Jul 21, 2015

2015.06.08 「興和 v. ニプロ」 知財高裁平成26年(ネ)10128

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その7): 知財高裁平成26年(ネ)10128
(原審: 2014.10.30 「興和 v. ニプロ」 東京地裁平成26年(ワ)773; 別紙目録

【背景】

控訴人(興和)が、被控訴人(ニプロ)による被控訴人各全体標章(それぞれ横書きの「ピタバ」と「スタチン」を上下二段に配して成る標章)あるいは被控訴人各標章(被控訴人各全体標章からそれぞれ「ピタバ」の部分を抜き出したもの)を包装に付しての薬剤の販売が、控訴人が有する商標権(登録第4942833号。「PITAVA」の標準文字から成り、指定商品を「薬剤」とする登録商標に係る。)を侵害するとして商標法36条1項及び2項に基づき、被控訴人各全体標章等を付したPTPシートを包装とする薬剤の販売の差止め及び同薬剤の廃棄を求めた事案。

控訴人は、本件控訴を提起するとともに、本件商標権につき、指定商品を「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするもの(登録第4942833号の1)と、指定商品を「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とするもの(登録第4942833号の2。以下「本件商標権2」)に分割し、当審において、本件商標権2に基づき控訴の趣旨記載の請求をする旨の訴えの交換的変更を行い、被控訴人はこれに同意した。

【要旨】

主 文
控訴人の当審における交換的変更に係る請求をいずれも棄却する。(他略)
商標法26条1項2号該当性(争点3)について、被控訴人各全体標章が、本件物質の一般的名称である「ピタバスタチン」の語のうち、「ピタバ」の部分を「スタチン」に比べて強調して表示する構成であることが、「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるかどうかが問題となり、裁判所は下記のとおり判断した。
「~医療従事者にとっては,「ピタバ」の語は,少なくとも「ピタバスタチン」の語の一部として,あるいはこの語とともに用いられる場合には,明らかにその略称であると解されるから,かかる構成であることをもって,被控訴人各全体標章から本件物質を想起することが妨げられるということはできない。さらに~被控訴人各商品のPTPシートには,被控訴人各全体標章のほか,横書き一段の「ピタバスタチン」の記載があり,これと外箱における販売名の記載などを併せて見ると,被控訴人各全体標章が「ピタバ」ではなく「ピタバスタチン」を表したものであると認識することは,医療従事者にとっては容易であるということができる。そうすると,結局,医療従事者にとって,被控訴人各全体標章を見たときには,一体として「ピタバスタチン」を表していること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,「ピタバスタチン」の略称として用いられているのにすぎないこと)を,容易に理解することができるというべきである。

次に,患者にとっては,~被控訴人各商品に付された被控訴人各全体標章が,一体として「ピタバスタチン」を指すものであること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,それが「ピタバスタチン」の一部を取り出した略称にすぎないこと)を,さしたる困難もなく理解することができるというべきである。

したがって,被控訴人各全体標章は,取引者や需要者において,全体として「ピタバスタチン」を表示するものとして認識されるか,又は「ピタバスタチン」の略称と容易に理解することができる語としての「ピタバ」を表示するものとして認識されるものということができるから,その表示は,「普通に用いられる方法で表示する」ものの域を出るものではないと認められる。

以上によれば,被控訴人が被控訴人各商品のPTPシートに付して使用している被控訴人各全体標章は,本件商標権2の指定商品の原材料である「ピタバスタチン」を,普通に用いられる方法で表示するものと認められるから,法26条1項2号に当たり,これに対し,控訴人の有する本件商標権2の効力は及ばないというべきである。」
【コメント】

興和は、ニプロが使用する「ピタバ」は本件物質の一般的な略称表記ではないし、需要者である患者は「ピタバスタチン」が化学物質の一般的名称であると認識することはなく、商品名であると認識する、また、ニプロの各標章の表示態様は「普通に用いられる方法」に当たらない、などと主張していたが、裁判所は、その主張を否定した。
上記写真のようなPTPシート上での使用態様について、「ピタバ」の部分だけをことさら抜き出し独立して議論すること(本事件での主位的請求であった)には無理があるし、抜き出せたとしても略称として需要者(患者であっても)には認識可能、一般名称「ピタバスタチン」を普通に用いられる方法で表記した範疇に過ぎないというのは、直感的にもそう思う。裁判所の判断は妥当であろう。

関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~6):

Jul 12, 2015

2015.04.28 「日産化学 v.沢井製薬」 東京地裁平成26年(ワ)5187

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか: 東京地裁平成26年(ワ)5187

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する原告(日産化学)が、被告による原薬の保存行為、製剤の製造・販売が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。

内容は下記記事とほぼ同じ。

2015.01.27 「日産化学・興和 v. ダイト・持田・東和・鶴原・科研・小林化工・Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成25年(ワ)33993

参考:

Jul 6, 2015

2015.07.06 特許庁 「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について」

2015年7月6日、特許庁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について下記のとおり発表しました。

当面の審査の取扱いについて
  • 物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、審査官が「不可能・非実際的事情」があると判断できるときを除き、当該物の発明は不明確であると判断し、拒絶理由を通知します。

    ※「不可能・非実際的事情」とは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情をいいます。

    ※後に無効理由を含む特許となったり、第三者の利益が不当に害されたりすることがないよう、拒絶理由を通知することで、出願人に、「不可能・非実際的事情」が存在することの主張・立証の機会や、反論・補正の機会を与えることとします。
  • 出願人は、当該拒絶理由を解消するために、反論以外に、以下の対応をとることができます。
    ア.該当する請求項の削除
    イ.該当する請求項に係る発明を、物を生産する方法の発明とする補正
    ウ.該当する請求項に係る発明を、製造方法を含まない物の発明とする補正
    エ.「不可能・非実際的事情」についての意見書等による主張・立証
  • 出願人の「不可能・非実際的事情」についての主張・立証の内容に、合理的な疑問がない限り(通常、拒絶理由通知時又は拒絶査定時に、審査官が具体的な疑義を示せない限り)、審査官は、「不可能・非実際的事情」が存在するものと判断します。
当面の審判の取扱いについて
  • プロダクト・バイ・プロセス・クレームが関連する審判事件等においても、最高裁判決の判示内容に沿って、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱いについて」を参酌しつつ、審理を行います。
  • 拒絶査定不服審判において、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合は、「不可能・非実際的事情」があると合議体が審判請求人に聞くまでもなく判断できるときを除き、拒絶理由を通知します。審判請求人は「1.当面の審査の取扱いについて」と同様に、補正や、意見書等における「不可能・非実際的事情」の主張・立証等の対応をとることができます。
参考:

Jul 5, 2015

2015.04.28 「ソルヴェイ v. 江蘇揚農化工」 東京地裁平成26年(ワ)5011

共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係: 東京地裁平成26年(ワ)5011

【背景】

本件は、原告(ソルヴェイ)が、「被告(江蘇揚農化工)が中国国内において製造・販売しているエピクロロヒドリンは、以下の第1および第2の工程からなるエピクロロヒドリンの製造方法:
第1の工程: グリセロールを,アジピン酸の存在下で,塩素化剤との反応に付し,ジクロロプロパノールを得る。
第2の工程: 第1の工程により得られたジクロロプロパノールの少なくとも1種のフラクションを脱塩素化水素反応に付し,エピクロロヒドリンを得る。
により製造されているから、蝶理(株)が被告製品を日本国内に輸入し販売する行為は、原告の特許権(特許第4167288号; 特許第4642142号)を侵害するものであり、被告が蝶理に対し被告製品を販売する行為は、蝶理を通じて日本国内で被告製品を販売することを目的としており、蝶理の特許権侵害行為と共同不法行為の関係にある」旨主張して、被告に対し、民法709条、719条1項ないし2項、特許法102条2項に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案。被告は、国際裁判管轄が認められないとして本件訴えの却下を求めてた。

被告は、中国国内において被告製品を製造し、蝶理に対して販売し、蝶理は、被告製品を日本に輸入し、日本国内で販売している。

【要旨】

主 文
1 本件訴えを却下する。(他略)
当裁判所の判断
「1 民事訴訟法3条の3第8号にいう「不法行為があった地が日本国内にある」として国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が日本国内でした行為により原告の権利利益について損害が生じたか,被告がした行為により原告の権利利益について日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる(最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決・民集68巻4号329頁参照)。そして,本件のように,原告が共同不法行為を主張する場合には,原則として,上記行為として,被告を含む共同不法行為者らの行為の関連共同性を基礎付ける客観的事実関係,又は被告がした教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係を証明する必要があると解すべきである。」

2 本件において

原告は、共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係として、下記点を主張した。
①被告は被告製品が蝶理によって日本に輸入され日本国内で販売されることを認識していたこと
②被告は蝶理に対し日本において特許権侵害の問題が生じた場合には被告において問題を解決する旨の表明をしていること
③被告は蝶理に対し被告製品を積極的に売り込んだこと
④蝶理は日本向けの被告製品を独占的に被告から購入していたこと
しかしながら、裁判所は、
①及び②の事実は、一般的な製造業者と商社との間の国際商取引の範囲を超えるものではないといえること
③及び④の事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく、後者については、かえって、被告と蝶理との間の取引は独占的なものでないこと
が認められるから、これらの事実のみをもって、被告と蝶理の行為の関連共同性を基礎付けるものということはできないし、蝶理に対する被告の教唆ないし幇助行為を認めることもできないとした。

「したがって,関連共同性を基礎付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係が証明されているとはいえず,その他本件訴えにつき我が国の国際裁判管轄を認めるべき特段の事情も窺われないから,本件において「不法行為があった地が日本国内にある」とは認められない。

3 なお,~少なくとも本件について,関連共同性の主張立証もないのに,被告による中国国内における被告製品の販売行為のみに基づき我が国の国際裁判管轄を認めることはできない。

4 以上のとおりであって,本件訴えは,我が国の国際裁判管轄が認められないものとして不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。」
【コメント】

共同不法行為の関連共同性を裏付ける客観的事実関係又は教唆ないし幇助行為についての客観的事実関係を証明することはできず、訴えは却下された。

一方、被告製品を日本に輸入し、日本国内で販売している蝶理に対して、原告が提起した特許侵害差止等請求事件(2014.09.11 「ソルヴェイ v. 蝶理」東京地裁平成25年(ワ)27293)では、江蘇揚農化工が第1の工程によりジクロロ プロパノールを製造していることを認めるに足りる証拠はないから揚農が ジクロロプロパノールを製造することが本件発明1の技術的範囲に属するとは認められないとして非侵害の判決が下されている。

Jul 2, 2015

2015.04.27 「興和 v. テバ製薬」 東京地裁平成26年(ワ)771

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その6): 東京地裁平成26年(ワ)771

【背景】

「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を指定商品とする商標権(第4942833号の2)を有する原告(興和)が、被告(テバ製薬)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章を付した薬剤販売の差止め及び廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
裁判所は、被告標章の使用は、商標的使用に該当せず、また、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当するから、本件商標権に係る商標登録は無効審判により無効とされるべきものであって、原告は本件商標権を行使することができないと判断した。その理由は2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766とほぼ同じ。

【コメント】

2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766参照。

Jul 1, 2015

2015.04.27 「興和 v. 共和薬品工業」 東京地裁平成26年(ワ)766

ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その5): 東京地裁平成26年(ワ)766

【背景】

「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を指定商品とする商標権(第4942833号の2)を有する原告(興和)が、被告(共和薬品工業)が薬剤に付した被告標章「ピタバ」が原告の商標権の登録商標(PITAVA)に類似すると主張して、被告に対し、被告標章を付した薬剤販売の差止め及び廃棄を求めた事案。

【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
裁判所は、被告各標章の使用は商標的使用に該当せず、また、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当するから、本件商標権に係る商標登録は無効審判により無効とされるべきものであって、原告は本件商標権を行使することができないと判断した。その理由は以下のとおり。

争点(2)(被告各標章の使用が商標的使用に当たるか)について
「被告各標章は,あくまで被告各商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムを示すものにすぎず,それ自体出所識別機能を有するものと認めることはできないから,その使用は商標的使用に該当しない。」
争点(4)(本件商標権に係る商標登録が無効審判により無効とされるべきものと認められ,又は原告による本件商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
「本件商標に係る商標登録出願は,本件特許権の存続期間満了後,原告のライセンシー以外の者による後発医薬品の市場参入を妨げるという不当な目的でされたものであることが推認されるばかりか,本件商標を指定商品「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」に使用することを原告に独占させることは,薬剤の取違え(引いては,誤投与・誤服用による事故)を回避する手段が不当に制約されるおそれを生じさせるものであって,公共の利益に反し,著しく社会的妥当性を欠くと認めるのが相当である。
なお,付言するに,原告のような先発医薬品を製造販売する者が後発医薬品の市場参入を阻止したいと考えること自体は,無理からぬところであるが,その手段は,特許権など医薬品それ自体に関する権利の行使によるべきであって,化合物の一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられる「PITAVA」の文字を標準文字で書してなる本件商標と,薬剤の取違えを回避するため被告商品の錠剤表面に印字された「ピタバ」(有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられることは,前示のとおりである。)との文字からなる標章(被告標章)とが類似する旨主張することは,公益上,容認することができないというべきである。
~上記検討したところによれば,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号,46条1項1号)に該当し,本件商標権に係る商標登録は,無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原告は本件商標権を行使することができない。」
【コメント】

今までのPITAVA事件(下記関連判決)で、商標法4条1項7号の該当性については、原告が主張していた争点ではあったが、裁判所による判断はされていなかった。本件では、その点についても始めて裁判所は判断した。
後発品の市場参入を防ぐアイデアとしてはおもしろいチャレンジではあったが、公序良俗とまで言われると、さすがにやりすぎた感は否めないものとなってしまった。

関連判決: