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2008/04/21

2007.10.10 「USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness」

USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness in Light of the Supreme Court’s KSR v Teleflex Decision

KSR事件における最高裁判決を受けて、USPTOは自明性判断の審査ガイドライン公表しました。このガイドラインでは、発明が自明であるとする理論的根拠として下記項目を列挙しています。

III. Rationales To Support Rejections Under 35 U.S.C. 103
Rationales
(A) Combining prior art elements according to known methods to yield predictable results;
(B) Simple substitution of one known element for another to obtain predictable results;
(C) Use of known technique to improve similar devices (methods, or products) in the same way;
(D) Applying a known technique to a known device (method, or product) ready for improvement to yield predictable results;
(E) "Obvious to try"—choosing from a finite number of identified, predictable solutions, with a reasonable expectation of success;
(F) Known work in one field of endeavor may prompt variations of it for use in either the same field or a different one based on design incentives or other market forces if the variations would have been predictable to one of ordinary skill in the art;
(G) Some teaching, suggestion, or motivation in the prior art that would have led one of ordinary skill to modify the prior art reference or to combine prior art reference teachings to arrive at the claimed invention.
なかでも注目すべきは、(E) "Obvious to try"において、下記の医薬品に関する判決が例示されている点です。現時点では、これら事件で下された論理が、医薬品における"塩の発明"及び"製剤の発明"が"Obvious to try"により自明であるか否かを判断するための道しるべであると言えるでしょう。


医薬品において、有効成分の許容される塩の種類が限られていること、医薬品の添加剤の種類も当局のガイドライン等で制限されていることなど、医薬品のライフサイクルパテントに関する発明が医薬品当局の規制という限られた枠の中で創作されなければならないことを考えれば、米国の自明性判断(特に、"Obvious to try")の方向性が新薬メーカーにとって厳しい状況に進んだことは間違いないでしょう。

2008/04/20

2008.03.31 「メリアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10221

動物の種を超えて薬剤を適用することは困難?: 知財高裁平成18年(行ケ)10221

【背景】
「家畜抗菌剤としての9a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「パスツレラ種,アクチノバシラス種,ヘモフィルス・ソムナス(Haemophilus somnus)又はマイコプラズマ種に起因するウシ又はブタの呼吸器感染,又は大腸菌,トレポネーマ・ハイオディセンテリー(Treponema hyodysenteriae)又はサルモネラ種に起因するウシ又はブタの腸内感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とするウシ又はブタに治療又は予防的に有効な量の式Iの化合物を投与することを特徴とし,
式I は下記:
【化1】(省略)
である化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
である前記方法。」

引用発明との一致点・相違点:
(一致点)
パスツレラ種に起因する哺乳動物の感染,又は大腸菌に起因する哺乳動物の感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の式Iの化合物を投与する治療方法。
(相違点)
本願補正発明は,パスツレラ種に起因するウシ又はブタの呼吸器感染,又は大腸菌に起因するウシ又はブタの腸内感染をその治療の対象とするのに対し,引用例1,4ではこの点の記載がされていない点。

【要旨】
ウシ又はブタへの適用の困難性について、
裁判所は、
「原告は,甲9を根拠として,動物の種間における薬理学上及び代謝上の相違の理由について説明できない以上は,マウス等の生体内における抗菌活性のデータからウシやブタのような家畜動物における抗菌活性を推論することはできないと主張する。
しかし,この点の原告の主張も,以下のとおり失当である。
確かに,甲9には,動物種間で薬剤の排泄及び消失半減期が異なることや,同類の動物種間においてさえ,既知の薬剤の薬物動態学的データを置き換えるのは不可能であって,合理的な投与スケジュールの設定は,臨床的な使用が意図されている動物の種ごとに得られたデータに基づくべきであることが記載されているが,同記載の趣旨は,全体をみれば,抗菌剤等の薬剤が動物の種を超えて使用され得ることを前提として,動物種の違いに応じて製剤の処方や形態,投与量,投与期間,投与間隔などを適宜設定すべきであるとの留意点に言及したものと理解するのが相当である。したがって,甲9の記載をもって,ウシやブタに適用することが困難であるとする原告の主張は,採用できない。」
と判断した。
容易想到性の判断の誤りについての原告のその他主張を認めず。
進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
ある薬剤が動物の種を超えて使用され得ることを前提としているのであれば、当然ながら異種の動物に適用することには積極的な動機づけがあるということになるだろう。

2008/04/13

2008.03.31 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10219

病態部位と微生物を特定した細菌感染治療法: 知財高裁平成18年(行ケ)10219

【背景】
「家畜抗菌剤としての8a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライドを投与すること,呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であること,及び,前記8a-アザライドが式I:
【化1】(省略)
をもつ化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
であることを特徴とする前記方法。」

引用発明1との一致点・相違点:
(一致点)
「家畜の細菌感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の,引用例1記載の式(Ⅱ)の化合物を投与する治療方法」である点。
(相違点)
本願補正発明は,細菌感染が呼吸器又は腸内の細菌感染であって,感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であることが特定されているのに対し,引用例1では明記されていない点。

【要旨】
裁判所は、
「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている。」
と認定した審決に誤りはなく、
引用例1の記載部分は、
「当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同じ目的,用途に利用できることを示唆していると解するのが自然である。」
と判断した。

これに対し原告は、
「8a-アザライドは他のマクロライド抗生物質と構造が異なり,その抗菌活性を予測することができないから,家畜の呼吸器感染症に適用することを推論することに阻害事由がある」
との阻害要因の存在を主張した。

しかし裁判所は、
「原告が根拠とする甲23~27は,いずれも本願の出願後の文献であるが,各記載内容を見ても,マクロライド分子の①安定性,②浸透性,③リボソーム結合性に関する知見が本願の優先権主張日当時の技術常識であると認めるに足る記載はない。」
と判断し、阻害事由があるとの主張は採用することができないとした。

格別の作用効果について

原告は、8a-アザライドに関する実験データと従来のチルミコシンに関する実験データとを比較した試験結果を提示し,顕著な治療効果をもたらすものであると主張した。

しかし、裁判所は、
「本願補正明細書には,上記アのとおり,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。
したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではないから,原告の主張は採用できない。」
と判断した。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
進歩性判断における有利な効果の参酌の可否について、明細書の記載を問題としている。
本願発明は引例と有効成分である化合物の点で一致しており、病態部位を限定している点(呼吸器又は腸内)、及び微生物を特定している点で相違しているのであるから、示すべき格別の作用効果についての考え方として、そもそも従来の化合物と比較しても意味が無く、相違点に注目して、他の部位や、他の微生物と比較した効果があるか否かを検討するのが正しい筋道ではなかろうか。

2008/04/09

2006.10.30 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10834

「精製及び滅菌濾過」は当業者が適宜することができる範囲内の事項: 知財高裁平成17年(行ケ)10834

【背景】
依存性薬物に対するワクチンの製造方法に関する本発明(特表平5-502871号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
引例との相違点は、「精製及び滅菌濾過後、ワクチンの長期持続性保護を誘導する治療のための1回投与量及び投与回数で使用する」点であったが、原告は、「精製及び滅菌濾過」が引例に言及されていない点、「1回投与量及び投与回数」について本願実施例と引例とでは大きな差がある点等を主張した。

請求項1:
「ハプテン-担体複合体を得るためにハプテンとして担体化合物に結合させた依存性を起こしうる1種またはそれ以上の薬物を含有するワクチンの製造方法であって,該複合体は,精製及び滅菌濾過後,該ワクチンの長持続性保護を誘導する治療のための1回投与量及び投与回数で使用するためのものである,上記方法。」

【要旨】
「精製及び滅菌濾過」は医薬品であれば通常行われる事項である。また、クレームにおいて、具体的投与量や投与回数は特定されていないし、実施例に限定されるものでもない。従って、当業者にとって容易に相当し得るので進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
「1回投与量及び投与回数」について、本願実施例と引例とでは大きな差があるという点を主張するのであれば、少なくとも実施例に限定したクレームを作っておくべきだったのでは。

2008/04/08

2008.03.19 「フランシスカス v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10270

鼻内投与製剤の形態をパウダーにすること、賦形剤として糖類又は糖アルコールを含有すること: 知財高裁平成19年(行ケ)10270

【背景】
アポモルヒネの鼻内投与製剤に関する発明(特表平8-508472号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。

請求項1:
「鼻内投与用のパウダー状の薬剤組成物であって,アポモルヒネ又はアポモルヒネ塩と賦形剤とを含有しており,前記賦形剤が糖類または糖アルコールを含んでいる,薬剤組成物。」

(引用発明Aの内容)
パーキンソン病の患者に対しアポモルヒネ1%溶液が鼻腔内投与用の薬剤組成物として使用されたこと。
(一致点)
いずれも「アポモルヒネを含む鼻内投与用の薬剤組成物」である点。
(相違点1)
本願発明はパウダー状であるのに対し,引用発明Aは溶液状である点。
(相違点2)
本願発明は賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むのに対し,引用発明Aは賦形剤についての記載がされていない点。

【要旨】
取消事由1(相違点1の判断の誤り)について

裁判所は、
「鼻内投与用の薬剤組成物についてパウダー状組成物の構成を採用することは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって容易に想到できるものであることは明らかである。」
と判断した。

これに対し原告は、引用例A中の副作用の存在(阻害要因1)や、粉末形態投与による不快感(阻害要因2)、刺激性のリスク(阻害要因3)、治療効率を悪化させる可能性(阻害要因4)といった阻害要因を主張したが、裁判所は、阻害要因になるというほどのものではないとして採用せず。

取消事由2(相違点2の判断の誤り)について

裁判所は、
「アポモルヒネを含有する薬剤組成物をパウダー状とするに当たり,賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むものとする相違点2の構成は,当業者において容易想到である」
と判断した。
これに対し、原告は、
「既知の多くの物質群の中から本願発明と同様の賦形剤を選択することは,当業者にとって容易ではなかった」
と主張した。
しかし裁判所は、
「本願の優先日前において糖又は糖アルコールの賦形剤自体が一般的であったと認められるのであるから,賦形剤として他に多くの物質が既知であるからといって,そのことから直ちに糖又は糖アルコールを賦形剤として用いることが困難となるものではない。」
として原告主張を採用しなかった。

取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤りに)について

原告は、
「甲4~6実験を挙げつつ,本願発明は①副作用が少なく②生物学的利用能が高いという顕著な効果を有する」
旨主張した。
しかし裁判所は、
「甲4~6実験の内容は本願明細書に開示されておらず,いずれも本願の出願後に公表ないし実験されたものであるから~同実験の結果をもって本願発明についての効果を論ずることは失当といわなければならない。
そして,本願明細書(甲16)には,~具体的に適用した試験例は記載がなく,ただ,「…この水溶液の最大欠点は,アポモルヒネに安定性が欠けていることである。」(10頁11行~12行)として従来技術の液剤の欠点を述べた上で,「…本発明によると,…アポモルヒネの驚くほど高い生物学的利用能及び優れた安定性を得ることができる。」と記載されているにすぎない(10頁15行~18行)のであるから,このような記載をもって本願発明が顕著な効果を有すると認めることはできない。なお,原告が提出した甲4~甲6実験は,~原告主張の上記①,②の効果が格別顕著であることを示すものではない。」
と判断し、原告主張は採用することができないとした。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
鼻内投与製剤の形態の選択肢として、
パウダーが知られている点、及び
鼻内投与製剤の賦形剤の選択肢として、糖類又は糖アルコールが知られている点
を考慮すれば、それらを採用するのには動機付けが存在するだろうから、予測できない効果を主張できるか否かが進歩性のハードルをクリアできるかどうかの一番のポイントであった。
残念ながら、明細書には顕著な効果を有すると認めることのできる試験例は開示されていなかったようである。また、原告主張の阻害要因は、動機付けを否定できる(当業者であれば試してみようと思わないといえる)ほどの強いものではなかった。

参考:


2008/04/05

2007.06.28 「Takeda v. Alphapharm」 CAFC Docket No.06-1329

ACTOS(アクトス)米国特許侵害訴訟: CAFC Docket No.06-1329

【背景】
武田薬品が販売するチアゾリジンジオン系糖尿病治療薬である塩酸ピオグリタゾン(pioglitazone hydrochloride、商標名:ACTOS、アクトス)について、ジェネリックメーカーであるAlphapharm社がFDAにANDA申請したことに対し、特許権者である武田薬品が侵害訴訟を提起した。Alphapharm社は、該特許(US4,687,777)は自明であり、特許は無効である等を主張した。地裁は特許は有効であると判断、Alphapharm社は控訴した。
争われたクレームは下記の一般式



で表されるピオグリタゾンをカバーする化合物等であり、公知化合物は、ピリジン環の6位にメチル基を有する点のみが構造上異なるチアンゾリンジオン誘導体(化合物b)であった。



【要旨】
CAFCは、
「化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)を判断する際に、
"prior art would have suggested making the specific molecular modifications necessary to achieve the claimed invention"
であることを明示するよう要求してきた判断は、KSR事件で最高裁が出した法理に一致しており、従って、
"in cases involving new chemical compounds, it remains necessary to identify some reason that would have led a chemist to modify a known compound in a particular manner to establish prima facie obviousness of a new claimed compound."
である」
と言及した。

Alphapharm社は、
「当業者なら化合物bをリード化合物として選択するだろうし、そうすれば、
"one of ordinary skill in the art would have made two obvious chemical changes: first, homologation, i.e., replacing the methyl group with an ethyl group, which would have resulted in a 6-ethyl compound; and second, “ring-walking,” or moving the ethyl substituent to another position on the ring, the 5-position, thereby leading to the discovery of pioglitazone"」
と主張し、また、
「KSR事件での判断に依拠して、"homologation"及び "ring-walking"の技術を使用することは"obvious to try"であった」
と主張した。

しかし、CAFCは、化合物bの副作用の懸念を示唆した文献を考慮して、
"Significantly, the closest prior art compound (compound b, the 6-methyl) exhibited negative properties that would have directed one of ordinary skill in the art away from that compound."
と認定し、当業者なら化合物bをリード化合物として選択するであろうとのAlphapharm社の主張に同意しなかった。

さらに、CAFCは、武田薬品が毒性という点でピオグリタゾンと化合物bとは有意に異なる旨を示している点を挙げ、たとえ上記のAlphapharm社の主張が認められたとしても、
"Takeda rebutted any presumed expectation that compound b and pioglitazone would share similar properties."
であると判断した。

Alphapharm社はクレームされた化合物がprima facie obviousであったであろう点を証明できておらず、特許は有効であるとの地裁判断に誤りはないとし、特許有効判決を支持した。

【コメント】
化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)が争われた事例。判決文中にKSR事件での最高裁の判断を明確に考慮している点でも注目すべき判決。
但し、補足意見で指摘されているように、ピオグリタゾン以外の6-ethyl compoundについては予期できない結果を示す証拠は示されておらず、ピオグリタゾンに限定されていないgenus claimであるクレーム1及び5を有効とした判断については果たして妥当なのかどうか疑問である。
Orange Bookによれば、本件特許の存続期間は2011年1月17日までとのこと。

CAFC判決を不服としてAlphapharm社は米国最高裁判所に上告していたが、2008年3月31日、同裁判所は上告を棄却する決定を下した。

参考:


2008/04/02

2006.10.26 「Takeda事件」 EPO審決T0512/02

ピオグリタゾンの併用特許の進歩性: EPO審決T0512/02

【背景】
「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼインヒビターとの医薬組成物」に関する出願(出願番号EP96304570.3/公開番号EP0749751)について、進歩性無しを理由に拒絶査定となったことに対して、出願人は審判部へappealした。
出願人は、審判手続きにおいて、比較実験データとともにnew main request(下記独立クレーム1)を提出した。

1. A pharmaceutical composition which comprises pioglitazone or a pharmacologically acceptable salt thereof in combination with acarbose or voglibose.

Closest prior artとして引用された文献(1)には、α-グルコシダーゼインヒビター、好ましくはinsulin sensitivity enhancerとの併用、は非インスリン依存型糖尿病の治療に有用である旨が記載されており、α-グルコシダーゼインヒビターとしてacarbose、voglibose及びmiglitol、そしてinsulin sensitivity enhancerとしてciglitazone、pioglitazone及びtroglitazoneが具体的に例示されていた。

【要旨】
審判部の判断
2.5
However, the provision of further pharmaceutical compositions for the treatment of NIDDM does not involve an inventive step over document (1) for the following reasons: as was mentioned in paragraph 2.2 above, document (1) teaches to use an insulin sensitivity enhancer in combination with an α-glucosidase inhibitor for the treatment of certain forms of NIDDM. As far as specific active agents are concerned, it is noted that (1) describes three α-glucosidase inhibitors, namely acarbose, miglitol and voglibose and three insulin sensitivity enhancers: pioglitazone, troglitazone and ciglitazone which yields nine possible combinations altogether. From this very limited number of options, the applicant chose two combinations: pioglitazone plus acarbose and pioglitazone plus voglibose. In this context, it is worthwhile to analyse the expermental data submitted by the appellant as annex to the statement of the grounds of appeal. In said tests the performance of a combination of active agents of the invention is compared with each of the individual compounds but not with combinations outside the present invention but encompassed by document (1).

To summarise the results of the tests: said tests show effects which are not mentioned in the closest prior art as defined by document (1), but the effects are not related to the selection of the two combinations as claimed out of the nine possible combinations of document (1). Therefore, they are considered to be inherent in said combinations of (1). There is no evidence at all that the two alternatives of the present invention are in any way advantageous over, e.g., the combination ciglitazone + voglibose or pioglitazone + miglitol.
It follows therefrom that the subject-matter as claimed in claim 1 merely constitutes an arbitrary selection out of the nine possible combinations of document (1) which cannot give rise to an inventive step.
請求棄却。

【コメント】
併用療法の発明において、併用の組み合わせを示唆する引例からの進歩性を主張するためには、有効成分単独効果との比較ではなく、該組合せ以外の組合せと比較したデータが要求される。要求される比較データが、単独効果と比較した効果ではなく、他の併用の組み合わせと比較した効果である点は、日本の実務と同じ(参考:2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389;2007.05.16 「ロレアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10291)と思われるが、下記に示すように日本特許庁の審査官は特許査定を出してしまっている。

ピオグリタゾン:

武田薬品が開発した2型糖尿病治療薬(商品名:アクトス、ACTOS、一般名:塩酸ピオグリタゾン)で、他の薬剤との併用・合剤を開発することによる製品のライフサイクルマネージメントを積極的に進めている。2006年度のアクトスの売り上げは対前年38%増の約3400億円。また、武田薬品の平成20年3月期第3四半期財務・業績の概況(2008.01.31公表)によれば、アクトスの売り上げは、2008年度第3四半期累計で既に約3100億円に達している。

esp@cenet®及びIPDL (JPO)により本特許出願のファミリー(日米欧)を調べたところ、状況は現時点で下記のとおり。日米欧それぞれの審査状況を比較すると興味深い。

  • EP749751:本件出願


  • EP861666:本願の分割出願、メトフォルミンとの併用クレームとして特許となったが、異議申立がなされ、その決定に対して審判請求されている(T1357/06)。


  • EP1174135:本願の分割出願、glibenclamide又はglimepirideとの併用クレームであり、審査係属中。


  • EP1764110:本願の分割出願、biguanideとの併用クレームであり、審査係属中。


  • JP3148973:α-グルコシダーゼインヒビターであるacarbose、voglibose、miglitolとの併用クレームとして特許となり、存続期間延長登録もされている(出願番号2002-700098、2002-700099)。


  • JP3973280:上記出願の分割出願。ビグアナイド剤、スタチン系化合物との併用クレームとして特許。


  • JP2007-191494:上記出願の分割出願。


  • US:多くの併用特許が成立。


2008/03/24

2006.10.25 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10773

薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明に進歩性は認められるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10773

【背景】
ノバルティス(Novartis)を出願人とする本願発明(出願番号: 平成8年特許願第533792号)は、テルビナフィン(terbinafine)とアゾール系14 α-メチルデメチラーゼ阻害剤の併用抗真菌剤であり、対象疾患を「アゾール耐性真菌感染症」と限定していた。同一併用抗真菌剤だが、耐性菌株について記載のない引用例が進歩性を否定するか否かが争われた。

【要旨】
原告は、
「本願発明の相乗的な薬理効果を予測することは困難であった」
と主張したが、
裁判所は、
「審決は~本願発明にいう相乗効果を奏するか否かについて,判断しているのではなく,既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとされた引用例によって,~テルビナフィンとアゾール系阻害剤という具体的組合せについて,アゾール耐性真菌株に対しても,その組合せによる相乗効果が奏されることを困難なく予測ないしは期待して,用いることができるか否かを判断したものである。
そして,本願明細書~によれば,本願当時,既に,耐性真菌の出現は当該技術分野における重要な課題であったものであり,~テルビナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,ある種のアゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても,それぞれ単独で用いる場合とは異なる作用機序による相乗的な治療効果が得られることを期待することは,当然のことであるというべきである。したがって,引用例に接した当業者においては,その引用例に記載されたテルビナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,アゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても治療効果を有することを予測ないしは期待し,これを確認しようと動機付けられるものというべきである。したがって,引用例に接した当業者が耐性菌に対しても引用例記載の2剤併用の抗真菌組成物を用いることは容易に想到できるものであり,原告主張の取消事由は理由がないことが明らかである。」
と判断し、進歩性を否定した。
請求棄却。

【コメント】
課題が知られている場合には、動機付けは確立され易い。
本事件では、進歩性判断において、積極的な動機付けがあるという点が問題となった。一方、効果の参酌という点は、既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとされた引用例が存在していたことによって、主な議論の対象とはならなかった。
本願発明は、上位概念である「真菌感染症」という用途(疾患)を「アゾール耐性真菌感染症」という特定の用途(疾患)に限定した選択発明である(ありえる)、という見方で捉えることもできるだろう。しかし、特定の用途(疾患)を特徴とする選択発明として進歩性を担保するためには、上位概念用途(疾患)で包含される他の下位概念用途(疾患)と比較して、その選択発明として選択した特定用途(疾患)に顕著な効果・異質な効果があることを主張する必要がある。「アゾール耐性真菌感染症」以外の真菌感染症、すなわち、普通(?)の真菌感染症にも優れた効果がある以上、それに比べて格別顕著な効果を「アゾール耐性真菌感染症」という選択肢に見出すことは困難であり、効果の参酌が議論されたとしても、進歩性なしの結論に変わりはなかったと思われる。

参考:


2008/02/28

2006.09.14 「ヴィアトリス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10719

「抗糖尿病作用」から「真性糖尿病Ⅰ型の治療」の進歩性: 知財高裁平成17年(行ケ)10719

【背景】
本発明は「R-α-リポ酸を含有することを特徴とする真性糖尿病I型の治療用薬剤」であり、刊行物1に基づき進歩性が否定された。

請求項1:
R-(+)-α-リポ酸,R-(-)-ジヒドロリポ酸又はそれらの塩,エステル,アミドを含有することを特徴とする,真性糖尿病I型の治療用薬剤。

原告は、
1) 刊行物1はビタミンEとの組み合わせであってR-α-リポ酸単独の効果を示していない点、
2) 本願発明は特に「真性糖尿病Ⅰ型の治療用薬剤」としているのに対し、刊行物1は単に「抗糖尿病作用」の存在を示すにとどまる点で相違する点、
3) R-α-リポ酸がラセミ体及びS-リポ酸に比べ毒性が少ないという顕著な効果がある点
等を主張した。

【要旨】
クレームは、R-α-リポ酸以外の成分も含有する剤と解釈されるので、刊行物1がビタミンEとの組み合わせであっても相違しない。また、刊行物1自体が教示しているように、当該刊行物1発明を「真性糖尿病I型の治療用薬剤」とすることは、当業者が容易に想到することができたものというべきである。さらに、毒性の認識の有無に関わらず最も薬理効果の高いもの(すなわちR-α-リポ酸)を採用することは、当業者が容易に想到することができたものというべきであるから、原告が主張する上記毒性に関する知見の発見は、本願発明の特許性を基礎づけることになるものではない。進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
進歩性なしの判断は当たり前かなーという事案。
本事案から得られる教訓は、動機付けが確立されている場合には、たとえ、他の新たな知見に基づく顕著な効果(例えば、本件では、毒性という観点)を主張したとしても、確立されてしまった動機付けを覆すことは困難であるという点くらいか。

参考:

ちなみに、チオクト酸(α-リポ酸)は、日本では、従来、医薬品としてのみ使用が許可された成分だったらしいが、2004年に食品としての使用も許可され、現在は、サプリメントに配合されて健康食品としても販売されているようである。
欧州では、チオクト酸(α-リポ酸)は糖尿病患者の末梢神経障害の治療薬として使用されているらしい(Thioctacid®)。

参考:


2008/02/19

2006.07.31 「富田製薬 v. ニプロ」 知財高裁平成17年(行ケ)10736

ニプロと富田製薬との特許係争の結末: 知財高裁平成17年(行ケ)10736

【背景】
重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」とする特許発明(特許第2769592号)の請求項7~10に係る発明についての特許を無効とする旨の審決を不服として、特許権者である原告(富田製薬)が審決取消しを求めた事案。請求項9及び10については、進歩性の判断が争点であり、本発明と引例との相違点は「ブドウ糖」の有無だけであった。

請求項7:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

請求項8:
さらに酢酸を含有してなる請求項7に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

請求項9:
塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

請求項10:
さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。

【要旨】
裁判所は、
引例においては、ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が記載されているわけではなく、本件訴訟で提出された全ての証拠中にも、ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が開示されたものはなく、かかる内容の周知技術が存在したことも認められないので、当業者が容易に相当し得ると解すべき根拠が無い
と判断した。
審決のうち、請求項9及び10を無効とするとの部分は取り消されたが、その他の争点(訂正についての裁量権の逸脱濫用の違法、及び、1次判決拘束力の範囲の判断の誤り)については請求棄却(請求項7及び8ついては無効審決を維持)。

【コメント】
本審決取消訴訟は、ニプロの透析液粉末製剤「リンパック」に関して同社と富田製薬との間で争われていた特許係争のクライマックス。

「リンパック」の構成は以下の製剤の組合せからなる。
A-1剤: 成分は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、無水酢酸ナトリウム、氷酢酸(pH調整剤)。
A-2剤: 成分は、ブドウ糖。
B剤: 成分は、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)。

本判決で、"ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含む"という構成で限定された剤クレームしか特許として生き残らなかったため、「リンパック」が特許発明の技術的範囲外となり、最終的にはニプロの逆転勝訴という形で終結した。

参考:


2008/02/13

2007.07.12 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 知財高裁平成18年(行ケ)10482

進歩性判断の引用発明の認定(適格性): 知財高裁平成18年(行ケ)10482

【背景】
被告(バイエルクロップサイエンス)の有する「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」に関する特許(特許3162450号)に係る発明について、原告(エンシステックス)が無効審判を請求。特許庁は、被告がした訂正請求に係る訂正を認めた上、上記審判請求は成り立たない(進歩性あり)との審決(無効2005-80225)をしたため、原告が、その取消しを求めた事案。

請求項1:
1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする工芸素材類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。

引例に記載された発明は、同有効成分を含有する害虫防除剤であり、「ヤマトシロアリ,イエシロアリ」と具体的に例示されていたが、その対象害虫に関して具体的な生物試験の結果が示されていなかった。

【要旨】
裁判所は、

「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのであるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。
被告は,上記第4の1(3)のとおり,化学物質の害虫に対する防除効果は害虫の種類によって大きな差異があるから化学物質の効果が生物試験によって裏付けられていない限り,所期の効果を予測することはできないと主張するが,このような事情を考慮したとしても,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物をヤマトシロアリ及びイエシロアリの防除剤として適用してみようとする動機付けとする限りにおいては,上記・u桙ノ説示したところを左右するには足りない。
また,被告は,用途発明の一種である医薬発明に関しては,特許庁の審査基準に「, 当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に多数列挙されている場合は,技術的に意味のある医薬用途が明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず,その発明を引用発明とすることはできない。」と記載されていることから,甲2のヤマトシロアリ,イエシロアリに関する記載を引用発明とすることは不適当である旨主張しているが,上記審査基準は,発明の公知性の有無に係る新規性の判断に関するものであり,進歩性の判断の当否を問題とする本件に妥当するものではないから,失当である。」

と判断した。
審決中、「本件審判請求は、成り立たない。」との部分を取消す。

【コメント】
医薬ではなく殺虫剤関連の発明に関する訴訟だが、進歩性判断における引用発明の認定(適格性)について争われた事例であり、且つ、審決が取消された事例でもあったので取り上げた。

新規性判断における引用発明の認定手法については特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 「新規性・特許性」中の下記項に記載されている。

1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定

そして、進歩性判断における引用発明として採用されるべきものとは何なのかについては、同審査基準中下記項のように"「新規性の判断の手法」と共通"と記載されている。

2.4 進歩性判断の基本的な考え方
「(3) なお、請求項に係る発明及び引用発明の認定、並びに請求項に係る発明と引用発明との対比の手法は「新規性の判断の手法」と共通である(1.5.1~1.5.4参照)。」


上記のように、審査基準中、進歩性判断における引用発明認定の手法に関する記載は、本事件における裁判所の判断と矛盾している。進歩性判断における引用発明の認定手法が、新規性判断における引用発明の認定手法と異なるのであれば、審査基準の記載は再検討されるべきだろう。

なお、本事件については、その後、被告が最高裁に対して上告受理の申立てを行ったが、上告不受理決定となった。被告は最高裁決定後も訂正請求を行って本件特許権の有効性を維持しようとし、原告は、被告から差止請求権を行使されるおそれがあることから、被告に対して、特許無効を主張して、原告製品の生産等に対する差止請求権の不存在確認を求めた(2008.01.30 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 東京地裁平成19年(ワ)24878)。

参考:


2008/02/11

2006.07.05 「スティヒティング v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10416

プリオン病検出方法の発明の進歩性は?: 知財高裁平成17年(行ケ)10416

【背景】
「プリオン病の検出方法」に関する発明(特許番号:第3333213号)について、進歩性なしとの理由で取消決定されたため、取消決定取消訴訟を提起した。
引例となる刊行物との相違点は、抗体を使用して異常蛋白を検出するに当たり、その対象を、死んだ動物脳組織ではなく、生存動物から標本調製可能な組織とする点であった。

請求項1:
「異常タンパクのプロテアーゼK抵抗性ドメインからのペプチド配列に対し誘導した少なくとも1種の抗体を使用して,生存動物から標本調整可能な組織中に異常タンパクを検出することを特徴とするプリオン病の検出方法。」

【要旨】
裁判所は、生存動物から検出する技術の開発は、周知の課題であったものと認められ、当業者であれば試みるのは当然であるとして、進歩性を否定した決定を支持した。
請求棄却。

【コメント】
課題が知られている場合には、動機付けは確立され易い。

2008/02/07

2008.01.31 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10071

内面の被覆に特徴があるプロピオン酸フルチカゾン吸入器の発明: 知財高裁平成19年(行ケ)10071

【背景】
「プロピオン酸フルチカゾン用計量投与用吸入器」に関する請求項1に係る本願発明(特願平8-531180号)は、引例および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。

請求項1:

「一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで内面の一部または全部が被覆された計量投与用吸入器であって,プロピオン酸フルチカゾンまたはその生理学的に許容される溶媒和物と,フルオロカーボン噴射剤と,場合によっては一以上の他の薬理学的に活性な薬剤または一以上の賦形剤とを組み合わせて含む吸入薬剤配合物を投与するための計量投与用吸入器。」

引例との主な相違点(相違点2):

本願発明は、計量投与用吸入器の内面を,一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで被覆しているのに対し、
引用発明1は、一以上のフルオロカーボンポリマーのみで被覆している。

原告は、当該相違点の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)および手続違背(取消事由2)を主張した。

【要旨】
裁判所は、原告主張の取消事由1について、
「当業者にとって,引用発明1におけるプラスチック塗膜による被覆部分(被覆材)とエーロゾル容器の内壁(基材)との接着性を高める目的をもって,引用発明1の計量投与用吸入器に,前記(1)エの周知技術(「一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで基材を被覆する」技術)を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断は是認することができる。」
と判断した。

原告は、本願発明の格別の作用効果の非予測性等を主張したが、
裁判所は、
「フルオロカーボンポリマー(フッ素樹脂)と非フルオロカーボンポリマー(非フッ素樹脂)の配合割合,硬化温度,コーティングの厚さ等の被覆条件が特定されていない本願発明の構成から,原告主張のポリマーブレンドによる容器内壁面への薬剤の付着の防止及びコーティングの密着性の改善の効果が必然的に生じるものとは認められない。また,本願明細書(甲5)には原告主張の上記効果は明記されておらず,本願明細書の記載から,本願発明がそのような効果を奏するものと理解できるものでもない。したがって,原告主張の本願発明の格別な作用効果は,本願発明の構成から必然的に生じるものでも,本願明細書の記載に基づくものでもないから,本願発明の効果であると認めることはできない。したがって,本願発明が格別な作用効果を奏することを前提に,相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到し得るものではないとの原告の主張は,その前提を欠き,失当である。」
と判断した。

原告主張の取消事由2(手続違背の有無)についても、裁判所は、
「審査段階において,拒絶の理由として特定の技術事項が証拠(文献)とともに示され,出願人に対して意見を述べる機会が与えられている場合において,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)を追加して引用することは,新たな技術事項を示して拒絶理由を変更するものではないから,審判手続において,新たに追加された証拠(文献)について,審判請求人に意見を述べる機会を与える必要はなく,その機会を付与しなかったからといって,手続違背を構成する余地はないというべきである。」
と判断した。

進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
吸入ステロイド剤においては、その製剤のみならずデバイスの性能が競合品との差別化に重要であるから、製剤に適したデバイスに関する発明の特許化は、製品のライフサイクルマネージメントにとって大きな価値があるだろう。
ところで、本件出願が審判に係属している際に、分割出願(特願2001-010020、出願日:2001.01.18)が並存していたが、拒絶理由に応答せずに拒絶査定が確定。本願については審決取消訴訟で争うほど権利化を望んでいたはずが、その結論に至る前に分割出願という保険をあっさり放棄している。

参考:


2008/01/24

2006.07.04 「シェーリング・プラウ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10715

モメタゾンフロエート(Mometasone furoate)吸入剤の発明は認められるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10715

【背景】
吸入用エアゾール組成物に関する発明について、進歩性なし、との拒絶審決に対してが提起した審決取消訴訟。出願人はSchering-Plough。
引例発明との相違点は、含有する医薬が、本願発明ではモメタゾンフロエート(Mometasone furoate)であるのに対し、引用例1ではモメタゾンフロエートに特定されていない点のみであった。

請求項5:
「吸入用エアゾール組成物であって:
A.モメタゾンフロエート;
B.1,1,1,2-テトラフルオロエタン;および
C.賦形剤;界面活性剤;保存剤;バッファー;酸化防止剤;甘味料;
および風味マスキング剤から選択される,場合により存在してもよい一つ
あるいは複数の成分
から本質的に成る組成物。」

【要旨】
引例1の吸入用エアゾール製剤に使用する医薬として、ステロイド系副腎皮質ホルモンのベクロメタゾン等に代えて、ステロイド化合物で抗炎症剤として使用することのできる引例2記載のモメタゾンフロエートを用いることは、本願優先日当時、当業者であれば容易に想到することができたものと認められる。
原告は、
「引例2は、モメタゾンフロエートという特定化合物の安定性を考慮することなしに、化合物全般についてエアゾールへの製剤化の可能性に言及したに過ぎないから、引例1のベクロメタゾンをモメタゾンフロエートに置き換えようとは考えない」
との阻害要因の存在を主張したが、
裁判所は、
「モメタゾンフロエートが吸入用エアゾール組成物に適さないことをうかがわせる記載はなく、不安定で使用できないとの技術常識も認められない。」
として主張を退けた。
また、原告は、
「薬剤回収率が高いという顕著な効果」
を主張したが、
裁判所は、「実施例には、原告が主張するような薬剤回収率に関する記載はなく、また、本願明細書には、薬剤としてモメタゾンフロエートを使用した場合に、にベクロメタゾンジプロピオネートを使用した場合と比べて、顕著な効果を奏する旨の記載もない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。」
として、認めなかった。
請求棄却。

【コメント】
技術常識の存在を動機付けの阻害要因として主張するのであれば、しっかり技術常識として認められるよう主張しなければならないだろう。また、顕著な効果を主張するのならば、客観的に。

参考:


2008/01/22

2006.06.27 「ヴィアトリス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10630

公知化合物(フリー体)に対する塩体の進歩性は?:知財高裁平成17年(行ケ)10630

【背景】
「R-チオクト酸の固体塩を含有する服用形」の発明について、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起した。引例とは「R-チオクト酸を含有する固体形状の服用形」で一致、本件発明は塩であるが、引例はフリー体である点で相違していた。

請求項1:
R-チオクト酸と,
アルカリ金属又はアルカリ土類金属,水酸化アンモニウム,塩基性アミノ酸,例えばオルニチン,シスチン,メチオニン,アルギニン及びリジン,式:NR1R2R3[式中,基R1,R1及びR3は同一又は異なるものであり,水素,C1-C4-アルキル又はC1-C4-オキシアルキルを表わす]のアミン,C-原子数2~6のアルキレン鎖を有するアルキレンジアミン,例えばエチレンジアミンまたはヘキサメチレンテトラミン,ピロリドン,モルホリン;N-メチルグルカミン,クレアチン及びトロメタモール
から選択された塩基
とから成る固体塩を含有する,経口適用のための服用形。

【要旨】
医薬品の技術分野において、「R-チオクト酸」が、他の医薬品と同様に製薬学的に使用可能な塩の形を用い得ることは周知の技術事項であり、本件塩基は常用の塩基である。安定性や製剤のしやすさ、バイオアベイラビリティーの観点から製剤に好ましい塩の形態のものを選択することは容易である。
原告は、引例との課題の相違を主張したが、課題が相違しているからといって動機付けがないということにはなりえないとされた。また、溶解速度が10倍高まる点について顕著な作用効果を主張したが、技術常識であり、当業者の通常の応用力の発揮の範囲内とされた。進歩性なし。
請求棄却。

【コメント】
新規な塩体を発明したとしても、進歩性のハードルは非常に高いといえる。
米国の話ではあるが、USPTOがKSR事件における最高裁判決を受けて2007年10月10日に公表した自明性判断の審査ガイドラインにも、"Obvious to try"により自明とされる発明の例として、塩体の非自明性が争われたPfizer v. Apotex事件が挙げられている。
フリー体を開示した化合物特許出願が公開された後、その特定の塩体を見出し、その塩体を有効成分として開発を進めていくこととなった場合、その塩体の発明を"特許的"にどのように扱っていくか、注意深く検討する必要があるだろう。
ちなみに、チオクト酸(α-リポ酸)は、日本では、従来、医薬品としてのみ使用が許可された成分だったらしいが、2004年に食品としての使用も許可され、現在は、サプリメントに配合されて健康食品としても販売されているようである。
欧州では、チオクト酸(α-リポ酸)は糖尿病患者の末梢神経障害の治療薬として使用されているらしい(Thioctacid®)。

参考:


2008/01/16

2006.03.27 「ユーローセルティーク v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10303

投与期間に特徴のある医薬の進歩性は?: 知財高裁平成17年(行ケ)10303

【背景】
「ブプレノルフィンによる持続的痛覚消失」の発明(特願平10-536980号)について、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起。引例とは「ブプレノルフィンの経皮送達システムの皮膚への適用により疼痛を治療する」という点で一致、本件発明は、3日間にさらに少なくとも2~6日の追加の投与期間を維持するとの構成要件であったが、引例は投与期間については言及されていなかったという点で相違していた。

請求項35:
ブプレノルフィンを含む経皮送達システムをヒト患者の皮膚上に適用し,3日間の投与期間にわたって該経皮送達システムの皮膚への接触を維持することによる中程度から重篤な疼痛を有するヒト患者を治療する方法のための薬剤の製造におけるブプレノルフィンの使用であって,前記経皮送達システムが適当な相対放出速度を維持して約3日間だけヒト患者に有効な痛覚消失を与えるのに十分なブプレノルフィンの量を含み,前記経皮送達システムは前記3日間の投与期間の後の少なくとも2~約6日の追加の投与期間,前記ヒト患者の皮膚への接触が維持され,これによりヒト患者が有効な痛覚消失を受け続けるものである,前記使用。

【要旨】
薬物動態を確認することは当業者が当然に思考する作業であり、本件投与期間を適用することも周知技術に照らして容易に相当することができる。皮膚への適用を継続すれば所定の効果が一定期間持続することは当業者であれば当然に予測したといえる。
請求棄却。

【コメント】
投与期間を持続すれば効果も持続することは、当業者が当然に予測できるといえる。本件投与期間の維持によって、何か予想できない効果があれば良かったのでは。
投与方法等で限定されたクレームが一定の条件のもと用途発明として認める旨を明確化した「医薬発明」の審査基準が「第VII部 特定技術分野の審査基準」の第3章として2005年4月に公表されたが、米国に比べ日本においては、まだまだこの点で争われた判決の蓄積が少ないので、本事案は今後の用法・用量に関する進歩性主張を検討する題材として参考になる。

ちなみに、現在、日本では、塩酸ブプレノルフィン(buprenorphine hydrochloride)は、鎮痛剤「レペタン注」、「レペタン坐剤」として大塚製薬から市販されており、既にジェネリック医薬品が参入している。本件出願人であるEuro-Celtique SAは、徐放性製剤技術に強いNapp/Purdue/Mundipharma independent associated companiesのpatent holding agentであり、ブプレノルフィン経皮吸収剤の臨床試験が現在実施中のようである。

参考:

  • Euro-Celtique SA website: http://www.euro-celtique.com/


  • Mundipharma website: History and Timeline


  • 久光製薬ニュースリリース: 2007.8.6 「Norspan®」の独占的な販売権に関するプレスリリース


  • 審査基準: 「第VII部 特定技術分野の審査基準、第3章 医薬発明、2.3 進歩性」

  • (4) 投与間隔・投与量等の治療の態様により特定しようとする医薬
    特定の対象患者群、又は特定の適用範囲に対して、薬効増大、副作用低減といった当業者によく知られた課題を解決するために、医薬の使用の態様(投与間隔・投与量等)を好適化させることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。したがって、請求項に係る医薬発明において、引用発明との比較で新規性が認められるとしても、引用発明と比較した有利な効果が当業者の予測し得る範囲内である場合は、その進歩性は否定される。しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであること等、他に進歩性の存在を推認できる場合は、その発明の進歩性は肯定される(事例8)。