Dec 31, 2015

2015年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

(1) 特許権存続期間延長制度を本気で見直すべき時が来たのか?

特許権の存続期間の延長登録出願の登録要件についての最高裁判決(アバスチン事件)。今後、審査基準がどのように改訂されるか、延長された特許権の効力がどうなっていくのか。


(2) プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定および特許発明の技術的範囲は物同一説で判断、明確性要件に一定のハードル

最高裁判決を受けて、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」の主張・立証の参考例が特許庁から公表(2015.11.25)されましたが、「不可能・非実際的事情」の存在が認められうるのかどうかの争いが審査または無効審判等で起きるのは間違いないでしょう。


(3) 2015年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた製品は...HMG-CoA還元酵素阻害剤「リバロ」(一般名:ピタバスタチンカルシウム水和物(Pitavastatin Calcium Hydrate))でした。


ピタバスタチンのピタバとPITAVA
ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピーク

(4) 過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2014年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら

Dec 26, 2015

レボノルゲストレル(Levonorgestrel)を有効成分とする緊急避妊剤「ノルレボ®錠」に関する特許権について

2015年12月25日、あすか製薬(株)より「レボノルゲストレルに関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】レボノルゲストレルに関する特許権について)。

あすか製薬は、レボノルゲストレル(Levonorgestrel)を有効成分とする緊急避妊剤「ノルレボ®錠0.75mg」を製造販売しており、レボノルゲストレルに関し、日本特許第5809367号および日本特許第5809368号の特許権等を有しているとのことです。

これら特許はいずれもレボノルゲストレルの結晶多形及びその製造方法に関するものであり、特許明細書の記載によれば、「ノルレボ®錠0.75mg」に含まれているレボノルゲストレル結晶はこれら特許出願(2014年4月23日)よりも前に公開されているWO2009/035527号公報に開示されたレボノルゲストレル結晶と同一の結晶であるとのことです。

「ノルレボ®錠0.75mg」のレボノルゲストレル結晶を保護したであろう肝心のそのWO2009/035527(出願人SCINOPHARM TAIWAN LTD)は権利化されることなく放棄されたようです。

「ノルレボ®錠0.75mg」は日本で2011年2月23日に製造販売承認され、同年5月から販売されています。再審査期間は4年(~2015年2月22日)。

参考:

1.「レボノルゲストレルの結晶多形α及びその製造方法」に関する特許5809367(特願2014-561675、出願日2014.04.23、登録日2015.09.18、存続期間満了日2034.04.23)
  • 請求項1:
    粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが、2θ=17.2°±0.2°,18.6°±0.2°,22.7°±0.2°,31.1°±0.2°及び35.5°±0.2°の角度に回折ピークを有し、2θ=17.2°±0.2°での回折ピークの強度が最も強く現れるレボノルゲストレルの結晶多形α。
  • 補正(上記下線部分)により特許査定となる前に通知された拒絶査定の内容:
    理由1(特許法第29条第2項)について

    ・請求項1-5
    ・引用文献等1-10

    引用文献1の請求項1-4および図4等には、レボノルゲストレルの結晶多形が記載されており、請求項6-8および2頁等には、当該結晶多形の製造方法も記載されている(以下、引用発明という)。本願請求項1に記載の発明と引用発明は、結晶多形の粉末X線回折スペクトル(回折角度2θ)において、前者が17.2, 18.6, 22.7, 31.1, 35.5度の角度に回折ピークを有するのに対し、後者が同角度に回折ピークを有さない点でのみ相違し、その他の点では一致する。しかし、引用文献1に記載されているように、レボノルゲストレルが容易に結晶化できることは本願優先日前に当業者に知られていたこと;引用文献2-6に記載されているように、化合物は1つ又は複数の結晶形態で存在し得ること、そして、これら複数の結晶形態の間でそれらの物理的および生物学的性質が相違することが観察されることは、医薬化合物の分野の当業者にとって技術常識であると認められるうえ、できるだけ純粋な目的化合物および/または多くの多形形態を得ることは、当業者にとって自明の課題であると解される。そうすると、引用発明に接した当業者であれば、化合物の精製を目的として、および/または、他の結晶形態や多形形態の存在を期待して再結晶を検討して行ったり、得られた結晶の構造をX線回折等の分光学的分析などにより特徴付けたりしようとすることは、極めて自然であると考えられる。してみれば、請求項1および同項を引用する請求項2-5に係る発明は、引用発明ならびに引用文献1-6に記載の発明および本願優先日当時の技術常識から当業者に自明なものであるし、本願発明による効果も当業者の予想を超えるほど格別顕著ではない。さらに、引用文献7の実施例3~4;引用文献8の1376頁;引用文献9の276頁;引用文献10の図2等にもレボノルゲストレルの結晶が記載されていることからすると、請求項1-5に係る発明は、上記の理由と同様の理由により、引用文献7-10ならびに引用文献2-6に記載の発明および本願優先日当時の技術常識から当業者に自明なものでもある。

    平成27年5月28日付けの意見書において、出願人は、本願明細書に記載の非特許文献1には、レボノルゲストレル結晶の融点が232~239℃であり、上記結晶には結晶多形を認めないと明記されていないから、当業者にとって、レボノルゲストレルには結晶多形が存在しないと認識されていた;引用文献には、所定の結晶多形αを有するレボノルゲストレルについては何ら開示も示唆もされていないと指摘し、本願発明は進歩性を有する旨主張する。しかし、一般に化合物は1つ又は複数の結晶形態で存在し得ることが技術常識であることからすれば、たとえ非特許文献1に結晶多形を認めないと明記されていたとしても、当該記載をもってレボノルゲストレルには結晶多形が全く存在しないと客観的に認識することはできないと解される。そして、複数の結晶形態の間でそれらの物理的および生物学的性質が相違することが観察されることは医薬化合物の分野の当業者にとって技術常識であることからすれば、上記の理由の通り、レボノルゲストレルの他の結晶形態や多形形態の存在を期待して再結晶を検討して行ったり、得られた結晶の構造をX線回折等の分光学的分析などにより特徴付けたりしようとすることは、極めて自然であると考えられるし、本願請求項3-4に記載の結晶化方法(ジオキサン+水)も、引用文献7の8頁等には、ジオキサン等の有機溶媒と水から結晶化することが記載されているから、当業者に格別困難を要するものとはいえない。そして、本願明細書および意見書に記載の本願発明の結晶多形による効果は、複数の結晶形態の間で観察されえる物理的および生物学的性質の相違の範囲であると解される。よって、上記出願人の主張は採用しない。

2.「レボノルゲストレルの結晶多形β及びその製造方法」に関する特許5809368(特願2014-561676、出願日2014.04.23、登録日2015.09.18、存続期間満了日2034.04.23)
  • 請求項1:
    粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが、2θ=13.9°±0.2°,14.5°±0.2°,21.3°±0.2°,24.9°±0.2°及び28.2°±0.2°の角度に回折ピークを有し、2θ=18.6°±0.2°の角度に回折ピークを実質的に示さず、2θ=13.9°±0.2°での回折ピークの強度をX1、2θ=14.5°±0.2°での回折ピークの強度をX2、2θ=21.3°±0.2°での回折ピークの強度をX3、2θ=24.9°±0.2°での回折ピークの強度をX4、2θ=28.2°±0.2°での回折ピークの強度をX5としたとき、X1及びX2が、X3、X4及びX5よりも強く現れるレボノルゲストレルの結晶多形β。

Dec 16, 2015

プラバスタチンのプロダクト・バイ・プロセス・クレームに関してテバ社と協和発酵キリンとが争った特許侵害訴訟が終了

2015年12月16日付の協和発酵キリンのpress releaseによれば、協和発酵キリンとテバ社との間で係争していたテバ社保有のプラバスタチンナトリウムに関する特許3737801号に係る特許権侵害訴訟が終了したとのことです。
本件は、2015年6月5日に最高裁により言い渡された、原判決[知財高裁大合議判決]を破棄し、事件を知財高裁に差し戻す旨の判決を受け、知財高裁に係属していましたが、テバ社は2015年12月16日の期日において請求を放棄する旨を陳述したため、同日をもって本件訴訟は終了となり、協和発酵キリンは今後、本件特許権に基づく権利行使を受けることはないとのことです。

参考:


Dec 11, 2015

イーライリリーと特許侵害訴訟中の沢井製薬、エビスタ®後発品「ラロキシフェン塩酸塩錠」が薬価収載

骨粗鬆症治療剤エビスタ®(一般名:ラロキシフェン塩酸塩(Raloxifene Hydrochloride))の後発品である沢井製薬のラロキシフェン塩酸塩錠「サワイ」が薬価収載されました。

日本イーライリリー(株)のpress release( 2015.11.20 「骨粗鬆症治療剤エビスタ®用途特許に関する特許侵害訴訟の反訴提起及び販売差止め等の仮処分命令の申立てについて」)によれば、米国本社イーライリリー・アンド・カンパニーが、沢井製薬に対し、ラロキシフェンの用途特許(特許第2749247号)の侵害を理由として、2015年11月2日、東京地裁に特許侵害訴訟を反訴提起し、併せてエビスタ®の後発品の販売差止め等の仮処分命令の申立てをしたとのことです。

本件訴訟は、2015年3月、沢井製薬が東京地裁に提起した本件特許の特許侵害不存在確認訴訟に対する反訴として提起したもの。

また、両社間で無効審決取消訴訟も係属中のようです(イーライリリー エビスタ®の用途特許の無効審決の取り消し求め審決取消訴訟を提起)。

参考:

Dec 8, 2015

2015.06.30 「テバ v. イーライ リリー」 無効2014-800145

オランザピンの進歩性(エチル基からメチル基に置き換えてみること): 無効2014-800145

【背景】

イーライリリーが保有する「チエノ〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン誘導体及び該誘導体を含有する抗精神病薬組成物」に関する特許第2527860号に対してテバ製薬が請求した無効審判。本件特許は、イーライリリーにおいて開発され製造販売されているチエノベンゾジアゼピン系抗精神病薬ジプレキサ®(Zyprexa®)の有効成分オランザピン(olanzapine)を保護する物質特許である。

請求項1(本1発明):
2-メチル-10-(4-メチル-1-ピペラジニル)-4H-チエノ-〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン、またはその酸付加塩。
「2-メチル-10-(4-メチル-1-ピペラジニル)-4H-チエノ-〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン」が、すなわち「オランザピン」である。

【要旨】

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理 由(抜粋)

1 無効理由1a(甲第1号証を主引用例とした進歩性)について
ア 相違点アについて
甲1発明の1の「エチルオランザピン」について、そのチオフェン環の2位のアルキル基の種類を、甲1の「(L)チオフエン環がC1~4アルキル基、例えばエチルにより置換されている」との記載に基づいて、エチル基からメチル基に置き換えてみることは、当業者が普通に想起できることと認められる。
イ 本1発明の効果について
(ア)本件特許明細書に記載された効果
先ず~本件特許明細書の段落0016の試験結果には、乙17の宣言書による裏付けがあるといえる。次に~本件特許明細書の段落0046の試験結果には、甲9の論文や乙1の医薬品インタビューフォームの裏付けがあるといえる。また、~本1発明の「オランザピン」は、条件回避反応(Conditioned Avoidance Response)の阻止という薬理活性に必要な投薬量と、カタレプシー(CATalepsy)という副作用を誘発する投薬量との間の分離が、他の抗精神病薬に比べて広いので、本件特許明細書に記載された「その化合物が診察中に錐体外路副作用を殆ど誘発しそうもない」という効果には、甲9及び乙1の裏付けがあるといえる。
(イ)コレステロール増加の副作用について
本件特許明細書の段落0016に記載された『本発明の化合物はコレステロール量の増加を示さないことが観察された』という本1発明の効果(コレステロール増加副作用減少の効果)は、甲1及び甲2の刊行物のいずれにも記載されていない有利な効果であって、甲1の刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質な効果であるといえるから、本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測できたものであるとは認められない。 
(ウ)条件回避反応阻止とカタレプシー誘発の分離について
甲2及び甲9に示された薬理データの結果から、医薬としての有用性は『オランザピン>クロルプロマジン>エチルオランザピン』の順になる。このため、本1発明(オランザピンまたはその酸付加塩)は、甲1発明の1(エチルオランザピン)よりも、条件回避反応を阻止するのに必要とされる投薬量とカタレプシーを誘発するのに要する投薬量との間の分離という効果(本件特許明細書の段落0046に記載された「錐体外路副作用を殆ど誘発しそうもない」という効果)において際立って優れているものと認められる。
ウ 甲1発明の1を主引用例とした場合の進歩性の総括
以上のとおり、本1発明は、甲1の刊行物及び甲2の刊行物に記載されていないコレステロール増加の副作用減少という異質な効果と、条件回避反応阻止とカタレプシー誘発の顕著な分離という際立って優れた効果を有するものであって、これらの効果が本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測できたものであるともいえない。
してみると、本1発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本1発明に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
3 無効理由2(実施可能要件)について
(省略)
4 無効理由3(サポート要件)について
(省略)
【コメント】

化合物発明の進歩性を考えるうえで参考になる事例。エチル基からメチル基に置き換えてみることは当業者が普通に想起できることと認められるとしても、発明の効果が優先日当時の技術水準から当業者が予測できたものであるとは認められないとして進歩性が認められた。 発明の効果を補強するために提出された証拠の足がかりが明細書に記載されていたことも重要なポイントだろう。

参考:



Dec 5, 2015

ジプレキサ®(Zyprexa®)の有効成分オランザピン(Olanzapine)を保護する物質特許

「チエノ〔2,3-b〕〔1,5〕ベンゾジアゼピン誘導体及び該誘導体を含有する抗精神病薬組成物」に関する特許第2527860号は、イーライリリーにおいて開発され製造販売されているチエノベンゾジアゼピン系抗精神病薬ジプレキサ®(Zyprexa®)の有効成分オランザピン(olanzapine)を保護する物質特許である。

出願日は1991.04.24、20年の存続期間満了日は2011.04.24であるが存続期間延長登録により、当初の適応症である精神分裂病(現在は、「統合失調症」に呼称変更)についてはさらに4年7月8日の延長(先日満了)、追加適応症として承認された「双極性障害における躁症状の改善」については5年の延長(存続期間満了日は2016.04.24)が認められている。

残る再審査期間は、「双極性障害におけるうつ症状の改善」についての2016.02.21まで。

下記は延長登録に関する情報。
  • 延長登録出願2001-700035
    延長登録年月日: 2002.07.17
    延長の期間: 4年7月8日
    処分の対象となった物: オランザピン
    処分の対象となった物について特定された用途: 精神分裂病
  • 延長登録出願2001-700036
    延長登録年月日: 2002.07.17
    延長の期間: 4年7月8日
    処分の対象となった物: オランザピン
    処分の対象となった物について特定された用途: 医薬品の製造原料として用いる
  • 延長登録出願2011-700012
    延長登録年月日: 2012.02.22
    延長の期間: 5年
    処分の対象となった物: ジプレキサ細粒1%(有効成分オランザピン)
    処分の対象となった物について特定された用途:
    双極性障害における躁症状の改善
    なお、今回の処分は一部変更承認であるところ、変更前の用途は統合失調症であり、 今回の処分により上記用途が追加された。
    変更前(統合失調症)
    変更後(統合失調症、双極性障害における躁症状の改善)
  • 延長登録出願2011-700013
    延長登録年月日: 2012.02.22
    延長の期間: 5年
    処分の対象となった物: ジプレキサ錠2.5mg(有効成分オランザピン)
    処分の対象となった物について特定された用途:
    双極性障害における躁症状の改善
    なお、今回の処分は一部変更承認であるところ、変更前の用途は統合失調症であり、 今回の処分により上記用途が追加された。
    変更前(統合失調症)
    変更後(統合失調症、双極性障害における躁症状の改善)
  • 延長登録出願2011-700014
    延長登録年月日: 2012.02.22
    延長の期間: 5年
    処分の対象となった物: ジプレキサ錠5mg(有効成分オランザピン)
    処分の対象となった物について特定された用途:
    双極性障害における躁症状の改善
    なお、今回の処分は一部変更承認であるところ、変更前の用途は統合失調症であり、 今回の処分により上記用途が追加された。
    変更前(統合失調症)
    変更後(統合失調症、双極性障害における躁症状の改善)
  • 延長登録出願2011-700015
    延長登録年月日: 2012.02.22
    延長の期間: 5年
    処分の対象となった物: ジプレキサ錠10mg(有効成分オランザピン)
    処分の対象となった物について特定された用途:
    双極性障害における躁症状の改善
    なお、今回の処分は一部変更承認であるところ、変更前の用途は統合失調症であり、 今回の処分により上記用途が追加された。
    変更前(統合失調症)
    変更後(統合失調症、双極性障害における躁症状の改善)
  • 延長登録出願2011-700016
    処分の対象となった物
    延長登録年月日: 2012.02.22
    延長の期間: 5年
    処分の対象となった物: ジプレキサザイディス錠5mg(有効成分オランザピン)
    処分の対象となった物について特定された用途:
    双極性障害における躁症状の改善
    なお、今回の処分は一部変更承認であるところ、変更前の用途は統合失調症であり、 今回の処分により上記用途が追加された。
    変更前(統合失調症)
    変更後(統合失調症、双極性障害における躁症状の改善)
  • 延長登録出願2011-700017
    延長登録年月日: 2012.02.22
    延長の期間: 5年
    処分の対象となった物: ジプレキサザイディス錠10mg(有効成分オランザピン)
    処分の対象となった物について特定された用途:
    双極性障害における躁症状の改善
    なお、今回の処分は一部変更承認であるところ、変更前の用途は統合失調症であり、 今回の処分により上記用途が追加された。
    変更前(統合失調症)
    変更後(統合失調症、双極性障害における躁症状の改善)

Nov 23, 2015

2015.11.17 「特許庁長官 v. ジェネンテック」 最高裁 平成26年(行ヒ)356

特許権の存続期間の延長登録出願の登録要件についての最高裁判決(アバスチン事件): 平成26年(行ヒ)356

【背景】

被上告人(ジェネンテック)は、アバスチン®(一般名: ベバシズマブ(遺伝子組換え))についての用法及び用量に関する事項を追加することを主な変更内容とする製造販売承認事項一部変更承認(本件処分)に基づき、本件医薬品を保護する「血管内皮細胞増殖因子アンタゴニスト」に関する特許権(第3398382号)について存続期間延長登録出願をしたが、特許庁は、同じ有効成分及び同じ効能又は効果である先行処分がされていたことを理由に本件延長登録出願を拒絶とする審決をしたため、拒絶審決取消訴訟でその適否が争われ、知財高裁大合議はその審決を取消した。特許庁はこれを不服として最高裁に上告していた。

参考:
【要旨】

主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由(抜粋)
3 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものである。法67条の3第1項1号の文言上も,延長登録出願について,特許発明の実施に政令処分を受けることが必要であったとは認められないことがその拒絶の査定をすべき要件として明記されている。これらによれば,医薬品の製造販売につき先行処分と出願理由処分がされている場合については,先行処分と出願理由処分とを比較した結果,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含すると認められるときには,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないこととなるというべきである。そして,このように,出願理由処分を受けることが特許発明の実施に必要であったか否かは,飽くまで先行処分と出願理由処分とを比較して判断すべきであり,特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断すべきものではない。
ところで,医薬品医療機器等法の規定に基づく医薬品の製造販売の承認を受けることによって可能となるのは,その審査事項である医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(医薬品医療機器等法14条2項3号柱書き)の全てについて承認ごとに特定される医薬品の製造販売であると解される。もっとも,前記のとおりの特許権の存続期間の延長登録の制度目的からすると,延長登録出願に係る特許の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとならない審査事項についてまで両処分を比較することは,当該医薬品についての特許発明の実施を妨げるとはいい難いような審査事項についてまで両処分を比較して,特許権の存続期間の延長登録を認めることとなりかねず,相当とはいえない。そうすると,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するか否かは,先行処分と出願理由処分の上記審査事項の全てを形式的に比較することによってではなく,延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について,両処分を比較して判断すべきである。
以上によれば,出願理由処分と先行処分がされている場合において,延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である。

4 これを本件についてみると,本件特許権の特許発明は,血管内皮細胞増殖因子アンタゴニストを治療有効量含有する,がんを治療するための組成物に関するものであって,医薬品の成分を対象とする物の発明であるところ,医薬品の成分を対象とする物の発明について,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両処分の審査事項は,医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果である。そして,本件処分に先行して,本件先行処分がされているところ,本件先行処分と本件処分とを比較すると,本件先行医薬品は,その用法及び用量を「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人には,ベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。」とするものであるのに対し,本件医薬品は,その用法及び用量を「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」などとするものである。そして,本件先行処分によっては,XELOX療法とベバシズマブ療法との併用療法のための本件医薬品の製造販売は許されなかったが,本件処分によって初めてこれが可能となったものである。
以上の事情からすれば,本件においては,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない。

5 以上によれば,本件特許権についての延長登録出願に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないとする本件審決を違法であるとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
【コメント】

最高裁は、医薬品の製造販売につき先行処分がされている場合についての出願理由処分(後行処分)における特許権の存続期間延長登録出願の登録要件(特許法67条の3第1項1号の「その特許発明の実施に第67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき」)について以下のように判示した。
延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較した結果,先行処分の対象となった医薬品の製造販売が,出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは,延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないと解するのが相当である。

1. 出願理由処分(後行処分)が先行処分に包含されるかで判断

最高裁は、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含すると認められるときには、延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められない、と判示した。最高裁の判決文の記載には、知財高裁で用いられた「禁止の解除」という言い回しこそないが、先行処分の医薬品の製造販売が後行処分を包含するかどうかという観点は、知財高裁で言うところの、後行処分が先行処分で禁止が解除されたかどうかで判断するという観点と同じであり、最高裁の判決は、これまでの知財高裁の判断手法を認めるものとなったといえる。


2. 包含するか否かの判断は、特許発明の種類や対象に照らし、両処分における医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項を比較して行う。

最高裁は、両処分における医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(医薬品医療機器等法14条2項3号柱書き)の全てを形式的に比較することによってではなく、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について、両処分を比較して判断すべきである、と判示した。実質的に両処分を比較し判断されたと思われる事例として下記の知財高裁の判決があり、今後の参考事例となるだろう。

3. 特許庁の判断基準(特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断)を否定

最高裁は、出願理由処分を受けることが特許発明の実施に必要であったか否かは、飽くまで先行処分と出願理由処分とを比較して判断すべきであり、特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項によって判断すべきものではない、と判示し、特許庁の判断を否定した。
特許庁は早速「特許・実用新案審査基準 第IX部 特許権の存続期間の延長」の改訂に取り掛かるとのアナウンスを行った(2015.11.18 特許庁 「特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準及び審査の取扱いについて」)。改訂審査基準は来年春頃を目処に公表する予定であり、先行医薬品類又は先行農薬についての処分が存在する延長登録出願の審査の着手は、原則として、改訂審査基準の公表まで止めることとした。2011年末に改定された特許庁の審査基準(2011.12.28 「特許権の存続期間の延長」の審査基準改訂)は4年を待たずに否定されることになった。


4. パシーフ事件最高裁判決(平成21(行ヒ)326)との整合性

平成21(行ヒ)326(パシーフ事件)において最高裁は、特許法67条の3第1項1号の要件として一定の判断基準を示していた(2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326)。
「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。」
この判決では、先行医薬品が特許権の請求項に係る特許発明の技術的範囲に属するかどうかが判断のポイントであった。この判決での事案は「属しない」ものであったのだが、反対に「属する」ような事案では、先行処分の存在を理由に特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないこととなるのでは・・・との議論が残されていた。
今回のアバスチン事件はまさに「属する」事案であった。今回の最高裁判決ではこの「属する」観点には全く触れることなく、知財高裁がこれまで用いてきたいわゆる「禁止解除テスト」を実質的に採用した。
従って、最高裁平成21(行ヒ)326で示されていた、先行医薬品が特許発明の技術的範囲に「属しない」との条件は、特許法67条の3第1項1号における必要条件ではなくむしろ十分条件ととらえればよいのかもしれない。まず、先行医薬品が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断し、①「属しない」場合は、後行処分を受けることが必要であったと認め(パシーフ事件最高裁判決(平成21(行ヒ)326)の判断手法)、②「属する」場合には、次に、後行処分が先行処分に包含されるかで判断し(本件最高裁の判断手法)、②-1「包含される」場合は、後行処分を受けることが必要であったとは認めず、②-2「包含されない」場合は、後行処分を受けることが必要であったと認める、というステップを踏んで判断されるということに整理していくことができれば、これまでの裁判所の判断にも整合するように思われる。


5. 延長された特許権の効力については、何も言及せず

大合議判決文の傍論には、権利の効力について一部記載されていたが、最高裁は、延長された特許権の効力がどうあるべきかについて何ら言及しなかった。今回の最高裁判決により、実質的には承認毎に延長登録が認められることになる。この流れが、延長された特許権の効力の細分化を招くことにならなければよいのだが・・・

6. 本事件の背景に関する記事

Nov 7, 2015

2015.10.22 「興和 v. 共和薬品工業」 知財高裁平成27年(ネ)10073

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その13): 知財高裁平成27年(ネ)10073

【背景】

2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766の控訴審。原判決は、被控訴人による被控訴人標章1~3の使用が商標的使用に該当せず、また、本件商標は公序良俗に反する商標(商標法4条1項7号)であるから本件商標権を行使することはできない(商標法39条,特許法104条の3第1項)として控訴人の請求をいずれも棄却していた。

【要旨】

裁判所は、被控訴人が被控訴人各商品の包装に被控訴人標章1~3を付して被控訴人各商品を販売したことは、商標的使用ではなく、被控訴人の行為は、本件商標権を使用する権利(商標法25条)の侵害行為(同法36条1項)又は侵害とみなされる行為(同法37条1号)には該当しないと判断し、控訴人の控訴を棄却した。

【コメント】

本件で、7件全てのピタバスタチン後発品に対する商標権侵害訴訟は決着がついたと思われる。知財高裁各部の判断は結論は同じだが、それぞれの理由は異なる。要約すると、被控訴人各商品の販売についての各裁判所の理由の概要は下記のとおり。
知的財産高等裁判所第1部(裁判長裁判官 設樂隆一)
  • 2015.09.09 「興和 v. 小林化工」 知財高裁平成26年(ネ)10137: 商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する商標である(商標法26条1項2号)。
知的財産高等裁判所第2部(裁判長裁判官 清水節)
  • 2015.07.23 「興和 v. 東和薬品」 知財高裁平成26年(ネ)10138: 商標的使用でない。
  • 2015.10.22 「興和 v. 共和薬品工業」 知財高裁平成27年(ネ)10073: 商標的使用でない。
知的財産高等裁判所第3部(裁判長裁判官 大鷹一郎)
  • 2015.10.21 「興和 v. テバ」 知財高裁平成27年(ネ)10074: 商標的使用でない(商標法26条1項6号)。
知的財産高等裁判所第3部(裁判長裁判官 鶴岡稔彦)
  • 2015.06.08 「興和 v. ニプロ」 知財高裁平成26年(ネ)10128: 商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する商標である(商標法26条1項2号)。
知的財産高等裁判所第4部(裁判長裁判官 富田善範)
  • 2015.07.16 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 知財高裁平成26年(ネ)10098: 商標的使用でない(商標法26条1項6号)、商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する商標である(商標法26条1項2号)。
  • 2015.08.27 「興和 v. 沢井製薬」 知財高裁平成26年(ネ)10129: 商標的使用でない(商標法26条1項6号)、商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する商標である(商標法26条1項2号)。



関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~12):



Nov 1, 2015

2015.10.21 「興和 v. テバ」 知財高裁平成27年(ネ)10074

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その12): 知財高裁平成27年(ネ)10074

【背景】

2015.04.27 「興和 v. テバ製薬」 東京地裁平成26年(ワ)771の控訴審。

【要旨】

裁判所は、被告商品の錠剤に付された被告標章は「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められ、控訴人が有する本件分割商標権の効力は被告標章に及ばないものと認められるから、控訴人の請求は、いずれも理由がないものと判断し、控訴人の控訴を棄却した。

【コメント】

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~11):


Oct 25, 2015

2015.10.13 「キメリクス v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10021

併用医薬発明の実施可能要件知財高裁平成27年(行ケ)10021

【背景】

「ウイルス感染症およびその他の内科疾患を治療するための化合物,組成物および方法」に関する特許出願(特願2008-505632号。特表2008-538354号、WO2006/110656)の拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決(不服2012-1280号)の取消訴訟。争点は、本願併用医薬発明の実施可能要件(特許法36条4項1号)の充足の有無。

本願発明(請求項1):
薬理学的に有効な量の下記の構造を有する化合物または医薬上許容可能されるその塩(以下,下線部分を「HDP-CDV又はその塩」ともいう。)と,少なくとも1つの免疫抑制剤とを含む,ウイルス感染を治療するための医薬組成物であって,前記ウイルス感染は,アデノウイルス,オルソポックスウイルス,HIV,B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,サイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルス1型,単純ヘルペスウイルス2型又はパピローマウイルス感染である,医薬組成物。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。
裁判所の判断

裁判所は、取消事由1(実施可能要件の判断の誤り)について、まず下記のとおり医薬用途発明の実施可能要件の一般原則について言及した。
「(1) 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかかる物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならない。
そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬用途発明において実施可能要件を満たすためには,本願明細書の発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。」
上記原則に照らし、本願の併用医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されているかについて、下記のとおり判断した。
「本願発明は,前記1において述べたように,抗ウイルス化合物であるシドフォビルの脂質含有プロドラッグとして公知のHDP-CDVに対し,免疫抑制剤をエンハンサーとして併用することにより,HDP-CDVの生物学的利用能を増強させ,より良い治療効果を奏する組成物とすることを技術的特徴とすることに照らせば,本願発明について医薬としての有用性があるというためには,HDP-CDVと免疫抑制剤を併用すると,HDP-CDVの生物学的利用能が増強されるだけでなく,HDP-CDVを単独で用いた場合に比べて,ウイルス感染の治療効果が向上することが必要であると解するのが相当である。

(中略)

そこで,本願明細書の発明の詳細な説明におけるHDP-CDV並びにエンハンサー及び免疫抑制剤に関する記載について検討すると・・・本願発明のようにHDP-CDVと免疫抑制剤との組合せを選択した場合にも,免疫抑制剤は,HDP-CDVの生物学的利用能を向上させる役割を果たすことについて一応の示唆がある。しかし,・・・

HDP-CDVあるいはその上位概念である抗ウイルス化合物と,特定の「免疫抑制剤」を併用した事例についての記載は,生体内(インビボ)における実験だけでなく,生体外(インビトロ)における実験についても一切記載されていない。前記のとおり,表1において,エンハンサーとして使用できる薬物として,抗不整脈や抗鬱薬などの種々の薬物と並んで免疫抑制剤が記載されているのみであって,免疫抑制剤によりHDP-CDVの生物学的利用能がどの程度向上するのかは具体的に確認されておらず,また,免疫抑制剤にはウイルス感染症を悪化させるという技術常識があることを念頭においた説明(例えば,免疫抑制作用によるウイルス感染症の悪化が生じない程度のエンハンサーとしての免疫抑制剤の用量など。)もないから,HDP-CDVと免疫抑制剤を投与すると,免疫抑制作用によるウイルス感染症の悪化が生じてエンハンサーとしての作用を減殺してしまい,HDP-CDV自体が有するウイルス感染治療作用を損なうという疑念が生じるものといわざるを得ない。

そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,ウイルス感染症を発症している患者に対してHDP-CDVと共に免疫抑制剤を投与すると,HDP-CDVの生物学的利用能が増強されることを当業者が理解することが可能であったとしても,上記の技術常識に照らすと,それと同時に,免疫抑制剤の利用により免疫が抑制されて感染症が悪化することが懸念されることから,HDP-CDVと免疫抑制剤を併用した場合には,HDP-CDVを単独で用いる場合に比べてウイルス感染の治療効果が向上するか否かは不明であるというほかなく,当業者が本願発明に医薬としての有用性があることを合理的に理解することは困難である。

したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,本願出願日当時の技術常識に照らして,当業者が,本願発明の医薬としての有用性があることを理解できるように記載されていないから,実施可能要件を充足するということはできない。」
以上、裁判所は、本願発明が実施可能要件を欠くとした審決の判断には誤りがないからその余の審決の当否を判断するまでもなく原告の請求には理由がないと判断した。

【コメント】

併用医薬の実施可能要件が争われた事例である。本願併用医薬の有用性を示せるような具体的な実験例の記載は明細書中に一切なく、また出願日当時の技術常識を照らしても有用性があることを合理的に理解することは困難だった。併用医薬の実施可能要件が争われた最近の事件としては下記判決がある。
HDP-CDVとはcidofovir hexadecyloxypropyl esterの略称であり、出願人であるキメリクス社(Chimerix)が開発中であるbrincidofovir (CMX001)に相当する抗ウイルス剤のことのようである(参考publication)。

欧米での本願の審査状況は下記のとおり。
  • EP1865967: The application has been withdrawn
  • EP2842559: Request for examination was made
  • US2007003608 (A1): Abandoned -- Failure to Respond to an Office Action
  • US2011015149 (A1): Non Final Action Mailed

Oct 13, 2015

2015.09.09 「興和 v. 小林化工」 知財高裁平成26年(ネ)10137

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その11): 知財高裁平成26年(ネ)10137

【背景】

2014.11.28 「興和 v. 小林化工」 東京地裁平成26年(ワ)767の控訴審。原審は、被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は、商標としての自他商品識別機能又は出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできず,被控訴人各標章の表示は商標的使用に該当すると認めることができないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、控訴人はこれを不服として本件控訴を提起した。

【要旨】

裁判所は、被控訴人各標章は、本件商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の有効成分の略称であり、「…指定商品…の…品質,原材料…を普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項2号)であると認められ、同条同項本文により、本件商標権の効力は、被控訴人各標章には及ばないから、控訴人の請求はいずれも理由がないと判断し、控訴人の請求を棄却した。

【コメント】

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~10):


Oct 4, 2015

2015.08.27 「興和 v. 沢井製薬」 知財高裁平成26年(ネ)10129

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その10): 知財高裁平成26年(ネ)10129

【背景】

「PITAVA」の標準文字からなる商標(分割商標権第4942833号の2、指定商品はピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤)の商標権者である控訴人(興和)が、被控訴人(沢井製薬)に対し、「ピタバ」を錠剤の中央に付したピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤の販売差止め及び廃棄を求めた事案。

原審: 2014.10.30 「興和 v. 沢井製薬」 東京地裁平成26年(ワ)768

【要旨】

裁判所は、下記理由により、本件分割商標権の効力は被控訴人各標章に及ばないと判断し、控訴人の請求を棄却した。
  • 「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は、有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の「略称」であることが認められ、需要者である医師、薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても、被控訴人各標章から商品の出所を識別したり、想起することはないものと認められるから、被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当する。
  • 被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「商品の原材料」である「含有成分」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項2号)に該当するものと認められる。
【コメント】

原審(2014.10.30 「興和 v. 沢井製薬」 東京地裁平成26年(ワ)768)は、本件商標登録は商標法4条1項16号に該当することにより無効にされるべきものであるから控訴人は本件商標権を行使することができないこと、及び、本件商標登録は不使用取消審判により取り消されるべきことが明らかであるから控訴人による本件商標権の行使は権利の濫用に当たり許されないこと、を理由に請求を棄却した。本控訴審では、このような商標権の無効を理由とはせず、むしろ、知財高裁第4部がPITAVAに関する事件で最近判決を下した2015.07.16 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 知財高裁平成26年(ネ)10098と同じく、被控訴人各標章が本件商標権の効力が及ばない商標であること(商標法26条1項2号、6号)を理由に、請求を棄却した。こちらの理由のほうが腑に落ちる。裁判官によりその理由は違えど、本件標章に対して権利行使できない点では一致しており、一連のピタバスタチンに関連する商標権侵害訴訟は決着に至ると思われる。

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~9):

Sep 28, 2015

2015.08.20 「サントリー v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10182

引用例中の医薬用途の列挙と引用発明の認定知財高裁平成26年(行ケ)10182

【背景】

「日中活動量の低下および/又はうつ症状の改善作用を有する組成物」に関する特許出願(特願2005-191506、特開2007-8861)の拒絶審決(不服2012-6456)取消訴訟。争点は進歩性。

本願補正発明(請求項4):
構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含んで成る,うつ症状の改善のための医薬組成物。
【要旨】

主 文
特許庁が不服2012-6456号事件について平成26年6月9日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断

裁判所は、以下により、原告主張の取消事由1及び2は理由があると判断した。

1. 取消事由1(本願補正発明についての引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)

(1) 引用例1(特表2004-501969号)に記載された発明の認定
  • 引用例1には,薬学的配合物を適用できる症状又は疾患として「任意の精神医学的,神経学的あるいはその他の中枢または末梢神経系疾患,特に精神分裂病,うつ病,双極性障害およびアルツハイマー病およびその他の痴呆症ならびにパーキンソン病を含む脳の変性障害」を含む広範囲のものが記載されている(【請求項12】,【0013】)。
  • しかし,実施例は,精神分裂病患者に関するもののみであって,うつ病及び双極性障害の患者に関するものについては全く記載がない。
  • そして,実施例において改善効果が確認された精神分裂病と,うつ病や双極性障害は,精神医学的疾患という点では共通しているものの,一般には,それらの疾患は,疾患の原因や治療法がそれぞれ異なる別の疾患と認識されているのであって,精神分裂病の治療に効果があることが確認された医薬組成物が直ちにうつ病や双極性障害の治療に用いることができるとの技術常識が存在することを認めるに足りる証拠はない。
  • まして,精神分裂病の治療に効果があることが確認された医薬組成物が,アルツハイマー病及びその他の痴呆症やパーキンソン病を含む神経学的あるいはその他の中枢又は末梢神経系疾患の治療にも用いることができるとの技術常識が存在することを認めるに足りる証拠もない。
  • ~したがって,引用例1の記載に接した当業者は,エチル-EPAとAAを摂取すると精神分裂病の症状が改善したとの実施例の結果に基づいて,EPAとAAの併用を,うつ病や双極性障害を含む「任意の精神医学的,神経学的あるいはその他の中枢または末梢神経系疾患」の治療にも用いることができることを,合理的に予測することはできない。
  • そうすると,引用例1に記載された発明における治療可能な疾患又は症状を,本件審決のように,「任意の精神医学的,神経学的あるいはその他の中枢または末梢神経系疾患,特に精神分裂病,うつ病,双極性障害」と広く認定することは相当ではなく,その適用は精神分裂病の治療に限られるというべきである。
  • したがって,引用例1に記載された発明は,「精神分裂病の治療のための,エイコサペンタエン酸(EPA)又は任意の適切な誘導体を,アラキドン酸(AA)又は任意の適切な誘導体と組み合せることにより調製された薬学的配合物。」(以下「引用発明1’」という。)と認定すべきである。
(2) 相違点C’(本願補正発明はうつ症状の改善のためのものであるのに対し,引用発明1’は精神分裂病の治療のためのものである点)について
  • 引用例1の実施例において,患者2名の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の数値が改善したとの記載からだけでは,~統合失調症の陰性症状のうち,うつ症状と似た症状が改善したかどうかを確認することはできない。そうすると,引用例1には~統合失調症における陰性症状のうち,うつ症状と似た症状が改善することについては,記載も示唆もないというほかない。
  • そうすると~本願補正発明と引用発明1’との相違点C’は,実質的な相違点というべきであり,この相違点C’に係る本願補正発明の構成に至ることが容易であると認めるに足りない。
  • したがって,本件審決は,相違点についての判断を誤るものである。

2. 取消事由2(本願補正発明について引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について

(1) 引用例2(特開2003-48831号)に記載された発明の認定
  • 前記~のとおり,本願出願日当時,記憶・学習能力の低下の改善とうつ病の改善との関連,又は,うつ病と海馬組織中のアラキドン酸含有量との関連についての技術常識があったと認めることができないことを前提とすれば,引用例2に接した当業者は,引用例2の実施例3の老齢ラットのモリス型水迷路試験の結果に基づいて,「構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド」を用いることにより,「記憶・学習能力の低下」が改善されることは認識できるものの,さらに「うつ病」が改善されることまでは認識することができないというべきであって,まして,「うつ病」を含む様々な症状や疾患が含まれる「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患」全体が改善されることまでは認識できないというべきである。
  • そうすると,引用例2に記載された発明の医薬組成物が予防又は改善作用を有する症状又は疾患を,本件審決のように,「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患」と広く認定することは相当ではなく,その適用は脳機能の低下に起因する記憶・学習能力の低下に限られるというべきである。
  • したがって,引用例2に記載された発明は,「構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリドを含んで成る,脳機能の低下に起因する記憶・学習能力の低下の予防又は改善作用を有する医薬組成物。」(以下「引用発明2’」という。)と認定すべきである。
(2) 相違点α’(本願補正発明は,「うつ症状の改善のため」のものであるのに対し,引用発明2’は,「記憶・学習能力の予防又は改善作用を有する」ものである点)に係る容易想到性について
  • 確かに,引用例2~には,「構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド」を用いて,「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患」の予防又は改善を行うことが記載され,当該症状あるいは疾患として,「記憶・学習能力の低下,認知能力の低下,感情障害(たとえば,うつ病),知的障害(たとえば,痴呆,具体的にアルツハイマー型痴呆,脳血管性痴呆)」等が記載されている。
  • しかし,前記~のとおり,引用例2に接した当業者は,引用例2の実施例3の老齢ラットのモリス型水迷路試験の結果に基づいて,「構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド」を用いることにより,「記憶・学習能力の低下」が改善されることは認識できるものの,さらに「うつ病」が改善されることまでは認識できないというべきである。
  • そして,前記~のとおり,うつ病と,記憶障害が中核症状である認知症とは,その病態が異なり,本願出願日当時,記憶・学習能力の低下を改善する薬が,うつ病をも改善するとの効果を有するとの技術常識が存在していたとは認められないことからすれば,引用例2に接した当業者が,引用例2に記載された「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患」に含まれる多数の症状・疾患の中から,特に「うつ病」を選択して,「構成脂肪酸の一部又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリド」を用いて,うつ病の症状である「うつ症状」が改善されるかを確認しようとする動機付けがあるということはできない。
  • そうすると,引用例2に基づいて,相違点α’に係る本願補正発明の構成に至ることが容易であるということはできず,本件審決のこの点に関する判断には誤りがあるというべきである。
【コメント】

引用例には、本願用途発明として治療対象となる疾患が記載されていたが、
  • その記載は広範な上位概念の疾患の一例として記載されているにとどまること、
  • 引用例中の実施例は当該疾患に関するものではなく、また、その実施例から当該疾患が導けるとの技術常識が存在するとの証拠がないこと
  • 引用例中の実施例で示された疾患に効果が確認が確認されている医薬が当該疾患にも用いることができるとの技術常識が存在するとの証拠がないこと
から、引用例に記載された発明における治療可能な疾患を当該疾患を含む上位概念疾患として広く認定することは相当ではなく、その適用は引用例記中の実施例で示された疾患の治療に限られるというべきである、と裁判所は判断した。

いわゆる引用例中の用途の一行記載問題。第二医薬用途発明の特許性を検討する際に、本件を当てはめて考えることは参考になるだろう。引用例中の医薬用途の記載の程度が新規性または進歩性の判断で問題となった近年の事例は、「右カラム中、Topics 記載要件/引例適格/データは必要か」にまとめてある。

参考: 平成27年10月1日以降の特許・実用新案審査ハンドブック 附属書B 第3章 医薬発明

2.2.2 新規性の判断の手法 (2) 引用発明の認定
また、当業者が当該刊行物等の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その化合物等を医薬用途に使用できることが明らかであるように当該刊行物等に記載されていない場合にも、当該刊行物等に医薬発明が記載されているとすることはできない。(審査基準「第 III 部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進 め方」の3.1.1(1)b参照)。例えば、当該刊行物等に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に列挙されている場合は、当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることが明らかであるように当該刊行物等に記載されているとは認められない。したがって、当該刊行物等に医薬発明が記載されているとすることはできない。

ところで、引用例2(特開2003-48831号)は原告自身の出願であり、「うつ病」が引用発明と認定されることについて出願人自身が自白していることになるような気もするのだが・・・、原告は引用例2では「うつ病」等については実施可能要件違反の拒絶査定を受け「うつ病」等を削除し「記憶・学習能力の低下」に限定することにより特許がされた経緯を理由の一つに、引用例2に接した当業者は「うつ病」が改善される可能性を予測しないはずだと主張することで、引用例2の記載を自ら否定した。

参考:

Sep 19, 2015

2015.08.05 「X1・X2 v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10238

活性発泡体事件: 知財高裁平成26年(行ケ)10238

【背景】

「活性発泡体」に関する特許出願(特願2006-536494号、WO2006/117881、再表2006/117881)の拒絶審決(不服2011-20954)取消訴訟。争点は実施可能要件(特許法36条4項1号)違反か否か。

請求項1:
天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シートを備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物を含有し,薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いることを特徴とする活性発泡体。

(下線部は、問題となった部分)
【要旨】

主 文
1 特許庁が不服2011-20954号事件について平成26年9月22日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所は、
「物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号),同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を使用できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用できるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物について,例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど,少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。」
と実施可能要件の内容を判示した上で、本願発明に対する審決の判断について下記のとおり判断した。
「審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識できるような記載がないことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けている。
しかしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その文言からして,活性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を促進するなどの目的ないし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性発泡体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,それ以外の技術上の意義があるということができるのであれば,少なくとも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時の技術常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきである。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血行促進効果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。
よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記のような理由により本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざるを得ず,審決は,取消しを免れない。」
【コメント】

クレーム中の「薬剤投与の際に」という文言が引き金となって、特許庁は、活性発泡剤と薬剤との併用効果を実施可能要件を満たすために必須と考えた。発明自体の技術上の意義が試験結果から裏付けられているかどうかに疑問があるにしても、「薬剤投与の際に」という文言があることをもって薬剤との併用効果の記載を画一的に求め拘った特許庁の考え方は、裁判所が指摘するとおり、明らかに妥当性を欠き、その点において審決を取り消した裁判所の判断は妥当だろう。

本願発明は、医療機器の一種であり、医薬発明と同列に扱うことはできないかもしれないが、本事件は、医薬発明における併用クレームの実施可能要件の審査のあり方を改めて考えさせてくれる。

医薬発明の審査基準では、実施可能要件を判断するに当たり、医薬用途を裏付ける実施例として、通常、薬理試験結果の記載が求められる。

以下、旧「医薬発明の審査基準(実施可能要件)」より抜粋。
医薬発明は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、又はどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であることから、当業者がその発明を実施することができるように発明の詳細な説明を記載するためには、出願時の技術常識から、当業者が化合物等を製造又は取得することができ、かつ、その化合物等を医薬用途に使用することができる場合を除き、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。そして、医薬用途を裏付ける実施例として、通常、薬理試験結果の記載が求められる(旧審査基準: 第Ⅰ部第1章3.2.1(5))。
以下、新「特許・実用新案審査ハンドブック附属書B第3章 医薬発明(2015年10月1日)」より抜粋。
医薬発明は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明である。そのため、当業者がその発明を実施することができるように発明の詳細な説明を記載するためには、出願時の技術常識から、当業者が化合物等を製造又は取得することができ、かつ、その化合物等を医薬用途に使用することができる場合を除き、通常、一つ以上の代表的な実施例を記載することが必要である。そして、医薬用途を裏付ける実施例として、通常、薬理試験結果の記載が求められる(審査基準「第 II 部第 1 章第 1 節 実施可能要件」の 3.1.1(3)参照)。
医薬発明が併用に関するものである場合には、通常、その併用効果を示す薬理試験結果が求められることになるわけである。

しかし、発明が有効成分の物質発明である出願をする場合にも、対象疾患を治療するためには併用するだろうと技術常識から想定できる範疇で、他薬剤との併用クレームを付随的に請求することはよくあることである(すなわち、技術常識から本剤と併用することができることからいちいち他剤との併用の薬理試験結果は明細書には記載しない)。このように発明の中心は単剤有効成分の物質発明の出願であっても、そのクレームの一部に他薬剤との併用に関するクレームがある場合には、審査官は、そのクレームの実施可能要件を併用効果を示す薬理試験結果の記載の有無で画一的に判断することに拘る場合があるように思う。

このような場面での審査官の画一的な併用クレームの実施可能要件判断は、本事案を踏まえると、果たして妥当といえるだろうか。審査基準(上記抜粋)には、「出願時の技術常識から、当業者が化合物等を製造又は取得することができ、かつ、その化合物等を医薬用途に使用することができる場合を除き」と規定されているのだから、出願人がその点を説明した場合には、もっと柔軟に適切に判断していただきたい。

Sep 12, 2015

延長された特許権の効力についてのアンケート結果

現在の日本の特許権存続期間延長制度における延長された特許権の効力についてどう思いますか?

本ブログ(web version)で数ヶ月間行ったアンケートの集計結果です。51名の方から投票がありました(複数投票可)。ありがとうございました。

  • 知財高裁大合議判決文に賛成である。
    20 (39%)
  • 知財高裁大合議判決文に反対である。
    20 (39%)

  • 新規有効成分の期間延長特許の効力は尊重されるべきである。
    28 (54%)
  • 新規有効成分の期間延長であっても、その効力は製品として厳格に制限されるべきである。
    9 (17%)

  • 法改正が必要である。
    27 (52%)
  • 法改正は必要ない。
    6 (11%)

  • あなたの所属は先発品メーカーですか?(Yesならチェック)
    10 (19%)
  • あなたの所属は後発品メーカーですか?(Yesならチェック)
    10 (19%)
  • あなたの所属は先発・後発どちら側でもないですか?(どちらでもないならチェック)
    20 (39%)

参考:
  • ブログで取り上げた特許権存続期間延長に関する判決等はこちら

Sep 10, 2015

2015.07.31 「日産化学 v. 相模化成工業・日医工・壽製薬」 東京地裁平成26年(ワ)688

ピタバスタチン結晶の特許性: 東京地裁平成26年(ワ)688

【背景】

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する原告(日産化学)が、被告らによる原薬又は製剤の製造・販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。本件各特許権が特許無効審判により無効にされるべきものか否か(争点(2))が主な争点となった。

本件結晶発明1:
式(1)
で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。
本件方法発明1:
CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%~13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム
塩の保存方法。
【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。(他略)
裁判所の判断

(1) 本件各特許に関する乙3公報(WO03/064392、特表2005-520814)による新規性又は進歩性欠如(争点(2)ウ)について

裁判所は、
「被告らは,乙3公報の段落【0136】に記載された実験を~追試した結果を記載したものとして,乙6報告書を提出したが,そこに記載された乙6追試~が,本件結晶特許の出願時の技術常識に従ったものであれば,本件結晶発明1は乙3公報に記載されているに等しいということができる。」
と認定したうえで、乙3公報に開示されていない塩化カルシウム水溶液の滴下時間及び乾燥条件の選択について、乙6追試は技術常識に従ったものといえると判断した。

この点に関して原告は、乙6追試が適切な追試ではないと主張し、甲48報告書記載の乙3発明の追試ではチバ結晶Eが得られたこと、及び、甲61報告書記載の乙3発明の追試では安定ではない結晶形態Aが得られたこと、を指摘した。

しかし、裁判所は、
「甲48報告書には,得られた白色結晶性粉末の水分量が8.03%であったと記載されており,乙3発明の水分量(10.6%)とは相当程度に異なるから,甲48報告書記載の追試が,適切な条件で行われたと認めるに足りない。そして,甲61報告書記載の追試によって得られた結晶は,粉末X線回折測定の結果,本件結晶発明1の~15本の回折角と±0.04°以内で一致する回折角においてピークが観測され,さらには,20.7°付近のピークの強度を100%とした場合の30.2°付近の相対強度が28%であったから,むしろ,甲61報告書は,乙3発明が,本件結晶発明1と同一であることを裏付けるものであるというべきである。なお,安定性は,本件結晶発明1の構成要件ではないから,乙3発明の追試により得られた結晶が安定性を欠いていたとしても,乙3発明と本件結晶発明1の同一性を否定することはできない。原告の主張するその余の点を考慮しても,乙6追試に,乙3発明の追試として不適切な点があることはうかがえない。そうすると,乙6追試は,乙3発明を,技術常識を参酌して追試した結果を示していると認めるのが相当である。以上によれば,本件結晶発明1は,乙3公報に記載されているに等しい事項というべきであるから,特許法29条1項3号により,特許を受けることができない。」
と判断した。

本件方法発明についても、裁判所は、
「化合物の保存を密栓したビンなどの容器中の気密条件下で行うことは,化合物に係る技術分野における技術常識といえるところ,乙3発明の10.6重量%の水分を含む結晶性粉末を上記のような気密条件下で保存した場合には,含有水分量はほとんど変化しないと考えられる。そうすると,当業者であれば,乙3発明の結晶の含有水分を,4重量%より多く,15重量%以下の水分の範囲に維持することは,容易に想到できるといえる。したがって,本件方法発明は,当業者が,乙3発明に基づいて容易に発明をすることができたというべきであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができない。」
と判断した。

(2) 本件方法特許に関する補正要件違反及び分割要件違反(争点(2)オ・カ)について
「本件方法特許の出願当初は,保存方法の対象となる結晶について,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の30.16°の回折角ピークの相対強度が25%よりも大きなもののみとしていたにもかかわらず,~補正により,上記相対強度が25%以下のものを含むものへと拡大されたものと認められる。そして,出願当初の特許請求の範囲,明細書及び図面には,~相対強度の発明特定事項を満たさない結晶形態であっても安定に保存できることについての記載はない。そうすると,上記~補正は,新たな技術的事項を導入するものであって,特許法17条の2第3項の補正要件に違反するから,本件方法特許は,同法123条 1 項1号により無効とされるべきものである。」
「上記~のとおり,~相対強度の発明特定事項を削除する補正をしたことによって,新たな技術的事項を導入するものとなったから,適法に分割出願がされたということができない。そうすると,~本件方法特許の出願日は,分割出願がされた平成23年11月29日である。そして,~そのような結晶の保存方法は,本件結晶特許権の出願の公報に記載されており,~本件方法発明は,~特許法29条1項3号により特許を受けることができない。」
以上のとおり、裁判所は、本件各特許はいずれも乙3公報により新規性又は進歩性を欠くものであり、また、本件方法特許は、補正要件に違反し、さらに分割要件に違反するものであって新規性を欠くものであると判断した。

原告は、本件結晶特許権に係る無効審判(無効2013-800211)において訂正請求をしており、本件訂正により無効理由が解消されると主張したが、裁判所は、仮に本件訂正が認められたとしても本件訂正発明は進歩性を欠くというべきであり、前記無効理由は解消されないから、原告による訂正の対抗主張は理由がない、として原告の主張を認めなかった。

以上、裁判所は、本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告は特許法104条の3第1項により、被告らに対しその権利を行使することができない、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がない、と判断した。

【コメント】

ピタバスタチンを有効成分とするリバロ後発品の製造販売に対する特許権侵害訴訟において、今まで出されてきた判決は全て、充足論の検討において被疑侵害品は特許発明の技術的範囲に属しないから非侵害という結論に至り、その他の争点(無効論等)については検討していなかった(下記過去記事参照)。しかし、本判決では、まず無効論を検討して特許無効により権利行使できないとの結論に至り、充足論を検討することなく決着となった。

2015年8月17日付け日産化学のpress releaseによれば、本判決を不服として、8月14日付で知財高裁に控訴したとのことである。

参考:
過去記事:

Sep 6, 2015

2015.07.30 「ピーエーティー v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10233

粘膜保護用医薬としてのホスファチジルコリン: 知財高裁平成26年(行ケ)10233

【背景】

「粘膜保護用医薬としてのホスファチジルコリン」に関する特許出願(特願2000-563262号、出願日1999年8月6日、WO00/07577、特表2002-522381)の拒絶審決(不服2012-9689号)取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
疾患治療のための有効濃度で,pHに依存する遅延放出形態でのホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用医薬。
【要旨】

裁判所は、引用発明は「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量のホスファチジルコリンを活性物質として含む,結腸における粘膜保護用剤」と認定。相違点1を、本願発明では、ホスファチジルコリンを「疾患治療のための有効濃度で」含む「医薬」であるのに対し、引用発明では、ホスファチジルコリンを「ラットを用いた酢酸誘導結腸炎モデルにおいて結腸粘膜損傷の修復に有効な量で」含む「薬剤」である点と認定した上で、引用発明及び刊行物1(Digestion, 1992, Vol.53, No.1-2, p.35-44)の記載から、ホスファチジルコリンを、人間の結腸における粘膜保護用医薬として用いようとすること、及びその際の有効量や有効濃度を設定しようとすることは、当業者が容易になし得たことというべきであり、審決の相違点1についての判断に実質的な誤りはないと判断した。

相違点2(本願発明では、ホスファチジルコリンを「pHに依存する遅延放出形態で」含むものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点)の判断についても、裁判所は、引用発明のホスファチジルコリンを「結腸の炎症を改善させる剤」として用いようとした場合に、結腸で作用させることを目的として、pHに依存する遅延放出形態とすることは当業者が容易になし得たことといえると判断した。

本願発明の効果の判断について、原告は、甲15及び甲16の記載は本願発明の医薬による人間の結腸の粘膜保護効果について確認し、裏付けるものであると主張したが、裁判所は、該主張の根拠となる甲15及び16は、いずれも本願の出願から10年以上経過後に発表又は頒布されたものであり、その内容も本願出願前から当業者に周知の事項であったともいえないから、これらに記載された事項を本願明細書の内容を補足するものとして参酌することはできないと判断した。

請求棄却。

【コメント】

原告が本願発明の効果を主張するために提出した、いわゆる「後出しデータ」は参酌されなかった。

一方、欧米では特許になっている。引用発明1が記載された刊行物1は、欧米でも審査で引用されていた。米国での審査状況についてはpublic PAIRが本件審査書類を掲載していないため確認できていないが、欧州での審査では、出願人は疾患を特定する補正を行ったうえで、「驚くべきことに、遅延放出形態でホスファチジルコリンの直腸または経口投与がそれら疾患を治療できることを発見した」といった進歩性の主張を行っており、その後審査官は特許査定を出したようである。
  • US6677319B1
    Claim 1. A method of treating of the colon mucosa, comprising administering a therapeutically effective amount of substrate phosphatidylcholine in a pH-dependent delayed time release preparation.
  • EP1105141B1
    Claim 1. Use of phosphatidylcholine for the manufacture of medicaments having mucosa-protecting action in the large intestine for rectal administration or oral administration with delayed active ingredient release in the lower ileum or colon for the treatment of ulcerative colitis, pouchitis, diseases of the large intestine or inflammation in the large intestine, such as Crohn's disease, diversion colitis, infectious enteritis/colitis, inflammation caused by irradiation, antibiotics, chemotherapeutic agents, drugs or chemicals, or for the treatment or prophylaxis of carcinoma of the large intestine.
Lipid Therapeutics社が、本件特許出願の発明者(Prof. Stremmel)によってなされた研究成果に基づいて、ホスファチジルコリン遅延放出製剤を潰瘍性大腸炎の治療剤として開発中のようであり(同社webpageより)、本件特許出願はその製品をカバーするものであったと思われる。
Lipid Therapeutics GmbH was founded in early 2008 in Heidelberg. The mission is to develop novel therapies for inflammatory diseases of the digestive system. The company's current focus is to develop LT-02, a delayed release of Phosphatidylcholine, for the treatment of Ulcerative colitis based on the preclinical and clinical work conducted by Prof. Stremmel from the University Hospital Heidelberg.

Press release: 2012.03.07 「Lipid Therapeutics licenses European rights to its lead product, LT-02, to co-development partner Dr. Falk Pharma GmbH
同社press release 2014.10.29 「Lipid Therapeutics’ European partner Dr. Falk Pharma GmbH enrolls first patients into pivotal Phase III trial with LT-02, a novel therapy for ulcerative colitis (UC)」によれば、欧米での承認は2019年を想定しているようである。日本での本剤承認が2019年以降であるとすれば、再審査期間(8年間)による実質独占期間満了は2027年以降となる。

つまり、仮に本件特許出願が成立したとしても、20年の存続期間満了は2019年、さらに存続期間延長登録を受けたとして最長で2024年までと見積もられ、本件特許による保護期間は、再審査期間を超える見込みはない。従って、本件特許出願は成立しようがしまいが独占的な価値はないと判断できるものである。

参考:


Aug 29, 2015

2015.07.23 「興和 v. 東和薬品」 知財高裁平成26年(ネ)10138

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その9): 知財高裁平成26年(ネ)10138

【背景】

「PITAVA」の標準文字からなる商標(分割商標権第4942833号の2、指定商品はピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤)の商標権者である控訴人(興和)が、被控訴人(東和薬品)に対し、「ピタバ」を付したPTPシートを包装とするピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤の販売差止め及び廃棄を求めた事案。

原審: 2014.11.28 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成26年(ワ)772

【要旨】

裁判所は、被控訴人が被控訴人の行為は商標的使用ではなく、本件商標権の侵害行為又は侵害とみなされる行為には該当しないと判断。請求棄却した原判決は相当であり本件控訴は理由がないとして棄却した。

(抜粋)
「被控訴人各商品において『ピタバ』の文字部分が強調されているのは,有効成分の語の特徴的部分を強調することによって,他種の薬剤との混同を可及的に防止するという意義を有するにすぎず,被控訴人各商品の販売名の一部であることを超えて,独立の標章ととらえられるものではない。そして,医師等又は薬剤師などの医療関係者にとって,~また,患者にとっても,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず,(中略)これらの標章は,他種の薬剤との混同を防止するという識別のために用いられているのであり(患者にとってみれば,その表示の意義を知らないでも,自分が飲むべき薬か否かの区別がつけば十分である。),他社の同種薬剤との混同の防止,すなわち,出所識別又は自他商品識別のために用いられているのではなく,かつ,そのような機能も果たし得ない。したがって,被控訴人標章1~10が,本件商標の使用に該当すると認めることはできない。」
【コメント】

原審(2014.11.28 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成26年(ワ)772)と同じく商標的使用に該当せずと判断された。

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~8):

Aug 22, 2015

イーライリリー エビスタ®の用途特許の無効審決の取り消し求め審決取消訴訟を提起

イーライリリーは、骨粗鬆症治療剤エビスタ®(一般名:ラロキシフェン塩酸塩(Raloxifene Hydrochloride)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM))の用途特許(特許第2749247号)に関する特許庁の特許無効審決(2015.04.15 無効2013-800139)に対し、これを不服として、同審決の取り消しを求め、知財高裁へ審決取消訴訟を提訴しました。

沢井製薬が無効審判請求人であり、特許庁が本件特許を無効と判断した理由は進歩性の問題でした。
訂正発明1(請求項1):
ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む、ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって、タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い医薬製剤。
特許庁は、本件訂正発明1と引用発明との一致点を「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤」、相違点のひとつを、本件訂正発明1は「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」のに対し、引用発明はこの点についての記載がない点(相違点2)であると認定した上で、上記「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」との記載は、単に、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤」が本来備えている性質を記載したものであると認められ、引用発明のラロキシフェンを活性成分として含む医薬製剤も、当然、備えている性質であると認められることから、この点で、本件訂正発明1が引用発明と異なる発明である、とすることはできないとするなど、本件訂正発明1は、引用発明および優先日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断しました。
2015年8月17日付け沢井製薬のpress releaseによれば、エビスタ®錠60mgの後発品(ラロキシフェン塩酸塩錠 60mg「サワイ」)は承認され、本年12月に薬価収載し、販売を開始する予定とのことです。とはいえ、知財高裁で審決が取り消され、特許が有効であるとの判断が下された場合には販売中止となる可能性もあり、知財高裁の判断を待たずに12月に薬価収載して販売に踏み切るのかどうか、状況を見守りたいと思います。

テバ、東和薬品も同特許に対して無効審判を請求していました(無効2013-800209(請求日2013.11.05、審判請求取下2014.07.16)、無効2014-800140(請求日2014.08.27))。

この用途特許の存続期間満了日は、5年の存続期間延長登録が認められたため、2018年7月28日となっています。

エビスタ®の2014年度の日本売上高は205億円(日本イーライリリー press release: 2015.04.08 「日本イーライリリー 2014年度 売上高は2,105億円を達成 ~対前年比売上7%増、既存製品好調で成長路線を継続~」)。2014年通年の「エビスタ」の世界全体での売上は、前年比 60%減の4億1,980万ドル、米国での売上は2014年3月にエビスタの特許期間が満了したために73%減の2億720万ドルとなっています(日本イーライリリー press release: 2015.02.10 「米国イーライリリー社、2014年第4四半期および通年の業績を報告」)。

参考:


Aug 18, 2015

塩野義がアイセントレスを販売するMSDに対して特許侵害訴訟を提起

2015年8月18日の塩野義製薬のpress releaseによれば、同社が保有するドイツ特許及び日本特許(第5207392号)に基づき、アイセントレス®(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium)、HIVインテグラーゼ阻害剤)を販売するMSD社に対し特許侵害訴訟を提起したとのことです。

Aug 15, 2015

2015.07.16 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 知財高裁平成26年(ネ)10098

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その8): 知財高裁平成26年(ネ)10098

【背景】

「PITAVA」の標準文字からなる商標(分割商標権第4942833号の2、指定商品はピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤)の商標権者である控訴人(興和)が、「ピタバ」を付したピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を販売する被控訴人(Meiji Seikaファルマ)の行為が商標権侵害に該当すると主張して、被控訴人薬剤の販売差止め及び廃棄を求めた事案。

原審: 2014.08.28 「興和 v. Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成26年(ワ)770

【要旨】

裁判所は、被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当し、また、商品の「品質」又は「原材料」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(同項2号)に該当するものと認められ、控訴人が有する本件分割商標権の効力は被控訴人各標章に及ばないものと認められるから、控訴人の請求は、いずれも理由がないものと判断した。

【コメント】

原審では、被控訴人標章は被控訴人商品の出所を表示するものではなく、有効成分の説明的表示であると認識すると考え、被控訴人標章の使用は、商標的使用に当たらず、本件商標権を侵害するものではないとした。こうした、いわゆる「商標的使用」でない商標の使用については商標権侵害を構成しないものとする裁判例はこれまで数多く蓄積されていたが、こうした裁判例は商標法上の特定の規定を根拠とするものではなかった(平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書「第4章 商標法の保護対象の拡充等」p181)。

しかし、2015年4月1日付で施行された平成26年特許法等改正法(平成26年5月14日法律第36号)で商標法26条6号が新設され、いわゆる「商標的使用」がされていない商標に対しては商標権の効力が及ばないことが明文化されたことで、本件について知財高裁は商標法上の規程を根拠として原審と同じ結論を出すことができたわけである。

参考:

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 (略)
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
三~五 (略)
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~7):


Aug 7, 2015

2015.06.24 「和氣技術研究所 v. 新光」 知財高裁平成26年(行ケ)10206

共同出願違反で無効: 知財高裁平成26年(行ケ)10206

原告(和氣技術研究所)が保有する「袋入り抗菌剤」に関する特許(5172002号)について被告(新光)が無効審判を請求した。発明特定事項hを有する本件発明はいずれもBが発明の完成に貢献したものであり、AとBの共同発明に該当するにもかかわらず、本件特許出願はAの単独名義でされたものであるから共同出願(特許法38条)違反であるとして本件特許は無効とすべきとした審決(無効2013-800078)の取消訴訟。

裁判所は、審決がBを本件発明の共同発明者として認定した点に誤りはなく、原告の取消事由の主張には理由がないから、審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断した。

Aは製品販売代理店候補の一社として被告の代表者Bを紹介された後、BはAの事務所に出入りするようになり、Bに対してAは製品の問題点、改良品の製造を考えていること等を話した。それ以降Bはアイデアや設計図を提案することとなったわけである。

発明の帰属に関する取り決めもしていなかったようである。他者と共同で何らかの事業を進めていくに当たり、発明の帰属をしっかり整理せずに、出願してしまい問題となってしまった典型的な例といえる。

参考: エンブロイ(株) webpage


Aug 1, 2015

2015.06.10 「国 v. レクサン」 知財高裁平成26年(コ)10004; 10005

補正ミスに気付かず特許査定に。特許査定を取り消せるのか?: 知財高裁平成26年(コ)10004; 10005

(原審: 2014.03.07 「レクサン v. 国」 東京地裁平成24年(行ウ)591

【背景】

「1-[(6,7-置換-アルコキシキノキサリニル)アミノカルボニル]-4-(ヘテロ)アリールピペラジン誘導体」に関する特願2007-542886(WO2006/054830; 特表2008-520653)について、出願人である本件被控訴人(レクサン及びコーリアリサーチ)は、誤った内容を記載した手続補正書を提出したまま特許査定(2011年11月7日)となったことに気付き、特許査定の取消しを求める旨の行政不服審査法に基づく異議申立てをした(2012年1月6日)が、特許庁長官は却下決定をした(同4月26日)。本件被控訴人は、この却下決定の取消し等を求めて訴訟を提起した(同8月27日)。

本件特許査定の取消しの訴えの適法性についての控訴人(国)の主張骨子は下記のとおり。
本件特許査定の取消しの訴えは、被控訴人らが処分があったことを知った日(特許査定謄本の送達日である2011年11月7日)から6か月(行訴法14条1項)を経過して提起されたものであることは明らかであり、出訴期間を経過した不適法なものである。
そして、行服法4条1項ただし書は「・・・他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分については,この限りでない。」として、行服法による不服申立てができない場合を規定しているところ、特許法195条の4は「査定又は審決及び審判又は再審の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない。」と規定しているから、「査定」については、行服法による不服申立てをすることはできないこととされており、本件異議申立てをしたとしてもそれ自体不適法である。
原審は、特許法195条の4の「査定」には特許査定の全てが含まれるのではなく、処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないものと解し、被控訴人らがした上記異議申立ては適法であるからこれを不適法とした本件却下決定は誤りであると判断した。

控訴人(国)は、原判決が被控訴人らの請求を一部認容した部分を不服として控訴した。特許法195条の4の「査定」に特許査定が含まれるか否かが主な争点のひとつである。

【要旨】

主 文
1 本件控訴について
(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの予備的請求のうち,特許庁審査官がした特許査定の取消しを求める部分に係る訴えを却下する。
(3) 被控訴人らの予備的請求のうち,特許庁長官がした行政不服審査法による異議申立てを却下する旨の決定の取消しを求める部分に係る請求を棄却する。
2 本件附帯控訴について(略)
裁判所の判断

1.本件特許査定の取消しの訴えの適法性について
法における「査定」の用法,法195条の4の規定の制定経過等に照らして,「査定」の文言は文理に照らして解することが自然であり,このように解しても,特許査定の不服に対する司法的救済の途が閉ざされるものではないこと,特許査定に対し,司法的救済のほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられており,その判断も不合理とはいえないことからすれば,法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され,あるいは,処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由があるとは認めることができない。
そうすると,法195条の4の規定により,本件特許査定に対して行服法による不服申立てをすることは認められないから,本件異議申立ては不適法なものであって,これを前提として,本件訴訟における本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項の規定を適用することはできない。
そして,本件特許査定の取消しの訴えが,本件特許査定謄本の被控訴人らへの送達から6か月を経過した後に提起されていることは,前記(1)のとおりである。また,その期間の徒過に正当な理由があることについては,被控訴人らから何らの主張立証もない。
よって,本件特許査定の取消しの訴えは,行訴法14条1項の定める出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであるといわざるを得ず,却下を免れない。
したがって,予備的請求に係る本件特許査定の取消しの訴えについて,出訴期間を遵守した適法な訴えであるとした原判決は,取消しを免れない。
2.本件却下決定についての取消事由の有無について
前記1において説示したとおり,法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含まれると解される。そうすると,特許査定は,行服法4条1項ただし書の「他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」に当たる。したがって,本件特許査定に対して行服法に基づく異議申立てをすることは認められないから,本件異議申立ては,同項に違反し不適法であり,却下を免れない。
そうすると,これと同旨の理由に基づき,本件異議申立てを却下した本件却下決定に誤りはなく,同決定に取消事由があるということはできない。
したがって,原判決中,予備的請求に係る本件却下決定の取消請求を認容した原判決は,取消しを免れない。
3.本件附帯控訴について
不適法または理由がないからいずれも却下または棄却。
【コメント】

補正書の作成時における代理人の問題もあるが、出願人もfinal draftをしっかり確認する必要がある。開発化合物が補正ミスで保護できなくなってしまったら・・・出願人(会社)側としては知財担当者だけの責任問題では済まされない。想像するだけで恐ろしい(原審(2014.03.07 「レクサン v. 国」 東京地裁平成24年(行ウ)591)のコメント参照)。

特許査定の取消しを求める旨の行政不服審査法に基づく異議申立てをしたのが2012年1月6日。
このときはまだ、処分があったことを知った日(特許査定謄本の送達日である2011年11月7日)から6か月は経過していなかった(行訴法14条1項)。
特許法195条の4の「査定」には、通常、特許査定も含まれるというのが、もともと一般的な解釈であったはずであるから、なぜその時査定取消しのための法的手段として、行訴法での処分取消し訴訟を選択しなかったのだろうか。出願人(代理人)の判断に疑問がある。補正書の記載ミスだけでなく、法手続きの選択にもミスがあったのか(それともその時、敢えて行訴法での取消し訴訟を提起しなかった特別な理由があったのだろうか)。

参考:
行政不服審査法 第4条1項
行政庁の処分(この法律に基づく処分を除く。)に不服がある者は、次条及び第六条の定めるところにより、審査請求又は異議申立てをすることができる。ただし、次の各号に掲げる処分及び他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分については、この限りでない。
特許法 第195条の4
査定、取消決定又は審決及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法 による不服申立てをすることができない。
行政事件訴訟法 第14条1項
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

Jul 21, 2015

2015.06.08 「興和 v. ニプロ」 知財高裁平成26年(ネ)10128

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その7): 知財高裁平成26年(ネ)10128
(原審: 2014.10.30 「興和 v. ニプロ」 東京地裁平成26年(ワ)773; 別紙目録

【背景】

控訴人(興和)が、被控訴人(ニプロ)による被控訴人各全体標章(それぞれ横書きの「ピタバ」と「スタチン」を上下二段に配して成る標章)あるいは被控訴人各標章(被控訴人各全体標章からそれぞれ「ピタバ」の部分を抜き出したもの)を包装に付しての薬剤の販売が、控訴人が有する商標権(登録第4942833号。「PITAVA」の標準文字から成り、指定商品を「薬剤」とする登録商標に係る。)を侵害するとして商標法36条1項及び2項に基づき、被控訴人各全体標章等を付したPTPシートを包装とする薬剤の販売の差止め及び同薬剤の廃棄を求めた事案。

控訴人は、本件控訴を提起するとともに、本件商標権につき、指定商品を「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするもの(登録第4942833号の1)と、指定商品を「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とするもの(登録第4942833号の2。以下「本件商標権2」)に分割し、当審において、本件商標権2に基づき控訴の趣旨記載の請求をする旨の訴えの交換的変更を行い、被控訴人はこれに同意した。

【要旨】

主 文
控訴人の当審における交換的変更に係る請求をいずれも棄却する。(他略)
商標法26条1項2号該当性(争点3)について、被控訴人各全体標章が、本件物質の一般的名称である「ピタバスタチン」の語のうち、「ピタバ」の部分を「スタチン」に比べて強調して表示する構成であることが、「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるかどうかが問題となり、裁判所は下記のとおり判断した。
「~医療従事者にとっては,「ピタバ」の語は,少なくとも「ピタバスタチン」の語の一部として,あるいはこの語とともに用いられる場合には,明らかにその略称であると解されるから,かかる構成であることをもって,被控訴人各全体標章から本件物質を想起することが妨げられるということはできない。さらに~被控訴人各商品のPTPシートには,被控訴人各全体標章のほか,横書き一段の「ピタバスタチン」の記載があり,これと外箱における販売名の記載などを併せて見ると,被控訴人各全体標章が「ピタバ」ではなく「ピタバスタチン」を表したものであると認識することは,医療従事者にとっては容易であるということができる。そうすると,結局,医療従事者にとって,被控訴人各全体標章を見たときには,一体として「ピタバスタチン」を表していること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,「ピタバスタチン」の略称として用いられているのにすぎないこと)を,容易に理解することができるというべきである。

次に,患者にとっては,~被控訴人各商品に付された被控訴人各全体標章が,一体として「ピタバスタチン」を指すものであること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,それが「ピタバスタチン」の一部を取り出した略称にすぎないこと)を,さしたる困難もなく理解することができるというべきである。

したがって,被控訴人各全体標章は,取引者や需要者において,全体として「ピタバスタチン」を表示するものとして認識されるか,又は「ピタバスタチン」の略称と容易に理解することができる語としての「ピタバ」を表示するものとして認識されるものということができるから,その表示は,「普通に用いられる方法で表示する」ものの域を出るものではないと認められる。

以上によれば,被控訴人が被控訴人各商品のPTPシートに付して使用している被控訴人各全体標章は,本件商標権2の指定商品の原材料である「ピタバスタチン」を,普通に用いられる方法で表示するものと認められるから,法26条1項2号に当たり,これに対し,控訴人の有する本件商標権2の効力は及ばないというべきである。」
【コメント】

興和は、ニプロが使用する「ピタバ」は本件物質の一般的な略称表記ではないし、需要者である患者は「ピタバスタチン」が化学物質の一般的名称であると認識することはなく、商品名であると認識する、また、ニプロの各標章の表示態様は「普通に用いられる方法」に当たらない、などと主張していたが、裁判所は、その主張を否定した。
上記写真のようなPTPシート上での使用態様について、「ピタバ」の部分だけをことさら抜き出し独立して議論すること(本事件での主位的請求であった)には無理があるし、抜き出せたとしても略称として需要者(患者であっても)には認識可能、一般名称「ピタバスタチン」を普通に用いられる方法で表記した範疇に過ぎないというのは、直感的にもそう思う。裁判所の判断は妥当であろう。

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~6):

Jul 12, 2015

2015.04.28 「日産化学 v.沢井製薬」 東京地裁平成26年(ワ)5187

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか: 東京地裁平成26年(ワ)5187

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する原告(日産化学)が、被告による原薬の保存行為、製剤の製造・販売が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。

内容は下記記事とほぼ同じ。

2015.01.27 「日産化学・興和 v. ダイト・持田・東和・鶴原・科研・小林化工・Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成25年(ワ)33993

参考:

Jul 6, 2015

2015.07.06 特許庁 「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について」

2015年7月6日、特許庁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について下記のとおり発表しました。

当面の審査の取扱いについて
  • 物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、審査官が「不可能・非実際的事情」があると判断できるときを除き、当該物の発明は不明確であると判断し、拒絶理由を通知します。

    ※「不可能・非実際的事情」とは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情をいいます。

    ※後に無効理由を含む特許となったり、第三者の利益が不当に害されたりすることがないよう、拒絶理由を通知することで、出願人に、「不可能・非実際的事情」が存在することの主張・立証の機会や、反論・補正の機会を与えることとします。
  • 出願人は、当該拒絶理由を解消するために、反論以外に、以下の対応をとることができます。
    ア.該当する請求項の削除
    イ.該当する請求項に係る発明を、物を生産する方法の発明とする補正
    ウ.該当する請求項に係る発明を、製造方法を含まない物の発明とする補正
    エ.「不可能・非実際的事情」についての意見書等による主張・立証
  • 出願人の「不可能・非実際的事情」についての主張・立証の内容に、合理的な疑問がない限り(通常、拒絶理由通知時又は拒絶査定時に、審査官が具体的な疑義を示せない限り)、審査官は、「不可能・非実際的事情」が存在するものと判断します。
当面の審判の取扱いについて
  • プロダクト・バイ・プロセス・クレームが関連する審判事件等においても、最高裁判決の判示内容に沿って、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱いについて」を参酌しつつ、審理を行います。
  • 拒絶査定不服審判において、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、「不可能・非実際的事情」があると合議体が審判請求人に聞くまでもなく判断できるときを除き、拒絶理由を通知します。審判請求人は「1.当面の審査の取扱いについて」と同様に、補正や、意見書等における「不可能・非実際的事情」の主張・立証等の対応をとることができます。
参考:

Jul 5, 2015

2015.04.28 「ソルヴェイ v. 江蘇揚農化工」 東京地裁平成26年(ワ)5011

共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係: 東京地裁平成26年(ワ)5011

【背景】

本件は、原告(ソルヴェイ)が、「被告(江蘇揚農化工)が中国国内において製造・販売しているエピクロロヒドリンは、以下の第1および第2の工程からなるエピクロロヒドリンの製造方法:
第1の工程: グリセロールを,アジピン酸の存在下で,塩素化剤との反応に付し,ジクロロプロパノールを得る。
第2の工程: 第1の工程により得られたジクロロプロパノールの少なくとも1種のフラクションを脱塩素化水素反応に付し,エピクロロヒドリンを得る。
により製造されているから、蝶理(株)が被告製品を日本国内に輸入し販売する行為は、原告の特許権(特許第4167288号; 特許第4642142号)を侵害するものであり、被告が蝶理に対し被告製品を販売する行為は、蝶理を通じて日本国内で被告製品を販売することを目的としており、蝶理の特許権侵害行為と共同不法行為の関係にある」旨主張して、被告に対し、民法709条、719条1項ないし2項、特許法102条2項に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案。被告は、国際裁判管轄が認められないとして本件訴えの却下を求めてた。

被告は、中国国内において被告製品を製造し、蝶理に対して販売し、蝶理は、被告製品を日本に輸入し、日本国内で販売している。

【要旨】

主 文
1 本件訴えを却下する。(他略)
当裁判所の判断
「1 民事訴訟法3条の3第8号にいう「不法行為があった地が日本国内にある」として国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が日本国内でした行為により原告の権利利益について損害が生じたか,被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる(最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決・民集68巻4号329頁参照)。そして,本件のように,原告が共同不法行為を主張する場合には,原則として,上記行為として,被告を含む共同不法行為者らの行為の関連共同性を基礎付ける客観的事実関係,又は被告がした教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係を証明する必要があると解すべきである。」

2 本件において

原告は、共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係として、下記点を主張した。
①被告は被告製品が蝶理によって日本に輸入され日本国内で販売されることを認識していたこと
②被告は蝶理に対し日本において特許権侵害の問題が生じた場合には被告において問題を解決する旨の表明をしていること
③被告は蝶理に対し被告製品を積極的に売り込んだこと
④蝶理は日本向けの被告製品を独占的に被告から購入していたこと
しかしながら、裁判所は、
①及び②の事実は、一般的な製造業者と商社との間の国際商取引の範囲を超えるものではないといえること
③及び④の事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく、後者については、かえって、被告と蝶理との間の取引は独占的なものでないこと
が認められるから、これらの事実のみをもって、被告と蝶理の行為の関連共同性を基礎付けるものということはできないし、蝶理に対する被告の教唆ないし幇助行為を認めることもできないとした。

「したがって,関連共同性を基礎付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係が証明されているとはいえず,その他本件訴えにつき我が国の国際裁判管轄を認めるべき特段の事情も窺われないから,本件において「不法行為があった地が日本国内にある」とは認められない。

3 なお,~少なくとも本件について,関連共同性の主張立証もないのに,被告による中国国内における被告製品の販売行為のみに基づき我が国の国際裁判管轄を認めることはできない。

4 以上のとおりであって,本件訴えは,我が国の国際裁判管轄が認められないものとして不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。」
【コメント】

共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係を証明することはできず、訴えは却下された。

一方、被告製品を日本に輸入し、日本国内で販売している蝶理に対して、原告が提起した特許侵害差止等請求事件(2014.09.11 「ソルヴェイ v. 蝶理」東京地裁平成25年(ワ)27293)では、江蘇揚農化工が第1の工程によりジクロロ プロパノールを製造していることを認めるに足りる証拠はないから揚農が ジクロロプロパノールを製造することが本件発明1の技術的範囲に属するとは認められないとして非侵害の判決が下されている。

Jul 2, 2015

2015.04.27 「興和 v. テバ製薬」 東京地裁平成26年(ワ)771

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その6): 東京地裁平成26年(ワ)771

【背景】

「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を指定商品とする商標権(第4942833号の2)を有する原告(興和)が、被告(テバ製薬)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章を付した薬剤販売の差止め及び廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
裁判所は、被告標章の使用は、商標的使用に該当せず、また、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当するから、本件商標権に係る商標登録は無効審判により無効とされるべきものであって、原告は本件商標権を行使することができないと判断した。その理由は2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766とほぼ同じ。

【コメント】

2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766参照。

Jul 1, 2015

2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その5): 東京地裁平成26年(ワ)766

【背景】

「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を指定商品とする商標権(第4942833号の2)を有する原告(興和)が、被告(共和薬品工業)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章を付した薬剤販売の差止め及び廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
裁判所は、被告各標章の使用は商標的使用に該当せず、また、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当するから、本件商標権に係る商標登録は無効審判により無効とされるべきものであって、原告は本件商標権を行使することができないと判断した。その理由は以下のとおり。

争点(2)(被告各標章の使用が商標的使用に当たるか)について
「被告各標章は,あくまで被告各商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムを示すものにすぎず,それ自体出所識別機能を有するものと認めることはできないから,その使用は商標的使用に該当しない。」
争点(4)(本件商標権に係る商標登録が無効審判により無効とされるべきものと認められ,又は原告による本件商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
「本件商標に係る商標登録出願は,本件特許権の存続期間満了後,原告のライセンシー以外の者による後発医薬品の市場参入を妨げるという不当な目的でされたものであることが推認されるばかりか,本件商標を指定商品「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」に使用することを原告に独占させることは,薬剤の取違え(引いては,誤投与・誤服用による事故)を回避する手段が不当に制約されるおそれを生じさせるものであって,公共の利益に反し,著しく社会的妥当性を欠くと認めるのが相当である。
なお,付言するに,原告のような先発医薬品を製造販売する者が後発医薬品の市場参入を阻止したいと考えること自体は,無理からぬところであるが,その手段は,特許権など医薬品それ自体に関する権利の行使によるべきであって,化合物の一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられる「PITAVA」の文字を標準文字で書してなる本件商標と,薬剤の取違えを回避するため被告商品の錠剤表面に印字された「ピタバ」(有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられることは,前示のとおりである。)との文字からなる標章(被告標章)とが類似する旨主張することは,公益上,容認することができないというべきである。
~上記検討したところによれば,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号,46条1項1号)に該当し,本件商標権に係る商標登録は,無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原告は本件商標権を行使することができない。」
【コメント】

今までのPITAVA事件(下記関連判決)で、商標法4条1項7号の該当性については、原告が主張していた争点ではあったが、裁判所による判断はされていなかった。本件では、その点についても始めて裁判所は判断した。
後発品の市場参入を防ぐアイデアとしてはおもしろいチャレンジではあったが、公序良俗とまで言われると、さすがにやりすぎた感は否めないものとなってしまった。

関連判決:

Jun 27, 2015

2015.04.13 「スキャンティボディーズ・DSファーマバイオメディカル v. エフ.ホフマン-ラ ロシュ」 知財高裁平成26年(行ケ)10139; 平成26年(行ケ)10085

hPTHのアッセイキット: 知財高裁平成26年(行ケ)10139; 平成26年(行ケ)10085

【背景】

スキャンティボディーズ(甲事件原告)が保有する「完全型副甲状腺ホルモンの測定方法ならびに副甲状腺疾患および慢性腎不全患者の骨状態の識別方法」に関する特許第4132677号(WO2000/042437)について、エフ.ホフマン-ラ ロシュ(被告)が請求した特許無効審判において、無効とした審決(無効2012-800004)の取消訴訟。前記審決に参加したDSファーマバイオメディカル(乙事件原告)は、日本国内における本件特許の専用実施権者である。審決理由は甲8文献(Lepage et al., 1998, Clin. Chem., 44(4): 805-809)に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できるから進歩性違反というもの。

請求項1:
ヒト完全型副甲状腺ホルモンをアッセイするためのキットであって,
a)Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met(配列番号4)からなるヒト完全型副甲状腺ホルモンの初期ペプチド配列に特異的な第1の抗体又は抗体断片であって,該初期ペプチド配列中のSer-Val-Ser-Glu-Ile-Gln((1~6)PTH)と反応し,かつ(1~6)PTHのうちの少なくとも4つのアミノ酸を反応部位の一部とする,標識された第1の抗体又は抗体断片と,
b)前記ヒト完全型副甲状腺ホルモンのアミノ酸配列34から84(配列番号3)を認識する第2の抗体又は抗体断片とを含み,阻害性の非(1~84)副甲状腺ホルモン断片を検出することなく,
生物学的サンプル中のヒト完全型副甲状腺ホルモン量を測定するキット。
甲8発明の内容:
インタクトなヒト副甲状腺ホルモン(I-PTH)をアッセイするニコルス(NL),インクスター(IT)およびダイアグノスティックシステムラボラトリーズ(DSL)のアッセイキットであって,
a)125Iのシグナルで標識された抗アミノ末端シグナル抗体と
b)抗カルボキシ末端捕捉抗体
を含み,尿毒症患者試料中のインタクトなヒト副甲状腺ホルモン(I-PTH)濃度を測定するキット。
【要旨】

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「甲8文献には,PTH(7-84)には含まれないPTHの一番端のN末端部位に対する抗体を用いれば,PTH(7-84)を検出することのないインタクトPTH測定用キットを得ることができることが強く示唆されているものと認められる。
以上によれば,当業者であれば,甲8文献が示唆している上記の技術的課題を解決すべく,PTH(7-84)には含まれないPTHの一番端のN末端部位であるPTH(1-6)に対する抗体を実際に作成し,それを甲8文献に記載された抗アミノ末端シグナル抗体として用いることにより,PTH(7-84)を検出することのないインタクトPTH測定用キット,すなわち「阻害性の非(1~84)副甲状腺ホルモン断片を検出することなく,生物学的サンプル中のヒト完全型副甲状腺ホルモン量を測定する」キットとし,訂正発明1に係る相違点1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものというべきである。」
「より正確な診断や識別を可能とする効果自体は,従来のインタクトPTH測定用キットが測り込んでいた非(1-84)PTH断片を検出しないという,甲8文献の記載から当業者が予測可能な程度のものである。さらに,原告らが主張する,完全型と阻害性断片との量比もしくは差分を用いた特定の診断ないし識別手法に基づく効果は,訂正発明1である完全型PTH量を測定するキット自体が奏する効果とは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。」
【コメント】

本件発明キットの発想は引用文献に強く示唆されていたということで進歩性が否定された。
欧州では成立特許(EP1151307)に対して異議申立され無効となっている。

参考:


Jun 21, 2015

2015.04.13 「リボコル, バイオエナジー v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10179; 平成26年(行ケ)10190

共有に係る特許出願の拒絶審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟: 知財高裁平成26年(行ケ)10179; 平成26年(行ケ)10190

【背景】

「心血管の機能を向上する為の組成物及び方法」に関する本件特許出願(特願2002-515280号)に係る特許を受ける権利は、リボコルとバイオエナジーの共有だった。本件特許出願の拒絶審決取消訴訟が提起(平成26年(行ケ)10179)されたが、原告訴訟代理人の過誤により、リボコル(原告)の名称のみが記載された訴状が提出され、その出訴期間経過後にバイオエナジー(参加人)が上記審決取消しを求めて民訴法52条1項に基づき共同訴訟参加の申出をした(平成26年(行ケ)10190)。裁判では本件訴え及び本件申出の適法性が問題となった。

【要旨】

主 文
1 本件訴え及び本件共同訴訟参加の申出をいずれも却下する。(他略)
裁判所の判断
「(2)民訴法52条に基づく参加申出において,共同原告として参加する第三者は,自ら訴えを起こし得る第三者でなければならないと解されるから,出訴期間の定めがある訴えについては,出訴期間経過後は同条による参加申出はなし得ないものと解するべきである(最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁参照)。そして,特許法178条4項は,審決取消訴訟の出訴期間を不変期間と定めている。もっとも,不変期間であっても,参加人の責めに帰することができない理由で出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったときは,一定期間内に追完することができる(行訴法7条,民訴法97条1項)。
しかし,本件においては,上記(1)の経緯のとおり,本件申出は,出訴期間経過後になされたことが明らかであるところ,上記認定の経緯に照らしても,参加人において出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったことについて,その責めに帰することができない事由があったとは認めることができない。
したがって,参加人の本件申出は,不適法なものというほかない。

(3)また,特許を受ける権利の共有者が,その共有に係る権利を目的とする特許出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し,請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に,上記共有者の提起する審決取消訴訟は,共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するべきである(平成7年判決)。
そして,前記(1)オによれば,本件訴えは,本願に係る特許を受ける権利の共有者の一部である原告のみによって提起されたものとみるほかない。
ところで,固有必要的共同訴訟において,共同訴訟人となるべき者が脱落している場合であっても,民訴法52条により脱落者が共同訴訟参加人として参加すれば,必要的共同訴訟における当事者適格の瑕疵は治癒されるものと解される。しかし,上記(2)の説示のとおり,本件申出は不適法であるから,本件においては,当事者適格の瑕疵を適法に治癒するものと解することはできない。
したがって,原告の本件訴えも不適法である。」
【コメント】

原告が主張の中で引用した「平成17年知財高裁判決」で争われた事件は、まさに本件と同様の状況が起きた事件である。この「平成17年知財高裁判決」では、参加の申出を認め、原告の訴えは参加人の共同訴訟参加により適法になったと判断しており、本判決での判断と矛盾する。「平成17年知財高裁判決」でこの点での扱いには疑問が残るが、結局結論は進歩性を否定した審決を肯定しており、どう扱おうが結論に影響はなかった。本件においても、拒絶審決理由は進歩性の欠如であり、裁判所はその点も検討して審決の判断に誤りはなかったと判断しているため、仮に、代理人による手続きの瑕疵がなかったとしても拒絶の結論は変わらなかったと思われる。

平成7年判決
  • 1995.03.07 最高裁平成6年(行ツ)83
    実用新案登録を受ける権利の共有者が、共同で拒絶査定に対する審判を請求し、請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟であるとした。
平成14年判決
  • 2002.02.22 最高裁平成13年(行ヒ)142
  • 2002.02.28 最高裁平成13年(行ヒ)12
  • 共有に係る商標権について、当該商標登録を無効にすべき旨の審決がされた場合に提起する審決取消訴訟は、単独で無効審決の取消訴訟を提起することができるいわゆる類似必要的共同訴訟であるとした。
  • 2002.03.25 最高裁平成13年(行ヒ)154
    共有に係る特許権について、特許異議の申立てに基づき当該特許を取り消すべき旨の決定がされた場合に提起する取消訴訟は、単独で取消決定の取消訴訟を提起することができるいわゆる類似必要的共同訴訟であるとした。
平成17年知財高裁判決
  • 2005.10.11 知財高裁平成17年(行ケ)10069; 平成17年(行ケ)10087
    2名が共同で出願した特許出願について、両名に対し、拒絶査定不服審判不成立審決がなされたのに対し、訴状の記載から1名が欠落した結果、1名のみが期限内に出訴した形となり、もう1名が審決の謄本の送達から約4か月後に出訴した事案において、訴え及び参加申出の適法性を肯定した。

Jun 17, 2015

日本ジェネリック製薬協会 特許権存続期間延長についての意見公表

2015年5月29日、日本ジェネリック製薬協会知的財産研究委員会は、現在最高裁にて審理中のアバスチン事件の帰趨はジェネリック医薬品業界に看過できない影響を及ぼす恐れがあるとして、「延長された特許権の効力範囲は明確でなければならず、薬事承認によって禁止が解除された特許発明の範囲と、延長された特許権の効力範囲とを明確に一致させることが、最も適切であると考える(抜粋)」との意見を公表しました。

参考: