Nov 30, 2016

2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468

対応外国出願の禁反言が特許発明の技術的範囲に適用されるのか: 東京地裁平成27年(ワ)28468

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(日医工)に対し、被告製品の製造販売等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。

本件発明:
A オキサリプラチン,
B 有効安定化量の緩衝剤および
C 製薬上許容可能な担体を包含する
D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
E 製薬上許容可能な担体が水であり,
緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。
被告製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明の構成要件Gに規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。被告製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうか、すなわち、被告製品は本件発明の構成要件B、F及びGを充足するのかどうかが争点。

【要旨】

裁判所は、本件発明における「緩衝剤」は、添加されたシュウ酸またはそのアルカリ金属塩をいい、オキサリプラチンが分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当であるとして、被告製品は、構成要件B、F及びGを充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないと判断した。請求棄却。以下裁判所の判断より抜粋。
  • 「緩衝剤の「剤」とは,「各種の薬を調合したもの」を意味するから(広辞苑第三版),緩衝剤とは,緩衝に用いる目的で,各種の薬を調合したものを意味すると考えることが自然である。」
  • 「シュウ酸が添加されない場合には,オキサリプラチン水溶液の平衡状態には何ら変化が生じないから,オキサリプラチン溶液が,安定化されるとはいえない。したがって,上記明細書に記載された「緩衝剤」の定義は,緩衝剤に解離シュウ酸が含まれることを意味していないというべきである。」
  • 「本件明細書には,「緩衝剤」である「シュウ酸」に,オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸が含まれることを示唆する記載はない。以上からすると,本件明細書の記載では,解離シュウ酸については全く考慮されておらず,緩衝剤としての「シュウ酸」は添加されるものであることを前提としていると認められる。」
  • 「対応米国特許の審査過程において,出願人が,意見書及び補正書において「オキサリプラチンの溶液製剤に緩衝剤を加えることにより,より安定したオキサリプラチンの溶液製剤(当該製剤は上述の不純物をまったく生成することがないか,丙らの水溶液性剤中に見出されるよりも著しく少量の不純物を生成する)が得られることを見出したのである」と述べていること,対応ブラジル特許の審査過程においても,出願人が,「シュウ酸を緩衝剤として加えれば,不純物が発生しない」と述べていることが認められるから,対応米国特許及び対応ブラジル特許の出願人は,これらの特許発明について,シュウ酸を緩衝剤として添加することで,不純物を減少させ,より安定した製剤を得る発明であると認識していたものと認められる。確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。」

【コメント】

裁判所は、クレームの用語の意義を、対応外国出願の審査過程における出願人の主張内容も参酌して解釈した。対応外国出願における禁反言が日本の特許発明の技術的範囲の解釈に影響を与え得るということである。本事件に限らず、対応外国出願の禁反言が一律に日本の特許発明の技術的範囲の解釈に適用されるのかどうかはには疑問があるが、とにかく、どの国で審査対応するにしてもその主張内容には最新の注意を払うようにしておくことが出願人側としては原則であろう。

参考:

Nov 29, 2016

MSDのアイセントレス®(ラルテグラビル) 英国特許訴訟で塩野義が敗訴

2016年11月28日の塩野義のプレスリリースによると、塩野義が保有するHIVインテグラーゼ阻害薬に関する英国特許(UK60242459.3号)の無効訴訟をMSD社が英国特許裁判所に提起したことに対して、塩野義は同特許に基づき英国でのアイセントレス®(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium)を販売するMSD社に対し特許権侵害の反訴請求をしていましたが、2016年11月25日、同裁判所は上記両件について、英国のアイセントレスの販売は同特許の侵害に当たるが、同特許は記載要件を満たさず無効である旨の判決を出したとのことです。本件特許はViiV社が販売しているHIVインテグラーゼ阻害薬テビケイ®(有効成分はドルテグラビルナトリウム(dolutegravir sodium))を保護する特許とは関係のない特許とのことです。

参考:

Nov 26, 2016

2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 東京地裁平成28年(ワ)15355

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)及び専用実施権者(ヤクルト)が、被告(日本化薬)に対し、被告製品の製造販売が特許権・専用実施権の侵害に当たると主張して、損害賠償を求めた事案。

本件発明:
1A オキサリプラチン,
1B 有効安定化量の緩衝剤および
1C 製薬上許容可能な担体を包含する
1D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
1E 製薬上許容可能な担体が水であり,
1F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1G 緩衝剤の量が,以下の:
(a)5×10-5M~1×10-2M,
(b)5×10-5M~5×10-3M
(c)5×10-5M~2×10-3M
(d)1×10-4M~2×10-3M,または
(e)1×10-4M~5×10-4M
の範囲のモル濃度である,組成物。
被告各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明の構成要件1Gに規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。本件発明被告製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうか、すなわち、被告製品は本件発明の構成要件1B、1F及び1Gを充足するのかどうかが裁判所判断の決め手となった争点。

【要旨】

裁判所は、被告各製品は構成要件1B、1F及び1Gをいずれも充足しないから、被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないと判断した。請求棄却。以下裁判所の判断より抜粋。
「本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるものであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤のモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」という用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得ない。

…(略)…他方で,仮に,本件発明1を上記のように解することなく,原告らが主張するように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば,本件発明1は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸イオンが平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべきである。

…(略)…したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当である。」
【コメント】

本件発明の「緩衝剤」という用語の意義を検討し、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当であると判断した(東京地裁民事第29部)。2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849参照。

参考:

Nov 19, 2016

オキサリプラチン延長特許侵害事件 知財高裁が大合議事件に指定

2016年11月17日、知財高裁は、平成28年(ネ)第10046号 特許権侵害差止請求控訴事件を大合議事件として指定しました。

原審は、延長された特許権の効力が争点となった2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414です。

この大合議の審理・判断で求められる一番重要な点は、先発薬(新規有効成分に限らない)についての延長特許権があるにもかかわらず、その先発薬に依拠して承認された後発品の製造販売が簡単に許されてしまうような延長特許権の効力の解釈、言わば特許法第68条の2が事実上空文化するような判断は、この特許延長制度の立法趣旨(実施機会の喪失による不利益を解消させる制度)からして許されないことは明らかであること、本事件の具体的な解釈・結論よりも、むしろ特許延長制度全体の枠組みとして、現在の条文からどのように延長特許権の効力範囲の境界線を引くのかということ、を示せるかどうかという点です。

延長された特許権の効力が不明確で、将来の侵害判断の予見性が低いままであれば、先行して莫大な研究開発投資をする製薬産業にとっては大きな問題です。不安定な法制度のまま放置することにならないよう、今回の知財高裁には難しい判断が求められることになりますが、この判断は、世界の製薬企業が、先発薬メーカーにとって厳しくなりつつある日本市場が今だに魅力的なものとして考慮できそうなのかどうかという視点でも注目しており、大合議の判断次第では日本の製薬産業に大きなインパクトを与えるものになると思われます。

参考:


Nov 6, 2016

2016.10.12 「セルビオス-ファーマ v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10251

マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成27年(行ケ)10251

【背景】

被告ら(ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬)が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許3310301号に対してなされた無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800174号)の取消訴訟。争点は、進歩性の有無。

【要旨】

主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
「本件発明1と甲1発明とは,ステロイド環構造の20位炭素原子に水酸基(-OH)が結合した化合物(以下「20位アルコール」という。)に脱離基を有する側鎖形成試薬を反応させてエーテル結合を形成させる反応(ウィリアムソン反応)である点で一致するが,脱離基を有する側鎖形成試薬における脱離基以外の構造(相違点1-ii)及び反応により得られる化合物の側鎖部分構造(相違点1-i)が,本件発明1は「2,3-エポキシ-3-メチル-ブチル基」であるのに対し,甲1発明は「-CH2-CH2-CH=CH2」である点で相違する(下図参照)。

(中略) 
甲1には,甲1発明の出発物質に,甲2のようなエポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持したまま反応させて合成されるエポキシ中間体を合成し,これを経てOCTを製造する方法について,記載がなく,甲4及び14には,エポキシ基を有する試薬を他の化学物質と合成し,当該エポキシ基の開環により水酸基を得るという一連のOCTの製造方法が記載されているわけではないのであって,エポキシ基を開環して水酸基を形成する工程のみを取り出して,エポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持したまま他の化合物と反応させた後,その次の工程として適用することを前提に,エポキシ基を有する試薬を,エポキシ基を保持したまま他の化合物と反応させることにつき,記載も示唆もない。エポキシ基の開環反応によってアルコールを合成する方法が技術常識であることを考慮しても,甲1発明につき,エポキシ中間体を経由する反応経路を探索する動機付けはない。当業者が,エポキシ基を開環するという基本的知識を有していたとしても,OCTのより効率的な製造方法としての一連の工程として,エポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持させたまま甲1発明の出発物質と反応させて,エポキシ中間体を経由する反応経路を探索することが容易に想到できたということはできない。
したがって,エポキシ基が開裂する付加反応が生じる可能性についての当業者の認識を検討するまでもなく,前記イのとおりであって,本件発明1の容易想到性は,認められない。」
【コメント】

本件特許は、マキサカルシトール(maxacalcitol)の製造方法に関するもの。マキサカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であり、中外製薬が販売する角化症治療剤オキサロール(Oxarol)®軟膏の有効成分。本件特許については、他に下記のとおり無効審判請求がなされ有効性が争われている。いずれの判断も特許は有効とされている。均等侵害を認めた知財高裁大合議判決(2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)も含めて特許権者側の勝利が続いていることになる。本特許権の存続期間満了日は2022年9月3日。本件特許権を回避した製法で製造されたジェネリックは既に市場に参入している。