2019/01/27

2018.10.04 「P1 v. アステラス」 大阪地裁平成28年(ワ)4107

職務発明譲渡対価請求事件(アステラス(旧・藤沢)がライセンスしてバイエルが製造販売するペット用駆虫剤)大阪地裁平成28年(ワ)4107

【背景】

アステラス製薬(旧・藤沢薬品)(被告)の従業員であった原告(P1)が職務発明の譲渡対価を請求した事案。被告は、バイエルとライセンス契約を締結し、バイエルから、一時金の支払を受けたほか、本件特許(第2874342号)に係る本件化合物(PF156742、一般名エモデプシド)を有効成分の一つとして含有するペット用駆虫剤をバイエルが製造販売していることによるロイヤルティの支払も受けている。平成14年に原告からの通知を受けて被告は原告との協議を開始し、平成15年に当時の社内職務発明実績補償規則(「平成15年施行規則」)に基づく補償金として職務発明譲渡対価を原告が受領する等の合意をした確認書(「本件確認書」)が作成され、その後、被告から原告に補償金が支払われてきた経緯がある。原告は平成16年度以降の相当の対価の未払分の一部等の支払いを請求した。

【要旨】

主文
1 被告は,原告に対し,4728万4116円及びこれに対する平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(他略)
裁判所の判断

1 争点1(不起訴の合意の成否)について
「被告は,原告が藤沢薬品との間で,本件確認書において,本件請求権の全部につき不起訴の合意をしたと主張している。これに対し,原告は,本件確認書の射程は,平成15年1月末までの期間分にしか及んでいないと主張し,被告の主張を争っている。・・・本件確認書では,「『本件請求』に基づ」く訴訟等の行為は行わないと明記され,「本件請求」の意義については,「原告が藤沢薬品に対して平成14年7月15日付通知書にて行った,FR156742の発明…に関する特許法35条3項所定の『相当の対価』の請求」と明記されているにすぎず,本件請求権の全部が不起訴の合意の対象であることが明示されているわけではない。したがって,本件確認書の文言だけから直ちに,原告の有する本件請求権の全部について不起訴の合意がされたと認めることはできず,・・・本件確認書の「本件請求」の具体的内容・・・そして・・・経緯に照らすと・・・不起訴の合意がされたのは,藤沢薬品が本件発明により受けるべき利益のうち,平成15年1月までのものを基に算定した相当の対価請求についてであって,被告が主張するように,原告の有する本件請求権の全部について不起訴の合意がされたとまで認めることはできない。

・・・被告は,本件請求権全てを上記合意によって解決することは,本件請求権の全てが時効によって消滅するリスクのあった当時の原告にとって合理性があったなどと主張している。・・・しかし,債権の一部について催告をすると,債権全部について催告(民法153条)の効力を有すると解されることに加え,本件通知書に対して藤沢薬品が消滅時効を援用する態度を示さず,むしろ将来にロイヤリティ収入が得られた場合の増額も提示していたことからすると,原告が消滅時効の心配をすることなく本件確認書を作成したとしても不合理ではなく,被告主張のように考えなければ合理性がないとまでいうことはできない。・・・したがって,被告の上記主張を採用することはできない。以上より,被告の不起訴の合意に関する主張には理由がない。」
2 争点3(和解契約の成否)について
「・・・前記1の認定・判示によれば,本件確認書が和解の合意を含むものであったとしても,その対象は,藤沢薬品が平成15年1月までに受けるべき利益に基づく相当の対価請求についてであって,被告が主張するように,それ以後に藤沢薬品が受けるべき利益に基づく相当の対価について,原告が平成15年施行規則をはじめとした社内規程により算定される範囲内での請求権を有し,その余の請求権を放棄する旨合意されたとまで認めることはできない。したがって,被告の和解契約に関する主張には理由がない。」
3 争点4-1(消滅時効の成否-本件請求権の消滅時効の起算日)について
「・・・特許法35条3項に基づく相当の対価の支払請求権について「権利を行使することができる時」(民法166条1項)とは,本件のように発明の時点で職務発明に対する補償金に関する社内規程が存在しない場合には,期限の定めのない債権であるから,特許を受ける権利を譲渡(承継)した時と解するのが相当である。そうすると,本件における消滅時効の起算点は次のとおりとなり,中断事由等がない限り,この日から10年が経過することによって,消滅時効が完成することになる。
ア 本件特許に係る物質発明,用途発明並びに請求項10及び11記載の製法発明:遅くとも本件基礎出願2の出願日である平成4年10月15日
イ 本件特許に係る請求項9記載の製法発明:遅くとも本件特許の出願日である平成5年3月8日
・・・本件で被告は特に中断事由を主張していない(なお,原告は平成14年7月15日,藤沢薬品に対して本件通知書を交付して相当の対価を請求したが,その後6か月以内に裁判上の請求等(民法153条)をしなかった。)から,上記(1)ア及びイの日から10年が経過したことによって消滅時効が完成したことになる。そこで,次に,被告が本件請求権について消滅時効を援用することが許されるか(争点4-2)が問題となる。」
4 争点4-2(消滅時効の成否-被告が本件請求権について消滅時効を援用することは信義則に反するか)について
「・・・これらの事実からすると,藤沢薬品及び被告は,本件特許に係る相当対価請求権の消滅時効の完成時期について認識を有していたと推認され,それにもかかわらず,本件確認書を作成するに当たり,将来にロイヤリティ収入があった場合には補償金額が増額される旨を回答し,また,全ての発明との関係で対価請求権の消滅時効が完成した後も,支払額について原告との間で争いがあったにもかかわらず,平成15年施行規則及び平成17年の職務発明規程に基づき,実施による利益の有無等の検討を行った上で,実施補償としての支払を行い,又は提示したということができるから,藤沢薬品及び被告は,これらの一連の行為により,原告をして消滅時効を援用しないと信頼させる行動をとったというべきであり,本件の対価請求権の消滅時効の完成後の補償金(これは特許法35条3項に基づく相当な対価としての性質を有する。)の支払ないし支払提示により本件請求権に係る債務を承認したと認めるのが相当である。・・・以上より,被告が本件請求権について消滅時効を援用することは信義則に反し許されない。」
5 争点5(平成29年以降の利益を基礎とする相当の対価の請求の可否)について
「被告は,本件請求権のうち,将来の実施料収入(平成29年以降)を算定基礎とする部分は,弁済期未到来であるから,将来の給付の訴えであるなどと主張し,その部分の請求に係る訴えの却下を求めている。しかし,前記3の認定・判示によれば,平成15年施行規則によって本件請求権に新たに期限が付与されたとは認められないから,被告の主張は採用できない。したがって,原告は,被告に対し,本件で本件特許の存続期間満了までに藤沢薬品及び被告が受けるべき利益に基づく相当な対価の支払請求をすることができる。」
6 争点2(本件発明に係る相当の対価の額)について
「・・・以上の認定・判示をふまえると,特許法35条3項又はその類推適用に基づく平成16年4月1日以降に藤沢薬品及び被告が受けるべき利益を基礎とする相当の対価の額は,次のとおり●(省略)●円である。

(計算式) ●(省略)●円×0.075(発明者貢献割合(1-使用者貢献割合0.925))×0.8(原告の発明者間貢献割合)=●(省略)●円(1円未満は四捨五入)

他方で,原告は,被告から本件請求に係る期間に対応する平成15年施行規則に基づく補償金として,平成21年3月に●(省略)●円の支払を受け,これは弁済に当たるから,上記認定の相当の対価の額から控除すべきである。そうすると,原告が被告に対して請求することができる相当の対価の額は,4728万4116円となる。」
【コメント】

平成16年改正前の特許法35条では、使用者等(会社)が勤務規則等に基づいて職務発明の対価を従業者等(発明者)に支払っていた場合であっても、その社内規則に法的拘束力はなく、従業者等は「相当の対価」との差額を事後的に請求できるとされていた。その結果、使用者等は、従業者等から事後的に「相当の対価」との差額を請求されれば、裁判所による算出判断に従わざるを得なかった(つまり社内職務発明規則で相当の対価額を定めても無意味と化すという問題があった)。平成16年法改正及び平成27年法改正を経て、特許法35条においては手続面を重視して法的予見可能性を向上させる改正がされてきた。

本事案で適用される特許法35条は平成16年改正前のものだったが、原告発明者と被告アステラス(旧・藤沢薬品)との協議の過程や書面内容などはリアルであり、現在の職務発明に関連する実務にも参考になるだろう。

本事案において、使用者貢献割合について、原告は80%(契約一時金)又は70%(実施料)と主張し、被告は99%を下回ることはないと主張したが、裁判所は92.5%と認めるのが相当であると判断した。

2019/01/16

2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225

リーチスルー抗体クレームについての進歩性・サポート要件・実施可能要件の判断: 知財高裁平成29年(行ケ)10225

【背景】

被告(アムジェン)が保有する「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許(第5705288号)に対する無効審判請求不成立審決(無効2016-800004号)を不服として、原告(サノフィ)が審決取消訴訟を提起した事案。争点は、構造が特定されていない抗体に関する発明の進歩性、サポート要件、実施可能要件の有無。

請求項1(本件訂正発明1):
PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体。

【要旨】

裁判所は、本件訂正発明について甲1及び周知技術に基づいた容易想到性を否定し進歩性を認め並びにサポート要件及び実施可能要件にも適合するとした本件審決の判断に誤りはないとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がないと判断した。請求棄却。以下、裁判所の判断の抜粋。

1.取消事由1-1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)について
「本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の文言及び本件明細書の上記記載事項を総合すると,本件訂正発明1の「抗体と競合する」とは,「配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」(参照抗体)がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合することを意味するものと解される。

本件優先日当時の上記技術常識に照らすと,・・・免疫化プログラムの条件及びスケジュールを最適化し,参照抗体を得るのに適した免疫化マウスを作製するには,通常期待し得る範囲を超えた試行錯誤を要するものと認められる。また,モノクローナル抗体の作製工程において,ヒト抗体を作製するための遺伝子導入マウスの使用や抗体のスクリーニングのために抗原をビオチン化により固相化する方法は,本件優先日当時,周知であったものの,これらの技術を用いて,上記免疫化マウスを使用して作製されたハイブリドーマから参照抗体を得るのに適したスクリーニング系を構築することについても,一定の創意工夫が必要であるものと認められる。しかしながら,甲1には,本件明細書記載の免疫化プログラムの条件及びスケジュールに関する記載や示唆はなく,そもそもPCSK9とLDLRとの結合を阻害する抗体(結合中和抗体)の作製方法の記載はない。・・・総合すると,甲1に接した当業者は,甲1及び周知技術に基づいて,PCSK9とLDLRとの結合を中和することのできる,何らかのモノクローナル抗体(相違点Aに係る本件訂正発明1の構成)を得ることが可能であったとしても,参照抗体を得ることを容易に想到することができたものと認められないから,参照抗体がPCSK9に結合する部位と同一のPCSK9上の部位又は参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となるPCSK9上の部位に結合する,参照抗体と「競合する」抗体(相違点Bに係る本件訂正発明1の構成)についても,容易に想到することができたものと認めることはできない。」

2.取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
「原告は,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性(「結合中和」及び「参照抗体との競合」)のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであるが,本件明細書に記載された具体的な抗体はわずか3グループないし3種類の抗体しかなく,また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえず,参照抗体と「競合する」抗体であることは,「結合中和」の指標にはならないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものではないとして,本件訂正発明1及び9はサポート要件に適合しない旨主張する。

しかしながら,・・・特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない。そして,・・・当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとの結合を中和するものといえないとしても,本件訂正発明1は「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体であることを発明特定事項とするものであるから,そのことは,上記認定を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は理由がない。

原告は,本件訂正発明1のように,物(抗体)の具体的な構造が特許請求の範囲において特定されておらず,その物が機能的にのみ定義され,スクリーニング方法によって特定された物の発明である場合には,機能的な定義やスクリーニング方法の特定は,サポート要件を基礎付けることにはならないし,このような請求項の記載形式を認めることは,特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態が生じる旨主張する。

しかしながら,前記アのとおり,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとはいえず,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。また,本件訂正発明1の請求項の記載形式によって,原告が述べるような特許法の目的である産業の発達を阻害し,特許制度の趣旨に反する事態を招くということもできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。」

3.取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について
「原告は,本件訂正発明1は,抗体の構造を特定することなく,機能的にのみ定義されており,極めて多種類の抗体を含むものであるが,本件明細書の発明の詳細な説明において本件訂正発明1に含まれ得る抗体として記載された具体的な抗体(3グループないし3種類の抗体)とはアミノ酸配列が全く異なる多種多様な構造の抗体も文言上含まれ得るし,当然ながら,今後発見される,いまだ全く知られていない抗体も全て含むものであり,本件訂正発明1の特許請求の範囲に含まれる全体の抗体を得るためには,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要することは明らかであるから,本件訂正発明1は,実施可能要件を満たさず,また,本件訂正発明9も,これと同様である旨主張する。

しかしながら,・・・特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとはいえず,当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載に従って,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるものと認められる。また,・・・当業者は,本件明細書の記載に基づいて,本件明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認められるから,本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる抗体を得るために,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。したがって,原告の上記主張は,理由がない。」

【コメント】

請求項1(本件訂正発明1)は、発明の対象である抗体そのものの構造が特定されていない点で不明確である・・・、発明特定事項の一つである「参照抗体」を入手して「参照抗体」と競合するのかどうか(どのレベルで競合といえるのかも不明だが)を確認しなければ目的物を実施することはできないという過度の試行錯誤を当業者に強いる発明である・・・、「特定の参照抗体と競合する」かどうかを試験するというプロセスを経て構造の予期できない最終品にまで権利範囲を及ぼすことを意図した所謂リーチスルークレームである・・・、と思えるのだが、判決は特許維持審決を肯定した。この請求項が明確性、サポート要件、実施可能要件を果たして満たしているといえるのかどうか、極めて議論のある判決ではないか。今後このようなリーチスルー特許が多数乱立することは容易に想像できる。今回の裁判所の判断は産業の発達に寄与することを目的とする特許法の趣旨に沿うものだったといえるのだろうか疑問が残る。

同日付の関連判決(内容は同じ):

本件特許(第5705288号)は特願2010-522084(原出願)の分割出願であり、この原出願特許(第5441905号)は、ヒト抗PCSK9モノクローム抗体製剤レパーサ(Repatha)®皮下注を保護する特許権として3つの存続期間延長登録出願されている。レパーサ(Repatha)®皮下注は、ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に対する遺伝子組換えヒトIgG2モノクローナル抗体であるエボロクマブ(evolocumab)を有効成分とする米国Amgen社で開発されたヒト抗PCSK9モノクローム抗体製剤。日本では、レパーサ皮下注140mgシリンジ及びレパーサ皮下注140mgペンが2016年1月22日に承認され、レパーサ皮下注420mgオートミニドーザーが2017年8月23日に承認された。日本では、アステラス・アムジェン・バイオファーマが製造販売承認を取得、アステラスとともに販売。本件特許の日本におけるファミリー特許状況は以下のとおり。
  • PCT/US2008/074097(WO2009/026558)
  • 特願2010-522084(特表2010-536384)
    特許5441905
    ・シリンジについての延長登録出願番号2016-700055(延長期間2年25日)
    ・ペンについての延長登録出願番号2016-700056(延長期間2年25日)
    ・オートミニドーザーについての延長登録出願番号2017-700348(延長期間3年7月26日)

    請求項1:
    PCSK9タンパク質に結合する、単離された中和ヒトモノクローナル抗体であって、
    以下の相補性決定領域(CDR)、すなわち、配列番号368に示されるCDR1である重鎖CDR1、配列番号175に示されるCDR2である重鎖CDR2、及び配列番号180に示されるCDR3である重鎖CDR3を含む重鎖ポリペプチド、並びに
    以下のCDR、すなわち、配列番号158に示されるCDR1である軽鎖CDR1、配列番号162に示されるCDR2である軽鎖CDR2、及び配列番号395に示されるCDR3である軽鎖CDR3を含む軽鎖ポリペプチド
    を含む、中和ヒトモノクローナル抗体。
  • 特願2013-195240(特開2014-043446)
    特許5705288(本件特許): 特許権存続期間延長登録出願なし。存続期間満了日は2028年8月22日。
    異議2015-700112
    無効2016-800004(本件審決)→無効審判請求不成立審決取消訴訟(2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225)
  • 特願2015-033054(特開2015-166345)
    特許5906333: 特許権存続期間延長登録出願なし。存続期間満了日は2028年8月22日。
    無効2016-800066→無効審判請求不成立審決取消訴訟(2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10226)
  • 特願2016-053430(特開2016-182114)
    拒絶査定不服審判請求手続却下
  • 特願2018-031718(特開2018-118974)

抗PCSK9抗体製剤として、アムジェンはレパーサ(Repatha)®皮下注を、サノフィはプラルエント(Praluent)®皮下注を販売しており、両社は競合関係にある。サノフィのプラルエント(Praluent)®皮下注は、ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)に対する遺伝子組換えヒトIgG1モノクローナル抗体であるアリロクマブ(alirocumab)を有効成分とするヒト抗PCSK9モノクローム抗体製剤。日本では、2016年7月4日に最初の製造販売承認を取得している。アムジェン(Amgen)が保有する抗PCSK9抗体特許をサノフィ(Sanofi)のPraluent®が侵害していると主張した特許侵害訴訟が米国ではCAFC判決に至っている。
参考: 2017.10.05 「Amgen v. Sanofi」 CAFC No.2017-1480
2018年4月4日付のAmgenの「Chairman and CEO Letter and Amgen Inc. 2017 Annual Report」によると、Sanofiは、欧州でもAmgen特許(EP2,215,214)に対して2016年2月24日に異議申立を提出した。さらに、欧州異議申立審理の結果を受けて、Sanofiは、2018年11月30日にNotice of Appealを提出したようである。

2019/01/15

2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10226

リーチスルー抗体クレームについての進歩性・サポート要件・実施可能要件の判断知財高裁平成29年(行ケ)10226

被告(アムジェン)が保有する「プロタンパク質コンベルターゼスブチリシンケクシン9型(PCSK9)に対する抗原結合タンパク質」に関する特許(第5906333号)に対する無効審判請求不成立審決(無効2016-800066号)を不服として、原告(サノフィ)が審決取消訴訟を提起した事案。争点は、構造が特定されていない抗体に関する発明の進歩性、サポート要件、実施可能要件の有無。

請求項1(本件訂正発明1):
PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体。
裁判所は、本件訂正発明について甲1及び周知技術に基づいた容易想到性を否定し進歩性を認め並びにサポート要件及び実施可能要件にも適合するとした本件審決の判断に誤りはないとして、原告主張の取消事由はいずれも理由がないと判断した。請求棄却。

内容は、同日付の関連判決(2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225)と同じ。

参照: 2018.12.27 「サノフィ v. アムジェン」 知財高裁平成29年(行ケ)10225





2019/01/13

2018.11.26 「P1 v. サントリーホールディングス」 大阪地裁平成29年(ワ)6494

大学助教授が企業との共同研究成果に対して職務発明対価を請求した事案: 「P1 v. サントリーホールディングス」 大阪地裁平成29年(ワ)6494

【背景】

「器質的脳障害に起因する高次脳機能の低下に対する改善作用を有する組成物」に関する特許(第6095615号)に係る発明の発明者の一人で金沢大学助教授であった原告(P1)が、その特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡したと主張して、被告(サントリーホールディングス)に対し、発明対価の支払等を請求した事案。サントリー及び金沢大学は、共同して本件発明をした原告(P1)及びサントリーの従業員(P3)から本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受けて本件原出願及び本件出願をした。争点は以下の通り。
  • 本件発明が、サントリーを「使用者等」、原告(P1)を「従業者等」とする「職務発明」か(争点1)
  • 原告(P1)は、本件発明に係る特許を受ける権利の持ち分をサントリーに譲渡したか(争点2)
  • 相当の対価の額(争点3)
  • 原告(P1)は、本件発明に係る特許を受ける権利の持ち分をサントリーに譲渡し、それに伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則により、合理的な譲渡対価を被告(サントリーホールディングス)に請求し得るか(争点4)、その合理的な譲渡対価の額(争点5)
  • 原告(P1)が金沢大学の「従業者等」であり、サントリーの「従業者等」でないとしても、特許法35条3項の類推適用により、特許を受ける権利の譲渡の対価を被告(サントリーホールディングス)に請求し得るか(争点6)、その相当の対価の額(争点7)

【要旨】

裁判所は、本件発明に係る原告(P1)の特許を受ける権利の持分が、サントリーに譲渡されたとは認められないと判断し(争点2)、従って、それがサントリーに譲渡されたことを前提とする原告の主張(争点4及び争点6)にも理由がなく、その余の点について判断するまでもなく、原告(P1)の請求には理由がない、と判断した。請求棄却(発明対価支払い求める部分を却下)。以下、争点2についての裁判所の判断を抜粋。

「・・・本件発明は,本件共同研究契約の成果としてされた発明であると認めるのが相当である。・・・本件共同研究契約における共同研究による発明の取扱いに関する定め,特に,各発明者に対する補償は,金沢大学とサントリーがそれぞれに属する発明者に対してのみ,自己所定の規定に基づき行うものとすると定められていることからすると,本件共同研究契約においては,金沢大学とサントリーは,それぞれに属する発明者からのみ特許を受ける権利の譲渡を受けて出願することが想定されていたと認められる。このことからすると,サントリーが,本件共同研究契約の成果である本件発明に係る特許を受ける権利について,自己の従業員であるP3の持分以外に原告の持分の譲渡も受ける意思を有していたとは考え難いことである。また,このことは,本件発明を職務発明と認定した金沢大学についても同様であり,金沢大学が,原告の持分以外にP3の持分の譲渡を受ける意思を有していたとは考え難いことである。
そして,原告も,金沢大学側から,本件発明に係る原告の持分100%を金沢大学に譲渡したことを確認する旨の譲渡証書(乙11)の提示を受けて,これに署名押印して交付しているのであるから,原告も本件発明に係る原告の持分を全て金沢大学に譲渡する意思を有していたと認められる。そして,原告のこのような行動は,前記のとおり原告も本件発明が本件共同研究契約の成果であるとの認識を発明届出書に記載したこととも整合している。
また,本件原出願を行うに当たり,サントリーと金沢大学がそれぞれの持分を50%ずつと定めたことや,その後の補償金の支払を,サントリーはP3に対してのみ,金沢大学は原告に対してのみしていることも,サントリーはP3から,金沢大学は原告から,それぞれ各持分の全ての譲渡を受けたと見ることが整合的である。
以上からすると,本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分がサントリーに譲渡されたとは認められない。」

【コメント】

原告(P1)は、サントリーとの研究は「金沢大学での職務とは無関係のものだった」と主張して、サントリーとの直接的な関係性(職務発明性)を主張したが、本件発明は金沢大学とサントリーとの本件共同研究契約の成果としてされた発明であると裁判所は認定した。大学と企業との共同研究から生まれた成果について、大学側で研究を推進した先生が共同研究相手である企業に対して大きな見返りを要求することは良くある話である。一般的に、大学側の先生が極めて大きな貢献をしたことは間違いないことが多いが、その成果が大学と企業との間で締結した共同研究契約から生まれた成果(先生は大学の職務命令でその共同研究業務をしていた)であって且つ大学と企業の共有となっている(先生の権利全てが大学へ譲渡されている)限り、大学の先生が見返りについて交渉すべき相手は企業ではなく所属大学となるだろう。本事案について、原告(P1)は金沢大学に対して何らかの交渉をしたのかどうかは定かでない。

ほとんどの会社では、職務発明に関する社内規則として、従業者(発明者)から特許を受ける権利の予約承継を義務付けている(現在は使用者原始帰属もありえる)のが一般的であろう。共同研究における職務発明の取り扱いに関しては、従業者に特許を受ける権利の予約承継を義務付ける(または使用者原始帰属とする)社内規則がしっかりしていれば、共同研究契約で特段の定めをしない限り、従業者の持ち分(またはその一部)が最初から自動的に共同研究相手会社に移ることはないだろう。共同研究で生まれた成果について、共同研究相手会社に属する従業者(発明者)に対して権利譲渡で揉め事になり何かしらの相当の対価(利益)を補償(報償)することになるかもしれないというリスクは、会社として互いに避けたい。従って、もし、共同研究相手会社が十分な社内職務発明規則を有していない場合には、共同研究契約において、相手会社に対して、従業者(発明者)から特許を受ける権利を会社(使用者)に譲渡させる義務・責任を担保させることが望ましい場合もあるだろうし、職務発明の相当対価(利益)の補償(報償)等の支払いはそれぞれの従業者に対してのみとすることの確認をする場合もあるだろう。


2019/01/09

興和・日産化学がリバロANDA訴訟を結晶特許で勝訴


2019年1月8日付の興和プレスリリースまたは日産化学プレスリリースによると、興和、KPAおよび日産化学が、米国においてアムニール社に対して提起していた、高コレステロール血症治療剤「リバロ錠(一般名:ピタバスタチンカルシウム)」に係る特許権(結晶特許:2024年2月2日満了)の侵害訴訟の控訴審について、CAFCは、2018年12月、控訴人(アムニール社)の訴えを退け、原審原告(興和、KPAおよび日産化学)の主張を全面的に認める地裁判決を支持する判決を下したとのことです。

興和、KPAおよび日産化学は、原審被告であるアムニール社、アポテックス社他7社が、リバロの後発品となるピタバスタチンカルシウム(1mg・2mg・4mg錠)のANDAをFDAに提出したことを受けて、2014年4月以降、ニューヨーク州南部連邦地裁に特許権侵害訴訟を提起し、2017年10月に勝訴判決を得ていましたが、アムニール社とアポテックス社は当該判決を不服として、CAFCに控訴していました。

アムニール社およびアポテックス社以外の7社とは地裁判決を前に、アポテックス社とは控訴審提起後、和解契約を締結しましたが、アムニール社とは和解に至らず、今回の判決となった、とのことです。

なお、控訴審においてアムニール社とは結晶特許の有効性のみを争っていたとのことです。

結晶特許とは、LIVALOのorangebookに記載されている米国特許No.8,557,993と思われます。この米国特許に相当する日本ファミリー特許は、5192147、5366163、5445713、5500305、5702494です。


参考: