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2008/03/18

2008.02.29 「A v. 三菱化学」 東京地裁平成19年(ワ)12522

職務発明の相当の対価請求権の消滅時効: 東京地裁平成19年(ワ)12522

【背景】
被告(三菱化学)の元従業員である原告(A)が、被告に対し、職務発明に係る特許権について相当対価の支払を求めた。被告は、相当の対価請求権は時効により消滅したと主張した。
本件発明は、職務発明であり、被告は原告ら共同発明者から特許を受ける権利を承継、特許出願をし、特許(本件発明1: 第1466481号; 本件発明2: 第1835237号)を得た。本件発明に係る医薬品は、商品名「アンプラーグ」(ANPLAG、一般名: 塩酸サルポグレラート(Sarpogrelate Hydrochloride)、5-HT2ブロッカー)であり、被告は、製造承認を受け、平成5年10月7日に発売を開始していた。

【要旨】
裁判所は、

「勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。特許法35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,同条により認められた法定の債権であるから,権利を行使することができる時から10年の経過によって消滅する(民法166条1項,167条1項)。」

との一般原則について言及し、
本件については下記のように当てはめ、対価請求権の時効により消滅したと判断した。

「本件発明等取扱規則は,~その対価として出願補償,登録補償,実績補償を支払うこと,このうち,出願補償の支払時期については出願した時点,登録補償の支払時期については特許権の設定登録がされた時点とすることを定めているものと認められる。他方,本件発明等取扱規則は,実績補償については,~実績補償の支払時期を特許権等に係る発明等の実施開始時(「特許権等に係る発明等を実施し」と規定されていることから,特許発明の実施開始時,又は特許権の設定登録時のいずれか遅い時点)と定めているものと解するのが相当である(「その効果が顕著であると認められた場合その他これに準ずる場合」とは,支払時期を定めたものではなく,支給の要件を定めたものと解すべきである。)。~そうすると,本件発明等取扱規則により,

本件発明1についての相当の対価の支払時期は,
出願補償については出願時である昭和56年8月20日となり,
登録補償については設定登録時である昭和63年11月10日となり,
実績補償については,設定登録日よりも実施開始時の方が遅いため,実施開始時である平成5年10月7日となり,上記の各時点が消滅時効の起算点となる。

また,本件発明2についての相当の対価の支払時期は,
出願補償については出願時である平成元年5月18日となり,
登録補償については設定登録時である平成6年4月11日となり,
実績補償については,設定登録日の方が実施開始時よりも遅いため,設定登録日である平成6年4月11日となり,上記の各時点が消滅時効の起算点となる。

そうすると,原告の本件発明~に係る相当の対価請求権は,いずれも,原告が,被告に対し,その履行を催告した平成19年2月1日(甲7の1,弁論の全趣旨。なお,本件訴えは,同催告から6か月以内の同年5月18日に提起された。)までに,その時効起算点から既に10年以上が経過しており,消滅時効が完成したというべきである。」

原告は,

「本件発明等取扱規則の規定(9条)が不明確であるために,被告が実施による効果を認定し,褒賞金を支払ってくれるものと信じて,あえて相当の対価請求権を行使しなかった原告に対し,このような規定を設けた被告が消滅時効を援用することは信義則に反し,許されない」

旨主張したが、
裁判所は、

「上記条項の文言は,褒賞金(実績補償)の支払時期について(支払時期を定めたものであるか否かについても含め)やや明確さを欠くものではあるものの,原告が主張するように,実施後5年間又は各年度ごとの実績に相当する分につき当該年度末が経過するまで支払期日が到来しないことを定めた規定であると誤認させるようなものであるとはいえず,本件発明の実施後,消滅時効の期間が経過するまでの間に,被告に実績補償の請求をすることを思い止まらせるようなものであったということはできないから,原告の上記主張も理由がない。」

と原告主張を退けた。

請求棄却。

【コメント】
職務発明の相当の対価請求権の消滅時効の起算点は、職務発明に関する社内規定の対価の支払い時期に関する条項が重要となる。多くの場合、リタイア後に会社を訴えることになるだろうから、転職した場合は別として、請求権が時効消滅していることが多いのでは?
三菱化学の職務発明規定が明らかにされており、実務上興味深い。

参考: 対価請求権の消滅時効が問題となった医薬系判決

  • 2007.01.17 「X v. 三共有機合成」 東京地裁平成18年(ワ)18196


  • 2006.11.21 「X v. 大塚製薬」 知財高裁平成17年(ネ)10125


2008/03/16

2006.10.17 「X v. 日立製作所」 最高裁平成16年(受)781

職務発明 - 外国特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求: 最高裁平成16年(受)781

【背景】
原告Xは、職務発明について、我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利を使用者に譲渡したことにつき、使用者に対し、特35条所定の相当の対価の支払を求めた。日立は、外国特許に基づき、複数の企業との間で実施許諾契約を締結し、その実施料を収受するなどして利益を得ていた。

【要旨】
「従業者等が特35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については、同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。」

【コメント】
従業者は、使用者に職務発明に係る外国特許を受ける権利を譲渡したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。

2008/02/12

2006.07.19 「X v. 和光純薬」 知財高裁平成18年(ネ)10020

着想を提出した者は発明者か?: 知財高裁平成18年(ネ)10020

【背景】
営業の職務に従事していた原告Xは、着想を記載した検討依頼書を研究所に提出していたことを理由に、本件発明「洗浄処理剤」(特許第3219020号)は原告の職務発明であって、特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に譲渡の対価を請求した(原審: 2006.01.31 東京地裁平成17年(ワ)2538)。

請求項1:
(a)モノカルボン酸,ジカルボン酸,トリカルボン酸,没食子酸以外のオキシカルボン酸,及びアスパラギン酸及びグルタミン酸から選ばれたアミノカルボン酸から成る群より選ばれた有機酸及び(b)エチレンジアミン四酢酸及びトランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸から選ばれたアミノポリカルボン酸,ホスホン酸誘導体,縮合リン酸,ジケトン類,アミン類,及びハロゲン化物イオン,シアン化物イオン,チオシアン酸イオン,チオ硫酸イオン及びアンモニウムイオンから選ばれた無機イオンから成る群より選ばれた錯化剤を主に含んで成る,金属配線が施された半導体基板表面の洗浄処理剤。

【要旨】
控訴人は、
「控訴人が「本件検討依頼書」に記載した有機酸と錯化剤とを含む洗浄処理剤という着想(本件着想)は本件発明そのものであるから,控訴人が本件検討依頼書の起案をした以上,控訴人は,本件発明の発明者である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「発明者(共同発明者を含む。)に当たるというためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり,単なるアイデアや研究テーマを提示したにすぎない者などは,技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから,発明者ということはできない。のみならず,化学の技術分野に属する発明については,一般に,ある物品を構成する有効成分の物質名やその化学構造のみから,当該物品の有用性を予測することが困難であるため,これを構成する物質についての着想のみから,直ちに当業者において実施可能な発明が完成するものではなく,有用性を確認するための実験を繰り返し,有用性が認められる範囲のものを明確にして初めて技術的思想の創作をしたといい得るものも数多く存在する。そして,そのような場合においては,上記着想を示したのみでは,技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから,当該着想を示したのみの者をもって発明者ということはできない。~本件発明は,化学の技術分野において,実験により有用性が認められる範囲のものを明確にして初めて技術的思想の創作をしたといい得る発明というべきであるから,そのような実験以前の,洗浄処理剤を構成する物質についての単なる着想それ自体は発明ということができず,したがって,そのような着想を示したにすぎない者は,これを発明者と認めることはできない。」
と判断した。

控訴棄却。

【コメント】
医薬に関する事例ではないが、化学分野の発明者(共同発明者)の認定についての判決。
化学の技術分野において、技術的思想の創作(発明)をしたか否かの判断には、「着想」よりも「実験」に重きが置かれているといえる。

2008/01/17

2006.03.29 「X v. ファイザー」 知財高裁平成17年(ネ)10117

共同発明者とは ? : 知財高裁平成17年(ネ)10117

【背景】
製剤研究室長だった原告Xは、本件特許権(特許第3015677号)に係る発明「ノルバスク分割錠」と同一の形状を着想していたと主張し、職務発明について特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に相当の対価を請求した。本件特許公報中の発明者欄には、原告 X の氏名も記載されていた。

請求項 1:
「盤状の素錠の上面に錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の溝からなる割線を設け,該上面は対向する縁部から割線へ向けて徐々に凹ませ,素錠の下面は周辺部から中心部に向けて徐々に盛り上げ,凹ませた上面および盛り上げた下面には各々曲面を形成させるが,上面の曲率半径を下面の曲率半径より小さくすることによって,周辺部より中心部の方が薄肉となるようにした上記素錠に,フィルムコーティングを施してなる,分割錠剤。」

【要旨】
「本件発明は、錠剤の形状についての着想を得ただけでは、期待する作用効果を奏するか否かが明らかでなく、実際に実験等を繰り返すことによって、初めて発明が具体化し、完成したものであるから、本件発明における発明者を認定するに当たっては、実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという観点に依拠するのが相当である。」と裁判所は言及。実際、控訴人Xは、本件発明の着想を提案したり、伝えたりしたとの事実は認められず、真の共同発明者と認めることはできないとされた。
控訴棄却。

【コメント】
化学発明(製剤)の発明者の認定について言及した判決。製剤の発明者認定において、着想よりもむしろ実験を経た創作に重きをおいた観点が示されている。しかし、原審(2005.09.13 「X v. ファイザー」 東京地裁平成16年(ワ)14321)の判決文中に記載されている双方の主張を読んだほうが、むしろ実務には参考になる部分が多い。
発明の対価を請求するケースが増えてきたが、医薬に関する発明は通常研究グループのチームワークによって生み出されるので、単なる助言者~発明者~単なるテクニシャンの線引きをすることは困難な作業である。しかし、将来の争いに備えるという点で、出願時の発明者決定プロセスにおいて誰が発明者なのかという合理的・客観的な証拠資料を残しておくことは、企業側としては非常に重要なことであろう。

参考:

  • ノルバスク(Norvasc): ベシル酸アムロジピン(amlodipine besilate)を有効成分とする高血圧症薬(持続性Ca拮抗薬)であり、1993年12月からその非分割錠が発売開始され、1996年以降は分割錠に一本化して販売されている。