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2008/03/08

2007.09.10 「大洋薬品 v. アステラス」 知財高裁平成19年(ネ)10034

セフジニルの結晶形特許の有効性は?: 知財高裁平成19年(ネ)10034

【背景】
2007.03.13 「アステラス v. 大洋薬品」 東京地裁平成17年(ワ)19162の控訴審。
抗生物質セフジニル(商品名:セフゾン®カプセル)のA型結晶に関する発明(特許第1943842)の特許権者であるアステラス製薬が、その後発医薬品としてセフジニルを有効成分とする大洋薬品製剤の製造販売の差止め及び同製剤の破棄を求め特許侵害訴訟を提起。主に、本件特許の出願日前に公開されたセフジニルの物質発明に係る引例に基づき、本件特許が新規性を欠く発明に対してなされたもので無効にされるべきか否か、が争われた。

地裁は、引例明細書中の実施例に開示されたセフジニルとA型結晶とのIRスペクトルが一致しないことから、両者は同一であるとはいえない、と判断した。また、同引例実施例に記載された方法によりセフジニルのA型結晶が得られるか否かについて、原告・被告両者からの鑑定合戦となったが、結局地裁は、被告(大洋薬品)の追試によっては実験工程を忠実に再現してもA型結晶を得ることはできず、原告(アステラス製薬)の追試によれば無晶形のみが得られると判断し、当時の技術常識に基づいて上記実施例においては当業者において容易に実施し得る程度にセフチジニルのA型結晶の製造方法が開示されているとはいえないから、新規性欠如を理由とする本件特許の無効主張は認められないとし、原告(アステラス製薬)の主張を認めた。大洋薬品はこれを不服として控訴した。

【要旨】
知財高裁も、原判決をほぼ引用し、
「①被告(大洋薬品)製剤は本件特許発明の技術的範囲に属するとの原告(アステラス製薬)の主張は理由があり,②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきである等の被告(大洋薬品)の主張はいずれも失当である」
と判断した。
控訴棄却。

【コメント】
結晶特許が後発品排除に有効に働いた事例。
同剤の物質特許は2003年に特許期間満了したが、本件結晶特許は2008年8月まで存続するとのことである。
本件判決内容とは直接関係無いが、出願当時は別結晶(元結晶)として得られたものが、その後、結晶多形が明らかとなり安定晶が得られると、先の出願明細書に記載した方法ではもはや元結晶を再現して得られないという事態(安定晶が得られてしまう)が起こりうる。特許取得上に限らず、後の争いを想定して、既に開示された元結晶と、新結晶とが明確に区別できるような対策や証拠の準備をしておくことは非常に重要だろう。

なお、本件特許侵害訴訟は、最高裁が大洋薬品の上告を棄却したため、アステラスの勝訴が確定した(関連記事: 2007.12.27 「アステラスのセフゾン®カプセル特許侵害訴訟で最高裁が大洋薬品の上告を棄却」)。

参考:


2008/01/08

2006.02.16 「イナルコ v. 森永乳業(結晶ラクチュロース三水和物事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10205

添加した種晶が何なのか争われた事案: 知財高裁平成17年(行ケ)10205

【背景】
森永乳業は「結晶ラクチュロース三水和物とその製造法」とする特許第2848721号の特許権者。実施例には、結晶ラクチュロース三水和物を製造するのに、当該新規物質を種晶として用いる方法が記載されており、原料物質となる結晶ラクチュロース三水和物が、既に得られたことを前提とした書きぶりになっていた。無効審判を請求されたが、請求棄却されたため、審決取消訴訟が提起された。森永は、明細書記載の種晶は、公知であった結晶ラクチュロース無水物のことであり、当業者もそう理解するはずだと主張した。

【要旨】
明細書の記載から、「ラクチュロースを種晶添加し」の「ラクチュロース」は「三水和物」を意味するものと認められる。また、無水物を種晶として添加した場合に、無水物は結晶として析出せず、三水和物が析出すると予想することができるという主張は採用できない。本明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が種晶として使用するラクチュロース三水和物を容易に製造できる特段の事情が存在すると認めることはできないから、旧36条4項(実施可能要件)違反であるとして、審決を取り消した。

【コメント】
種晶を用いた製造方法を記載しなければならない場合には、当然のことながら当業者が実施可能なように、種晶をどのようにして得るのかまで記載する必要がある。

参考:


2007/12/07

2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313

必然的に生成してしまう場合には、"inherently anticipated"?: CAFC Docket No.03-1285, -1313

【背景】
1975年、Ferrosan社はパロキセチン(paroxetine)及びその塩をクレームする'196特許を取得、その明細書中には無水物として塩酸パロキセチンの製造方法が開示されていた。その後、SmithKline Beecham(SKB)は該特許のライセンスを受け、より安定な結晶性の塩酸パロキセチン半水和物を見出し、該結晶形に関する米国特許第4,721,723('723特許)を取得、FDA認可を得て販売(抗うつ薬、商標名Paxil)していた。Apotexは塩酸パロキセチンの無水物をANDA申請、パラグラフIV証明を提出した。これに対しSKBは271(e)(2)に基づく侵害を主張し、連邦地裁に訴訟を提起。非侵害の略式判決に対してSKBが控訴した。SKB社は、'196特許に従って塩酸パロキセチン無水物を製造すると、必然的に半水和物が製造されるので、少なくとも微量の半水和物を生産することになり、Apotex社は'723特許のクレーム1(量的限定のない塩酸パロキセチン半水和物結晶クレーム)を侵害することになると主張した。

【要旨】
PHC hemihydrateの存在は知られていなかったが、'196特許に従ってPHC anhydrateを製造すると、必然的にPHC hemihydrateが製造されるので、'723特許のクレーム1(量的限定のないPHC hemihydrateクレーム)は'196特許により新規性なく(inherently anticipated)、無効であるとされた。

【コメント】
2004.04.23 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285について再審理され、上記判決内容に差し替えられた。
結晶特許で後発品の参入を阻止しようと試みたが失敗した事例。
新規結晶であっても公知結晶が変化して必然的に生成してしまう場合には、inherently anticipatedとされ、新規性なしと判断されかねないので注意。本事件のような場合では、量的限定のないクレームだけでなく、結晶純度について段階的なクレームを立ておくのもひとつの有効策なのでは。

パロキセチン(パロキセチン塩酸塩水和物、Paroxetine)は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)であり、うつ病等の治療薬(商品名: パキシル, Paxil)としてグラクソ・スミスクライン社により販売されている。

2007/11/25

2004.04.28 「リヒターゲデオン v. 日本医薬品工業(ファモチジン事件)」 東京高裁平成15年(ネ)3034

結晶多形特許は有効か?(ファモチジン事件): 東京高裁平成15年(ネ)3034

【背景】

山之内製薬は、ファモチジンの物質特許を保有し、H2ブロッカー(商品名:ガスター)を販売していた。当時のガスターは、ファモチジンの結晶多形であるA型及びB型の混合物であった。その後、リヒターゲデオン社(ハンガリー国)はファモチジンの結晶多形であるB型の純粋結晶に関する特許(第2708715号)を成立させてしまった。山之内とリヒターゲデオン社との間で、リヒターゲデオン社が保有するファモチジン結晶多形特許に関する特許紛争が起きたが、山之内は日本におけるファモチジン結晶多形特許の独占的実施権を取得することで和解した。一方、ジェネリックメーカーは、山之内のファモチジン物質特許の存続期間が満了するのを見計らって、山之内が製造販売するガスターと同一のジェネリック医薬品の薬事承認を取得し、製造販売を開始した。リヒターゲデオン社は、ジェネリックメーカー16社に対して、ファモチジンのB型結晶形に関する特許を侵害しているとして、差止請求訴訟を提起した。東京及び大阪地裁で侵害は認められずリヒターゲデオン社は控訴した。本件はその一訴訟である。

【要旨】
出願経過等を参酌して解釈すれば、「『B』型のファモチジン」との記載は、ファモチジンには、A型、B型及び両者の混合物が存在することを前提とした上で、特定の「『B』型のファモチジン」に限定しているから、A型とB型の混合物を排除する意味を有すると判断した。B型とA型とを明確に区分していることに照らせば、A型の特性が検出される程度までA型を含むB型は、本件発明の技術的範囲に属しないと解するのが相当である、と判断した。従って、ジェネリック医薬品の原薬であるファモチジンは、A型の特性が検出される程度までA型を含むものと認められるから、ジェネリック医薬品は本件発明の技術的範囲には属さず、特許権を侵害するものということはできない、と判示した。また、出願経過に照らせば、「『B』型のファモチジン」に限定したというべきであり、均等成立のための要件を欠くため均等侵害の主張も採用することができない、と判断した。

【コメント】
いわゆる「ファモチジン事件」。結晶形(アモルファスも含む)の特許明細書作成時においては、その結晶形の好ましい含有量を記載したり、従来技術との境界線を明確にしたりしておくことで、訴訟時に少しでも有利な判断へと導くための準備をしておく必要がある。本事件においては、特に、混在していてもよいとするA型ファモチジンの含有量の範囲が広くなれば、拒絶・無効となる可能性が高まる点にも注意しつつ、B型結晶の純品に限定解釈されないような手当てをしておくべきであった。

また、山之内はリヒターゲデオン社に自社品の結晶多形特許を取得されてしまった。第三者に結晶多形を検討され、先に多形特許を奪われてしまわないよう、開発品の具体的活性成分が公に明らかになる前に、結晶多形検討はもちろんのこと、結晶多形に関する発明の出願をどのようなタイミングですべきか検討する必要がある。「2003.02.18 「大正 v. 山之内(ニカルジピン事件)」 大阪高裁平成14年(ネ)1567」や、米国の「ラニチジン事件」、「セフチン事件」等と対比して、結晶多形特許を製品のライフサイクルに有効に働かせるためにどのようにすべきか検討するにあたり価値ある事例である。

2007/11/23

2004.04.23 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285

臨床試験の実施は公然実施(public use)なのか?: CAFC Docket No.03-1285

【背景】

1975年、Ferrosan社はパロキセチン(paroxetine)及びその塩をクレームする特許(米国特許第4,007,196)を取得、その明細書中には無水物として塩酸パロキセチンの製造方法が開示されていた。その後、SmithKline Beecham(SKB)は該特許のライセンスを受け、より安定な結晶性の塩酸パロキセチン半水和物を見出し、該結晶形に関する特許(米国特許第
4,721,723)を取得、FDA認可を得て販売(抗うつ薬、商標名Paxil)していた。Apotexは塩酸パロキセチンの無水物をANDA申請、パラグラフIV証明を提出した。これに対しSKBは271(e)(2)に基づく侵害を主張し、連邦地裁に訴訟を提起。非侵害の略式判決に対してSKBが控訴した。SKB社は、'196特許に従って塩酸パロキセチン無水物を製造すると、必然的に半水和物が製造されるので、少なくとも微量の半水和物を生産することになり、Apotex社は'723特許のクレーム1(量的限定のない塩酸パロキセチン半水和物結晶クレーム)を侵害することになると主張した。

【要旨】
SKBが'723特許の出願日より1年を超える前に守秘義務を課すことなく行った塩酸パロキセチン半水和物の臨床試験は「public use」に当たるとされた。そこで、その臨床試験が「public use」の適用除外である「experimental use」に該当するものだったか否かが争点となった。「experimental use」はクレーム発明の特徴を試験した場合にのみ認められるものであるが、
(1) 本件特許クレームは、塩酸パロキセチン半水和物自体をクレームしており、その医薬品としての安全性や有効性(antidepressant use)に関する限定は含まれていない。さらに、
(2) 発明の実施化後(本件の場合、化合物自体の製造)後の追加的試験は、もはや「experimental use」とは認められない、
とCAFCは判断。従って、当該臨床試験は、「public use」の適用除外である「experimental use」とは認められず、'723特許は102(b)に基づき無効であるとされた。

【コメント】
上記判決は、再審理され、判決内容は差し替えられた(
2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313)。従って、本事案において、臨床試験がpublic useか否かという問題の結論は藪の中である。

しかしながら、臨床試験による実施が「public use」になり得るという考え方がされた点は非常に注意を要する。このような考え方を簡単にまとめてしまうと以下のようになるのではなかろうか。

治験に関与する第三者(医師、治験者、(被験者も?)など)に守秘義務がなければ・・・
(1) 化合物発明の場合・・・臨床試験で投与すれば少なくともその時点で「public use」に該当する。
(2) 用途発明の場合・・・非臨床薬理試験結果(in vitro又はin vitro試験)が存在すれば、臨床試験は「experimental use」にならない。即ち、用途発明についても臨床試験は「public use」に該当する。

臨床試験が発明の「公然実施」に該当するか否かについて、日本における取扱いを考える際に、審査基準等の説明が参考になるが、それでも、例えば、臨床試験を実施するにあたり、
(1) 被験者と秘密保持契約を交わさない(守秘義務を課していない)場合には、「公然」に該当すると判断され、且つ
(2) 被験者がその発明の内容を知ることが可能な状況(隠し持ち帰って分析?)、又はその発明の内容について説明してもらうことが可能な状況(医師が拒否しない)
であれば、臨床試験が発明の「公然実施」に該当してしまう可能性がある・・・なんて考えすぎだろうか?

パロキセチン(パロキセチン塩酸塩水和物、Paroxetine)は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)であり、うつ病等の治療薬(商品名:
パキシル, Paxil)としてグラクソ・スミスクライン社により販売されている。

See also


2007/11/14

2003.02.18 「大正 v. 山之内(ニカルジピン事件)」 大阪高裁平成14年(ネ)1567

主成分でなくても含有されていれば発明の技術的範囲に属するか?(ニカルジピン事件): 大阪高裁平成14年(ネ)1567

【背景】

Ca拮抗薬である塩酸ニカルジピンは、山之内製薬が創製した化合物であり、これについての最初の特許の実施例に塩酸ニカルジピンの「結晶形」が記載されていた。山之内は、「結晶形」塩酸ニカルジピンの製剤(商品名「ペルジピン錠」)につき、製造承認を得て、販売を開始した。「無定形」塩酸ニカルジピンの持続性製剤に関する本件発明の特許出願日は、最初の「結晶形」塩酸ニカルジピン製剤が発売される前であった。大正製薬は、塩酸ニカルジピンを含有する徐放性製剤を製造又は販売していた。そこで、山之内は大正に対し、大正製剤には「無定形」塩酸ニカルジピンが全ニカルジピンの約40%、そうでなくても実質的な割合含まれており、本件発明の技術的範囲に属するから、その製造販売は本件特許権を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得の返還を請求した。

特許番号第1272484号
特許請求の範囲(1項):「無定形2,6‐ジメチル‐4‐(3'‐ニトロフエニル)‐1,4‐ジヒドロピリジン‐3,5‐ジカルボン酸‐3‐メチルエステル‐5‐β‐(N‐ベンジル‐N‐メチルアミノ)エチルエステル(ニカルジピン)またはその塩を含有することを特徴とするニカルジピン含有持続性製剤用組成物」

【要旨】
大正製剤中には、最低でも15.7%以上の「無定形」塩酸ニカルジピンが含有されているものと認められる。そして、その量が極微量で本件発明の作用効果を生じない程度のものであるとはいえない。製剤中の「無定形」塩酸ニカルジピンの含有量が極微量で本件発明の作用効果を生じないことが明らかであるような場合を除いて、大正製剤は本件発明の技術的範囲に含まれ、「無定形」塩酸ニカルジピンの含有量や生成方法の観点からの限定を受けることはないものと判断し、大正の製造販売行為は、特許権侵害であるとした。

【コメント】
いわゆる「ニカルジピン事件」。新規な結晶形(アモルファス含む)の特許を取得した場合、その含有量が極微量で発明の作用効果を生じないことが明らかでない限り、その結晶形を少しでも含めば、たとえ他の結晶形が主であったとしても、その混合物に対して特許権の効力が及ぶ。山之内は「結晶形」塩酸ニカルジピン(ペルジピン錠)の発売後、「無定形」塩酸ニカルジピンを含有する1日2回投与可能な持続性カプセル製剤(ベルジピルLA20mg, 40mg)を発売した。結晶多形特許が製品のライフサイクルに有効に働いた事例である。後の(2004.04.28 「リヒターゲテオン v. 日本医薬品工業(ファモチジン事件)」 東京高裁平成15年(ネ)3034)や、米国の「ラニチジン事件」、「セフチン事件」等と対比して、結晶多形特許を製品のライフサイクルに有効に働かせるためにどのようにすべきか検討するにあたり価値ある事例である。「含有量が極微量で発明の作用効果を生じないことが明らかでない限り」という裁判所が言及した点について、発明の技術的範囲がクレームに基いて定められる(特70条)という大原則に対する抗弁として、被疑侵害者にとって実際どの程度の「明らか」さが必要とされるのだろうか。