May 28, 2015

2015.02.24 「大長企画 v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10159

緑イ貝を選択することの容易想到性: 知財高裁平成26年(行ケ)10159

【背景】

「健康食品」に関する特許出願(特願2009-114271)の拒絶審決取消訴訟。争点は進歩性。

請求項1:
A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミン,C.緑イ貝,およびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステルのA,B,C,Dを含むことを特徴とする健康食品。
【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
「当業者が,引用発明1の成分に加えて「その他成分」として,効能をより増大するために引用発明1が有する効能と同様の効能を有する成分を選択して添加することとし,リウマチ等の関節炎に対して効能のある引用発明1の成分に加えて,引用例2に記載のリウマチ等の関節痛に効能のある成分である緑イ貝を選択することは,当業者が容易になし得る程度のことであり,格別の創意工夫を要しない。したがって,補正発明が,引用発明1及び引用例2に記載の事項により,容易に想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはない。」
原告は、
「引用例1と引用例2がともにリウマチを効能とするものであるとしても,リウマチを効能とする食品は複数あるから,その中から引用例2の「緑イ貝」を選択することは動機付けられない」
と主張したが、裁判所は、
「健康食品の分野において,効能をより増大させるために,同じ効能を有する食材を混合することは,本願出願前の周知の技術であり,引用例1においても,引用特許発明の請求項記載の成分に,他の有効成分と組み合わせることが記載され,緑イ貝を粉末又はエキスの形で健康食品として,他の健康食品と混合摂取することは,技術常識であったことに照らすと,緑イ貝を複数の選択肢の中から選択することは,当業者が任意になし得ることである。」
として、原告の上記主張は採用できないと判断した。

また、原告は、
「有効成分を組み合わせるときには,配合禁忌ないし合食禁の問題があるから,引用例1の成分に,同様の効能を有するすべての他の成分を配合できるものではないことを理由に,緑イ貝を選択することは動機付けられることはない」
と主張したが、裁判所は、
「健康食品に複数の材料,成分を混合して摂取することは技術常識であり,緑イ貝が健康食品として他の食品とともに摂取されることも技術常識であったことからすれば,引用例1に接した当業者が,緑イ貝を加えた場合に,各有効成分の作用が阻害されたり,重篤な副作用が出たりといった配合禁忌の問題が生じると考えるとはいえず,引用発明1に緑イ貝を添加する動機付けを阻害するものとはいえない。原告の主張は,化学物資の配合における抽象的危険性を,市販されるような通常の健康食品の併用にあてはめようとするものであり,失当といえる。」
として、原告の上記主張は採用できないと判断した。

また、原告は、
「自己免疫疾患,特に,関節リウマチ,花粉症に有効であり,また,緑イ貝のリウマチの痛みを和らげる効果に加えて「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステル」の強筋肉作用により,リウマチに対する作用が相乗効果により更に優れた効果を発揮するなど文献からは予測できない優れた効果を得ることができたのであるから,補正発明は進歩性を有する」
と主張したが、裁判所は、
「本願明細書には,効果として,「~」と記載されているが,実施例1~20においても,「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステル」に緑イ貝を添加しない対照実験は行われておらず,緑イ貝の分量によって効果に差異が生じたとの実験結果も示されていない。しかも,「A.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,B.クルクミンおよびD.コール酸,またはシムノールまたはシムノール硫酸エステル」を含む引用発明1に関する引用例1に「強筋肉作用,抗炎症作用」,「衰えた筋肉を強化し,リウマチなどに有効」,「リウマチなどの関節炎に対して著効」である旨記載されていること,緑イ貝の乾燥粉末に関する引用例2には,緑イ貝が関節痛に有効であり,関節痛,リウマチの特効食品とされている旨記載されていること,上記のとおり,健康食品の分野において,効能をより増大させるために,同じ効能を有する食材を混合することは,本願出願前の周知の技術であったことからすれば,上記~に記載された効果は,当業者が予測し得る範囲のものといえる。」
として、原告の上記主張は採用できないと判断した。

【コメント】

引用発明の成分に加えて「その他成分」として効能をより増大するために引用発明と同様の効能を有する副引用例に記載の成分を選択することは、当業者が容易になし得る程度のことであり,格別の創意工夫を要しない。複数有効成分からなる組成物の発明の進歩性が否定される典型例といえる。

大長企画関連の過去判決記事:

May 25, 2015

2015.02.19 「大鵬薬品 v. アンティキャンサー」 知財高裁平成25年(行ケ)10311

リサーチツール特許に関する争い: 知財高裁平成25年(行ケ)10311

【背景】

被告が保有する「ヒト疾患に対するモデル動物」に関する特許第2664261号について無効審判請求不成立審決(無効2012-800093)の取消訴訟。争点は、新規性判断又は進歩性判断の誤りの有無等。

請求項1:
ヒト腫瘍疾患に対する非ヒトモデル動物であって,前記動物が前記動物の相当する器官中へ移植された脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊を有し,前記移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有するモデル動物。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2012-800093号事件について平成25年10月4日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断
取消事由5-3(無効理由5-1に対する判断の誤り―相違点の判断の誤り)について

「[1]皮下継代を経ていない腫瘍を用いて同所移植が行われた結果,浸潤が生じている甲1発明について,[2]皮下継代された腫瘍を用いて甲1発明同様に同所移植が行われた結果,浸潤及び転移が生じている甲3発明及び甲4発明を参酌すれば,[3]甲1発明において,時間が経過して浸潤が更に広がれば,甲3発明及び甲4発明と同様に転移が生じる可能性が高いと予測することは,[4]当業者であれば容易になし得たことにすぎず,通常の創作能力の範囲内において試みを動機付けられる程度のものといえる。そうであれば,甲1発明のヌードマウス(無胸腺マウス)において,甲3発明及び甲4発明の知見を適用して,ヒト腫瘍の転移に対するモデル動物とすること,すなわち,相違点に係る本件発明1,2,11及び12の構成とすることは,当業者であれば,容易に想到できることと認められる。

~取消事由5-3には理由があるところ,この結論は,甲1発明に基づく本件発明3~10,13~19の進歩性判断にも影響を及ぼす蓋然性が高い。そこで,審決を全部取り消すこととし,主文のとおり判決する。」
【コメント】

大鵬薬品が浜松医大に委託した新規抗がん剤(TSU68)の評価実験に使用した実験用モデル動物に関しての特許侵害訴訟では既に知財高裁にて非侵害であるとの判決が出されている(2013.12.19 「アンティキャンサー v. 大鵬薬品」 知財高裁平成24年(ネ)10054)。

欧州では成立特許(EP0437488B)に対して武田薬品が異議申立てをしたが、特許維持の判断がなされた。
Claim 1. A non-human animal model for human neoplastic disease, said animal model having neoplastic cells obtained from a human liver, kidney, stomach, pancreas, colon, breast, prostate, lung or testis implanted into the corresponding organ of said animal, and having sufficient immunodeficiency to allow said implanted neoplastic tissue to grow and metastasize, characterised in that said cells are in the form of an intact mass of neoplastic tissue.
米国では成立特許(RE39,337)に関して、Pfizerと争ったようである(2014.10.20 「AntiCancer, Inc. v. Pfizer」 CAFC 2013-1056))。

参考:


May 20, 2015

ルリコナゾールに関する特許権について

日本農薬(株)及び(株)ポーラファルマは、ルリコナゾールに関する特許権について、2015年5月11日付で下記謹告を掲載しました。

2015.05.11 【謹告】ルリコナゾールに関する特許権について
ルリコナゾール(Luliconazole)は、日本農薬がその原薬を製造し、ポーラファルマが、「ルリコン®クリーム1%」(2005年4月11日承認)、「ルリコン®液1%」(2005年4月11日承認)および「ルリコン®軟膏1%」(2013年2月26日承認)として製造販売しているイミダゾール系の外用抗真菌薬。

日本農薬が保有する、ルリコナゾールを有効成分とする抗真菌剤に関する特許権(特許第3278738号)は、2016年7月8日をもって存続期間が満了しますが、ルリコナゾールの原薬及び製剤等に関する下記特許権が存在するとのことです。
  • 特許第5160409号(2026年10月2日満了): 外用の医薬組成物
  • 特許第5184342号(2026年10月2日満了): 外用の医薬組成物
  • 特許第5460797号(2032年9月14日満了): 類縁物質
  • 特許第5662495号(2033年2月8日満了): 可溶化剤形の医薬組成物
  • 特許第5589110号(2033年3月8日満了): 結晶
  • 特許第5453559号(2033年4月9日満了): 結晶
  • 特許第5513660号(2033年5月8日満了): 結晶の差異評価方法
  • 特許第5589130号(2033年9月6日満了): 結晶複合体
  • 特許第5680161号(2033年9月6日満了): 結晶
  • 特許第5587488号(2033年12月12日満了): 製剤の安定性の評価方法
  • 特許第5623671号(2033年12月12日満了): 製剤の設計方法(特許第5587488号の分割)
  • 特許第5698395号(2034年2月19日満了): 結晶複合体
  • 特許第5699234号(2034年2月19日満了): 結晶複合体
  • 特許第5686914号(2034年3月10日満了): 医薬組成物の製造方法

May 17, 2015

2015.02.10 「日産化学 v. 陽進堂」 東京地裁平成26年(ワ)3343

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか東京地裁平成26年(ワ)3343

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する原告(日産化学)が、被告による原薬及び製剤の使用・製造・販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。

内容は下記記事と同じ。

2015.01.27 「日産化学・興和 v. ダイト・持田・東和・鶴原・科研・小林化工・Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成25年(ワ)33993

参考:

May 9, 2015

2015.01.26 「沢井製薬 v. 旭化成ファーマ」 判定2014-600029

新規有効成分(普通錠)の承認に基づく延長特許の効力はOD錠に及ぶ?: 判定2014-600029

【背景】

請求人(沢井製薬)が、ナフトピジルOD錠「サワイ」は、旭化成ファーマが保有する「良性前立腺肥大における排尿困難症を治療するためのナフトピジルの用途」に関する特許第1878494号の特願平11-700022により存続期間が延長された特許の技術的範囲に属しない、との判定を求めるというもの。

【特許庁の判断】

特許庁は、
「判定について、特許法71条1項には「特許発明の技術的範囲については、特許庁に対し、判定を求めることができる。」と規定されている。そして、この規定に基づき判定を求めることができる対象である「特許発明の技術的範囲」については、平成14年改正前の特許法70条1項に「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定され、同2項には「前項の場合においては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定されている。
これに対して、本件特許第1878494号の特許請求の範囲及び明細書の特許請求の範囲以外の部分(図面の添付はない)の記載は、特願平11-700022号に基づく存続期間の延長(登録日:平成11年9月22日)の前後において変わらないのであるから、「特願平11-700022号により存続期間が延長された」という事実は、特許法70条の規定に基づいてなされるものである、本件特許発明の技術的範囲の判断には影響を及ぼさない。
よって、本件判定の請求の趣旨は、「イ号説明書に示す「ナフトピジルOD錠「サワイ」」は、特許第1878494号発明の技術的範囲に属しない、との判定を求める」ものであると解し、以下判断を行う。」
と前置きしたうえで、本件請求項に係る発明とイ号物品を対比した結果、イ号物品は、本件請求項に係る発明の構成要件を充足するから、特許第1878494号発明の技術的範囲に属する、と判定した。

なお、特許庁は、
「判定請求書において、請求人は、存続期間が延長された特許権の効力は特許法68条の2に基づいて、その及ぶ範囲が解釈される、との前提の下、イ号物件には本件特許権の効力が及ばない旨の判定を求めているようであるが、特許法68条の2の規定による特許権の効力が及ぶ範囲について、特許庁に判定を求めることができる旨の規定は特許法に存在しないから、特許法68条の2の規定による本件特許権の効力が及ぶ範囲について、請求人は、特許庁に対して判定を求めることはできない。」
として、延長された特許権の効力が及ぶ範囲については判断をしなかった。

【コメント】

特許庁は、他の判定事件と同様に、延長された特許権の効力が及ぶ範囲については判断しなかった。
ナフトピジル(Naftopidil)を有効成分とする前立腺肥大症に伴う排尿障害を効能効果とする商品名フリバス(Flivas)®錠の承認(1998年12月25日)に基づき同特許期間が4年2月17日延長された(特願平11-700022号、存続期間満了日2014年8月18日)。つまり、当時、延長登録において処分の対象となった物は「ナフトピジル」であったが、承認された製品はフリバス錠であり、OD錠ではなかった。フリバスOD錠への製剤変更、すなわちOD錠として初めての承認は2006年3月15であるが、J-PlatPatの範囲指定検索で調べる限り、OD錠承認に基づき同特許の期間延長出願はされていないようである。一方、イ号物品は、「ナフトピジルOD錠「サワイ」」であった。新規有効成分の最初の承認(製品としてはOD錠ではなく通常の錠剤)に基づいて延長された物質特許権の効力や用途特許権の効力は、その後ジェネリックが承認を受けたOD錠に及ぶのかどうか・・・。

参考: