Jun 27, 2015

2015.04.13 「スキャンティボディーズ・DSファーマバイオメディカル v. エフ.ホフマン-ラ ロシュ」 知財高裁平成26年(行ケ)10139; 平成26年(行ケ)10085

hPTHのアッセイキット: 知財高裁平成26年(行ケ)10139; 平成26年(行ケ)10085

【背景】

スキャンティボディーズ(甲事件原告)が保有する「完全型副甲状腺ホルモンの測定方法ならびに副甲状腺疾患および慢性腎不全患者の骨状態の識別方法」に関する特許第4132677号(WO2000/042437)について、エフ.ホフマン-ラ ロシュ(被告)が請求した特許無効審判において、無効とした審決(無効2012-800004)の取消訴訟。前記審決に参加したDSファーマバイオメディカル(乙事件原告)は、日本国内における本件特許の専用実施権者である。審決理由は甲8文献(Lepage et al., 1998, Clin. Chem., 44(4): 805-809)に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できるから進歩性違反というもの。

請求項1:
ヒト完全型副甲状腺ホルモンをアッセイするためのキットであって,
a)Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met(配列番号4)からなるヒト完全型副甲状腺ホルモンの初期ペプチド配列に特異的な第1の抗体又は抗体断片であって,該初期ペプチド配列中のSer-Val-Ser-Glu-Ile-Gln((1~6)PTH)と反応し,かつ(1~6)PTHのうちの少なくとも4つのアミノ酸を反応部位の一部とする,標識された第1の抗体又は抗体断片と,
b)前記ヒト完全型副甲状腺ホルモンのアミノ酸配列34から84(配列番号3)を認識する第2の抗体又は抗体断片とを含み,阻害性の非(1~84)副甲状腺ホルモン断片を検出することなく,
生物学的サンプル中のヒト完全型副甲状腺ホルモン量を測定するキット。
甲8発明の内容:
インタクトなヒト副甲状腺ホルモン(I-PTH)をアッセイするニコルス(NL),インクスター(IT)およびダイアグノスティックシステムラボラトリーズ(DSL)のアッセイキットであって,
a)125Iのシグナルで標識された抗アミノ末端シグナル抗体と
b)抗カルボキシ末端捕捉抗体
を含み,尿毒症患者試料中のインタクトなヒト副甲状腺ホルモン(I-PTH)濃度を測定するキット。
【要旨】

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「甲8文献には,PTH(7-84)には含まれないPTHの一番端のN末端部位に対する抗体を用いれば,PTH(7-84)を検出することのないインタクトPTH測定用キットを得ることができることが強く示唆されているものと認められる。
以上によれば,当業者であれば,甲8文献が示唆している上記の技術的課題を解決すべく,PTH(7-84)には含まれないPTHの一番端のN末端部位であるPTH(1-6)に対する抗体を実際に作成し,それを甲8文献に記載された抗アミノ末端シグナル抗体として用いることにより,PTH(7-84)を検出することのないインタクトPTH測定用キット,すなわち「阻害性の非(1~84)副甲状腺ホルモン断片を検出することなく,生物学的サンプル中のヒト完全型副甲状腺ホルモン量を測定する」キットとし,訂正発明1に係る相違点1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものというべきである。」
「より正確な診断や識別を可能とする効果自体は,従来のインタクトPTH測定用キットが測り込んでいた非(1-84)PTH断片を検出しないという,甲8文献の記載から当業者が予測可能な程度のものである。さらに,原告らが主張する,完全型と阻害性断片との量比もしくは差分を用いた特定の診断ないし識別手法に基づく効果は,訂正発明1である完全型PTH量を測定するキット自体が奏する効果とは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。」
【コメント】

本件発明キットの発想は引用文献に強く示唆されていたということで進歩性が否定された。
欧州では成立特許(EP1151307)に対して異議申立され無効となっている。

参考:


Jun 21, 2015

2015.04.13 「リボコル, バイオエナジー v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10179; 平成26年(行ケ)10190

共有に係る特許出願の拒絶審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟: 知財高裁平成26年(行ケ)10179; 平成26年(行ケ)10190

【背景】

「心血管の機能を向上する為の組成物及び方法」に関する本件特許出願(特願2002-515280号)に係る特許を受ける権利は、リボコルとバイオエナジーの共有だった。本件特許出願の拒絶審決取消訴訟が提起(平成26年(行ケ)10179)されたが、原告訴訟代理人の過誤により、リボコル(原告)の名称のみが記載された訴状が提出され、その出訴期間経過後にバイオエナジー(参加人)が上記審決取消しを求めて民訴法52条1項に基づき共同訴訟参加の申出をした(平成26年(行ケ)10190)。裁判では本件訴え及び本件申出の適法性が問題となった。

【要旨】

主 文
1 本件訴え及び本件共同訴訟参加の申出をいずれも却下する。(他略)
裁判所の判断
「(2)民訴法52条に基づく参加申出において,共同原告として参加する第三者は,自ら訴えを起こし得る第三者でなければならないと解されるから,出訴期間の定めがある訴えについては,出訴期間経過後は同条による参加申出はなし得ないものと解するべきである(最高裁昭和35年(オ)第684号同36年8月31日第一小法廷判決・民集15巻7号2040頁参照)。そして,特許法178条4項は,審決取消訴訟の出訴期間を不変期間と定めている。もっとも,不変期間であっても,参加人の責めに帰することができない理由で出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったときは,一定期間内に追完することができる(行訴法7条,民訴法97条1項)。
しかし,本件においては,上記(1)の経緯のとおり,本件申出は,出訴期間経過後になされたことが明らかであるところ,上記認定の経緯に照らしても,参加人において出訴期間内に訴訟の提起をなし得なかったことについて,その責めに帰することができない事由があったとは認めることができない。
したがって,参加人の本件申出は,不適法なものというほかない。

(3)また,特許を受ける権利の共有者が,その共有に係る権利を目的とする特許出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し,請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に,上記共有者の提起する審決取消訴訟は,共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するべきである(平成7年判決)。
そして,前記(1)オによれば,本件訴えは,本願に係る特許を受ける権利の共有者の一部である原告のみによって提起されたものとみるほかない。
ところで,固有必要的共同訴訟において,共同訴訟人となるべき者が脱落している場合であっても,民訴法52条により脱落者が共同訴訟参加人として参加すれば,必要的共同訴訟における当事者適格の瑕疵は治癒されるものと解される。しかし,上記(2)の説示のとおり,本件申出は不適法であるから,本件においては,当事者適格の瑕疵を適法に治癒するものと解することはできない。
したがって,原告の本件訴えも不適法である。」
【コメント】

原告が主張の中で引用した「平成17年知財高裁判決」で争われた事件は、まさに本件と同様の状況が起きた事件である。この「平成17年知財高裁判決」では、参加の申出を認め、原告の訴えは参加人の共同訴訟参加により適法になったと判断しており、本判決での判断と矛盾する。「平成17年知財高裁判決」でこの点での扱いには疑問が残るが、結局結論は進歩性を否定した審決を肯定しており、どう扱おうが結論に影響はなかった。本件においても、拒絶審決理由は進歩性の欠如であり、裁判所はその点も検討して審決の判断に誤りはなかったと判断しているため、仮に、代理人による手続きの瑕疵がなかったとしても拒絶の結論は変わらなかったと思われる。

平成7年判決
  • 1995.03.07 最高裁平成6年(行ツ)83
    実用新案登録を受ける権利の共有者が、共同で拒絶査定に対する審判を請求し、請求が成り立たない旨の審決を受けた場合に提起する審決取消訴訟は、共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟であるとした。
平成14年判決
  • 2002.02.22 最高裁平成13年(行ヒ)142
  • 2002.02.28 最高裁平成13年(行ヒ)12
  • 共有に係る商標権について、当該商標登録を無効にすべき旨の審決がされた場合に提起する審決取消訴訟は、単独で無効審決の取消訴訟を提起することができるいわゆる類似必要的共同訴訟であるとした。
  • 2002.03.25 最高裁平成13年(行ヒ)154
    共有に係る特許権について、特許異議の申立てに基づき当該特許を取り消すべき旨の決定がされた場合に提起する取消訴訟は、単独で取消決定の取消訴訟を提起することができるいわゆる類似必要的共同訴訟であるとした。
平成17年知財高裁判決
  • 2005.10.11 知財高裁平成17年(行ケ)10069; 平成17年(行ケ)10087
    2名が共同で出願した特許出願について、両名に対し、拒絶査定不服審判不成立審決がなされたのに対し、訴状の記載から1名が欠落した結果、1名のみが期限内に出訴した形となり、もう1名が審決の謄本の送達から約4か月後に出訴した事案において、訴え及び参加申出の適法性を肯定した。

Jun 17, 2015

日本ジェネリック製薬協会 特許権存続期間延長についての意見公表

2015年5月29日、日本ジェネリック製薬協会知的財産研究委員会は、現在最高裁にて審理中のアバスチン事件の帰趨はジェネリック医薬品業界に看過できない影響を及ぼす恐れがあるとして、「延長された特許権の効力範囲は明確でなければならず、薬事承認によって禁止が解除された特許発明の範囲と、延長された特許権の効力範囲とを明確に一致させることが、最も適切であると考える(抜粋)」との意見を公表しました。

参考:

Jun 14, 2015

2015.03.25 「東京都立産業技術研究センター v. 東京工業大学」 知財高裁平成25年(ネ)10100

共同発明者と認められるためには: 知財高裁平成25年(ネ)10100

【背景】

本件は、被控訴人(東京工業大学)と共同研究をしていた控訴人(東京都立産業技術研究センター)が、被控訴人に対し、被控訴人がした「生体吸収性の傾斜した多孔質複合体及びそれを用いた人工骨,並びにそれらの製造方法」に関する特許出願(特願2011-148123号等)につき、特許を受ける権利を有することの確認を求めるとともに、共同研究契約の債務不履行に基づき、損害賠償の支払を求めた事案である。

【要旨】

主 文
特許出願(特願2011-148123号)の特許請求の範囲の請求項8及び9に記載された発明について、控訴人が特許を受ける権利の共有持分を有することを確認する。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
「(1) 共同発明者の認定について
発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいい(特許法2条1項),産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる(同法29条1項柱書き)。また,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したと解すべきであるとされている(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照)。したがって,発明者とは,当該発明における技術的思想の創作
に現実に関与した者,すなわち当該発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すものと解される。
そうすると,共同発明者と認められるためには,自らが共同発明者であると主張する者が,当該発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動の過程において,他の共同発明者と一体的・連続的な協力関係の下に,重要な貢献をしたといえることを要するものというべきである。
これを本件についてみると,Aの関与の事実については,前記2で説示したとおりである。
そして,それらの事実によれば,本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分であるビニル基導入・放射線照射は,遅くとも平成23年2月初めころまでには,本件共同研究の成果として,これを当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成され完成に至ったものと認められるところ,Aは,ビニル基導入・放射線照射の着想をしただけでなく,これを当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作活動の過程において,CやSと共に,一体的・連続的な協力関係の下に,共同研究者として,重要な貢献をしたものということができる。
したがって,Aは,本件基礎出願発明8及び9の共同発明者であると認めるのが相当である。」
【コメント】

裁判所は、「発明者とは,当該発明における技術的思想の創作に現実に関与した者,すなわち当該発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指す。共同発明者と認められるためには,その者が,当該発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動の過程において,他の共同発明者と一体的・連続的な協力関係の下に,重要な貢献をしたといえることを要する」と判示した。

「一体的・連続的な協力関係の下に,重要な貢献」をしたかどうかという共同発明者要件は、2010.09.22 知財高裁平成21(ネ)10067; 2008.05.29 知財高裁平成19(ネ)10037; にも判示されているコトバ。

Jun 10, 2015

2015.06.10 特許庁 「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査基準及び審査・審判の取扱いについて」

2015年6月10日、特許庁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明に係るクレームにその物の製造方法が記載されている場合)に関する最高裁判決
を受けて、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査基準及び審査・審判の取扱いを以下のようにすると発表しました。
  • 「特許・実用新案審査基準 第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件」の改訂について検討を開始する。
  • プロダクト・バイ・プロセス・クレームについては、現在、本件最高裁判決を受けた取扱いの検討を行っていることから、7月上旬頃までの当面の間、審査・審判において、本件最高裁判決の判示内容に関する判断を行わないこととする。7月上旬頃を目途に、審査・審判における取扱いの検討結果をお知らせする予定。

参考:

Jun 8, 2015

2015.06.05 「テバ v. 東理」 最高裁平成24年(受)2658

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定は物同一説で判断: 最高裁平成24年(受)2658

【背景】

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許発明の技術的範囲の確定の在り方に関する知財高裁大合議判決を破棄した最高裁判決(2015.06.05 「テバ v. 協和発酵キリン」 最高裁平成24年(受)1204)と同日に出された最高裁判決。本件では、同特許についての特許権侵害差止請求事件において、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許要件の審理の前提となる発明の要旨の認定の在り方が争われた。

いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームプについて、原審(2012.08.09 「テバ v. 東理」 知財高裁平成23年(ネ)10057)は次のとおり判断して上告人(特許権者テバ)の請求を棄却すべきものとしたため、上告人は最高裁に上告した。
(1) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許法104条の3第1項に係る抗弁の判断の前提となる当該発明の要旨は,当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべきである。
(2) 本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから,本件発明の要旨は,当該製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。そして,本件発明は,当業者が容易に想到し得たものであるから,本件発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであり,上記訂正の請求がされているとしても,本件訂正発明に係る特許も同様に特許無効審判により無効にされるべきものである。
【要旨】

主 文
原判決を破棄する。
本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。
裁判所は、原審の示した上記(1)の基準は是認することができず、そうすると、それを前提とした上記(2)の判断も是認することができない。その理由は次のとおりであるとした。
4(1) 願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和62年(行ツ)第3号)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。
したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当である。

4(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして発明の要旨を認定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。
すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。
他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として発明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁判所時報1629号登載予定参照)。

5 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
【コメント】

最高裁は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合においては、下記のとおり解すると判示した。
  • 発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定される。
  • 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる。
この最高裁判断による大きな意義は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨の認定のあり方を、いわゆる物同一説の立場を取って決着させた点である。同日最高裁判決(2015.06.05 「テバ v. 協和発酵キリン」 最高裁平成24年(受)1204)とあわせて、発明の要旨認定の場面と特許発明の技術的範囲に属するか否かを審理する場面とで共通の統一した判断枠組みを採用したことになり、この点で米国の特許制度の運用とは異なることになった。

参考:

Jun 6, 2015

2015.06.05 「テバ v. 協和発酵キリン」 最高裁平成24年(受)1204

最高裁が知財高裁大合議判決を破棄、差戻し審理へ(プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許発明の技術的範囲は物同一説で判断、明確性要件に一定のハードル): 最高裁平成24年(受)1204

【背景】

「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」に関する特許(特許第3737801号)についての特許権侵害差止請求事件において、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許発明の技術的範囲の確定の在り方が争われた。

いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームプについて、原審(知財高裁大合議)は次のとおり判断して上告人(特許権者テバ)の請求を棄却すべきものとしたため、上告人は最高裁に上告した(参考: 2012.01.27 「テバ v. 協和発酵キリン」 知財高裁平成22年(ネ)10043)。
(1) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における当該発明の技術的範囲は,当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して確定されるべきである。
(2) 本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから,本件発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定して確定されるべきである。そして,被上告人製品の製造方法は,少なくとも本件特許請求の範囲に記載されている「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成」することを含むものではないから,被上告人製品は,本件発明の技術的範囲に属しない。
【要旨】

主 文
原判決を破棄する。
本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。
裁判所は、原審の示した上記(1)の基準は是認することができず、そうすると、それを前提とした上記(2)の判断も是認することができない。その理由は次のとおりであるとした。
4(1) 願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和62年(行ツ)第3号)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。
したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

4(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。
他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

5 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その特許発明の技術的範囲は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して確定されるべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の技術的範囲を確定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
【コメント】

最高裁は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合においては、下記のとおり解すると判示した。
  • 特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定される。
  • 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる。
この最高裁判断による大きな意義は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の確定のあり方を、いわゆる物同一説の立場を取って決着させた点である。同日付の最高裁判決(2015.06.05 「テバ v. 東理」 最高裁平成24年(受)2658)とあわせて発明の要旨認定の場面と特許発明の技術的範囲に属するか否かを審理する場面とで共通の統一した判断枠組みを採用したことになり、この点で米国の特許制度の運用とは異なることになった。これはこれで、今後の判断はそうなると腹をくくるしかない。プロダクト・バイ・プロセス・クレームを追求する場合には、念のため製法クレームも確保しておくのが現実的なやりかたではないだろうか。

大きな問題は、特許法36条2項2号の要件を満たすためには、出願人が一定の事情が存在すること(直接特定が不可能・非実際的であること)を主張立証しなければならないとした点であり、その判断基準は現時点で非常にあいまいであるという点である(2名の裁判官の補足意見参照)。この点は、今後の無効審判の理由として争われるケースが増えるのではないだろうか。判決の蓄積を待つことになるだろうが、特許庁でも、審査基準のなかで、より具体的な説明が盛り込まれることを期待したい。

同日最高裁判決:
プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する過去記事はこちら

Jun 1, 2015

2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204

訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成26年(行ケ)10204

【背景】

被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。原告主張の取消事由1は本件訂正を認めた審決の判断は誤りであるというものだった。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2012-800073号事件について平成26年8月12日にした審決を取り消す。(他略)
特許法134条の2第1項ただし書について、裁判所は、
「訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべきである。」
と言及した上で、下記のとおり、訂正事項3による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、技術的に明確であるとはいえないから、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないと判断した。
「訂正事項3は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを,「皮膚に挿入される,経皮吸収製剤(但し,・・・及び経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)」に訂正するものである。
そうすると,本件発明は,「経皮吸収製剤」という物の発明であるから, 本件訂正発明も,「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に 沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要というべきである
しかし,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用 具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態か ら押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様によっても, 経皮吸収製剤保持用具の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造も変わり得るものである。また,「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるというものでもない。
したがって,上記の「経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収 製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される」という使用態様は, 経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえない。
以上のとおり,訂正事項3によって除かれる「経皮吸収製剤を収納可能な 貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押し出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」は,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない。」
したがって、裁判所は、
「本件訂正を認めた審決の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,原告主張の取消事由1は理由がある。以上によれば,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法であり取消しを免れない。」
と判断した。

【コメント】

裁判所は、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるための前提として、訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であることを判示した。

中でも、いわゆる除くクレームのように、但し書きによりある使用態様をクレームから除く訂正を行う場合には、物の発明であれば、訂正発明も物の発明として技術的に明確であること、言い換えれば、除かれた使用態様が、形状、構造、組成、物性等によりその物自体を特定するものであることが必要である、として本件を判断した。訂正前後の範囲の変更が明確であるためには至極当然の判断といえるだろう。