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2008/02/28

2006.09.14 「ヴィアトリス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10719

「抗糖尿病作用」から「真性糖尿病Ⅰ型の治療」の進歩性: 知財高裁平成17年(行ケ)10719

【背景】
本発明は「R-α-リポ酸を含有することを特徴とする真性糖尿病I型の治療用薬剤」であり、刊行物1に基づき進歩性が否定された。

請求項1:
R-(+)-α-リポ酸,R-(-)-ジヒドロリポ酸又はそれらの塩,エステル,アミドを含有することを特徴とする,真性糖尿病I型の治療用薬剤。

原告は、
1) 刊行物1はビタミンEとの組み合わせであってR-α-リポ酸単独の効果を示していない点、
2) 本願発明は特に「真性糖尿病Ⅰ型の治療用薬剤」としているのに対し、刊行物1は単に「抗糖尿病作用」の存在を示すにとどまる点で相違する点、
3) R-α-リポ酸がラセミ体及びS-リポ酸に比べ毒性が少ないという顕著な効果がある点
等を主張した。

【要旨】
クレームは、R-α-リポ酸以外の成分も含有する剤と解釈されるので、刊行物1がビタミンEとの組み合わせであっても相違しない。また、刊行物1自体が教示しているように、当該刊行物1発明を「真性糖尿病I型の治療用薬剤」とすることは、当業者が容易に想到することができたものというべきである。さらに、毒性の認識の有無に関わらず最も薬理効果の高いもの(すなわちR-α-リポ酸)を採用することは、当業者が容易に想到することができたものというべきであるから、原告が主張する上記毒性に関する知見の発見は、本願発明の特許性を基礎づけることになるものではない。進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
進歩性なしの判断は当たり前かなーという事案。
本事案から得られる教訓は、動機付けが確立されている場合には、たとえ、他の新たな知見に基づく顕著な効果(例えば、本件では、毒性という観点)を主張したとしても、確立されてしまった動機付けを覆すことは困難であるという点くらいか。

参考:

ちなみに、チオクト酸(α-リポ酸)は、日本では、従来、医薬品としてのみ使用が許可された成分だったらしいが、2004年に食品としての使用も許可され、現在は、サプリメントに配合されて健康食品としても販売されているようである。
欧州では、チオクト酸(α-リポ酸)は糖尿病患者の末梢神経障害の治療薬として使用されているらしい(Thioctacid®)。

参考:


2008/01/15

2007.12.06 「Novopharm v. Janssen-Ortho, Daiichi」 Supreme Court of Canada Docket No. 32200

Levofloxacin(レボフロキサシン)特許の有効性は?(カナダ最高裁上告棄却): Supreme Court of Canada Docket No. 32200

Levaquin(一般名:levofloxacin(レボフロキサシン)、ニューキノロン系抗生物質、日本での販売名はクラビット)の後発品をカナダで販売するNovopharm(Tevaの子会社)に対して、その特許権者である第一製薬(現・第一三共)とそのライセンシーであるJanssen-Ortho(Johnson&Johnsonの子会社)が特許権(CA1,304,080)侵害を主張。カナダ最高裁がNovopharmの上告を棄却したことによって、特許は有効であって特許権侵害であるとした連邦控訴裁判所の判断が確定した。

カナダ最高裁websiteより:

Summary

Intellectual property - Patents - Medicines - Whether the law of selection patents confers a second monopoly to a compound on the basis of properties that are the same as those of the genus from which the compound was selected - Whether “motivation” to select a previously disclosed compound should be imported into and given central importance in the test for obviousness - Whether the unpredictability of the properties of a previously disclosed compound permit an otherwise obvious invention to be the subject of a second monopoly - Whether a second monopoly may be granted for a compound disclosed in the prior art on the basis that routine testing is required to enable the invention - Whether a selection patent should be exempt from the requirement that the claims be unambiguous.

Daiichi Pharmaceutical Co., Ltd. (“Daiichi”) discovered ofloxacin, an antimicrobial drug used in the treatment of infections and obtained a patent for it in the early 1980s that expired in 2001. Ofloxacin is a racemic compound with a single chiral centre, a junction where there are two identical, three-dimensional molecules called enantiomers or optical isomers that are mirror images of each other. The right hand or dextro version is called (+) ofloxacin and the left or levo side is called (-) ofloxacin or “levofloxacin”. Further, the configuration of the enantiomers can be chemically described as being either “S” or “R”. After the discovery of ofloxacin, researchers at Daiichi experimented with techniques to isolate or resolve its enantiomers from the racemic compound. Their research indicated that the “S(-)” enantiomer had twice the antimicrobial activity, was less toxic, and was more soluble than the racemic compound. In 1986, Daiichi filed a patent application for levofloxacin which became Canadian Patent 1,304,080 (the “080” patent in 1992. This patent will expire in June 2009. Janssen-Ortho Inc. (“Janssen”), Daiichi’s Canadian licencee, markets and sells levofloxacin in Canada. In 2004, the Applicant, Novopharm Limited (“Novopharm”), obtained a notice of compliance from the Minister of Health, which allowed it to market its generic version of levofloxacin in Canada. In Daiichi’s prohibition proceedings launched under the Patented Medicines (Notice of Compliance) Regulations, Novopharm was successful in establishing that the 080 patent was void for obviousness and anticipation. When Novopharm began marketing its product, however, Janssen and Daiichi commenced infringement proceedings. In dispute was the validity of claim 4 of the 080 patent.

See also:


2007/11/27

2004.06.09 「アベンティス v. 特許庁長官」 東京高裁平成15年(行ケ)62

エナンチオマー(光学異性体)に進歩性はあるか?(ゾピクロン事件) : 東京高裁平成15年(行ケ)62

【背景】

「D-ゾピクロンを含有する睡眠性質または時間を改善するための薬学的組成物」に関する発明(特表平6-504548)についての、進歩性なしとの拒絶審決に対する取消訴訟。
本願発明と引用例記載の発明とは「ゾピクロンを含有する睡眠性質または時間を改善するための医薬」である点で一致し、本願発明では、ゾピクロンが右旋性異性体であるのに対して、引用例に記載された発明ではラセミ体である点で相違していた。

【要旨】
裁判所は、
「本件優先日当時,化学物質の生物活性(薬理活性,副作用)とその立体構造には,様々な相関関係があることが知られており,光学異性体の存在する化学物質(化学物質の化学構造が知られている場合,その化学物質に光学異性体があるかどうかは当業者に自明である。)については,ラセミ体だけではなく,各異性体についても,目的とする薬理効果や副作用等について検討を行うことが普通に行われるようになっていたこと,また,光学異性体の存在する化学物質を医薬品として使用しようとする場合には,その検討結果に応じて,光ラセミ体を使用するか一方の光学異性体を使用するかを決定するようになっていたことが認められる。~光学異性体の存在が自明であるゾピクロンについて,光学異性体のそれぞれにつき,催眠活性を検討すると同時に,毒性等の望ましくない生理活性についても検討し,より薬理作用に優れたものを医薬用途に用いようとすることは,ごく自然な発想であり,当業者が容易に想到することであったというべきである。そして,ゾピクロンの右旋性異性体が慣用のラセミ分割手段等により容易に入手し得ることは,原告も争っていないから,ゾピクロンの一方の光学異性体である右旋性異性体を入手し,その睡眠活性及び副作用を検討確認し,その優れた薬理作用を見いだすことに,格別の技術的困難があったとは認められない。」
と判断した。
これに対し、原告は、ラセミ体の一方の光学異性体が活性であるとき、毒性もその活性に関連していることがしばしばあり、本願発明のように、一方の光学異性体の有益な活性(薬理活性)がラセミ体よりも強いのに毒性はラセミ体よりも小さいということは、当業者の予測を超えていると主張したが、裁判所は、
「化学物質の望ましい生理活性と望ましくない生理活性とが,常に,一方の光学異性体に相伴って強く現れるというのは,当業者の一般的な認識であったとはいえず,むしろ,光学異性体を有する化学物質における生理活性の発現には,化学物質に応じて,多種多様な態様があるというのが技術常識であったと解される。したがって,~「ある活性(睡眠活性)がラセミ体よりも強いにもかかわらず毒性がラセミ体より小さい」ことが当業者の予測の範囲外のことであるとの主張を裏付けるものとはいえない。」と判断した。
また、原告は、ゾピクロンの右旋性異性体がラセミ体の2倍を超える程度の睡眠活性を有するという効果を主張したが、裁判所は、
「光学異性体間の薬理活性の違いの一つとして認識される範囲内のものというべきであり,当業者の予測を超える顕著な作用効果ということはできない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】
光学異性体の進歩性が判断された事件。
光学異性体の効果という観点での主張のみでは公知ラセミ体からの進歩性は非常に認められにくい状況である。判決文中で示唆されているように、光学異性体の入手困難性という観点で主張すれば、光学異性体発明の進歩性が認められる余地が残されているのかもしれない。

ちなみに、米国及び欧州では、対応特許が医薬用途限定無しの光学異性体それ自体で成立しており(米国特許
6,444,673号、欧州特許EP609210号)、この点、日本の進歩性の判断が比較的厳しいといえるのではなかろうか。このような日-欧米間の進歩性判断の違いを踏まえたうえで、日本では無理でも欧米で特許を取得できる可能性と、それぞれの国での特許取得の意義を検討した上で出願戦略を練る必要があるだろう。

ゾピクロン(Zopiclone):
市販されている睡眠障害改善剤(商品名:アモバン(Amoban®))の有効成分。2つのエナンチオマーの混合物(ラセミ体)である。ベンゾジアゼピンレセプターに結合し、GABAレセプターに影響をおよぼすことでGABA系の抑制機構を増強するものと考えられている。既にジェネリック医薬品が参入している。


一方、活性体である光学異性体(一般名: Eszopiclone)を製剤化した睡眠障害改善剤(商品名:Lunesta®)は米国において、2005年に承認され、Sepracor社により販売されている。Sepracor社はアベンティス(現Sanofi-Aventis)社とEszopiclone特許に関する譲渡契約を結んでおり、その契約下で北米・日本を除くマーケットはGlaxoSmithKlineと、日本のマーケットはエーザイと提携してworldwideな展開をしている。

本出願は、Eszopiclone製剤が日本において上市された際には、ライフサイクルパテントとして重要な位置づけとなる出願のひとつだったかもしれない。

See also: