Sep 19, 2017

2017.07.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 知財高裁平成29年(ネ)10015

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10015

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:沢井製薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、「本件発明等における『緩衝剤』には,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれる」という原告の主張を前提とすると、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明の技術的範囲に属せず,本件訂正発明の技術的範囲にも属しない」
と判断し、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 東京地裁平成27年(ワ)28698

Sep 17, 2017

2017.07.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 知財高裁平成29年(ネ)10014

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10014

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:武田テバファーマ)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明の技術的範囲に属せず,本件訂正発明の技術的範囲にも属しない」
と判断し、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)28467

Sep 9, 2017

中外がハーセプチン®バイオシミラー承認申請した日本化薬に対し用途特許侵害で製造販売差止訴訟提起

2017年9月8日付の中外製薬(株)プレスリリースによると、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン®注射用60」および「ハーセプチン®注射用150」のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請者である日本化薬(株)に対し、ロシュ・グループのジェネンテック社が保有する用途特許の侵害を理由として、専用実施権者である中外製薬は、ジェネンテック社とともに、8月17日付で東京地裁にバイオ後続品の製造販売等の差し止めを求める訴訟を提起し、併せて仮処分命令の申立てを行ったとのことです。

日本新薬は、韓国セルトリオン社と共同開発を進めてきたトラスツズマブ(開発コード CT-P6)のバイオ後続品の製造販売承認申請を2017年4月11日に行っており、承認はまだ得られていません(日本新薬
press release: 2017.04.11 「トラスツズマブ(遺伝子組換え)製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請について」)。

中外製薬は、日本新薬のバイオ後続品はまだ承認されていない(従って、薬価収載・製造販売には至っていない)現時点で、差し止め請求及び仮処分命令申立という訴訟提起に踏み切ったことになります。


ハーセプチン®(Herceptin®)について

ハーセプチン®(Herceptin®)注射用は、ジェネンテック社が創製したHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2:ヒト上皮増殖因子受容体 2 型)の細胞外領域に結合し、HER2過剰発現ヒト腫瘍細胞の増殖を抑制する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「トラスツズマブ(Trastuzumab)(遺伝子組換え)」を有効成分とする抗悪性腫瘍剤。米国において1992年より臨床試験が開始され、1998年乳癌治療薬としては世界で最初のヒト化モノクローナル抗体治療薬として、FDAで認可されました。国内では2001年4月4日承認され、HER2過剰発現が確認された乳癌、HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌に効能・効果が認められています。用法及び用量は下記の通りです。
HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法又はB法を使用する。HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する。
A法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には4mg/kg(体重)を、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。
B法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。
なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。

ジェネンテックが保有する特許について

ジェネンテックが保有する「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」に関する特許権(第5818545号)が2015年10月9日に設定登録がなされました。存続期間満了日は2020年8月25日。2016年6月にセルトリオンが特許無効審判請求をし、2017年3月にはファイザーが参加人として加わりましたが、特許庁は請求は成り立たないとの審決(無効2016-800071)を2017年7月に下しています。また、同特許に対して、別途ファイザーが2017年5月に無効審判を請求しています(無効2017-800062 )。今回の中外製薬のプレスリリースにある「ジェネンテック社が保有する用途特許」とはおそらく、少なくとも、この特許のことではないかと推測され、特許の有効性や侵害訴訟の行方など、今後の動向が注目されます。

特許第5818545号の請求項1:
(i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。

参考:

Sep 3, 2017

2017.07.19 「三栄源エフ・エフ・アイ v. ジェイケー スクラロース」 知財高裁平成28年(行ケ)10157

数値限定に関する訂正要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10157

【背景】

原告(三栄源エフ・エフ・アイ)が保有する「酸味のマスキング方法」に関する特許第3916281号に対して被告(ジェイケー スクラロース)が請求した無効審決(無効2014-800118)取消訴訟。審決は、無効審判請求に対して原告がした訂正請求(本件訂正)が特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項又は6項の規定に適合せず認められないとした上、進歩性欠如等により本件特許は無効とすべきものであると判断した。原告は、本件訂正が認められるべきであるとして、本件審決取消訴訟を提起した。

請求項1:
(訂正前)
醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品,又はコーヒーエキスを含有する製品に,スクラロースを該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする酸味のマスキング方法。
(訂正後)
醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品に,スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする該製品の酸味のマスキング方法。
上記訂正事項1が訂正要件を満たすか否か問題となった実施例2の記載は下記の通り。
【0016】
実施例 2:ピクルス
醸造酢(酸度10%)15部、食塩6.5部、ハーブ(ディル )抽出物0.4部、ウコン粉末0.2部、ディルフレーバー0.1部、スクラロース0.0028部、又はハイステビア500(ステビア抽出物 池田糖化工業株式会社製)0.013部を水にて100部とし、ローレル、カッシャ、唐辛子を適量加える。この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ、瓶詰めする。
その結果、スクラロース又はステビア抽出物を添加していないピクルスに比べて、酸味がマイルドで嗜好性の高いピクルスに仕上がった。
請求項2:
(訂正前)
クエン酸を水溶液濃度で0.1~0.3%含有する製品に,スクラロースを0.0000075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有製品の酸味のマスキング方法。

(訂正後)
クエン酸を0.1~0.3%含有する飲料に,スクラロースをその甘味を呈さない範囲で且つ0.00075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有飲料の酸味のマスキング方法。
請求項3:
(新たに設けられた)
コーヒーエキスを含有する飲料に,スクラロースを,極限法で求めた甘味閾値の1/100以上0.0013重量%以下の量で添加することを特徴とする該飲料の酸味のマスキング方法。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2014-800118号事件について平成28年6月10
日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所は、
「ピクルスにおけるスクラロース濃度は,実施例2において調味液のスクラロース濃度を0.0028重量%とし,この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めされて製造されるものであるから,きゅうりに由来する水分により0.0028重量%よりも低い濃度となることが技術上明らかである(きゅうりにスクラロースが含まれないことは,当事者間に争いがない。)。そして,0.0028重量%よりも低いスクラロース濃度においてピクルスに対する酸味のマスキング効果が確認されたのであれば,ピクルスにおけるスクラロース濃度が0.0028重量%であったとしても酸味のマスキング効果を奏することは,本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者に明らかである。そのため,スクラロースを0.0028重量%で「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」に添加すれば,酸味のマスキング効果が生ずることは当業者にとって自明であり(実施例3の「おろしポン酢ソース」では,スクラロース0.0035重量%で酸味のマスキング効果が生じ,実施例4の「青じそタイプノンオイルドレッシング」では,スクラロース0.0042重量%で酸味のマスキング効果が生じることがそれぞれ開示されている。),このことは本件明細書において開示されていたものと認められる。
そうすると,製品に添加するスクラロースの下限値を「製品の0.000013重量%」から「0.0028重量%」にする訂正は,特許請求の範囲を減縮するものである上,本件訂正後の「0.0028重量%」という下限値も,本件明細書において酸味のマスキング効果を奏することが開示されていたのであるから,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって,訂正事項1は,当業者によって本件明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえるから(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決参照),特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものと認めるのが相当である。
以上によれば,訂正事項1が本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合しないとした審決の判断には誤りがあり,原告の主張する取消事由1は理由がある。」
と判断した。

被告は、
「実施例2において酸味をマスキングしているか否かを確認したのは,調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めして得られたピクルスであり,そのピクルスの酸味がマイルドで嗜好性の高いものであることが本件明細書に記載されているのであって,当該調味液の酸味がマスキングされたことについては本件明細書の実施例2に何ら記載されていないとして,原告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものである」
などと主張した。

裁判所は、
「確かに,実施例2における酸味をマスキングする対象は,ピクルスであって調味液であるとは認められず,これを調味液であるという原告の主張は,本件明細書の記載に照らし,失当というほかない。しかしながら,酸味をマスキングする対象がピクルスであり,この場合におけるスクラロース濃度が直接明らかでないとしても,当該濃度で酸味のマスキング効果を奏すれば,少なくともこれより高い濃度である「0.0028重量%」の濃度で酸味のマスキング効果を奏することは,本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者にとって明らかなことである。そうすると,訂正事項1は,スクラロース濃度の下限値を「0.0028重量%」の濃度に減縮するものであり,当該濃度が酸味のマスキング効果を奏することは本件明細書に開示されていたといえるから,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。」
と判断した。

裁判所は、その他の訂正事項2(請求項2に係る訂正要件)についても審決の判断には誤りがあると判断したが、訂正事項3(請求項3に係る訂正要件)については実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであり、審決の判断に誤りはないと判断した。

【コメント】

数値限定に関する訂正要件について争われた事件。

審決において、特許庁は、
「上記実施例2のスクラロースの添加量「0.0028重量%」は、「ピクルス」を漬けるための調味液におけるスクラロースの濃度であって、調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせて漬けた後には、きゅうりからどの程度の水分が浸透圧で排出されるか、また、スクロースがどの程度きゅうりに浸透するかなど不明であることから、調味液及びきゅうりのスクラロースの濃度は不明であると言わざるをえない。
そうすると、上記「0.0028重量%」を、製品である「ピクルス」のスクラロースの添加量とみなすことはできない。」
と述べている。

確かに、実施例2のスクラロースの濃度は不明であった。しかし、裁判所は、明細書の記載からその数値の範囲であれば発明の効果を奏することが当業者にとって自明であるならば、そのような数値範囲内において限定する訂正である限りは、特許請求の範囲を減縮するものであり、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということになると判断した。数値限定発明について、さらにその数値範囲(下限値または上限値)を限定するような訂正においては、明細書にその訂正上限値または訂正下限値が具体的に明記されていなくとも、明細書の記載からその範囲であれば発明の効果を奏することが当業者にとって自明である限り、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえると考えられる。付加される訂正(補正)事項が明細書等に明示されているときのみならず、明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになるという点は、除くクレームの訂正(補正)を認めた判決(2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563; 2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065)からも整合するものといえる。

参考: