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2005.06.17 「住商エレクトロニクス v. A」 最高裁平成16年(受)997

専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使は制限される?: 最高裁平成16年(受)997

【背景】

特許第2621842号 図4

「生体高分子-リガンド分子の安定複合体構造の探索方法」に関する特許発明(第2621842号)についての専用実施権者である医薬分子設計研究所及び特許権者であり代表取締役でもあるAが、住商エレクトロニクスが輸入販売しているCD-ROMに記録されているプログラムの複合体探索方法が上記特許発明の技術的範囲に属する等主張して、販売差止を求めた。

範囲を全部とする専用実施権を設定した特許権者も差止請求権を行使し得るとした高裁の判断(平成15年(ネ)1223)に対して住商エレクトロニクスは最高裁に上告した。

【要旨】

(判決文そのまま)

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理    由
上告代理人中野憲一ほかの上告受理申立て理由第5について
1 本件は,発明の名称を「生体高分子-リガンド分子の安定複合体構造の探索方法」とする特許権(以下「本件特許権」という。)を有する被上告人が,本件特許権の侵害を理由として,上告人に対し,原判決別紙ロ号物件目録記載の物件の販売の差止めを求める事案である。被上告人は,本件特許権について,専用実施権者を株式会社A,範囲を全部とする専用実施権を設定している。
2 特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができると解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
特許権者は,特許権の侵害の停止又は予防のため差止請求権を有する(特許法100条1項)。そして,専用実施権を設定した特許権者は,専用実施権者が特許発明の実施をする権利を専有する範囲については,業としてその特許発明の実施をする権利を失うこととされている(特許法68条ただし書)ところ,この場合に特許権者は差止請求権をも失うかが問題となる。特許法100条1項の文言上,専用実施権を設定した特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠はない。また,実質的にみても,専用実施権の設定契約において専用実施権者の売上げに基づいて実施料の額を定めるものとされているような場合には,特許権者には,実施料収入の確保という観点から,特許権の侵害を除去すべき現実的な利益があることは明らかである上,一般に,特許権の侵害を放置していると,専用実施権が何らかの理由により消滅し,特許権者が自ら特許発明を実施しようとする際に不利益を被る可能性があること等を考えると,特許権者にも差止請求権の行使を認める必要があると解される。これらのことを考えると,特許権者は,専用実施権を設定したときであっても,差止請求権を失わないものと解すべきである。
3 以上によれば,被上告人が本件特許権に基づく差止請求権を行使することができるとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は,採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

【コメント】

専用実施権者が侵害行為を放置することはまずあり得ないであろうから、専用実施権者を差し置いて特許権者のみが単独で差止請求権を行使せざるをえないという状況は、実際のところ非常にレアであるかもしれない。訴訟指揮をしたい特許権者は専用実施権者との実施許諾契約において侵害訴訟のコントロールについて何らかの定めをすれば足りると考えられることから、最高裁判決ではあるが、実務上重要な判決かどうか。

参考:

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