Nov 25, 2017

2017.10.13 「アーシャ ニュートリション サイエンシーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10216

医薬の用途発明の実施可能要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10216

【背景】

「脂質含有組成物およびその使用方法」に関する特許出願(特願2011-506377; WO2009/131939; 特表2011-518223)の拒絶審決(不服2014-8788)取消訴訟。サポート要件及び実施可能要件を満たしていないことが審決の理由。

本願発明:
「対象における,更年期,加齢,筋骨格障害,気分変動,認知機能低下,神経障害,精神障害,甲状腺障害,過体重,肥満,糖尿病,内分泌障害,消化器系障害,生殖障害,肺障害,腎疾患,眼障害,皮膚障害,睡眠障害,歯科疾患,,自己免疫疾患,感染症,炎症性疾患,高コレステロール血症,脂質異常症,または心血管疾患から選択される医学的状態の予防および/または治療における使用のための,異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって,前記配合物は,ある用量の ω-6脂肪酸および ω-3脂肪酸を含み,ω-6対 ω-3の比が4:1以上であり:
(i)ω-3脂肪酸は,総脂質の0.1~20重量%であるか;または
(ii)ω-6脂肪酸の用量は,40g以下である,脂質含有配合物。」
特に、審決は、本願発明に係る各医学的状態のうち、内分泌障害、腎疾患及び癌の3疾患(「本件3疾患」)を捉え、本願明細書の発明の詳細な説明にはこれらに係る実施例の記載がなく、これらを予防および/または治療することに本願発明が有用であると当業者が理解できる記載は認められないとして、本願は実施可能要件を満たさない旨判断した。

【要旨】

裁判所は、実施可能要件についての審決判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。まず、裁判所は、医薬の用途発明について特許法36条4項1号(実施可能要件)を満たすためには何が必要か以下のように言及した。
「特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ,ここでいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明に係る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならない。
そして,本願発明のような医薬の用途発明においては,一般に,物質名や成分組成等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができない。そのため,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすものといえるためには,明細書の発明の詳細な説明が,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らし,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。」
そして、裁判所は、本願発明については以下のように判断した。
「本願発明について医薬としての有用性があるといえるためには,前記所定の比率及び量のω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸を含む脂質含有配合物(以下「本願発明に係る配合物」という。)を対象者に用いた場合に,本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じるものであることが必要であり,したがって,本願発明が実施可能要件を満たすものといえるためには,本願明細書の発明の詳細な説明が,本願出願当時の技術常識に照らし,本願発明に係る配合物を使用することによって本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じることを当業者が理解できるように記載されていなければならないものといえる。
このように,本願発明について実施可能要件の充足性を判断するに当たっては,本願出願当時の技術常識を踏まえる必要があるところ,本願出願前の文献をみると,・・・ω-6脂肪酸の過剰摂取による健康障害を避けるため,ω-6脂肪酸の摂取を減らし,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の摂取量の比率を「4:1」程度までにとどめるのが望ましいことが,本願出願当時の技術常識であったものと認められる。・・・したがって,それにもかかわらず,本願発明に係る配合物が医薬としての有用性を有すること,すなわち,本願発明に係る配合物を使用することによって本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じることを当業者が理解できるといえるためには,本願明細書の発明の詳細な説明に,このような効果の存在を裏付けるに足りる実証例等の具体的な記載が不可欠なものといえる。
・・・しかしながら・・・本願明細書の本願発明に係る各医学的状態についての実施例の記載をみても,当業者が,本件3疾患を予防および/または治療することに本願発明が有用であると理解できるような記載があるとはいえない。」
【コメント】

医薬の用途発明の実施可能要件について判断された事例。医薬の用途発明において実施可能要件を満たすものといえるためには、明細書の発明の詳細な説明が、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らし、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。出願当時の技術常識を踏まえても当業者が有用性を理解できないのであれば、医薬としての有用性、すなわち効果の存在を裏付けるに足りる実証例等の具体的な記載が明細書に不可欠であるということである。

本願の欧米状況を確認したところ、欧州では審判部まで争い(T1712/15)、米国ではCAFCまで上訴(2016年8月16日)しているようである。

参考: Asha Nutrition Sciences, Inc.のwebpageからの知的財産情報(http://asha-nutrition.com/research/intellectual-property/


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