Aug 27, 2017

2017.07.12 「X v. シアトル ジェネティクス」 知財高裁平成28年(行ケ)10148

明細書記載データの一部分に誤記があったときの釈明知財高裁平成28年(行ケ)10148

【背景】

被告(シアトル ジェネティクス)が保有する「低いコアフコシル化を有する抗体及び抗体誘導体を調製するための方法並びに組成物」に関する特許第5624535号の特許無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800102号)の取消訴訟。争点は、①進歩性の判断の当否(相違点の容易想到性の判断の誤り)、②実施可能要件に関する判断の適否及び③サポート要件に関する判断の適否。

請求項1:
低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造する方法であって,
糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを介してFcドメインに結合した少なくとも一つの複合N-グリコシド結合糖鎖を有するFcドメインを有する抗体又は抗体誘導体を発現する宿主細胞を有効量のフコース類似体を含む培地中で適切な成長条件下で培養する段階,及び
前記抗体又は抗体誘導体を細胞から分離する段階を含み,
ここで,前記フコース類似体が以下の式・・・であり,・・・
前記抗体又は抗体誘導体が前記フコース類似体の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する,上記方法。
【要旨】

請求棄却。

明細書に記載されているフコース類似体のひとつとして挙げられたアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性のデータが「不自然」であることに端を発した実施可能要件に関する判断の適否について以下に抜粋。

問題となった表1の記載部分は下記のとおり(50μMと1mM)。


原告は、
「本件明細書の表1によると,50μMでの阻害活性が「>80%」と記載されたアルキニルフコースジ(トリメチルアセテート)に,もう1つピバレートエステル基が付加しただけで,阻害活性が「約0%」(50μMアルキニルフコース1,2,-トリ(トリメチルアセテート))となるように,化学構造がわずかでも変化すると活性に大きな相違がもたらされるというのが技術常識であるから,本件発明1のフコース類似体の全てが低いコアフコシル化抗体の製造に使用することができるわけではない」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「当業者であれば,上記フコース類似体の50μMの濃度における阻害活性データを比較した際に,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性が,ピバレートエステル基を1つ多く有するアルキニルフコーステトラキス(トリメチルアセテート)よりも低下していることは,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,不自然であると認識し,その阻害活性データについて,発明の詳細な説明の実施例(段落【0217】等)に記載されたコアフコシル化阻害活性の測定方法によって当該フコース類似体の阻害活性を確認し,表1におけるこのフコース類似体の阻害活性データが誤記であることを確認することに格別の技術的困難があるとは認められない。表1及び2に列挙された各種フコース類似体のコアフコシル化の阻害%のうちで唯一50μMにおいても1mMにおいても効果がないと解される表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の上記データが誤記であることは,共同発明者の1名により本件明細書に記載された実験の元データ(添付資料A。以下「本件データ」という。)を分析した結果報告(甲16。以下「本件分析報告」という。)によれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害が>80%程度であると認められることからも裏付けられる。
したがって,当業者であれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性に関する本件データを参照するまでもなく,発明の詳細な説明の記載から,表1の上記フコース類似体の阻害活性データが誤記であることを推測することができ,そのことを発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて容易に確認することができると認められるし,また,本件分析報告によれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)は,実際には非常に高いコアフコシル化阻害活性(>80%)を有することが確認できるのであるから,フコース類似体として,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)を発明の詳細な説明に記載されたとおりに用いることにより,本件発明1について実施をすることができるものと認められる。
以上によれば,表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)に関する「約0%」及び「ND」の記載のみをもって,実施可能要件を欠くということはできず,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の全体的な開示に基づき,本件発明1について実施をすることができると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

また、原告は、
「審決が,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性のデータが「不自然」であると認定したのは,被告がその後に提出した生データを考慮した上での,後付けの判断によるものといわざるを得ず,この点に関する審決の判断は,本件優先日に当業者が知り得なかった生データに基づくものであるから,特許法36条4項1号の規定に反する」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「当業者であれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性に関する本件データを参照するまでもなく,発明の詳細な説明の記載から,表1の上記フコース類似体の阻害活性データが誤記であることを推測でき,それを発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて容易に確認することができると認められるのは前記認定のとおりである。
このように,本件は,本件明細書に,当業者が,技術常識に照らし,阻害活性に関するデータの一部分が不自然であると推測し確認することができる記載があるといえる場合であるから,本件明細書の発明の詳細な説明(【0217】の表1)に記載された阻害活性のデータ(50μMにおける阻害)について,出願後に補充した本件データを参酌することも許されるものと解される。被告は,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された多くの実験結果の1つに誤記があったことから,本件明細書に記載された内容の範囲内での結果を示すような事後的な本件分析報告を提出して(甲16),上記誤記について釈明しているにすぎない(例えば,特許出願前に実施することができた実験データを,事後的に追完するような場合とは異なる。)。
したがって,出願後に補充した本件データを参酌した審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

争点は、進歩性、実施可能要件、サポート要件であり、いずれも裁判所は審決の判断に誤りはないと結論付けた。

そのうち、実施可能要件については、明細書に記載されているひとつのフコース類似体のデータに効果が無い(阻害活性が0%である)という記載が問題となった。

裁判所は、当業者であれば、本件明細書の記載及び技術常識に照らし、そのデータが不自然であると認識し、誤記であることを確認することに格別の技術的困難があるとは認められないことから、いわゆる後出しデータを参照するまでもなく、誤記であることを推測でき、それを明細書の記載に基づいて容易に確認することができると認められるし、そのような場合には、いわゆる後出しデータで誤記の釈明を参酌することができる、と判断した。

本件裁判所の判断によれば、明細書に記載されたデータの一部分に誤記があったときに釈明するためのポイントは以下の2点となる。
①当業者が、明細書の記載及び技術常識に照らして、その部分が不自然(誤記)であると推測できること
②当業者が、明細書の記載に基づいて、格別の技術的困難なく、そのデータの一部分を再確認することができること


Aug 21, 2017

製薬協 「オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について」

オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決において延長された特許権の効力の及ぶ範囲(特許法第68条の2の解釈)について一定の判断が示されたことを受け、2017年8月21日、日本製薬工業協会知的財産委員会としての意見が出されました。

日本製薬工業協会webpage: 2017.08.21 「オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について 知財高裁特別部平成29年1月20日判決(平成28年(ネ)第10046号)

(以下、一部抜粋)
(2) 医薬品としての実質同一の判断基準について
・・・政令処分の単純な比較ではなく、特許発明の内容との関連において医薬品の技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討すべきとした点が評価される。
なお、延長された特許権の効力が、医薬品として「実質同一」なものにも及ぶとした前記判断基準は、特許法第67条の3第1項第1号による延長登録の可否を判断する手法(医薬品としての審査事項について、処分の包含関係を判断する方法とは必ずしも一致しない。

(5)おわりに
本判決により、延長登録された特許権の効力が及ぶ範囲について一定の判断基準が示されたものの、未だ不明確な部分があり、「特許権の存続期間の延長」の審査基準の改訂に伴う課題は残されている。今後の判例の積み重ねによって、本制度の導入趣旨に即した方向で、延長登録された特許権の効力が及ぶ範囲が明確化されていくことを期待するが、世の中の動向や新技術の出現等により、本制度の導入趣旨と乖離する方向に進むおそれが生じる場合には、法改正を含めた本制度の抜本的な見直しを検討する必要があるものと考える。
参考:

Aug 20, 2017

2017.07.12 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(行ケ)10160

訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10160

【背景】

被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。本件特許については、無効審判請求不成立とした審決の取消判決が繰り返され、本件が3回目となる(知財高裁平成25年(行ケ)10134; 2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2012-800073号事件について平成28年6月29日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断

裁判所は、訂正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないため、取消事由1(訂正目的違反・発明の要旨認定の誤り)は理由があり、本件審決は違法であって、取消しを免れないものと判断した。その理由の抜粋は以下のとおり。

「訂正事項5は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「針状又は糸状の形状を有すると共に」とあるのを「針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に」に訂正する,というものであり,これを請求項の記載全体でみると,「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」に訂正するものである。・・・すなわち,訂正事項5は,経皮吸収製剤のうち,「シート状支持体の片面に保持される」という使用態様を採らない経皮吸収製剤を除外し,かかる使用態様を採る経皮吸収製剤に限定したものといえる。」

「本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要である。
しかしながら,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様によっても,シート状支持体の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造(特にシート状支持体に保持される部分の形状や構造)も変わり得ることは自明であるし,かかる使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるという関係にあるとも認められない。
したがって,上記の「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様は,必ずしも,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえず,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない(なお,「シート状支持体の片面に保持される」との用途にどのような技術的意義があるのかは不明確といわざるを得ないから,本件訂正発明をいわゆる「用途発明」に当たるものとし
て理解することも困難である。)。
そうすると,訂正事項5による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
なお,仮に,「シート状支持体の片面に保持されると共に」の文言が経皮吸収製剤の使用態様を特定するものではなく,「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し」との文言と同様に経皮吸収製剤の構成を特定するものであるとすれば,本件訂正発明は,「シート状支持体の片面に保持された状態にある経皮吸収製剤」になり,構成としては「片面に経皮吸収製剤を保持した状態にあるシート状支持体」と同一になるから,訂正事項5は,本件訂正前の請求項1の「経皮吸収製剤」という物の発明を,「経皮吸収製剤保持シート」という物の発明に変更するものであり,実質上特許請求の範囲を変更するものとして許されないというべきである(特許法134条の2第9項,126条6項)。
したがって,かかる違法な結果を招来する解釈は取り得ない。」

【コメント】

本件発明は「経皮吸収製剤」なのだから、「経皮吸収製剤保持シート」ではないはずであり、だとすれば、「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」との訂正は、「シート状支持体の片面に保持される」使われ方をするものであったとしても「経皮吸収製剤」自体を形状,構造,組成,物性等により特定するものではないし、その技術的意義が不明確であるから用途発明として捉えることもできないという判断である。前回の判決(2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)同様に、裁判所は、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるための前提として、訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であることを判示した。

参考:

Aug 17, 2017

2017.07.12 「デビオファーム v. ホスピーラ・ファイザー」 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

出願経過を参酌して「オキサリプラティヌムの水溶液」の技術的範囲を判断: 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許1)及び「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号(本件特許2)を有する控訴人(デビオファーム)が、被控訴人(ホスピーラ)の製造、販売する各製品(被告各製品)は上記各特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(本件発明1及び本件発明2)の技術的範囲に属する旨主張して、被控訴人に対し、被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は、被告各製品は,延長された本件特許権1の効力が及ぶものではなく、また、本件発明2の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

原審:

知財高裁(第3部)は、被告各製品は本件発明1の構成要件1Cを充足せず,また,本件発明2の構成要件2B,2F及び2Gを充足しないから,その余の構成要件について検討するまでもなく,被告各製品は,本件発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しないと判断した。控訴棄却。

1 構成要件1C(オキサリプラティヌムの水溶液からなり)の充足性)について
「・・・本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を総合的にみれば・・・本件発明1の特許請求の範囲における「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件1C)とは,本件発明1がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないものであることを意味すると解するのが相当である。
・・・被告各製品は,オキサリプラティヌムと水のほか,酒石酸及び水酸化ナトリウムが添加されているものであるから,構成要件1Cを充足しない。」
2 構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」の充足性)について
「本件発明2における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるべきである。したがって,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」を含有せず,これらの構成要件を充足しない。」
知財高裁(第3部)は、延長された特許権の効力について判断した地裁判決については触れることなく、地裁では判断しなかった構成要件1Cの充足性の争点も含めて、そもそも被告各製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断して決着させた。


Aug 16, 2017

2017.07.11 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 知財高裁平成29年(ネ)10034

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10034

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:ナガセ医薬品)(日本ケミファは補助参加人)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は進歩性欠如により無効にされるべきものであるとして控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第4部)は、
「争点(1)(技術的範囲への属否)について,本件各発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求はいずれも棄却すべき」
と判断し、請求を棄却した原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

参考:

Aug 11, 2017

アクテムラの追加ロイヤルティ支払い求め英国MRCが中外に対して仲裁申立

2017年8月10日付の中外製薬ニュースリリースによると、英国Medical Research Council(MRC)およびLifeArcは中外製薬に対して、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体『アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))』の開発に際し締結した1990年8月15日付の研究協力契約に関して契約義務違反があると主張し、当該契約に基づく追加のロイヤルティの支払いを求め、2017年5月10日、英国にて仲裁を申し立てたとのことです。

今後の見通しとして、中外製薬は、申立人の主張は無効だと考えており、仲裁の場において、積極的に反論を行っていく方針とのことです。

アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))は、国内で開発された IgG1サブクラスのヒト化抗ヒトインターロイキン 6(IL-6)レセプターモノクローナル抗体。遺伝子組換え技術により、可変領域の中でも特に抗原との親和性が高い相補性決定領域(CDR)をマウス型ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体とし、その他の部分をヒトIgG1 としてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて創製されました。1990年に開始された英国MRCとの共同研究で中外製薬は研究員を派遣し抗体ヒト化技術を習得、結果ヒト化抗体であるトシリズマブの作製に成功したとされています。

参考:

中外製薬 press release: 2017.08.10 「当社に対する仲裁申立に関するお知らせ




Aug 10, 2017

2017.07.11 「デビオファーム v. マイラン」 知財高裁平成29年(ネ)10013

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10013

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:マイラン)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第4部)は、
「争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,構成要件B,F及びGを充足せず,本件特許発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求は棄却すべき」
と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.06 「デビオファーム v. マイラン」 東京地裁平成27年(ワ)29001

Aug 9, 2017

2017.06.29 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 知財高裁平成29年(ネ)10008

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10008

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:共和クリティケア)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明又は本件訂正発明の技術的範囲に属しない」
と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.07 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 東京地裁平成27年(ワ)29158

Aug 8, 2017

2017.06.29 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 知財高裁平成29年(ネ)10010

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10010

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人ら(一審被告:第一三共エスファ、富士フイルムファーマ、ニプロ)に対し、被控訴人ら各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第2部)は、
「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人ら各製品は,いずれも,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明1又は本件訂正発明1~の各技術的範囲に属しない」
と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.02 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 東京地裁平成27年(ワ)28699・平成27年(ワ)28848・平成27年(ワ)29004

Aug 7, 2017

2017.06.28 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 知財高裁平成28年(ネ)10112

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成28年(ネ)10112

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有するデビオファーム及び専用実施権者であるヤクルト(控訴人ら)が、被控訴人(日本化薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、損害賠償支払いを求めた事案。原判決は、被控訴人各製品は本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しないとして控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らは本件控訴を提起した。

知財高裁(第3部)は、
「争点1-1(構成要件1B,1F及び1Gの充足性)について,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件1B,1F及び1Gの「緩衝剤」を含有するものではなく,これらの構成要件を充足しない~以上によれば~被告各製品は,いずれも本件発明1の技術的範囲に属しない。」
と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

参考:


Aug 1, 2017

2017.06.22 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10141

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないと判断された事例: 知財高裁平成28年(行ケ)10141

【背景】

「苦味マスキング食材,及び苦味マスキング方法」に関する特許出願(特願2011-185374)の拒絶審決(不服2014-5021)取消訴訟である。主な争点は、①本願発明と引用発明との相違点は実質的な相違点ではないとした新規性判断の誤りの有無、②プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないとした明確性要件の判断の誤りの有無である。

請求項1:
可食物の苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とすることを特徴とし,及び,さらに,前記可食凝集剤は,凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり,凝集奇特作用を有する水酸化カルシウムを主成分とすることを特徴とする,pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で,かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに,単に混ぜるだけで有効な,苦い可食物の苦味を奇特強力にマスキングするものであることを特徴とする,苦味マスキング剤。
請求項5:
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の苦味マスキング剤を使うことを特徴とする苦味マスキング方法。
請求項11:
請求項5乃至請求項10のいずれか1項の方法を用いて製造されたことを特徴とする可食物。
【要旨】

請求棄却。

1.取消事由1(新規性判断の誤り)について

裁判所は、本願発明1と引用発明(ポリフェノールを含有する食品に添加してポリフェノールの渋味,苦味または収斂味を軽減する水酸化カルシウム)との相違点1~4は、いずれも実質的に相違するということはできないから、本願発明1は引用発明であると判断し、本願発明1は新規性がないとした。

原告は、
「引用発明の実施例は,水酸化ナトリウムと重曹のみであり,水酸化カルシウムは,いろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎない」
と主張したが、裁判所は、
「引用文献には,前記(1)のとおり,ポリフェノールの渋味等の軽減の機序として,ポリフェノールを,水酸化ナトリウム,水酸化カルシウム,水酸化マグネシウム及び水酸化カリウムより成る群から選ばれるアルカリを用いて,ポリフェノールのナトリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩又はカリウム塩とすることが記載されているとともに,水酸化ナトリウムを用いた実施例により,ポリフェノールの渋味等の軽減効果が得られたことが記載されているから,このような記載に接した当業者は,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がなくても,ポリフェノールに水酸化ナトリウムに代えて水酸化カルシウムを添加した場合にも,ポリフェノールがポリフェノールのカルシウム塩となることにより,渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができる。したがって,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がないことをもって,引用文献から引用発明を認定した本件審決が誤りであるということはできない。原告の主張は,理由がない。」
と判断した。

2.取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について

裁判所は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するときに限られると解するのが相当である、という最高裁判決(平成24年(受)第1204号)を参照しつつ、
「請求項11は,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たる。そして,本願明細書には,不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであることを認めるに足りる証拠もない。・・・そうすると・・・請求項11の記載は,特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないから,本願は,全体として特許を受けることができない。」
と判断した。

原告は、
「『不可能・非実際的事情』が存在することの主張・立証をする。出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であり,かつ,およそ実際的でないという事情である。つまり,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが,当方にとって,全く不可能であり,かつ,当方にとって,全く実際的でないという事情である。また,本願明細書[0008]に『新しいマスキング方法を提供する』と,明記してある。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願明細書の【0008】には,「新しい苦味マスキング剤及び方法を提供する事を目的とする。」と記載されているが,この記載が,不可能・非実際的事情を直ちに基礎付けるものでないことは明らかであり,原告の上記主張によっても,不可能・非実際的事情が存在するとは認められない。」
と判断した。

また、原告は、
「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序が,動植物体内の連続反応の様々な locus(loci)に係っていると推測され,これを解明することができないことが,不可能・非実際的事情に当たる」
旨主張した。

しかし、裁判所は、
「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序を特定することが困難であるとしても,請求項11の「可食物」をその構造又は特性により直接特定するに当たり,このような機序を記載しなければならないものとは認められないから,原告主張の機序の特定が困難であるという事情は,不可能・非実際的事情を基礎付けるものとはいえない。」
と判断した。

【コメント】

1.新規性判断について

原告は、引用文献に記載された「水酸化カルシウム」はいろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎないと主張したが、裁判所は、引用文献の記載に接した当業者は「水酸化カルシウム」を添加した場合にも渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができるとして原告の主張を退けた。新規性を否定する引用発明の成立性/適格性/根拠データは必要かどうかについて、これまで収集した過去事例はこちら(記載要件/引例適格/データは必要か)

2.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」の判断について

裁判所は、本願プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」は明らかでないとして、特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないと判断した。出願人が一定の事情が存在すること(直接特定が不可能・非実際的であること)を主張立証しなければならないわけであるが、具体的にどのような主張をすれば「不可能・非実際的事情」が存在することを立証することができたと判断されるのか、この事例を見ても判然としないままである。主張立証出来たと判断された判決の蓄積を待つしかないだろう。

医薬分野ではないが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判所判決後にいくつかの知財高裁判決が存在する。これらは、一定の場合には、プロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はない又は「不可能・非実際的事情」の主張立証を要しないと解するのが相当であると判断して決着させているようである。
  • 2016.09.20 知財高裁平成27年(行ケ)10242
    「プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,その製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であることなどから,第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによるところ,特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても,当該製造方法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断すれば一義的に明らかである場合には,上記問題は生じないといってよい。そうすると,このような場合は,法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思われる。」
  • 2016.09.29 知財高裁平成27年(行ケ)10184
    「PBP最高裁判決が上記事情の主張立証を要するとしたのは,同判決の判旨によれば,物の発明の特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,製造方法の記載が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解される。そうすると,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは,当該発明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから,このような特段の事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当である。」
  • 2016.11.08 知財高裁平成28年(行ケ)10025
    「本願補正発明1及び2に係る前記の各記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ,「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。」
参考: