Jan 24, 2017

小野・BMS v. Merck 抗PD-1抗体特許係争で和解

2017年1月21日付の小野薬品のプレスリリースによると、小野薬品およびブリストル・マイヤーズ スクイブ社(BMS社)は、小野薬品と本庶佑氏との共有に係る抗PD-1抗体の用途特許および小野薬品とBMS社との共有に係る抗PD-1抗体の物質特許を保有しており、メルク社による抗PD-1抗体製品である「キイトルーダ®」(一般名:ペムブロリズマブ)の販売等の特許侵害に対し、日本、米国、欧州等において特許侵害訴訟を提起するなど係争していましたが、このたび小野薬品およびBMS社はメルク社と和解し、ライセンス契約を締結したとのことです。

本契約により、小野薬品およびBMS社が保有する用途特許および物質特許が有効であることを確認した上で、メルク社の「キイトルーダ®」の販売を許諾すること、また、メルク社は
小野薬品およびBMS社に対して6億2500万ドルの頭金を支払い、2017年1月1日から2023年12月31日まではキイトルーダの全世界売上の6.5%、2024年1月1日から2026年12月31日までは2.5%をロイヤルティとして支払うことで合意に至ったとのことです。

なお、頭金およびロイヤルティは当社に25%、BMS社に75%の割合で分配されるとのことです。

今回の和解により、メルク社の「キイトルーダ®」販売に関する各国の訴訟は終結することになります。

参考:

Jan 22, 2017

2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046

延長された特許権の効力(知財高裁大合議判決): 知財高裁平成28年(ネ)10046
(原審: 2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号の特許権者であるデビオファーム(一審原告)が、東和薬品(一審被告)各製品は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は一審被告各製品の生産等に及ぶ旨主張して、一審被告に対し一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は延長された特許権の効力が一審被告各製品に及ばないとして一審原告の請求を棄却したため、一審原告がこれを不服として控訴した。知財高裁は本件を大合議事件に指定し審理された。

請求項1(本件発明):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

争点は、存続期間が延長された本件特許権の効力が一審被告による一審被告各製品の生産等に及ぶか否か。

知財高裁大合議判決は、延長された特許権の効力は、政令処分の対象となった物と同一の物のみならず、これと実質同一なものにも及ぶこと、及び、実質同一の範囲とはどの範囲であると解すべきかについて説示した上で、特許請求の範囲と明細書から認定される本件発明の技術的特徴から、一審被告各製品は、本件の各政令処分の対象となった物と実質同一なものとはいえないと判断した。また、特許請求の範囲と明細書及び出願の経過で提出された意見書から、本件発明の技術的範囲を認定し、一審被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないとも判断した。控訴棄却。

本判決で示された考え方の要点は以下の通り。

1. 存続期間が延長された特許権の効力範囲について
延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。
2. 「実質同一なもの」の範囲の考え方について
医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。

実質同一の範囲を定める場合には、均等論を適用ないし類推適用することはできない。ただし、延長登録出願の手続において、延長された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には、特許法68条の2の実質同一が認められることはない。
3. 「実質同一なもの」に含まれる類型について
以下の場合は、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。①、③及び④は、両者の間で、特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。

① 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合

② 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき

③ 政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合

④ 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合
4. 先発医薬品への依拠性との関係について
後発医薬品は、先発医薬品と治療学的に同等であるものとして製造販売が承認されるものであり、先発医薬品と代替可能な医薬品として市場に提供されることが前提であるから、そもそも医薬品としての品質において先発医薬品に依拠するものであることは当然である。しかし、これは飽くまで有効成分や治療効果(有効性、安定性を含む。)が原則として同一であるということを意味するにすぎず、特許発明の観点からその成果に依拠するかどうかを問題にしているわけではない。医薬品としての有効成分や治療効果(有効性,安定性)のみから延長された特許権の効力範囲を論じるべきではなく、少なくとも、法68条の2が、およそ後発医薬品であるが故に、すなわち、先発医薬品と同等の品質を備え、これに依拠するが故に直ちに特許権の効力を及ぼそうとする趣旨のものでないことは明らかである。裁判所は、特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当すると解釈すべきとの原告主張を否定した。
【コメント】

知財高裁大合議は、延長された特許権の効力が及ぶ実質同一の範囲を、「特許発明の内容との関連で、技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断する」との一般原則を示した。この考え方は、原審(民事第29部)(2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414)でも言及されていた「延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして…実質同一物についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的である」との考え方に沿ったものと思われる(若干の言葉の違いはあるにせよ)。一方、実質同一の範囲に均等論を適用した地裁判決(民事第40部)(2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415)の考え方は本大合議判決により否定された。また、別の地裁判決(民事第47部)(2016.12.22 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)12412)では、「その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど」との一般的な考え方を示していたが、特許発明の内容と関連させて検討する観点が欠落したものであった。

今回大合議判決で説示・類型①として示されたところによれば、有効成分のみを特徴とする特許発明について延長された特許権については、当該政令処分の対象となった先発医薬品と、同有効成分を有する後発品との間でその特許発明(有効成分)の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認されることから、当該後発医薬品は実質同一なものとしてその効力が原則及ぶとの考え方が示されたといえよう。このことはすなわち、延長された有効成分特許権の効力が当該政令処分の「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」と同一物にしか及ばないと解釈されてしまうという最悪の事態は避けられたことを意味する。

一方、類型②として示されたように、いわゆる製剤発明に関する延長された特許権については、製剤発明の技術的特徴及び作用効果に照らして、当該政令処分の対象となった先発医薬品と後発医薬品との間で同一性があるのかどうかが重要なポイントとなり、事案によってその判断が異なってくると思われる。本事件においては、問題となった製剤発明の技術的特徴が極めて限定された範囲である(他の添加剤等の成分を含まない水溶液)と解釈されたため、実質同一性が否定された。しかし、だからといって、延長された製剤発明の特許権は一般的にはもはや意味のないものとなったと悲観することはないと考えられる。製剤発明の技術的特徴及び作用効果を後発医薬品が明らかに持ち合わせているような場合であれば、一部において異なる成分を付加、転換しているような場合であっても実質同一なものとして認定される余地は残されているからである。今後、延長された特許権の効力が及ぶか否かの争いは、製剤発明に関するもので多発すると思われるが、技術的特徴及び作用効果は事案毎に異なるだろうから、個別具体的に判断されていくことになると予想される。

特許発明の内容との関連で技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して実質同一性を判断するということは、すなわち、延長された複数の特許権が存在する場合、それぞれの効力は、それぞれの特許発明の技術的特徴等に応じて互いに重畳的に後発医薬品に及ぼし得ることを意味すると考えられる。今後、製剤発明に関する延長された特許権の効力はその発明の技術的特徴によって個別具体的な判断で争われるにしても、有効成分発明に関する延長された特許権の効力がこれまでどおり後発医薬品に及ぶと解されることから、今回の大合議判決は、先発医薬品メーカーにとっても妥当な内容としてとらえることができるのではないだろうか。

本審理において、一審原告から追加的主張(当該政令処分対象物の成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当するとの主張)が出され、大合議はその主張についても判断している。当ブログ記事「2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415」のコメントにおいて、後発医薬品の依拠性に関連して「実質的同一物」の範囲について一提案を示したが、残念ながら大合議はそのような観点での解釈を制度趣旨や解釈論を無視するものとして否定している。

参考:

Jan 16, 2017

2016.12.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)28467

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効東京地裁平成27年(ワ)28467

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(武田テバファーマ)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙7の1公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。



また、乙7の1公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考:

2016.12.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 東京地裁平成27年(ワ)28698

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効東京地裁平成27年(ワ)28698

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(沢井製薬)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙7の1公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。



また、乙7の1公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考:

Jan 14, 2017

2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031

「緩衝剤」としての「シュウ酸」は添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まない(原判決取消)知財高裁平成28年(ネ)10031
(原審: 2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する被控訴人(デビオファーム)が、控訴人(日本化薬)に対し、控訴人製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、控訴人製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。

本件発明の構成要件「緩衝剤」であるシュウ酸は、オキサリプラチン水溶液中に存在すれば足りるのか、水溶液に添加されたシュウ酸に限定されるのか、すなわち、控訴人製品が特許発明の技術的範囲に属するのかどうかが争点である。東京地裁(民事46部)は、控訴人製品は本件特許発明の技術的範囲に属するとして特許侵害を認める判決を下していた。


知財高裁は、本件特許請求の範囲の記載、本件明細書における定義及びその他の記載並びに本件発明の目的についての検討結果を総合すれば、控訴人主張の「外国における対応特許等の出願経過」を考慮するまでもなく、本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみでシュウ酸が添加されていない被告製品は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、本件発明の技術的範囲に属しないものと判断し、原判決を取り消した。

被控訴人は、当審の第2回口頭弁論期日(平成28年9月20日、口頭弁論を終結した期日)の直前である同月16日に「訴えの変更申立書」にて本件請求原因として別の請求項に係る発明を追加する主張をしたが、時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして裁判所は民訴法157条1項によりこれを却下した。

参考:

2016.12.07 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 東京地裁平成27年(ワ)29158

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない東京地裁平成27年(ワ)29158

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(共和クリティケア)に対し、被告製品の製造等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。

本件発明の構成要件「緩衝剤」であるシュウ酸は、オキサリプラチン水溶液中に存在すれば足りるのか、水溶液に添加されたシュウ酸に限定されるのか、すなわち、被告製品が特許発明の技術的範囲に属するのかどうかが争点である。


裁判所(民事40部)は、本件明細書の記載(特許法70条2項)、本件発明の目的及び原告(デビオファーム)の対応米国特許・対応ブラジル特許の出願経過を考慮すると、本件発明における「緩衝剤」は、添加されたシュウ酸又はそのアルカ リ金属塩をいい、オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当であるとして、シュウ酸又はそのアルカ リ金属塩が添加されていない被告各製品は、構成要件の「緩衝剤」を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないものと判断した。請求棄却。

2016.12.06 「デビオファーム v. マイラン」 東京地裁平成27年(ワ)29001

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない東京地裁平成27年(ワ)29001

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(マイラン)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。

本件発明の構成要件「緩衝剤」であるシュウ酸は、オキサリプラチン水溶液中に存在すれば足りるのか、水溶液に添加されたシュウ酸に限定されるのか、すなわち、被告各製品が特許発明の技術的範囲に属するのかどうかが争点である。


裁判所(民事47部)は、本件特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載から「緩衝剤」の意義及び充足性について検討した結果、本件発明における「緩衝剤」とは、添加された「シュウ酸またはそのアルカ リ金属塩」であって解離シュウ酸は含まれないと解するのが相当であるとして、被告(マイラン)製品には「シュウ酸またはそのアルカ リ金属塩」が添加されていないと認められることによれば、被告製品は、構成要件の「緩衝剤」を充足するものではなく、従って、本件発明の技術的範囲に属するとは認められないと判断した。請求棄却。


2016.12.02 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 東京地裁平成27年(ワ)28699・平成27年(ワ)28848・平成27年(ワ)29004

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない東京地裁平成27年(ワ)28699・平成27年(ワ)28848・平成27年(ワ)29004

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告らに対し、被告各製品の製造等が特許権侵害に当たると主張して、被告各製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。

本件発明の構成要件「緩衝剤」であるシュウ酸は、オキサリプラチン水溶液中に存在すれば足りるのか、水溶液に添加されたシュウ酸に限定されるのか、すなわち、被告各製品が特許発明の技術的範囲に属するのかどうかが争点である。


裁判所(民事40部)は、本件特許請求の範囲の記載(特許法70条1項)、本件明細書の記載(特許法70条2項)、本件発明の目的及び原告(デビオファーム)の米国特許出願の出願経過を考慮すると、本件発明1における「緩衝剤」は、添加されたシュウ酸またはそのアルカ リ金属塩をいい、オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらないと解することが相当であるとして、シュウ酸が添加されていない被告各製品は、構成要件の「緩衝剤」を充足するものではなく、本件発明1の技術的範囲に属しないものと判断した。請求棄却。


Jan 7, 2017

2016.12.22 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)12412

延長された特許権の効力が争点となった判決3(実質的同一物とは、新たな効果を奏しないもの?): 東京地裁平成27年(ワ)12412

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許)の特許権者であるデビオファーム(原告)が、武田テバファーマ(被告)に対し被告製品の生産、譲渡又は譲渡の申出の差止め及び廃棄を求めた事案。特に、被告製品に存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力が及ぶかが争点。

特許請求の範囲(本件発明):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

東京地裁(民事第47部)は、延長された本件特許権の効力は被告製品に及ばないとして原告の請求を棄却した。裁判所が示した考えは、主に下記3点。
  • 延長された特許権の効力は、当該政令処分対象物の審査事項(「物」として、成分(有効成分に限らない)。「用途」として、用法、用量、効能及び効果)によって特定された特許発明の実施の範囲で及ぶ。
  • 延長された特許権の効力は、被疑侵害品が、当該政令処分対象物とは異なる部分を有する場合であっても、政令処分対象物の均等物ないしそれと実質的に同一と評価される物にも及ぶ。
  • 被疑侵害品が均等物ないしそれと実質的に同一と評価される物といえる場合とは、「その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど」が相当する。
以下、裁判所の判断を抜粋。

政令処分対象物該当性について
「被告製品は,いずれも成分としてオキサリプラチン以外に添加物として乳糖水和物を含むものであって,成分に違いがあるから,本件処分の対象となった政令処分対象物には当たらない。」
均等物該当性について
「仮に,オキサリプラチン水溶液に乳糖水和物を添加すること自体が,被告製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において既に知られていたとしても,…(略)…オキサリプラチン水溶液に一定の条件を充たす乳糖水和物を添加することは,本件発明との関係において,周知・慣用技術の付加等にすぎないとはいえず,むしろ,ジアクオDACHプラチン二量体の発生を抑制し,オキサリプラチン水溶液の安定性を向上させるという新たな効果を奏するものといえるから,被告製品は,本件処分の対象となった政令処分対象物の均等物ないし実質的に同一と評価される物とはいえない。」
【コメント】

裁判所は、対象物件が政令処分対象物と実質的同一物であるかどうかは、その相違が「新たな効果を奏するものでない」かどうかであると判示した。しかし、①「新たな効果」とは何なのか不明である。そして、②そのような基準で判断することが制度趣旨からしてなぜ妥当なのか、その理由が判決文には全く示されていない。

①「新たな効果」について

同じ「効果」という基準が採用されている進歩性判断においては、顕著な「効果」の適否は長年の判例蓄積でその基準がそれなりに確立されてきたわけであるが、この判決で定める「新たな効果」は極めて低いレベル感の「新しさ」、またはどのような観点での「新しさ」であっても許容されるとすれば、後発医薬品に対して、期間延長された特許権(有効成分に関する化合物の特許権ですら)の効力は全く意味のないものになりかねない。

  • 「新たな効果」とは、有効成分以外で相違する添加剤が費用的に安価であるという経済的効果も含まれるのか?
  • 政令処分対象物の審査事項の「効能及び効果」の「効果」のこと(ではないだろうが)?
  • 後発医薬品の承認が先行医薬品と治療学的に同等かどうかを見るという政令処分の観点からすれば「効果」とは治療学的効果のみと解せるのでは?
  • 発明の観点なのか政令処分対象物の観点なのか?

②実質的同一物かどうかはどのような観点で判断すべきかについて

2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415のコメントでも触れたが、後発医療用医薬品(ジェネリック医薬品)とは、新有効成分や新しい効能・効果等を有することが臨床試験等により確認され承認された新薬と同一の有効成分を同一量含み、同一投与経路の製剤であり、効能・効果、用法・用量も原則的に同一である医薬品で、生物学的同等性試験等にてその新薬と治療学的に同等であることが検証されたものである。確かに、多くのジェネリック医薬品はその製剤の添加剤成分が先発医薬品とまったく同一ではなく、中には、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、または使用性を向上させるなどの目的で異なる添加剤を使用している場合もある。しかし、製剤の添加剤成分が異なっていたとしても、それは溶出挙動やヒトでの生物学的同等性試験を行い、先発医薬品と治療学的に同等となるよう製剤設計されているのであって、政令処分の観点からは本質的には同等なのであり、先発医薬品たる政令処分対象物の本質的部分に依拠して(を利用して)承認されるのがジェネリック医薬品なのである。

いわゆる実質的同一物の基準に均等論を適用してしまった東京地裁民事第40部のような判決内容にならずホッとしたところではあるが、それでも本判決では、裁判所が「後発医薬品がどのように製造販売承認等を受けるかと,延長後の特許権の効力が及ぶ範囲をどう解するかは,全く別個の問題」と言及している部分がある。特許期間延長登録制度の趣旨は、「政令処分」を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものである。その制度趣旨が実体的に意味することは、先行医薬品の特許回復の期間・範囲と裏腹にある後発医薬品の製造販売承認時期・範囲をどう認めることがその目的に資するかということであり、決して「後発医薬品がどのように製造販売承認等を受けるかと,延長後の特許権の効力が及ぶ範囲をどう解するかは,全く別個の問題」とは言えないのである。特許延長期間中にもかかわらず政令処分対象物に依拠して、利用して、フリーライドして、すり抜けてジェネリック医薬品の承認販売を認めることは、著しく公平を損なうことは確かであり、その観点から「実質的同一物」の範囲をどのように解釈するかは非常に重要である。裁判所は、実質的同一物かどうかの判断基準を示すなら、その理由が制度趣旨とどのようにつながっており、なぜそのような基準を当てはめることが妥当と解されるのかを示してほしい。

本件延長された特許権は本件被告製品との関係で効力が及ばないと判断されただけであり、他の後発医薬品に効力が及ぶのかどうかは個別判断ということになる。延長された特許権の効力がどの範囲まで及び得るのかについて一般化することはできず、依然として、特許権者及び後発品メーカー両者にとって延長された特許権の行使可能性・侵害予見性は極めて低いものと言わざるを得ないだろう。

参考: