,単回の処置に比べて視力がさらに改善するであろうことは,上記(1)のとおり,引用例1の記載から当業者が予測し得ることである。
~本願明細書~によれば,~反復による改善が認められる。しかし,視力の改善は1回の処置でも得られていることに加えて,複数回の処置を繰り返すことによる改善の程度は相加的というべき範囲内のものにすぎず,反復することで予測される範囲を超えた視力の改善が得られたとまでは認められない。まして,本願発明は,処置の間隔や回数について何らの限定もないから,そのような発明の全体にわたって格別顕著な効果が奏されるということはできない。
したがって,本願発明の効果が引用例1の記載から当業者が予測し得る範囲を超えた格別顕著なものとは認めることができない。」
と判断した。

請求棄却。

【コメント】

本願(特願2006-64119号)は、特願平9-532132号(特表2000-506173; WO97/33619; 出願日1997.02.25)の分割出願である。特願平9-532132号でも、「反復」の進歩性が問われ、拒絶審決取消訴訟で請求棄却となっている。治療を「反復」すると言う点での進歩性について本判決とあわせて参考になる。

欧州では、「反復ホトダイナミックセラピーにより」との構成要件を含めたクレームで特許成立(EP0894009B)。米国でもクレームの文言は異なるものの複数の特許が成立している(US5756541A、US5910510A、US6548542B1)。
特に、米国特許US5756541Aは、Visudyne®のOrangebook収載特許のひとつである(patent expirationはMar 11, 2016)。

日本で仮に本願が特許となれば、2017年2月まで製品を保護する特許になるはずだった。本願には、分割出願として特願2012-023024号(特開2012-092145)が存在しており、現在審査中である。

Visudyne®(ビスダイン®)(一般名:ベルテポルフィン(verteporfin))は、中心窩下の脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration:AMD)の治療剤としてノバルティ
ス社が開発した光線力学的療法用製剤であり、日本では2003年10月16日に輸入承認されている。


参考: