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2014.12.24 「中外製薬 v. DKSH」 東京地裁平成25年(ワ)4040

均等侵害が認められた事件(オキサロールの有効成分マキサカルシトールの製造方法): 東京地裁平成25年(ワ)4040

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許第3310301号の特許権(出願日1997年9月3日)の共有者である原告(中外製薬)が、被告(DKSH)の輸入販売に係るマキサカルシトール原薬)、並びに被告(岩城製薬、高田製薬及びポーラファルマ)の販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件特許の請求項13に係る発明(本件発明)と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、被告製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。

被告らは、被告方法が本件発明と均等でないと主張するとともに、本件発明についての特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められると主張して争った。

請求項13の概略:

下記構造を有する化合物の製造方法であって:

Zは,式:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて,下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法。

【要旨】

主文(概略)

1 DKSHは,平成29年9月3日まで,マキサカルシトール原薬を輸入し,又は譲渡してはならない。
2 岩城製薬,高田製薬,ポーラファルマは,平成29年9月3日まで,マキサカルシトール製剤を譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
3 DKSHは,マキサカルシトール原薬を廃棄せよ。
4 岩城製薬,高田製薬,ポーラファルマは,マキサカルシトール製剤を廃棄せよ。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。

裁判所の判断(抜粋)

裁判所は、被告方法は、均等の第1乃至5要件を充足すると判断した。
被告らは本件特許が進歩性欠如、実施可能要件違反、サポート要件違反を理由に特許無効審判により無効とされるべきと主張したが、裁判所はいずれも理由がないと判断した。

争点1(均等の第1要件)について

「被告らは,出発物質がビタミンD構造の場合,シス体を用いることと構成要件B-2の試薬(本件試薬を含む。)を用いることの組合せが訂正発明の特徴であり,出発物質がシス体であることも,訂正発明の本質的部分である旨主張する。 そこで,シス体とトランス体の意義についてみると,以下のとおりである。

ビタミンD類の基本的な骨格として,側鎖を除いた,

という構造を共に有している。~そのため,ビタミンD類には,このトリエン構造に由来する幾何異性体が下図に示すように2つ存在する。

~ビタミンD構造の出発物質がシス体であっても,トランス体であっても,第1段階の反応で,出発物質の22位のOH基に塩基の存在下で本件試薬と反応させてエポキシド化合物を合成する下図のような反応

に変わりはなく,第2段階の反応で,エポキシ環を開環してマキサカルシトールの側鎖を導入する下図のような反応

にも変わりはない。
被告方法は,ビタミンD構造の出発物質に本件試薬を使用し,第1段階の反応と第2段階の反応という2段階の反応を利用している点において,訂正発明と課題解決手段の重要部分を共通にするものであり,出発物質及び中間体がシス体であるかトランス体であるかは,課題解決手段において重要な意味を持つものではない。

~以上によれば,目的物質がビタミンD構造の場合において,出発物質及び中間体がシス体であるかトランス体であるかは,訂正発明の本質的部分でないというべきである。
したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足する。」

争点2~4(均等の第2~4要件)については省略

争点5(均等の第5要件)について

「対象製品等に係る構成が,特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたというには,出願人又は特許権者が,出願手続等において,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に含まれないことを自認し,あるいは補正や訂正により当該構成を特許請求の範囲から除外するなど,対象製品等に係る構成を明確に認識し,これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられていることを要すると解すべきであり,特許出願当時の公知技術等に照らし,対象製品等に係る構成を容易に想到し得たにもかかわらず,そのような構成を特許請求の範囲に含めなかったというだけでは,対象製品等に係る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したということはできないというべきである(知財高裁平成17年(ネ)第10047号同18年9月25日判決[椅子式エアーマッサージ機事件]参照)。

~本件において,出発物質をトランス体とする被告方法が本件特許の出願手続等において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
したがって,被告方法は,均等の第5要件を充足する。」

【コメント】

ボールスプライン軸受事件判決(1998.2.24 最高裁平成6年(オ)1083)で均等侵害成立の5要件が示されて以降、均等侵害が認められた事件は少ないが、本事件は珍しく化学分野で均等侵害が認められた判決。特許製法を文言上迂回できたからといって均等侵害まで免れたとはいえない実例として、非常に分かりやすい事例といえる。

本件特許(特許第3310301号)は、マキサカルシトールに係る化合物の製造方法に関するもの。本件特許に対しては、無効審判請求(無効2013-800080; 無効2013-800222; 無効2014-800174)がなされ、前記二つは審決に至り、審決取消を求め出訴されている(平成26年(行ケ)10263、平成27年(行ケ)10014)。分割出願が特許権として登録されている(特許第4187437号)がクレームは合成中間体に係る発明。

本件特許の「20年」の存続期間満了日は2017年9月3日であるが、さらに特許権の存続期間延長登録も得ている。延長された製法発明に係る特許権が権利行使においてどのように判断されるかは興味深いところではあったが、中外製薬は、延長される前の期間までの差止めしか求めていないため、本事案の争点とはなっていない。マキサカルシトールの化合物発明に係る特許権(特許第1705002号)は2010年12月26日に存続期間が満了している。

岩城製薬、高田製薬及びポーラファルマのオキサロール後発品は、2012年8月15日に製造販売承認され、同年12月14日に薬価基準収載された。しかし、本判決を受けこれら後発品メーカーは本製品の発売を中止した(下記高田製薬、岩城製薬、ポーラファルマpress release)。

マキサカルシトール(maxacalcitol)について:

中外製薬は、活性型ビタミンD3であるカルシトリオールの化学構造を修飾した物質であるマキサカルシトールを見い出した。中外製薬は、活性型ビタミンD3誘導体であるマキサカルシトールを有効成分とする二次性副甲状腺機能亢進症治療剤(商品名オキサロール(Oxarol)®注)を2000年7月に日本で製造販売承認を受け、現在、角化症治療剤として軟膏・ローションも製造販売している。再審査期間は既に終了している。

参考:

コメント

  1. Unknown より:

    マキサカルシトールを見い出した。
      ↓
    マキサカルシトールを見出した。

  2. Fubuki Fubuki より:

    2015.10.15 ミクスOnline 「岩城、高田、ポーラ オキサロール軟膏のGE 販売再開」
    岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマの各社は、マキサカルシトール軟膏25μg/gの販売を10月15日に再開する。製法特許を回避した製品を供給できるようになったとのこと。
    https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=52207

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