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2012.05.31 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10277

引用発明の適格性は実施例に限られるか: 知財高裁平成23年(行ケ)10277

【背景】

「セミフルオロアルカン及びその使用」に関する出願(特願2003-344963号)の拒絶審決(不服2008-71)取消訴訟。

争点は進歩性の有無。

請求項1:

下記一般式(略)の線形又は分岐セミフルオロアルカンを含む、挿管液体吸入法用液体呼吸剤であって、
-線形セミフルオロアルカンが、下記一般式(略)を有し、
-分岐セミフルオロアルカンが(略)を含む、挿管液体吸入法用液体呼吸剤。

【要旨】

主文

原告の請求を棄却する。(他略)

1 取消事由1(引用例Aに記載された発明の認定の誤り)及び取消事由2(相違点の認定の誤り)について

当裁判所は、

「①引用例Aにおける「CnF2n+1Cn’F2n’+1」との記載は,「CnF2n+1Cn’H2n’+1」の誤記であり,同引用例には,「CnF2n+1Cn’H2n’+1」の記載,開示があるとした審決の認定には誤りはなく,原告のこの点の主張は失当であり,また,②引用例Aに記載された発明を「PFOB」のみではなく「CnF2n+1Cn’H2n’+1(nおよびn’は約1から約10)を有する化合物」全体であるとした審決の認定には誤りはなく,原告のこの点の主張も失当であり,さらに,③引用例Aは,「部分液体呼吸」について開示したものであるが,本願発明も,「部分液体呼吸」を排除したものではないから,本願発明と引用例Aに記載された発明とは,上記の点を相違点とすべきではなく,「全液体呼吸」についての開示の有無を相違点としなかった審決の認定に誤りがあるとする原告の主張は失当であると解する。」

と判断した。

特に、引用例Aは,「PFOB」のみの記載、開示ではなく、「CnF2n+1Cn’H2n’+1(nおよびn’は約1から約10)を有する化合物」全体の記載、開示であるとした審決の認定の当否について、原告は、

「引用例A中に,酸素ガス供給時の呼吸の補助に使用可能な程度にまで具体的・客観的なものとして記載されている液体フルオロカーボンはPFOBだけであり,~「一般式CnF2n+1Cn’H2n’+1(nおよびn’は,約1から約10)を有する化合物」が,呼吸の補助に使用可能であることは何ら実証されておらず,上記化合物の使用は未完成発明であり,引用例としての適格を欠く」

と主張したが、裁判所は、本願優先日当時の当業者の技術常識を踏まえ、引用例Aの記載内容を総合すれば、容易想到性の有無を判断する前提である引用発明としての適格性に欠けるとはいえないと判断した。

2 相違点の判断の誤り(取消事由3)について

裁判所は、

「本件引用発明における線形又は分岐ペルフルオロアルキル基の炭素原子の総数は約1から約10,線形又は分岐飽和(炭化水素)アルキル基の炭素原子数は約1から約10であり,これをいずれも3ないし20としたことに特段の技術的意義は認められず,本件引用発明に接した当業者が,本願発明のうち上記相違点に係る発明に至るのは容易であると認められる。」

と判断した。

原告は、

「本願発明では,フッ素原子の一部をフッ素原子より軽い水素原子に置換したセミフルオロアルカンを液体呼吸剤として使用したことにより,肺に導入
する液体の重量を軽減し,呼吸を容易にし,また,本願発明の液体呼吸剤は比較的低密度であるために移動(流動)させ易く,扱いやすいという効果がある」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用例Aには,フッ素原子の一部をフッ素原子より軽い水素原子に置換したセミフルオロアルカンである「一般式CnF2n+1Cn’H2n’+1(nおよびn’は,約1から約10)を有する化合物」が開示されていること,また,線形又は分岐ペルフルオロアルキル基の炭素原子の総数,線形又は分岐飽和(炭化水素)アルキル基の炭素原子数は,いずれも3ないし10である範囲で重なっていることに照らすならば,本願発明における呼吸剤が,上記化合物に比べて,当業者にとって予測困難な顕著な効果を奏するとは認められない。」

と判断した。

【コメント】

引用例A(特表平6-507636)においては、PFOBのみが実施例に記載され、PFOBの実験結果のみが記載されていた。PFOBを包含する一般式で表される化合物にまで、引用発明として把握できるかどうかという今回の判断は、実施例に基づいて一般化された記載が引用発明として把握できるのかどうかを考えるうえで参考になる事例かもしれない。

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