Dec 31, 2016

2016年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

(1) 延長された特許権の効力はどこまで及ぶのか?

延長された特許権の効力について具体的に判断した東京地裁判決がでてきました。そのうち一つの控訴審は知財高裁大合議事件に指定され、2017年1月20日午後2時に判決言渡し予定となっています。この大合議の審理・判断で求められる一番重要な点は、先発薬(新規有効成分に限らない)についての延長特許権があるにもかかわらず、その先発薬に依拠して承認された後発品の製造販売が簡単に許されてしまうような延長特許権の効力の解釈、言わば特許法第68条の2が事実上空文化するような判断は、この特許延長制度の立法趣旨(実施機会の喪失による不利益を解消させる制度)からして許されないことは明らかであること、本事件の具体的な解釈・結論よりも、むしろ特許延長制度全体の枠組みとして、現在の条文からどのように延長特許権の効力範囲の境界線を引くのかということ、を示せるかどうかという点です。

(2) 2016年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた製品は・・・
抗悪性腫瘍剤エルプラット(Elplat)®(一般名:オキサリプラチン(Oxaliplatin))でした。


オキサリプラチン(Oxaliplatin)は白金錯体系抗悪性腫瘍剤。本剤はDebiopharm 社(スイス)がライセンスを保有しており、欧米における開発・販売権はSanofi-Aventis社が保有している(商品名: ELOXATIN)。日本における開発・販売権はヤクルトが取得し、商品名エルプラット(ELPLAT)として製造販売しています。2010年6月には水溶性製剤(点滴静注液)を発売し、既存の凍結乾燥製剤(注射用)からの切り替えを行っています。
  • ブログで取り上げたオキサリプラチン(Oxaliplatin)に関する記事等はこちら


(3) 過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2015年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2014年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら

Dec 24, 2016

2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415

延長された特許権の効力が争点となった判決2(実質的同一物の基準に均等論を適用することは妥当なのか): 東京地裁平成27年(ワ)12415

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許1)及び「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号(本件特許2)の特許権者であるデビオファーム(原告)が、ホスピーラ(被告)各製品は本件各発明の技術的範囲に属すると主張して、被告に対し被告各製品の販売等の差止め及び廃棄を求めた事案。特に、被告各製品に存続期間の延長登録を受けた本件特許1の効力が及ぶかが争点のひとつ。

本件特許1の特許請求の範囲1(本件発明1):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

東京地裁(民事第40部)は、被告各製品は、延長された本件特許1の効力が及ぶものではなく、また本件発明2及び本件訂正発明2の技術的範囲に属しないとして原告の請求を棄却した。

裁判所が示した考えは、主に下記3点。
  • 延長された特許権の効力は、当該政令処分対象物の審査事項(成分、用法、用量、効能及び効果)によって特定された特許発明の実施の範囲で及ぶ。
  • 延長された特許権の効力は、被疑侵害品が、当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても、政令処分対象物のいわゆる実質的同一物にも及ぶ。
  • 被疑侵害品が実質的同一物か否かは、当該政令処分対象物について均等論(5要件)を適用して判断する。
以下、争点(2)被告各製品に延長された本件特許1の効力が及ぶかについての裁判所の判断を抜粋。
「…(略)…延長登録制度の上記趣旨に鑑みると,侵害訴訟における被疑侵害品が,当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても,上記被疑侵害品が,当該政令処分対象物の「均等物や実質的に同一と評価される物」(実質的同一物)である場合には,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が上記被疑侵害品についての実施行為にも及ぶと解するのが相当である。

…(略)…

実質的同一物該当性の判断基準としては,まず,特許法70条に基づく技術的範囲の属否を検討するほか,文言解釈上は当該政令処分対象物についての特許発明の技術的範囲に属しない場合であっても,信義則の見地から,当該政令処分対象物と当該被疑侵害品の差異(以下「当該差異部分」という。)について,①当該差異部分が当該政令処分対象物についての特許発明における本質的部分ではなく,②当該差異部分を当該被疑侵害品におけるものと置き換えても,当該政令処分対象物についての特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③上記②のように置き換えることに,当該政令処分対象物についての特許発明の属する技術の分野における当業者が,当該被疑侵害品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④当該被疑侵害品が,当該特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤当該被疑侵害品が当該政令処分ないし特許延長登録に係る手続において処分ないし延長登録の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該被疑侵害品は,当該政令処分対象物と均等なものとして,当該政令処分対象物についての特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であり(最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決・民集第52巻1号113頁参照),かつ上記基準をもって足りるというべきである。なお,当該被疑侵害品が,延長された特許権の侵害行為に当たるといえるためには,当該特許権の技術的範囲に属している必要があることはいうまでもない。
以上の観点から,以下,本件について検討する。

…(略)…

被告各製品が本件処分対象物に該当するか否かを検討するに当たっては,被告各製品が,本件処分により可能となった本件特許権1の実施の範囲にあるかを検討すべきであるから,上記審査事項の全てではなく,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項(当該特許権が医薬品の成分を対象とする物の発明である場合には,医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果である。)に照らし,本件処分対象物に該当するか否を判断することが相当である(最高裁判所平成27年11月17日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集69巻7号1912頁等参照)。
そして,上記審査事項のうち,「成分,分量」は,医薬品の「物」それ自体としての客観的同一性を左右するものであり(ただし,「分量」については延長された特許権の効力を制限する事項と解するのは相当ではない。),また,「用法,用量」及び「効能,効果」は医薬品それ自体としての客観的同一性を左右するものとはいえないが,「用途」に該当する性質のものであるから,結局,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして「成分」(ただし,有効成分に限らない。)によって特定され,「用途」に係るものとして「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。
なお,延長登録制度の趣旨に照らし,存続期間が延長された特許権の効力が本件処分対象物の実質的同一物にも及ぶことは,前記イ記載のとおりである。

…(略)…

被告各製品は,酒石酸及び水酸化ナトリウムを含有する点で本件処分対象物についての本件発明1とは「成分」が異なる。…(略)…したがって,被告各製品は本件処分対象物と同一であるということはできず,また,被告各製品は延長された本件特許1における構成要件1C「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」を文言上は充足しない。

もっとも,被告各製品が本件処分対象物の実質的同一物に当たるのであれば,延長後の本件特許1の効力が及び得る。…(略)…ここで特許発明の本質的部分の意義についてみるに,…(略)…本件処分対象物についての本件発明1の本質的部分は,オキサリプラチン水溶液について,オキサリプラチンの濃度及びpHを一定範囲とすることで,不純物の生成を抑止して,医薬的に安定なオキサリプラチン溶液を得ることにあるといえる…(略)…のに対し,被告各製品では,オキサリプラチン溶液にさらに酒石酸及び水酸化ナトリウムを添加するという手段を採用することによって不純物の発生を抑止しているのであって,医薬的に安定なオキサリプラチン溶液を得るための技術思想が異なり,当該差異部分は,本件処分対象物についての本件発明1における本質的部分の差異に当たるというべきである。したがって,被告各製品は均等の第一要件を充足するとはいえないから,本件処分対象物の実質的同一物に当たるとはいえない。

以上のとおり,被告各製品は,本件処分対象物ないしその実質的同一物に当たるとはいえず,本件処分対象物についての本件発明1の技術的範囲に含まれないから,延長された本件特許1の効力は被告各製品の生産,譲渡又は譲渡の申出には及ばない。」
【コメント】

1.延長された特許権の効力が及ぶ政令処分対象物とは、何をもって特定させるかについて
裁判所は、延長された特許権の効力は、当該政令処分対象物の審査事項(成分、用法、用量、効能及び効果)によって特定された特許発明の実施の範囲で及ぶ、との考えを示した。
これは、知財高裁大合議判決(2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198)の傍論として示された考えに沿うものである。
2.政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても延長された特許権の効力を及ぼす場合があるかについて
裁判所は、延長された特許権の効力は、被疑侵害品が、当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても、政令処分対象物のいわゆる実質的同一物にも及ぶ、との考えを示した。
これも、知財高裁大合議判決(2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198)の傍論として示された考えに沿うものである。
3.いわゆる実質的同一物の範囲かどうかはどのような基準で判断すべきかについて
裁判所は、被疑侵害品が実質的同一物か否かは、当該政令処分対象物について均等論(5要件)を適用して判断する、との考えを示した。
判決文では、1998.02.24 最高裁平成6年(オ)1083号(ボールスプライン事件)を引用しているが、最高裁が特許発明の技術的範囲の解釈に均等論を適用した理由は、
特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる
からであって、特許権者が政令処分を受けるために実施することができなかった期間があったときはその期間の延長を認めるとの延長登録の制度趣旨のもと、特許権者と第三者との公平を考慮した結果を理由として導き出されたものではない。延長特許権の効力が及ぶ政令処分対象物の実質的同一物の範囲はどこまでなのかについての問題は、あくまで延長登録制度趣旨のもと、薬事法制度も踏まえて公平を考慮して導き出されるべきものであり、ボールスプライン事件で示された均等論適用の理由となる「出願時の侵害態様の予想困難」・「社会正義」の観点を出発点として導き出されるものではないはずである。ボールスプライン事件最高裁判決では、特許法68条の2を争点とするものではないし、もちろん、政令処分対象物に均等論を適用する旨を示したものでは全くない。
仮に、政令処分対象物の実質的同一物に及ぶ範囲に均等論(のような基準)を適用することもありとした場合でも、5要件の文言を特許法68条の2のために無理やり読み替え、特に第一要件である本質的部分でないことの基準を安易に当てはめており本判決の論理は非常に危険であるように思う。以下、「実質的同一物」の範囲について一提案したい。
後発医療用医薬品(ジェネリック医薬品)とは、新有効成分や新しい効能・効果等を有することが臨床試験等により確認され承認された新薬と同一の有効成分を同一量含み、同一投与経路の製剤であり、効能・効果、用法・用量も原則的に同一である医薬品で、生物学的同等性試験等にてその新薬と治療学的に同等であることが検証されたものである((独)医薬品医療機器総合機構資料など)。確かに、多くのジェネリック医薬品はその製剤の添加剤成分が先発医薬品とまったく同一ではなく、中には、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、または使用性を向上させるなどの目的で異なる添加剤を使用している場合もある。しかし、製剤の添加剤成分が異なっていたとしても、それは溶出挙動やヒトでの生物学的同等性試験を行い、先発医薬品と治療学的に同等となるよう製剤設計されているのであって、政令処分の観点からは本質的には同等なのであり、先発医薬品たる政令処分対象物の本質的部分に依拠して(を利用して)承認されるのがジェネリック医薬品なのである。
医薬品の承認申請について(薬食発第0331015号 平成17年3月31日)」によれば、ジェネリック医薬品の承認申請書に添付すべき資料は、ロ2(製造方法に関する資料)、ロ3(規格及び試験試験に関する資料)、ハ3(加速試験に関する資料)、ホ5(生物学的同等性に関する資料)に限られている。すなわち、その他の承認申請書に添付すべき資料は、全て先行既承認医薬品の資料に依拠できるためである((別表2-(1)医療用医薬品 (9の3)その他の医薬品(再審査期間中でないもの)の表中×印))。

ジェネリック医薬品の承認申請書に添付すべき資料のいずれかが、延長特許の政令処分対象物(先行既承認医薬品)の承認申請書に添付すべき資料に依拠(を利用)できるため提出が不要とされているのであれば、ジェネリック医薬品は当該政令処分対象物と治療学的に同等であることを示すことでもあることから、そのようなジェネリック医薬品は、政令処分対象物の実質的同一物の範囲に該当すると判断するのが妥当ではないだろうか。当然ながら、当該ジェネリック医薬品は当該特許発明の技術的範囲に属することが前提である。
このような解釈をした場合には、例えば、新有効成分含有医薬品が延長特許の政令処分対象物の場合、その有効成分を含有するジェネリック医薬品は添加剤成分が異なっていたとしても、その承認申請書に添付すべき資料のほとんどは、当該政令対象物の承認申請書に添付すべき資料に依拠して治療学的同等性を証明することになるだろうから、新有効成分含有医薬品である政令処分対象物の実質的同一物の範囲に属すると考えられるだろう。もちろん、そのジェネリック医薬品は当該特許発明の技術的範囲に属することが前提である。また、例えば、新剤形医薬品が延長特許の政令処分対象物の場合、ジェネリック医薬品の承認申請書に添付すべき資料が、先行新規有効成分含有医薬品の承認申請書に添付すべき資料だけでなく、当該新剤形医薬品である政令対象物の承認申請書に添付すべき資料にも依拠して治療学的同等性を証明した場合には、当該政令処分対象物の実質的同一物の範囲に属すると考えられるだろう(先行新規有効成分含有医薬品を政令処分対象物とする延長特許があればそれぞれ重複して当該ジェネリック医薬品に効力が及ぶということになろう)。もちろん、そのジェネリック医薬品は当該特許発明の技術的範囲に属することが前提である。一方、剤形追加に係る医薬品が延長特許の政令処分対象物の場合、ジェネリック医薬品が当該政令処分対象物の承認申請書に添付すべき資料に依拠することは少ないのではなかろうか。そのような場合には延長特許権の効力が及ぶのは、同一成分のジェネリック医薬品のみでよいだろう。
先行医薬品の承認(政令処分)を得るために実施できなかった期間分を特許延長できても、その期間中にその政令処分対象物に依拠して、利用して、フリーライドして、すり抜けてジェネリック医薬品の承認販売を認めることは、著しく公平を損なうことは確かであり、その観点から「実質的同一物」の範囲をどのように解釈するかは非常に重要であり、安易に均等論を適用し延長特許権の効力についての結論を導いた本判決には反対である。

Dec 17, 2016

2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241

患者群を特定した医薬用途発明の進歩性(骨粗鬆症治療剤テリボン®)知財高裁平成27年(行ケ)10241

【背景】

「1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」に関する特許出願(特願2011-530844; 再表2011/030774; WO2011/030774)の拒絶審決(不服2015-9596)取消訴訟。争点は新規性・進歩性。

請求項1(本願発明):
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
本願発明と引用発明との相違点1
「特定の骨粗鬆症患者」が,引用発明では,「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」であるのに対し,本願発明では「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」
である点。
本願発明と引用発明との相違点2
「骨粗鬆症治療ないし予防剤」について,本願発明では,さらに,「骨折抑制のための」という事項が追加されている点。
【要旨】

裁判所は、相違点1について新規性なしとした審決の判断及び相違点2について実質的な差異はないとした審決の判断にはいずれも誤りがあるとしたが、進歩性を否定した審決の判断は誤っておらず審決の結論に影響はない、として原告の請求を棄却した。

相違点1について
「確かに,前記の甲1のH群の患者中に前記の本願発明にいう患者が全て含まれていれば,論理的には,甲1発明は,部分的には,本願発明と一致する(本願発明を全て含む。)ことになるが,前記のとおり,甲1に,前記の本願発明の患者を識別するに足りる記載がなく,前記の本願発明にいう患者のみを取り出して甲1の200単位の投与の結果のみを読み取ることができず,そのため,甲1のH群の患者中,前記の本願発明にいう患者のみの甲1の200単位の投与の結果から,本願発明と同じ内容の発明の認定ができるか否かは,定かではない以上,相違点1において,甲1発明と本願発明とが同じ内容の発明である(本願発明が甲1発明に含まれる。)ということはできない。したがって,相違点1に係る新規性についての審決の判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には理由がある。
ただし・・・(略)・・・本願発明は,骨粗鬆症患者のうち,より重篤な病態で,骨折のリスクがより増大している者を対象に,甲1と同じ用量・頻度で同じ薬剤を投与するものであり,その対象者の各条件が,それぞれ各条件を満たす者の群と満たさない者の群とにおける投与結果を比較して,投薬の有効性を分析した結果,定められた条件であるといえないのであって,結局,甲1発明に基づいて,甲1の200単位投与の対象者を,本願発明の対象者とすることにつき,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」
相違点2について
「甲1には・・・椎体骨折の発生数は,L群,M群,H群の間で有意差がなかったと記載されており,また,甲1には,被験薬と対照薬との比較も記載されていないから,当業者が,甲1から直ちに,甲1発明が「骨折抑制」の効能を有することを把握することはできないというべきであり,相違点2は,実質的な相違点とすべきものである。したがって,審決の相違点2に係る判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には,相違点2に係る判断においても,理由がある。
ただし・・・(略)・・・骨密度は,骨強度を約70%説明するものであり,・・・甲1発明の骨粗鬆症治療剤の投与の結果に,骨折抑制の効果を期待すると認められるのであって,甲1発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を,骨折抑制のためのものとすることに,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」
効果の顕著性について
「甲1発明と比較した本願発明の効果については,原発性骨粗鬆症患者であって,(1)年齢が65歳以上である,(2)既存の骨折がある,(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるという条件の全てを満たす者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果と,前記(1)~(3)の条件のいずれか又は全てを満たさない者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果とを対比すべきである。
この点,・・・(略)・・・甲1には,甲 1 の200単位投与につき,骨折抑制効果があることを直接認めるに足りる記載がなく,本願明細書には,これを直接認め得る記載があるとしても,その効果が,前記(1)~(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者に限って生じ,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者には生じないことを,本願明細書から読み取ることはできないのであって,本願明細書から,甲1発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認めることはできない。」
【コメント】

日本における進歩性の判断において、効果の顕著性が認められるには、当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされていなければならないのか(進歩性のための明細書記載要件)。本件にける本願発明は、患者群を特定した医薬用途発明に関するもので、引用発明に含まれる蓋然性が高いような場合であり、構成要件を満たす患者群に奏される効果と満たさない患者群に奏される効果とを対比して効果の顕著性を明細書から読み取れるように示していなかったため、効果の顕著性が認められないと判断された。

患者限定の医薬用途発明の過去記事:
骨粗鬆症治療剤テリボン®(TERIBONE®)は、週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤。有効成分であるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩は、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34 ペプチド断片である。テリパラチドとして 56.5μg(200単位)を1週間に1回皮下注射する。効能又は効果(抜粋)は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症(効能・効果に関連する使用上の注意
本剤の適用にあたっては、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頸部骨折の家族歴等の骨折の危険因子を有する患者を対象とすること。)。製造販売承認は2011年9月26日、再審査期間は2017年9月25日(6年)まで。

Dec 11, 2016

2016.11.30 「テバ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10121; 平成28年(行ケ)10122; 平成28年(行ケ)10123; 平成28年(行ケ)10124

DuoResp Spiromax®吸入デバイスの意匠: 知財高裁平成28年(行ケ)10121知財高裁平成28年(行ケ)10122; 知財高裁平成28年(行ケ)10123; 知財高裁平成28年(行ケ)10124

【背景】

意匠に係る物品を吸入器とする下記態様の意匠に関する登録出願(意願2014-007570; 意願2014-007571; 意願2014-007572; 意願2014-007573)の拒絶審決(不服2015-15459号; 不服2015-15460号; 不服2015-15461号; 不服2015-15462号)取消訴訟。

意願2014-007570

意願2014-007571

意願2014-007572

意願2014-007573
審決理由は、下記「薬剤吸入器」の引用意匠(特開2007-289716に掲載)に類似する意匠であるから、意匠法3条1項3号に該当し意匠登録を受けることができないというもの。

引用意匠(特開2007-289716)

【要旨】

以下、知財高裁平成28年(行ケ)10121を抜粋。平成28年(行ケ)10123も判決は同じ。平成28年(行ケ)10122及び平成28年(行ケ)10124も意匠がその中央に円形孔及びその周囲に4つの小円形孔が形成された端壁を設けたものである点以外、判決内容は実質同じ。

主 文
特許庁が不服2015-15459号事件について平成28年1月20日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するものの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえない。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはいえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与えるものである。
したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部について,本願意匠は,その中央に円形孔が形成された端壁を設けたものであるのに対して,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大きく開口した点は,マウスピースカバー部が透明であることと相まって,需要者である患者や医療関係者の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起こさせるものであり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではないというべきである。
よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。

被告は,使用者は主に使用時に限ってマウスピース部の構成態様に注目し,購入時などマウスピースカバー部が閉じられた状態では,透けて見えるにすぎないマウスピース部の端部の態様は,需要者に強い印象を与えるものとはいえない,マウスピース部の端壁の有無は全体から一部分と認められるマウスピース部の,さらにその先端部分のみの相違であって,全体からすると僅かな範囲のものであるとして,マウスピースの端部の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると主張する。
しかし,マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察するものであるから,かかる部分が全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても,マウスピース部の端部の相違点が類否判断に及ぼす影響を限定的であるということはできない。被告の前記主張は採用できない。
【コメント】

Teva UKのwebpageから、本件意匠は、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)を適応症とするDuoResp Spiromax®(Budesonide/Formoterol fumarate dihydrate)に用いられている吸入デバイスであり、Medical Design Excellence Awards 2015を受賞しているようである。日本では、先発品としてアストラゼネカが販売するシムビコート®タービュヘイラー®があるが、テバのデバイス製品はまだ参入していないようである。

参考:

Dec 9, 2016

オキサリプラチン特許侵害差止訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)

2016年12月8日付の日本化薬のプレスリリースによると、同日、知財高裁は、日本化薬による抗悪性腫瘍剤「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」等の製造販売がデビオファーム社の特許権を侵害するとして差止を認めた東京地裁判決(2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416)を、取り消す判決を言い渡した、とのことです。

なお、上記訴訟とは別に、デビオファーム社及びヤクルト本社から、特許権及び専用実施権の侵害を理由として、損害賠償請求訴訟が提起されていましたが、同訴訟についても、東京地裁は侵害を否定しています(2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355)。

参考:

Dec 6, 2016

2016.11.16 「イーライ・リリー v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10166

骨粗鬆症治療剤エビスタ® ラロキシフェン用途特許無効審決の維持判決: 知財高裁平成27年(行ケ)10166

【背景】

原告が保有する「ベンゾチオフェン類を含有する医薬製剤」に関する特許2749247号の無効審決(無効2013-800139)取消訴訟。争点は進歩性。

本件訂正発明1:
ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む,ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって,タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い医薬製剤。
本件訂正発明1と引用発明(甲1)とは、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」である点で一致し、次の点で相違すると審決は認定した。

相違点1:
本件訂正発明1は,「ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用」であるのに対し,引用発明は,「高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを目的として,卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラットにラロキシフェン100μgを4か月間毎日経口処置した際に,卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」点。
相違点2:
本件訂正発明1は,「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」のに対し,引用発明は,この点についての記載がない点。
【要旨】

請求棄却。相違点1及び2についての裁判所の判断は以下の通り。

相違点1:
「甲1実験系には,ヒトの閉経後骨粗鬆症動物モデルを用いた実験として,不適切な点は見出せず,甲1実験系によって得られた「ラロキシフェン は卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」との知見を,ヒトの骨粗鬆症にも応用できるとする十分な根拠があるということができる。~当業者は,ラロキシフェンが甲1実験系において卵巣切除ラットの灰密度低下を有意に遅らせたことから,このラロキシフェンをヒトに適用した場合,骨粗鬆症の治療薬又は予防薬として所望の薬効を奏することを合理的に予測できたということができる。」
相違点2:
「ラロキシフェンは,子宮に対してタモキシフェンよりも 弱いエストロゲン作用を示すことは周知であり,子宮湿重量増加作用だけでなく,子宮上皮細胞成長作用も弱いことが知られていたと認められる。 そうすると,ラロキシフェンは,子宮癌の発生に関係する子宮に対するエストロゲン作用がタモキシフェンよりも弱いことが周知であり,特に,子宮上皮細胞成長作用がタモキシフェンよりも弱いことも知られていた以上,当業者であれば,ラロキシフェンは,タモキシフェンよりも子宮癌のリスクが低いことを容易に予測し得たということができる。したがって,引用発明の「9月齢の退役した経産雌ラットにおいて卵巣切除によ る灰密度の低下を有意に遅らせたケオキシフェン」を,ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用医薬製剤として適用した場合に,タモキシフェンより子宮癌のリスクが低い製剤となることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。」
【コメント】

本件特許は、骨粗鬆症治療剤エビスタ®(一般名:ラロキシフェン塩酸塩(Raloxifene Hydrochloride)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM))の用途特許である。2015年4月に本件特許無効の審決がだされた後、沢井製薬は、同年8月に後発品(ラロキシフェン塩酸塩錠 60mg「サワイ」)の承認を得、知財高裁の判断を待たずに同年12月に薬価収載、販売に踏み切っていた。

参考:

Dec 3, 2016

テルミサルタン(telmisartan)に関する特許権について

2016年11月18日、日本ベーリンガーインゲルハイム(株)より「テルミサルタンに関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】テルミサルタンに関する特許権について)。

日本ベーリンガーインゲルハイムは、
テルミサルタンを有効成分とする単剤として、
  • ミカルディス®錠20mg
  • ミカルディス®錠40mg
  • ミカルディス®錠80mg
テルミサルタンを有効成分として含む配合剤として、
  • ミコンビ®配合錠AP
  • ミコンビ®配合錠BP
  • ミカムロ®配合錠AP
  • ミカムロ®配合錠BP
を製造販売しており、これら商品に関しては、以下の特許権を有しているとのことです。
  • 特許4700813号: 多形結晶特許 存続期間満了日2020.01.07
  • 特許4606166号: 経口医薬組成物特許 存続期間満了日2033.09.18
  • 特許4181503号: 二層医薬錠剤特許 存続期間満了日2022.01.16
  • 特許5134963号: テルミサルタンとアムロジピンを含む医薬錠剤特許 存続期間満了日2025.10.29; 無効2015-800204の審決取消訴訟平成28年(行ケ)10223(出訴日2016.10.07)
  • 特許5871294号: テルミサルタン錠剤の調製方法特許 存続期間満了日2035.03.13
  • 特許5833037号: 2種類のみの有効成分を有する二層医薬錠剤特許 存続期間満了日2026.11.22
  • 特許5742045号: 医薬錠剤特許 存続期間満了日2028.03.13
  • 特許4929241号: アモルファスであるテルミサルタンの製造方法特許 存続期間満了日2022.01.16
  • 特許4870161号: 製造方法特許 存続期間満了日2026.07.17
  • 特許5129918号: 精製方法特許 存続期間満了日2023.01.15
  • 特許5160740号: 製造方法特許 存続期間満了日2024.03.26
各製品の再審査期間は下記の通り。
  • ミカルディス®錠
    8年間:2002年10月8日(ミカルディスカプセル製造販売承認日)~2010年10月7日(終了)
  • ミカムロ®配合錠AP
    4年間:2010年7月23日~2014年7月22日(終了)
  • ミカムロ®配合錠BP:
    製造販売承認年月日からミカムロ配合錠AP再審査期間終了時まで:2012年12月21日~
    2014年7月22日(終了)
  • ミコンビ®配合錠AP/ミコンビ®配合錠BP
    6年間:2009年4月22日~2015年4月21日

Nov 30, 2016

2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468

対応外国出願の禁反言が特許発明の技術的範囲に適用されるのか: 東京地裁平成27年(ワ)28468

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(日医工)に対し、被告製品の製造販売等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。

本件発明:
A オキサリプラチン,
B 有効安定化量の緩衝剤および
C 製薬上許容可能な担体を包含する
D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
E 製薬上許容可能な担体が水であり,
緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。
被告製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明の構成要件Gに規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。被告製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうか、すなわち、被告製品は本件発明の構成要件B、F及びGを充足するのかどうかが争点。

【要旨】

裁判所は、本件発明における「緩衝剤」は、添加されたシュウ酸またはそのアルカリ金属塩をいい、オキサリプラチンが分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当であるとして、被告製品は、構成要件B、F及びGを充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないと判断した。請求棄却。以下裁判所の判断より抜粋。
  • 「緩衝剤の「剤」とは,「各種の薬を調合したもの」を意味するから(広辞苑第三版),緩衝剤とは,緩衝に用いる目的で,各種の薬を調合したものを意味すると考えることが自然である。」
  • 「シュウ酸が添加されない場合には,オキサリプラチン水溶液の平衡状態には何ら変化が生じないから,オキサリプラチン溶液が,安定化されるとはいえない。したがって,上記明細書に記載された「緩衝剤」の定義は,緩衝剤に解離シュウ酸が含まれることを意味していないというべきである。」
  • 「本件明細書には,「緩衝剤」である「シュウ酸」に,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸が含まれることを示唆する記載はない。以上からすると,本件明細書の記載では,解離シュウ酸については全く考慮されておらず,緩衝剤としての「シュウ酸」は添加されるものであることを前提としていると認められる。」
  • 「対応米国特許の審査過程において,出願人が,意見書及び補正書において「オキサリプラチンの溶液製剤に緩衝剤を加えることにより,より安定したオキサリプラチンの溶液製剤(当該製剤は上述の不純物をまったく生成することがないか,丙らの水溶液性剤中に見出されるよりも著しく少量の不純物を生成する)が得られることを見出したのである」と述べていること,対応ブラジル特許の審査過程においても,出願人が,「シュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物が発生しない」と述べていることが認められるから,対応米国特許及び対応ブラジル特許の出願人は,これらの特許発明について,シュウ酸を緩衝剤として添加することで,不純物を減少させ,より安定した製剤を得る発明であると認識していたものと認められる。確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。」

【コメント】

裁判所は、クレームの用語の意義を、対応外国出願の審査過程における出願人の主張内容も参酌して解釈した。対応外国出願における禁反言が日本の特許発明の技術的範囲の解釈に影響を与え得るということである。本事件に限らず、対応外国出願の禁反言が一律に日本の特許発明の技術的範囲の解釈に適用されるのかどうかはには疑問があるが、とにかく、どの国で審査対応するにしてもその主張内容には最新の注意を払うようにしておくことが出願人側としては原則であろう。

参考:

Nov 29, 2016

MSDのアイセントレス®(ラルテグラビル) 英国特許訴訟で塩野義が敗訴

2016年11月28日の塩野義のプレスリリースによると、塩野義が保有するHIVインテグラーゼ阻害薬に関する英国特許(UK60242459.3号)の無効訴訟をMSD社が英国特許裁判所に提起したことに対して、塩野義は同特許に基づき英国でのアイセントレス®(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium)を販売するMSD社に対し特許権侵害の反訴請求をしていましたが、2016年11月25日、同裁判所は上記両件について、英国のアイセントレスの販売は同特許の侵害に当たるが、同特許は記載要件を満たさず無効である旨の判決を出したとのことです。本件特許はViiV社が販売しているHIVインテグラーゼ阻害薬テビケイ®(有効成分はドルテグラビルナトリウム(dolutegravir sodium))を保護する特許とは関係のない特許とのことです。

参考:

Nov 26, 2016

2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 東京地裁平成28年(ワ)15355

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)及び専用実施権者(ヤクルト)が、被告(日本化薬)に対し、被告製品の製造販売が特許権・専用実施権の侵害に当たると主張して、損害賠償を求めた事案。

本件発明:
1A オキサリプラチン,
1B 有効安定化量の緩衝剤および
1C 製薬上許容可能な担体を包含する
1D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
1E 製薬上許容可能な担体が水であり,
1F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1G 緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。
被告各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明の構成要件1Gに規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。本件発明被告製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうか、すなわち、被告製品は本件発明の構成要件1B、1F及び1Gを充足するのかどうかが裁判所判断の決め手となった争点。

【要旨】

裁判所は、被告各製品は構成要件1B、1F及び1Gをいずれも充足しないから、被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断した。請求棄却。以下裁判所の判断より抜粋。
「本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるものであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤のモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」という用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得ない。

…(略)…他方で,仮に,本件発明1を上記のように解することなく,原告らが主張するように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば,本件発明1は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸イオンが平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべきである。

…(略)…したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当である。」
【コメント】

本件発明の「緩衝剤」という用語の意義を検討し、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当であると判断した(東京地裁民事第29部)。2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849参照。

参考:

Nov 19, 2016

オキサリプラチン延長特許侵害事件 知財高裁が大合議事件に指定

2016年11月17日、知財高裁は、平成28年(ネ)第10046号 特許権侵害差止請求控訴事件を大合議事件として指定しました。

原審は、延長された特許権の効力が争点となった2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414です。

この大合議の審理・判断で求められる一番重要な点は、先発薬(新規有効成分に限らない)についての延長特許権があるにもかかわらず、その先発薬に依拠して承認された後発品の製造販売が簡単に許されてしまうような延長特許権の効力の解釈、言わば特許法第68条の2が事実上空文化するような判断は、この特許延長制度の立法趣旨(実施機会の喪失による不利益を解消させる制度)からして許されないことは明らかであること、本事件の具体的な解釈・結論よりも、むしろ特許延長制度全体の枠組みとして、現在の条文からどのように延長特許権の効力範囲の境界線を引くのかということ、を示せるかどうかという点です。

延長された特許権の効力が不明確で、将来の侵害判断の予見性が低いままであれば、先行して莫大な研究開発投資をする製薬産業にとっては大きな問題です。不安定な法制度のまま放置することにならないよう、今回の知財高裁には難しい判断が求められることになりますが、この判断は、世界の製薬企業が、先発薬メーカーにとって厳しくなりつつある日本市場が今だに魅力的なものとして考慮できそうなのかどうかという視点でも注目しており、大合議の判断次第では日本の製薬産業に大きなインパクトを与えるものになると思われます。

参考:


Nov 6, 2016

2016.10.12 「セルビオス-ファーマ v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10251

マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成27年(行ケ)10251

【背景】

被告ら(ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬)が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許3310301号に対してなされた無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800174号)の取消訴訟。争点は、進歩性の有無。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
「本件発明1と甲1発明とは,ステロイド環構造の20位炭素原子に水酸基(-OH)が結合した化合物(以下「20位アルコール」という。)に脱離基を有する側鎖形成試薬を反応させてエーテル結合を形成させる反応(ウィリアムソン反応)である点で一致するが,脱離基を有する側鎖形成試薬における脱離基以外の構造(相違点1-ii)及び反応により得られる化合物の側鎖部分構造(相違点1-i)が,本件発明1は「2,3-エポキシ-3-メチル-ブチル基」であるのに対し,甲1発明は「-CH2-CH2-CH=CH2」である点で相違する(下図参照)。

(中略) 
甲1には,甲1発明の出発物質に,甲2のようなエポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持したまま反応させて合成されるエポキシ中間体を合成し,これを経てOCTを製造する方法について,記載がなく,甲4及び14には,エポキシ基を有する試薬を他の化学物質と合成し,当該エポキシ基の開環により水酸基を得るという一連のOCTの製造方法が記載されているわけではないのであって,エポキシ基を開環して水酸基を形成する工程のみを取り出して,エポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持したまま他の化合物と反応させた後,その次の工程として適用することを前提に,エポキシ基を有する試薬を,エポキシ基を保持したまま他の化合物と反応させることにつき,記載も示唆もない。エポキシ基の開環反応によってアルコールを合成する方法が技術常識であることを考慮しても,甲1発明につき,エポキシ中間体を経由する反応経路を探索する動機付けはない。当業者が,エポキシ基を開環するという基本的知識を有していたとしても,OCTのより効率的な製造方法としての一連の工程として,エポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持させたまま甲1発明の出発物質と反応させて,エポキシ中間体を経由する反応経路を探索することが容易に想到できたということはできない。
したがって,エポキシ基が開裂する付加反応が生じる可能性についての当業者の認識を検討するまでもなく,前記イのとおりであって,本件発明1の容易想到性は,認められない。」
【コメント】

本件特許は、マキサカルシトール(maxacalcitol)の製造方法に関するもの。マキサカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であり、中外製薬が販売する角化症治療剤オキサロール(Oxarol)®軟膏の有効成分。本件特許については、他に下記のとおり無効審判請求がなされ有効性が争われている。いずれの判断も特許は有効とされている。均等侵害を認めた知財高裁大合議判決(2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)も含めて特許権者側の勝利が続いていることになる。本特許権の存続期間満了日は2022年9月3日。本件特許権を回避した製法で製造されたジェネリックは既に市場に参入している。

Oct 31, 2016

オキサリプラチン特許侵害訴訟 東京地裁がデビオファームの請求棄却

日医工および日本化薬のプレスリリースによれば、オキサリプラチン点滴静注液に関し、デビオファームにより提訴されていた特許権侵害差止請求訴訟について、東京地裁はデビオファームの請求を棄却する判決をしたとのことです。

参考:

Oct 30, 2016

2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 東京地裁平成27年(ワ)28849

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(サンド)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。

本件発明:
A オキサリプラチン,
B 有効安定化量の緩衝剤および
C 製薬上許容可能な担体を包含する
D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
E 製薬上許容可能な担体が水であり,
F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
G 緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。
被告製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明の構成要件Gに規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。本件発明被告製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうか、すなわち、被告製品は本件発明の構成要件B、F及びGを充足するのかどうかが裁判所判断の決め手となった争点のひとつ。

また、被告製品は乳糖溶液を担体とするオキサリプラチン溶液であるが、担体が水であるとする本件発明の構成要件Eを充足するのかどうかがも裁判所判断の決め手となった争点である。


【要旨】

裁判所は、被告各製品は構成要件B、E、F及びGをいずれも充足しないから、被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断した。請求棄却。以下裁判所の判断より抜粋。
(1) 被告各製品は構成要件B,F及びGを充足するかについて

「本件明細書は,専ら,オキサリプラチン溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)することにより,オキサリプラチン溶液中のシュウ酸濃度を人為的に増加させ,平衡に関係している物質の濃度が増加すると,当該物質の濃度が減少する方向に平衡が移動するという原理に従い,結果として,オキサリプラチン溶液中におけるジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量を,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)しない場合よりも,減少させることを目した発明が開示されているというべきであり,本件発明についてもそのような発明と把握するのが相当というべきである。なお,上述したところから明らかなように,オキサリプラチン溶液に,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加(外部から付加)した場合には,これを添加しない場合よりも,オキサリプラチン溶液中におけるジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体などの望ましくない不純物の量が減少するから,オキサリプラチン溶液中に一定の量(モル濃度)のシュウ酸が存在している場合,そのシュウ酸が添加シュウ酸であるか,解離シュウ酸であるかによって,当該溶液の客観的構成は異なるものである(すなわち,両者は,「物」として,異なるということになる。)。

仮に,本件発明を上記のように解することなく,原告が主張するように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば,本件発明は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸が平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべきである。

~したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当である。」

(2) 被告各製品は構成要件Eを充足するかについて

本件明細書の上記記載では,まず,「製薬上許容可能な担体」を「本発明のオキサリプラチン溶液組成物の調製に用いられ得る種々の溶媒」としている。そして,~本件発明にいう「製薬上許容可能な担体」の候補として,①「水」,②「1種又はそれ以上のその他の適切な溶媒」あるいは③「水と1種又はそれ以上のその他の適切な溶媒の混合物」の3つを挙げているところ,構成要件Eは,「製薬上許容可能な担体が水であり,」と規定しているのであるから,同構成要件は,「製薬上許容可能な担体」を,上記の候補のうち,「水」(上記①)に限定し,上記②及び③を含まないことを,特許請求の範囲の文言上,明確にしたものと解さざるを得ない。そして,本件明細書の段落【0024】は,上記②及び③にいう「その他の適切な溶媒」の代表例として,「・・・製薬上許容可能なラクトース・・・等・・・の糖溶液」を挙げているのであるから,糖溶液の一つである乳糖溶液(ラクトース溶液)は,上記のとおり「水」とは区別された「その他の適切な溶媒」に当たることが明らかであって,乳糖溶液を担体とするオキサリプラチン溶液は,本件発明の構成要件Eを充足しないものというべきである。

出願経過に鑑みても,本件特許の出願人は,「製薬上許容可能な担体」に当たりうる対象が複数考えられること(具体的には,前記イで述べたとおり,①「水」,②「1種又はそれ以上のその他の適切な溶媒」あるいは③「水と1種又はそれ以上のその他の適切な溶媒の混合物」の3つ)を認識しながら,特許請求の範囲の請求項1を補正することにより,「製薬上許容可能な担体」を①「水」に限定し,上記②及び③については本件発明の技術的範囲に含まれないことを明らかにした,換言すれば,本件発明の技術的範囲から意識的に除外したものと解するほかはない。被告各製品に含まれるオキサリプラチン溶液は,注射用水40kgに乳糖水和物2.25kgを加えて撹拌した後,オキサリプラチン0.25kgを加え,更に注射用水を加えて撹拌して製造される(原告も,この点は争っていない。)のであるから,被告各製品に含まれるオキサリプラチン溶液の担体は,乳糖溶液であると認められる。

~したがって,被告各製品は,構成要件Eを充足しない。
【コメント】

本件では、東京地裁民事第29部は、「特許発明の技術的範囲を明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めるに当たっては,明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するべきであるところ」と言及して、本件発明の「緩衝剤」という用語の意義を検討し、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当であると判断した。

一方、2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416では、東京地裁民事第46部は、「この緩衝剤を添加したものに限定するという構成を採用したとみることはできない。以上によれば,構成要件Gに規定されたモル濃度の範囲内にある量のシュウ酸を含んでいれば構成要件B,F及びGを充足すると解すべきところ,~被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断するのが相当である。」と、技術的範囲の解釈において全く逆の判断をしている。

本発明の技術的思想の本質は、オキサリプラチンの安定化に一定量のシュウ酸の存在が重要だったという点であろう。解離シュウ酸は含まれないとの積極的な記載が明細書にあるならともかく、添加シュウ酸の記載のみしかない事実に基づいて解離シュウ酸は含まれないと解釈した本件判断は、特許法70条2項に従い用語の意義を客観的に解釈したといえるのだろうか。特許発明の技術的範囲を実施例や試験例が存在する方向へ限定するように解釈することは妥当なのだろうか。実施例や試験例が無いというのであれば記載要件の有無で検討されるべきことではないだろうか。特許発明の技術的範囲の解釈について、裁判所で割れるようなことがあっては困る。

「本件発明は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸が平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべきである。」という判断も、引用発明と本件発明との一致点・相違点を示すなど、丁寧な検討をしたうえで判断を下してほしいところである。

Oct 24, 2016

小野薬品がMSD「キイトルーダ」を抗PD-1抗体特許侵害で提訴

小野薬品のpress releaseによると、小野薬品は、本庶佑氏との共有に係る抗PD-1抗体に関する特許(特許第4409430号、特許5159730号)に基づき、2016年9月28日に「キイトルーダ®」(一般名:ペムブロリズマブ、MK-3475)に関する製造販売承認を取得した MSD社に対し、10月24日に特許権侵害行為差止請求訴訟を東京地方裁判所に提起したとのことです。

本特許に対応する欧州及び米国特許は、BMS社にライセンスされており、それら各特許に基づいた訴訟が欧州各国および米国においても係属しています。なお、小野薬品とBMS社は、ロイヤルティなどを含む適切な対価を支払う旨の訴訟当事者の合意がなされれば、又は裁判所による命令が下されれば、これらの訴訟において「キイトルーダ®」の販売差止判決を求めない旨を表明しており、本件訴訟においても、その方針で臨むとのことです。

参考:

Oct 16, 2016

2016.09.21 「ラプトール ファーマシューティカル v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10188

過度の試行錯誤が必要とされた例: 知財高裁平成27年(行ケ)10188

【背景】

「環状受容体関連蛋白ペプチド」に関する特許出願(特願2010-501126号)に対する拒絶審決(不服2013-25515号)取消訴訟。争点は実施可能要件違反についての判断の当否。

請求項1(本願発明):
「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,そして1x10-8M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合する,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチドであって,該CR含有蛋白は,…(略。34個の選択肢。)…よりなる群から選択される,環状RAPペプチド。」
【要旨】

「①RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基がどこかということが本件出願日当時の技術常識であり,その結合する領域のアミノ酸残基を変異させれば,受容体との結合親和性が変化することが本件出願日の技術常識であったとしても,そのアミノ酸残基を変異させた場合に,結合親和性を向上させる手法は明らかでなく,また,②本願発明で特定されるアミノ酸配列は,50個の連続するアミノ酸のうち最大15個のアミノ酸の変異(挿入,欠失又は置換)を許容するものであって極めて多数に及ぶ一方,③本願明細書に記載された本願発明の実施例はわずか3個であって,その内容も,環化のためのシステインの導入を含めた4,5個のアミノ酸置換を行った,「67~75アミノ酸長の環状」のぺプチドで,「配列番号97に100%または98%(1個の変異)同一である50個の連続するアミノ酸」を含む,配列番号97と非常に同一性の高いアミノ酸配列を有しているものにすぎないから,本件出願日当時の当業者は,本願発明の環状RAPペプチドを製造するために,膨大な数の環状RAPペプチドを製造して34個のCR含有蛋白との結合親和性を調べるという,期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものと認められる。したがって,本願発明は実施可能要件を欠くものであり,原告の取消事由には,理由がない。」

請求棄却。

【コメント】

原告は、
  • 技術常識である「RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残基」を変異させれば,容易に結合親和性の高いペプチドが得られるから,そのようなペプチドを製造し,その機能性の確認を行うためには過度な試行錯誤を要しない
  • 本願明細書に記載されたファージディスプレイ技術及びPCRによるランダム変異誘発を用いるランダム変異誘発スクリーニングを用いた本願発明に係るペプチドの製造は,開発業務受託機関を利用することもできるから,当業者にとって負担となるものではない
などと主張したが、裁判所は認めず、判決の通りである。

特許法36条4項1号においては、出願時の技術常識のレベル及び当業者のレベルに従って過度の試行錯誤が必要とされるか判断されるわけだから、時代と共に、過度の試行錯誤のレベル感も変わるはず。「AIを用いれば試行錯誤を要しないから実施可能である」なんて主張が認められる日がいつか来るかもしれない?その前にAIが明細書を書いて、AIが審査するかも?


Oct 10, 2016

アステラス 過活動膀胱治療剤Myrbetriq®(ミラベグロン)のANDAでActavisに対し特許侵害訴訟を提起

アステラス製薬は、FDAに過活動膀胱治療剤「Myrbetriq®」(一般名:ミラベグロン、mirabegron)のANDAを提出したActavis社等に対して、アステラス製薬の保有するミラベグロンの物質特許、過活動膀胱治療用途特許及び結晶特許に基づき、後発品承認差止めを求め、2016年10月6日、米国デラウェア州連邦地方裁判所に訴訟を提起しました。

アステラス製薬が創製したミラベグロンは、選択的β3 アドレナリン受容体作動薬であり、2011年7月1日に日本で承認され、「ベタニス®錠」の製品名で範囲され、その後2012年6月28日に米国で承認され、「Myrbetriq®」の製品名で販売されています。

Orangebookによれば、アステラス製薬の保有するミラベグロンの物質特許、過活動膀胱治療用途特許及び結晶特許とは下記特許と思われます。

・物質特許: US6,346,532(Patent expiration: Mar 27, 2022)
・製剤特許: US6,562,375(Patent expiration: Aug 1, 2020)
・過活動膀胱治療用途特許: US8,835,474(Patent expiration: Nov 4, 2023)
・結晶特許: US7,342,117(Patent expiration: Nov 4, 2023)
・結晶特許: US7,982,049(Patent expiration: Nov 4, 2023)
・過活動膀胱治療用途特許: USRE44872(Patent expiration: Nov 4, 2023)

参考:

Sep 24, 2016

抗PD-1抗体を巡る特許訴訟~小野/BMS(オプジーボ; Opdivo) vs Merck(キートルーダ; Keytruda)

Bristol-Myers Squibb(BMS)及びMerckの最近のSEC filing 10-Q資料は、抗PD-1抗体を用いた癌治療方法に関する特許(いわゆる本庶特許)及び広く抗PD-1抗体を保護する特許(いわゆるKorman特許)で構成される特許群に関して、世界中で特許訴訟が係属中であることを伝えています。各国裁判所が、MerckによるKeytrudaの販売が小野薬品(及びBMS)の抗PD-1抗体特許を侵害していると判断した場合、BMSと小野薬品はMerckからKeytrudaの将来の販売における実施料を含めた損害賠償金を受け取ることができることになります。その国でKeytrudaの販売差止めの可能性もあるわけですが、BMSと小野薬品は、MerckによるKeytrudaの販売を阻止するつもりはなく、裁判所により適切な金銭的補償が認められることを望んでいるようです。小野薬品/BMSが販売するオプジーボ(Opdivo)®(一般名: ニボルマブ、nivolumab)とMerckが販売するキートルーダ(Keytruda)®(一般名: ペンブロリズマブ、pembrolizumab)との間で繰り広げられている抗PD-1抗体に関わる特許紛争は小野薬品/BMSが優勢のようです。
欧州の状況
  • BMSは小野薬品が保有する欧州特許1537878('878特許)を含む本庶特許の独占実施権を保有している。この特許は、Merckが販売するKeytrudaを癌治療に使用するといった、抗PD-1抗体の使用を広くクレームするものである。Merckは、2011年、この'878特許についてEPOに異議申立を提出したが、特許は有効と判断されたため、2015年2月にその決定に対し不服審判を請求している(T1994/14)。現在係属中。
    欧州特許(EP1537878B)Claim 1:
    Use of an anti-PD-1 antibody which inhibits the immunosuppressive signal of PD-1 for the manufacture of a medicament for cancer treatment.
  • 並行して、Merckと他の3つの会社は、2014年4月、Medarex(BMSが買収)と小野薬品が保有する欧州特許2161336('336特許。いわゆるKorman特許出願に基づくもの)に対しても異議申立を提出していた。こちらは、BMSと小野薬品が提出したクレーム補正が許可され特許維持の決定がなされたが、結果として'336特許はもはやKeytrudaのような抗PD-1抗体を広くクレームするものではなくなったとのことである。
  • Merckは、2014年5月、'878特許及び'336特許に相当するUK特許の無効を求めUKで訴訟を提起した。それに対し、2014年7月、BMSと小野薬品はMerckによるUKでのKeytrudaの上市が'878特許に相当するUK特許の侵害となることの確認を求めて訴訟を提起した('336特許に相当するUK特許は欧州特許と同様にクレームが補正され、もはやKeytrudaのような抗PD-1抗体を広くクレームするものでなくなる見込み)。2015年、UK裁判所は'878特許は有効であり侵害も認める決定をした。Merckはこの決定を不服として上訴しており、2017年3月に口頭審理が開始される予定である。BMSと小野薬品は損害賠償及び実施料の額を決定する手続きを進めておりそれらの口頭審理は2017年10月に予定されている。
  • Merckは、2015年2月、'878特許及び'336特許に相当するオランダ特許の無効を求めオランダで訴訟を提起した。その後BMSと小野薬品はMerckに対し'878特許に相当するオランダ特許の侵害訴訟を提起した('336特許に相当するオランダ特許は欧州特許と同様にクレームが補正され、もはやKeytrudaのような抗PD-1抗体を広くクレームしていない)。2016年6月、Hague地裁は'878特許に相当するオランダ特許は有効でありMerckによる侵害も認める決定をした。Merckはこの判決を不服として控訴する予定。
  • 2015年12月~2016年1月、BMSと小野薬品はMerckに対し、フランス、ドイツ、アイルランド、スペイン及びスイスを含む他の欧州各国において'878特許に相当する各国特許侵害訴訟を提起している。
米国の状況
  • BMSと小野薬品は、2014年9月、MerckによるKeytrudaの販売が本庶特許出願に基づく米国特許8728474('474特許)の侵害にあたるとして訴訟を提起した。その審理は2017年4月に開始される。
    米国特許(US 8,728,474)Claim 1:
    A method for treatment of a tumor in a patient, comprising administering to the patient a pharmaceutically effective amount of an anti-PD-1 monoclonal antibody.
  • BMSと小野薬品は、2015年6月および7月、MerckによるKeytrudaの販売が本庶特許に基づく米国特許9067999('999特許)及び米国特許9073994('994特許)の侵害にあたるとして訴訟を提起した。一方、Merckは、2016年7月、'999特許及び'994特許の無効を求めてInter Pates Reviewを請願した。BMSは2016年10月までにその請願に対して反論する機会が与えられている。
  • Dana-Farberは、2015年9月、本庶特許出願に基づく5つの米国特許のinventorshipの補正を求め、特にそれら特許に発明者として2名の科学者を加えるようマサチューセツ連邦地裁に申し立てた。それらの特許のうち3つ(上記'474特許、'999特許、'994特許)は現在BMSと小野薬品によりMerckに対してデラウエア連邦地裁で提起された特許侵害訴訟の対象である。
  • Merckは、2016年4月、Korman特許出願に基づく米国特許8777105('105特許)及び米国特許9084776('776特許)が無効でありKeytrudaによる侵害はないとの確認判決を求めてNew Jersey連邦地裁に訴訟を提起した。
  • PDL Biopharma (PDL)は、2015年10月、MerckによるKeytrudaの製造が2014年12月に期間満了した米国特許5693761('761特許)の侵害にあたるとして損害賠償請求訴訟を提起している。この特許は組換え抗体とPDLの製造に使用されるプラットフォーム技術をクレームしているものである。
  • Merckは、2016年7月、Genentechに対して組換え抗体の製造に使用されるプラットフォーム技術をクレームする米国特許7923221(Cabilly III特許)は無効であり、Keytrudaは侵害していないとの確認判決を求め訴訟を提起し、また、同技術をクレームする米国特許6331415(Cabilly II特許)の無効を求めてInter Pates Reviewを請願している。
日本の状況(J-PlatPatより)

本庶特許においては無効審判等は請求されていない。
  • JP4409430(B2)
    請求項1: PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいてメラノーマの増殖または転移を抑制する作用を有するメラノーマ治療剤。
  • JP5159730(B2)
    請求項1: PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作用を有する癌治療剤(但し、メラノーマ治療剤を除く。)。
  • JP5701266(B2)
    請求項1: 抗PD-1抗体を有効成分として含む、ウイルス性肝炎治療剤。
  • JP5885764(B2)
    請求項1: PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。
Korman特許においては無効審判等は請求されていない。
  • JP4361545(B2)
    請求項1: (a)配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR1、(b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR2、(c)配列番号32のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR3、(d)配列番号39のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR1、(e)配列番号46のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR2および(f)配列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR3を含む抗体であって、ヒトPD-1と特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体。
  • JP5028700(B2)
    請求項1: ヒト生殖細胞型VH3-33遺伝子もしくはその体細胞変異を受けた当該遺伝子にコードされる重鎖可変領域およびヒト生殖細胞型VKL6遺伝子もしくはその体細胞変異を受けた当該遺伝子にコードされる軽鎖可変領域を含む抗体であって、
    (a)ヒトPD-1に特異的に結合し、配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む単離ヒトモノクローナルIgG4抗体によるヒトPD-1への結合と競合し、かつ
    (b)ビアコア分析における解離速度として0.13~5.46x10-9Mの活性でヒトPD-1に特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体(ただし、配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR1、配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR2、配列番号32のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR3、配列番号39のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR1、配列番号46のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR2および配列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR3を含む抗体であって、ヒトPD-1と特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体を除く。)。
  • JP5872377(B2)
    請求項1: 配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、ヒトPD-1に特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体を有効成分として含み、抗CTLA-4抗体と組み合わせて投与されることを特徴とする、メラノーマ、腎癌および肺癌から選択される癌に対する癌治療剤。
その他の国の状況
  • 2014年9月、Merckは、Korman特許出願に基づくオーストラリア特許2011203119の無効を求めて訴訟を提起した。2015年3月、BMS及び小野薬品はMerckに対して特許侵害訴訟の反訴を提起した。2017年9月に審理が予定されている。

過去記事:

Sep 19, 2016

2016.08.30 「富士フイルム v. ディーエイチシー」 東京地裁平成27年(ワ)23129

アスタキサンチン含有スキンケア用化粧料の進歩性: 東京地裁平成27年(ワ)23129

【背景】

DHC websiteより引用
「分散組成物及びスキンケア用化粧料並びに分散組成物の製造方法」に関する特許権(第5046756号)を有する原告(富士フイルム)が、被告(ディーエイチシー)に対し、被告による被告製品(DHCアスタキサンチン ジェル(販売名 DHCアスタジェル)およびDHCアスタキサンチン ローション(販売名 DHCアスタローション))の製造販売が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄、損害賠償金等の支払を求めた事案。

本件発明1:
(a)アスタキサンチン,ポリグリセリン脂肪酸エステル,及びリン脂質又はその誘導体を含むエマルジョン粒子;
(b)リン酸アスコルビルマグネシウム,及びリン酸アスコルビルナトリウムから選ばれる少なくとも1種のアスコルビン酸誘導体;並びに
(c)pH調整剤
を含有する,pHが5.0~7.5のスキンケア用化粧料。
【要旨】

裁判所は、被告製品はいずれも本件発明の各技術的範囲に属するものと認めたが、本件発明は乙6発明に基づいて容易に発明することができたものであるから原告は本件特許権を行使することができないと判断し、原告の請求をいずれも棄却した。

(1) 構成要件「pH調整剤」の充足性
被告は、被告製品に含まれるクエン酸は被告製品のpHを5.0~7.5の範囲にするものでなく、その量もごく微量であるから、構成要件「pH調整剤」に当たらないと主張。しかし、「pH調整剤」とはその字句のとおりpHを調整する剤をいうと解するのが相当であり、クエン酸は本件明細書においてpH調整剤として例示されているところ、被告製品からクエン酸を取り除くとpHが大きく変化することが認められ、被告製品に含まれるクエン酸はpHを調整する機能を有しているということができることから、被告製品は構成要件1-Cを充足するというべきであり、被告製品はいずれも本件発明の各技術的範囲に属するものと認められると判断された。
(2) 乙6発明に基づく進歩性欠如について
乙6発明のpHの値が7.9~8.3の範囲であるとする原告の主張は、検査すればpHの値を知ることができるというにとどまるものであって、本件の関係証拠上、技術常識を踏まえてみても乙6ウェブページに掲載されている内容自体からpHが7.9~8.3であると導くことができるとは認められない、と判断された。

したがって、pHの値が5.0~7.5の範囲である本件発明に対し、乙6発明のpHの値は特定されていないと解するのが相当である(その余の点で一致する)とされ、その認定を前提に、下記の通り、相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得ると判断された。

「化粧品の安定性は重要な品質特性であり、化粧品の製造工程において常に問題とされるものであるところ、pHの調整が安定化の手法として通常用いられるものであって、pHが化粧品の一般的な品質検査項目として挙げられているというのであるから、pHの値が特定されていない化粧品である乙6発明に接した当業者においては、pHという要素に着目し、化粧品の安定化を図るためにこれを調整し、最適なpHを設定することを当然に試みるものと解される。そして、化粧品が人体の皮膚に直接使用するものであり、おのずからそのpHの値が弱酸性~弱アルカリ性の範囲に設定されることになり、殊に皮膚表面と同じ弱酸性とされることも多いという化粧品の特性に照らすと、化粧品である乙6発明のpHを上記範囲に含まれる5.0~7.5に設定することが格別困難であるとはうかがわれない。~pHの調整が化粧品の安定性を高めるための手法として周知であったことからすると、本件発明の実施例について吸光度の残存率の高さや性状変化の少なさといった経時安定性の測定結果が良好であったとしても、~予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するとは認められない。」
【コメント】

富士フィルムは本判決を不服とし、控訴を行うことを決定したとのことである(2016.08.30 富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー press release: 「株式会社DHCに対するスキンケア化粧品に関する特許権侵害訴訟について」)。

ところで、被告ディーエイチシーは本件特許に対して無効審判を請求していたが、特許庁は特許有効と判断している(無効2015-800026)。特に、本事案で進歩性が否定された部分については逆に、下記の通り、進歩性を肯定する判断をしている。
「例え上記技術常識があるとしても、引用発明1にかかる技術常識を導入する契機、すなわち、かかる化粧品を弱酸性~弱アルカリ性と設定することの動機づけとなるような記載を甲1から見出すことはできない。このため、上記技術常識や甲4の1~甲4の2の記載事項をもってしても、本件特許発明1が、引用発明1、あるいは引用発明1と甲3の1~甲3の6、甲4の1~甲4の2の記載に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。」
現在、上記審決の取消訴訟(平成28年(行ケ)10092)が知財高裁に係属中である。

本事案にて進歩性が否定された判決と、特許庁により進歩性が肯定された審決とが、いずれも上訴されたことで、知財高裁での判断が待たれる。

米国では拒絶理由を解消できずに放棄。欧州では下記クレームで成立している。
Claim 1. A dispersion composition comprising
(a) emulsion particles having an average particle diameter of 200 nm or less and containing astaxanthin and a phospholipid;
(b) at least one ascorbic acid derivative selected from magnesium ascorbyl phosphate and sodium ascorbyl phosphate; and
(c) an oily component that is 20% by mass or less relative to the mass of the whole dispersion composition.

Aug 2, 2016

2016.07.28 「X v. 興和・興和創薬」 知財高裁平成28年(ネ)10023

特許発明の技術的範囲を明細書記載から限定解釈: 知財高裁平成28年(ネ)10023

「メニエール病治療薬」に関する特許権(第4778108号)を有する控訴人(X)が、被控訴人ら(興和及び興和創薬)による被控訴人製品イソバイドシロップ(有効成分: イソソルビド(Isosorbide))の製造販売が上記特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人製品製造等差止め及び損害賠償を求めた事案。原審(2016.01.28 「X v. 興和・興和創薬」 東京地裁平成26年(ワ)25013)は、被控訴人製品は本件発明の構成要件A(「成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる」というもの)を充足するとはいえないとして、請求棄却したため、控訴人が控訴した。

知財高裁も、被控訴人製品が本件発明の構成要件Aに規定する用途に使用するために製造販売されたものと認めることはできず、当該製造販売行為は本件発明における特許法2条3項にいう「実施」に該当しないから、控訴人の損害金の支払請求は理由がないものと判断した。控訴棄却。

参考:

Jul 4, 2016

2016.06.22 「メルク シャープ アンド ドーム v. ファイザー」 知財高裁平成27年(ワ)12609

フィナステリド(プロペシア®錠後発品)の特許権侵害差止請求事件: 知財高裁平成27年(ワ)12609 (別紙)

【背景】

「5α-レダクターゼ阻害剤によるアンドロゲン脱毛症の治療方法」に関する特許権(第3058351号)を有する原告(メルク シャープ アンド ドーム)が被告(ファイザー)に対し被告各製品は特許発明(請求項1)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間延長登録を受けた本件特許権の効力は被告による被告各製品の製造販売等に及ぶと主張して被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めた事案。マイラン製薬が被告補助参加人として参加。

本件訂正後請求項1:
単位用量として0.05~1mgの5α-レダクターゼ2阻害剤および医薬的に許容可能なキャリヤーより成る,ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物。
存続期間の延長登録:
1 出願番号2006-700003: 処分対象物はフィナステリド、処分はプロペシア錠1mg
2 出願番号2006-700004: 処分対象物はフィナステリド、処分はプロペシア錠0.2mg
被告各製品:
1 フィナステリド錠0.2mg「ファイザー」
2 フィナステリド錠1mg「ファイザー」
【要旨】

本件訂正発明は,本件発明における「単位用量として0.05~3mgの5α-レダクターゼ2阻害剤」を「単位用量として0.05~1mgの5α-レダクターゼ2阻害剤」と限定したものであることが認められるところ,前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件訂正発明は,進歩性を欠くものと認められる(本件無効審決は,これと同旨の認定判断をしており,本件知財高裁判決は,同認定判断に誤りがある旨の原告の主張をすべて排斥している。)から,本件発明が少なくとも進歩性を欠き,本件訂正1によっても当該無効理由が解消しないことが明らかである。したがって,本件発明についての特許は,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3)。
上記に反する原告の主張は,いずれも採用することができない。請求棄却。

【コメント】

存続期間が延長された本件特許権の効力が被告による被告各製品の製造販売等に及ぶかについても争点だったが、裁判所は判断しなかった。判決文を見る限り、存続期間が延長された本件特許権の効力についての原告・被告の主張において特段の議論はされていない。進歩性の判断については下記判決を参照。

参照:

Jun 27, 2016

2016.04.20 「メルク シャープ アンド ドーム v. マイラン・テバ」 知財高裁平成27年(行ケ)10033

プロペシア®錠特許(用量発明)の無効審決取消訴訟: 知財高裁平成27年(行ケ)10033

【背景】

原告(メルク シャープ アンド ドーム)が保有する「5α-レダクターゼ阻害剤によるアンドロゲン脱毛症の治療方法」に関する特許(第3058351号)の無効審決(無効2013-800194)取消訴訟。

本件明細書の記載によれば、アンドロゲン脱毛症や前立腺ガンの治療におけるフィナステライドの有用性は文献に例示されており、同例示に係る特定用量は、患者1人当たり5~2000mg/日の範囲であるところ、本発明者らは、1日用量を少量にした5α-レダクターゼ2阻害剤がアンドロゲン脱毛症の治療に特に有用であるという知見を見いだした、とのことである。

請求項1:
単位用量として0.05~1mgの5α-レダクターゼ2阻害剤および医薬的に許容可能なキャリヤーより成る,ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用経口剤型医薬組成物。
請求項2:
5α-レダクターゼ2阻害剤が17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オンである請求項1に記載の医薬組成物。
審決の理由は、本件発明はいずれも引用発明及び各引用例に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであった。

本件発明1と引用発明との一致点:
5α-レダクターゼ2阻害剤及び医薬的に許容可能なキャリヤーより成るものである点
相違点1:
本件発明1は、「経口剤型医薬組成物」であるのに対し、引用発明は、経口投与されるものではあるものの、「経口剤型医薬組成物」について特定されていない点
相違点2:
本件発明1においては、用途について「ヒトにおけるアンドロゲン脱毛症治療用」と特定されているのに対し、引用発明においては、そのような特定がなく、禿げかかった成体雄 stumptail macaque サルにおいて作用を確認している点
相違点3:
本件発明1においては、用量について、「単位用量として0.05~1mg」と特定されているのに対し、引用発明においては、「0.5mg/日」と特定されている点
【要旨】

裁判所は、本件審決の引用発明の認定、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定及び各相違点を容易に想到することができるとした判断に誤りはなく、並びに本件審決に顕著な効果を看過した誤りはなく、本件発明1に係る原告主張の各取消事由は理由がないから、原告の請求をいずれも棄却した。原告は、本件発明2、4ないし16、18ないし20について本件審決の取消事由を主張しなかった。

以下は裁判所判断の抜粋。

取消事由3(相違点1の判断の誤り)について
原告は,仮に,当業者が,本件優先日当時,引用発明に係る実験の結果からフィナステライドをヒトのアンドロゲン脱毛症の治療に試すことを考えたとしても,皮膚を標的とする局所製剤の開発を試みたものと考えられる旨主張する。しかし,本件優先日当時,フィナステライドの経口投与については,これを有効成分とする前立腺肥大症の経口治療薬であるPROSCARが市販されていたことなど,アンドロゲン脱毛症と同じくアンドロゲン過剰蓄積が原因となって発症する前立腺肥大症の治療という薬効が発揮されるために適切な投与経路であることを示す事実の存在が認められるのに対し,局所投与については,適否を判断するのに十分な事実の存在が認め難いことに鑑みれば,当業者は,サルに対してフィナステライドを投与した引用発明に係る実験の結果から,まず,フィナステライドを経口剤型医薬組成物とすることを試みるものと考えられる。
取消事由4(相違点2の判断の誤り)について
本件優先日当時,stumptail macaque は,他の動物に比してヒトのアンドロゲン脱毛症に似た脱毛症の症状を示すことから,ヒトのアンドロゲン脱毛症の臨床研究に有用な動物であることが,技術常識として確立していたものということができる。したがって,当業者は,本件優先日当時,禿げかかった5匹の成体雄 stumptail macaque サルに対して0.5mg/日のフィナステライドをリンゴのスライスに塗布して経口投与したところ,うち4匹が頭皮毛髪重量の増加を示したという引用発明に係る実験の結果から,フィナステライドがヒトのアンドロゲン脱毛症患者に対しても頭皮毛髪重量の増加を促すことを期待して,フィナステライドをヒトのアンドロゲン脱毛症の治療に試用するものと考えられるから,フィナステライドをヒトのアンドロゲン脱毛症の治療に用いる動機付けは十分にあるというべきである。
取消事由5(相違点3の判断の誤り)について
当業者は,ヒトのアンドロゲン脱毛症の治療のために,頭皮毛髪重量の増加と相関関係があり得る血清DHT濃度の低下を目指してフィナステライドの経口投与を試み,用量の設定に当たっては,引用例2から5の記載に接し,ヒトの男性に対する0.04mg/日など1mg/日以下の用量のフィナステライドの投与によって血清DHT濃度が低下することを認識するものということができる。以上によれば,当業者は,ヒトのアンドロゲン脱毛症の治療剤の開発に当たり,引用例2から5を参照しながら1mg/日以下のフィナステライドの経口投与を試み,血清DHT濃度を低下させることのできる用量として相違点3に係る0.05~1mg/日の用量の設定を容易に想到することができたものということができる。
取消事由6(顕著な効果を看過した誤り)について
原告が本件発明の顕著な効果として主張するもののうち,患者の生活の質の向上及び副作用の低減については,本件明細書に記載されておらず,したがって,これらの効果に係る原告の主張は,本件明細書に基づかないものであるから,採用できない。
【コメント】

本件発明2に記載されている17β-(N-t-ブチルカルバモイル)-4-アザ-5α-アンドロスト-1-エン-3-オンは、一般名フィナステリド(finasteride)と知られる5α‐レダクターゼ2の阻害剤である。日本では2005年10月11日に男性型脱毛症の治療薬として承認され、プロペシア®(Propecia®)錠0.2mg、1mgとしてMSD社が販売。しかし、本件特許権の存続期間満了日は2019年10月11日であったところ、2014年10月に本件無効審決がでると、ファイザー(マイラン製薬提携)が2015年4月から後発品の販売を開始し(ファイザー社 press release: 2015.02.20 「男性型脱毛症治療薬「フィナステリド錠」の製造販売承認取得後発医薬品として日本初」; 2015.04.06 「男性型脱毛症用薬「フィナステリド錠」を4月6日に発売後発医薬品として日本初」)、2016年春にもさらに2社が販売を開始している。

本件では、請求項1のような、化学構造を限定していない、いわゆる機能的表現クレームが特許庁の審査を経て登録されている。本件無効審判では特許庁は無効と判断したわけであるが、J-PlatPatでの審査状況を見る限り、一度も拒絶理由通知を受けることなく特許査定を受けている。

欧米対応特許の成立クレームは下記のとおりである。日本特許の請求項1のような機能的表現クレームでは成立していない。請求項2の同様なクレームは成立しており、用量に特徴がある発明だったいう観点で、日米欧間での進歩性判断の比較において参考になるかもしれない。

  • EP0724444(B1)
    Claim 1. The use of 17β-(N-tert-butylcarbamoyl)-4-aza-5-alpha-androst-1-ene-3-one for the preparation of a medicament for oral administration useful for the treatment of androgenic alopecia in a person and wherein the dosage amount is about 0.05 to 1.0 mg.
  • EP0776664: The application is deemed to be withdrawn.

  • US5547957 (A)
    Claim 1. A method of treating male pattern baldness comprising orally administering to a male person_having a balding area 17.beta.-(N-tert-butylcarbamoyl)-4-aza-5.alpha.- androst-1-ene-3-one in a dosage amount from 0.05 to 3.0 mgs/day at least until growth of hair can be detected in the balding area by haircount analysis of the balding area.
  • US5760046 (A): Patent Expired Due to NonPayment of Maintenance Fees
    Claim 1. A method of treating female pattern baldness comprising orally ale person in need of such treatment the 5.alpha.-reductase 2 inhibitor 17.beta.(N-tert.-butylcarbamoyl)-4-aza-5.alpha.-androst 1-ene-3-one in a dosage amount from 0.01 to 3 mgs/day.
  • US5824686 (A)
    Claim 1. A tablet useful for the treatment of androgenic alopecia, consisting essentially of 17.beta.-(N-tert-butylcarbamoyl)-4-aza-5alpha-androst-1-ene-3-one as the active ingredient wherein the dosage is about 0.05 to 3.0 mg.
  • US5981543 (A): Patent Expired Due to NonPayment of Maintenance Fees
    Claim 1. A method of treating female hirsutism comprising orally administering to a female person in need of such treatment the 5.alpha.-reductase 2 inhibitor 17.beta.-(N-tert-butyl-carbamoyl)-4-aza-5.alpha.-androst-1-ene-3-one in a dosage amount of from about 0.01 to 3.0 mg/day.
  • US6174892 (B1): Patent Expired Due to NonPayment of Maintenance Fees
    Claim 1. A method of treating acne consisting essentially of orally administering to a person in need of such treatment a 5.alpha.-reductase 2 inhibitor of structural formula I ##STR3##
  • US6355649 (B1): Patent Expired Due to NonPayment of Maintenance Fees
    Claim 1. A method of treating seborrhea comprising orally administering to a person in need of such treatment a 5.alpha.-reductase 2 inhibitor of structural formula I ##STR3##
  • US2002042425 (A1): Abandoned -- After Examiner's Answer or Board of Appeals Decision

Jun 20, 2016

2016.03.31 「タイワンジェ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10052

医薬用途発明の記載要件知財高裁平成27年(行ケ)10052

【背景】

「ナルメフェン及びそれの類似体を使用する疾患の処置」に関する特許出願(特願2007-531272; 特表2008-512462)拒絶審決(不服2012-20646号)取消訴訟。争点は記載要件。

請求項1:
B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染,器官の損傷が肝臓の損傷,肺の損傷,及び腎臓の損傷であるところの器官の損傷,並びに,クローン病,潰瘍性大腸炎,及び肺繊維症からなる群より選択された,スーパーオキサイドアニオンラジカル,TNF-α,又はiNOS,の過剰生産と関連させられた疾患より選択された健康状態を予防する又は治療するための医薬において,それは,式R-A-Xの化合物の治療的な量をそれを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備すると共に,Rは・・・(略)・・・である,医薬。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

1.特許法36条6項1号(サポート要件)について

裁判所は、
「本願発明は,「B型肝炎により選択された,ウィルス性の感染」を「予防又は治療するための医薬」において,「ナルメフェンを含む6-メチレンモルヒナン類(式R-A-Xの化合物)の治療的な量を,それを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備する医薬」を発明として含むものであり,同発明は,ナルメフェンを含む6-メチレンモルヒナン類(式R-A-Xの化合物)の新しい医学的な用途として,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬」という用途を提供することを課題とするものである。
上記課題が解決できることを当業者において認識するためには,「式R-A-Xの化合物」が,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬」としての有用性を有すること,すなわちヒト又は動物の生体内におけるB型肝炎ウィルスの増殖抑制作用を有することを理解できる必要がある。
しかし,本願明細書において,B型肝炎ウィルスの感染に関する記載がされているのは,【0034】,【0035】,【0054】及び【0072】のみであり,前記(1)のとおり,これらの記載はいずれも,本願発明が,予防又は治療すべき状態の一つとしてウィルス感染を挙げているものにすぎず,実際にB型肝炎ウィルスの感染の予防又は治療に関して有用性があることを客観的に記載しているものではない。そして,本願明細書には,他に,「式R-A-Xの化合物」が,生体内におけるB型肝炎ウィルスに対して増殖抑制作用等の医薬的に有用な作用効果を有することを技術的に裏付ける薬理試験の結果や実施例等の客観的な事実の記載は一切ない。また,本願出願時,「式R-A-Xの化合物」がそのような作用効果を有することについての技術常識が存在したことを証する証拠はなく,そのような作用効果が,当業者が出願時の技術常識に照らして認識できる範囲のものであるとも認められない。
一般に本願発明のような医薬用途発明においては,一定の予防又は治療すべき状態に対して,特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで,その作用効果について何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず,そのような技術常識もない場合には,当業者において,実際に有用性を有するか,すなわち,課題を解決できるかどうかを予測することは困難である。
そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R-A-Xの化合物が,「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬」という医薬用途において使用できること,すなわちヒト又は動物の生体内におけるB型肝炎ウィルスの増殖抑制作用を有することを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
したがって,本願発明は,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず,特許法36条6項1号の規定を満たさない。」
と判断した。

2.特許法36条4項1号(実施可能要件)について

裁判所は、
「本願明細書の発明の詳細な説明には,式R-A-Xの化合物を「B型肝炎より選択された,ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬」として使用できることが,当業者が理解できるように記載されているとはいえない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」
と判断した。

原告は、
「審決が,審判請求書添付の試験結果及び基礎出願の試験結果について,これらの各試験結果の記載が,本願の出願当初の明細書等の開示範囲を超えたものであるか,又は本願発明の効果の範囲内での補充にすぎないものであるかの判断を行うべきであり,当該判断を怠って,実施可能要件及びサポート要件に規定する要件を満たさないと判断した審決には,判断手法に誤りがある」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充等のために,出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される場合はあるとしても,前記(3)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R-A-Xの化合物を,B型肝炎ウィルスの感染を予防又は治療するために用いるという用途が記載されているのみで,当該用途における化合物の有用性について客観的な裏付けとなる記載が全くないのであり,このような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結果や基礎出願の試験結果を考慮することは,前記(3)アで述べた特許制度の趣旨から許されないというべきである。
そうすると,原告が,審判手続において,審判請求書添付の試験結果及び基礎出願の試験結果を参酌すべき旨を主張していたことからすれば(甲11,13),審決において,同主張を明示的に排斥することが相当であったとはいえるとしても,出願後に提出された薬理試験結果である審判請求書添付の試験結果や,基礎出願の試験結果は,本願明細書に記載された本願発明の効果の範囲内で試験結果を補充するものということはできないから(その上,後記イのとおり,これらの試験結果を考慮したとしても,式R-A-Xの化合物のB型肝炎ウィルスの感染の予防又は治療に対する有用性を裏付けるものとは認められない。),これらの資料を考慮しないで,サポート要件及び実施可能要件を満たさないとの判断をした審決の判断手法が違法であるということはできない。また,その点が審決の判断を左右するものとは認められないから,審決の取消事由には当たらない。」
として原告の主張を退けた。

【コメント】

医薬用途発明について記載要件を満たすためには、医薬的に有用な作用効果を有することを技術的に裏付ける薬理試験の結果や実施例等の客観的な事実が記載されていることが必要であり、その記載が一切ないにもかかわらず出願後に薬理試験結果等を提出することは許されない。

参考:

Jun 13, 2016

2016.03.30 「東和薬品 v. メルク シャープ アンド ドーム」 知財高裁平成27年(行ケ)10054

モメタゾンフロエート薬剤発明の顕著な効果の判断知財高裁平成27年(行ケ)10054

【背景】

被告(メルク)が保有する「気道流路および肺疾患の処置のためのモメタゾンフロエートの使用」に関する特許登録(第3480736号)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800055)の取消訴訟。審決は、本件発明1の構成については容易想到であると判断したが、その効果:
  • アレルギー性鼻炎に対して1日1回のモメタゾンフロエート投与で効果的に処置できること(効果1)
  • モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在しないことにより所望しない全身性副作用を防げること(効果2)
が 顕著で当業者が予測困難なものであったとして、本件発明の進歩性を肯定した。 争点は、顕著な効果についての判断誤りの有無である。

請求項1(本件発明1):
モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって,1日1回鼻腔内に投与される,アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤。
【要旨】

主 文
特許庁が無効2014-800055号事件について平成27年2月3日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断
「本件発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術や周知技術等を適用することにより容易に想到できるものであるとしても,本件発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものである場合は,本件発明がその限度で従来の公知技術から想到できない有利な効果を開示したものであるから,当業者がそのような本件発明を想到することは困難であるといえる。 したがって,引用発明と比較した本件発明の有利な効果が,当業者の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものと認められる場合は,本件発明の容易想到性が否定され,その結果,進歩性が肯定されるべきである。そして,当業者が予測できない顕著な効果といえるためには,従来の公知技術や周知技術に基づいて相違点に係る構成を想到した場合に,本件発明の有する効果が,予測される効果よりも格別優れたものであるか,あるいは,予測することが困難な新規な効果である必要がある・・・(略)・・・この場合,本件発明における有利な効果として認められるためには,当該効果が明細書に記載されているか,あるいは,当業者が,明細書の記載に当業者が技術常識を当てはめれば読み取ることができるものであることが必要である。なぜなら,特許発明は,従来技術を踏まえて解決すべき課題とその解決手段を明細書に記載し,これを一般に開示することにより,特許権としての排他的独占権を取得するものである以上,明細書に開示も示唆もされず一般に公開されないような新たな効果や異質な効果が後日に示され,仮に,従来技術に対して有利な効果であるとしても,これを斟酌すべきものではないからである。」
「本件発明には,薬としての一定の治療効果を有し,実用可能な程度の副作用しかないことは認められるとしても,本件発明の当該効果が,甲1発明及び甲2発明の効果とは相違する効果であるということはできないし,また,本件明細書上,それらの効果とどの程度異なるのかを読み取ることができない以上,これをもって,当業者が引用発明から予測する範囲を超えた顕著な効果ということもできない。よって,この点に関する審決の判断には誤りがある。
審決は,甲1及び甲2には,1日1回の投与の記載がなく,治療効果の程度についての記載もなく,本件発明の治療効果を予測できないと判断した。しかしながら,甲1発明及び甲2発明において,一定の治療効果が認められながらその程度についての記載がない以上,当該効果が本件発明の効果よりも明らかに劣るものと認められない限り,本件発明の効果が顕著なものであるとはいえないはずである。審決は,甲1及び甲2の治療効果の程度についての認定をせずに,本件発明の効果がこれを格別上回ると判断したものであって,論理的に誤りがあるといわざるを得ない。」
「しかも,水性懸濁液のモメタゾンフロエートの全身性吸収の低さ及び代謝後の残存量の少なさは,本件発明と同様,水性懸濁液の鼻腔内投与を行う甲2発明が有するはずであり,甲2発明の副作用の程度が開示されていないとはいえ,審決が,甲1発明と甲2発明を組み合わせて薬として実用化可能な本件発明の構成を想到できたとする以上,この組合せと比して本件発明の効果が顕著なものであるか否かについて検討する必要がある。しかしながら,審決では,甲1発明との対比しかなされておらず,検討が不十分であったといわざるを得ない。」
「本件で問題とされているのは,本件発明と甲1発明及び甲2発明等とを比較した場合の効果の差の存否とその程度であるが,甲1発明についても,アレルギー性鼻炎に対して,プラセボよりも抗炎症活性を有するといえる以上,プラセボとの比較により本件発明の有効性を確認しただけでは,当業者の技術常識に基づいて予測される範囲を超えた顕著な効果を有するとまではいえない。被告の主張は失当である。」
「なお,当裁判所は,本件訴訟において,相違点に係る構成の容易想到性について,審理,判断するものではないところ,本件特許のような,十分な治療効果を有しながら副作用がわずか(又は生じない)とされる実用可能な「薬剤」の特許発明に関しては,その特許無効審判においても,治療効果の維持と副作用の減少(又は不発生)の両立という観点から審理,判断されることが望ましく,例えば,複数ある相違点のうち個々の相違点に限っては想到できるとしても,これらを総合した全体の構成が当該薬剤としての効果等を維持できるものであるか否かが重要であるから,本件審判手続においても,これらの点を念頭に置き,本件訴訟で主張,立証されたものを含め,相違点に係る構成について改めて慎重に審理,判断すべきものといえる。」
【コメント】

本事案から、進歩性を肯定するための顕著な効果を判断する際の注意点は下記のとおり。

  • 引用発明の効果が本件発明の効果よりも明らかに劣るものと認められない限り、本件発明の効果が顕著なものであるとはいえない。すなわち、引用発明の効果の程度についての認定をせずに、本件発明の効果がこれを格別上回ると判断することはできない。
  • 引用発明を組み合わせて本件発明の構成を想到できたとする以上、本件発明の効果が顕著なものであるか否かについて検討されるのはこの組合わせである。

本件特許はナゾネックス®点鼻液を保護するものだったと思われる。特許期間延長登録を受け、存続期間満了日は2019年10月31日だった。

ナゾネックス®点鼻液は米国シェリング・プラウ社(現 Merck Sharp & Dohme Corp.)によって創製された副腎皮質ステロイドであるモメタゾンフランカルボン酸エステル水和物を含有する定量噴霧式点鼻液である。本剤1日1回投与にて、成人については2008年7月に、さらに小児については2012年5月に「アレルギー性鼻炎」を効能・効果として国内承認された。再審査期間は~2016年7月15日。

Jun 6, 2016

2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬・ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク」 知財高裁平成27年(行ケ)10014

マキサカルシトールの製法特許知財高裁平成27年(行ケ)10014

【背景】

被告ら(中外製薬・ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク)が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許(第3310301号)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2013-800222)の取消訴訟。争点は甲4発明からの進歩性の有無である。

本件発明は、ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物(出発物質)を、塩基の存在下で、末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物である試薬と反応させることによりエーテル結合を形成し、側鎖にエーテル結合及びエポキシ基を有するビタミンD構造体又はステロイド環構造体であるエポキシド化合物(中間体)を合成するという方法(本件発明1)、同方法の工程に加えて、その後、還元剤で処理をしてこの側鎖のエポキシ基を開環して水酸基を形成することにより、マキサカルシトールの側鎖を有するビタミンD誘導体又はステロイド誘導体(目的物質)を製造するという方法(本件発明13)を採用したものである。

甲4発明1は、20位アルコールのステロイド化合物(出発物質)に試薬(4-ブロモ-2-メチル-テトラヒドロピラニルオキシ-2-ブテン)を反応させて、二重結合を有する側鎖を導入したステロイド化合物を生成し、これに香月-シャープレス反応を用いるという二段階の反応を行うことにより、二重結合をエポキシ基に変換した中間体であるエポキシド化合物(18)又は(19)を合成するという工程であり、甲4発明2は、同工程に加えて、その後、この側鎖のエポキシ基を開環(還元処理)することにより、エポキシ基を開環したステロイド化合物(目的物質)を生成するという一連の工程である。

【要旨】

主 文
原告らの請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

1.本件発明1と甲4発明1の相違点の容易想到性について
本件発明1と甲4発明1を対比すると,~本件発明1と甲4発明1とは,出発物質は一致するが,目的物質(エポキシド化合物)の側鎖構造(相違点3-i),出発物質に反応させる試薬(相違点3-ii),目的物質であるエポキシド化合物を製造する工程(相違点3-iii)において相違する。
原告らは,甲4発明1に甲第1号証記載の発明(本件試薬)を組み合わせることにより,本件発明1に係る構成に容易に想到することができる旨を主張している。 
しかし,甲4発明1の試薬は本件発明1の試薬とは異なるから,甲4発明1から本件発明1に想到するには,本件発明1の試薬を甲4発明1の試薬に代えて使用する動機付けが必要となる。この点,本件試薬の構造自体は公知であった(甲1)が,前記(1)アの記載によれば,そもそも甲第4号証の図9記載の工程は,マキサカルシトールとは異なり,二種類の立体配置が存在する側鎖末端構造を有するマキサカルシトールの予想代謝物(12),(13)を選択的に合成するための製造方法であって,甲4発明1はその一連の工程の一部である。そして,甲4発明1においては,上記二種類のマキサカルシトールの予想代謝物の合成のため,二種類のエポキシド化合物(18)又は(19)(両者は,側鎖末端の立体配置〔R体とS体〕が異なる異性体である。)を選択的に作り分けることを目的として,香月-シャープレス反応を用いており,その香月-シャープレス反応に必要な二重結合を出発物質の側鎖に導入するための試薬として,二重結合を側鎖に有する特定の試薬(4-ブロモ-2-メチル-テトラヒドロピラニルオキシ-2-ブテン)を選択しているものであって,当該試薬に代えて本件試薬を用いることについては,甲第4号証にも,甲第1号証にも記載されておらず,その示唆もない。
そうすると,当業者において,本件試薬を甲4発明1と組み合わせる動機付けがあるとはいえないから,相違点3-ii(試薬の相違)に係る本件発明1の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
2.本件発明13と甲4発明2の相違点の容易想到性について
本件発明13と甲4発明2を対比すると,~本件発明13と甲4発明2とは,その目的物質(ステロイド化合物)及びエポキシド化合物の側鎖構造(相違点3-i’),出発物質に反応させる試薬(相違点3-ii’),エポキシド化合物を製造する工程(相違点3-iii’)において相違する。
原告らは,甲4発明2に甲第1号証記載の発明(本件試薬)を組み合わせることにより,本件発明13に係る構成に容易に想到することができる旨を主張する。
しかし,甲4発明2の試薬は本件発明13の試薬とは異なるから,甲4発明2から本件発明13に想到するには,本件発明13の試薬を甲4発明2の試薬に代えて使用する動機付けが必要となるところ,そのような動機付けがあるとは認められないことは,前記~と同様であるから,相違点3-ii’(試薬の相違)に係る本件発明13の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
したがって, 相違点3-ii’に係る本件発明13の構成に想到することは容易ではないとの審決の判断に誤りはない。
【コメント】

本件特許(第3310301号)は、マキサカルシトール(maxacalcitol)の製造方法に関するもの。マキサカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であり、中外製薬が販売する角化症治療剤オキサロール(Oxarol)®軟膏の有効成分。本件特許については、他に、
でも有効性が争われたが、いずれも特許は有効であるとの判断がなされている。

その他、下記事件が係属中。
  • 無効2013-800222(請求人: DKSHジャパン、岩城製薬、 高田製薬、ポーラファルマ)では訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないと審決。知財高裁へ出訴(平成27年(行ケ)10014)。
  • 無効2014-800174(請求人: セルビオス-ファーマ)では訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないと審決。知財高裁へ出訴(平成27年(行ケ)10251)。
  • 無効2015-800057(請求人: DKSHジャパン)では無効審判の請求は成り立たないとの審決(審決日2016.03.23)。
  • 無効2015-800137(請求人: DKSHジャパン)。

May 28, 2016

2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014

均等侵害を認めた知財高裁大合議(オキサロールの有効成分マキサカルシトールの製造方法): 知財高裁平成27年(ネ)10014

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許第3310301号の特許権(出願日1997年9月3日)の共有者である被控訴人(中外製薬)が、控訴人(DKSH)の輸入販売に係るマキサカルシトール原薬、並びに控訴人(岩城製薬、高田製薬及びポーラファルマ)の販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件特許の請求項13に係る発明(本件発明)と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、控訴人ら製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。原審(2014.12.24 「中外製薬 v. DKSH」 東京地裁平成25年(ワ)4040)は、控訴人方法が本件発明及び訂正後の特許請求の範囲の請求項13に係る発明と均等であることを認め、また、本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して、被控訴人の請求を全部認容したため、控訴人らが、原判決を不服として、本件控訴をした。2016年1月15日、知財高裁は、本件控訴審を大合議で審理すると発表した(マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件を知財高裁が大合議事件に指定)。

【要旨】

知財高裁大合議は、控訴人方法は本件発明と均等でありその技術的範囲に属するものと認められること、及び控訴人主張の進歩性欠如にも理由がないこと、から本件控訴を棄却した。

特に、均等の成否の判断における、第5要件(特段の事情)の判断基準について、裁判所は以下のように判示した(抜粋)。
特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,このような特段の事情がある場合には,例外的に,均等が否定されることとなる(ボールスプライン事件最判参照)。

この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。

なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。

もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。
控訴人らは以下主張した。
「化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきである」
しかし、裁判所は下記のとおり控訴人主張を認めなかった。
「均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確であることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはなり得ない」
控訴人らは以下主張した。
「出願人は,特許請求の範囲を記載するに際し,トランス体のビタミンD構造を対象としないことを明瞭かつ客観的に意識して出発物質を決定し,積極的にトランス体のビタミンD構造を除外するという意識的な選択をしたものであり,したがって,本件においては,ボールスプライン事件最判がいう「特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」があり,また,同判決が均等論を認める根拠として示す「あらゆる侵害態様を予測して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難」という,特許権者を特に保護すべき事情は存在しない」
しかし、裁判所は下記のとおり控訴人主張を認めなかった。
「明細書中には,出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく,その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はない」
控訴人らは以下主張した。
「二種類の幾何異性体の存在やトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートは周知であったから,出願人が過誤でトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートの存在に気が付かなかったということはない」
しかし、裁判所は下記のとおり控訴人主張を認めなかった。
「出願人が,一般的にシス体の幾何異性体としてトランス体が存在することやトランス体のビタミンD構造を出発物質としてビタミンD誘導体の合成を行う方法があることを知っていたとしても,そのことだけをもって,出願人が,出願時に,出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを認識していたものと客観的,外形的にみて認められるということはできない」
以上によれば,本件においては,出願人が訂正明細書において訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とする発明を記載しているとみることはできず,出願人が出願時に訂正発明の出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を認識していたものと客観的,外形的にみて認められないから,出願人が特許請求の範囲に「Z」をトランス体のビタミンD構造とする構成を記載しなかったことが,第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。

したがって,控訴人方法について,均等の第5要件における特段の事情は認められない。
【コメント】

本事件は化学(医薬)分野の発明であり、その特許請求の範囲の構成は化学構造として認識でき、当該発明の技術的範囲に包含されるかどうかは文言上明確に判断できるものであったため、そのような発明であっても均等論が柔軟に適用されるのかどうかが注目されていた。

本判決で注目すべき点は、均等の第5要件における「特段の事情」が認められるかどうかについて、少し踏み込んだ判示をした点にあると思われる。

出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外ということにはならないが、出願人が、出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるときには、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、第5要件における「特段の事情」に当たることになる。

例えば、出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや、出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときは、第5要件における「特段の事情」に当たることになる。

出願人(特許権者)の立場なら、本来、文言侵害で特許侵害訴訟に勝訴できるように特許請求の範囲を検討するのは当然であるが、均等論に頼るような事態までを想定するのであれば、特許請求の範囲との関係を吟味せずに、明細書に何でもかんでも構成を書き込むというようなことは避けるべきかもしれない。出願時の明細書に記載した構成が、特許請求の範囲内の構成となるようになっているかどうか、また、出願時にすでに公表した論文等でその構成がどのように扱われているか、等について、出願の際には細心の注意を払って明細書及び特許請求の範囲の記載を検討していく必要がある。

参考:

May 23, 2016

2016.03.24 「東和薬品 v. イコス」 知財高裁平成27年(行ケ)10113

タダラフィルの特定用量製剤(シアリス錠)特許: 知財高裁平成27年(行ケ)10113

【背景】

被告(イコス)が保有する「単位製剤」に関する特許(第4975214号; WO2000/066099; 存続期間満了日2020.4.26)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2013-800243)の取消訴訟。争点は進歩性の有無。

請求項1(本件発明1):
1日あたり20mgの総用量を上限として,以下の構造式:
を有する化合物を単位製剤あたり1乃至20mg含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤。
甲10発明(WO97/03675):
1日あたり0.5~800mgのタダラフィルを単位製剤あたり0. 2~400mg含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単 位製剤
【要旨】

主 文
特許庁が無効2013-800243号事件について平成27年4月27日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断

1.相違点1(本件発明1は「1日あたり20mgの総用量を上限」とするのに対し、甲10発明は「1日あたり0.5~800mg」である点)の容易想到性について
当業者であれば,甲10発明に係るタダラフィルにつき,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概ね0.5~800mgの範囲において,ヒトの勃起機能不全の処置に有用であり,具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプセルが一例として考えられること,もっとも,実際の患者に投与する場合には,好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解すると認められるところ,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有するシルデナフィルにおいて,ヒトに投与した際,PDE5を阻害することによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったことから,甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに当たっても,同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識できたものといえる。そして,薬効を維持しつつ副作用を低減させることは医薬品における当然の課題であるから,これらの課題を踏まえて上記の用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するものと認められる。そうすると,そのような当業者において,前記の技術常識を踏まえ,甲10に記載された用量の下限値である0.5mgから段階的に量を増やしながら臨床試験を行って,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは,当業者が格別の創意工夫を要することなく,通常行う事項であると認められる。
加えて,前記のとおり,甲10のタダラフィルに関するインビトロ試験の結果によれば,タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフィルに比べ強いことが示されているのであるから,タダラフィルが,インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験においても,強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて,タダラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg~50mg及びそれよりも若干低い用量を検討することも,当業者において容易に行い得ることである。
以上によれば,甲10発明について,適切な臨床における有用性を評価するために臨床試験を行い,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような範囲として,相違点1に係る範囲を設定することは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
2.顕著な効果の判断について
ア 薬効について

本件特許明細書及び甲36に示された上記の内容は,・・・(略)・・・概ね用量が50mgまでの範囲内においては,用量が増加するにつれて薬効が強くなるが,それより用量が増加すると薬効の増加の程度は小さくなるという一般的な知見に沿う内容を示すものにとどまるし,本件発明1の構成(上限20mgとする構成)を採用したことにより,当該範囲において,薬効の点で格別に顕著な効果を奏することを示すものでもない。
イ 副作用について

(ア) 視覚異常について
本件特許明細書の表7には,タダラフィルを単位用量2mg,5mg,10mg,25mg,50mg,100mgで投与したいずれの場合であっても,視覚異常の症状の発生率は0%であることの記載がある。そうすると,本件発明1において視覚異常の症状が発生しないことは,本件発明1の構成を採用したことによる効果であるとは認められない。

(イ) 顔面紅潮について
単位用量10mg,20mg及び50mgのいずれにおいても顔面紅潮の発生率が同じである以上,本件発明1の構成を採用したことにより,顔面紅潮の副作用の低減の点において,格別に顕著な効果を奏するものとは認められない。

(ウ) 硝酸塩等との併用について
本件発明1に係るタダラフィルが常に硝酸塩等と併用し得ることが示されているものとはいえない。また,上記段落【0076】の試験は,飽くまで10mgの用量でなされたものにすぎず,これが本件発明1の用量である上限20mgの範囲についても同様な効果を奏することが示されているものでもない。

(エ) その余の副作用について
本件特許明細書に記載された,頭痛,消化不良,背部痛,筋肉痛,鼻炎,結膜炎及び眼瞼浮腫の副作用の発生率に関しても,本件発明1の構成を採用したことにより,これらの低減につき格別に顕著な効果があるとは認められない。
【コメント】

有効成分の特定の用量を導き出したという発明の進歩性が争われた事案である。

最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行い、臨床試験を進めながら最終的な用量を設定していく過程は、通常行われることである。その用量設定試験では、当然に副作用の点においてその発生率を抑えつつ薬効が発現できる用量を求めていくことになる。この試験自体は特段目新しいものではなく、当業者であればこのような試験を行い最適な用量を導き出すこと自体は容易に想到する事項であるだろう。問題は、顕著な効果の判断である。予期しなかった副作用が初めて課題として浮かび上がり、それを解決した結果、顕著な効果を主張できた場合には理論的には進歩性を肯定できる余地があるように思われる。

欧米では一定の範囲で特許が成立しており、本判決では無効判断とされたものの日本でも一度は特許として成立したことを考えると、一見単純な用量限定製剤発明であったとしても、思いもしなかった副作用の課題が生じ、それを解決するために用量を設定した結果、出願当時において当業者が予期することのできなかった顕著な効果(例えば、薬効の発揮を維持しつつ課題となった副作用を低減)を有するに至ったというようなシナリオを描けることができれば、出願してみる価値はありそうである。

また、裁判所は判断しなかったが、原告が主張する取消事由1として、パリ条約4条Hの優先権主張が有効かどうかについても争われた。優先権を享受するためには、先の出願明細書において発明が実施可能な程度に記載されていなければならないと解するのが過去の判決で判示されてきた事項と思われるが、審判部はそれとは異なる主張をしているようである。

被告(特許庁)の主張:
パリ条約4条Hにおいて優先権が認められるための要件は,特許発明の構成部分が最初の出願の記載全体により明らかにされていることであって,優先権を主張する特許発明について,優先権証明書の記載が,日本の特許法の実施可能要件やサポート要件を充足することを要求するものではないし,ましてや実施可能要件やサポート要件の充足性のために優先権証明書に薬理データを記載すべきことを要求するものでもない。
優先権が認められるための要件(必要条件と十分条件)についての基本的な考え方について今一度整理されるべきなのかもしれない。

優先権が認められるための記載について判示した過去判決記事:
参考:


シアリス(Cialis)®錠(有効成分: タダラフィル(tadalafil)):
タダラフィルは選択的なホスホジエステラーゼ タイプ5(PDE5)阻害作用を有する化合物として創薬され、本剤は日本では2007年7月に勃起不全治療剤として承認された(通常1日1回タダラフィルとして10mg。一定の場合には20mgまで増量可)。2007年9月より日本イーライリリー(株)にて発売されていたが、2009年7月1日から日本新薬(株)が販売を受託し、発売している。

タダラフィルを有効成分とする薬剤として、ザルティア(Zalutia)®錠は前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤(1日1回タダラフィルとして5mg)、アドシルカ(Adcirca)®錠は肺動脈性肺高血圧症治療薬(1日1回タダラフィルとして40mg)として販売されている。

欧米の状況:
  • EP1173181(B3): 2003年に特許登録許可後、2013年に特許権者はクレーム中の用量を「5mg」に減縮補正し、2015年に登録公開。但し、疾患限定はないため、5mg1日1回投与である「前立腺肥大症に伴う排尿障害」を保護するものと考えられる。
  • US6943166(B1): Cialisのorangebookに収載されている。

シアリス(Cialis)®錠に関連する過去記事:

May 17, 2016

ヤクルト・デビオファームがエルプラット® (オキサリプラチン)後発品販売の日本化薬に対して製剤特許侵害訴訟を提起

(株)ヤクルト本社およびデビオファーム社は、ヤクルト本社が製造販売する抗悪性腫瘍剤オキサリプラチン-販売名「エルプラット®点滴静注液50mg」、「エルプラット®点滴静注液100mg」、および「エルプラット®点滴静注液200mg」の後発医薬品の製造販売承認を取得し販売を行っている日本化薬(株)に対し、デビオファーム社が保有しヤクルト本社に実施権を許諾している製剤特許(特許第4430229号)の侵害を理由として、2016年5月16日、東京地裁に損害賠償を求める特許権侵害訴訟を共同で提起しました。

参考:

May 16, 2016

2016.03.09 「ホスピーラ v. デビオファーム」 知財高裁平成27年(行ケ)10105

「からなる」の解釈: 知財高裁平成27年(行ケ)10105

【背景】

被告(デビオファーム)が保有する「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許登録(第3547755号)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800083)の取消訴訟。争点は明確性要件の有無及びサポート要件の有無である。

請求項1:
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
原告が主張する無効理由:
(1) 明確性要件(特許法36条6項2号)違反
本件発明1の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり,」について,「からなる」との文言は多義的に解釈され得るものであって,本件発明1の製剤は,オキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を排除しているとも,オキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を含んでもよいとも解釈されるので,本件発明1は明確でなく,同様に,本件発明2~9も明確でない。
(2) サポート要件(特許法36条6項1号)違反
本件発明1の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり,」は,上記のようにオキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を含んでもよいと解釈され得るが,発明の詳細な説明には,第3成分が含まれるとの明示的な記載はなく,かえって,本件発明の製剤が他の成分を含まず,酸性薬剤,アルカリ性薬剤,又は緩衝剤若しくはその他の添加剤を含まないことを明確に示す記載及び実施例がある。そうすると,発明の詳細な説明には,第3成分を含まない製剤がサポートされているにすぎないから,サポート要件を満たさない。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

1 取消事由1(明確性要件の判断の誤り)について

特許法36条6項2号~の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
~「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」中の「からなる」との文言について,「から」という格助詞と「なる(成る)」という動詞とから成り立つもので,「から」は,直前に記載されたものが素材,材料,構成要素となることを示す語であり,「なる(成る)」は,成立する,構成するを意味する語であることは明らかである。そうすると,「Aからなる」ものは,Aを「素材・材料・構成要素」として「成立する・構成されている」ものを意味すると解される。
したがって,「(A)からなる」という場合には,Aを必須の構成要素とすることは明確であるものの,それ以上に,Aのみで構成され,他の成分を含まないものか,Aのほかに他の成分を許容するか否かについて規定するものではなく,「Aのみからなる」場合をも包含する概念であると認められ,このこと自体に当事者間に実質的な争いはない。
そして,例えば,含有する金属が一部異なると,特質が全く異なるものとなる一部の合金における分野等と異なり,医薬液体製剤については,pHの調整や,安定性,保存性を高めるために何らかの添加剤が含有される場合が多いことは,原告も認めるとおり,周知のことである。
そうすると,明細書において,「からなる」の前に摘示された素材,構成要素以外の成分を排除することが明らかでない限り,「Aからなる」とは,Aを必須の構成要素とするものである以上に,他の成分については規定しておらず,単に「Aを含む」ものがその技術範囲に含まれると理解することになるものと解され,また,他の成分を排除するか否か規定していないからといって,「Aからなる」の語が,特段不明確な用語と理解されるものでもない。
次に,本件明細書を見るに,~本件発明1の「オキサリプラティヌム水溶液」に他の成分を含んではならないことを示す記載はなく,他の構成要素を含有することが排除されているとまではいえない。
したがって,当業者は,本件発明1は,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」を必須の構成要素とすることだけが特定された製剤であって,該製剤に他の構成要素が含まれることが排除されてはおらず,かつ,「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に係る発明と一義的に理解することが可能であるといえる。
よって,本件発明1は明確であり,同様の理由により,本件発明2~9も明確である。
~原告は,拒絶理由通知に対する意見書(甲2)及び審判事件答弁書(甲6)における被告の主張からみて,「からなる」が,酸性又はアルカリ性薬剤,緩衝剤を排除する閉鎖的な意味で用いられていたとの解釈が可能であることが裏付けられると主張する。
しかし,特許法36条6項2号は,前記のとおり,特許請求の範囲が不明確となる場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となって第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得ることから,これを防止するために要求されるものであり,あくまで明細書の記載要件である以上,その適否は,当該記載から客観的に判断されるべきであって,出願経過や審判における対応を斟酌することは,かえって,特許が付与された権利範囲を不明確にするものといわざるを得ない。特許権の行使場面において,その技術的範囲を判断する際に,出願経過等の事情を斟酌することはともかくとして,本件発明の明確性要件の判断をする際に,これらを考慮することは相当ではなく,原告の上記主張は採用できない。
2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
特許法36条6項1号~の趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制度の趣旨に反するからである。そうすると,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,①発明の詳細な説明に記載された発明で,②発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
~サポート要件の判断において把握される本件発明の技術的意義については,あくまで,明細書の記載要件として,本件明細書及び本件出願時の技術常識から判断すべきものであり,明確性要件において述べたのと同様に,出願経過,審判における対応や外国語出願における原文を参酌することは相当でない。
~明細書の記載に基づく判断としては,~本件発明における課題及び課題解決手段が,上記添加物を含む場合に解決できず,これらを含まないことが発明の技術的意義であると認めることはできない。したがって,請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず,原告の主張は採用できない。
~有効成分濃度とpHが本件発明1の限定範囲内にあり,オキサリプラティヌムと水とを構成要素とするオキサリプラティヌム水溶液により,課題が解決することが示されていれば,サポート要件として欠けるところはない。原告の主張するように,「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含む」場合に課題を解決しないことが当業者にとって技術常識であるならば,当業者は,本件発明で規定されているもの以外にそれらを選択しないだけのことであり,本件発明で規定されている構成要素によって課題が解決できなくなるわけではないのだから,原告の主張は失当である。
【コメント】

本件発明の技術分野が医薬液体製剤であることを鑑みれば、明細書において特段の意味であることを明らかにしていない限り、「Aからなる」とは、単に「Aを含む」ものがその技術範囲に含まれると理解することになるものと解され、また、他の成分を排除するか否か規定していないからといって、「Aからなる」の語が特段不明確な用語と理解されるものでもない、という判断である。

「からなる」、「を含む」、「を有する」など、どのような表現が適切かという議論は昔からあったわけではあるが、他の成分を排除したくないのであれば、念をために例えば「を含む」といった表現を採用しておくのが常套手段である。外国語に翻訳する際にも注意が必要であることも今や一般的な留意点だろう。

参考:
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