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2013.09.18 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10295

特許権存続期間延長登録出願に係る出張と信義則: 知財高裁平成24年(行ケ)10295

【背景】

原告が有する特許権(3677156号)の存続期間延長登録出願(2005-700093号)の拒絶審決取消訴訟。審決の理由は、本件処分の対象となった医薬品「パシーフカプセル30mg(一般名称:塩酸モルヒネ)」(本件対象医薬)は,本件特許発明の技術的範囲に属するものであると認めることができないから、本件出願に係る特許発明の実施に特許法67条2項に定める処分を受けることが必要であったと認めることができない、というものだった(不服2006-20940号)。

請求項1:

(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物と,
(B)薬物を含んでなる核を,(1)水不溶性物質,(2)硫酸基を有していてもよい多糖類,ヒドロキシアルキル基またはカルボキシアルキル基を有する多糖類,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールから選ばれる親水性物質および(3)酸性の解離基を有しpH依存性の膨潤を示す架橋型アクリル酸重合体を含む被膜剤で被覆してなる放出制御組成物とを組み合わせてなる医薬。

【要旨】

主 文

1 特許庁が不服2006-20940号事件について平成24年7月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

裁判所の判断

(1) 本件特許の請求項1の「最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との要件につき,審決はFRGなる組成物の最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内ではないことを根拠として,本件対象医薬が上記要件を充足しないとしている。しかし,FRGの組成は,本件対象医薬に用いられた速放性組成物(本件速放性組成物)の組成とは異なっている。そして,薬剤の最高血中薬物濃度到達時間が,有効成分の含有量のみならず,結合剤の含有量や種類によって影響を受けることは技術常識であると解されるので,本件速放性組成物と組成の異なるFRGの最高血中薬物濃度到達時間を基礎とした審決の認定判断は誤りであるといわざるを得ない。被告の主張するように,原告が出願時から審決時まで一貫して本件速放性組成物がFRGであることを前提とする主張をしていたとしても,本件訴訟における原告の主張が信義則に違反するとはいえない。

(2) 本件特許の請求項1の「薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内である速放性組成物」との文言は,原告の主張するように,組合せ医薬を投与した場合の速放性組成物の最高血中薬物濃度到達時間を意味するものと解釈すべきではなく,速放性組成物のみを投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間を意味するものと解釈すべきである。
もっとも,原告は,本件対象医薬を健康成人男子に投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間(速放部)の平均値±標準偏差が,0.705±0.188時間(本件使用成績)であった旨の証拠を提出しているところ,原告提出の解析結果や本件対象医薬の性質,大学教授の意見書等に照らすと,本件速放性組成物を単独で投与した場合の最高血中薬物濃度到達時間が,本件使用成績0.705±0.188時間よりも遅くなることはないと認められるので,本件使用成績は,本件対象医薬が本件クレームの「(A)薬物を含有し,最高血中薬物濃度到達時間が約60分以内の速放性組成物」との要件を充足することの根拠となるものと認められ,これと反する審決の判断は誤っている。

【コメント】

原告は、出願時から審決時まで一貫して、本件請求項1の構成のひとつである「速放性組成物」が審査報告書(甲8)の7頁(1)3行目にある速放性製剤(FRG)であることを前提とする主張をしていたのだが、実はそうではなかったという主張を訴訟で行った。出願審査から審決時まで具体的にどのような主張を原告がしてきたのか判決文からは定かではないが、結局本件訴訟における原告の主張は信義則に違反するとはいえないと判断された。

ところで、特許権の延長登録制度において、未だに延長登録要件と権利行使の解釈の整合性が不安定な状況である以上、登録時の主張と権利行使時の主張に食い違いが生じる場合もありうるかもしれない。権利行使の場面も想定して、登録時の主張に気を配って対応することも必要である。

参考:

関連判決:

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