2019/11/10

2019.10.03 「バクスアルタ v. 中外製薬」 知財高裁平成30年(ネ)10043

機能的表現抗体クレームの技術的範囲の解釈(中外エミシズマブ(ヘムライブラ®)): 知財高裁平成30年(ネ)10043
(原審: 2018.03.28 「バクスアルタ v. 中外製薬」 東京地裁平成28年(ワ)11475

【背景】

「第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体」に関する特許権(特許第4313531号; 存続期間満了日は2020年9月13日)に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張して、特許権者である控訴人ら(バクスアルタ)が、被控訴人(中外製薬)に対して、血友病A治療薬「ヘムライブラ®」(一般名:エミシズマブ)の製造等の差止・同製品の廃棄を求めた事案。原判決(2018.03.28 「バクスアルタ v. 中外製薬」 東京地裁平成28年(ワ)11475)は「ヘムライブラ®」が本件各発明の技術的範囲に属しないとして控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らは控訴した。

本件発明1:
第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,
凝血促進活性を増大させる,
抗体または抗体誘導体(ただし,・・・(省略)・・・を除く)。

被控訴人製品(ヘムライブラ®):
活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子と同時に結合することで第Ⅷ因子様の機能を発揮し、血液凝固反応を促進するバイスペシフィック抗体(二つの抗原結合部位が異なる抗原と結合できるように設計された抗体)である。
【要旨】

知財高裁も、原審同様、被控訴人製品は、「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)・・・を改変した抗体誘導体」に該当するとは認められず、すなわち、本件各発明の技術的範囲に属するとは認められない、と判断し、本件控訴を棄却(追加請求も棄却)した。

裁判所は、被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否かを判断するにあたり、まず、特許請求の範囲の記載が機能的・抽象的な表現にとどまっている場合には、明細書及び図面の記載も参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである旨判示した。
「「凝血促進活性を増大させる」との記載の意義については,本件明細書においてこれを定義した記載はない上,「血液凝固障害の処置のための調製物を提供する」(段落【0010】)という本件各発明の目的そのものであり,かつ,本件各発明における抗体又は抗体誘導体の機能又は作用を表現しているのみであって,本件各発明の目的又は効果を達成するために必要な具体的構成を明らかにしているものではない。

・・・このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合・・・においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。もっとも,このことは,特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定するものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が理解することができ,実施することができるのであれば,同構成はその技術的範囲に含まれるものと解すべきである。」

その上で、裁判所は、本件明細書に開示された具体的構成に示されている技術について検討し、本件各発明の技術的範囲に属するというためには、凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗FIX又はFIXa抗体であるか、その効果を有する当該抗体を改変した抗体誘導体あること、が必要である旨判示した。
「本件各発明の技術的範囲に属するというためには,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であると解されるところ,これには,FIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものではないFIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)は含まれないし,このようなモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から誘導される抗体誘導体(バイスペシフィック抗体もこれに含まれる。)も含まれないというべきである。このような抗体誘導体(バイスペシフィック抗体)は,たとえ,それ自体がFIXaの凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が理解し,実施できるものとはいえないというべきである。」

そして、裁判所は、「凝血促進活性を実質的に増大させる」の意義について、本件明細書に開示された具体的構成に示されている技術について検討し、「インキュベーション時間を2時間とする色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が3を超えるものを意味する」という狭いクレーム解釈をすることが相当である旨判示した。
「本件明細書においては,凝血促進活性を図る方法について,2時間のインキュベーション後のFVIIIアッセイにおいて少なくとも3のバックグラウンドの対測定値の比を示すとされている・・・が,色素形成アッセイ以外にも凝固アッセイなどFVIII活性を決定するために使用される全ての方法が使用でき(段落【0037】,【0065】),同じ色素形成アッセイであってもインキュベーション時間が2時間ではない例も記載されている(実施例2,4,5,実施例11・図18~22,実施例15~18)。このように,本件明細書に記載された凝血促進活性の評価方法は,複数存在しており,一般に,評価方法が異なればその基準が同一であるとは限らないとはいえるものの,本件明細書では,・・・色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7程度・・・や2程度・・・の場合においては,「凝血促進活性を増大させる」とは評価されていない。本件明細書のこれらの記載・・・を考慮すると,当業者は,本件各発明の範囲に含まれる抗体又はその誘導体は,複数の評価方法のうち,色素形成アッセイ(FVIIIアッセイ)を実施した場合には,少なくとも3のバックグラウンドの対測定値の比(ネガティブコントロールとの比)を示すものが本件各発明の抗体及び抗体誘導体であると理解すると認められるから,「凝血促進活性を増大させる」とは,色素形成アッセイを実施した場合には,ネガティブコントロールとの比が3を超えることを意味すると認めるのが相当である。

・・・色素形成アッセイの測定方法について,・・・本件明細書の段落【0013】においては,サブサンプリング法を用いつつも,インキュベーション時間を2時間として色素形成アッセイを実施したところ,少なくとも3のバックグラウンドの比を示すものが本件各発明である旨記載されていることになる。・・・本件明細書には,上記のとおり,インキュベーション時間を2時間としたものしか記載されていないのであって,本件明細書においては,インキュベーション時間を仕様書の記載に反してあえて2時間とし,そのときのFXaの産出量をもって,3のネガティブコントロールとの比を評価するときの産出量としているのであるから,当業者は,3のネガティブコントロールとの比を評価するに当たり・・・インキュベーション時間を2時間とする測定を要すると理解すると解される。

以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であり,インキュベーション時間を2時間とする色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が3を超えるものを意味すると認めるのが相当である。」

裁判所は、上記の通り本件各発明の技術的範囲を明細書の記載等を参酌して狭く解釈をすることによって、提出された証拠の実験結果に基づき、被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断した。
「被控訴人製品の本件各発明の属否について・・・証拠・・・及び弁論の全趣旨によると・・・インキュベーション時間を2時間とする実験結果のみが考慮の対象となるところ,Qhomo,Qhomoシミラー及びQhomoシミラー(CHO)(*註)のネガティブコントロールとの比の値は,おおむね3以下であり,最も高くても3.05である。・・・一部に値が3を上回っているものがあるとしても,多くの場合において,値が3を下回っている前記実験結果に基づき,被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。」

(*註)Qhomoは、被控訴人製品のアミノ酸配列に基づき、抗FIXa側H鎖及びL鎖を使用し、HEK細胞を用いて産出したモノスペシフィック抗体、Qhomoシミラーは、被控訴人製品の抗FIXa腕のアミノ酸配列に基づき、HEK細胞を用いて産出した抗FIXaのモノスペシフィック抗体(Fc領域はEmicizumabの抗FIXa側H鎖の元配列を有している。)、Qhomoシミラー(CHO)は、被控訴人製品の抗FIXa腕のアミノ酸配列に基づき、CHO細胞を用いて産出した抗FIXaのモノスペシフィック抗体(Fc領域はEmicizumabの抗FIXa側H鎖の元配列を有している。)である。

【コメント】

1.本判決の判断枠組み

控訴人らが主張の中で触れている言葉を借りれば、本判決の判断枠組みにおいても、原判決同様に、バイスペシフィック抗体が本件各発明の技術的範囲に含まれるためには、バイスペシフィック抗体に改変される前のFIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗FIX(a)抗体)の時点(被控訴人の主張の中での言葉を借りれば、「仮想的な出発点」であろうか)で「凝血促進活性を増大させる」必要があるとされ、したがって、バイスペシフィック抗体である被控訴人製品の属否は、被控訴人製品の改変元となるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体の活性によって決せられることとなった。

裁判所は、本件各発明の技術的範囲に含まれるというために必須の「凝血促進活性を増大させる」という構成を、明細書の記載等を参酌し、「インキュベーション時間を2時間とする色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が3を超えるものを意味する」と限定的に解釈することによって、提出された証拠の実験結果に基づき、被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断した。

2.具体的構成を明らかにしていない機能的に表現された発明の技術的範囲の解釈において、明細書の記載等を参酌して限定的に解釈されてしまうことへ反論することは、特許権者にとって、その範囲が明らかでない(記載要件違反)と判断されてしまう可能性との板挟みとなり得る

裁判所は、「このように,本件明細書に記載された凝血促進活性の評価方法は,複数存在しており,一般に,評価方法が異なればその基準が同一であるとは限らないとはいえる」と認定し、「「凝血促進活性を増大させる」について,当業者は,ネガティブコントロールとの比が1を超えるものであるか否かで判断する」等の被控訴人らの主張に対しても、「本件各発明の技術的範囲が当業者にとって明らかでないことになる」とも言及していることから、具体的構成を明らかにしていない当該機能的に表現された構成について、明細書の記載等から限定的に(具体的に)解釈するか、そうでなければ発明の技術的範囲が当業者にとって明らかでない(例えば記載要件違反の無効理由を有する)と判断するしか選択肢はないよということを示したといえる。

3.本判決は、今後、機能的に表現された(抗体)クレームに係る特許発明の技術的範囲の解釈に影響を及ぼすのか

本事件は、「凝血促進活性を実質的に増大させる」という機能的に表現された構成の解釈が問題となり、明細書に「活性を示さない」と位置付けて示されている例が記載されていたため、裁判所がそれを手掛かりにして(具体的に開示された技術思想に基づいて)、「凝血促進活性を実質的に増大させる」程度と「凝血促進活性を実質的に増大させない」程度との境界線を認定して当該発明の技術的範囲を限定的に解釈・確定したものである。

本判決における発明の技術的範囲の解釈内容は、本件明細書において開示された技術思想に基づいて検討された結果固有に導かれたものでがあるが、機能的に表現された(抗体)クレームに係る特許発明の技術的範囲の解釈をするにあたり、明細書中にどの程度のヒントがあれば限定的に解釈される可能性があるのかという点で、今後のベンチマークになるのかもしれない。

過去記事:

2019/11/05

第一三共がADC技術の帰属を巡り訴訟提起

第一三共(株)の2019年11月5日付プレスリリース(「当社の抗体薬物複合体(ADC)技術に関する訴訟の提起について」)によると、第一三共は、2008年7月から2015年6月にかけて抗体薬物複合体(ADC)の共同研究を実施していたSeattle Genetics, Inc.(シアトル ジェネティクス社)から、第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張する旨の異議の通知を受けたことから、デラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起したとのことです。第一三共は、シアトル ジェネティクス社の主張には根拠がないと考えており、当該ADC技術に係る知的財産権は専ら第一三共に帰属することを判決で明らかにすることを裁判所に求めているとのことです。

第一三共とシアトル ジェネティクス社が締結した共同研究契約は以下で参照できます。
  • Seattle Genetics, Inc. SEC Filing 11/07/2008 Form10-Q Quarterly Report Exhibit 10.2 Collaboration Agreement dated July 2, 2008 between Seattle Genetics, Inc. and Daiichi Sankyo Co., Ltd.

シアトル ジェネティクス社の2019年11月4日付プレスリリース(「Seattle Genetics Responds to Daiichi Sankyo’s Complaint for Declaratory Judgment」)によると、シアトル ジェネティクス社は以下の主張をしています。
"ADC technology used in Daiichi Sankyo’s metastatic breast cancer drug candidate (DS-8201, [Fam-] trastuzumab deruxtecan) among other product candidates, rightfully belongs to Seattle Genetics under the agreement entered into between the two parties in 2008. The linker and other ADC technology used in these drug candidates are improvements to Seattle Genetics’ pioneering ADC technology, the ownership of which are automatically assigned to Seattle Genetics under the terms of the agreement. Seattle Genetics has been abiding by the dispute resolution provisions under the agreement to pursue its legal rights. By filing this lawsuit, Daiichi Sankyo has circumvented the process underway between the parties pursuant to these provisions. Seattle Genetics is committed to protecting the company’s intellectual property rights as it continues to find revolutionary new treatments for cancer patients."

DS-8201(トラスツズマブ デルクステカン)は、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)であり、日本では2019年9月9日付プレスリリースにてHER2陽性乳がんに係る製造販売承認申請されたこと、米国では2019年10月17日付プレスリリースにてHER2陽性乳がんに係る生物学的製剤承認申請がFDAにて受理され審査終了目標日(PDUFA date)は2020年度第1四半期に設定されたことが発表されました。第一三共とアストラゼネカは、2019年3月に全世界(第一三共が独占的権利を有する日本は除く)においてDS-8201を共同で開発及び商業化する契約を締結しており、第一三共が本剤の製造及び供給に責任を持っています。


参考:


2019/10/26

パリエット®(ラベプラゾール)逆流性食道炎の再発抑制に関する用法・用量特許を巡るジェネリックメーカーの動き

エーザイは、2017年9月22日にパリエット®錠5mg/10mg(一般名: ラベプラゾールナトリウム(Rabeprazole Sodium))について、プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎(プロトンポンプ阻害剤の1日1回投与による従来の治療で効果不十分な逆流性食道炎)に対する維持療法に関して、ラベプラゾールナトリウムとして1回10mg、1日2回投与の用法・用量追加の承認を取得している。この用法・用量について、エーザイの子会社であるEAファーマ(株)は日本特許第6283440号(登録日2018年2月2日; 満了日2037年4月4日(延長なし))を保有しており、沢井製薬が当該特許に対して無効審判を請求している(無効2019-800035; 請求日2019年4月15日; 大原薬品工業が参加)。

【請求項1】
ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を有効成分とし、維持療法を行う前の治療により治癒したプロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎患者に対する維持療法のために、プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量のベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤を1日2回、4週間以上投与され、
前記プロトンポンプ阻害剤抵抗性ではない逆流性食道炎患者に対する治療期の常用量が10mgであり、
前記ベンズイミダゾール系プロトンポンプ阻害剤が、ラベプラゾール、ラベプラゾールのプロドラッグ、又はそれらの薬学上許容される塩若しくは溶媒和物であることを特徴とする、逆流性食道炎の再発抑制剤。

沢井製薬及び大原薬品工業が販売しているラベプラゾールNa錠10mg「サワイ」及びラベプラゾールNa塩錠10mg「オーハラ」の用法及び用量には、「プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法においては、1回10mgを1日2回経口投与」が承認されている。

パリエット®のジェネリックは多数参入しており、それらジェネリックにおいて「プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法においては、1回10mgを1日2回経口投与」の用法及び用量の追加承認が認められたのは2017年12月13日(上記EAファーマ特許の登録日よりも前)であったが、登録された当該特許が存続する以上、ジェネリックの販売は特許権侵害の問題を孕んでいる(日刊薬業website 2018.12.17 【謹告】ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について)。

沢井製薬及び大原薬品工業は、本件特許の無効審決を得て、自社が販売するラベプラゾールの上記逆流性食道炎の維持療法にEAファーマ特許の問題がないことの確信を得たいと考えているようだ。他方、他のジェネリックメーカーは現時点で無効審判を請求していない。

パリエット®(ラベプラゾールナトリウム)のヒストリー(日本)
製品ヒストリー
売上(億円)
特許ヒストリー(物質特許及び用法・用量特許)
沢井製薬等ジェネリックの動き
1986
・ラベプラゾールナトリウムが見出される

11/13 物質特許出願優先日

1987


11//13 物質特許出願日(特願昭62-286668

1988
・臨床試験を開始



1993
・「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群」について申請



1994


9/21 物質特許公告日(公告平06-074272

1995


7/28 物質特許登録(特許1953321

1997
10/14 「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群」について承認取得
12/12 薬価収載・発売
再審査期間(~2003.10.13

・「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群」について物質特許存続期間延長登録出願(09-700059)→延長の期間: 2215日(20101月に満了)
・医薬品の原料用途として物質特許存続期間延長登録出願(09-700058) →延長の期間: 2215日(20101月に満了)

2003
7/17 「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」に関する用法追加に伴う承認事項の一部変更承認(再審査期間~2007.07.16
146


10/13 「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群」の再審査期間終了
2007
1/26 「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」に関する効能追加に伴う承認事項の一部変更承認(再審査期間~2011.01.25
8/23 本剤とアモキシシリン水和物及びメトロニダゾールによるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助に関する用法・用量追加に伴う承認事項一部変更承認
371
・「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」について物質特許存続期間延長登録出願(2007-700025) →延長の期間: 5年(つまり満了日は2012.11.13
11/13 物質特許存続期間20年満了日

2010
6/18 「非びらん性胃食道逆流症」に関する効能追加に伴う承認事項の一部変更申請、並びに、「胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃に対するヘリコバクター・ピロリ除菌の補助」に関する効能追加に伴う承認事項一部変更承認
12/21 プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎に対する用法・用量追加に伴う承認事項の一部変更承認
602
1月 「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群」について延長された物質特許存続期間満了日
7/15 ジェネリック医薬品が初承認
11/19 ジェネリック医薬品が初薬価収載(2142品目)

11/15 「非びらん性胃食道逆流症」の効能・効果が追加承認
2011
1/25 「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」に関する効能追加の再審査期間終了
609

4/5 プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎に対する用法・用量が追加承認
2012

501
11/13 「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」について延長された物質特許存続期間満了日
11/19 「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、
胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃
におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」の効能・効果が追加承認
2013
2/21 「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」の効能追加に伴う承認事項の一部変更承認
473

6/17 「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」の効能・効果が追加承認
2014
12/26 「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」の効能追加に伴う承認事項の一部変更承認請(5mg錠の剤形追加を含む)(再審査期間~2018.12.25
371


2016
10/28 プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法に対する用法・用量追加に伴う承認事項の一部変更申請
212
10/27 プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法に対する用法・用量を保護する特許出願の優先日

2017
9/22プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法に対する用法・用量追加に伴う承認事項一部変更承認
172
4/4上記用法・用量特許出願日(特願2017-74712
12/13 プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法に対する用法・用量が追加承認
2018
12/25 「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」の効能追加の再審査期間終了
129
2/2上記用法・用量特許登録(特許6283440
12/17 【謹告】ラベプラゾールナトリウムの用法・用量に関する特許権について

2019



4/15 沢井が特許無効審判を請求(無効2019-800035
2037


4/4 上記用法・用量特許存続期間満了日


  • オレンジ色は、パリエット®の再審査期間及び特許の存在が、ジェネリックの参入(又は効能・効果追加)阻止に働いた(ている)と思われる部分。
  • あずき色は、パリエット®のプロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法に対する用法・用量を保護する特許に関する部分。パリエット®については、2016年10月28日に「プロトンポンプインヒビターによる治療で効果不十分な逆流性食道炎の維持療法に対する用法・用量」追加に伴う承認事項の一部変更申請が行われ、その前日に、EAファーマにより当該維持療法に対する用法:用量を保護する特許出願(優先権の基礎となる出願)がされている。この申請日前日の出願というタイミングから、申請ギリギリまで待っての出願という計画的なものだったと想像できる。しかし、1年を待たずに優先権を主張して出願、早期審査請求を行い、登録(2018年2月2日)させることができたものの、その特許登録よりも前に、パリエット®の当該維持療法に対する用法・用量についての一部変更申請は承認となり(2017年9月22日)、結果、ジェネリック医薬品にも特許登録前に同用法・用量について追加承認を許してしまった。当該維持療法に対する用法・用量について、既に承認を取得した沢井製薬含め多数のジェネリックと、それを保護する用法・用量特許を保有するEAファーマ(またはエーザイ)との間の攻防が今後どうなるか注目したい。

参考:


2019/10/20

レミッチ®用途特許に対するジェネリックメーカーの動き

東レが保有する「止痒剤」に関する特許(特許第3531170号)は、経口そう痒症改善剤「レミッチ®」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)の医薬用途発明を保護するものであり、20年の特許期間は2017年11月21日に満了したが、2017年3月の「レミッチ®OD錠2.5µg」の承認取得に基づいて、5年間の特許権存続期間延長登録を求める出願(特願2017-700154号)がされている。この特許の有効性を巡り、東レと沢井製薬が無効審判で争っている(無効2019-800038; 請求日2019年4月26日)。

本件特許無効審判の審判記録(J-PlatPat)によると、沢井製薬は、審判請求書において、オピオイドκ受容体作動性化合物が、ボンベシン誘発グルーミングを抑制し、そう痒症状の改善に有効であることが、本件特許の優先権主張日前に技術水準・周知技術であった旨を主張しているのに対し、東レは、本件特許の優先権主張日前に、ボンベシン誘発グルーミングは、そう痒症状に基づく固有の反応であるとは理解されていなかった旨、及び、ボンベシン誘発グルーミング抑制効果を示さない複数のオピオイドκ受容体作動性化合物が知られていたことから、オピオイドκ受容体作動とボンベシン誘発グルーミングの抑制効果が結びつくとは考えられていなかった旨を主張し反論しているようである。

2018年12月19日付の東レのプレスリリース(「経口そう痒症改善剤「レミッチ®」用途特許に関する特許権侵害訴訟提起について」)によれば、東レは、2018年12月13日に沢井製薬および扶桑薬品工業を被告として、上記用途特許に基づき、沢井製薬および扶桑薬品工業が販売する後発医薬品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『サワイ』」および「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『フソ-』」(後発医薬品の効能・効果:次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者)の製造販売差止と損害賠償等を求め、東京地裁に特許権侵害訴訟を提起している(東京地裁平成30年(ワ)38504号及び東京地裁平成30年(ワ)38508号)。

参考:

2019/10/15

シロドシン製剤特許を巡るジェネリックメーカーの動き

「シロドシンの苦味をマスキングした経口投与製剤」に関する特許(日本特許第6392207号; 存続期間満了日2034年3月25日(延長なし))の有効性を巡り、キッセイ薬品工業と小林化工が特許無効審判で争っている(無効2019-800015; 請求日2019年2月22日)。小林化工は、本件特許の無効審決を得て、シロドシンを有効成分とする前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬ユリーフ®のジェネリックの販売に製剤特許の問題がないことの確信を得たいと考えているようだ。しかし、ユリーフ®のジェネリックを販売開始している他のジェネリックメーカーは無効審判を請求していない。
【請求項1】
シロドシンの微粉末を含有する薬物粒子を、非腸溶性高分子を含有するコーティング剤で造粒又は被覆して得られるマスキング粒子であって、非腸溶性高分子含量が、シロドシン100質量部に対して80質量部~400質量部であり、かつ該マスキング粒子中の非腸溶性高分子含量が、15~30質量%である、口腔内崩壊製剤用のマスキング粒子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のマスキング粒子を含有する経口投与製剤。
【請求項13】
口腔内崩壊製剤である、請求項12記載のマスキング粒子を含有する経口投与製剤。
【請求項14】
剤形が錠剤である、請求項13記載のマスキング粒子を含有する経口投与製剤。

また、キッセイ薬品工業は、「光安定性に優れたシロドシン含有経口固形製剤」に関する特許(日本特許第6427634号)も保有しているが、異議申立(異議2019-700058; 申立日2019.01.25)されている。現在、特許は合議の結果取り消すべきものであるとの取消理由通知書が出されている。
【請求項1】
シロドシンを含有するマスキング粒子と光安定化剤をそれぞれ別個に含有する口腔内崩壊錠であって、
光安定化剤が黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、褐色酸化鉄、三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色5号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用赤色2号、食用赤色3号及び食用赤色102号からなる群から選択される1以上である、口腔内崩壊錠。

また、ジェネリックメーカーである大原薬品工業は、「光安定性を向上したシロドシン含有着色錠剤」に関する特許(日本特許第6321314号)を保有しているが、異議申立(異議2018-700877; 申立日2018.11.01)されている。現在、訂正を認めた上で特許を取り消すとの取消理由通知書が出されている。
【請求項1】
シロドシン及び遮光剤を含有する口腔内崩壊錠であって、該遮光剤が黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄より選ばれる口腔内崩壊錠。

その他、沢井製薬の「シロドシン含有粒子の製造方法及びシロドシン含有口腔内崩壊錠の製造方法」に関する特許出願(特開2018-83809)、武田テバファーマの「不快な味がマスキングされた経口医薬組成物」に関する特許出願(特開2018-150287)、共和薬品工業の「シロドシンを含有する固形医薬組成物」に関する特許出願(特開2019-94283)、東和薬品の「シロドシン含有医薬組成物とその製造方法」に関する特許出願(特開2018-65752)もあったりする(いずれも審査請求はまだされていない)。

シロドシンは前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬ユリーフ®の有効成分。ユリーフ®はキッセイ薬品工業が創製し、第一製薬(現:第一三共)と共同開発(第Ⅲ相臨床試験以降)・共同販売する前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬である。ユリーフ®の再審査期間は2006年1月23日~2014年1月22日で終了しており、2018年12月には特許が満了した(2019.05.08 キッセイ2019年3月期 決算短信より)ため、2019年2月には10社を超えるジェネリックメーカーがシロドシン錠又はシロドシンOD錠の承認を得て、6月には薬価基準収載・販売に至っている。

オーソライズド・ジェネリックが2018年8月15日に承認(キッセイ press release: 2018.08.16 「前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬「ユリーフ®錠、同OD錠」のオーソライズド・ジェネリック(AG)の事業化について」)、2019年3月に発売されているが、先発品ユリーフ®の2020年3月期(通期)の売上は、ジェネリックの発売に伴い大きな減少が見込まれている(2019.07.30 キッセイ決算補足資料2020年3月期第1四半期より)。

ユリーフ®売上推移(百万円)
2007年3月期通期実績: 1,417
2008年3月期通期実績: 4,106
2009年3月期通期実績: 6,288
2010年3月期通期実績: 8,706
2011年3月期通期実績: 9,723
2012年3月期通期実績: 11,156
2013年3月期通期実績: 11,714
2014年3月期通期実績: 13,331
2015年3月期通期実績: 14,087
2016年3月期通期実績: 15,473
2017年3月期通期実績: 16,164
2018年3月期通期実績: 17,235
2019年3月期通期実績: 17,810
2020年3月期通期予想: 6,200

参考:

2019/10/12

ポーラファルマ: ヘパリン類似物質外用泡状スプレーに関する特許権について

2019年10月8日、(株)ポーラファルマより「ヘパリン類似物質外用泡状スプレーに関する特許権について」の謹告文が掲載された(参照: 日刊薬業website: 【謹告】ヘパリン類似物質外用泡状スプレーに関する特許権について)。

(株)ポーラファルマは、ヘパリン類似物質を有効成分とするヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「PP」を製造販売している。
「ヘパリン類似物質は、ブタの気管軟骨を含む肺臓から抽出されたムコ多糖の多硫酸化エステルで、D-グルクロン酸と N-アセチル-D-ガラクトサミンからなる二糖を反復単位とする多糖体を SO3-で多硫酸化したものである。
薬理的には、血液凝固抑制作用、血流量増加作用、線維芽細胞増殖抑制作用などが確認されている。また、その構造中に硫酸基、カルボキシル基、水酸基などの多くの親水基を持ち、高い保湿能を有しており、臨床的には皮脂欠乏症、進行性指掌角化症、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防、血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患などに広く用いられている。
ヘパリン類似物質ローション 0.3%は、手にとって塗布するため、直接塗布することができない。また、直接噴霧することができるヘパリン類似物質外用スプレー0.3%があるが、広範囲に塗布する場合は、何度もスプレーする必要があるため、過量に噴霧することとなり液垂れするといった欠点がある。これらの製品の欠点を補うため、直接噴霧することができ、かつ、液垂れしにくい泡状のポンプスプレー剤を開発した。
ヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「PP」は、標準製剤(ローション剤 0.3%)の追加剤形として開発され、2016年8月に製造販売承認を取得し、2016年12月に発売した。」(医薬品インタビューフォームより)

製剤の組成:
(1) 有効成分(活性成分)の含量
1g中ヘパリン類似物質3.0mgを含有する。

(2) 添加物
基剤: 1,3-ブチレングリコール、グリセリン、D-ソルビトール
発泡剤: ラウロマクロゴール
溶解補助剤: ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 60、ステアリン酸ポリオキシル 40
湿潤剤: 精製ヒアルロン酸ナトリウム
保存剤: パラオキシ安息香酸メチル
緩衝剤: クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物

(株)ポーラファルマは、ヘパリン類似物質を有効成分とする泡状外用組成物およびスクリーンフォーマー用外用組成物に関する以下の特許権を保有している。
  • 特許第6368834号(最先優先日2014年12月24日、登録日2018年7月13日)
    請求項1: 非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレンアルケニルエーテルとポリオキシエチレン脂肪酸エステル及び/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油との組み合わせを含み、非イオン性界面活性剤を組成物全量に対し2.5~15質量%含有し、
    前記非イオン性界面活性剤全量のHLBが10以上であり、
    1,3-ブチレングリコールを10~25質量%含み、
    塗布後除去しない態様で使用するためのものであることを特徴とする、スクリーンフォーマー用の外用組成物。
  • 特許第6396231号(優先日2014年1月27日、登録日2018年9月7日)
    請求項1: 1)極性溶剤と、2)非イオン性界面活性剤と、多価アルコールと、を含有する外用医薬組成物であって、界面活性剤として、前記非イオン性界面活性剤のみを含み、
    前記極性溶剤は、炭素数1~4のアルキル鎖を有するN-アルキルピロリドン、炭酸ジエステルより選択される1種又は2種以上であり、
    前記非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンが付加されていても良い脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンが付加されていてもよいソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンのアルキル乃至はアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド及び水素添加されていても良いポリオキシエチレンヒマシ油より選択される1種または2種以上であり、
    前記多価アルコールは1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール及び1,2-ペンタンジオールから選ばれる1種または2種以上であり、
    使用時に泡状であり、洗浄行為を伴わない態様で使用されることを特徴とする外用医薬組成物(但し噴射ガスを含む形態を除く)。
  • 特許第6460988号(優先日2013年7月11日、登録日2019年1月11日)
    請求項1: 1)有効成分と、2)N-アルキル-2-ピロリドン及び/又は炭酸ジエステルと、3)非イオン性界面活性剤、とを含有する外用医薬組成物をポンプ式フォーマーに充填してなる、外用医薬。

ヘパリン類似物質を有効成分とする外用泡状スプレー製剤としては、他に下記の医療用医薬品が承認されている。ポーラファルマのヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「PP」の2016年12月発売から遅れること約2年、2018年9月13日に先発品のヒルドイド®のフォーム剤が販売開始している。
  • ヒルドイド®フォーム0.3%(2018年9月13日販売)
    添加物
    原液:グリセリン、マクロゴール、ポリソルベート65、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、pH調節剤 噴射剤:LPG
  • ヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「日医工」(承認、薬価基準未収載)
    添加物: カルボキシビニルポリマー、ヒプロメロース、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、トリエタノールアミン、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル
  • ヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「ニットー」(2016年12月9日販売)
    添加物: 1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ラウロマクロゴール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、D-ソルビトール、精製ヒアルロン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物
  • ヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「日本臓器」(2016年12月9日販売)
    添加物: グリセリン、精製ヒアルロン酸ナトリウム、1,3−ブチレングリコール、ラウロマクロゴール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40、D−ソルビトール、パラオキシ安息香酸メチル、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物

参照:

2019/10/03

ヘムライブラ®に対する特許侵害訴訟 - バクスアルタの控訴棄却

2019年10月3日付の中外製薬のプレスリリースによると、中外製薬の血友病A治療薬「ヘムライブラ®」(一般名:エミシズマブ)がバクスアルタ社保有の「第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体」に関する特許権(特許第4313531号; 存続期間満了日は2020年9月13日)に触れるとして上記ヘムライブラの製造等差止・廃棄を求め、バクスアルタ社が中外製薬を被告として提起した特許侵害訴訟について、バクスアルタ社は、東京地裁判決(2018.03.28 「バクスアルタ v. 中外製薬」 東京地裁平成28年(ワ)11475)を不服として、2018年5月10日、知財高裁に控訴していましたが、2019年10月3日、知財高裁はバクスアルタ社の控訴を棄却する(中外製薬勝訴)判決を下したとのことです。

2019/09/16

2019.08.28 「盐城捷康三氯蔗糖制造有限公司(ジェイケー スクラロース) v. 三栄源エフ・エフ・アイ」 知財高裁平成30年(行ケ)10164

酸味のマスキング方法の容易想到性: 知財高裁平成30年(行ケ)10164

被告(三栄源エフ・エフ・アイ)が保有する「酸味のマスキング方法」に関する特許第3916281号に対して原告(ジェイケー スクラロース)が請求した無効審判(無効2014-800118)の無効審決(一次審決)を取消す旨の判決(2017.07.19 「三栄源エフ・エフ・アイ v. ジェイケー スクラロース」 知財高裁平成28年(行ケ)10157)の後、特許庁は訂正請求を認めた上で、本件発明(請求項1)は引用発明等に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないなどとして無効審判請求は成り立たない旨の審決を下した(本件審決)。本件はその無効審判請求不成立審決の取消訴訟。

請求項1:
醸造酢を含有するドレッシング,ソース,漬物,及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種の製品に,スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする該製品の酸味のマスキング方法。
引用発明との相違点2:
酸味のマスキング剤が,本件発明では,スクラロースであり,その添加量が製品の0.0028~0.0042重量%であるのに対し,引用発明では,アスパルテームであって,その添加量が製品濃度で1~200mg%である点。

裁判所は、アスパルテームを製品濃度1~200mg%(=0.001~0.2重量%)で添加する引用発明から、スクラロースを製品の0.0028~0.0042重量%で添加することは、容易に想到することができたものである、と判断し、原告の請求を認容することとし、本件審決中、請求項1に係る部分を取り消した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「(4) 相違点2の容易想到性
ア ・・・各文献には,・・・ノンカロリー高甘味度甘味料であるスクラロースが,アスパルテーム・・・等の他の高甘味度甘味料と比較して,甘味の質においてショ糖に似ているという特徴があることから,多くの種類の食品において嗜好性の高い甘味を付与することが見込まれているとの記載があり,加えて,・・・本件出願前に,ショ糖や,アスパルテーム,ステビア,サッカリンといった慣用の高甘味度甘味料が酸味のマスキング剤としての機能を備えることが,当業者に周知であったことからすると,引用発明のアスパルテームに代えてスクラロースを採用してみることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。
イ また,・・・各文献・・・の記載によれば,スクラロースの添加については,向上させようとする風味や製品によって使用量は上下するものの,下限値として,製品に対して0.0001重量%,0.0025重量%,0.005重量%で用いたものなどが知られており,スクラロースの甘味を感じさせない量であっても製品の風味の向上が可能であることを当業者は認識していたものと認められる。
他方,引用例には,アスパルテームによる酸味緩和効果を得るための下限値として1mg%(0.001重量%),1.5mg%(0.0015重量%),5mg%(0.005重量%)が挙げられ,上記のスクラロースと同様のレベルの使用量で酸味のマスキングが行えることが記載され,更に,アスパルテームの甘味により,食品・調味料の呈味バランスが崩れないようアスパルテームの添加量は食品・調味料の種類に応じ,適宜設定すべきであるとされている。
また,酸味のマスキングは,甘味の付与を目的とするものではなく,所望の酸味のマスキング効果を奏する場合には,甘味がつきすぎて味のバランスが崩れることがないように,甘味料の使用を減らすことは考えても,増量することは考えないから,スクラロースを酸味のマスキング剤に使用する場合であっても,当業者は,酸味のマスキングが実現可能な低い濃度でスクラロースを使用することを指向する。
そうすると,スクラロースを,引用発明の食酢を含む食品(ドレッシング,ソース,漬物,及び調味料などの製品)における,酸味のマスキング剤として使用するにあたり,酸味緩和効果が得られるものの,スクラロースの甘味により前記製品の旨味バランスを崩さない濃度範囲のうち低い濃度を,製品ごとに選択して,スクラロースの従来の使用濃度である0.0001~0.005重量%に重複する0.0028~0.0042重量%という濃度範囲に至ることは,当業者に容易であったということができる。
ウ そして,本件明細書の実施例2~4を参照しても,0.0028~0.0042重量%の濃度範囲を境にして,当業者の期待,予測を超える格別顕著な効果を奏しているとは評価できない。」

参考:


2019/09/06

2019.07.10 「テバ v. メルク・シャープ・アンド・ドーム」特許庁審決 無効2018-800106号事件

ゼチーア®(エゼチミブ)の延長登録無効審判: 無効2018-800106号事件
「特許発明の実施することができなかった期間(特許法125条の2第3号)」に特許権者の特許発明を実施する意思及び能力が必要か。必要であるとして、処分を受けた者が通常実施権者である場合、その実施許諾時期がその期間に影響するのか。

メルク・シャープ・アンド・ドーム(MSD)が保有する「低コレステロール血症薬剤として有用なヒドロキシ置換アゼチジノン化合物」に関する特許権(第2803908号)存続期間延長登録(2007-700057号)(5年の延長により満了日は2019年9月14日)に対する無効審判請求事件(請求日は2018年8月27日)。延長登録の理由となる処分の対象となった医薬品は、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤である高脂血症治療剤「ゼチーア錠10mg」(一般名: エゼチミブ(Ezetimibe))。特許権者は、2013年5月27日にメルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーションに名義変更するまで、シェーリング コーポレイション。

請求人(テバ)が主張する無効理由の概要:
「本件特許権の設定登録日(平成10年7月17日)から通常実施権の設定日(平成17年7月8日)より前の期間は、特許権者には本件特許発明を実施する意思及び能力が認められないから、特許法第125条の2第1項第3号でいう「その特許発明の実施をすることができなかつた期間」には当たらない。したがって、当該期間は、通常実施権の設定日(平成17年7月8日)から本件処分を受けた日(平成19年4月18日)の前日までの1年9月9日であって、本件延長登録は、延長された期間が本件特許発明の実施をすることができなかった期間を超えているから、特許法第125条の2第1項第3号の規定に該当し、本件特許発明の実施をすることができなかった期間である1年9月9日を超える期間の延長登録は無効とされるべきである。」

【要旨】

結論: 本件審判の請求は、成り立たない。

特許庁審判官は、「本件延長登録に係る延長の期間に誤りはなく、仮に特許法第125条の2第1項第3号でいう「その特許発明の実施をすることができなかつた期間」に請求人が主張する「特許発明を実施する意思及び能力」を参酌したとしても、その結論に誤りはないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件延長登録のうち1年9月9日を超える期間の延長登録を無効とすることはできない」と判断した。

請求人は、
「特許権の存続期間の延長登録制度は、特許権を有しているにもかかわらず、特許発明の実施から得られるはずの利益を受けられない特許権者の救済制度であり、知財高裁平成25年(行ケ)第10195号(平成26年5月30日特別部判決)も「特許発明を実施する意思及び能力があってもなお、特許発明を実施することができなかった期間」に限って存続期間延長の対象とする旨述べるとおりである。したがって、特許法第125条の2第1項第3号の「その特許発明の実施をすることができなかつた期間」とは、特許権者が特許発明を実施する意思及び能力があってもなおその特許発明を実施することができなかった期間を意味すると解するべきである。」
と主張した。
しかし、審判官は、
仮にそのように解したとしても、「・・・これらの事実から、本件医薬品の治験は、親会社(シェリング・プラウ・コーポレイション)の指揮の下で、本件治験実施者(シェリング・プラウ株式会社)を中心にグループメンバー各社が協力し合って進めたものであることが見て取れる。また、本件特許の第1優先米国出願、第2優先米国出願及び国際出願の代理人は一貫してAnita W.Magattiであったところ、その所属が第1優先日及び国際出願時には親会社、第2優先日には本件特許権者(シェーリング コーポレイション)であったこと、本件医薬品の承認を受けるための申請用資料において本件医薬品は「米国シェリング・プラウ社で発見された」と説明されていること、及び本件医薬品の安全性に関する研究に対して当該企業グループに属するさらなる別のメンバー会社が助成金を拠出したことに照らすと、本件医薬品の研究開発や特許化も治験と同様に、親会社の管理下でグループメンバー各社が役割分担をして進めていたことが認められる。そうであるならば、本件医薬品の治験は、親会社の指揮の下で、本件特許権者の本件特許発明を実施する意思及び能力を反映して、本件治験実施者により行われたものであると考えるのが自然である。そして、本件特許権者は、本件治験実施者に通常実施権を許諾し、自ら特許権の存続期間延長登録を出願したのだから、遅くとも治験計画(第1回)を届け出た時点からそれ以降、本件特許発明を実施する意思及び能力を維持していたと認められる。・・・以上のとおりであるから、本件延長登録においては、遅くとも治験計画届書(第1回)の提出以降、本件特許権者には本件特許発明を実施する意思及び能力が存在していたと優に認めることができる。」
と判断した。

また、請求人は、
「本件延長登録のように、処分を受けたのが通常実施権者である場合、特許権者自らは特許発明を実施しないから、通常実施権者が特許発明を実施して初めて特許権者の特許発明を実施する意思及び能力が認められる。後に通常実施権者になった者の行為であっても、通常実施権設定前は無権利者による実施にあたり、特許権者は無権利者の実施から利益は得られないのだから、特許権者の受ける不利益の解消という延長登録制度の趣旨に照らしても、特許法は無権利者による実施期間を延長登録の対象とすることを予定していない。」
と主張した。
しかし、審判官は、
「・・・通常実施権の許諾は当事者間の契約であって、それがないからといって特許権者の特許発明を実施する意思及び能力が否定されるわけではない。本件延長登録においては、上記アにおいて判断したとおり、遅くとも治験計画届書(第1回)の提出以降、本件特許権者には本件特許発明を実施する意思及び能力が存在していたと優に認められ、通常実施権の許諾の時期がいつであるかはこれを左右するものではない。また、治験を行った医薬品の全てが薬事法上の承認を受けて上市に至るわけではないという医薬品業界の実情に照らせば、治験の結果を得て、承認ないし上市の見込みが立ってから通常実施権を許諾することが不合理であるとまではいえない。」
と判断した。

【コメント】

1.本件審決について

「特許発明の実施することができなかった期間(特許法125条の2第3号)」に特許権者の特許発明を実施する意思及び能力が必要か、必要であるとして、処分を受けた者が通常実施権者である場合、その許諾時期がその期間に影響するのかどうかが争われた。

審判官は、「特許発明の実施することができなかった期間(特許法125条の2第3号)」に特許権者の特許発明を実施する意思及び能力が必要であるとは明文化されていないと言及しながらも、仮に必要であるとして検討した結果、遅くとも治験計画届書の提出以降、本件特許権者には本件特許発明を実施する意思及び能力が存在していたと優に認められ、通常実施権の許諾の時期がいつであるかはこれを左右するものではない、と判断した。

2.権利主体の変動の背景(参考)

ゼチーア®錠(一般名:エゼチミブ)は、米国シェリング・プラウ(Schering-Plough Corporation)によって 1994年に創製された小腸コレステロールトランスポーター阻害剤。日本では、米国シェリング・プラウの日本法人であるシェリング・プラウ株式会社が治験計画届書を1997年3月27日に提出してから開発を進め、申請、2007年4月18日に承認に至った。シェリング・プラウ株式会社が本件特許権者であったシェーリング コーポレイションから通常実施権を許諾されたのは2005年7月8日であった。

シェーリング コーポレーションは、1971年に米国Plough Inc.と合併し、米国シェリング・プラウ(Schering-Plough Corporation)となった。米国シェリング・プラウ(Schering-Plough Corporation)は、2009年11月、米国メルク(Merck & Co., Inc. a New Jersey corporation ("Old Merck") )と統合、その際に、Schering-Plough Corporationは親会社として社名を「Merck & Co., Inc.」に変更、"Old Merck"は社名を「Merck Sharp & Dohme Corp.」に変更し、Merck & Co., Inc.の子会社となった(SEC document: 2009.11.04 POST EFFECTIVE AMENDMENT NO. 1 TO FORM S-8)。本件特許権者は、現在、メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション(Merck Sharp & Dohme Corp.)に名義変更されている。2010年10月1日、万有製薬株式会社と米国シェリング・プラウの日本法人であるシェリング・プラウ株式会社が統合してMSD株式会社となったため、ゼチーア®錠の製造販売元名義は、現在、MSD株式会社となっている。

3.ゼチーア®錠のジェネリック参入について

ゼチーア®錠の再審査期間(2007年4月18日~2015年4月17日)は終了しているため、テバは本件特許の延長登録の無効審決を得て、ゼチーア®錠のジェネリックの承認を取得しようと目論んでいたと想像される(にしては、審判請求するタイミングが遅いような気がするが・・・)。無効審判請求は成り立たないとの審決が出たことによって、本件特許(有効成分であるエゼチミブを保護する物質特許)の満了日(5年の延長のため2019年9月14日)以降(早ければ2020年2月)にジェネリックの承認が予想される。ところで、物質特許が有効に存在する状況において(パテントリンケージに反して)、2019年8月に、第一三共エスファはゼチーア®錠のジェネリックの承認を取得できていることから、第一三共エスファは先発メーカー側から実施許諾(オーソライズドジェネリックの販売許可)を得ていると考えられる。

2019/09/05

2019.05.29 「ジェネンテック v. サンド・協和発酵キリン」 東京地裁平成29年(ワ)44053

リツキサン®の併用療法における用途特許侵害訴訟でサンド・協和キリンが勝訴東京地裁平成29年(ワ)44053

【背景】

抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ(Rituximab)(遺伝子組換え)を有効成分とするバイオ医薬品「リツキサン(Rituxan)®」のバイオ後続品(バイオシミラー)であるリツキシマブBS点滴静注「KHK」の製造販売者であるサンド及び販売者である協和発酵キリン(被告ら)に対し、バイオジェンが保有する用途特許の侵害を理由として、本特許権の専用実施権者であるジェネンテックが、被告製剤の製造販売等の差止め及び損害賠償を求めた特許権侵害差止請求事件。原告ジェネンテック側には全薬工業及び中外製薬が補助参加した(全薬工業はリツキサン®の独占的販売権者、中外製薬は同剤の全薬工業との共同販売権者)。

対象となった特許は、バイオジェンが保有する「抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法」に関する3つの用途特許(特許第6226216号、特許第6241794号、特許第6253842号)。いずれも1999年8月11日を出願日とする原出願(PCT/US99/18120; 特願2000-564662)からの分割で派生した特許ファミリーであり、2019年8月11日が存続期間満了日。特許無効審判は請求されていない。
  • 特許第6226216号(本件特許1)の本件発明1:
    リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される,上記医薬組成物。
  • 特許第6241794号(本件特許2)の本件発明2-1:
    リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,上記医薬組成物。
  • 特許第6253842号(本件特許3)の本件発明3:
    リツキシマブを含み,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与され,前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に前記患者に投与される,医薬組成物。

【要旨】

裁判所は、①本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反により無効とされるべきものと認められるから権利行使は認められず、また,②被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから侵害するとはいえない、と判断し、原告の請求を棄却した。

1.本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しているかについて
「「最中」という文言は,本件特許1の分割出願時に「同時」という文言であったところ,「同時」はCHOP療法の各薬剤とリツキシマブを交互に投与する態様,すなわち,休薬期間中の投与を含むものであり,その態様は甲38文献に記載されており,新規性及び進歩性を欠くなどとして拒絶理由を通知され,拒絶理由を回避するために補正によって導入された文言であり,出願人であるバイオジェンによる本件意見書において,「最中」とすることにより,本件発明1は甲38文献で開示されているものとは異なる発明となることが示されている。・・・そうであれば,・・・CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当である。したがって,・・・「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味すると解するのが相当である。」

「そうすると,・・・本件明細書1及び3の発明の詳細な説明に,本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものはなく,本件全証拠によっても,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,リツキシマブを含む医薬組成物を本件発明1及び3の用途に使用することにより新たに有効な治療法を提供するという発明の課題を解決することができると認識し得ると認めることはできない。よって,本件発明1及び3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に適合しておらず,本件特許1及び3は,同号に違反する。」

2.被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するかについて
「本件原出願日当時の技術常識に照らせば,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであり,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものは含まないものと認めるのが相当である。・・・「CVP」については,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に具体的な説明がされていない以上,技術常識を踏まえて,その意義,内容を解釈し得ることは当然である。」

「被告製剤についてみると,・・・被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,・・・ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。そして,・・・被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。」

【コメント】

リツキサン®のバイオ後続品(リツキシマブBS「KHK」)の製造販売を特許権侵害で訴えたジェネンテック・中外製薬・全薬工業の主張は認められなかった。

本件出願の審査において、先行文献に記載された発明と明確に区別し、新規性・進歩性の主張をするために「前」と「後」に抗CD20抗体を投与するスケジュールは含まれない、すなわち「最中」とする補正をせざるを得なかったのだろう。その決断は、一方で記載要件欠如となるリスクを生むことになることは出願人は承知していたのではないか。ジェネンテック・中外製薬・全薬工業にしてみれば、非常に厳しい状況での訴訟提起だったに違いない。特許査定となり権利行使にチャレンジできたのだから御の字であろう。

被告製剤は「CVP」を充足するかについての争いに関して、「CVP」については明細書に具体的な記載がないため技術常識が参酌されることになり、その解釈の結果、被告製剤はその構成を充足しないと判断された。クレームに記載する構成要件は、明細書に具体的に説明しておくべきだった。そのようにしてあれば、もっと被告製剤を捉える構成に落とし込む補正を出来ていたかもしれない。進歩が著しい医療分野では、治療ガイドラインや投与レジメンは度々変更されることになるから、出願時にそれらで慣用されていた用語が現在も具体的に同じものを意味するとは限らないという点については出願時のクレーム及び明細書作成時において注意する必要がある。

リツキシマブ(遺伝子組換え)製剤初のバイオ後続品(バイオシミラー)であるリツキシマブBS点滴静注100mg、500mg「KHK」の販売が始まった2018年から、先発品であるリツキサン®の売上は以下の通り減少している(中外製薬ホームページ: 製商品別売上高の推移より)。
一方、協和キリンのバイオ後続品リツキシマブBS「KHK」の売上推移は以下の通り。
参考:
過去記事:

2019/09/03

2019.06.12 「バイエル薬品 v. コーアイセイ・日本ケミファ・扶桑薬品工業・日本ジェネリック・コーアバイオテックベイ」 東京地裁平成30年(ワ)28391

特許侵害の立証について(炭酸ランタン製剤特許侵害事件東京地裁平成30年(ワ)28391

【背景】

バイエル薬品が、被告ら(コーアイセイ、日本ケミファ、扶桑薬品工業、日本ジェネリック及びコーアバイオテックベイ)に対し、バイエル薬品の高リン血症治療剤であるホスレノール®(一般名:炭酸ランタン水和物)のジェネリックである炭酸ランタンOD錠各製剤の生産等の差止め及び廃棄を求めた特許権侵害差止請求事件。

2018年2月15日に製造販売承認を受けた被告ら各製剤のうちコーアイセイ及び日本ケミファの各製剤が、同年6月14日、薬価基準に収載される旨の告示を受けており、各医療用医薬品添付文書によればその組成はいずれも以下の通り。コーアイセイは、同年9月3日頃、本件製剤の販売を開始した。
"1錠中,ランタン250mg(炭酸ランタン水和物として542mg)又はランタン500mg(炭酸ランタン水和物として1084mg)含有。添加物:軽質無水ケイ酸,ステアリン酸マグネシウム,タルク,その他3成分。"

対象となった特許は、バイエル薬品が保有する炭酸ランタンのOD錠に関する特許第6093829号。2015年10月2日に出願され、2035年10月2日が存続期間満了日。上記侵害差止請求事件と並行して、コーアイセイを請求人とする特許無効審判請求事件(無効2017-800104号)が係属しており、訂正後の請求項6等を無効とする審決の後、2019年1月11日に無効部分につき審決取消訴訟が提起されている(平成31年(行ケ)10003)。

訂正後請求項6(訂正発明):
唾液又は少量の水により,口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする口腔内崩壊錠であって,崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が70~90質量%で炭酸ランタン又はその薬学的に許容される塩を含有し,前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6~12質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く,医薬組成物。

【要旨】

裁判所は、本件各製剤がバイエル薬品の訂正発明の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断し、バイエル薬品の請求を棄却した。

(1) 原告の書類提出命令申立てとその却下決定
原告は、コーアイセイを相手方として、本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に含まれることを立証するため、本件製剤に関する医薬品製造販売承認書に記載されている「成分及び分量又は本質」に係る部分について、特許法105条1項に基づく書類提出命令の申立てをした。

裁判所は、同条2項に基づくインカメラ手続を行いコーアイセイから対象書類の提示を受けた上、同書類には本件製剤にクロスポビドンが含まれるかどうかや、クロスポビドンの医薬組成物中の含有率等に関する情報が記載されているが、本件製剤の組成物又は含有率は本件訂正発明に規定するものと異なっている一方、同情報はコーアイセイにとって秘密性の高い重要な技術的情報であると認められるから、コーアイセイには書類の提出を拒むことについて正当な理由があるなどと判断して同申立てを却下した。
(2) 本件各製剤が本件訂正発明の技術的範囲に属するかについて
裁判所は、本件特許の訂正発明の構成要件の一つは、
「前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6~12質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く,」
というものであるところ、本件各製剤が、①崩壊剤としてクロスポビドンを含有すること、②その医薬組成物中の含有率が5.6~12質量%であること、③同崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤でないことについては、これを認めるに足りる証拠がないことから、本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断し、原告の請求を棄却した。

【コメント】

1.被告製剤の添付文書に記載された添加剤「その他3成分」について

被告製剤の添付文書の添加剤に関する記載を見ても、訂正発明の構成要件の一つである「クロスポビドン」は見当たらない。原告バイエル薬品は被告製剤の添加剤のうち「その他3成分」にクロスポビドンが含まれていると睨んでいたのかもしれないが、その証拠を得ることはできなかった。2019年8月6日付のコーアイセイ等のプレスリリースによると、バイエル薬品が、本件の控訴事件(令和元年(ネ)第10051号)について、2019年7月31日付で控訴の全部を取り下げたことにより、本件判決が確定したとのことである(下記記事参照)。
2001年10月1日付の日本製薬団体連合会が加盟団体宛に発出した「医薬品添加物の記載に関する自主申し合わせについて(日薬連第712号)」には、医療用医薬品添付文書を対象として、内用剤の添加物成分の記載に関して、以下のとおりとしている。
(イ) 商取引上の機密にあたる成分については記載から除外できる。但し、記載から除いた成分がある場合には、添加物成分列記の末尾に「その他 n成分」と記載する。(nは記載から除いた成分数)
そして、「商取引上の機密」とは、製剤に関する特許公開前、特許出願準備中の場合や、特許には至らないが他者が知ることによって正当な利益を害する恐れのある成分又は組み合わせなどの場合を想定しているとの考えが示されている(2002.02.13 日本製薬団体連合会:「医薬品添加物の記載に関する自主申し合わせ」質疑応答集 )

参考資料:

2.特許侵害の立証プロセスについて

原告の侵害の立証を目的とした書類提出命令(文書提出命令)の申立てに対して、裁判所はインカメラ手続を経て被告の主張を認め、同申立てを却下した。過去裁判例において、書類提出命令の申立てが認められたケースは極めて少ないといわれている。過去の裁判例から、書類提出命令制度がどの程度利用されているのか、そして書類提出命令の申立てに対して裁判所はどのような判断をしているのかについて調査・分析した資料として下記が参考になる(4年前の資料ではあるが)。
(1) インカメラ手続の拡充等の平成30年法律改正(2019年7月1日施行)

書類提出の必要性を判断するためのインカメラ手続の導入及びインカメラ手続に専門委員が関与する制度の導入についての平成30年法律改正(平成30年法律第33号)が2019年7月1日に施行されたばかり(不正競争防止法等の一部を改正する法律(平成30年5月30日法律第33号)平成30年法律改正(平成30年法律第33号)解説書「第2章 インカメラ手続の拡充」)。本事件での書類提出命令申立てに基づくインカメラ手続は上記平成30年改正法施行前のことではあるが、仮にこれを適用しても申立て却下の結果は変わらないと考えられる。

(2) 査証制度の創設等の令和元年法律改正(2019年5月10日成立)

特許侵害の立証プロセスに係る法制度に関連して、上記インカメラ手続の拡充等の法律改正の施行(2019年7月1日)及びその効果が分かるのを待たずに、現地調査を行う制度(査証)の創設に関するさらなる特許法改正案が、同年3月1日に閣議決定され、「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)」として5月10日に可決・成立、5月17日に公布された。平成30年改正法が施行される前であり、その法改正の効果も見極めずに、更なる法改正を積み重ねることには大きな問題があり、2019年通常国会での法改正ありきの極めてタイトなスケジュール(2018年10月15日に開催された産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会第25回会合にて検討課題の提案募集がされてから2019年1月25日会合にて知財紛争処理システムの見直しに向けた報告書案が提示されるまでの約3か月間)で特許庁が検討を進めた(委員の選任にも問題があったとされる)ために産業界等の関係者との合意形成が不十分であったとして、経団連や知財協からは上記査証制度創設に関する特許法改正は時期尚早であるとして異例の反対意見表明がされていた。
査証制度の創設等の特許法等の一部を改正する法律案は、第198回通常国会・衆議院経済産業委員会審議(2019年4月12日議事録)及び参議院経済産業委員会審議(2019年5月9日議事録)において、反対意見も産業界からあり本当に煮詰められた法案なのかという疑問の指摘もされつつ、「査察」ではなく「査証」という言葉を用いた理由、査証人の選定基準はどうなるのか、査証による秘密漏洩リスク、査証人・執行官の秘密保持義務期間及び義務違反に対する罰則のレベル感、査証制度濫用への危惧と査証発令4要件、その具体的な判断基準、査証報告書の黒塗りの「正当な理由」判断と技術流出の懸念等について質疑が行われ、委員会及び本会議にてそれぞれ全会一致をもって可決された。査証制度に係る法律は、上記の通り運用面での懸念が多くあると思われるが、公布の日(2019年5月17日)から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することになる。