May 28, 2016

2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014

均等侵害を認めた知財高裁大合議(オキサロールの有効成分マキサカルシトールの製造方法): 知財高裁平成27年(ネ)10014

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許第3310301号の特許権(出願日1997年9月3日)の共有者である被控訴人(中外製薬)が、控訴人(DKSH)の輸入販売に係るマキサカルシトール原薬、並びに控訴人(岩城製薬、高田製薬及びポーラファルマ)の販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件特許の請求項13に係る発明(本件発明)と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、控訴人ら製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。原審(2014.12.24 「中外製薬 v. DKSH」 東京地裁平成25年(ワ)4040)は、控訴人方法が本件発明及び訂正後の特許請求の範囲の請求項13に係る発明と均等であることを認め、また、本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して、被控訴人の請求を全部認容したため、控訴人らが、原判決を不服として、本件控訴をした。2016年1月15日、知財高裁は、本件控訴審を大合議で審理すると発表した(マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件を知財高裁が大合議事件に指定)。

【要旨】

知財高裁大合議は、控訴人方法は本件発明と均等でありその技術的範囲に属するものと認められること、及び控訴人主張の進歩性欠如にも理由がないこと、から本件控訴を棄却した。

特に、均等の成否の判断における、第5要件(特段の事情)の判断基準について、裁判所は以下のように判示した(抜粋)。
特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,このような特段の事情がある場合には,例外的に,均等が否定されることとなる(ボールスプライン事件最判参照)。

この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。

なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。

もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。
控訴人らは以下主張した。
「化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきである」
しかし、裁判所は下記のとおり控訴人主張を認めなかった。
「均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確であることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはなり得ない」
控訴人らは以下主張した。
「出願人は,特許請求の範囲を記載するに際し,トランス体のビタミンD構造を対象としないことを明瞭かつ客観的に意識して出発物質を決定し,積極的にトランス体のビタミンD構造を除外するという意識的な選択をしたものであり,したがって,本件においては,ボールスプライン事件最判がいう「特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」があり,また,同判決が均等論を認める根拠として示す「あらゆる侵害態様を予測して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難」という,特許権者を特に保護すべき事情は存在しない」
しかし、裁判所は下記のとおり控訴人主張を認めなかった。
「明細書中には,出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく,その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はない」
控訴人らは以下主張した。
「二種類の幾何異性体の存在やトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートは周知であったから,出願人が過誤でトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートの存在に気が付かなかったということはない」
しかし、裁判所は下記のとおり控訴人主張を認めなかった。
「出願人が,一般的にシス体の幾何異性体としてトランス体が存在することやトランス体のビタミンD構造を出発物質としてビタミンD誘導体の合成を行う方法があることを知っていたとしても,そのことだけをもって,出願人が,出願時に,出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを認識していたものと客観的,外形的にみて認められるということはできない」
以上によれば,本件においては,出願人が訂正明細書において訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とする発明を記載しているとみることはできず,出願人が出願時に訂正発明の出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を認識していたものと客観的,外形的にみて認められないから,出願人が特許請求の範囲に「Z」をトランス体のビタミンD構造とする構成を記載しなかったことが,第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。

したがって,控訴人方法について,均等の第5要件における特段の事情は認められない。
【コメント】

本事件は化学(医薬)分野の発明であり、その特許請求の範囲の構成は化学構造として認識でき、当該発明の技術的範囲に包含されるかどうかは文言上明確に判断できるものであったため、そのような発明であっても均等論が柔軟に適用されるのかどうかが注目されていた。

本判決で注目すべき点は、均等の第5要件における「特段の事情」が認められるかどうかについて、少し踏み込んだ判示をした点にあると思われる。

出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外ということにはならないが、出願人が、出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるときには、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、第5要件における「特段の事情」に当たることになる。

例えば、出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや、出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときは、第5要件における「特段の事情」に当たることになる。

出願人(特許権者)の立場なら、本来、文言侵害で特許侵害訴訟に勝訴できるように特許請求の範囲を検討するのは当然であるが、均等論に頼るような事態までを想定するのであれば、特許請求の範囲との関係を吟味せずに、明細書に何でもかんでも構成を書き込むというようなことは避けるべきかもしれない。出願時の明細書に記載した構成が、特許請求の範囲内の構成となるようになっているかどうか、また、出願時にすでに公表した論文等でその構成がどのように扱われているか、等について、出願の際には細心の注意を払って明細書及び特許請求の範囲の記載を検討していく必要がある。

参考:

May 23, 2016

2016.03.24 「東和薬品 v. イコス」 知財高裁平成27年(行ケ)10113

タダラフィルの特定用量製剤(シアリス錠)特許: 知財高裁平成27年(行ケ)10113

【背景】

被告(イコス)が保有する「単位製剤」に関する特許(第4975214号; WO2000/066099; 存続期間満了日2020.4.26)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2013-800243)の取消訴訟。争点は進歩性の有無。

請求項1(本件発明1):
1日あたり20mgの総用量を上限として,以下の構造式:
を有する化合物を単位製剤あたり1乃至20mg含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤。
甲10発明(WO97/03675):
1日あたり0.5~800mgのタダラフィルを単位製剤あたり0. 2~400mg含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単 位製剤
【要旨】

主 文
特許庁が無効2013-800243号事件について平成27年4月27日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断

1.相違点1(本件発明1は「1日あたり20mgの総用量を上限」とするのに対し、甲10発明は「1日あたり0.5~800mg」である点)の容易想到性について
当業者であれば,甲10発明に係るタダラフィルにつき,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概ね0.5~800mgの範囲において,ヒトの勃起機能不全の処置に有用であり,具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプセルが一例として考えられること,もっとも,実際の患者に投与する場合には,好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解すると認められるところ,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有するシルデナフィルにおいて,ヒトに投与した際,PDE5を阻害することによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったことから,甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに当たっても,同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識できたものといえる。そして,薬効を維持しつつ副作用を低減させることは医薬品における当然の課題であるから,これらの課題を踏まえて上記の用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するものと認められる。そうすると,そのような当業者において,前記の技術常識を踏まえ,甲10に記載された用量の下限値である0.5mgから段階的に量を増やしながら臨床試験を行って,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは,当業者が格別の創意工夫を要することなく,通常行う事項であると認められる。
加えて,前記のとおり,甲10のタダラフィルに関するインビトロ試験の結果によれば,タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフィルに比べ強いことが示されているのであるから,タダラフィルが,インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験においても,強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて,タダラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg~50mg及びそれよりも若干低い用量を検討することも,当業者において容易に行い得ることである。
以上によれば,甲10発明について,適切な臨床における有用性を評価するために臨床試験を行い,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような範囲として,相違点1に係る範囲を設定することは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
2.顕著な効果の判断について
ア 薬効について

本件特許明細書及び甲36に示された上記の内容は,・・・(略)・・・概ね用量が50mgまでの範囲内においては,用量が増加するにつれて薬効が強くなるが,それより用量が増加すると薬効の増加の程度は小さくなるという一般的な知見に沿う内容を示すものにとどまるし,本件発明1の構成(上限20mgとする構成)を採用したことにより,当該範囲において,薬効の点で格別に顕著な効果を奏することを示すものでもない。
イ 副作用について

(ア) 視覚異常について
本件特許明細書の表7には,タダラフィルを単位用量2mg,5mg,10mg,25mg,50mg,100mgで投与したいずれの場合であっても,視覚異常の症状の発生率は0%であることの記載がある。そうすると,本件発明1において視覚異常の症状が発生しないことは,本件発明1の構成を採用したことによる効果であるとは認められない。

(イ) 顔面紅潮について
単位用量10mg,20mg及び50mgのいずれにおいても顔面紅潮の発生率が同じである以上,本件発明1の構成を採用したことにより,顔面紅潮の副作用の低減の点において,格別に顕著な効果を奏するものとは認められない。

(ウ) 硝酸塩等との併用について
本件発明1に係るタダラフィルが常に硝酸塩等と併用し得ることが示されているものとはいえない。また,上記段落【0076】の試験は,飽くまで10mgの用量でなされたものにすぎず,これが本件発明1の用量である上限20mgの範囲についても同様な効果を奏することが示されているものでもない。

(エ) その余の副作用について
本件特許明細書に記載された,頭痛,消化不良,背部痛,筋肉痛,鼻炎,結膜炎及び眼瞼浮腫の副作用の発生率に関しても,本件発明1の構成を採用したことにより,これらの低減につき格別に顕著な効果があるとは認められない。
【コメント】

有効成分の特定の用量を導き出したという発明の進歩性が争われた事案である。

最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行い、臨床試験を進めながら最終的な用量を設定していく過程は、通常行われることである。その用量設定試験では、当然に副作用の点においてその発生率を抑えつつ薬効が発現できる用量を求めていくことになる。この試験自体は特段目新しいものではなく、当業者であればこのような試験を行い最適な用量を導き出すこと自体は容易に想到する事項であるだろう。問題は、顕著な効果の判断である。予期しなかった副作用が初めて課題として浮かび上がり、それを解決した結果、顕著な効果を主張できた場合には理論的には進歩性を肯定できる余地があるように思われる。

欧米では一定の範囲で特許が成立しており、本判決では無効判断とされたものの日本でも一度は特許として成立したことを考えると、一見単純な用量限定製剤発明であったとしても、思いもしなかった副作用の課題が生じ、それを解決するために用量を設定した結果、出願当時において当業者が予期することのできなかった顕著な効果(例えば、薬効の発揮を維持しつつ課題となった副作用を低減)を有するに至ったというようなシナリオを描けることができれば、出願してみる価値はありそうである。

また、裁判所は判断しなかったが、原告が主張する取消事由1として、パリ条約4条Hの優先権主張が有効かどうかについても争われた。優先権を享受するためには、先の出願明細書において発明が実施可能な程度に記載されていなければならないと解するのが過去の判決で判示されてきた事項と思われるが、審判部はそれとは異なる主張をしているようである。

被告(特許庁)の主張:
パリ条約4条Hにおいて優先権が認められるための要件は,特許発明の構成部分が最初の出願の記載全体により明らかにされていることであって,優先権を主張する特許発明について,優先権証明書の記載が,日本の特許法の実施可能要件やサポート要件を充足することを要求するものではないし,ましてや実施可能要件やサポート要件の充足性のために優先権証明書に薬理データを記載すべきことを要求するものでもない。
優先権が認められるための要件(必要条件と十分条件)についての基本的な考え方について今一度整理されるべきなのかもしれない。

優先権が認められるための記載について判示した過去判決記事:
参考:


シアリス(Cialis)®錠(有効成分: タダラフィル(tadalafil)):
タダラフィルは選択的なホスホジエステラーゼ タイプ5(PDE5)阻害作用を有する化合物として創薬され、本剤は日本では2007年7月に勃起不全治療剤として承認された(通常1日1回タダラフィルとして10mg。一定の場合には20mgまで増量可)。2007年9月より日本イーライリリー(株)にて発売されていたが、2009年7月1日から日本新薬(株)が販売を受託し、発売している。

タダラフィルを有効成分とする薬剤として、ザルティア(Zalutia)®錠は前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤(1日1回タダラフィルとして5mg)、アドシルカ(Adcirca)®錠は肺動脈性肺高血圧症治療薬(1日1回タダラフィルとして40mg)として販売されている。

欧米の状況:
  • EP1173181(B3): 2003年に特許登録許可後、2013年に特許権者はクレーム中の用量を「5mg」に減縮補正し、2015年に登録公開。但し、疾患限定はないため、5mg1日1回投与である「前立腺肥大症に伴う排尿障害」を保護するものと考えられる。
  • US6943166(B1): Cialisのorangebookに収載されている。

シアリス(Cialis)®錠に関連する過去記事:

May 17, 2016

ヤクルト・デビオファームがエルプラット® (オキサリプラチン)後発品販売の日本化薬に対して製剤特許侵害訴訟を提起

(株)ヤクルト本社およびデビオファーム社は、ヤクルト本社が製造販売する抗悪性腫瘍剤オキサリプラチン-販売名「エルプラット®点滴静注液50mg」、「エルプラット®点滴静注液100mg」、および「エルプラット®点滴静注液200mg」の後発医薬品の製造販売承認を取得し販売を行っている日本化薬(株)に対し、デビオファーム社が保有しヤクルト本社に実施権を許諾している製剤特許(特許第4430229号)の侵害を理由として、2016年5月16日、東京地裁に損害賠償を求める特許権侵害訴訟を共同で提起しました。

参考:

May 16, 2016

2016.03.09 「ホスピーラ v. デビオファーム」 知財高裁平成27年(行ケ)10105

「からなる」の解釈: 知財高裁平成27年(行ケ)10105

【背景】

被告(デビオファーム)が保有する「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許登録(第3547755号)の無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800083)の取消訴訟。争点は明確性要件の有無及びサポート要件の有無である。

請求項1:
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
原告が主張する無効理由:
(1) 明確性要件(特許法36条6項2号)違反
本件発明1の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり,」について,「からなる」との文言は多義的に解釈され得るものであって,本件発明1の製剤は,オキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を排除しているとも,オキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を含んでもよいとも解釈されるので,本件発明1は明確でなく,同様に,本件発明2~9も明確でない。
(2) サポート要件(特許法36条6項1号)違反
本件発明1の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり,」は,上記のようにオキサリプラティヌム及び水以外の第3成分を含んでもよいと解釈され得るが,発明の詳細な説明には,第3成分が含まれるとの明示的な記載はなく,かえって,本件発明の製剤が他の成分を含まず,酸性薬剤,アルカリ性薬剤,又は緩衝剤若しくはその他の添加剤を含まないことを明確に示す記載及び実施例がある。そうすると,発明の詳細な説明には,第3成分を含まない製剤がサポートされているにすぎないから,サポート要件を満たさない。
【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

1 取消事由1(明確性要件の判断の誤り)について

特許法36条6項2号~の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
~「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」中の「からなる」との文言について,「から」という格助詞と「なる(成る)」という動詞とから成り立つもので,「から」は,直前に記載されたものが素材,材料,構成要素となることを示す語であり,「なる(成る)」は,成立する,構成するを意味する語であることは明らかである。そうすると,「Aからなる」ものは,Aを「素材・材料・構成要素」として「成立する・構成されている」ものを意味すると解される。
したがって,「(A)からなる」という場合には,Aを必須の構成要素とすることは明確であるものの,それ以上に,Aのみで構成され,他の成分を含まないものか,Aのほかに他の成分を許容するか否かについて規定するものではなく,「Aのみからなる」場合をも包含する概念であると認められ,このこと自体に当事者間に実質的な争いはない。
そして,例えば,含有する金属が一部異なると,特質が全く異なるものとなる一部の合金における分野等と異なり,医薬液体製剤については,pHの調整や,安定性,保存性を高めるために何らかの添加剤が含有される場合が多いことは,原告も認めるとおり,周知のことである。
そうすると,明細書において,「からなる」の前に摘示された素材,構成要素以外の成分を排除することが明らかでない限り,「Aからなる」とは,Aを必須の構成要素とするものである以上に,他の成分については規定しておらず,単に「Aを含む」ものがその技術範囲に含まれると理解することになるものと解され,また,他の成分を排除するか否か規定していないからといって,「Aからなる」の語が,特段不明確な用語と理解されるものでもない。
次に,本件明細書を見るに,~本件発明1の「オキサリプラティヌム水溶液」に他の成分を含んではならないことを示す記載はなく,他の構成要素を含有することが排除されているとまではいえない。
したがって,当業者は,本件発明1は,「濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液」を必須の構成要素とすることだけが特定された製剤であって,該製剤に他の構成要素が含まれることが排除されてはおらず,かつ,「医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に係る発明と一義的に理解することが可能であるといえる。
よって,本件発明1は明確であり,同様の理由により,本件発明2~9も明確である。
~原告は,拒絶理由通知に対する意見書(甲2)及び審判事件答弁書(甲6)における被告の主張からみて,「からなる」が,酸性又はアルカリ性薬剤,緩衝剤を排除する閉鎖的な意味で用いられていたとの解釈が可能であることが裏付けられると主張する。
しかし,特許法36条6項2号は,前記のとおり,特許請求の範囲が不明確となる場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となって第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得ることから,これを防止するために要求されるものであり,あくまで明細書の記載要件である以上,その適否は,当該記載から客観的に判断されるべきであって,出願経過や審判における対応を斟酌することは,かえって,特許が付与された権利範囲を不明確にするものといわざるを得ない。特許権の行使場面において,その技術的範囲を判断する際に,出願経過等の事情を斟酌することはともかくとして,本件発明の明確性要件の判断をする際に,これらを考慮することは相当ではなく,原告の上記主張は採用できない。
2 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
特許法36条6項1号~の趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制度の趣旨に反するからである。そうすると,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,①発明の詳細な説明に記載された発明で,②発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
~サポート要件の判断において把握される本件発明の技術的意義については,あくまで,明細書の記載要件として,本件明細書及び本件出願時の技術常識から判断すべきものであり,明確性要件において述べたのと同様に,出願経過,審判における対応や外国語出願における原文を参酌することは相当でない。
~明細書の記載に基づく判断としては,~本件発明における課題及び課題解決手段が,上記添加物を含む場合に解決できず,これらを含まないことが発明の技術的意義であると認めることはできない。したがって,請求項において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず,原告の主張は採用できない。
~有効成分濃度とpHが本件発明1の限定範囲内にあり,オキサリプラティヌムと水とを構成要素とするオキサリプラティヌム水溶液により,課題が解決することが示されていれば,サポート要件として欠けるところはない。原告の主張するように,「酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含む」場合に課題を解決しないことが当業者にとって技術常識であるならば,当業者は,本件発明で規定されているもの以外にそれらを選択しないだけのことであり,本件発明で規定されている構成要素によって課題が解決できなくなるわけではないのだから,原告の主張は失当である。
【コメント】

本件発明の技術分野が医薬液体製剤であることを鑑みれば、明細書において特段の意味であることを明らかにしていない限り、「Aからなる」とは、単に「Aを含む」ものがその技術範囲に含まれると理解することになるものと解され、また、他の成分を排除するか否か規定していないからといって、「Aからなる」の語が特段不明確な用語と理解されるものでもない、という判断である。

「からなる」、「を含む」、「を有する」など、どのような表現が適切かという議論は昔からあったわけではあるが、他の成分を排除したくないのであれば、念をために例えば「を含む」といった表現を採用しておくのが常套手段である。外国語に翻訳する際にも注意が必要であることも今や一般的な留意点だろう。

参考:
本件特許権に関する関連記事:

May 11, 2016

バクスアルタ社が国内臨床試験中emicizumabの製造・使用を特許侵害にあたるとして中外製薬を提訴

中外製薬のニュースリリースによると、中外製薬が臨床開発中の血友病Aに対する新薬候補物質「emicizumab」(開発コード:ACE910)が、バクスアルタ社保有の特許第4313531号に触れるとし、上記emicizumabの製造、使用、譲渡、輸出、譲渡の申出の差止め、ならびに廃棄を求める訴えがバクスアルタ社により東京地裁において提起されたとのことです。

原告は、臨床試験のための日本国内でのemicizumab製造および使用等が当該特許を侵害すること、また、将来emicizumabの製造販売を開始するおそれ等があると訴状において述べているとのことですが、中外製薬は、emicizumabは特許権の侵害にはあたらないものと確信しており、裁判でその正当性を主張していく方針とのことです。

特許第4313531号の請求項1:
第IX因子または第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体であって、凝血促進活性を増大させる、抗体または抗体誘導体。
特許第4313531号の存続期間満了日は2020.9.13。

Emicizumab(開発コード:ACE910):
中外製薬にて創製された抗factor IXa/X バイスペシフィック抗体(注射剤)であり、血友病Aを予定適応症として、現在、第III相(国際共同治験)の段階(中外製薬(株) (4519) 2016 年 12 月期第 1 四半期連結決算〔IFRS〕 補足資料 - 開発パイプライン (2016 年 4 月 22 日現在) より)。
今後の申請予定は2017年(中外製薬(株)決算説明資料 - 2016年第1四半期 連結決算概要より)。

日本での販売が存続期間満了日前に開始されるおそれ、を原告は固められるかどうか・・・


参考:

May 9, 2016

2016.03.08 「キュアバック v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10043

治療用複合化RNA知財高裁平成27年(行ケ)10043

【背景】

「トランスフェクションおよび免疫活性化のためのRNAの複合化」に関する特許出願(特願2010-523324号; WO2009/030481; 特表2010-537651)の拒絶審決(不服2013-11636)取消訴訟。争点は進歩性の有無。

本願補正発明は、細胞内へのRNA輸送に適した効率的なキ ャリアを提供し、腫瘍、循環器病や感染症などの特定の疾病の治療用複合化RNAを提供することを目的(課題)とし(【請求項1】,段落【00 21】)、その目的を達成する手段として、8~15アミノ酸の長さであり、かつ式(Alg)l(Lys)m(His)n (Orn)o(Xaa)xによって表わされる1つ以上のオリゴペプチドと、 少なくとも1つの一本鎖RNAとが、非共有的な相互作用によって連結した免疫活性化複合化一本鎖RNAであって、RNAのオリゴペプチドに対する窒素/リン酸塩比(N/P比)が、0.5~50の範囲であり、かつ、RNA対オリゴペプチドのモル比が1:250以上である複合化RNAを採用したものである(【請求項1】)。

【要旨】

主 文
原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断

取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
原告は,①引用例1には実験結果の記載がなく,形質転換できるという効果を奏する複合体が得られることや,仮に複合体が得られたとしても,引用例1に記載された性質を示すことは確認できないのであるから,実施可能なものとして完成した発明が記載されているとはいえない,②引用例1の記載から配列番号29のペプチドを選択することは当業者において容易ではないから,引用例1の記載に基づいて引用発明を認定することはできず,本件審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら,まず①についていうと,特許法29条2項,同条1項3号所定の「刊行物に記載された発明」というためには,特許出願当時の技術水準を基礎として,当業者が当該刊行物を見たときに,特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において,その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり,かつ,それで足りると解するのが相当である。
そこで,上記の観点から引用例1に上記の程度の開示がされているかどうかを検討すると・・・(略)・・・引用例1には,RNAトランスフ ェクションの方法は,DNAトランスフェクションの方法ほど開発されていなかったところ,RNAについて,DNAと同様にトランスフェク ションを行うに際し,Port-3カチオン性ペプチドと緑色蛍光タンパク質をコードするRNAの非共有結合複合体であって,Port-3カチオン性ペプチドとRNAの複合比が100:1~1:1の範囲である複合体を採用し,引用例1記載の方法により,RNAを細胞内へ導入し,形質転換することにより,細胞の生存率を保持しつつ,細胞に効率的にRNAを送達することができるという技術的思想が,当業者にとって,実施し得る程度に,かつ,特許発明と対比するに必要な程度に開示されていることが認められる。したがって,原告の上記①の主張は理由がない。
また,②についても・・・(略)・・・引用例1に本願補正発明の構成と一致しない他のペプチドが開示されているとしても,上記複合体が引用例1に前記(ア)のとおりの技術思想として記載されている以上,上記開示が上記複合体を引用発明として認定することの妨げとなるものではないし,引用発明の認定の場面において,選択が容易かどうかを問題とすべきものでもない。したがって,原告の上記②の主張も理由がない。
以上によれば,引用例1から引用発明[を認定]した本件審決に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
取消事由2(相違点(1)の容易想到性の判断の誤り)について
本願補正発明と引用例1に記載された「免疫」とは,いずれも,抗原特異的免疫を含む点で一致している。そして,前記(2)の引用例1の記載に接した当業者であれば,腫瘍や病原体 感染等の疾病の治療に用いるために,引用発明に係る複合体において,緑色蛍光タンパク質をコードするmRNAに代えて,腫瘍細胞や病原体の抗原をコードするmRNAを用いることにより,mRNAの抗原への翻訳を介して免疫反応を誘導(免疫を活性化)し,引用発明において,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張の取消事由2は理由がない。
取消事由3(相違点(2)の容易想到性の判断の誤り)について
引用発明において,最適なトランスフェクション効率を達成するために,複合性のカチオン性ペプチドの正電荷とRNAの負電荷のバランスに着目して,複合体の「1つ のRNA(分子)の,1つ以上のオリゴペプチドに対する窒素/リン酸 塩比(N/P比)」に着目し,これを変化させて最適化し,その値を, 0.1~100の範囲内の値である0.5~50とすることは当業者に おいて適宜行うことができたものと認められる。・・・(略)・・・N/P比が変化すればモル比も変化するなど,N/P 比とモル比とは互いに連動するものであること,引用発明において,N /P比として前記アの0.5~50の値を用いれば,技術常識として知 られたmRNAの長さを前提とした場合,当然にそのモル比が相違点(2) のモル比の構成を包含することになることに照らすと,引用発明においても,当業者はそのモル比を適宜選択することができたものと認められる。・・・(略)・・・以上によると,引用発明においてN/P比及びモル比につき相違点(2) の範囲内とすることは,当業者が適宜行うことであり,そのような数値限定をすることの臨界的意義は認められないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。
【コメント】

「刊行物に記載された発明」というためには、出願当時の技術水準を基礎として、当業者が当該刊行物を見たときに、特許請求の範囲の記載により特定される特許発明等の内容との対比に必要な限度において、その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり、かつ、それで足りる。裁判所はこの基本的考え方に沿って本件を当てはめて引用例から引用発明を認定できると判断した。

参考: 特許・実用新案審査基準 第III部 第2章 第3節 新規性・進歩性の審査の進め方 3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)
(1) 刊行物に記載された発明

a 「刊行物に記載された発明」とは、刊行物に記載されている事項及び刊行物に記載されているに等しい事項から把握される発明をいう。審査官は、これらの事項から把握される発明を、刊行物に記載された発明として認定する。
刊行物に記載されているに等しい事項とは、刊行物に記載されている事項から本願の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項をいう。
審査官は、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができない発明を「引用発明」とすることができない。そのような発明は、「刊行物に記載された発明」とはいえないからである。

b 審査官は、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができる発明であっても、以下の(i)又は(ii)の場合は、その刊行物に記載されたその発明を「引用発明」とすることができない。
(i) 物の発明については、刊行物の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその物を作れることが明らかでない場合
(ii) 方法の発明については、刊行物の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその方法を使用できることが明らかでない場合

欧州状況:
欧州では成立している(EP2188379(B1)、EP2484770(B1))。
引用例1(WO2006/046978)はD8として引用されていたが、最終的にはクレームを補正することで特許許可を得たようである。

May 5, 2016

2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416

「包含」されるシュウ酸は組成物中に存在する全てのシュウ酸をいい、添加したシュウ酸に限定されない: 東京地裁平成27年(ワ)12416

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(日本化薬)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。

本件発明:
A オキサリプラチン,
B 有効安定化量の緩衝剤および
C 製薬上許容可能な担体を包含する
D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
E 製薬上許容可能な担体が水であり,
F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
G 緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。
被告製品は構成要件Gに規定されているモル濃度の範囲内にある量のシュウ酸を含有するところ、このシュウ酸は添加されたものではなかった。原告は、「緩衝剤」であるシュウ酸はオキサリプラチン水溶液中に存在すれば足り、添加されたシュウ酸に限定されないから、被告製品は構成要件B、F及びGを充足すると主張するのに対し、被告は、「緩衝剤」であるシュウ酸はオキサリプラチン水溶液に添加されたものに限定されるから、被告製品は上記各構成要件を充足しないと主張した。


【要旨】

主 文
1 被告は,別紙被告製品目録記載1,2及び3のオキサリプラチン製剤の生産,譲渡又は譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,前項記載の各オキサリプラチン製剤を廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
裁判所の判断
~オキサリプラチン水溶液に「包含」される緩衝剤であるシュウ酸等の量のみが規定され(構成要件G),シュウ酸等を添加することなど上記組成物の製造方法に関する記載はない。この「包含」とは「要素や事情を中にふくみもつこと」(広辞苑〔第六版〕参照)をいうことからすれば,オキサリプラチン水溶液に「包含」されるシュウ酸とは,オキサリプラチン水溶液中に存在する全てのシュウ酸をいい,添加したシュウ酸に限定されるものではないと解するのが相当である。
~そうすると,本件明細書の記載からは,本件発明が,従来既知のオキサリプラチン組成物(凍結乾燥粉末形態のものや乙1発明のように水溶液となっているもの)の欠点を克服し,改良することを目的とし,その解決手段としてシュウ酸等を緩衝剤として包含するという構成を採用したと認められるのであり,更にこの緩衝剤を添加したものに限定するという構成を採用したとみることはできない。
以上によれば,構成要件Gに規定されたモル濃度の範囲内にある量のシュウ酸を含んでいれば構成要件B,F及びGを充足すると解すべきところ,被告製品は前記前提事実(3)イのとおりこれを含有する。したがって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断するのが相当である。
(争点(2)(新規性欠如、進歩性欠如、サポート要件違反について)は省略)
~被告製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属するものであり,本件特許に無効理由があるとは認められないから,原告が本件特許権の行使を妨げられることはない。よって,原告の請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,仮執行宣言については主文第2項に限り相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
【コメント】

「製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩」であるのだから、本件発明は、言い換えれば、「オキサリプラチン,有効安定化量のシュウ酸またはそのアルカリ金属塩および水を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,緩衝剤の量が,以下の(略)の範囲のモル濃度である,組成物」となる。特許請求の範囲の文言を素直に読めば、添加されたものか否かにかかわらず、「シュウ酸を包含する組成物」である。被告製品が本件発明の技術的範囲に属するとの裁判所の判断は妥当と思われる。

本件特許について、無効審判(請求人: ホスピーラ; 無効2014-800121)が請求されたが請求は成り立たない旨の審決がなされ、現在、知財高裁でその審決取消訴訟が係属しているようである(平成27年(行ケ)10167; 出訴日 2015.08.21)。

参考:

May 3, 2016

2016.02.17 「アッヴィ v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)10272

自己乳化性製剤と固体分散製剤の違い: 知財高裁平成26年(行ケ)10272

【背景】

「自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用」に関する特許出願(特願2001-587743号; WO01/91727; 特表2003-534369号)の拒絶審決(不服2012-17374)取消訴訟。争点は、進歩性判断の当否(①相違点の看過,②相違点判断の誤り)及び③手続違反の有無。

補正発明は、固体の自己乳化性の剤形を提供することを課題とし、当該課題を解決するための具体的手段として、50℃を超えない融点を有し、かつ、12を超えないHLBを有する脂質成分6~60重量%と、ポリビニルピロリドン等から選択される少なくとも1種の結合剤成分20~93.9重量%と、活性成分0.1~50重量%を含む配合物を用い、前記脂質成分の含有量が前記結合剤成分を基準にして40重量%を超えず、前記脂質成分及び前記結合剤成分を含む分子分散体を含み、本質的に前記活性物質の結晶を含まない、自己乳化性固形配合物を採用するもの。

【要旨】

裁判所は、取消事由1(相違点の看過)、取消事由2(相違点に関する判断の誤り)、取消事由3(手続違背)にはいずれも理由があるとして、原告の請求を認め、審決を取り消した。

取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について(抜粋)
確かに,補正発明の胃腸管での活性物質の吸収性向上という課題は,製薬技術分野において当然の課題であったというべきであり,この点において,補正発明と引用発明は共通するといえるが,活性物質の吸収を高めるための方法としては,本件優先日において,活性成分の粒子自体を小さくする方法に加え,自己乳化性製剤以外に固体分散製剤などの方法があり,吸収性以外の作成難易度等の諸事情を総合的に判断すると,自己乳化性製剤が常に最適であると考えられていたわけではなく,固体分散製剤よりも自己乳化性製剤の方が好ましい等の技術常識はない以上,上記一般的課題から常に補正発明の構成である自己乳化性の剤形を目指すことはできず,何らかの動機付けや示唆がなければ,当業者にとって容易に想到できるものではない。しかるに,引用文献1には,自己乳化性製剤とすることについて記載も示唆もない。
したがって,当業者が,固体分散製剤である引用発明において,脂質成分の選択(相違点2),選択された脂質成分の含有量(相違点1)を設定し,その物理的状態の特定(相違点3,5)を行って,自己乳化性を示す製剤(相違点4)とすることは,容易に想到できる事項とはいえない。
取消事由3(手続違背)について(抜粋)
「平成18年法律第55号による改正前の特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるからである。そこで,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることにより,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される。この適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,拒絶査定不服審判において審判請求時の補正が行われ,補正後の特許請求の範囲の記載について拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも当然妥当するものであって,その後の補正の機会のない審判請求人の手続保障は,同様に重視されるべきものといえる。
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。」
【コメント】

本件をさらに要約すれば、本願発明は自己乳化性製剤に関するものであるのに対し、引用発明は固体分散製剤に関するものであり、固体分散製剤と自己乳化性製剤は一般的には水性媒体に接した際に異なる状態となる製剤として認識されていると認められ、本件優先日当時において胃腸管での吸収性向上のために自己乳化性を示す製剤が最適であると考えられていたとは認められないから、当業者が何らの動機付けなくして自己乳化性を具備する構成へ容易に想到することはできないと判断されたものである。審決の判断が取り消された理由の一番のポイントは、引用発明の固体分散製剤が自己乳化性を備えるのかどうかという技術常識の把握にあったと思われる。

ところで欧米では特許として成立している(EP1284716B1; US8470347B2)。