Feb 19, 2017

2017.01.26 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 東京地裁平成27年(ワ)29159

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効: 東京地裁平成27年(ワ)29159

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(ナガセ医薬品)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙3公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。


また、乙3公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考:

Feb 14, 2017

2017.01.23 「X1・X2・X3 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10022

引用発明の認定: 知財高裁平成28年(行ケ)10022

「タンパク質からなる疣と新生物を溶解して除去できる薬物及びその用途」に関する特許出願(特願2012-525865; WO2011/023013)の拒絶審決取消訴訟。

本願発明は引用例に記載された発明であると認定して新規性及び進歩性を否定した審決に対して、原告は、「審決は、引用例記載の構成から、目的達成のために必須の構成を除外し、技術的意義を失ったものを取り出して引用発明とし、このように誤って認定された引用発明の構成と本願発明を対比したものであり、考慮すべきでない事項を考慮し、考慮すべき事項を考慮していないことから、違法であり、取り消されるべきである。」と主張した。しかし、裁判所は、本件審決の引用発明の認定に誤りはないと判断した。請求棄却。

Feb 8, 2017

2017.01.18 「X v. ロート製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10005

「平均分子量」とは?(明確性要件): 知財高裁平成28年(行ケ)10005

【背景】

ロート製薬(被告)が保有する「眼科用清涼組成物」に関する特許権(第5403850号)の無効審判(無効2015-800023)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,
b)0.01~10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,および
c)平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001~10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物。
【要旨】

裁判所は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反及び進歩性(特許法29条2項)欠如についての無効理由があるとして、無効審判請求不成立とした審決を取り消した。

1.「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤りについて

原告は、本件特許請求の範囲及び本件明細書における「平均分子量」という記載が不明確であり、明確性要件を欠くと主張した。

裁判所は、
「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。」
と特許法36条6項2号の趣旨を説示したうえで、本件については、
「「平均分子量」という概念は,一義的なものではなく,測定方法の違い等によって,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等にそれぞれ区分される(甲17)。そのため,同一の高分子化合物であっても,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等の各数値は,必ずしも一致せず,それぞれ異なるものとなり得る(甲27)。…(中略)…本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」,「粘度平均分子量」等のいずれを示すものであるかについては,本件明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件明細書におけるコンドロイチン硫酸あるいはその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。しかし,本件においては,次に述べるとおり,「コンドロイチン或いはその塩」の平均分子量が重量平均分子量であるのか,粘度平均分子量であるのかを合理的に推認することはできない…(中略)…以上,上記記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると認めるのが相当である。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

2.甲1(特開2003-183157)発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤りについて

裁判所は、
「甲1公報には,「該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。」と記載されており,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ることが示唆されているのであるから,当業者は,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができたものと認められる。
特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術,周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても,上記発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記(1)の認定事実によれば,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載されている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○又は◎と評価されている。
しかしながら,…(中略)…上記評価から,直ちに本件発明1の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず,その他に,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較して,本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,かつ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから,これらの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いた場合に,裸眼時やハードコンタクトレンズ装用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから,本件優先日当時の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。
したがって,本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

【コメント】

1.平均分子量

下記事件でも、判決文において用語が明確性要件を充足するか疑問視された。慣用的に使用されている用語であっても、クレームに記載する際には、単位や添加剤そのものの名称も含めて、何通りかの解釈がありえるのかどうか、正確な表現なのかどうか、注意を払う必要がある。
過去取り上げた事件で、「平均分子量」がクレームに記載された事例:

2.進歩性の判断、特に顕著な効果に関する判断について

本判決も取消された原審決も、当業者は引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができると判断した点は共通した結論だったが、顕著な効果があるか否かという点では異なる判断となった。

審決では、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとの記載を踏まえ、引用例には引用発明につきソフトコンタクトレンズ装用中においても同じような効果についての記載も示唆もないことから、引用発明をソフトコンタクトレンズ装用時に使用すれば同様の効果を奏すると当業者が予測し得たとはいえないと判断していた。

一方、裁判所は、引用発明はハードコンタクトレンズ装用時には本願発明と同じような効果があり、引用例にはソフトコンタクトレンズ装用時にも使用できるとの示唆があるのだから、同じような効果を奏すると予測され、そのうえで引用発明と比較して予測できないほどの顕著な効果があるとの証拠はないとして進歩性を否定したわけである。

引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを当業者は容易に想到することができると判断されるのだから、顕著な効果の判断は容易想到とされたことを踏まえたうえでの予期できる効果と比較してどうなのかということになる。

特許権者(被告)は、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとして効果の顕著性を主張したのだが、そのような特有の問題が具体的に引用例や明細書に記載されているわけではなく、またその問題について具体的に比較検討された主張がされているわけでもなかった。特有の問題があるとして進歩性を主張するのであれば、阻害要因の存在を明確に示して容易想到性を否定するか、具体的な比較試験データを明細書に示して効果の顕著性を示す必要があったと思われる。


Feb 3, 2017

アリムタ®のビタミン療法特許 知財高裁が維持判決

イーライリリー・アンド・カンパニーの2017年2月2日付プレスリリースによると、抗悪性腫瘍剤アリムタ(Alimta)®(ペメトレキセド注射剤)の2件のビタミン療法特許に関し、沢井製薬が2015年11月の特許庁の特許維持審決を不服として提訴していた審決取消訴訟において、知財高裁は、特許庁の特許維持審決を支持し、本件特許が有効に維持される内容の判決を下したとのことです。
本件特許は2021年6月まで有効に存続するとのことです。

過去記事:
参考:

Feb 1, 2017

沢井と興和がLIVALO®ANDA訴訟で和解 沢井発売は2023年

2017年2月1日付の沢井製薬のpress releaseによれば、沢井と興和との間で争っていたLIVALO®(ピタバスタチン錠)米国ANDA特許侵害訴訟は和解に至ったとのことです。この和解契約に基づき、沢井のピタバスタチン錠は、2023年5月2日または特定の状況下においてはそれ以前の日を開始日として、発売が可能となるとのことです。

参考: