鼻内投与製剤の形態をパウダーにすること、賦形剤として糖類又は糖アルコールを含有すること: 知財高裁平成19年(行ケ)10270
【背景】アポモルヒネの鼻内投与製剤に関する発明(特表平8-508472号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
請求項1:
「鼻内投与用のパウダー状の薬剤組成物であって,アポモルヒネ又はアポモルヒネ塩と賦形剤とを含有しており,前記賦形剤が糖類または糖アルコールを含んでいる,薬剤組成物。」
(引用発明Aの内容)
パーキンソン病の患者に対しアポモルヒネ1%溶液が鼻腔内投与用の薬剤組成物として使用されたこと。
(一致点)
いずれも「アポモルヒネを含む鼻内投与用の薬剤組成物」である点。
(相違点1)
本願発明はパウダー状であるのに対し,引用発明Aは溶液状である点。
(相違点2)
本願発明は賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むのに対し,引用発明Aは賦形剤についての記載がされていない点。
【要旨】
取消事由1(相違点1の判断の誤り)について
裁判所は、
「鼻内投与用の薬剤組成物についてパウダー状組成物の構成を採用することは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって容易に想到できるものであることは明らかである。」
と判断した。
これに対し原告は、引用例A中の副作用の存在(阻害要因1)や、粉末形態投与による不快感(阻害要因2)、刺激性のリスク(阻害要因3)、治療効率を悪化させる可能性(阻害要因4)といった阻害要因を主張したが、裁判所は、阻害要因になるというほどのものではないとして採用せず。
取消事由2(相違点2の判断の誤り)について
裁判所は、
「アポモルヒネを含有する薬剤組成物をパウダー状とするに当たり,賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むものとする相違点2の構成は,当業者において容易想到である」
と判断した。
これに対し、原告は、
「既知の多くの物質群の中から本願発明と同様の賦形剤を選択することは,当業者にとって容易ではなかった」
と主張した。
しかし裁判所は、
「本願の優先日前において糖又は糖アルコールの賦形剤自体が一般的であったと認められるのであるから,賦形剤として他に多くの物質が既知であるからといって,そのことから直ちに糖又は糖アルコールを賦形剤として用いることが困難となるものではない。」
として原告主張を採用しなかった。
取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤りに)について
原告は、
「甲4~6実験を挙げつつ,本願発明は①副作用が少なく②生物学的利用能が高いという顕著な効果を有する」
旨主張した。
しかし裁判所は、
「甲4~6実験の内容は本願明細書に開示されておらず,いずれも本願の出願後に公表ないし実験されたものであるから~同実験の結果をもって本願発明についての効果を論ずることは失当といわなければならない。
そして,本願明細書(甲16)には,~具体的に適用した試験例は記載がなく,ただ,「…この水溶液の最大欠点は,アポモルヒネに安定性が欠けていることである。」(10頁11行~12行)として従来技術の液剤の欠点を述べた上で,「…本発明によると,…アポモルヒネの驚くほど高い生物学的利用能及び優れた安定性を得ることができる。」と記載されているにすぎない(10頁15行~18行)のであるから,このような記載をもって本願発明が顕著な効果を有すると認めることはできない。なお,原告が提出した甲4~甲6実験は,~原告主張の上記①,②の効果が格別顕著であることを示すものではない。」
と判断し、原告主張は採用することができないとした。
進歩性なし。
請求棄却。
【コメント】
鼻内投与製剤の形態の選択肢として、
パウダーが知られている点、及び
鼻内投与製剤の賦形剤の選択肢として、糖類又は糖アルコールが知られている点
を考慮すれば、それらを採用するのには動機付けが存在するだろうから、予測できない効果を主張できるか否かが進歩性のハードルをクリアできるかどうかの一番のポイントであった。
残念ながら、明細書には顕著な効果を有すると認めることのできる試験例は開示されていなかったようである。また、原告主張の阻害要因は、動機付けを否定できる(当業者であれば試してみようと思わないといえる)ほどの強いものではなかった。
参考:
2008/04/08
2008.03.19 「フランシスカス v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10270
2008/03/26
2008.02.29 「ティロッツ・ファルマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10236
原告主張の実施例は本願発明の実施例とはいえないとされた: 知財高裁平成19年(行ケ)10236
【背景】
「オメガ-3ポリ不飽和酸の経口投与剤」に関する発明についての出願(特表平11-509523)の拒絶審決取消訴訟。
争点は、本願の特許請求の範囲の記載が、明細書の発明の詳細な説明に記載されているかどうか(特36条6項1号、いわゆるサポート要件)であった。
請求項1:
有効成分としてオメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸として又は薬学的に許容可能なその塩として含有する経口製剤において,
カプセルのコーティングが,pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがなく,
かくして前記酸が,回腸内において放出されることになることを特徴とする経口製剤。
【要旨】
原告は、
「当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の本願出願当時の技術常識,Aの文献及び本願明細書(甲4)の実施例2の記載(下記のとおり,そこには「小腸」との記載がある)からすれば,本願明細書には本願発明の発明特定事項であるオメガ3-ポリ不飽和酸が回腸で放出されることが記載されているといえるから,審決の認定は誤りである」
と主張した。
しかし裁判所は、
「本願発明は,「カプセルのコーティングが,pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがな」いことを発明特定事項として記載するところ,ここに記載されたpH値については,上記(3)ウによれば,単に溶解試験を行ったpH値を示すにすぎず,コーティングの溶解条件とは何ら関係がないことが認められる。」
とした上で、
「回腸内において放出される」という発明特定事項について、
「小腸は,初部約25センチメートルを十二指腸といい,その余の部分のうちの前半5分の2が空腸で後半5分の3が回腸であるから,カプセルの小腸内の通過速度が一定だとすると,小腸通過時間の30%にあたる時間では,カプセルはまだ空腸の中にある。これは,上記のとおり絶食患者を前提とした最短の時間で通過することを仮定した場合である。この位置で,既にコーティングの崩壊後15分が経過して,カプセルも崩壊し,カプセルの内容物は既に放出されていると考えられ,これより遠位の回腸においてカプセルの内容物が放出されるとは考えられない。そうすると,原告の主張する本願明細書の実施例2においても,本願発明の「前記酸が,回腸内において放出される」ものに該当するとはいえない。
ウ以上の検討によれば,実施例2は本願発明の実施例ということはできず,また本願明細書(甲4)のそのほかの部分にもこれが記載されているとはいえないから,審決が本願発明は明細書の発明の詳細な説明に記載した発明ということはできないとした認定に誤りはない。」
と判断した。
請求棄却。
【コメント】
実施例2の結果及びその他の証拠から、早く見積もってもカプセルはまだ空腸内にあり(つまり空腸で内容物が放出されるだろうから)、回腸内において放出されるとは考えられないと裁判所は判断。実施例2の結果からの考察ではクレームをサポートしていることにはならない(つまり原告主張の実施例2は本願発明の実施例にならない)とされた。同感。サポート要件は、あくまでも明細書の記載に基づいて判断されるので、出願後にした原告の追加の主張は採用されなかった。
ところで、本願発明である経口製剤を構成する発明特定事項は、下記の4つに大別できる。
(1) オメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸として又は薬学的に許容可能なその塩を含有する
(2) カプセルのコーティングが、中性のポリアクリル酸エステルである
(3) 中性のポリアクリル酸エステルが、pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する
(4) カプセルのコーティングが、pH5.5において30乃至60分間溶解しない
(5) オメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸が、回腸内において放出される
上記発明特定事項(1)及び(2)は、経口製剤を構成する具体的な構成要件を示している。
しかしながら、発明特定事項(3)、(4)及び(5)については、もたらされる結果(効果または願望)により発明を特定しようとするものであるから、「願望型」発明特定事項(または「願望型」構成要件)とでも呼ぶべきものであって、サポートがしっかりしていない限り、そもそも許されるべきものではないだろう。
参考:
2008/02/19
2006.07.31 「富田製薬 v. ニプロ」 知財高裁平成17年(行ケ)10736
ニプロと富田製薬との特許係争の結末: 知財高裁平成17年(行ケ)10736
【背景】
重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」とする特許発明(特許第2769592号)の請求項7~10に係る発明についての特許を無効とする旨の審決を不服として、特許権者である原告(富田製薬)が審決取消しを求めた事案。請求項9及び10については、進歩性の判断が争点であり、本発明と引例との相違点は「ブドウ糖」の有無だけであった。
請求項7:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項8:
さらに酢酸を含有してなる請求項7に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項9:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
請求項10:
さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。
【要旨】
裁判所は、
引例においては、ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が記載されているわけではなく、本件訴訟で提出された全ての証拠中にも、ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が開示されたものはなく、かかる内容の周知技術が存在したことも認められないので、当業者が容易に相当し得ると解すべき根拠が無い
と判断した。
審決のうち、請求項9及び10を無効とするとの部分は取り消されたが、その他の争点(訂正についての裁量権の逸脱濫用の違法、及び、1次判決拘束力の範囲の判断の誤り)については請求棄却(請求項7及び8ついては無効審決を維持)。
【コメント】
本審決取消訴訟は、ニプロの透析液粉末製剤「リンパック」に関して同社と富田製薬との間で争われていた特許係争のクライマックス。
「リンパック」の構成は以下の製剤の組合せからなる。
A-1剤: 成分は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸(pH調整剤)。
A-2剤: 成分は、ブドウ糖。
B剤: 成分は、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)。
本判決で、"ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含む"という構成で限定された剤クレームしか特許として生き残らなかったため、「リンパック」が特許発明の技術的範囲外となり、最終的にはニプロの逆転勝訴という形で終結した。
参考:
Categories *Case2006, Inventive step/Obviousness, ★, ・Composition/Formulation
2008/01/24
2006.07.04 「シェーリング・プラウ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10715
モメタゾンフロエート(Mometasone furoate)吸入剤の発明は認められるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10715
【背景】吸入用エアゾール組成物に関する発明について、進歩性なし、との拒絶審決に対してが提起した審決取消訴訟。出願人はSchering-Plough。
引例発明との相違点は、含有する医薬が、本願発明ではモメタゾンフロエート(Mometasone furoate)であるのに対し、引用例1ではモメタゾンフロエートに特定されていない点のみであった。
請求項5:
「吸入用エアゾール組成物であって:
A.モメタゾンフロエート;
B.1,1,1,2-テトラフルオロエタン;および
C.賦形剤;界面活性剤;保存剤;バッファー;酸化防止剤;甘味料;
および風味マスキング剤から選択される,場合により存在してもよい一つ
あるいは複数の成分
から本質的に成る組成物。」
【要旨】
引例1の吸入用エアゾール製剤に使用する医薬として、ステロイド系副腎皮質ホルモンのベクロメタゾン等に代えて、ステロイド化合物で抗炎症剤として使用することのできる引例2記載のモメタゾンフロエートを用いることは、本願優先日当時、当業者であれば容易に想到することができたものと認められる。
原告は、
「引例2は、モメタゾンフロエートという特定化合物の安定性を考慮することなしに、化合物全般についてエアゾールへの製剤化の可能性に言及したに過ぎないから、引例1のベクロメタゾンをモメタゾンフロエートに置き換えようとは考えない」
との阻害要因の存在を主張したが、
裁判所は、
「モメタゾンフロエートが吸入用エアゾール組成物に適さないことをうかがわせる記載はなく、不安定で使用できないとの技術常識も認められない。」
として主張を退けた。
また、原告は、
「薬剤回収率が高いという顕著な効果」
を主張したが、
裁判所は、「実施例には、原告が主張するような薬剤回収率に関する記載はなく、また、本願明細書には、薬剤としてモメタゾンフロエートを使用した場合に、にベクロメタゾンジプロピオネートを使用した場合と比べて、顕著な効果を奏する旨の記載もない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。」
として、認めなかった。
請求棄却。
【コメント】
技術常識の存在を動機付けの阻害要因として主張するのであれば、しっかり技術常識として認められるよう主張しなければならないだろう。また、顕著な効果を主張するのならば、客観的に。
参考:
2008/01/20
2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は公知プロダクトにより新規性を失うか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10781
【背景】
製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の原告(三共)の特許発明(特許第3463875号)について、先願明細書(国際出願PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。出願人はテバであり、日本では特表2004-510817号公報として公表、登録となった(特許3737801))に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとされ無効とされた審決の取消訴訟。
請求項1:
「菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から,有機溶媒を用いて,プラバスタチン類を抽出する工程において,有機溶媒として,
式CH3CO2R(上記式中,Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し,並びに,不純物を無機酸を用いて分解する工程,不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる,一般式(I)
[化1]
を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。」
【要旨】
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり、結局、組成物そのものの発明ということになる。従って、先願明細書に記載された発明と同一であり、特29条の2違反である。三共は、発明未完成等を理由に引例は29条の2先願の適格性が無い旨主張したが、裁判所は認めなかった。
請求棄却。
【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
一方、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)の権利解釈についても同様に、特許権の効力がクレームの製法に限定されるとする「限定説」よりも、製法がどうであれプロダクトそのものが同一であれば特許権の効力が及ぶとする「同一性説」が原則と考えた方がよいだろう。
本件は、不純物が議論された点でも興味深い。
参考:(3) 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。
(注)このように解釈する理由は、生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製造方法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でないからである。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。
メバロチンの世界売上高推移
2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)
2008/01/17
2006.03.29 「X v. ファイザー」 知財高裁平成17年(ネ)10117
共同発明者とは ? : 知財高裁平成17年(ネ)10117
【背景】製剤研究室長だった原告Xは、本件特許権(特許第3015677号)に係る発明「ノルバスク分割錠」と同一の形状を着想していたと主張し、職務発明について特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に相当の対価を請求した。本件特許公報中の発明者欄には、原告 X の氏名も記載されていた。
請求項 1:
「盤状の素錠の上面に錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の溝からなる割線を設け,該上面は対向する縁部から割線へ向けて徐々に凹ませ,素錠の下面は周辺部から中心部に向けて徐々に盛り上げ,凹ませた上面および盛り上げた下面には各々曲面を形成させるが,上面の曲率半径を下面の曲率半径より小さくすることによって,周辺部より中心部の方が薄肉となるようにした上記素錠に,フィルムコーティングを施してなる,分割錠剤。」
【要旨】
「本件発明は、錠剤の形状についての着想を得ただけでは、期待する作用効果を奏するか否かが明らかでなく、実際に実験等を繰り返すことによって、初めて発明が具体化し、完成したものであるから、本件発明における発明者を認定するに当たっては、実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという観点に依拠するのが相当である。」と裁判所は言及。実際、控訴人Xは、本件発明の着想を提案したり、伝えたりしたとの事実は認められず、真の共同発明者と認めることはできないとされた。
控訴棄却。
【コメント】
化学発明(製剤)の発明者の認定について言及した判決。製剤の発明者認定において、着想よりもむしろ実験を経た創作に重きをおいた観点が示されている。しかし、原審(2005.09.13 「X v. ファイザー」 東京地裁平成16年(ワ)14321)の判決文中に記載されている双方の主張を読んだほうが、むしろ実務には参考になる部分が多い。
発明の対価を請求するケースが増えてきたが、医薬に関する発明は通常研究グループのチームワークによって生み出されるので、単なる助言者~発明者~単なるテクニシャンの線引きをすることは困難な作業である。しかし、将来の争いに備えるという点で、出願時の発明者決定プロセスにおいて誰が発明者なのかという合理的・客観的な証拠資料を残しておくことは、企業側としては非常に重要なことであろう。
参考:ノルバスク(Norvasc): ベシル酸アムロジピン(amlodipine besilate)を有効成分とする高血圧症薬(持続性Ca拮抗薬)であり、1993年12月からその非分割錠が発売開始され、1996年以降は分割錠に一本化して販売されている。
Categories *Case2006, Inventorship/Remuneration, ★★, ・Composition/Formulation
2008/01/09
2006.02.24 「SmithKline v. Apotex」 CAFC Docket No.04-1522
プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知プロダクトにより新規性を失うか?: CAFC Docket No.04-1522【背景】
パロキセチン塩酸塩(paroxetine hydrochloride)を抗うつ剤として販売(販売名: パキシル(Paxil)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI))しているSmithKlineは、ANDA申請したApotexに対して、新規な方法により製造されるパロキセチンをプロダクトバイプロセスによりクレームした米国特許(6,113,944)を侵害しているとして訴訟を提起した。
Claim 1. A pharmaceutical composition in tablet form containing paroxetine, produced on a commercial scale by a process which comprises the steps of:
a) dry admixing paroxetine and excipients in a mixer to form a mixture; or
b) dry admixing paroxetine and excipients, compressing the resulting combination into a slug material or roller compacting the resulting combination into a strand material, and milling the prepared material into a free flowing mixture; and
c) compressing the mixture into tablets.
該特許が、パロキセチンに関する先願米国特許(4,721,723)により新規性を失っているか否かが争われた。
【要旨】
たとえ、プロダクトクレームが製法限定されていたとしても、特許性はプロダクト自身で判断される。従って、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知技術からプロダクトを取り戻すことはできない。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知プロダクトにより新規性を失うと判断された。
【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
参考:
2008/01/06
2007.11.29. 「イエダ v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10105
実験的に実証されていないから進歩性があるのか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10105
【背景】
「溶解型TNF受容体のマルチマー,その製造方法,およびそれを含有する医薬組成物(特開平7-145068号)」に関する発明が引例との関係で進歩性を有しないとの拒絶審決に対して取消しを求めた事案。
請求項1:
TNFのその受容体への結合の妨害能を有しTNFの作用を遮断できる,溶解型TNF-Rのマルチマーまたはその塩であって,該マルチマーはTBP-Iからなる,あるいはTBP-IとTBP-IIの混合物からなる,溶解型TNF-Rのマルチマーまたはその塩。
【要旨】
裁判所は、
「引用例1には,「溶解型TNF-Rのマルチマー」につき,TNF依存性応答を抑制するために投与され,TNFによって引き起こされる病気や疾患を治療するために使用されることも記載されている。そして,以上の事実に,前記4のとおり,TNFに特異的に結合する2種類のタンパク質として,TBP-IとTBP-IIがあり,これらは,TNFの細胞破壊作用に対して防護作用を有することが,本願優先日前から知られていたことからすると,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,引用例1に記載された「溶解型TNF-Rのマルチマー」について,「TBP-Iからなる,あるいはTBP-IとTBP-IIの混合物からなる」ものを用いてみようと発想する十分な動機付けがあるということができるのであり,相違点①を容易に想到することができたものというべきである。」
と判断した。
この点、出願人は、
「TNFが結合するTNF-Rの形態について,~まだ何もわかっていない。~その「多価形態」におけるその「結合能力」についても実証されていない」
等の主張をしたが、裁判所は十分な動機付けがあるとしてその主張を採用することはできないと補足的に言及した。
請求棄却。
【コメント】
実験的に実証されていないことを証明したからといって、進歩性があるということにはならない。
完全ヒト型可溶性TNFα / LTα レセプター製剤としてエンブレル(Enbrel、一般名:エタネルセプト(Etanercept))が既に販売されいるが、これは、遺伝子組換えにより産生された、 ヒトIgG1のFc領域とヒトTNFⅡ型レセプターの細胞外ドメインのサブユニット二量体からなる糖蛋白質であり、本願のTBP-I(TNFⅠ型レセプターに相当)からなるマルチマーとは相違するものである。
参考:
Categories *Case2007, Inventive step/Obviousness, ★, ・Composition/Formulation
2007/12/23
2005.11.16 「千寿製薬・大塚製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10184
既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10184
【背景】
先発メーカーの先の薬事承認処分(オキシグルタチオン、眼手術時の洗浄)の後、別メーカーが本件薬事承認処分(オキシグルタチオン含有キット、販売名:オペガードネオキット(Opeguard neo kit))に基づいて、新規包装体特許(特許第3116118号)の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。
【要旨】
本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。先の処分に対応する特許権者が別人であろうと関係ない。請求棄却。
【コメント】
存続期間の延長登録要件として、延長登録の特許権の効力に関する規定(特68条の2)から、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から判断するという判決。既存薬の有効成分及び効能・効果に変更が無い限り、新規製剤に関する承認を得るために該製剤をカバーする製剤特許権を実施できなかったとしても、該製剤特許権の存続期間を延長することはできない。
個人的な感想であるが、登録要件を権利の効力の規定(特68条の2)を持ち出して判断し、さらに「用途」という要件を一義的に「効能・効果」であると解釈するという、存続期間延長登録要件に関する下記一連の判決内容にはいまいち納得いかない感じを受けるのは私だけであろうか? 既存薬の毒性を低減させたり、有効性を持続させたり、医師・患者の使い勝手を向上させたりするための改良薬は、益々強く望まれるようになってきている一方、多大な開発費用を要するのは事実である。存続期間延長制度の立法当時には、このような実情を想定していなかったとしても、登録要件を権利の効力の規定から説き起こすのはやはり乱暴ではなかろうか? また、既存薬の組成や用法・用量等を改善した用途発明の特許権も、承認が得られるまで実施できないという点では同様であるのだから、その処分が既存薬の効能・効果と同一だからという理由によって存続期間延長登録の対象にならないとするのは、そもそもの存続期間延長制度の趣旨に反するのではなかろうか? 用途発明として、効能・効果に限らず、用法用量や製剤に特徴がある"用途"発明が医薬発明として認められている(「医薬発明」の審査基準においても明記されいるところである)ことを踏まえれば、仮に延長登録出願の登録要件として"用途"の同一性を判断するとしても、その"用途"を一義的に医薬品の"効能・効果"とする解釈は、医薬発明の"用途"の解釈と食い違っている。
参照:
2007/12/18
2005.10.11 「ロシュ(参加人:武田薬品) v. 特許庁長官(酢酸ブセレリン徐放性製剤事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10345
既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10345
【背景】
先の薬事承認処分(一般名:酢酸ブセレリン(buserelin acetate)、販売名:スプレキュア(Suprecur)、子宮内膜症)の後、本件薬事承認処分(スプレキュアMP1.8(酢酸ブセレリン徐放性製剤)、子宮内膜症)に基づいて、新規製剤特許の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。
【要旨】
特許法としては、薬事法による承認が得られた品目に限定して延長に係る特許権の効力が及ぶとするものではなく、延長に係る特許権の効力は、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶとしたものであり、このような概念によって、薬事法の規定とは別に、処分という概念を画そうというものである、と裁判所は解釈した。従って、本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。棄却。
【コメント】
製剤に関する一変承認に基づいて、その新規製剤特許の延長登録を試みた事案。補助参加した武田薬品が非常に明快な主張を展開、裁判所もやむなく権利の効力の規定(特68条の2)から登録要件の規定に関する解釈を説き起こさざるを得なかった。現法律では問題がある点も言及され、制度の歪みについて一応の認識がなされた。なお、有効成分以外の製剤処方を変えたジェネリック医薬品に対しても、先発品の延長登録特許権の効力は、有効成分及び効能・効果が同一であればその権利範囲内で及ぶ点は変わりなし。
上告受理申立てたが不受理(2006.03.07)。
本件承認医薬品であるスプレキュアMP1.8は、Aventis(現Sanofi-aventis)社と販売契約を締結した持田製薬が販売。同じくLH-RH誘導体である「リュープリン」を販売する武田薬品が競合製品「スプレキュア」の存続期間の延長登録に協力した理由を考えてみることは興味深い。
参考:
Categories *Case2005, Patent term extension, ★★★, ・Composition/Formulation
2007/12/16
2007.11.13 「ホーファーリサーチ v. 東洋新薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10098
動機付けは、本願発明と引用発明とが同じ効果の観点でなければならないか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10098
【背景】
被告(東洋新薬)は「皮膚外用剤」に関する特許(第3533392号)の特許権者である。本件は、無効審判請求人である原告(ホーファーリサーチ)が、審決のうち請求不成立とされた部分についての取消しを求めた事案である。
争点は、進歩性及びサポート要件。
請求項1:
松樹皮抽出物および平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲンペプチドを含有する,皮膚外用剤であって,該松樹皮抽出物はカテキン類を5重量%以上および2~4量体のプロアントシアニジンを20重量%以上含有し,かつ,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2~4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し,そして,プロアントシアニジンが0.001重量%~2重量%含有され,コラ-ゲンペプチドが0.0001重量%~5重量%含有される,皮膚外用剤。
争点となった引用発明との相違点1:
引用発明には平均分子量3,000以上7,000以下の加水分解コラーゲンを用いることが記載されていない点
【要旨】
進歩性に関する争点について、裁判所は、
「甲12には,実施例1において,平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤に皮膚の抗老化効果,しわ抑止効果が認められたことが記載されている。そうすると,平均分子量7000以下との記載はないものの,上記のとおり甲12に平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤において,皮膚の抗老化等の効果が認められたことからすれば,審決が,甲2発明と本件発明2との相違点1に関し,甲12に記載ないし示唆がないと認定した点(14頁23行~27行9行)については誤りである。なお,審決は,上記に関し,保湿性に優れた効果を示す範囲として平均分子量3000以上7000以下のコラーゲンペプチドを使用することが示唆されていないことをその理由としているが,化粧品等の皮膚外用剤において,相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして,保湿性の観点でなければならないということはなく,上記甲12のように抗老化効果,しわ抑制効果等の観点であっても差し支えないから,上記認定を左右するものではない。」
また、
「甲36の上記記載によれば,平均分子量3,000~7,000の範囲を含むコラーゲンペプチドが保湿性を目的として皮膚外用剤に配合されることが技術常識であることが推認できる。よって,甲36を適用する動機付けはあるということができる。」
と判断し、結論として、
「原告主張の取消事由4に関し,本件発明2と甲2発明との相違点1に関しても,当業者にとって甲12の記載,甲36の技術常識から当業者にとり容易想到であると判断すべきである。
そうすると,審決は甲2発明と本件発明2との相違点1,2のいずれについての判断も誤ったことになり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
とした。
また、サポート要件に関する争点について、裁判所は、
「本件明細書に開示された内容(上記化粧水2,3が化粧水6,7等に比べ保湿効果,血流改善効果がある等)からは,本件発明2における「該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2~4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」との点につき,本件明細書の発明の詳細な説明にこれを十分裏付ける記載がないというほかなく,いわゆる原告のいうサポート要件を欠くというべきである。」
と判断した。
特許庁がした審決のうち請求不成立とされた部分を取り消す。
【コメント】
審決が取り消された事案。
引用発明との相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして、本願発明と引用発明とが同じ効果の観点でなければならないということはない(異なる効果の観点であっても差し支えない)と判断した点に注意。
サポート要件についても、当たり前のことではあるが、特許庁は言いくるめることが出来ても、第三者からの攻撃に耐えることができるように客観的に見てつじつまの合うデータの記載が必要である。
See also:
2007/12/09
2007.10.31 「エフ エム シー v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10031
補正却下・拒絶査定は、クレームごとに処分されるのか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10031
【背景】 
「カデュサホスのマイクロカプセル化製剤」に関する特許出願(特願2000-561829号)についての拒絶査定不服審判において、特許庁は、原告が審判請求時にした請求項13についての補正は、特17条の2第4項第2号に掲げる『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものではないとした上で、補正を却下し、本件出願にかかる発明は特29条2項の規定により特許を受けることができないことを理由に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
【要旨】
補正却下の違法性について、原告は、
「特許法53条には補正書全体を却下するとの記載は存在せず,同条の「第17条の2第1項第3号に掲げる場合において,・・・補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは・・・決定をもってその補正を却下しなければならない。」との規定における後者の「その補正」が同法17条の2第3項から第5項までの規定に違反している補正を意味し,違反していない補正を意味しないことは文理解釈上明らかである」
旨主張した。
これに対し、裁判所は、
「上記規定における補正は,補正事項ごと又は請求項ごとのものをいうものではなく,同法53条において却下しなければならない補正も,特定の補正事項に係る補正部分ではないと解され,原告が主張するような解釈が文理上当然に認められるものではないから,原告の主張は採用できない。」
とした。
次に、本件補正を却下した特許庁の処分に誤りはないとした上で、本件補正前の本願発明1の進歩性について争われたが、結局、裁判所は特許庁の判断を支持する結論を下した(詳細は判決文参照)。
そこで、原告は、
「請求項2以下の請求項に係る発明について判断をしていないとして,審決に判断の遺脱がある」
旨主張した。
これに対して、裁判所は、
「特許法は,特許出願の場面においては,一つの特許出願に対して,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定していると解することができるのであり,複数の請求項に係る発明が含まれている場合には,そのうちの一つの請求項に係る発明について,特許をすることができないものであるときには,当該出願を拒絶査定することができると解し得る。本件においては,請求項1に係る発明である本願発明1が特許法29条2項の規定に基づき特許をすることができないものであることは,前記2のとおりであり,そうすると,本件出願は拒絶されるものであるから,本件出願における他の請求項である,請求項2以後の請求項2ないし14に係る発明について,審決が特許をすることができないものであるかの判断をしなかったことに,原告主張の違法な点はない。」
とした。
【コメント】
補正却下又は拒絶査定は、クレームごとではなく補正書全体又は一つの特許出願に対しての処分である。原告の主張によれば、代理人が誤って補正したらしい。補正が却下され、それが原因で、他のクレームについてした補正が全く生かされず、審決となってしまった。思わず"ゾッ"としてしまう事件である。万が一を考えてわざわざ分割出願しておくという安全策も考える必要があるのかもしれない。
カズサホス(cadusafos):
有機リン系殺虫剤。アセチルコリンエステラーゼ活性を阻害することにより殺虫活性を持つ。

