進歩性判断の引用発明の認定(適格性): 知財高裁平成18年(行ケ)10482
【背景】被告(バイエルクロップサイエンス)の有する「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」に関する特許(特許3162450号)に係る発明について、原告(エンシステックス)が無効審判を請求。特許庁は、被告がした訂正請求に係る訂正を認めた上、上記審判請求は成り立たない(進歩性あり)との審決(無効2005-80225)をしたため、原告が、その取消しを求めた事案。
請求項1:
1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする工芸素材類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。
引例に記載された発明は、同有効成分を含有する害虫防除剤であり、「ヤマトシロアリ,イエシロアリ」と具体的に例示されていたが、その対象害虫に関して具体的な生物試験の結果が示されていなかった。
【要旨】
裁判所は、
「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのであるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。
被告は,上記第4の1(3)のとおり,化学物質の害虫に対する防除効果は害虫の種類によって大きな差異があるから化学物質の効果が生物試験によって裏付けられていない限り,所期の効果を予測することはできないと主張するが,このような事情を考慮したとしても,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物をヤマトシロアリ及びイエシロアリの防除剤として適用してみようとする動機付けとする限りにおいては,上記・u桙ノ説示したところを左右するには足りない。
また,被告は,用途発明の一種である医薬発明に関しては,特許庁の審査基準に「, 当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に多数列挙されている場合は,技術的に意味のある医薬用途が明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず,その発明を引用発明とすることはできない。」と記載されていることから,甲2のヤマトシロアリ,イエシロアリに関する記載を引用発明とすることは不適当である旨主張しているが,上記審査基準は,発明の公知性の有無に係る新規性の判断に関するものであり,進歩性の判断の当否を問題とする本件に妥当するものではないから,失当である。」
と判断した。
審決中、「本件審判請求は、成り立たない。」との部分を取消す。
【コメント】
医薬ではなく殺虫剤関連の発明に関する訴訟だが、進歩性判断における引用発明の認定(適格性)について争われた事例であり、且つ、審決が取消された事例でもあったので取り上げた。
新規性判断における引用発明の認定手法については特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 「新規性・特許性」中の下記項に記載されている。
1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定
そして、進歩性判断における引用発明として採用されるべきものとは何なのかについては、同審査基準中下記項のように"「新規性の判断の手法」と共通"と記載されている。
2.4 進歩性判断の基本的な考え方
「(3) なお、請求項に係る発明及び引用発明の認定、並びに請求項に係る発明と引用発明との対比の手法は「新規性の判断の手法」と共通である(1.5.1~1.5.4参照)。」
上記のように、審査基準中、進歩性判断における引用発明認定の手法に関する記載は、本事件における裁判所の判断と矛盾している。進歩性判断における引用発明の認定手法が、新規性判断における引用発明の認定手法と異なるのであれば、審査基準の記載は再検討されるべきだろう。
なお、本事件については、その後、被告が最高裁に対して上告受理の申立てを行ったが、上告不受理決定となった。被告は最高裁決定後も訂正請求を行って本件特許権の有効性を維持しようとし、原告は、被告から差止請求権を行使されるおそれがあることから、被告に対して、特許無効を主張して、原告製品の生産等に対する差止請求権の不存在確認を求めた(2008.01.30 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 東京地裁平成19年(ワ)24878)。
参考:
2008/02/13
2007.07.12 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 知財高裁平成18年(行ケ)10482
Categories *Case2007, Inventive step/Obviousness, Need for data, ★★★, ・Indication
2008/01/20
2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は公知プロダクトにより新規性を失うか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10781
【背景】
製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の原告(三共)の特許発明(特許第3463875号)について、先願明細書(国際出願PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。出願人はテバであり、日本では特表2004-510817号公報として公表、登録となった(特許3737801))に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとされ無効とされた審決の取消訴訟。
請求項1:
「菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から,有機溶媒を用いて,プラバスタチン類を抽出する工程において,有機溶媒として,
式CH3CO2R(上記式中,Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し,並びに,不純物を無機酸を用いて分解する工程,不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる,一般式(I)
[化1]
を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。」
【要旨】
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり、結局、組成物そのものの発明ということになる。従って、先願明細書に記載された発明と同一であり、特29条の2違反である。三共は、発明未完成等を理由に引例は29条の2先願の適格性が無い旨主張したが、裁判所は認めなかった。
請求棄却。
【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
一方、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)の権利解釈についても同様に、特許権の効力がクレームの製法に限定されるとする「限定説」よりも、製法がどうであれプロダクトそのものが同一であれば特許権の効力が及ぶとする「同一性説」が原則と考えた方がよいだろう。
本件は、不純物が議論された点でも興味深い。
参考:(3) 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。
(注)このように解釈する理由は、生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製造方法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でないからである。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。
メバロチンの世界売上高推移
2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)
2007/12/20
2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389
公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な合剤の発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10389
【背景】
「トラネキサム酸及びエテンザミドを含有する解熱鎮痛消炎剤」の出願に対して、特許庁は、トラネキサム酸と他の解熱鎮痛消炎剤との併用が記載されており、その一例としてエテンザミドが記載されていた引例に基づいて、進歩性なしとする拒絶審決を下した。本願明細書には、トラネキサム酸と、エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤との配合例の記載がなく、比較して格別に顕著な効果を奏するとの記載もなかった。しかし、エテンザミドとの併用が相乗効果を示すことを本願明細書中に示しており、且つ、出願人は、審査中、試験成績証明書にて他の組み合わせでは抗炎症効果の増強作用が認められないことを示していた。
【要旨】
格別顕著な効果を示すには、単なる相乗的効果では足りず、他では得ることのできない固有の効果があるという根拠を明細書に記載しなければならない。試験成績書でデータを示しても、明細書には格別顕著な効果を奏するものであることをうかがわせる記載は無いことから、出願人の主張は、明細書の記載に基づかないものである、とされ、進歩性なし。請求棄却。
【コメント】
組み合わせの上位概念が公知だが、公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な併用に関する発明(選択発明)において、進歩性ありと主張するためには、明細書中に、その構成や効果を単に記載するだけでは足りず、引用発明となるべき他の組み合わせと比較した(つまり格別に)顕著な効果を記載する必要がある。
2007(平成19)年3月26日、特許庁審判部から進歩性検討会報告書が公表され、その中で本事案が検討されている。
引用発明と比較した効果は明細書で主張する必要があるとの結論が導かれているかと思われるが、思わぬ引例により進歩性が否定された場合、明細書中に、その引例と比較した効果を主張していなかったがために拒絶理由を覆せなくなってしまうことが危惧される。そもそも審査官が果たすべき進歩性があるか否かを判断する負担を、出願人に過度に課すことになるのではなかろうか?本事案及び本検討会報告書の内容をよく吟味して、出願する際には、進歩性の引例となる先行技術をしっかり調査し、明細書に引例との比較結果を記載すべきか否かを慎重に検討する必要があるだろう。
参考:資料室(答申・報告書・講演録) >研究会・懇談会等 >進歩性検討会報告書(平成19年3月 特許庁審判部)より抜粋。(1)本願明細書における顕著な効果の記載の有無について
本願明細書の記載を見ると,エテンザミドとトラネキサム酸を併用した実施例しか記載されておらず,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を使用した実験例は一切ない。また,本願明細書に「エテンザミドが特に好ましい」との記載はあるものの,その記載だけで,この効果が技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるか否か判断できない以上,本願明細書に他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて顕著な効果について記載があるとするには無理があるのではないかとの結論となった。
(2)顕著な効果の認定における実験成績証明書の参酌について
審査基準には,「引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは,意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。」と記載されており,実験成績証明書を参酌して顕著な効果を認定することは可能である。しかしながら,同時に「明細書に記載されていなく,かつ,明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。」とされており,明細書に構成が記載されていれば,どのような場合でも,その効果を事後的に実験成績証明書で補充できるわけではない。
したがって,本願明細書の「エテンザミドが特に好ましい」との記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるかどうかということが問題になるわけであるが,上で述べたように,この記載のみから当業者が他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果があると推論するには無理があると考えられる。
なお,特36条の改正(平成6年法改正)に伴い,請求項に係る発明が従来技術との関連において有する有利な効果を記載する必要はなくなった(委任省令要件として扱わない)のに,明細書にその効果が記載されていないことで進歩性が否定されることについて疑問視する意見もあったが,法改正の趣旨は明細書の記載要件として,従来技術との関連において有する有利な効果を不要としただけであって,請求項に係る発明が引用発明に比較して有利な効果によって進歩性の存在を肯定的に推認しようとするのであれば,明細書にその効果が記載されている必要がある。
(3)本願発明と引用発明との対比判断(顕著な効果の判断)について
エテンザミドを含むサリチル酸系抗炎症剤とトラネキサム酸との組み合わせと両者の協力作用が引用例1に記載されており,また,同種薬剤の組み合わせであるイブプロフェンとトラネキサム酸との併用による効果が引用例2に記載されている以上,本願発明が効果として比較する引用発明は,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤とトラキネム酸との組み合わせであり,この組み合わせの効果と比較して,本願発明の組み合わせにさらに顕著な相乗効果が認められなければ進歩性は否定されてもやむを得ないとの結論となった。
2007/12/15
2005.08.30 「アステラス(藤沢) v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10312
医薬用途発明に薬理データは必要か?: 知財高裁平成17年(行ケ)10312
【背景】
原告(藤沢薬品)は、「ピラゾロピリジン化合物の新規用途(透析時低血圧症)」に関して、拒絶査定となり、拒絶査定不服審判を請求した。しかし、本願化合物が本願疾病の治療剤に利用できることを裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載は明細書中に存在しないことは明らかであるから、本願発明の詳細な説明が特36条4項に反するとする審決を受けた。原告は、審決取消訴訟を提起した。
【要旨】
本願明細書の記載によれば、本願発明の詳細な説明には、本願化合物が記載されているほか、本願化合物が本願疾病の治療剤の有効成分であること、同治療剤の有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されているものの、本願化合物が本願疾病の治療剤に利用できることを裏付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載は存在しないことは明らかである。発明の詳細な説明に、治療剤の有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されているだけでは、当業者は当該医薬が実際にその用途において有効性があるか否かを知ることができないことは、前記判示(東京高裁平成8年(行ケ)201、同平成15年(行ケ)104)のとおりである。よって、本願発明の詳細な説明が特36条4項に反するとした審決の判断に誤りはない。請求棄却。
【コメント】
医薬の用途発明に必要な記載用件としての薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないとして、明細書の記載不備で拒絶した審決が支持された事例。薬理データは明細書に記載しなければならない。審査過程で薬理データを主張しても、記載要件違反は解消できない(審査基準)。
ところで、医薬として有用な新規化合物発明の出願において、「医薬用途(例えば「~化合物を含有する~剤」)クレーム」は薬理データが全く示されていないことを理由に拒絶される一方、用途クレームと同じ化合物範囲をスコープする「化合物クレーム」は薬理データが無いことを理由に拒絶を受けないという審査事例が見受けられる。その用途において有用だと認められたうえで新規化合物クレームが登録されるのに、その用途クレームが拒絶されるというこのような事例に、違和感を感じるのだが・・・。
参考:
(財)知的財産研究所 知的財産権関連判決の英文データベースに英文判決要旨あり
Categories *Case2005, Need for data, Utility/Description requirement, ★, ・Indication
2007/11/29
2007.10.11 「プロクター&ギャンブル (P&G) v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10509
効果の言及が定性的な記載のみの場合でもサポート要件は満たされるのか?: 知財高裁平成18年(行ケ)10378
【背景】
原告が「中間鎖分岐界面活性剤」に関する特許出願(特表2000-503700号)の拒絶審決取消訴訟。サポート要件(特36条6項1号)が主たる争点となった。
【要旨】
裁判所は、
「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」
との一般原則を示し、本件について下記のとおり判断した。
「本願発明の解決すべき課題に低水温洗浄性及び生分解性が含まれることは明らかであるから,発明の詳細な説明には,本願発明がこれらの性能において有効であることが客観的に開示される必要があるというべきである。~洗剤界面活性剤組成物の性能については,「得られた組成物は,標準布帛洗濯操作で用いられたときに,優れたしみおよび汚れ除去性能を発揮する,安定な無水重質液体洗濯洗剤である。」(上記(2)コ(オ))との記載があるものの,この記載からは低水温洗浄性及び生分解性に関する具体的な評価を導くことはできない。以上述べたところに照らせば,本願発明の詳細な説明には,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が本願発明1の組成物が発明の課題である低水温洗浄性及び生分解性を解決できるものであると認識できるに足る記載(旧36条4項参照)を欠いているといわざるを得ない。」
また、裁判所は、原告主張について下記の補足的説明をした。
「本願発明の背景にかんがみれば,本願発明に係る洗剤界面活性剤の組成等を定性的に記載するのみでは,当業者が低水温洗浄性能等の本願発明の課題の解決について具体的に認識することは困難といわざるを得ないのであって,これを当然の前提として記載を省略することは許されないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。」
請求棄却。
【コメント】
効果の言及が定性的な記載のみだったためにサポート要件違反と判断された。
本事件は医薬関連発明ではないが、医薬(用途)発明ならば、サポート要件のみならず実施可能要件を満たすために客観的なデータが要求されるのは、下記のとおり、裁判例や審査基準でも明らかにされている。
サポート要件:
- 審査基準第I部第1章2.2.1.1 例9参照
例9:
請求項においては成分Aを有効成分として含有する制吐剤がクレームされているが、発明の詳細な説明には、薬理試験方法及び薬理データについては記載がなく、しかも、成分Aが制吐剤として有効であることが、出願時の技術常識からも推認可能といえない場合。
実施可能要件:
- 審査基準第VII部第3章「医薬発明」1.2.1参照
「医薬用途を裏付ける実施例として、通常、薬理試験結果の記載が求められる(審査基準第I部第1 章3.2.1(5)及び3.2.3(2)参照)」
- 審査基準第I部第1章3.2.1(5)参照
- 1998.10.30 「ショウガ根・イチョウの乾燥剤事件」 東京高裁平成8年(行ケ)201
「物の性質等を利用した用途発明(例:医薬等)においては、通常、用途を裏付ける実施例が必要である。」
Categories *Case2007, Need for data, Utility/Description requirement, ★
2007/11/24
2007.10.18 「メルク v. ユーロドラッグ」 知財高裁平成18年(行ケ)10378
【背景】
「骨吸収を抑制する方法」に関する特許(特許第3479780号)に係る発明について、特29条2項違反を理由に無効審決が下されたため、特許権者である原告(メルク)が同審決の取消しを求めた事案。
請求項1:
アレンドロネート,薬剤として許容できるその塩およびこれらの混合物より成る群の中から選択されるビスホスホネートを,アレンドロン酸活性体基準で約35~約70mg含み,週一回の投与間隔を有する連続スケジュールに従う経口投与に用いるための,哺乳動物における骨粗鬆症を治療または予防する薬剤組成物。
請求項5:
哺乳動物における骨粗鬆症を治療または予防するためのキットであって,週一回の投与間隔を有する連続スケジュールに従う経口投与により使用すべき旨の指示を含み,単位用量としてアレンドロネート,薬剤として許容できるその塩およびこれらの混合物より成る群の中から選択されるビスホスホネートをアレンドロン酸活性体基準で約35~約70mg含み,かかる単位用量を少なくとも1回分収容する,キット。
【要旨】
原告は、
「引用例3の記載(3c)を含むパラグラフ(以下「パラグラフ1」という。)には,~用法・用量に関し,~単なるオプションが,臨床的意義についての説明もなく列挙されているにすぎず,理論的な根拠や実験による裏付けも示されていない。~したがって,当業者が,引用例3の上記記載に接したとしても,~重大な問題である上部消化管障害という副作用を軽減させるための解決手段として,その用法・用量を採用することを動機づけられることもなければ,その記載によって何かを示唆されることもあり得ない。」
と主張した。
これに対して裁判所は、
「引用例3は,確かに,原告の主張するとおり,上部消化管障害の軽減との関連において,週1回40mgのアレンドロネート投与の有用性に係る,理論的根拠の明示的な記載や実験的な裏付けを伴うものではない。しかしながら,~消化管障害の副作用は,消化管と接触する薬剤の量が多く,接触する時間が長いほど,また,接触頻度が高いほど生じやすく,悪化しやすいことは容易に理解されるところである。したがって,投与間隔を長くする(毎日投与から週2~3回,あるいは週1回投与とする)間欠投与の提案は,それ自体として,上部消化管障害軽減の理論的根拠を示唆するものであり,少なくとも,当業者がこれを試みる動機付けとなるものということができる。」
と判断した。
また、原告は、
「皮下注射による投与においては,胃腸に対する副作用は生じないことが,本件特許出願当時の技術常識であったから,副作用等を引き下げるための方法として,~皮下注射における用法・用量を論ずる引用例3の記載は首尾一貫しておらず,引用例3の著者が,文献23の内容を十分に理解して,パラグラフ1を記載したものではない」
と主張した。
しかし裁判所は、
「皮下注射実験であるとしても,パラグラフ1ないし引用例3の記載が首尾一貫していないとか,引用例3の著者が,文献23の内容を十分に理解していないなどといった非難は当たらない。」
として原告の主張を認めなかった。
さらに原告は、
「アレンドロネートを一日一回連続的に経口投与する場合には,消化管障害という副作用の懸念のために,一定の連続スケジュールに従う高用量(20mgを超える用量)投与を避けることが,優先権主張日当時,当業者の技術常識であったから,引用例2,3に,週1回40mgの投与が記載されていたとしても,当業者が,これを採用することについては,重大な阻害事由があり,容易ではない」
と主張した。
しかし裁判所は、
「原告主張の上記技術常識は,それが認められるとしても,~消化管内壁が,例えば40mgのアレンドロネートと,連続して毎日接触する状態と,接触しない日が6日間続く(その間に,自然治癒力による回復がある)状態とを同列に論ずることができないことは明らかである。したがって,原告主張の上記技術常識は,当業者が,引用例2,3記載の投与方法を試みるに当たって妨げとなるようなものということはできず,これを阻害事由とする原告の主張は失当である。」
と判断した。
また、裁判所は、
「一定の範囲内で,ビスホスホネートの投与量と骨疾患に対する治療効果との間に相関関係があることは明らかであるから,毎日投与の方法を,投与間隔を空ける間欠投与の方法に変更しようとする場合に,治療効果を維持しようとすれば,間欠投与の方法で投与するビスホスホネートの総量を,同一治療期間に係る毎日投与の方法による投与総量と同じにすること(間欠投与の方法による1回当たりの投与量を,そうなるように設定すること)は,当業者が最初に試みることであるといえる。~本来の治療効果を確保するため,間欠投与における1回当たりの投与量を,毎日投与における単位用量を基礎として,投与間隔として空ける日数に応じ比例的に設定することを検討する場合においては,参考とする上記実験例が,皮下注射による投与方法であるかどうかや,上部消化管障害の副作用を生ずるかどうかは,直接関係する事項ということはできない。」
と言及した。
請求棄却。
【コメント】
用法・用量に関して進歩性が争われたケース。
投与方法等で限定されたクレームが一定の条件のもと用途発明として認める旨を明確化した「医薬発明」の審査基準が「第VII部 特定技術分野の審査基準」の第3章として2005年4月に公表されたが、米国に比べ日本においては、まだまだこの点で争われた判決の蓄積が少ないので、本事案は今後の用法・用量に関する進歩性主張を検討する題材として参考になる。
なお、引例中の記載が理論的根拠の明示的な記載や実験的な裏付けを伴うものではない点や、引例の内容の首尾一貫性や引例著者の理解不十分といった点を理由とする、進歩性判断における引例適格性が無い旨の主張は、新規性判断における引例適格性と違ってなかなか難しいだろう。
アレンドロネート、すなわちアレンドロン酸ナトリウム水和物(Alendronate sodium hydrate)を有効成分とする骨粗鬆症治療薬は日本においては万有製薬より販売されている(販売名: フォサマック、Fosamac)。
See also
- 万有製薬ホームページより
【用法・用量】
通常、成人にはアレンドロン酸として35mgを1週間に1回、朝起床時に水約180mLとともに経口投与する。 なお、服用後少なくとも30分は横にならず、飲食(水を除く)並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。 - 2005.01.28 「Merck v. Teva」 CAFC Docket No. 04-1005
本件特許第3479780号のファミリーである米国特許もCAFCで無効とされた。
Categories *Case2007, Inventive step/Obviousness, Need for data, ★★, ・Dosage regimen
2007/11/18
2003.12.26 「グラクソ v. 特許庁長官(タキキニン拮抗体事件)」 東京高裁平成15年(行ケ)104
医薬用途発明において薬理データは必要か?(タキキニン拮抗体事件): 東京高裁平成15年(行ケ)104
【背景】
「NK1受容体拮抗体を有効成分とする嘔吐治療剤」との機能クレームまたは特定の一般式により定義された化合物を有効成分とする嘔吐治療剤クレームという「医薬用途発明」について、ごくわずかな化合物についてのみしか薬理データ(NK1受容体拮抗作用)が開示されていなかった。
請求項1:
タキキニン拮抗体を有効成分としてなり,該タキキニン拮抗体がNK1受容体拮抗体である,嘔吐治療剤。
【要旨】
薬理データのない化合物については嘔吐治療剤として有効であることを裏付ける記載が無いので、当業者が容易に実施可能な程度に発明の詳細な説明の記載がされているとはいえない(実施可能要件違反)。さらに、薬理データで裏付けられた範囲を超えた発明がクレームされているものというほかない(サポート要件違反)と判断された(特許取消)。
【コメント】
医薬用途発明において、薬理データのない部分は、記載要件違反を理由に特許取れない恐れがある。この点は、現在の「医薬発明」の審査基準にも明記されている。
但し、一般式で概念化されたすべての化合物について隈なく薬理データを示す必要はないと考えられるが、どの程度の密度でデータを穴埋めすれば当業者にとって実施可能でありサポートされていると判断されるのかについては一般化するのが困難であり、個別に検討しなければならないだろう。
Categories *Case2003, Need for data, Utility/Description requirement, ★★, ・Indication
2007/11/13
2003.01.29 「除草剤性イミダゾール事件」 東京高裁平成13年(行ケ)219
化学物質発明について明細書には何が開示されるべきか?(除草剤性イミダゾール事件) : 東京高裁平成13年(行ケ)219
【背景】
化合物の一部について、具体的な構造式が記載されていたものの、それらの物性データ及び除草活性テストの結果について記載していなかったため、発明未完成が問われた事案。
【要旨】
「いわゆる化学物質発明は、・・・その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。」との化学物質発明の成立要件を判示した。本件化合物については、除草効果が全く確認されていないものを相当含まれること及び置換基が異なればその効果の有無に差異が生ずることが予測されることから、本件化合物の除草活性について裏づけを全く欠く明細書の記載からは、有用性が当業者に予測可能であるということはできず、未完成発明というべきである・・・として、特許性を否定された(特29条柱)。
【コメント】
化学物質発明は、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。審査基準によれば、明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者の観点から、実施可能要件及びサポート要件が判断される。しかし、クレーム範囲まで一般化・拡張できると信じて記載した出願が特許になったとしても、第三者から記載要件違反を理由に攻撃される恐れがある。従って、確実な特許性を確保するためには、化合物全てに確認(物性)データ、薬理データ(有用性、実施可能性の担保)を掲載するのがより望ましいのではなかろうか。
Categories *Case2003, Need for data, Utility/Description requirement, ★★, ・Compound
2007/11/12
2002.10.01 「ファイザー v. 特許庁長官」 東京高裁平成13年(行ケ)345
医薬用途発明の明細書には効果を示す数値データが必要か?: 東京高裁平成13年(行ケ)345
【背景】
本願発明は、医薬用途発明であり、薬理効果を示す薬理試験方法の記載があり、「実施例の化合物は全て、選択的ムスカリン様受容体拮抗物質としての有意な活性を有することがわかった。」との薬理効果を示す記載もあったが、阻害濃度を示すデータの記載はなかった。
【要旨】
阻害濃度が具体的に示されていない以上、これら化合物が実際に有意な活性を有しているかとの疑念を生じさせるものと認めざるを得ないので、当業者が容易に実施可能な程度に発明の詳細な説明の記載がされているとはいえない(実施可能要件違反)と判断した(出願拒絶)。
【コメント】
医薬用途発明において、薬理データは具体的に示さなければならない。「効果がある」と記述しているのだから良いではないか・・・と、個人的には少し厳しい判決のように感じる。では、実際、最近の出願では、薬理データはどのように記載されているのかというと・・・例えば、50%阻害濃度(IC50)というin vitro薬理効果を示す場合、以下のような記載が主に見受けられる。1) 本発明化合物全てのIC50を具体的な数値で示すケース。2) 本発明化合物全てのIC50を一定のレンジで区分けして示すケース。3) 「本発明化合物のIC50は全て~μM以下であった。」と記述するケース。4) 本発明化合物の一部についてのみ上記いずれかの方法で記述するケース。どのような記載方法を採用するかは、出願人が判断すべきことであろうが、クレームに包含されるある一部の化合物については薬理活性がないとのデータを得ているにもかかわらず意図的に明細書にその薬理データだけ掲載しない(隠匿する)ことは、米国においてはinequitable conductとされ、権利行使不能とされかねないのでその点だけは注意する必要があろう。
Categories *Case2002, Need for data, Utility/Description requirement, ★★, ・Indication
2007/11/11
2000.09.05 「杏林製薬 v. 特許庁長官」 東京高裁平成11年(行ケ)207
化学物質発明の物性データが基礎出願時に無い場合、優先権の利益は認められるか?: 東京高裁平成11年(行ケ)207
【背景】
原告は、「8-メトキシキノロンカルボン酸の製造中間体」との発明の特許権者。異議申立てがあり、本件発明は基礎出願の明細書(基礎明細書)に記載されていると認められないから優先権の利益を得られず、出願日前の公開引例によって特29条の2違反とされ特許取消の決定が下されたため、原告は取消決定取消を求め訴訟を提起した。出発物質(化合物Ⅱ)は優先日において新規化合物だったが、基礎明細書にはその製造方法及び物性値等の記載がなかった。また、発明化合物(化合物Ⅰ)へと導く製造方法に関する記載についても、基礎明細書には合成経路図が記載されていたのみで、各工程の反応溶媒、温度、化合物使用量等の反応条件等は記載されていなかった。
【要旨】
裁判所は、「化学物質につき特許が認められるためには、それが現実に提供されることが必要であり、単に化学構造式や製造方法を示して理論上の製造可能性を明らかにしただけでは足りず、化学物質が実際に確認できるものであることが必要であると解すべきである。なぜなら、化学構造式や製造方法を机上で作出することは容易であるが、そのことと、その化学物質を現実に製造できることとは、全く別の問題であって、机上で作出できても現実に製造できていないものは、未だ実施できない架空の物質にすぎないからである。そして、ある化学物質に係る特許出願の優先権主張の基礎となる出願に係る明細書に、その化学物質が記載されているか否かについても、同様の基準で判断されるべきことは明らかである。」と一般原則を示し、本件においては、「基礎明細書には、化合物Ⅱの製造方法はもとより、その物性等、これが現実に製造されたことを示す根拠も記載されていないから、実際に確認できるものではない。従って、化合物Ⅱが基礎明細書に記載されているということはできない。~そうである以上、基礎明細書には、化合物Ⅱを出発物質とする化合物Ⅰは、その製造方法が記載されていないというべきである。しかも、基礎明細書には、化合物Ⅰの物性等、これが現実に製造されたことを示す根拠も記載されていないのであるから、化合物Ⅰは実際に確認できるものではない。したがって、化合物Ⅰが基礎明細書に記載されていると認めることはできない。」と判断した。原告は、当業者であれば公知刊行物に記載の方法に準じてそれら化合物を合成することは容易であり優先権の利益は得られる旨を主張したが、裁判所は、化学反応においては他の置換基の性質、反応性等により、反応が異なり得るとして、原告の主張を認めなかった。
また、原告は、「①化合物Ⅰの構造式から予測できる物性値と得られた化合物を測定した物性値とを対比することによって、目的物の確認をすることが可能である、②その公開公報には具体的な合成方法や物性が記載されていたのであるから、発明の追試者が実質的に不利益を被るということはない」と主張した。しかし、裁判所は、「①については、原告は、原告が構造式から予測していた物性値がどのようなものであったか自体を明らかにしないうえ、何故にその「予測される物性値」が現実の物性値と必ず一致するというのかが全く不明であり(一致しない場合があり得るというのなら、得られた化合物の物性値との対比による確認ができないことになり、結局、確認はできないことになる。)、②は、本件優先日から出願の公開までに原告が知った合成方法や物性によって、原告が机上の化学構造を作出した時点である本件優先日を出願日とする特許が得られると主張するに等しいものであって、いずれも失当であることは明らかである。」と判断した。
また、原告は、「化合物Ⅰの製造中間体としての有用性が、基礎明細書に、化学式及び反応経路図で記載されている」と主張した。しかし、裁判所は「単に化学構造式や製造方法を示しただけでは、明細書に化合物が記載されているとすることができないことは、前示のとおりである。原告の主張は、採用することができない。」とした。請求棄却。
【コメント】
化学物質発明の確認データ(本件は物性データ)の重要性を示した判決。合成経路に新規化合物を使用した場合には、基礎出願時に、しっかりと当業者が追試できるように、その製造方法及びその確認データを明細書に記載するよう気をつけなければならない。
2007/11/10
1998.10.28 「Pfizer/Sertraline事件」 EPO審決T0158/96
臨床試験の結果の記載がない文献は医薬用途発明の新規性を否定できるか?(EPOの判断): EPO審決T0158/96
【背景】
Pfizerは、selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)である"sertraline"(販売名: 米国ZOLOFT;日本JZOLOFT)のobsessive-compulsive disorder(OCD/強迫性障害)治療用途とする発明に関して出願したが、新規性なし(A54(1))とされ、拒絶されたため、審判請求した。問題となった新規性を否定する引例は、sertralineがOCDを適応症としてphase II 臨床試験が実施されている旨を記載した文献であり、その効果に関する結果は記載されていなかった。
【要旨】
審判部は、「Phase II の目標の一つはその薬剤の有効性を評価することであるが、引例には効く効かないの結果を予期させる記載が欠けているので、当業者はその引例を読むことによってその答えを予測することはできない。Phase III へ進展したとの記載であったならばポジティブな答え(つまり、phase II ではOCDに有効であったこと)を暗示することになっただろう。OCDを適応症とするsertralineのphase II が実施されているとの情報から、当業者にとって、確実且つ単なる推測以上に、このphase中に、その薬剤のOCDの治療効果が最終的に証明された、と結論づける手段は無かった。」
Although one of the targets of phase II is indeed that of evaluating theeffectiveness of the drug, thus whether or nor the drug exhibits the allegedtherapeutic activity in patients, the answer to this question could not bepredicted by the skilled reader, as document (5) lacks any anticipation of apreliminary positive or negative outcome of phase II trials. Only the successfulapproval of the drug in the subsequent phase evaluation, namely phase III, wouldimply an implicit positive answer.For this reason the skilled person, reading intable 4 that sertraline was undergoing phase II trials for OCD, had no means ofconcluding from this information, reliably and beyond mere speculation, that thedrug finally proved, during this phase, any therapeutic effect potentiallyuseful in the treatment of OCD.
と言及した。臨床試験前には一般的に動物での前臨床試験を実施する。審査部は、引例から示唆される情報は、sertralineがOCD治療用途を示す前臨床試験を動物で既に完了していたということである、と判断した。これに対し、審判部は、「新規性に不利になるものとして認識されるべき先行技術文献にとって、その文献により示唆される情報を、普通は有効であるが、特定の状況には必ずしも適用しない結果推測的な結論へ導くかもしれないというルールに基づいて解釈することはできない。」
For a prior-art document to be recognised as prejudicial to the novelty of a claimed subject-matter, the information conveyed by this document cannot be interpreted on the basis of rules, which, though normally valid, do not necessarily apply to the specific situation and therefore may lead to speculative conclusions.
と言及し、「OCDの動物モデルは実際には存在しないので動物実験によるsertralineのOCD治療効果は示されていなかった、との出願人の主張は妥当である。」
Under these specific circumstances, the board recognises as plausible the appellant's arguments, though not confirmed by documents, that experimentation in animals was not indicative of any therapeutic effectiveness of sertraline for OCD since no animal model for OCD actually existed, but was simply intended to prove the lack of any form of toxicity and to gain early knowledge about the metabolism of the substance.
と認めた。新規性無しとした審査部の判断を破棄、審査部に差し戻し。
【コメント】
臨床試験結果の記載の有無が新規性を失わせる引例となりうるか問題となった事例。臨床試験結果が何も開示されていない文献のみをもって、その医薬用途発明の新規性が否定されなかったという点は、日本における最近の判例(2007.03.01 「ブリストルマイヤーズスクイブ v. 日本ケミカルリサーチ」 知財高判平成17(行ケ)10818)とは異なる結論となっている。また、情報発信をコントロールすることは重要である。特に市販後は知らぬ間に医師により実験・臨床試験結果を論文等で発表されてしまうことにより新規性が喪失してしまい(最悪は出願されてしまう)、特許を取得する機会を失ってしまうという恐れに注意しなければならない。特に、ライフサイクルパテントを出願する際には要注意である。
Categories *Case1991-2000, Need for data, Novelty, ★★, ・Indication
2007/11/08
1998.10.30 「ショウガ根・イチョウの乾燥剤事件」 東京高裁平成8年(行ケ)201
医薬用途発明に薬理データは必要か?(制吐剤事件): 東京高裁平成8年(行ケ)201
【背景】
本願発明は、医薬用途発明であり、明細書中には、妊娠のむかつきおよびつわり等対して有効であると記述していたが、これら薬理効果を裏付ける実施例は記載されていなかった。
【要旨】
医薬についての用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり、それがされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法36条3項(注:昭和62年法律第27号による改正前の特許法。)に違反するものといわなければならない。したがって、「医薬についての用途発明は、特定の物質または組成物の確認された薬理効果を専ら利用するものであるから、薬理効果が薬理データ、またはそれに代わり得る具体的記載によって明細書に確認できるように記載されていることが必要である」との審決の判断に誤りはない、と判断し、原告の主張を退けた。
【コメント】
「医薬発明」の審査基準に引用されている判例(制吐剤判決)。医薬に関する用途発明においては、その薬理効果を、明細書中に、薬理データまたはそれに代わり得る具体的記載によって確認できるように記載しなければならない。判決文は特許庁の審決データベースから閲覧可能。
2007/11/06
1994.03.22 「除草剤性イミダゾール事件」 東京高裁平成2年(行ケ)243
化学物質発明について明細書には何が開示されるべきか?(除草剤性イミダゾール事件) : 東京高裁平成2年(行ケ)243
【背景】
数多くの化合物の構造を開示していたが、具体的な製造方法、物性(融点)、除草活性テストの結果について明細書に開示しているものは一部だった。問題となった2つの化合物について、当初明細書に構造は開示されていたが、その具体的な製造方法、物性、除草活性テストの結果は開示されておらず、それらを追加する補正が、当初明細書からの要旨変更か否かが問題となった。
【要旨】
「いわゆる化学物質発明は、・・・その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。」との化学物質発明の成立要件を判示した。さらに、その化学物質の製造可能性については「類似のもので、提供し得たも同然のものと評価されるものであれば、それも確認されたものとして取り扱うべきである」と説示し、また、有用性の判断については「一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しない」のであるから、「実際に試験することによりその有用性を証明するか、その試験結果から当業者にその有用性が認識できることを必要とする」と説示した。本件については製造可能性は肯定されたが有用性を否定された。
【コメント】
化学物質発明は、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。補正の要旨変更(旧法)の事案であるが、化学物質発明の特許性について何が開示されるべきかを裁判所が示した事案である。審査基準によれば、明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者の観点から、実施可能要件及びサポート要件が判断される。しかし、クレーム範囲まで一般化・拡張できると信じて記載した出願が特許になったとしても、第三者から記載要件違反を理由に攻撃される恐れがある。従って、確実な特許性を確保するためには、化合物全てに確認(物性)データ、薬理データ(有用性、実施可能性の担保)を掲載するのがより望ましいのではなかろうか。
Categories *Case1991-2000, Need for data, Utility/Description requirement, ★★, ・Compound