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2008.01.31 「スミスクライン ビーチャム v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10071

内面の被覆に特徴があるプロピオン酸フルチカゾン吸入器の発明: 知財高裁平成19年(行ケ)10071

【背景】

「プロピオン酸フルチカゾン用計量投与用吸入器」に関する請求項1に係る本願発明(特願平8-531180号)は、引例および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから進歩性なし、とされた拒絶審決に対する審決取消訴訟。

請求項1:

「一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで内面の一部または全部が被覆された計量投与用吸入器であって,プロピオン酸フルチカゾンまたはその生理学的に許容される溶媒和物と,フルオロカーボン噴射剤と,場合によっては一以上の他の薬理学的に活性な薬剤または一以上の賦形剤とを組み合わせて含む吸入薬剤配合物を投与するための計量投与用吸入器。」

引例との主な相違点(相違点2):

本願発明は、計量投与用吸入器の内面を,一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで被覆しているのに対し、
引用発明1は、一以上のフルオロカーボンポリマーのみで被覆している。

原告は、当該相違点の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)および手続違背(取消事由2)を主張した。

【要旨】

裁判所は、原告主張の取消事由1について、

「当業者にとって,引用発明1におけるプラスチック塗膜による被覆部分(被覆材)とエーロゾル容器の内壁(基材)との接着性を高める目的をもって,引用発明1の計量投与用吸入器に,前記(1)エの周知技術(「一以上のフルオロカーボンポリマーを一以上の非フルオロカーボンポリマーと組み合わせて含んでなるポリマーブレンドで基材を被覆する」技術)を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは容易に想到し得たものと認められる。これと同旨の審決の判断は是認することができる。」

と判断した。

原告は、本願発明の格別の作用効果の非予測性等を主張したが、

裁判所は、

「フルオロカーボンポリマー(フッ素樹脂)と非フルオロカーボンポリマー(非フッ素樹脂)の配合割合,硬化温度,コーティングの厚さ等の被覆条件が特定されていない本願発明の構成から,原告主張のポリマーブレンドによる容器内壁面への薬剤の付着の防止及びコーティングの密着性の改善の効果が必然的に生じるものとは認められない。また,本願明細書(甲5)には原告主張の上記効果は明記されておらず,本願明細書の記載から,本願発明がそのような効果を奏するものと理解できるものでもない。したがって,原告主張の本願発明の格別な作用効果は,本願発明の構成から必然的に生じるものでも,本願明細書の記載に基づくものでもないから,本願発明の効果であると認めることはできない。したがって,本願発明が格別な作用効果を奏することを前提に,相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到し得るものではないとの原告の主張は,その前提を欠き,失当である。」

と判断した。

原告主張の取消事由2(手続違背の有無)についても、裁判所は、

「審査段階において,拒絶の理由として特定の技術事項が証拠(文献)とともに示され,出願人に対して意見を述べる機会が与えられている場合において,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)を追加して引用することは,新たな技術事項を示して拒絶理由を変更するものではないから,審判手続において,新たに追加された証拠(文献)について,審判請求人に意見を述べる機会を与える必要はなく,その機会を付与しなかったからといって,手続違背を構成する余地はないというべきである。」

と判断した。

進歩性なし。

請求棄却。

【コメント】

吸入ステロイド剤においては、その製剤のみならずデバイスの性能が競合品との差別化に重要であるから、製剤に適したデバイスに関する発明の特許化は、製品のライフサイクルマネージメントにとって大きな価値があるだろう。

ところで、本件出願が審判に係属している際に、分割出願(特願2001-010020、出願日:2001.01.18)が並存していたが、拒絶理由に応答せずに拒絶査定が確定。本願については審決取消訴訟で争うほど権利化を望んでいたはずが、その結論に至る前に分割出願という保険をあっさり放棄している。

参考:

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