Apr 23, 2016

2016.03.09 「日産化学 v. 相模化成工業・日医工・壽製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10108

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか: 知財高裁平成27年(ネ)10108

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する控訴人(日産化学)が、被控訴人(相模化成工業・日医工・壽製薬)原薬の使用、保存及び製剤の製造販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。原判決(2015.07.31 「日産化学 v. 相模化成工業・日医工・壽製薬」 東京地裁平成26年(ワ)688 )は被控訴人製品並びにその保存方法は上記特許権に係る特許発明の技術的範囲に属さないとして控訴人の請求をいずれも棄却していた。

内容は下記記事(知財高裁第4部)と同じ(但し、均等論は争点でなかったため判断されていない)。

2016.03.09 「日産化学 v. 日本ケミファ・日新製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10104

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか: 知財高裁平成27年(ネ)10104

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する控訴人(日産化学)が、被控訴人(日本ケミファ・日新製薬)原薬の使用、保存及び製剤の製造販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。原判決(2015.06.25 「日産化学v. 日本ケミファ・日新製薬」 東京地裁平成26年(ワ)3344;平成26年(ワ)3345 )は被控訴人製品並びにその保存方法は上記特許権に係る特許発明の技術的範囲に属さないとして控訴人の請求をいずれも棄却していた。

内容は下記記事(知財高裁第4部)と同じ。

Apr 17, 2016

2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414

延長された特許権の効力が争点となった判決: 東京地裁平成27年(ワ)12414

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号の特許権者であるデビオファーム(原告)が、東和薬品(被告)各製品は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は被告各製品の生産等に及ぶ旨主張して、被告に対し被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。

請求項1(本件発明):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

争点は、存続期間が延長された本件特許権の効力は被告による被告各製品の生産等に及ぶか否か、具体的には、被告各製品はその延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める各処分の対象となった「物」(特許法68条の2)又はその均等物ないし実質的に同一と評価される「物」か否か、であった。

裁判所は、被告各製品は、本件各処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではなく、その均等物ないし実質同一物に該当するものということもできないから、存続期間が延長された本件特許権の効力は、被告による被告各製品の生産等には及ばない、と判断した(請求棄却)。

1. 延長された特許権の効力範囲について
  • 特許法68条の2は、「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定している。
  • 裁判所は、延長された特許権の効力は、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為、すなわち、当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」についての実施行為にのみ及び、特許発明のその余の実施行為には及ばないと解するのが原則であるとしながらも、「(当該用途に使用される)物」の範囲をわずかでも外れれば、延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく、当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても、延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして、その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど、当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質同一物についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であるとの考えを示した。
  • なお、裁判所は、上記のように解すると、政令処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲よりも、延長された特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲が広いことになるが、上述した意味での均等物や実質同一物についての実施行為の範囲にとどまる限り、第三者の利益が不当に害されることはないと言及した。
2. 政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」について
  • 裁判所は、医薬品の成分を対象とする延長された特許権は、「物」に係るものとして、「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で、効力が及ぶものと解するのが相当である(ただし、延長登録制度の立法趣旨に照らして、「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物が含まれることは、前示のとおりである)と判断した。
  • 裁判所は、平成26年知財高判(知財高裁平成25年(行ケ)10195)が、「分量」については、「延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない」旨判示していることに触れ、その趣旨は、「分量」は、「成分」とともに、「物」を特定するための事項ではあるものの、「分量」のみが異なっている場合には、「用法、用量」などとあいまって、政令処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で均等物ないし実質同一物として、延長された特許権の効力が及ぶことが通常であることを注意的に述べたものと理解するのが相当と思われると言及した。
  • 裁判所は、本事案につき、本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は、いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみであるのに対し、被告各製品の「成分」は、いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に、添加物として「濃グリセリン」を含むから、本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは、その「成分」において異なるものというほかはなく、被告各製品は、本件各処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではないと判断した。
3. 政令処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物について

裁判所は、政令処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するか否かは、当該発明の種類や対象に照らして新たな効果を奏すると認められるかなどにより判断するとの考え方を示した。
  • 当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など、医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合
    延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分のみが異なるだけで、生物学的同等性が認められる物については、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たり、新たな効果を奏しないことが多いから、「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。
  • 当該特許発明が製剤に関する発明であって、医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合
    延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分が異なっていれば、生物学的同等性が認められる物であっても、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、単なる周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たるといえず、新たな効果を奏することがあるから、「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる。
  • 本件発明は、医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく、製剤に関する発明であって、医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であると認められる。一方、被告各製品は、本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり、当該成分の相違は、本件発明との関係では、単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず、新たな効果を奏するものというべきであるから、「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく、被告各製品は、本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない。
【コメント】

1. 製剤発明に係る延長された特許権の効力

今回の判決によれば、一般論として、製剤発明に係る特許権が延長登録されたとしても、その効力は極めて限定的ということになる。当該製剤発明の特徴を有している(当該特許発明の技術的範囲に属する)後発品であったとしても、有効成分以外の付加成分が加えられ、それにより何らかの付加効果を有していさえすれば、当該後発品は、処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではなく、その均等物ないし実質同一物に該当するものということもできないことになる。
特許発明の特徴が利用されたとしても他の付加成分を含有させることで効力範囲から逃れることができるということは、特許発明のフリーライドが容易となり、結果、政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった特許存続期間の回復という延長制度は無意味なものになりかねない。

現在の法律やこれまでの判決の流れからすれば、今回の判決内容が限界なのかもしれないが、均等物や実質同一物に当たるかどうかだけで判断するのは、法趣旨と実情に合致できていないように感じる。

2. 物質発明(有効成分)に係る延長された特許権の効力

本事案で争われた延長された特許権は製剤発明に係るものであったが、物質(有効成分)発明等に係る延長された特許権の効力についての考え方も示された点で意義のある判決である。

裁判所は、政令処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するか否かは、当該発明の種類や対象に照らして新たな効果を奏すると認められるかなどにより判断するとの考え方を示している。従って、有効成分以外の成分等が異なっている後発品だったとしても、物質発明の効果(通常は有効成分の薬効であろう)は先発品と後発品との間で異なることはないのが前提であるから、後発品は政令処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当し、物質(有効成分)発明に係る延長された特許権の効力は、結局、当該有効成分及び当該用途に使用される後発品に対して及ぶとみるべきと考えるということであろう。

裁判所は、延長された特許権が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など、医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合、延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分のみが異なるだけで、生物学的同等性が認められる物については、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たり、新たな効果を奏しないことが多いから、「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる、と(歯切れの悪い文末ではあるが)わざわざ例示しており、物質発明に係る延長された特許権が単に製剤成分が異なるだけでその効力が及ばないとすることは不合理であるとの考え方を示したといえる。

3. 延長された特許権の効力の不確実性
均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる

均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる
といった裁判所の歯切れの悪い文章からも想像できるが、延長された特許権の効力が及ぶかどうかは、はっきりした線引きができず、ケースバイケースでの判断になりかねない様相を呈してきている。延長された特許権の効力の不確実性が大きな問題となっていることは明らかである。

参考: 特許存続期間延長に関連する過去記事はこちら


Apr 13, 2016

2016.02.24 「日産化学v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10080

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか: 知財高裁平成27年(ネ)10080

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する控訴人(日産化学)が、被控訴人(沢井製薬)原薬の使用、保存及び製剤の製造販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。原判決(2015.04.28 「日産化学 v.沢井製薬」 東京地裁平成26年(ワ)5187)は被控訴人製品並びにその保存方法は上記特許権に係る特許発明の技術的範囲に属さないとして控訴人の請求をいずれも棄却していた。

内容は下記記事(知財高裁第4部)と同じ。

Apr 10, 2016

2016.02.24 「日産化学 v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10081

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角: 知財高裁平成27年(行ケ)10081

【背景】

原告(日産化学)が保有する「ピタバスタチンカルシウム塩の結晶」に関する特許(第5186108号)に対する無効審決(無効2013-800211号)取消訴訟。争点は、新規性及び進歩性の判断。

請求項1(本件発明1):
式(1)(省略)で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2013-800211号事件について平成27年3月27日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断

取消事由2(本件発明に係る新規性判断の誤り)について
「~本件発明1の回折角は,15本のピーク全てについて,特許請求の範囲に記載されたその数値どおりのものであると解釈するのが相当である。~甲3結晶の粉末X線回折測定における回折角(2θ)の数値は,本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値とその数値どおり一致するものではない。

~14局解説書の「57.粉末X線回折測定法」は,保健医療における医薬品の性状及び品質に関する試験法を示したものであり,そこに示された「同一結晶形では通例,回折角は±0.2°の範囲内で一致する。」との判断基準も,保健医療における医薬品の性状及び品質に関する判断基準を示したものというべきである。そうすると,14局解説書に記載された許容誤差が「±0.2°以内」との判断基準は,保健医療における医薬品の性状及び品質に関する判断基準であって,粉末X線回折測定による回折角の数値一般について妥当するものと解することはできないし,特許発明の同一性を画する場面において常に妥当するものということもできない。~14局解説書や16局の記載から,本件優先日当時,特許発明の同一性を画する場面において,粉末X線回折測定による回折角の数値は,±0.2°以内であれば同一と判断し得るということが,当業者の技術常識であったということはできない。~したがって,本件発明1と引用発明1との相違点1-1は実質的な相違点であって,相違点1-2について判断するまでもなく,本件発明1と引用発明1が同一であるとはいえない。~以上によれば,取消事由2は,理由がある。」
取消事由3(本件発明に係る引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について
「本件発明1と甲3結晶及び甲5結晶が同一であるということができないことは,前記3のとおりである。したがって,~本件審決における相違点1-1に係る容易想到性判断は,引用発明1に基づいて甲3結晶及び甲5結晶を製造することは,当業者が容易になし得たことであるとした点に誤りはないが,甲3結晶及び甲5結晶が本件発明1と同一の粉末X線回折の回折角(2θ)を有するとした点において,誤りがある。」
取消事由4(本件発明に係る引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について
「本件発明1の回折角の数値は,15本のピーク全てについて,特許請求の範囲に記載されたその数値どおりのものと解釈すべきところ,上記結晶1,結晶2及び結晶5の粉末X線回折測定における回折角(2θ)の数値は,本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値とその数値どおり一致するものではないから,本件発明1と上記結晶1,結晶2及び結晶5が同一であるということはできない。
本件審決は,甲5実験2で得られた結晶1,結晶2及び結晶5の粉末X線回折測定における回折角(2θ)の数値が,本件発明1の数値と,誤差の範囲とされる±0.2°の範囲内に収まっているとして,上記結晶1,結晶2及び結晶5が本件発明1の結晶と同一と判断できる範囲内に含まれているとするものであるが,かかる判断は,上記(2)によれば,誤りである。そうすると,本件審決における相違点2-1に係る容易想到性判断は,上記結晶1,結晶2及び結晶5が本件発明1と同一の粉末X線回折の回折角(2θ)を有するとした点において,誤りがある。」
裁判所は、以上のとおり、取消事由2ないし4はいずれも理由があるからその余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由があると判断した。

【コメント】

裁判所は、特許請求の範囲に記載されたその数値どおりに解釈するのが相当であるとして、引用発明は本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値とその数値どおり一致するものではなく、審決の新規性判断には誤りがあり、さらにその誤った同一性判断に基づいてした進歩性判断にも誤りがあると判断した。

侵害事件(2016.02.24 「日産化学v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10080)でも特許請求の範囲に記載された数値どおりに特許発明の技術的範囲が解釈されており、本件発明1の15本のピーク全ての回折角の数値どおりに解釈した今回の認定判断は、侵害事件でのクレーム解釈と整合性のある判断だったといえる。

一方、2015.07.31 「日産化学 v. 相模化成工業・日医工・壽製薬」 東京地裁平成26年(ワ)688では、東京地裁は、本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、原告は特許法104条の3第1項により、被告らに対しその権利を行使することができないと判断していた。

参考:




Apr 5, 2016

2016.02.16 「わかもと製薬 v. 富士レビオ」 東京地裁平成26年(ワ)17390

ネイティブなカタラーゼに対する抗体とはネイティブなカタラーゼのみと結合する抗体?: 東京地裁平成26年(ワ)17390

【背景】

「ヘリコバクター・ピロリへの感染を判定する検査方法及び検査試薬」に関する特許権(第3504633号)を有する原告(わかもと製薬)が、被告(富士レビオ)に対し、被告製品(メリディアン HpSA ELISAII及びイムノカードST HpSA)の輸入等が特許権侵害に当たると主張して輸入等差止及び廃棄、並びに損害賠償を求めた事案。

本件発明1:
消化管排泄物中に存在するヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼを検出することにより,ヘリコバクター・ピロリへの感染を判定するための検査試薬であって,
ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体を構成成分とする
ことを特徴とする検査試薬。
(下線部が争点となった構成要件1B)
【要旨】

主 文
原告の請求をいずれも棄却する。(他略)
裁判所の判断
構成要件1Bの充足性について

「ウ 本件明細書の上記各記載を総合すると,本件発明1は,従来のヘリコバクター・ピロリの検出方法においては特異性の低さ等の問題があったことから,交差反応性がなく特異性に優れ品質管理が容易なヘリコバクター・ピロリの感染を判定するための検査試薬を提供することを目的としているところ,従来はヘリコバクター・ピロリのタンパク質が消化管中で分解されてしまうと考えられていたが,ヘリコバクター・ピロリ感染者の糞便中にヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼが存在していることを見いだしたことで,これをヘリコバクター・ピロリへの感染を判定するための指標とすることとし,ヘリコバクター・ピロリのカタラーゼ(このカタラーゼにはSDS等の変性剤で変性,乖離され,立体構造がほどかれたサブユニットに相当するタンパク質が含まれない。)と特異的に結合するモノクローナル抗体,すなわち,ネイティブなカタラーゼと特異的に結合するモノクローナル抗体を用いることで特異性が極めて高い測定を行うことができる特色を有する発明であると認められる。

そうすると,構成要件1Bの「ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体」とは,ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼのみと結合するモノクローナル抗体であって,SDS等の変性剤で変性されたカタラーゼとは結合しないものをいうと解するのが相当である。

エ これに加え,原告は,本件特許1~3の出願経過において,平成15年11月11日付け意見書(乙2)を提出し,拒絶理由通知により引用された刊行物2(乙10)との相違点につき,刊行物2に記載されたモノクローナル抗体はヘリコバクター・ピロリのカタラーゼをSDSにより変性,乖離させて得られた変性したサブユニットと結合するものであるのに対し,本件発明1の「モノクローナル抗体」はヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼの立体構造をエピトープとして認識するものであって,SDSにより変性されたカタラーゼとは結合することができないものである旨の説明をしている。このような原告の説明は,構成要件1Bのモノクローナル抗体につき上記ウのように解釈すべきことを裏付けるものということができる。

オ そこで,上記ウの解釈を前提に,被告製品1及び2が構成要件1Bの「ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体」を充足するかについてみる。~証拠(乙26,34)及び弁論の全趣旨によれば,このモノクローナル抗体(被告製品1につきIgG主抗体及びIgG副抗体,被告製品2につきIgM抗体)はSDS及び2ME(メルカプトエタノール)による変性処理並びに煮沸処理を経たカタラーゼを検出することが認められる。そして,これらの変性及び煮沸処理によってカタラーゼは完全に変性し,単量体となったものと考えられるから,被告製品1及び2のモノクローナル抗体は変性剤で変性されたカタラーゼと結合するものであるということができる。
そうすると,被告製品1及び2のモノクローナル抗体は,ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼだけでなく,変性剤で変性されたカタラーゼとも結合するモノクローナル抗体であるから,構成要件1Bの「ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体」に当たらない。したがって,被告製品1及び2が構成要件1Bを充足すると認めることはできない。」
【コメント】

特許発明の技術的範囲が明細書の記載及び出願経過から限定解釈された事例である。抗体に限らず、ターゲットタンパク質等に対する阻害剤、アンタゴニストなど、その特異性が特許性や記載要件で問題になる場合には、そのターゲットタンパク質等にしか作用しない抗体、阻害剤、アンタゴニストなのか、それとも一定の非特異性を許容するものなのか、明細書の記載や出願経過での主張の仕方、必要であればクレームの記載の仕方には気を配る必要があるだろ(現実的には、ターゲットタンパク質等以外には全く作用しない特異性100%の抗体、阻害剤、アンタゴニスト等は存在し得ず、なにかしらの非特異的な作用は高濃度では出てくることはクスリの宿命であるのだが)。

限定的に解釈された特許発明の技術的範囲に基づいて、被告製品が構成要件1Bを充足するか否かについての判断は、被告が提出した証拠実験資料は被告製品のモノクローナル抗体そのものが変性カタラーゼと結合したことを示していたこと、一方、原告が提出した証拠実験資料は、用いられたものが被告製品(変性カタラーゼは検出されなかったのだが)であって、被告製品のモノクローナル抗体そのものではなかったことから採用されず、結果充足しないとされた。裁判所は、構成要件1Bである「ヘリコバクター・ピロリのネイティブなカタラーゼに対するモノクローナル抗体」を充足するかどうかの視点で実験結果の採否をしっかり見極めたといえるだろう。

本特許第3504633号は、2015年2月17日に富士レビオから無効審判を請求されている(無効2015-800028)。