ピオグリタゾンの併用特許の進歩性: EPO審決T0512/02
【背景】「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼインヒビターとの医薬組成物」に関する出願(出願番号EP96304570.3/公開番号EP0749751)について、進歩性無しを理由に拒絶査定となったことに対して、出願人は審判部へappealした。
出願人は、審判手続きにおいて、比較実験データとともにnew main request(下記独立クレーム1)を提出した。
1. A pharmaceutical composition which comprises pioglitazone or a pharmacologically acceptable salt thereof in combination with acarbose or voglibose.
Closest prior artとして引用された文献(1)には、α-グルコシダーゼインヒビター、好ましくはinsulin sensitivity enhancerとの併用、は非インスリン依存型糖尿病の治療に有用である旨が記載されており、α-グルコシダーゼインヒビターとしてacarbose、voglibose及びmiglitol、そしてinsulin sensitivity enhancerとしてciglitazone、pioglitazone及びtroglitazoneが具体的に例示されていた。
【要旨】
審判部の判断
2.5
However, the provision of further pharmaceutical compositions for the treatment of NIDDM does not involve an inventive step over document (1) for the following reasons: as was mentioned in paragraph 2.2 above, document (1) teaches to use an insulin sensitivity enhancer in combination with an α-glucosidase inhibitor for the treatment of certain forms of NIDDM. As far as specific active agents are concerned, it is noted that (1) describes three α-glucosidase inhibitors, namely acarbose, miglitol and voglibose and three insulin sensitivity enhancers: pioglitazone, troglitazone and ciglitazone which yields nine possible combinations altogether. From this very limited number of options, the applicant chose two combinations: pioglitazone plus acarbose and pioglitazone plus voglibose. In this context, it is worthwhile to analyse the expermental data submitted by the appellant as annex to the statement of the grounds of appeal. In said tests the performance of a combination of active agents of the invention is compared with each of the individual compounds but not with combinations outside the present invention but encompassed by document (1).
To summarise the results of the tests: said tests show effects which are not mentioned in the closest prior art as defined by document (1), but the effects are not related to the selection of the two combinations as claimed out of the nine possible combinations of document (1). Therefore, they are considered to be inherent in said combinations of (1). There is no evidence at all that the two alternatives of the present invention are in any way advantageous over, e.g., the combination ciglitazone + voglibose or pioglitazone + miglitol.
It follows therefrom that the subject-matter as claimed in claim 1 merely constitutes an arbitrary selection out of the nine possible combinations of document (1) which cannot give rise to an inventive step.
請求棄却。
【コメント】
併用療法の発明において、併用の組み合わせを示唆する引例からの進歩性を主張するためには、有効成分単独効果との比較ではなく、該組合せ以外の組合せと比較したデータが要求される。要求される比較データが、単独効果と比較した効果ではなく、他の併用の組み合わせと比較した効果である点は、日本の実務と同じ(参考:2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389;2007.05.16 「ロレアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10291)と思われるが、下記に示すように日本特許庁の審査官は特許査定を出してしまっている。
ピオグリタゾン:
武田薬品が開発した2型糖尿病治療薬(商品名:アクトス、ACTOS、一般名:塩酸ピオグリタゾン)で、他の薬剤との併用・合剤を開発することによる製品のライフサイクルマネージメントを積極的に進めている。2006年度のアクトスの売り上げは対前年38%増の約3400億円。また、武田薬品の平成20年3月期第3四半期財務・業績の概況(2008.01.31公表)によれば、アクトスの売り上げは、2008年度第3四半期累計で既に約3100億円に達している。
esp@cenet®及びIPDL (JPO)により本特許出願のファミリー(日米欧)を調べたところ、状況は現時点で下記のとおり。日米欧それぞれの審査状況を比較すると興味深い。
2008/04/02
2006.10.26 「Takeda事件」 EPO審決T0512/02
2008/03/24
2006.10.25 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10773
薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明に進歩性は認められるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10773
【背景】ノバルティス(Novartis)を出願人とする本願発明(出願番号: 平成8年特許願第533792号)は、テルビナフィン(terbinafine)とアゾール系14 α-メチルデメチラーゼ阻害剤の併用抗真菌剤であり、対象疾患を「アゾール耐性真菌感染症」と限定していた。同一併用抗真菌剤だが、耐性菌株について記載のない引用例が進歩性を否定するか否かが争われた。
【要旨】
原告は、
「本願発明の相乗的な薬理効果を予測することは困難であった」
と主張したが、
裁判所は、
「審決は~本願発明にいう相乗効果を奏するか否かについて,判断しているのではなく,既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとされた引用例によって,~テルビナフィンとアゾール系阻害剤という具体的組合せについて,アゾール耐性真菌株に対しても,その組合せによる相乗効果が奏されることを困難なく予測ないしは期待して,用いることができるか否かを判断したものである。
そして,本願明細書~によれば,本願当時,既に,耐性真菌の出現は当該技術分野における重要な課題であったものであり,~テルビナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,ある種のアゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても,それぞれ単独で用いる場合とは異なる作用機序による相乗的な治療効果が得られることを期待することは,当然のことであるというべきである。したがって,引用例に接した当業者においては,その引用例に記載されたテルビナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,アゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても治療効果を有することを予測ないしは期待し,これを確認しようと動機付けられるものというべきである。したがって,引用例に接した当業者が耐性菌に対しても引用例記載の2剤併用の抗真菌組成物を用いることは容易に想到できるものであり,原告主張の取消事由は理由がないことが明らかである。」
と判断し、進歩性を否定した。
請求棄却。
【コメント】
課題が知られている場合には、動機付けは確立され易い。
本事件では、進歩性判断において、積極的な動機付けがあるという点が問題となった。一方、効果の参酌という点は、既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとされた引用例が存在していたことによって、主な議論の対象とはならなかった。
本願発明は、上位概念である「真菌感染症」という用途(疾患)を「アゾール耐性真菌感染症」という特定の用途(疾患)に限定した選択発明である(ありえる)、という見方で捉えることもできるだろう。しかし、特定の用途(疾患)を特徴とする選択発明として進歩性を担保するためには、上位概念用途(疾患)で包含される他の下位概念用途(疾患)と比較して、その選択発明として選択した特定用途(疾患)に顕著な効果・異質な効果があることを主張する必要がある。「アゾール耐性真菌感染症」以外の真菌感染症、すなわち、普通(?)の真菌感染症にも優れた効果がある以上、それに比べて格別顕著な効果を「アゾール耐性真菌感染症」という選択肢に見出すことは困難であり、効果の参酌が議論されたとしても、進歩性なしの結論に変わりはなかったと思われる。
参考:
2008/01/07
2006.01.25 「メディカライズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10438
限られた数の組合せの中から選択した発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10438
【背景】
「ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品」の発明に関して、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起。引例との相違点は、デルマタン硫酸がその上位概念であるムコ多糖類となっている点のみであった。原告は選択発明であると主張した。
請求項1: 少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有することを特徴とする健康食品。
【要旨】
裁判所は、
組合せの容易想到性について、
「引用例1が示唆するところに従って,限られた数の組合せの中から,ヒアルロン酸と組合せて使用する効果を確認しつつ,適するものを特定し,結果的にデルマタン硫酸を含有する組合せを特定するに至ることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとっては容易であるというべきである」
とし、
本願発明の効果については、
「このような発明が,常に格別顕著な効果を奏するものであることを裏付けるためには,本願発明1に包含される任意の組合せの任意の配合比率の態様が,引用例1に示唆された31通り又は15通りの全組合せのうちの,本願発明1に相当しない15通り又は7通りの組合せの任意の配合比の態様と比較しても,また,引用例1に明示されたムコ多糖類の各々を単独に含有する態様と比較しても,常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要がある。
~前記のとおり,その格別顕著な効果を主張するための根拠となるべき比較試験が記載されていないことに変わりはないから,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む組合せである本願発明1が,その配合比によらず,常に引用例1及び刊行物2の記載事項から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を有するものであるということができないことにも変わりはない。
~したがって~本願発明1が,任意の含有量において,格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできないというほかない」
と判断した。
請求棄却。
【コメント】
ムコ多糖類の成分の一つとしてデルマタン硫酸が知られていることから、その組み合わせは当業者にとって容易であり、格別顕著な効果を奏するとの証拠もない、と判断され進歩性なしと判断された。組み合わせの上位概念が公知だが、公知物質同士の新規な特定の組合せを選択発明として進歩性を主張するためには、該選択発明以外の全ての組合せの任意の配合比と比較しても、常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要があることに注意。
2007/12/25
2007.11.22 「アンジオテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10303
発明の構成要素の用途は発明を特定する要素となり得るか?: 知財高裁平成18年(行ケ)10303
【背景】
「抗-血管形成性組成物およびそれにより被覆されたステント」に関する発明の特許権者(共有者)である原告が、特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許(特許第3423317号)を取り消す旨の決定がされたため、同決定の取消しを求めた。
請求項1:
身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,かつ,該ステントが該身体通路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステント。
(他請求項は省略)
決定の理由の要点は、刊行物記載の発明に基づき進歩性を有しないから取り消されるべきであるとしたものである。
【要旨】
裁判所は、
「本件第1発明の要旨のうち
「該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,」
の部分は,端的に
「該ステントの閉塞を防止するためのタキソールで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであり,」
と規定するのと何ら変わりはない。
この点につき,原告は,タキソールは,抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆されるのであり,その点が,本件発明1の要旨の「ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されて」おり,かかる「抗血管形成ファクタがタキソール」であるという規定に反映されているとか,タキソールといっても,薬剤としての用途が異なれば,別の物であることは我が国の特許法における確立した考え方であると主張する。
しかしながら,物の発明である本件発明1において,ステントを被覆する物質として構成されているタキソールの用途ないし作用が何であるかは,本来,発明を特定する要素とはなり得ないものである。仮に,原告の上記主張の趣旨が,タキソールを抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆する場合と,他の作用を奏する薬剤として(例えば,抗増殖性を有する薬剤として)ステントに被覆する場合とでは技術思想が異なるというものであったとしても上記用途ないし作用の相違は単に身体通路の再発性狭窄を予防する機序に関係するのみであって,同一構成から成る発明を別発明と評価し得るほど,その技術思想において異なるということはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
そしてそうであれば,ことさら「抗血管形成性」に着目しなくとも「再発性狭窄を処置または予防するため」に使用される血管ステントに,タキソールを被覆することが,引用各刊行物から容易に想到することができれば,相違点に係る本件発明1の構成は容易想到ということができる。」
と判断し、結論として進歩性なしとした特許庁の判断を支持した。
請求棄却。
【コメント】
発明の構成要素のひとつ(たとえば、本件での"タキソール")が有する特徴的な用途または作用(たとえば、本件での"抗血管形成性")によってその構成要素をクレームのなかで特徴づけても、その構成要素のみに対する特徴づけは発明全体を特定する要素とはなり得ない。従って、用途または作用によってある構成要素を特徴づけても、発明全体の特許性判断においては、その構成要素自体で(特徴づけに関係なく)評価されることに注意が必要である。
参考:
Categories *Case2007, Inventive step/Obviousness, ★★, ・Combination therapy, ・Indication
2007/12/20
2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389
公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な合剤の発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10389
【背景】
「トラネキサム酸及びエテンザミドを含有する解熱鎮痛消炎剤」の出願に対して、特許庁は、トラネキサム酸と他の解熱鎮痛消炎剤との併用が記載されており、その一例としてエテンザミドが記載されていた引例に基づいて、進歩性なしとする拒絶審決を下した。本願明細書には、トラネキサム酸と、エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤との配合例の記載がなく、比較して格別に顕著な効果を奏するとの記載もなかった。しかし、エテンザミドとの併用が相乗効果を示すことを本願明細書中に示しており、且つ、出願人は、審査中、試験成績証明書にて他の組み合わせでは抗炎症効果の増強作用が認められないことを示していた。
【要旨】
格別顕著な効果を示すには、単なる相乗的効果では足りず、他では得ることのできない固有の効果があるという根拠を明細書に記載しなければならない。試験成績書でデータを示しても、明細書には格別顕著な効果を奏するものであることをうかがわせる記載は無いことから、出願人の主張は、明細書の記載に基づかないものである、とされ、進歩性なし。請求棄却。
【コメント】
組み合わせの上位概念が公知だが、公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な併用に関する発明(選択発明)において、進歩性ありと主張するためには、明細書中に、その構成や効果を単に記載するだけでは足りず、引用発明となるべき他の組み合わせと比較した(つまり格別に)顕著な効果を記載する必要がある。
2007(平成19)年3月26日、特許庁審判部から進歩性検討会報告書が公表され、その中で本事案が検討されている。
引用発明と比較した効果は明細書で主張する必要があるとの結論が導かれているかと思われるが、思わぬ引例により進歩性が否定された場合、明細書中に、その引例と比較した効果を主張していなかったがために拒絶理由を覆せなくなってしまうことが危惧される。そもそも審査官が果たすべき進歩性があるか否かを判断する負担を、出願人に過度に課すことになるのではなかろうか?本事案及び本検討会報告書の内容をよく吟味して、出願する際には、進歩性の引例となる先行技術をしっかり調査し、明細書に引例との比較結果を記載すべきか否かを慎重に検討する必要があるだろう。
参考:資料室(答申・報告書・講演録) >研究会・懇談会等 >進歩性検討会報告書(平成19年3月 特許庁審判部)より抜粋。(1)本願明細書における顕著な効果の記載の有無について
本願明細書の記載を見ると,エテンザミドとトラネキサム酸を併用した実施例しか記載されておらず,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を使用した実験例は一切ない。また,本願明細書に「エテンザミドが特に好ましい」との記載はあるものの,その記載だけで,この効果が技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるか否か判断できない以上,本願明細書に他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて顕著な効果について記載があるとするには無理があるのではないかとの結論となった。
(2)顕著な効果の認定における実験成績証明書の参酌について
審査基準には,「引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは,意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。」と記載されており,実験成績証明書を参酌して顕著な効果を認定することは可能である。しかしながら,同時に「明細書に記載されていなく,かつ,明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。」とされており,明細書に構成が記載されていれば,どのような場合でも,その効果を事後的に実験成績証明書で補充できるわけではない。
したがって,本願明細書の「エテンザミドが特に好ましい」との記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるかどうかということが問題になるわけであるが,上で述べたように,この記載のみから当業者が他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果があると推論するには無理があると考えられる。
なお,特36条の改正(平成6年法改正)に伴い,請求項に係る発明が従来技術との関連において有する有利な効果を記載する必要はなくなった(委任省令要件として扱わない)のに,明細書にその効果が記載されていないことで進歩性が否定されることについて疑問視する意見もあったが,法改正の趣旨は明細書の記載要件として,従来技術との関連において有する有利な効果を不要としただけであって,請求項に係る発明が引用発明に比較して有利な効果によって進歩性の存在を肯定的に推認しようとするのであれば,明細書にその効果が記載されている必要がある。
(3)本願発明と引用発明との対比判断(顕著な効果の判断)について
エテンザミドを含むサリチル酸系抗炎症剤とトラネキサム酸との組み合わせと両者の協力作用が引用例1に記載されており,また,同種薬剤の組み合わせであるイブプロフェンとトラネキサム酸との併用による効果が引用例2に記載されている以上,本願発明が効果として比較する引用発明は,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤とトラキネム酸との組み合わせであり,この組み合わせの効果と比較して,本願発明の組み合わせにさらに顕著な相乗効果が認められなければ進歩性は否定されてもやむを得ないとの結論となった。
2007/12/12
2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10459
【背景】
「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明が進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟(2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458)が係属しつつ、特許権者は本件特許につき訂正審判を請求したが、訂正後の発明は特29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものであるとされ、審判請求は成り立たないとされた。その審決取消訴訟である。
訂正審判請求による特許請求の範囲:
1. クロモグリク酸ナトリウム1%,マレイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%を含有することを特徴とする点鼻剤。
本件訂正発明と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると,両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%、マレイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%の配合剤であるのに対し,後者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度2%の単剤である点で相違していた。
【要旨】
(1) 配合自体の容易性の判断
ゼファーマ(参加人)は、
「刊行物に3剤(クロモグリク酸ナトリウム,抗ヒスタミン剤,血管収縮剤)から選ばれる2剤の配合(併用)の例が記載されていても,当業者は,3剤を配合して初めて生じる物理的変化や化学的変化,副作用,拮抗作用等の有害現象が生じ得ると考える。したがって,2剤配合剤を組み合わせて,単純に3剤配合剤を容易に想到し得るものではない。また,刊行物6によれば,クロモグリク酸ナトリウム単剤と,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合剤との間では治療効果に相違がなく,かえって配合剤には副作用(鼻内への強烈な感触,鼻の灼熱感と痛み,鼻のほてり)が見られる。~むしろ,刊行物6の上記報告によれば,当業者はクロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合を避けようと動機付けられる。」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「A意見書(甲13)は,~3剤配合における有害現象の発生可能性に言及するものではあるが,その言及は一般論としてのものであって,~その薬効低下・有害現象の発生が懸念されるべき具体的事情があることに言及しているものではなく,むしろ~安全性については,少なくとも,濃度の観点からは,直ちにその配合を躊躇するべきであるといえるような格別の事情はない,との理解を排斥するものではないと解される。」
さらに、
「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」
と判断した。
(2) 配合量の容易性の判断
裁判所は、
「A意見書(甲13)は,「医療用の半分の濃度であって,有効濃度範囲と証明されていない1%クロモグリク酸ナトリウム」というだけであって,1%は有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すものでない。~してみると,「出願当時,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムの濃度を1%に設定することを避け,1%よりも高濃度に設定しようと動機付けられたことは明らかである」とする参加人の主張は,理由がない。そして,~単剤として有効であることが確認されている濃度2%のクロモグリク酸ナトリウムに基づいて,配合剤の濃度として1%をその候補値の1つとすることを想到することが,医薬業界の技術常識に反するものであるということもできない。」
と判断した。
(3) 訂正発明の効果に関する判断
ゼファーマ(参加人)は、訂正発明の濃度の特異性を示すデータを補充して訂正発明の「ピーク的効果」を主張した。
しかし、裁判所は、
「明細書に記載された事項としては,その最終的な算出結果である「有効率」の数値のみであって,前記9つの諸症状の各々の改善度や,濃度の特異性を示すピーク的効果を看取し得る根拠となるデータは,具体的に記載されていない。~本件明細書には,9つの症状ごとの改善度が一切記載されておらず,具体的にどの症状が「飛躍的に改善」するものであるのかを確認することもできない。したがって,参加人が主張する訂正発明のピーク的効果も9つの症状の飛躍的改善も,本件明細書の記載からは具体的に確認することができないというほかない。」
また、
「3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。~さらに,塩酸ナファゾリン及びマレイン酸クロルフェニラミンの配合量に関して,訂正発明以外の他の態様が容易に想定されるところ,本件明細書中には訂正発明の組成以外に,訂正発明に係る3剤が配合された他の態様は記載されていない。したがって,従来公知の単剤である比較例1の有効率との比較のみをもって,訂正発明の実施例の有効率が格別顕著であるということはできない。」
と判断した。
進歩性ないため訂正発明は独立特許要件を満たさず。
請求棄却。
【コメント】
格別顕著な効果は、当業者に予測不可能であることを客観的に示したデータを明細書に記載して主張しておく必要があるだろう。
一般的な意味での「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。具体的事情を主張する必要がある。
脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。
ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。
本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。
2007/12/11
2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458
各々効果が確認されている有効成分の配合剤に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10458
【背景】
「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明の進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟である。
特許請求の範囲:
1. クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有することを特徴とする点鼻剤又は点眼剤。
2. 抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記載の点鼻剤又は点眼剤。
3. 血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の点鼻剤又は点眼剤。
本件発明1と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると、両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、以下の点で相違していた。
(A) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの他に抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤も含有するのに対し、後者は有効成分はクロモグリク酸ナトリウムのみである点
(B) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%であるのに対し、後者はその倍の2%である点
【要旨】
1. 相違点(A)に関する進歩性判断について
ゼファーマ(参加人)は、
「クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合しても鼻炎治療効果に差が見られず,逆に,抗ヒスタミン剤を配合することは副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物6,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することを避けようとする。」
と主張したが、
裁判所は、
「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」
と判断した。
また、同様に、ゼファーマ(参加人)は、
「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合しても鼻炎治療効果が増大せず,逆に,血管収縮剤を配合することが副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物3,4,8,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することを避けようとする。」
と主張したが、裁判所は、
「特に留意すべき副作用が確認されなかったことも踏まえると,これを阻害するべき個別具体的な事情はないといわざるを得ない。」
と判断した。
2. 相違点(B)に関する進歩性判断について
裁判所は、
「「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤や抗ヒスタミン剤を配合した場合,各配合成分の使用濃度を単剤の場合より減少させ,配合剤としての総合的な作用を適切な範囲に留めようとすることは当業者が当然に配慮することであって,特にその濃度を単剤の場合の2%(刊行物7)から,有効濃度の範囲内である1%とする点にしても格別な創意を要するものと認めることはできない。」とした決定の判断に誤りはない。」
と判断した。
ゼファーマ(参加人)は、明細書記載の試験例等で示された有効率の上昇が当業者の予想を超える顕著な効果である旨主張したが、
裁判所は、
「訂正発明に係る具体的3剤,すなわち,クロモグリク酸ナトリウム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンは,いずれも鼻炎の症状緩和に使用され,その効果が確認されている成分であり,特に後者の2成分は,日本においても,その配合剤(一般薬)としても広く使用されているものであるところ,これら3剤の配合に当たっては,有効性,安全性が高い範囲を考慮して設定されるのが常識であることは前記のとおりであり,最終的には臨床的に有効性,安全性を確認することは当然に必要ではあるものの,設計の段階では,期待するところとしての効果は既に明確に存在している。3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。」
と判断した。
進歩性無し。
請求棄却。
【コメント】
「効果に差が認められない」とか、単に「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。容易に想到することを妨げる具体的事情を主張する必要がある。
脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。
ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。
本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。
Categories *Case2005, Inventive step/Obviousness, ★★, ・Combination therapy
2007/12/10
2005.05.30 「シャイアー・バイオケム v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10012
併用療法が承認済みの場合、合剤承認に基づく合剤特許の存続期間延長は可能か?: 知財高裁平成17年(行ケ)10012
【背景】
原告は抗ウィルス薬ラミブジン及びそれと他の抗ウィルス薬との併用剤に関する特許の特許権者であり、ラミブジンとジドブミンとの合剤(販売名コンビビル錠)の薬事法上の承認を得たことに基づき同特許の存続期間延長登録の出願をしたが拒絶審決を受けたため審決取消訴訟を提起した。審決理由は下記のとおり。
(1)ラミブジンが、ジドブミンとの併用を用法・用量として、かつ、併用療法を効能・効果として既に承認されていることから、本出願に係るものと先の承認の対象となったものとの違いは、単に、単剤を併用するか、又は合剤にするかの違いに過ぎず両者は実質的に同一であるため、特許発明を実施することが出来なかったという要件(特67条の3第1項1号)を満たしていない。
(2)原告提出の資料からでは、米国治験計画書の提出日から我が国での製造承認の日までの間、必要な手続きが引き続いてされていたものとは直ちには認めることができないから、請求人(原告)が請求する特許発明の実施をすることができなかった期間が適切であるということが出来ない。
【要旨】
存続期間の延長制度の趣旨及び特68条の2の文言に照らせば、期間延長後の特許権の効力は、当該品目に限定されず、成分により特定される「物」及び効能、効果により特定される「用途」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶものとし、それ以外には効力は及ばないとしたものであると解される。そうすると、当該処分の対象である成分により特定される「物」と当該処分で定められた「用途」によって画される範囲において特許発明が実施できるようになっているというべきであるから、その物の使用の形態等に変更があるため、重ねて同様の処分を受けることが必要であるとされていても、「特許発明の実施に67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」と認めることはできないと解するのが相当である。本件において、先の承認は、実質的には、今回の承認に係る承認書の有効成分の欄に記載されているラミブジンと既に先の承認により製造承認を受けているエピビル錠の有効成分であるジドブジンの両方を有効成分とする抗ウィルス剤の製造承認と同一視できるものというべきである。従って、ラミブジンとジブドミンの両方の有効成分の併用という形態を、その両者を組み合わせた錠剤にするため、すなわち剤形の変更のため、改めて薬事法上の製造承認を受ける必要があったからといって、「特許発明の実施に67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」と認めることはできないと判示した。請求棄却。
【コメント】
裁判所は、「期間延長後の特許権の効力は、用法、用量、使用方法等を特定した具体的な品目に限定されず、有効成分により特定される「物」及び効能,効果により特定される「用途」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶものとし,それ以外には効力が及ばないとしたものであると解される。」としているが、そもそも特許権の効力を規定する特68条の2に規定されている「処分の対象となった物」及び「特定の用途」が、そのまま登録要件に適用すること、さらにそれぞれ製造承認書中の「有効成分」及び「効能・効果」によってのみ特定されると解釈する根拠は乏しい。この点については、後の下記裁判でも争点となり、知財高裁において一応の結論に至った。
2007.07.19 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10311
また、被告である特許庁は訴訟の中で、海外での臨床期間の算入の要件について下記のように言及している。我が国での医薬品の製造承認申請に外国における治験の結果等を使用した場合には,(1)そもそもその外国における治験が我が国で承認を得ることを目的としていたものであることが必要であり、かつ、(2)外国で承認申請をした者が我が国で承認申請をした者と同一であるか,あるいはその意思を受けて治験を行ったものであって,その後遅滞なく我が国における承認申請を行ったものであること、が必要となる。言い換えれば,外国での治験及び承認は我が国における承認を得るための手続の一部として我が国における手続と継続性を有するものである必要がある。この点については裁判所の判断はされていない。
コンビビル錠(Combivir tablets):
グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)が販売する抗ウイルス化学療法剤(有効成分としてジドブジン(Zidovudine)とラミブジン(Lamivudine)を含有する合剤)であり、HIV感染症を効能・効果とする。
Categories *Case2005, Patent term extension, ★★, ・Combination therapy

