Sep 10, 2015

2015.07.31 「日産化学 v. 相模化成工業・日医工・壽製薬」 東京地裁平成26年(ワ)688

ピタバスタチン結晶の特許性: 東京地裁平成26年(ワ)688

【背景】

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する原告(日産化学)が、被告らによる原薬又は製剤の製造・販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。本件各特許権が特許無効審判により無効にされるべきものか否か(争点(2))が主な争点となった。

本件結晶発明1:
式(1)
で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。
本件方法発明1:
CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%~13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム
塩の保存方法。
【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。(他略)
裁判所の判断

(1) 本件各特許に関する乙3公報(WO03/064392、特表2005-520814)による新規性又は進歩性欠如(争点(2)ウ)について

裁判所は、
「被告らは,乙3公報の段落【0136】に記載された実験を~追試した結果を記載したものとして,乙6報告書を提出したが,そこに記載された乙6追試~が,本件結晶特許の出願時の技術常識に従ったものであれば,本件結晶発明1は乙3公報に記載されているに等しいということができる。」
と認定したうえで、乙3公報に開示されていない塩化カルシウム水溶液の滴下時間及び乾燥条件の選択について、乙6追試は技術常識に従ったものといえると判断した。

この点に関して原告は、乙6追試が適切な追試ではないと主張し、甲48報告書記載の乙3発明の追試ではチバ結晶Eが得られたこと、及び、甲61報告書記載の乙3発明の追試では安定ではない結晶形態Aが得られたこと、を指摘した。

しかし、裁判所は、
「甲48報告書には,得られた白色結晶性粉末の水分量が8.03%であったと記載されており,乙3発明の水分量(10.6%)とは相当程度に異なるから,甲48報告書記載の追試が,適切な条件で行われたと認めるに足りない。そして,甲61報告書記載の追試によって得られた結晶は,粉末X線回折測定の結果,本件結晶発明1の~15本の回折角と±0.04°以内で一致する回折角においてピークが観測され,さらには,20.7°付近のピークの強度を100%とした場合の30.2°付近の相対強度が28%であったから,むしろ,甲61報告書は,乙3発明が,本件結晶発明1と同一であることを裏付けるものであるというべきである。なお,安定性は,本件結晶発明1の構成要件ではないから,乙3発明の追試により得られた結晶が安定性を欠いていたとしても,乙3発明と本件結晶発明1の同一性を否定することはできない。原告の主張するその余の点を考慮しても,乙6追試に,乙3発明の追試として不適切な点があることはうかがえない。そうすると,乙6追試は,乙3発明を,技術常識を参酌して追試した結果を示していると認めるのが相当である。以上によれば,本件結晶発明1は,乙3公報に記載されているに等しい事項というべきであるから,特許法29条1項3号により,特許を受けることができない。」
と判断した。

本件方法発明についても、裁判所は、
「化合物の保存を密栓したビンなどの容器中の気密条件下で行うことは,化合物に係る技術分野における技術常識といえるところ,乙3発明の10.6重量%の水分を含む結晶性粉末を上記のような気密条件下で保存した場合には,含有水分量はほとんど変化しないと考えられる。そうすると,当業者であれば,乙3発明の結晶の含有水分を,4重量%より多く,15重量%以下の水分の範囲に維持することは,容易に想到できるといえる。したがって,本件方法発明は,当業者が,乙3発明に基づいて容易に発明をすることができたというべきであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができない。」
と判断した。

(2) 本件方法特許に関する補正要件違反及び分割要件違反(争点(2)オ・カ)について
「本件方法特許の出願当初は,保存方法の対象となる結晶について,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の30.16°の回折角ピークの相対強度が25%よりも大きなもののみとしていたにもかかわらず,~補正により,上記相対強度が25%以下のものを含むものへと拡大されたものと認められる。そして,出願当初の特許請求の範囲,明細書及び図面には,~相対強度の発明特定事項を満たさない結晶形態であっても安定に保存できることについての記載はない。そうすると,上記~補正は,新たな技術的事項を導入するものであって,特許法17条の2第3項の補正要件に違反するから,本件方法特許は,同法123条 1 項1号により無効とされるべきものである。」
「上記~のとおり,~相対強度の発明特定事項を削除する補正をしたことによって,新たな技術的事項を導入するものとなったから,適法に分割出願がされたということができない。そうすると,~本件方法特許の出願日は,分割出願がされた平成23年11月29日である。そして,~そのような結晶の保存方法は,本件結晶特許権の出願の公報に記載されており,~本件方法発明は,~特許法29条1項3号により特許を受けることができない。」
以上のとおり、裁判所は、本件各特許はいずれも乙3公報により新規性又は進歩性を欠くものであり、また、本件方法特許は、補正要件に違反し、さらに分割要件に違反するものであって新規性を欠くものであると判断した。

原告は、本件結晶特許権に係る無効審判(無効2013-800211)において訂正請求をしており、本件訂正により無効理由が解消されると主張したが、裁判所は、仮に本件訂正が認められたとしても本件訂正発明は進歩性を欠くというべきであり、前記無効理由は解消されないから、原告による訂正の対抗主張は理由がない、として原告の主張を認めなかった。

以上、裁判所は、本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告は特許法104条の3第1項により、被告らに対しその権利を行使することができない、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がない、と判断した。

【コメント】

ピタバスタチンを有効成分とするリバロ後発品の製造販売に対する特許権侵害訴訟において、今まで出されてきた判決は全て、充足論の検討において被疑侵害品は特許発明の技術的範囲に属しないから非侵害という結論に至り、その他の争点(無効論等)については検討していなかった(下記過去記事参照)。しかし、本判決では、まず無効論を検討して特許無効により権利行使できないとの結論に至り、充足論を検討することなく決着となった。

2015年8月17日付け日産化学のpress releaseによれば、本判決を不服として、8月14日付で知財高裁に控訴したとのことである。

参考:
過去記事:

No comments: