May 3, 2016

2016.02.17 「アッヴィ v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10272

自己乳化性製剤と固体分散製剤の違い: 知財高裁平成26年(行ケ)10272

【背景】

「自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用」に関する特許出願(特願2001-587743号; WO01/91727; 特表2003-534369号)の拒絶審決(不服2012-17374)取消訴訟。争点は、進歩性判断の当否(①相違点の看過,②相違点判断の誤り)及び③手続違反の有無。

補正発明は、固体の自己乳化性の剤形を提供することを課題とし、当該課題を解決するための具体的手段として、50℃を超えない融点を有し、かつ、12を超えないHLBを有する脂質成分6~60重量%と、ポリビニルピロリドン等から選択される少なくとも1種の結合剤成分20~93.9重量%と、活性成分0.1~50重量%を含む配合物を用い、前記脂質成分の含有量が前記結合剤成分を基準にして40重量%を超えず、前記脂質成分及び前記結合剤成分を含む分子分散体を含み、本質的に前記活性物質の結晶を含まない、自己乳化性固形配合物を採用するもの。

【要旨】

裁判所は、取消事由1(相違点の看過)、取消事由2(相違点に関する判断の誤り)、取消事由3(手続違背)にはいずれも理由があるとして、原告の請求を認め、審決を取り消した。

取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について(抜粋)
確かに,補正発明の胃腸管での活性物質の吸収性向上という課題は,製薬技術分野において当然の課題であったというべきであり,この点において,補正発明と引用発明は共通するといえるが,活性物質の吸収を高めるための方法としては,本件優先日において,活性成分の粒子自体を小さくする方法に加え,自己乳化性製剤以外に固体分散製剤などの方法があり,吸収性以外の作成難易度等の諸事情を総合的に判断すると,自己乳化性製剤が常に最適であると考えられていたわけではなく,固体分散製剤よりも自己乳化性製剤の方が好ましい等の技術常識はない以上,上記一般的課題から常に補正発明の構成である自己乳化性の剤形を目指すことはできず,何らかの動機付けや示唆がなければ,当業者にとって容易に想到できるものではない。しかるに,引用文献1には,自己乳化性製剤とすることについて記載も示唆もない。
したがって,当業者が,固体分散製剤である引用発明において,脂質成分の選択(相違点2),選択された脂質成分の含有量(相違点1)を設定し,その物理的状態の特定(相違点3,5)を行って,自己乳化性を示す製剤(相違点4)とすることは,容易に想到できる事項とはいえない。
取消事由3(手続違背)について(抜粋)
「平成18年法律第55号による改正前の特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるからである。そこで,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることにより,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される。この適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,拒絶査定不服審判において審判請求時の補正が行われ,補正後の特許請求の範囲の記載について拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも当然妥当するものであって,その後の補正の機会のない審判請求人の手続保障は,同様に重視されるべきものといえる。
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。」
【コメント】

本件をさらに要約すれば、本願発明は自己乳化性製剤に関するものであるのに対し、引用発明は固体分散製剤に関するものであり、固体分散製剤と自己乳化性製剤は一般的には水性媒体に接した際に異なる状態となる製剤として認識されていると認められ、本件優先日当時において胃腸管での吸収性向上のために自己乳化性を示す製剤が最適であると考えられていたとは認められないから、当業者が何らの動機付けなくして自己乳化性を具備する構成へ容易に想到することはできないと判断されたものである。審決の判断が取り消された理由の一番のポイントは、引用発明の固体分散製剤が自己乳化性を備えるのかどうかという技術常識の把握にあったと思われる。

ところで欧米では特許として成立している(EP1284716B1; US8470347B2)。


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