Nov 19, 2017

2017.09.29 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)30872

医薬特許に対する先使用権の抗弁が認められなかった事例東京地裁平成27年(ワ)30872

【背景】

東和薬品(被告)がピタバスタチンCa・OD錠4mg「トーワ」(被告製品)を製造等する行為は興和(原告)が保有する特許権(第5190159号)を侵害すると主張して、原告が被告製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原告は弁論準備手続期日において請求項1に基づく請求を撤回、被告は被告製品が本件発明2の技術的範囲に属することを認めた上で先使用権(特許法79条)の抗弁及び特許無効の抗弁(特許法104条の3)を主張した。

請求項1:
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
請求項2:
固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。
【要旨】

主 文
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,前項の製品を廃棄せよ。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。
裁判所の判断

1 争点1(被告は先使用権を有するか)について

被告は、
「先使用権の成立を基礎付ける事実として,本件出願日までに,本件2mg錠剤のサンプル薬を製造して本件2mg製品の製造販売承認の申請に必要な治験を実施したことや,本件4mg錠剤のサンプル薬を製造して被告製品(本件4mg製品)の製造販売承認の申請に必要な治験を実施した」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「本件出願日までに,被告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされていた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難であるし,この点を措くとしても,・・・本件出願日までに,本件2mg製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件E(固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である)を備えるものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権が成立したということはできない。」
と判断した。

被告は「乙32実験報告書」を提出したが、測定値はこれらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が経過した時点のものであり、4年以上が経過しても錠剤の水分含量がそのまま保持されることを直接裏付ける証拠はないとして、本件出願日までに被告において本件発明2と同じ内容の発明がされていたと認めることはできないとされた。

2 争点2(本件発明2についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について

裁判所は、本件発明2についての特許は、被告主張の理由及び証拠によっては無効とされるべきものとは認めることができないと判断した。以下抜粋。
「本件発明2と乙7発明とを対比すると,両発明は・・・②本件発明2では「固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である」のに対し,乙7発明では固形製剤の水分含量が「1.5~2.9質量%」の数値範囲にあるか否かが明らかでない点(以下「相違点②」という。)において相違するものと認められる。・・・乙7公報の記載上,上記追試等において固形製剤の水分含量が本件発明2の数値範囲に含まれる値となるべきものと認めるべき根拠はなく,また,固形製剤の水分含量(殊にその下限値)と5-ケト体の生成抑制との関係についての示唆等は見当たらない。・・・当業者であれば,一般論としては,当該固形製剤の水分含量を低く調整することを試みることが容易であるといえるとしても,上記各書証に,ピタバスタチン又はその塩を含有する医薬製剤の水分含量をあえて本件発明2の数値範囲の下限である「1.5質量%」を下回らないようにすることの動機付けとなる記載があるとはいえない。・・・したがって,当業者といえども,乙7発明から出発して,相違点②に係る本件発明2の構成に想到することは,容易ではなかったものというべきである。」
被告は、
「本件明細書の【表4】には,水分含量が1.5質量%未満のデータが存在しないから,本件発明2における水分含量の数値範囲の下限値の意義が不明である」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「本件明細書において当該下限値の臨界的意義が具体的な技術的裏付けを伴って明らかにされているとはいえないとしても,そのことによって,当業者であっても相違点②に係る本件発明2の構成に想到することは容易でなかったとする上記認定判断が直ちに左右されるものとはいえない。」
と判断した。

【コメント】

本件のように、被疑侵害品を測定しなければ特許発明の技術的範囲に属するかどうか分からないようなクレーム構成であってその構成要件が経時的に変化しうるものである場合、現存進行形で侵害しているかどうかを特許権者側が立証するためには現存する被疑侵害品を測定すれば済むわけであるが、一方、先使用権の抗弁を主張する被疑侵害者側にとっては、そのような特許発明の構成要件の存在を知らずに対象実施品をあらかじめ測定して記録を残しておくことは不可能であり、優先日前の実施品を運よく保管していたとしてもそれが過去に遡って優先日前もその構成要件が備わっていたといえることを立証する必要が出てくる。そもそも先使用権の立証は容易でないところ、本件のように発明の構成要件が経時的に変化しうる場合において、先使用権の抗弁を主張立証するためには、どのような準備をしておくことが現実的な方策なのか、難しい問題である。

J-PlatPatのよると、本件特許に対して無効審判は請求されていないようである。

参考:


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