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2011.04.07 「アボット・セントラル硝子 v. バクスター」 知財高裁平成22年(行ケ)10249, 10250

数値限定と実施可能要件: 知財高裁平成22年(行ケ)10249, 10250

【背景】

「フルオロエーテル組成物及びルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」に関する原告らの特許(特許第3183520号)の無効審決(無効2007-800138; 無効2005-80139)取消訴訟である。争点は、訂正後の請求項1ないし4の発明の実施可能要件の有無だった。

請求項1(本件訂正発明1)(下線部が訂正箇所):

「麻酔薬組成物であって,
一定量のセボフルラン;及び
206ppm以上,0.14%(重量/重量)未満の水を含むことを特徴とする,
前記麻酔薬組成物。」

無効審決の理由の要点は、「本件訂正発明は、その発明の少なくとも一部につき明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度、すなわちセボフルランがルイス酸によってフッ化水素酸等の分解産物に分解されることを防止し、安定した麻酔薬組成物を実現するという所期の作用効果を奏することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものではないから、実施可能要件を欠く」というものだった。

本事件の経緯は下記のとおり。

登録(特許第3183520号)

無効審判請求(無効2005-80139)

請求不成立(特許維持審決(第1次審決))

審決取消訴訟(2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489

審決取消判決→訂正請求→訂正を認め無効審決(無効2005-800139)→本件無効審決取消訴訟

無効審判請求(無効2007-800138)→訂正請求(上記訂正請求と同じ内容)→訂正を認め無効審決→本件無効審決取消訴訟

【要旨】

裁判所は、

「もともとセボフルランは麻酔剤の成分として相当程度安定であるところ,水が一般にルイス酸(触媒)を失活させる化合物,すなわちルイス酸抑制剤として周知であること~をも考慮すれば,前記の206ppm以上0.14%w/w未満の含有率となるよう(この点が,無効2005-80139号事件の第一次取消判決後に限定された構成である。)セボフルランに水分を添加することで~相当期間セボフルランの分解を防止(抑制)し得ることを当業者において容易に理解することができるというべきである。
なお,確かにルイス酸は極めて広範な概念であり,ルイス酸の作用機序も様々である上,各訂正発明の優先日当時に,原告や各訂正発明の発明者以外の当業者が,セボフルランがルイス酸によって分解されることを知らなかったとしても,訂正明細書の発明の詳細な説明にはルイス酸がセボフルランを攻撃・分解する機構や分解を防止(抑制)する機構が一応記載されているし,各訂正発明では,前記のとおり一般にルイス酸抑制剤として周知な水が分解防止のための成分として採用されているから,麻酔薬に使用される組成物の調製程度のことであれば,必要に応じて上記の範囲内で含有水分量を適宜増量することで,当業者の技術常識に照らして,ルイス酸によるセボフルランの分解防止という各訂正発明の作用効果を奏することができるというべきである。
したがって,訂正明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,セボフルランに一定の含有率で水を含有させた麻酔薬組成物(本件訂正発明1)及びかかる含有を特徴とする麻酔薬組成物の調製方法(本件訂正発明2,3)を実施できることはもちろん,かかる含有によりルイス酸によるセボフルランの分解を防止する方法(本件訂正発明4)についても,これを実施できる程度に明確かつ十分な記載がされているということができ,各訂正発明につき特許法36条4項1号の実施可能要件に欠けるところはない。審決は実施可能要件の充足の有無につきこれと異なる判断をするものであって,その判断には誤りがある。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

知財高裁は、2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489では特許無効とされた下記クレームを、本件訂正発明のように数値限定したクレームは有効と判断した(上限下限は明細書に記載されている)。

請求項1:

「麻酔薬組成物であって,
一定量のセボフルラン;及び
少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むことを特徴とする,
前記麻酔薬組成物。」

上記クレームについて実施可能要件満たすとした特許庁の第1次審決(無効2005-80139)は取り消され(知的財産高等裁判所第4部(2009.04.23 「バクスター v. アボット・セントラル硝子」 知財高裁平成18年(行ケ)10489))、逆に本件訂正クレームについては実施可能要件満たさずとした特許庁の無効審決(無効2007-800138; 無効2005-80139)は、本件判決によって取り消され(知的財産高等裁判所第2部)、当事者、特許庁、行方を見守る第三者にとっても、数値限定発明の実施可能要件判断に翻弄された一連の事件であった。さて、バクスターのセボフルラン製品は本件特許発明の技術的範囲内なのでしょうか?

参考:

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