Jan 22, 2017

2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046

延長された特許権の効力(知財高裁大合議判決): 知財高裁平成28年(ネ)10046
(原審: 2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号の特許権者であるデビオファーム(一審原告)が、東和薬品(一審被告)各製品は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は一審被告各製品の生産等に及ぶ旨主張して、一審被告に対し一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は延長された特許権の効力が一審被告各製品に及ばないとして一審原告の請求を棄却したため、一審原告がこれを不服として控訴した。知財高裁は本件を大合議事件に指定し審理された。

請求項1(本件発明):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

争点は、存続期間が延長された本件特許権の効力が一審被告による一審被告各製品の生産等に及ぶか否か。

知財高裁大合議判決は、延長された特許権の効力は、政令処分の対象となった物と同一の物のみならず、これと実質同一なものにも及ぶこと、及び、実質同一の範囲とはどの範囲であると解すべきかについて説示した上で、特許請求の範囲と明細書から認定される本件発明の技術的特徴から、一審被告各製品は、本件の各政令処分の対象となった物と実質同一なものとはいえないと判断した。また、特許請求の範囲と明細書及び出願の経過で提出された意見書から、本件発明の技術的範囲を認定し、一審被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないとも判断した。控訴棄却。

本判決で示された考え方の要点は以下の通り。

1. 存続期間が延長された特許権の効力範囲について
延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。
2. 「実質同一なもの」の範囲の考え方について
医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。

実質同一の範囲を定める場合には、均等論を適用ないし類推適用することはできない。ただし、延長登録出願の手続において、延長された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には、特許法68条の2の実質同一が認められることはない。
3. 「実質同一なもの」に含まれる類型について
以下の場合は、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。①、③及び④は、両者の間で、特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。

① 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合

② 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき

③ 政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合

④ 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合
4. 先発医薬品への依拠性との関係について
後発医薬品は、先発医薬品と治療学的に同等であるものとして製造販売が承認されるものであり、先発医薬品と代替可能な医薬品として市場に提供されることが前提であるから、そもそも医薬品としての品質において先発医薬品に依拠するものであることは当然である。しかし、これは飽くまで有効成分や治療効果(有効性、安定性を含む。)が原則として同一であるということを意味するにすぎず、特許発明の観点からその成果に依拠するかどうかを問題にしているわけではない。医薬品としての有効成分や治療効果(有効性,安定性)のみから延長された特許権の効力範囲を論じるべきではなく、少なくとも、法68条の2が、およそ後発医薬品であるが故に、すなわち、先発医薬品と同等の品質を備え、これに依拠するが故に直ちに特許権の効力を及ぼそうとする趣旨のものでないことは明らかである。裁判所は、特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当すると解釈すべきとの原告主張を否定した。
【コメント】

知財高裁大合議は、延長された特許権の効力が及ぶ実質同一の範囲を、「特許発明の内容との関連で、技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断する」との一般原則を示した。この考え方は、原審(民事第29部)(2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414)でも言及されていた「延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして…実質同一物についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的である」との考え方に沿ったものと思われる(若干の言葉の違いはあるにせよ)。一方、実質同一の範囲に均等論を適用した地裁判決(民事第40部)(2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415)の考え方は本大合議判決により否定された。また、別の地裁判決(民事第47部)(2016.12.22 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)12412)では、「その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど」との一般的な考え方を示していたが、特許発明の内容と関連させて検討する観点が欠落したものであった。

今回大合議判決で説示・類型①として示されたところによれば、有効成分のみを特徴とする特許発明について延長された特許権については、当該政令処分の対象となった先発医薬品と、同有効成分を有する後発品との間でその特許発明(有効成分)の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認されることから、当該後発医薬品は実質同一なものとしてその効力が原則及ぶとの考え方が示されたといえよう。このことはすなわち、延長された有効成分特許権の効力が当該政令処分の「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」と同一物にしか及ばないと解釈されてしまうという最悪の事態は避けられたことを意味する。

一方、類型②として示されたように、いわゆる製剤発明に関する延長された特許権については、製剤発明の技術的特徴及び作用効果に照らして、当該政令処分の対象となった先発医薬品と後発医薬品との間で同一性があるのかどうかが重要なポイントとなり、事案によってその判断が異なってくると思われる。本事件においては、問題となった製剤発明の技術的特徴が極めて限定された範囲である(他の添加剤等の成分を含まない水溶液)と解釈されたため、実質同一性が否定された。しかし、だからといって、延長された製剤発明の特許権は一般的にはもはや意味のないものとなったと悲観することはないと考えられる。製剤発明の技術的特徴及び作用効果を後発医薬品が明らかに持ち合わせているような場合であれば、一部において異なる成分を付加、転換しているような場合であっても実質同一なものとして認定される余地は残されているからである。今後、延長された特許権の効力が及ぶか否かの争いは、製剤発明に関するもので多発すると思われるが、技術的特徴及び作用効果は事案毎に異なるだろうから、個別具体的に判断されていくことになると予想される。

特許発明の内容との関連で技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して実質同一性を判断するということは、すなわち、延長された複数の特許権が存在する場合、それぞれの効力は、それぞれの特許発明の技術的特徴等に応じて互いに重畳的に後発医薬品に及ぼし得ることを意味すると考えられる。今後、製剤発明に関する延長された特許権の効力はその発明の技術的特徴によって個別具体的な判断で争われるにしても、有効成分発明に関する延長された特許権の効力がこれまでどおり後発医薬品に及ぶと解されることから、今回の大合議判決は、先発医薬品メーカーにとっても妥当な内容としてとらえることができるのではないだろうか。

本審理において、一審原告から追加的主張(当該政令処分対象物の成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当するとの主張)が出され、大合議はその主張についても判断している。当ブログ記事「2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415」のコメントにおいて、後発医薬品の依拠性に関連して「実質的同一物」の範囲について一提案を示したが、残念ながら大合議はそのような観点での解釈を制度趣旨や解釈論を無視するものとして否定している。

参考:

3 comments:

週末アングラー said...

いつも楽しく拝見させていただいております。当大合議判決についてご意見をお伺いしたく、コメントさせていただきます。ブログ内容に関する指摘等ではありませんので、その点、ご理解・ご容赦いただければ幸いです。
本判決の類型1は、延長された物質発明に係る特許権の効力について判示していると理解していますが、これまでの運用や欧米制度を考慮すると少し疑問に感じました。というのも、類型1を反対解釈すると、対象製品の製剤処方と処分の対象となった物の製剤処方における差異が、周知・慣用技術を超えたものである場合、物質特許の延長期間が残っていたとしても、延長された物質特許に基づく権利行使が認められないように読めるからです。
そもそも当類型は例示列挙であり、反対解釈すること自体適切でないのかもしれませんが、本件のケースでない物質特許の延長にまで踏み込んでわざわざ規範しており、釈然としない感じがしました。
唐突なコメントとなり恐れ入ります。上記について、ご意見・ご指摘等ありましたら、よろしくお願いします。

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございます。「実質同一なもの」の範囲の考え方について、判決では、まずは特許発明の内容(当該特許発明が、医薬品の有効成分のみを特徴とする発明であるのか、医薬品の有効成分の存在を前提として、その安定性ないし剤型等に関する発明であるのか、あるいは、その技術的特徴及び作用効果はどのような内容であるのかなどを含む)との関連で、医薬品の技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討すべきとの考えを示したうえで、類型を列挙していますので、「実質同一なもの」はこれら類型に限定されるものではない(つまり例示である)と思います。従って、仰る通り、類型を反対解釈するのは適切ではなく、まずは特許発明の内容との関係で検討するというのが前提にあって、分かりやすい類型が例示されたのだと思います。しかし、物質特許の延長の効力が及ぶか及ばないかは極めて影響力の大きな問題であるので、やはり、ご指摘の点は気になるところです。

週末アングラー said...

返信ありがとうございます。やはり反対解釈は適切ではないですね。ありがとうございます。
個人的に、今回の大合議判決は、特許発明の技術的特徴や作用効果の同一性を比較検討して実質同一の判断を行うとしている点や当判断基準において地裁判決の「新たな効果」採用していない点で、納得感があります。ただ、仮想事例を想像しながら類型を読み進めて行くと、うーん、、、となってしまいました。
最高裁判決を見たいですが、技術的範囲の属否で棄却されるかそもそも上告されないかもなので、まだまだ予見性の低い状況が続くのかなと思っています。