Dec 31, 2016

2016年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

(1) 延長された特許権の効力はどこまで及ぶのか?

延長された特許権の効力について具体的に判断した東京地裁判決がでてきました。そのうち一つの控訴審は知財高裁大合議事件に指定され、2017年1月20日午後2時に判決言渡し予定となっています。この大合議の審理・判断で求められる一番重要な点は、先発薬(新規有効成分に限らない)についての延長特許権があるにもかかわらず、その先発薬に依拠して承認された後発品の製造販売が簡単に許されてしまうような延長特許権の効力の解釈、言わば特許法第68条の2が事実上空文化するような判断は、この特許延長制度の立法趣旨(実施機会の喪失による不利益を解消させる制度)からして許されないことは明らかであること、本事件の具体的な解釈・結論よりも、むしろ特許延長制度全体の枠組みとして、現在の条文からどのように延長特許権の効力範囲の境界線を引くのかということ、を示せるかどうかという点です。

(2) 2016年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた製品は・・・
抗悪性腫瘍剤エルプラット(Elplat)®(一般名:オキサリプラチン(Oxaliplatin))でした。


オキサリプラチン(Oxaliplatin)は白金錯体系抗悪性腫瘍剤。本剤はDebiopharm 社(スイス)がライセンスを保有しており、欧米における開発・販売権はSanofi-Aventis社が保有している(商品名: ELOXATIN)。日本における開発・販売権はヤクルトが取得し、商品名エルプラット(ELPLAT)として製造販売しています。2010年6月には水溶性製剤(点滴静注液)を発売し、既存の凍結乾燥製剤(注射用)からの切り替えを行っています。
  • ブログで取り上げたオキサリプラチン(Oxaliplatin)に関する記事等はこちら


(3) 過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2015年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2014年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら

Dec 24, 2016

2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415

延長された特許権の効力が争点となった判決2(実質的同一物の基準に均等論を適用することは妥当なのか): 東京地裁平成27年(ワ)12415

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許1)及び「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号(本件特許2)の特許権者であるデビオファーム(原告)が、ホスピーラ(被告)各製品は本件各発明の技術的範囲に属すると主張して、被告に対し被告各製品の販売等の差止め及び廃棄を求めた事案。特に、被告各製品に存続期間の延長登録を受けた本件特許1の効力が及ぶかが争点のひとつ。

本件特許1の特許請求の範囲1(本件発明1):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

東京地裁(民事第40部)は、被告各製品は、延長された本件特許1の効力が及ぶものではなく、また本件発明2及び本件訂正発明2の技術的範囲に属しないとして原告の請求を棄却した。

裁判所が示した考えは、主に下記3点。
  • 延長された特許権の効力は、当該政令処分対象物の審査事項(成分、用法、用量、効能及び効果)によって特定された特許発明の実施の範囲で及ぶ。
  • 延長された特許権の効力は、被疑侵害品が、当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても、政令処分対象物のいわゆる実質的同一物にも及ぶ。
  • 被疑侵害品が実質的同一物か否かは、当該政令処分対象物について均等論(5要件)を適用して判断する。
以下、争点(2)被告各製品に延長された本件特許1の効力が及ぶかについての裁判所の判断を抜粋。
「…(略)…延長登録制度の上記趣旨に鑑みると,侵害訴訟における被疑侵害品が,当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても,上記被疑侵害品が,当該政令処分対象物の「均等物や実質的に同一と評価される物」(実質的同一物)である場合には,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が上記被疑侵害品についての実施行為にも及ぶと解するのが相当である。

…(略)…

実質的同一物該当性の判断基準としては,まず,特許法70条に基づく技術的範囲の属否を検討するほか,文言解釈上は当該政令処分対象物についての特許発明の技術的範囲に属しない場合であっても,信義則の見地から,当該政令処分対象物と当該被疑侵害品の差異(以下「当該差異部分」という。)について,①当該差異部分が当該政令処分対象物についての特許発明における本質的部分ではなく,②当該差異部分を当該被疑侵害品におけるものと置き換えても,当該政令処分対象物についての特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③上記②のように置き換えることに,当該政令処分対象物についての特許発明の属する技術の分野における当業者が,当該被疑侵害品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④当該被疑侵害品が,当該特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤当該被疑侵害品が当該政令処分ないし特許延長登録に係る手続において処分ないし延長登録の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該被疑侵害品は,当該政令処分対象物と均等なものとして,当該政令処分対象物についての特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であり(最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決・民集第52巻1号113頁参照),かつ上記基準をもって足りるというべきである。なお,当該被疑侵害品が,延長された特許権の侵害行為に当たるといえるためには,当該特許権の技術的範囲に属している必要があることはいうまでもない。
以上の観点から,以下,本件について検討する。

…(略)…

被告各製品が本件処分対象物に該当するか否かを検討するに当たっては,被告各製品が,本件処分により可能となった本件特許権1の実施の範囲にあるかを検討すべきであるから,上記審査事項の全てではなく,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項(当該特許権が医薬品の成分を対象とする物の発明である場合には,医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果である。)に照らし,本件処分対象物に該当するか否を判断することが相当である(最高裁判所平成27年11月17日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集69巻7号1912頁等参照)。
そして,上記審査事項のうち,「成分,分量」は,医薬品の「物」それ自体としての客観的同一性を左右するものであり(ただし,「分量」については延長された特許権の効力を制限する事項と解するのは相当ではない。),また,「用法,用量」及び「効能,効果」は医薬品それ自体としての客観的同一性を左右するものとはいえないが,「用途」に該当する性質のものであるから,結局,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして「成分」(ただし,有効成分に限らない。)によって特定され,「用途」に係るものとして「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。
なお,延長登録制度の趣旨に照らし,存続期間が延長された特許権の効力が本件処分対象物の実質的同一物にも及ぶことは,前記イ記載のとおりである。

…(略)…

被告各製品は,酒石酸及び水酸化ナトリウムを含有する点で本件処分対象物についての本件発明1とは「成分」が異なる。…(略)…したがって,被告各製品は本件処分対象物と同一であるということはできず,また,被告各製品は延長された本件特許1における構成要件1C「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」を文言上は充足しない。

もっとも,被告各製品が本件処分対象物の実質的同一物に当たるのであれば,延長後の本件特許1の効力が及び得る。…(略)…ここで特許発明の本質的部分の意義についてみるに,…(略)…本件処分対象物についての本件発明1の本質的部分は,オキサリプラチン水溶液について,オキサリプラチンの濃度及びpHを一定範囲とすることで,不純物の生成を抑止して,医薬的に安定なオキサリプラチン溶液を得ることにあるといえる…(略)…のに対し,被告各製品では,オキサリプラチン溶液にさらに酒石酸及び水酸化ナトリウムを添加するという手段を採用することによって不純物の発生を抑止しているのであって,医薬的に安定なオキサリプラチン溶液を得るための技術思想が異なり,当該差異部分は,本件処分対象物についての本件発明1における本質的部分の差異に当たるというべきである。したがって,被告各製品は均等の第一要件を充足するとはいえないから,本件処分対象物の実質的同一物に当たるとはいえない。

以上のとおり,被告各製品は,本件処分対象物ないしその実質的同一物に当たるとはいえず,本件処分対象物についての本件発明1の技術的範囲に含まれないから,延長された本件特許1の効力は被告各製品の生産,譲渡又は譲渡の申出には及ばない。」
【コメント】

1.延長された特許権の効力が及ぶ政令処分対象物とは、何をもって特定させるかについて
裁判所は、延長された特許権の効力は、当該政令処分対象物の審査事項(成分、用法、用量、効能及び効果)によって特定された特許発明の実施の範囲で及ぶ、との考えを示した。
これは、知財高裁大合議判決(2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198)の傍論として示された考えに沿うものである。
2.政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても延長された特許権の効力を及ぼす場合があるかについて
裁判所は、延長された特許権の効力は、被疑侵害品が、当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても、政令処分対象物のいわゆる実質的同一物にも及ぶ、との考えを示した。
これも、知財高裁大合議判決(2014.05.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁(大合議) 平成25年(行ケ)10195, 10196, 10197, 10198)の傍論として示された考えに沿うものである。
3.いわゆる実質的同一物の範囲かどうかはどのような基準で判断すべきかについて
裁判所は、被疑侵害品が実質的同一物か否かは、当該政令処分対象物について均等論(5要件)を適用して判断する、との考えを示した。
判決文では、1998.02.24 最高裁平成6年(オ)1083号(ボールスプライン事件)を引用しているが、最高裁が特許発明の技術的範囲の解釈に均等論を適用した理由は、
特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる
からであって、特許権者が政令処分を受けるために実施することができなかった期間があったときはその期間の延長を認めるとの延長登録の制度趣旨のもと、特許権者と第三者との公平を考慮した結果を理由として導き出されたものではない。延長特許権の効力が及ぶ政令処分対象物の実質的同一物の範囲はどこまでなのかについての問題は、あくまで延長登録制度趣旨のもと、薬事法制度も踏まえて公平を考慮して導き出されるべきものであり、ボールスプライン事件で示された均等論適用の理由となる「出願時の侵害態様の予想困難」・「社会正義」の観点を出発点として導き出されるものではないはずである。ボールスプライン事件最高裁判決では、特許法68条の2を争点とするものではないし、もちろん、政令処分対象物に均等論を適用する旨を示したものでは全くない。
仮に、政令処分対象物の実質的同一物に及ぶ範囲に均等論(のような基準)を適用することもありとした場合でも、5要件の文言を特許法68条の2のために無理やり読み替え、特に第一要件である本質的部分でないことの基準を安易に当てはめており本判決の論理は非常に危険であるように思う。以下、「実質的同一物」の範囲について一提案したい。
後発医療用医薬品(ジェネリック医薬品)とは、新有効成分や新しい効能・効果等を有することが臨床試験等により確認され承認された新薬と同一の有効成分を同一量含み、同一投与経路の製剤であり、効能・効果、用法・用量も原則的に同一である医薬品で、生物学的同等性試験等にてその新薬と治療学的に同等であることが検証されたものである((独)医薬品医療機器総合機構資料など)。確かに、多くのジェネリック医薬品はその製剤の添加剤成分が先発医薬品とまったく同一ではなく、中には、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、または使用性を向上させるなどの目的で異なる添加剤を使用している場合もある。しかし、製剤の添加剤成分が異なっていたとしても、それは溶出挙動やヒトでの生物学的同等性試験を行い、先発医薬品と治療学的に同等となるよう製剤設計されているのであって、政令処分の観点からは本質的には同等なのであり、先発医薬品たる政令処分対象物の本質的部分に依拠して(を利用して)承認されるのがジェネリック医薬品なのである。
医薬品の承認申請について(薬食発第0331015号 平成17年3月31日)」によれば、ジェネリック医薬品の承認申請書に添付すべき資料は、ロ2(製造方法に関する資料)、ロ3(規格及び試験試験に関する資料)、ハ3(加速試験に関する資料)、ホ5(生物学的同等性に関する資料)に限られている。すなわち、その他の承認申請書に添付すべき資料は、全て先行既承認医薬品の資料に依拠できるためである((別表2-(1)医療用医薬品 (9の3)その他の医薬品(再審査期間中でないもの)の表中×印))。

ジェネリック医薬品の承認申請書に添付すべき資料のいずれかが、延長特許の政令処分対象物(先行既承認医薬品)の承認申請書に添付すべき資料に依拠(を利用)できるため提出が不要とされているのであれば、ジェネリック医薬品は当該政令処分対象物と治療学的に同等であることを示すことでもあることから、そのようなジェネリック医薬品は、政令処分対象物の実質的同一物の範囲に該当すると判断するのが妥当ではないだろうか。当然ながら、当該ジェネリック医薬品は当該特許発明の技術的範囲に属することが前提である。
このような解釈をした場合には、例えば、新有効成分含有医薬品が延長特許の政令処分対象物の場合、その有効成分を含有するジェネリック医薬品は添加剤成分が異なっていたとしても、その承認申請書に添付すべき資料のほとんどは、当該政令対象物の承認申請書に添付すべき資料に依拠して治療学的同等性を証明することになるだろうから、新有効成分含有医薬品である政令処分対象物の実質的同一物の範囲に属すると考えられるだろう。もちろん、そのジェネリック医薬品は当該特許発明の技術的範囲に属することが前提である。また、例えば、新剤形医薬品が延長特許の政令処分対象物の場合、ジェネリック医薬品の承認申請書に添付すべき資料が、先行新規有効成分含有医薬品の承認申請書に添付すべき資料だけでなく、当該新剤形医薬品である政令対象物の承認申請書に添付すべき資料にも依拠して治療学的同等性を証明した場合には、当該政令処分対象物の実質的同一物の範囲に属すると考えられるだろう(先行新規有効成分含有医薬品を政令処分対象物とする延長特許があればそれぞれ重複して当該ジェネリック医薬品に効力が及ぶということになろう)。もちろん、そのジェネリック医薬品は当該特許発明の技術的範囲に属することが前提である。一方、剤形追加に係る医薬品が延長特許の政令処分対象物の場合、ジェネリック医薬品が当該政令処分対象物の承認申請書に添付すべき資料に依拠することは少ないのではなかろうか。そのような場合には延長特許権の効力が及ぶのは、同一成分のジェネリック医薬品のみでよいだろう。
先行医薬品の承認(政令処分)を得るために実施できなかった期間分を特許延長できても、その期間中にその政令処分対象物に依拠して、利用して、フリーライドして、すり抜けてジェネリック医薬品の承認販売を認めることは、著しく公平を損なうことは確かであり、その観点から「実質的同一物」の範囲をどのように解釈するかは非常に重要であり、安易に均等論を適用し延長特許権の効力についての結論を導いた本判決には反対である。

Dec 17, 2016

2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241

患者群を特定した医薬用途発明の進歩性(骨粗鬆症治療剤テリボン®)知財高裁平成27年(行ケ)10241

【背景】

「1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」に関する特許出願(特願2011-530844; 再表2011/030774; WO2011/030774)の拒絶審決(不服2015-9596)取消訴訟。争点は新規性・進歩性。

請求項1(本願発明):
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
本願発明と引用発明との相違点1
「特定の骨粗鬆症患者」が,引用発明では,「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」であるのに対し,本願発明では「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」
である点。
本願発明と引用発明との相違点2
「骨粗鬆症治療ないし予防剤」について,本願発明では,さらに,「骨折抑制のための」という事項が追加されている点。
【要旨】

裁判所は、相違点1について新規性なしとした審決の判断及び相違点2について実質的な差異はないとした審決の判断にはいずれも誤りがあるとしたが、進歩性を否定した審決の判断は誤っておらず審決の結論に影響はない、として原告の請求を棄却した。

相違点1について
「確かに,前記の甲1のH群の患者中に前記の本願発明にいう患者が全て含まれていれば,論理的には,甲1発明は,部分的には,本願発明と一致する(本願発明を全て含む。)ことになるが,前記のとおり,甲1に,前記の本願発明の患者を識別するに足りる記載がなく,前記の本願発明にいう患者のみを取り出して甲1の200単位の投与の結果のみを読み取ることができず,そのため,甲1のH群の患者中,前記の本願発明にいう患者のみの甲1の200単位の投与の結果から,本願発明と同じ内容の発明の認定ができるか否かは,定かではない以上,相違点1において,甲1発明と本願発明とが同じ内容の発明である(本願発明が甲1発明に含まれる。)ということはできない。したがって,相違点1に係る新規性についての審決の判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には理由がある。
ただし・・・(略)・・・本願発明は,骨粗鬆症患者のうち,より重篤な病態で,骨折のリスクがより増大している者を対象に,甲1と同じ用量・頻度で同じ薬剤を投与するものであり,その対象者の各条件が,それぞれ各条件を満たす者の群と満たさない者の群とにおける投与結果を比較して,投薬の有効性を分析した結果,定められた条件であるといえないのであって,結局,甲1発明に基づいて,甲1の200単位投与の対象者を,本願発明の対象者とすることにつき,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」
相違点2について
「甲1には・・・椎体骨折の発生数は,L群,M群,H群の間で有意差がなかったと記載されており,また,甲1には,被験薬と対照薬との比較も記載されていないから,当業者が,甲1から直ちに,甲1発明が「骨折抑制」の効能を有することを把握することはできないというべきであり,相違点2は,実質的な相違点とすべきものである。したがって,審決の相違点2に係る判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には,相違点2に係る判断においても,理由がある。
ただし・・・(略)・・・骨密度は,骨強度を約70%説明するものであり,・・・甲1発明の骨粗鬆症治療剤の投与の結果に,骨折抑制の効果を期待すると認められるのであって,甲1発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を,骨折抑制のためのものとすることに,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」
効果の顕著性について
「甲1発明と比較した本願発明の効果については,原発性骨粗鬆症患者であって,(1)年齢が65歳以上である,(2)既存の骨折がある,(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるという条件の全てを満たす者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果と,前記(1)~(3)の条件のいずれか又は全てを満たさない者にPTH(1-34)の200単位の投与をすることにより奏される効果とを対比すべきである。
この点,・・・(略)・・・甲1には,甲 1 の200単位投与につき,骨折抑制効果があることを直接認めるに足りる記載がなく,本願明細書には,これを直接認め得る記載があるとしても,その効果が,前記(1)~(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者に限って生じ,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者には生じないことを,本願明細書から読み取ることはできないのであって,本願明細書から,甲1発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認めることはできない。」
【コメント】

日本における進歩性の判断において、効果の顕著性が認められるには、当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされていなければならないのか(進歩性のための明細書記載要件)。本件にける本願発明は、患者群を特定した医薬用途発明に関するもので、引用発明に含まれる蓋然性が高いような場合であり、構成要件を満たす患者群に奏される効果と満たさない患者群に奏される効果とを対比して効果の顕著性を明細書から読み取れるように示していなかったため、効果の顕著性が認められないと判断された。

患者限定の医薬用途発明の過去記事:
骨粗鬆症治療剤テリボン®(TERIBONE®)は、週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤。有効成分であるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩は、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34 ペプチド断片である。テリパラチドとして 56.5μg(200単位)を1週間に1回皮下注射する。効能又は効果(抜粋)は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症(効能・効果に関連する使用上の注意
本剤の適用にあたっては、低骨密度、既存骨折、加齢、大腿骨頸部骨折の家族歴等の骨折の危険因子を有する患者を対象とすること。)。製造販売承認は2011年9月26日、再審査期間は2017年9月25日(6年)まで。

Dec 11, 2016

2016.11.30 「テバ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10121; 平成28年(行ケ)10122; 平成28年(行ケ)10123; 平成28年(行ケ)10124

DuoResp Spiromax®吸入デバイスの意匠: 知財高裁平成28年(行ケ)10121知財高裁平成28年(行ケ)10122; 知財高裁平成28年(行ケ)10123; 知財高裁平成28年(行ケ)10124

【背景】

意匠に係る物品を吸入器とする下記態様の意匠に関する登録出願(意願2014-007570; 意願2014-007571; 意願2014-007572; 意願2014-007573)の拒絶審決(不服2015-15459号; 不服2015-15460号; 不服2015-15461号; 不服2015-15462号)取消訴訟。

意願2014-007570

意願2014-007571

意願2014-007572

意願2014-007573
審決理由は、下記「薬剤吸入器」の引用意匠(特開2007-289716に掲載)に類似する意匠であるから、意匠法3条1項3号に該当し意匠登録を受けることができないというもの。

引用意匠(特開2007-289716)

【要旨】

以下、知財高裁平成28年(行ケ)10121を抜粋。平成28年(行ケ)10123も判決は同じ。平成28年(行ケ)10122及び平成28年(行ケ)10124も意匠がその中央に円形孔及びその周囲に4つの小円形孔が形成された端壁を設けたものである点以外、判決内容は実質同じ。

主 文
特許庁が不服2015-15459号事件について平成28年1月20日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断(抜粋)
両意匠に係る物品の性質,用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば,本願意匠と引用意匠は,基本的構成態様において共通するものの,その態様は,ありふれたものであり,需要者の注意を強く惹くものとはいえない。また,具体的構成態様における共通点も,需要者の注意を強く惹くものとはいえない。これに対し,マウスピース部の端部の形態の相違は,需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き,視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与えるものである。
したがって,本願意匠と引用意匠の相違点のうち,マウスピース部の端部について,本願意匠は,その中央に円形孔が形成された端壁を設けたものであるのに対して,引用意匠は,端壁がなく,単に筒状のまま大きく開口した点は,マウスピースカバー部が透明であることと相まって,需要者である患者や医療関係者の注意を強く惹くものと認められ,異なる美感を起こさせるものであり,それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではないというべきである。
よって,本願意匠は,引用意匠に類似するということはできない。

被告は,使用者は主に使用時に限ってマウスピース部の構成態様に注目し,購入時などマウスピースカバー部が閉じられた状態では,透けて見えるにすぎないマウスピース部の端部の態様は,需要者に強い印象を与えるものとはいえない,マウスピース部の端壁の有無は全体から一部分と認められるマウスピース部の,さらにその先端部分のみの相違であって,全体からすると僅かな範囲のものであるとして,マウスピースの端部の相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると主張する。
しかし,マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察するものであるから,かかる部分が全体と比較して僅かな範囲のものであるとしても,マウスピース部の端部の相違点が類否判断に及ぼす影響を限定的であるということはできない。被告の前記主張は採用できない。
【コメント】

Teva UKのwebpageから、本件意匠は、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)を適応症とするDuoResp Spiromax®(Budesonide/Formoterol fumarate dihydrate)に用いられている吸入デバイスであり、Medical Design Excellence Awards 2015を受賞しているようである。日本では、先発品としてアストラゼネカが販売するシムビコート®タービュヘイラー®があるが、テバのデバイス製品はまだ参入していないようである。

参考:

Dec 9, 2016

オキサリプラチン特許侵害差止訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)

2016年12月8日付の日本化薬のプレスリリースによると、同日、知財高裁は、日本化薬による抗悪性腫瘍剤「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」等の製造販売がデビオファーム社の特許権を侵害するとして差止を認めた東京地裁判決(2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416)を、取り消す判決を言い渡した、とのことです。

なお、上記訴訟とは別に、デビオファーム社及びヤクルト本社から、特許権及び専用実施権の侵害を理由として、損害賠償請求訴訟が提起されていましたが、同訴訟についても、東京地裁は侵害を否定しています(2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355)。

参考:

Dec 6, 2016

2016.11.16 「イーライ・リリー v. 沢井製薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10166

骨粗鬆症治療剤エビスタ® ラロキシフェン用途特許無効審決の維持判決: 知財高裁平成27年(行ケ)10166

【背景】

原告が保有する「ベンゾチオフェン類を含有する医薬製剤」に関する特許2749247号の無効審決(無効2013-800139)取消訴訟。争点は進歩性。

本件訂正発明1:
ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む,ヒトの骨粗鬆症の治療または予防用医薬製剤であって,タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い医薬製剤。
本件訂正発明1と引用発明(甲1)とは、「ラロキシフェンまたはその薬学上許容し得る塩を活性成分として含む医薬製剤。」である点で一致し、次の点で相違すると審決は認定した。

相違点1:
本件訂正発明1は,「ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用」であるのに対し,引用発明は,「高齢の卵巣切除ラットの骨密度への作用を確認することを目的として,卵巣切除術を実施した9月齢の退役した経産雌ラットにラロキシフェン100μgを4か月間毎日経口処置した際に,卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」点。
相違点2:
本件訂正発明1は,「タモキシフェンより子宮癌のリスクの低い」のに対し,引用発明は,この点についての記載がない点。
【要旨】

請求棄却。相違点1及び2についての裁判所の判断は以下の通り。

相違点1:
「甲1実験系には,ヒトの閉経後骨粗鬆症動物モデルを用いた実験として,不適切な点は見出せず,甲1実験系によって得られた「ラロキシフェン は卵巣切除による灰密度の低下を有意に遅らせた」との知見を,ヒトの骨粗鬆症にも応用できるとする十分な根拠があるということができる。~当業者は,ラロキシフェンが甲1実験系において卵巣切除ラットの灰密度低下を有意に遅らせたことから,このラロキシフェンをヒトに適用した場合,骨粗鬆症の治療薬又は予防薬として所望の薬効を奏することを合理的に予測できたということができる。」
相違点2:
「ラロキシフェンは,子宮に対してタモキシフェンよりも 弱いエストロゲン作用を示すことは周知であり,子宮湿重量増加作用だけでなく,子宮上皮細胞成長作用も弱いことが知られていたと認められる。 そうすると,ラロキシフェンは,子宮癌の発生に関係する子宮に対するエストロゲン作用がタモキシフェンよりも弱いことが周知であり,特に,子宮上皮細胞成長作用がタモキシフェンよりも弱いことも知られていた以上,当業者であれば,ラロキシフェンは,タモキシフェンよりも子宮癌のリスクが低いことを容易に予測し得たということができる。したがって,引用発明の「9月齢の退役した経産雌ラットにおいて卵巣切除によ る灰密度の低下を有意に遅らせたケオキシフェン」を,ヒトの骨粗鬆症の治療又は予防用医薬製剤として適用した場合に,タモキシフェンより子宮癌のリスクが低い製剤となることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。」
【コメント】

本件特許は、骨粗鬆症治療剤エビスタ®(一般名:ラロキシフェン塩酸塩(Raloxifene Hydrochloride)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM))の用途特許である。2015年4月に本件特許無効の審決がだされた後、沢井製薬は、同年8月に後発品(ラロキシフェン塩酸塩錠 60mg「サワイ」)の承認を得、知財高裁の判断を待たずに同年12月に薬価収載、販売に踏み切っていた。

参考:

Dec 3, 2016

テルミサルタン(telmisartan)に関する特許権について

2016年11月18日、日本ベーリンガーインゲルハイム(株)より「テルミサルタンに関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】テルミサルタンに関する特許権について)。

日本ベーリンガーインゲルハイムは、
テルミサルタンを有効成分とする単剤として、
  • ミカルディス®錠20mg
  • ミカルディス®錠40mg
  • ミカルディス®錠80mg
テルミサルタンを有効成分として含む配合剤として、
  • ミコンビ®配合錠AP
  • ミコンビ®配合錠BP
  • ミカムロ®配合錠AP
  • ミカムロ®配合錠BP
を製造販売しており、これら商品に関しては、以下の特許権を有しているとのことです。
  • 特許4700813号: 多形結晶特許 存続期間満了日2020.01.07
  • 特許4606166号: 経口医薬組成物特許 存続期間満了日2033.09.18
  • 特許4181503号: 二層医薬錠剤特許 存続期間満了日2022.01.16
  • 特許5134963号: テルミサルタンとアムロジピンを含む医薬錠剤特許 存続期間満了日2025.10.29; 無効2015-800204の審決取消訴訟平成28年(行ケ)10223(出訴日2016.10.07)
  • 特許5871294号: テルミサルタン錠剤の調製方法特許 存続期間満了日2035.03.13
  • 特許5833037号: 2種類のみの有効成分を有する二層医薬錠剤特許 存続期間満了日2026.11.22
  • 特許5742045号: 医薬錠剤特許 存続期間満了日2028.03.13
  • 特許4929241号: アモルファスであるテルミサルタンの製造方法特許 存続期間満了日2022.01.16
  • 特許4870161号: 製造方法特許 存続期間満了日2026.07.17
  • 特許5129918号: 精製方法特許 存続期間満了日2023.01.15
  • 特許5160740号: 製造方法特許 存続期間満了日2024.03.26
各製品の再審査期間は下記の通り。
  • ミカルディス®錠
    8年間:2002年10月8日(ミカルディスカプセル製造販売承認日)~2010年10月7日(終了)
  • ミカムロ®配合錠AP
    4年間:2010年7月23日~2014年7月22日(終了)
  • ミカムロ®配合錠BP:
    製造販売承認年月日からミカムロ配合錠AP再審査期間終了時まで:2012年12月21日~
    2014年7月22日(終了)
  • ミコンビ®配合錠AP/ミコンビ®配合錠BP
    6年間:2009年4月22日~2015年4月21日