当業者に過度の試行錯誤を強いる: 知財高裁平成17年(行ケ)10820
【背景】
本発明(特願平4-507654)は、骨形成用の活性剤複合体を生成する方法であり、明細書中には、具体的手段や操作に関する記載がなかったため、実施可能要件違反を理由に拒絶査定、拒絶審決を受けたため、原告は審決取消訴訟を提起した。原告は、周知慣用技術を用いて当業者であれば試行錯誤して容易に実施できる等主張した。
請求項1:
「骨形成用の活性剤複合体を生成するための方法であって,
骨から,コラーゲン,エラスチン,プロテオグリカン及びその混合物の形態における少なくとも一種の構造成分,少なくとも一種の走化学性ペプチド又はアラキドン酸代謝物の形態における少なくとも一種の補充成分,フィブロネクチン,テネイシン,ラミニン,コラーゲンタイプⅠⅤ型,Ⅴ型,ⅤⅠⅠ,L-CAM,N-CAM又はインテグリンの形態における少なくとも一種の接着成分並びに少なくとも一種のサイトカインの形態における少なくとも一種の増殖及び成熟成分を含んでなる少なくとも一の初期複合体を調製し,そしてそれを次の工程に従って処理する,
a)当該初期複合体に変性手段を供給するか,又は当該初期複合体を変性手段で処理して,当該初期複合体の前記成分の少なくとも一部を変性させて均質相を獲得し;
b)このようにして形成された均質相を二以上の部分に分割し;
c1)当該均質相を二部に分けたなら,当該均質相の一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;
c2)当該均質相を二部超に分けたなら,当該均質相の少なくとも一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;
d)当該均質相の少なくとも一の部から前記選定した成分を分画し;
e)このようにして獲得した画分の少なくと(も)一部を前記均質相の他の部と混合し;
f)工程eにより得られた混合均質相を,前記変性手段を取り除くことにより,又は前記変性剤による処理を停止させることにより再生し,これにより
g1)前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;又は
g2)前記工程a)ないしf)を1又は複数回繰り返して前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;
ことを特徴とする方法。」
【要旨】
裁判所は、
明細書中に具体的手段や操作に関する記載がなければ、当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たさない、
と判断した。
請求棄却。
【コメント】
当業者に過度の試行錯誤を強いることとならないように、発明を実施できるように記載しなければならない。
2008/04/15
2006.10.30 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10820
Categories *Case2006, Utility/Description requirement, ★, ・Process/Manufacture
2008/04/09
2006.10.30 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10834
「精製及び滅菌濾過」は当業者が適宜することができる範囲内の事項: 知財高裁平成17年(行ケ)10834
【背景】
依存性薬物に対するワクチンの製造方法に関する本発明(特表平5-502871号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
引例との相違点は、「精製及び滅菌濾過後、ワクチンの長期持続性保護を誘導する治療のための1回投与量及び投与回数で使用する」点であったが、原告は、「精製及び滅菌濾過」が引例に言及されていない点、「1回投与量及び投与回数」について本願実施例と引例とでは大きな差がある点等を主張した。
請求項1:
「ハプテン-担体複合体を得るためにハプテンとして担体化合物に結合させた依存性を起こしうる1種またはそれ以上の薬物を含有するワクチンの製造方法であって,該複合体は,精製及び滅菌濾過後,該ワクチンの長持続性保護を誘導する治療のための1回投与量及び投与回数で使用するためのものである,上記方法。」
【要旨】
「精製及び滅菌濾過」は医薬品であれば通常行われる事項である。また、クレームにおいて、具体的投与量や投与回数は特定されていないし、実施例に限定されるものでもない。従って、当業者にとって容易に相当し得るので進歩性なし。
請求棄却。
【コメント】
「1回投与量及び投与回数」について、本願実施例と引例とでは大きな差があるという点を主張するのであれば、少なくとも実施例に限定したクレームを作っておくべきだったのでは。
Categories *Case2006, Inventive step/Obviousness, ★, ・Process/Manufacture
2008/01/20
2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は公知プロダクトにより新規性を失うか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10781
【背景】
製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の原告(三共)の特許発明(特許第3463875号)について、先願明細書(国際出願PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。出願人はテバであり、日本では特表2004-510817号公報として公表、登録となった(特許3737801))に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとされ無効とされた審決の取消訴訟。
請求項1:
「菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から,有機溶媒を用いて,プラバスタチン類を抽出する工程において,有機溶媒として,
式CH3CO2R(上記式中,Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し,並びに,不純物を無機酸を用いて分解する工程,不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる,一般式(I)
[化1]
を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。」
【要旨】
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり、結局、組成物そのものの発明ということになる。従って、先願明細書に記載された発明と同一であり、特29条の2違反である。三共は、発明未完成等を理由に引例は29条の2先願の適格性が無い旨主張したが、裁判所は認めなかった。
請求棄却。
【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
一方、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)の権利解釈についても同様に、特許権の効力がクレームの製法に限定されるとする「限定説」よりも、製法がどうであれプロダクトそのものが同一であれば特許権の効力が及ぶとする「同一性説」が原則と考えた方がよいだろう。
本件は、不純物が議論された点でも興味深い。
参考:(3) 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。
(注)このように解釈する理由は、生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製造方法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でないからである。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。
メバロチンの世界売上高推移
2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)
2008/01/09
2006.02.24 「SmithKline v. Apotex」 CAFC Docket No.04-1522
プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知プロダクトにより新規性を失うか?: CAFC Docket No.04-1522【背景】
パロキセチン塩酸塩(paroxetine hydrochloride)を抗うつ剤として販売(販売名: パキシル(Paxil)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(selective serotonin reuptake inhibitor: SSRI))しているSmithKlineは、ANDA申請したApotexに対して、新規な方法により製造されるパロキセチンをプロダクトバイプロセスによりクレームした米国特許(6,113,944)を侵害しているとして訴訟を提起した。
Claim 1. A pharmaceutical composition in tablet form containing paroxetine, produced on a commercial scale by a process which comprises the steps of:
a) dry admixing paroxetine and excipients in a mixer to form a mixture; or
b) dry admixing paroxetine and excipients, compressing the resulting combination into a slug material or roller compacting the resulting combination into a strand material, and milling the prepared material into a free flowing mixture; and
c) compressing the mixture into tablets.
該特許が、パロキセチンに関する先願米国特許(4,721,723)により新規性を失っているか否かが争われた。
【要旨】
たとえ、プロダクトクレームが製法限定されていたとしても、特許性はプロダクト自身で判断される。従って、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知技術からプロダクトを取り戻すことはできない。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは公知プロダクトにより新規性を失うと判断された。
【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
参考:

