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2011.11.22 「サンド v. ワーナー-ランバート」特許庁審決 無効2010-800235号事件

アトルバスタチンの結晶多形特許: 特許庁審決 無効2010-800235号事件

【背景】

「結晶性のアトルバスタチン」に関する特許(特許3296564)の無効審判(無効2010-800235)。無効審判請求人(サンド)は、特許法29条2項(進歩性)及び36条4項(実施可能要件)を満たさないとして本件特許の無効を主張した。

【要旨】

特許庁審判部は本件審判の請求は成り立たないと判断した。

1.進歩性の判断

引用発明(甲第1号証(特開平3-58967号公報)発明)との相違点は、本件特許発明が、結晶形態を特定するためのX-線粉末回折パターン(本件請求項1)や13C核磁気共鳴スペクトル(本件請求項2)で特定される結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物であるのに対し、引用発明(甲第1号証)のアトルバスタチンはそのような特定がない点であった。

審判部は、

「たとえ,~可能であったとしても,甲第1号証において何らの結晶も得られていないという前提の下では,そのことを根拠に本件特許発明の進歩性を否定することはできないものである。~結晶化方法が,それ自体,たとえ本件優先権主張の日前において周知の結晶化手法といえるものであったとしても,本件特許発明,すなわちアトルバスタチン結晶Iにより奏される~「粒子特性に基づく濾過性及び乾燥性の改善」並びに「長期間安定」といった効果は当業者が予期し得ない格別の効果といえるから,~結晶化方法自体が周知であったことを根拠として,本件特許発明が当業者にとって容易になし得たものであるとすることはできず,請求人の主張は採用できないものである。」

と判断した。

2.実施可能要件の判断

請求人は、

「本件特許明細書の実施例に開示される方法は~「結晶性形態Iのアトルバスタチン」そのものを種晶として使用する製造方法のみであるのに,原料となる「結晶性形態Iのアトルバスタチン」をどのようにして最初に製造するかについて本件明細書には具体的に記載されておらず,「結晶性形態Iのアトルバスタチン」を製造するための原料となる「結晶性形態Iのアトルバスタチン」種晶を得るために当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条4項に違反している」

と主張した。

しかし、審判部は、

「結晶Iの種晶あるいは結晶材料を使用する実施例1の方法Aや方法Bの記載のみに基づいては,当業者が実施例を追試し,結晶Iを製造することができないことは明らかである。しかしながら,特許発明が実施可能に記載されているか否かは,実施例の形式によって記載されているかではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載全体から技術常識を参酌して,特許発明を当業者が容易に実施できるか否かによって判断される。そこで,本件特許明細書の記載について検討すると,~本件明細書には,実施例の形式ではないが,「方法1」~「方法3」の3通りの結晶Iの製造方法が記載されている。そして,これらの方法は,その記載に沿った方法で結晶Iが得られるのであれば,当業者にとって何ら困難を伴うものとはいえないから,本件特許明細書の記載は当業者が容易に発明を実施できるように記載されているといえ,特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものといえる。」

と判断した。

【コメント】

リピトール®の有効成分であるアトルバスタチンの結晶多形特許。

結晶多形の発明における下記問題点が検討されており、特許庁審判部の考え方として参考になる。

・進歩性(周知の結晶化手法により得られた新規結晶多形の動機付けと効果の判断)
・実施可能要件(種晶の具体的取得方法が明示されていない場合の判断)

IPDLの経過情報によれば、2011年12月28日に知財高裁に出訴されたようである(出訴事件番号: 平23行ケ10445)。

上記の問題点に関連する事件として下記判決が存在する。

2007.07.04 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10271

2006.02.16 「イナルコ v. 森永乳業(結晶ラクチュロース三水和物事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10205

本件特許の存続期間満了日は2016年7月8日。

リピトール®は、米国ワーナー・ランバート社(現:米国ファイザー社)により新規に合成されたHMG-CoA還元酵素阻害作用を有するアトルバスタチンカルシウム水和物(Atorvastatin Calcium Hydrate)の製剤。日本では山之内製薬(現:アステラス製薬)とワーナー・ランバート(現:ファイザー)が共同開発し、2000年承認された。高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症に対し優れた有用性が認められている。

[構造式]

本件無効審判請求人であるサンドは2011年7月に後発品としての製造販売承認を取得し同年11月から販売している。

参考:

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