2020/02/29

2020.02.25 「ブロード研究所・MIT・ハーバード大学 v. 特許庁長官」 知財高裁平成31年(行ケ)10010

ブロード研究所によるCrispr/Cas9に関する発明: 知財高裁平成31年(行ケ)10010

「配列操作のための系,方法および最適化ガイド組成物のエンジニアリング」に関する特許出願(特願2016-117740; 特開2016-165307)の特許法29条の2及び29条2項により拒絶とした審決(不服2017-13795号)の取消訴訟。知財高裁は、本願発明は引用発明1(引用例1: PCT/US2013/073307号に記載の発明。出願人はシグマ-アルドリッチ。)と同一であるから特許法29条の2により特許を受けることはできないと判断し、原告の請求を棄却した。

裁判所による本願発明と引用発明1との対比判断は下記表のとおり。
本願発明の構成要件
引用発明1
判断
A
エンジニアリングされた,天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって,
天然に存在するII型CRISPR/Casシステム由来のCas9タンパク質に,核局在化シグナルを含むなどの改変を行い,エンジニアリングされた,天然に存在しないCas9タンパク質を用いるベクター系であって,
一致
B-a
ガイド配列,tracrRNA及びtracrメイト配列を含むCRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって,前記ガイド配列が,真核細胞中のポリヌクレオチド遺伝子座中の1つ以上の標的配列にハイブリダイズする,第1の調節エレメント,
(ii)真核細胞中の染色体配列中の標的部位に相補的である5’末端における第一の領域,ステムループ構造を形成する第二の内部領域及び本質的に一本鎖のままである第三の3’領域を含む少なくとも1つのガイドRNAをコードするDNAに操作可能に連結されたプロモーター調節配列」,
一致
B-b
II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント,
(i)少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのII型Cas9タンパク質をコードする核酸に操作可能に連結されたプロモーター調節配列」,
一致
B-c
組換えテンプレート
(iii)少なくとも1つのドナーポリヌクレオチド」,
一致
C
を含む1つ以上のベクターを含み,
「を含むベクター」を含み,
一致
D
成分 a),b)及びc)が,前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し,
(i)(iii)のベクターを,異なるベクターとする態様のほかに,同じベクターとする
一致
E
前記系が,前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列とともに発現される1つ以上の核局在化シグナル(複数の場合も有り)(NLS(複数の場合も有り))をさらに含み,
少なくとも1つの核局在化シグナルを含み,その核局在化シグナルは,Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列とともに発現されるものである
一致
F
それによって,前記ガイド配列が,真核細胞中の前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を標的とし,前記Cas9タンパク質が,前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し,それによって,前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座の配列が,改変される,
「ガイドRNAが,II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導し,そこで該II型Cas9タンパク質が,該標的部位にて染色体DNA二本鎖の切断を誘導し,該二本鎖の切断が,染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復される」,
一致
G
CRISPR-Casベクター系。
CRISPR-Casベクター系。
一致

原告らは、引用例1は、標的部位の配列の改変がされたことにつき実験データの裏付けがなく、CRISPR-Cas9システムを真核生物用途に適応することができたとする合理的根拠を示していないとして、下記点を主張した。
    ①引用発明1には、本願発明の機能である「ガイドRNAが,II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導し,そこで該II型Cas9タンパク質が,該標的部位にて染色体DNA二本鎖の切断を誘導し,該二本鎖の切断が,染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復される」ことが含まれていないから、本願発明と引用発明1が実質的に同一であるとはいえない。
    ②引用例1に開示された系は、本願発明の課題を解決することができないものであるから、特許法29条の2の後願排除効を有しているとはいえない。
しかし、裁判所は、以下の通り、原告らの主張は理由がないと判断した。

主張①について
「引用例1には,「ガイドRNAが,II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導し,そこで該II型Cas9タンパク質が,該標的部位にて染色体DNA二本鎖の切断を誘導し,該二本鎖の切断が,染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復される」ことが,形式的な記載だけでなく,実体を伴って記載されていたというべきであり,引用発明1のベクター系も,上記機能を含むものとして開示されていると理解することができる。」
主張②について
「特許法29条の2・・・の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するものではなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。
同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。
したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たって,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方,抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願を排除する効果を有しない。そして,ここで求められる技術内容の開示の程度は,当業者が,先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度に記載されていれば足りるというべきである。
これを本件についてみると,・・・引用例1には,当業者が,先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度の記載があるといえるから,「ガイドRNAが,II型Cas9タンパク質を真核細胞中の染色体配列中の標的部位へ誘導し,そこで該II型Cas9タンパク質が,該標的部位にて染色体DNA二本鎖の切断を誘導し,該二本鎖の切断が,染色体配列が修飾されるようにDNA修復過程により修復される」機能の部分も含めて,後願を排除するに足りる程度の技術が公開されていたものと認めるのが相当である。」

【コメント】

特許法29条の2にいう「先願明細書等に記載された発明」とは、
  • 先願明細書等に記載されている事項(そこに示されていること及びそれが実施可能であることを当業者が理解し得る程度に記載されていれば足りる)、及び
  • 記載されているに等しい事項(出願時における技術常識を参酌することにより、当業者が前記事項から導き出せるもの)
から把握される発明をいうものと解される。原告らは、先願明細書の記載が特許法29条の2における後願排除効を有していないことについて、先願明細書に記載された実験データの矛盾等を突いたが、裁判所は認めなかった。近年の裁判例では、引用発明としての適格性自体を真っ向から否定した判決は少ないようである(原告らの主張で引用: 東京高裁平成13年4月25日判決・平成10年(行ケ)401)。本ブログの過去の記事で取り上げた判決としては、新規性・進歩性における引用発明に関して2015.08.20 「サントリー v. 特許庁長官」 知財高裁平成26年(行ケ)101822017.02.28 「ザ・ヘンリー・エム・ジャクソン・ファンデイション v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10107くらいであり、2016.03.08 「キュアバック v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10043は引例適格性を肯定。特許法29条の2の先願明細書記載程度について判断した判決となると、化学物質の発明についてではあるが2009.11.11 「保土谷化学工業 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10483がある。


ところで、発明の名称を「遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR-Cas系および方法」とする別の特許出願(特願2016-128599)の拒絶審決取消訴訟も同日付で判決が言渡されたており、こちらは特許法29条の2及び29条2項を理由に拒絶とした審決を取り消した(2020.02.25 「ブロード研究所・MIT v. 特許庁長官」 知財高裁平成31年(行ケ)10011)。

【周辺情報】

(1) 本願(特願2016-117740)の原出願(特願2015-547573; PCT/US2013/074819)から派生した日本における出願・特許ファミリーのうち、登録されている日本特許ファミリーは、現時点で下記3件。

(2) Broad Institute websiteよりpatent/licensingの情報:
(3) 引用例1(PCT/US2013/073307(WO2014/089290))に対応する、発明の名称を「CRISPRに基づくゲノム修飾および制御」とする特許出願(特願2015-545838; 特表2016-502840)は、特許として登録されている(特許6620018号)。特許権者はシグマ-アルドリッチ。


2020/02/26

2020.02.18 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁令和元年(行ケ)10083

メディオンの炭酸パック特許: 知財高裁令和元年(行ケ)10083

【背景】

メディオン(被告)が保有する「二酸化炭素含有粘性組成物」に関する特許(第4912492号)の無効審判請求(無効2018-800054号)不成立審決取消訴訟。争点は進歩性。

本件審決が認定した引用発明、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点1:
  • 一致点
    医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,/炭酸塩を含有する含水粘性組成物と,酸を含む剤の組み合わせからなり,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,/含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット
  • 相違点1
    炭酸塩及び酸をそれぞれ含む組成物の構成について,本件発明1では,炭酸塩がアルギン酸ナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が「顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤」に含有されるのに対し,引用発明では,炭酸塩がポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が含水粘性組成物に含有される点
【要旨】

裁判所は、請求は理由がないとして原告の請求を棄却した。以下は、相違点1の容易想到性判断の誤りについての裁判所の判断の抜粋。
ア アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて

アルギン酸ナトリウムは,粘性水性組成物を形成する増粘剤として周知であるとしても,皮膜形成能を有する増粘剤として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。また,引用例1には,パック剤に適宜配合することができる成分の例として,・・・増粘剤・・・などの薬効剤,防腐剤,香料,色素が挙げられているが,アルギン酸ナトリウムを用いることは何ら記載されていない。以上によれば,粘稠液が造膜性のものであることを前提とする引用発明において,ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

イ 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について

引用発明は,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄するパック剤であって,短時間で優れた血行促進作用を示すものであるから,使用時の二酸化炭素の発生を遅延させ,持続性を持たせることの動機付けがあるとはいえない。そうすると,引用例1に接した当業者は,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を1つの固形物に含有させることを想到することもできないというべきである。

ウ 小括
よって,相違点1は,当業者が容易に想到できたものではない。

【コメント】

本件特許第4912492号については、2019年2月4日付知財高裁判決でも、本件発明に容易想到性が認められないとした審決に誤りはなくネオケミアが主張する取消事由は理由がないとしてネオケミアの請求を棄却していた(2019.02.04 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(行ケ)10033; 知財高裁平成30年(行ケ)10054)。

また、メディオンが炭酸パック化粧料を製造・販売したネオケミアらに対して提起した特許権侵害訴訟において、2019年6月7日、知財高裁(大合議)は、ネオケミアら製品は本件特許発明の技術的範囲に属し、特許の無効理由が存するとは認められないとした上で、ネオケミアらの控訴を棄却していた(2019.06.07 「ネオケミア v. メディオン」 知財高裁平成30年(ネ)10063)。

メディオンの特許についてはこちらに記載がある。

過去関連記事:

2020/02/24

WIPO Conversation on Intellectual Property (IP) and Artificial Intelligence (AI): Second Session

On December 13, 2019, WIPO invited member states and all other interested parties to provide comments and suggestions to help define the issues related to intellectual property (IP) and artificial intelligence (AI) based on a Draft Issues Paper on IP Policy and AI.

The submissions period closed on February 14, 2020.  These comments will be used to prepare a revised issues paper for discussion at the second session of the WIPO Conversation on IP and AI (WIPO/IP/AI/2/GE/20; May 11-12, 2020).

Comments:

2020/02/21

2020年2月 シアリス®(タダラフィル(tadalafil))のジェネリックが初承認

2020年2月19日、タダラフィル(tadalafil)を有効成分とする勃起不全治療剤シアリス®錠のジェネリックが初承認されました。承認されたのは下記3製品。
  • タダラフィル錠10mgCI「クラシエ」/タダラフィル錠20mgCI「クラシエ」(製造販売元: シオノケミカル、発売元: クラシエ薬品)
  • タダラフィル錠10mgCI「サワイ」/ タダラフィル錠20mgCI「サワイ」(製造販売元: 沢井製薬)
  • タダラフィル錠10mgCI「あすか」/ タダラフィル錠20mgCI「あすか」(製造販売元: 大興製薬、発売元: あすか製薬、販売: 武田薬品工業)
シアリス®錠は、選択的なホスホジエステラーゼ タイプ5(PDE5)阻害作用を有するタダラフィル(tadalafil)を有効成分とする勃起不全治療剤であり、日本では2007年7月に承認されました(通常1日1回タダラフィルとして10mg。一定の場合には20mgまで増量可)(薬価基準未収載。保険適用外)。2007年9月より日本イーライリリーにて発売されていましたが、2009年7月1日から日本新薬が販売を受託・発売しています。再審査期間は2007年7月31日から2015年7月30日(8年)。

また、同じ有効成分タダラフィルを含有する前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤ザルティア®錠および肺動脈性肺高血圧症治療薬アドシルカ®錠の再審査期間はそれぞれ2014年1月17日から2018年1月16日(4年)および2009年10月16日~2019年10月15日(10年)。 日本新薬の決算発表資料によると、同じ有効成分タダラフィルを含有するシアリス®錠、ザルティア®錠、アドシルカ®錠の2019年度売上はそれぞれ46億円、121億円、52億円であり、2020年度売上はそれぞれ39億円、130億円、54億円を予想しています(日本新薬2020年3月期第3四半期決算短信(2020年2月5日))。2020年の第一四半期を目処に日本新薬が日本におけるタダラフィル製剤の製造販売元となります(2019.05.10 日本新薬 press release: 「ホスホジエステラーゼ5阻害剤 タダラフィルに関する契約締結のお知らせ」)。

シアリス®錠と同じ有効成分タダラフィルを含有する前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤ザルティア®錠のジェネリックも2020年2月17日に初承認となっています。

1.シアリス®錠を保護する3つの特許
  • タダラフィルの物質特許(特許3808095号)は、1995年1月19日に出願され、2006年5月26日に登録されました。勃起不全症を処分対象の特定用途とした特許存続期間延長登録(特願2007-700102; 特願2007-700103; 特願2007-700104)が認められ、その延長期間(1年2月4日)は2016年3月で満了しました。
  • タダラフィルの勃起機能不全治療用途特許(特許4169365号)は、1996年7月11日に出願され、2008年8月15日に登録、2016年7月11日に満了しました。
  • シアリス®錠の特定用量製剤を保護する特許(第4975214号)は、2000年4月26日に出願され、2012年4月20日に登録、存続期間満了日は2020年4月26日です。この特定用量製剤特許に対してジェネリックメーカーによる無効審判が請求されました(下記)。

2.東和薬品の動き

シアリス®錠の特定用量製剤特許(第4975214号)は、下記事件において、東和薬品による特許無効審判請求(2013年12月27日)を不成立とする審決(無効2013-800243)の取消判決がなされていました。
知財高裁の判決後、2016年5月6日付で上告受理申立、2017年4月13日付で上告受理申立却下、無効2013-800243事件の審理が再開、同年8月2日付で予告審決となりましたが、8月23日付で東和薬品により請求取下書が提出され、審判は取下げとなっていました。

東和薬品は、上記無効審判請求を行い、2016年中にはシアリス®錠のジェネリックの承認を得て販売に踏み切ってもいいくらいの有利な上記判決を勝ち取りながらも、審判請求取下げをして現時点で承認・販売に至っていないようです。東和薬品と特許権者側との間で何かしらの和解契約をした可能性よりも、むしろ東和薬品はシアリス®錠のジェネリック参入をしないことを決断したのかもしれません。一方で、東和薬品は、シアリス®錠と同じ有効成分であるタダラフィルを含有する前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤ザルティア®錠のジェネリックであるタダラフィルOD錠2.5mgZA/5mgZA「トーワ」を2020年2月17日に承認取得しています。シアリス®錠(保険適用外)よりもザルティア®錠(保険適用)の売上が大きいことを考えれば、ザルティア®錠のジェネリック参入だけに絞ったとしても不思議ではないのかもしれません。

3.シオノケミカル、マイラン製薬の動き

上記東和薬品によるシアリス®錠の特定用量製剤特許(第4975214号)に対する無効審判請求取下げ後の2017年11月7日(東和薬品が無効審判請した2013年末に遅れること約4年)、シオノケミカルは同特許に対する無効審判請求(無効2017-800140号事件)を行い(同年12月15日付でマイラン製薬が請求人側に参加申請)、2019年7月25日、シオノケミカル及びマイラン製薬は無効審決を勝ち取りました。同年11月29日、特許権者であるイコス(又は参加人イーライリリー)は、本件無効審決を不服として審決取消訴訟を提起したようです。
審決取消訴訟が係属中であることから審決が取消されるリスクは残されているものの、審決が無効判断を下したことで、シオノケミカル及びマイラン製薬は、シアリス®錠のジェネリックの承認を得て販売に踏み切る判断もありえました。今後の審理がどうであれ、シアリス®錠の特定用量製剤特許(第4975214号)の存続期間満了日は2020年4月26日に迫っているからです。少なくともシオノケミカルは下記シアリス®錠のジェネリックの承認を取得したようで、近いうちに発売に踏み切ると思われます。
  • タダラフィル錠10mgCI「クラシエ」/タダラフィル錠20mgCI「クラシエ」(製造販売元: シオノケミカル、発売元: クラシエ薬品)
シオノケミカルは、シアリス®錠と同じ有効成分であるタダラフィルを含有する前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤ザルティア®錠のジェネリックであるタダラフィル錠2.5mgZA「フソー」/タダラフィル錠5mgZA「フソー」(製造販売元: シオノケミカル、発売元: 扶桑薬品)も2020年2月17日に承認取得しています。

4.他のジェネリックメーカーの動き

他のジェネリックメーカーも、シアリス®錠の特定用量製剤特許(第4975214号)の存続期間満了日である2020年4月26日をターゲットにシアリス®錠のジェネリックの承認を取得して、販売に踏み切ることができると思われます。少なくとも2020年2月19日にシアリス®錠のジェネリックである
  • タダラフィル錠10mgCI「サワイ」/ タダラフィル錠20mgCI「サワイ」(製造販売元: 沢井製薬)
  • タダラフィル錠10mgCI「あすか」/ タダラフィル錠20mgCI「あすか」(製造販売元: 大興製薬、発売元: あすか製薬、販売: 武田薬品工業)
が承認されたことが明らかとなっています。沢井製薬及びあすか製薬は、それぞれシアリス®錠と同じ有効成分であるタダラフィルを含有する前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤ザルティア®錠のジェネリックであるタダラフィル錠2.5mgZA「サワイ」/ タダラフィル錠5mgZA「サワイ」又はタダラフィル錠2.5mg ZA「あすか」/ タダラフィル錠5mg ZA「あすか」を2020年2月17日に承認取得しています。


2020/02/20

2020年2月 セレコックス®(セレコキシブ)のジェネリックが初承認

2020年2月17日、非ステロイド性消炎・鎮痛剤(COX-2選択的阻害剤)セレコックス(Celecox)®錠のジェネリックが初承認となりました(20社40品目)。20社のジェネリックの中には、ファイザーのセレコキシブ「ファイザー」があり、これはオーソライズド・ジェネリック(AG)のようです。

有効成分であるセレコキシブは、1992 年に米国サール社(現 米国ファイザー社)で合成されました。日本では、1996 年4月から山之内製薬(現 アステラス製薬)と日本モンサント(現 ファイザー)が共同開発を実施し、2007年1月26日に「関節リウマチ、変形性関節症」を効能・効果としてアステラス製薬がセレコックス®錠の製造販売承認を取得しました(販売提携 ファイザー)。2009年6月17日には「腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎」、さらに2011年12月22日には、「手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛」の効能・効果が追加承認されました。

再審査期間は、「関節リウマチ、変形性関節症」については、2007年1月26日~2015年1月25日(8年間)、「腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘」及び「手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛」についても、「関節リウマチ、変形性関節症」の残余期間(2015年1月25日)までということで、再審査期間が終了した2015年以降、セレコックス®錠の市場独占性は特許によって守られていました。

しかし、2019年11月14日に、セレコックス®錠を保護する物質特許は満了したことから(偶然にも、組成物特許の無効理由を認める判決も同日付で出された)、2020年2月にはジェネリックの承認がされると推測されていました(2019.11.14 「東和薬品・日本ケミファ・ヘキサル v. ジー.ディー.サール」 知財高裁平成30年(行ケ)10110; 10112; 10155)。
  • 物質特許(第3025017号)・・・2019年11月14日に延長存続期間(5年間)満了。
  • 組成物特許(第3563036号)・・・20年の存続期間満了日は2019年11月30日、期間延長登録により、「関節リウマチ、変形性関節症」については2022年6月26日、「腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎」及び「慢手術後、外傷後並びに抜歯後」については2024年11月30日が満了日だった。しかし、本件特許に対する無効審判(無効2016-800112号)の請求不成立審決とされた部分は取り消されるべき(サポート要件に適合しない)とした2019年11月14日付の知財高裁判決(2019.11.14 「東和薬品・日本ケミファ・ヘキサル v. ジー.ディー.サール」 知財高裁平成30年(行ケ)10110; 10112; 10155)がだされていた。

2020/02/17

2020年2月 ゼチーア®(エゼチミブ)ジェネリック承認 10社以上が参入

2020年2月17日、高脂血症治療剤ゼチーア®錠のジェネリック(昨年8月承認のAGを除く)の承認を取得したジェネリックメーカーは10社以上となりました。2020年6月の薬価基準収載・発売が見込まれます。ゼチーア®錠の再審査期間(2007年4月18日~2015年4月17日)が終了しているため、エゼチミブを保護する物質特許(第2803908号)の満了(5年の延長のため2019年9月14日)以降、早ければ2020年2月にジェネリックが承認されると推測されていました。

ゼチーア®錠は、米国シェリング・プラウ社(現 Merck Sharp & Dohme Corp., a subsidiary of Merck & Co.,Inc.)により創製された世界初の小腸コレステロールトランスポーター阻害剤である高脂血症治療剤(有効成分: エゼチミブ(Ezetimibe))。日本ではMSD/バイエル薬品が販売していますが、第一三共エスファが2019年8月にオーソライズド・ジェネリック(AG)であるエゼチミブ錠 10mg「DSEP」の承認を取得し、発売開始を2020年6月に予定していると発表しています。従って、AGと他のジェネリックとが横並びで同時期に一斉に発売になると思われます。

ゼチーア®錠およびAGの効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、ホモ接合体性シトステロール血症」であるのに対し、他のジェネリックの効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」のみとなっています。「ホモ接合体性シトステロール血症」については用途特許(第4614460号および第4711600号)が存続しているため(2022年1月25日満了)、パテントリンケージによりジェネリックは効能効果の虫食い承認となったと思われます。


2020/02/02

ハーセプチン®の乳癌治療に関連する特許を巡るジェネリックメーカーの動き

抗HER2ヒト化モノクローナル抗体・ハーセプチン®のバイオ後続品(バイオシミラー)の上市を果たしたのは、現在、日本化薬、セルトリオン社、ファイザー社、第一三共の4社です。しかし、ジェネンテック社が保有するハーセプチン®の乳癌治療に関連する特許に対する各社の対応の違いにより、バイオ後続品の【効能・効果】および【用法・用量】(乳癌について3週間1回投与(B法)の有無)が先発品と同一となる時期に差が生じたようです。

1.セルトリオン社・日本化薬

2016年
セルトリオン社は、ハーセプチン®の乳癌治療に関連する2つの特許(特許5623681及び特許5818545)に対してそれぞれ無効審判請求を行った。

2017年
ハーセプチン®の乳癌治療に関連する特許の侵害を理由として、専用実施権者である中外製薬は、ジェネンテック社とともに、セルトリオン社と共同開発を進めてきたバイオ後続品の製造販売承認申請を2017年4月11日に行ったとプレスリリース(「トラスツズマブ(遺伝子組換え)製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請について」)した日本化薬に対して、同バイオ後続品の製造販売等の差止めを求め、2017年8月17日付で東京地裁に訴訟を提起した(過去記事: 2017.09.09 「中外がハーセプチン®バイオシミラー承認申請した日本化薬に対し用途特許侵害で製造販売差止訴訟提起」)。

2018年
中外製薬は、製造販売承認となった日本化薬のバイオ後続品の効能・効果が「HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌」のみであり、「HER2過剰発現が確認された乳癌」は含まないことから、日本化薬を被告として提起していた特許侵害訴訟について、請求放棄の手続を執った(過去記事: 2018.04.11 「ハーセプチン®用途特許侵害訴訟。日本化薬バイオシミラーの承認効能効果受け、中外が差止請求放棄」)。日本化薬とセルトリオン社のバイオ後続品は、胃癌について承認となり(乳癌は含まない)、8月に販売が開始された。しかし、同年10月、上記無効審判の請求不成立審決は知財高裁によって取消されることになる(セルトリオン社・ファイザー社の勝訴)。
2019年
2016年から係争中だった、セルトリオン社による特許無効審判請求は、和解により解決することで合意に至り(2019年7月22日公表)、セルトリオン社は審判請求を取下げ、8月21日付でセルトリオン社及び日本化薬は乳癌について3週間1回投与(B法)を追加する承認事項一部変更承認を取得。これにより、セルトリオン社及び日本化薬のバイオ後続品の【効能・効果】および【用法・用量】は、先行バイオ医薬品ハーセプチン®と同様となった。

2.ファイザー社

2017年
ファイザー社は、ハーセプチン®の乳癌治療に関連する特許(特許5818545)に対して無効審判請求を行った。

2018年
中外製薬は、ジェネンテック社とともに、ハーセプチン®バイオ後続品の胃癌及び乳癌(1週間1回投与(A法))について製造販売承認を取得したファイザーに対し、特許侵害を理由として、10月12日付で東京地裁に同バイオ後続品の製造販売等の差止めを求める訴訟を提起した(過去記事: 2018.10.12 「中外がハーセプチン®バイオシミラー承認取得した第一三共とファイザーに対し用途特許侵害で差止訴訟提起」)が、同月31日には取下げた(2018.10.31 中外製薬 press release: 「訴訟および仮処分命令申立ての取り下げについて」)。

2019年
2017年から係争中だった、ファイザー社による特許無効審判請求は、4月25日付でファイザー社により取下げられ、2019年7月17日付でファイザー社は乳癌について3週間1回投与(B法)の用法用量を追加する承認事項一部変更承認を取得。ファイザー社のバイオ後続品の【効能・効果】および【用法・用量】は、先行バイオ医薬品ハーセプチン®と同じとなり、8月22日より発売。審判請求の取下げや乳癌B法の追加承認取得・発売のタイミングなどから、同特許についてジェネンテック社との間で何らかの和解による合意がされたものと推測される。

3.第一三共

2018年
中外製薬は、ジェネンテック社とともに、ハーセプチン®バイオ後続品の胃癌及び乳癌(1週間1回投与(A法))について製造販売承認を取得した第一三共に対し、特許侵害を理由として、10月12日付で東京地裁に同バイオ後続品の製造販売等の差止めを求める訴訟を提起した(過去記事: 2018.10.12 「中外がハーセプチン®バイオシミラー承認取得した第一三共とファイザーに対し用途特許侵害で差止訴訟提起」)が、同月31日には取下げた(2018.10.31 中外製薬 press release: 「訴訟および仮処分命令申立ての取り下げについて」)。

2019年
第一三共は、セルトリオン社やファイザー社が請求した特許無効審判には参加していなかった。セルトリオン社やファイザー社が特許無効審判請求を取下げたことで、同特許は有効に存続していることになり、第一三共は、それら請求取下げ直後の5月31日に無効審判を請求した。

2020年
現時点で、第一三共は、特許の無効審決を得るに至っていない。セルトリオン社、日本化薬、ファイザー社は、ハーセプチン®と【効能・効果】および【用法・用量】が同じバイオ後続品を発売しているが、第一三共は、乳癌について3週間1回投与(B法)についての追加承認を得るには至っていない。ハーセプチン®の乳癌に関連する特許の存続期間は5月または8月で満了する。

表: ハーセプチン®及びバイオ後続品の製品・特許ヒストリー(特許5623681(
特許5818545())

ハーセプチン®
のヒストリー
トラスツズマブ・バイオシミラーのヒストリー
日本化薬
セルトリオン
ファイザー
第一三共
2000
5/9 出願日
8/25 原出願日




2001
4/4 製造販売承認(乳癌)




2004
2/26 剤形追加承認




2008
2/29 乳癌について効能効果及び用法用量追加承認




2011
3/10 胃癌について効能効果及び用法用量追加承認
4/3 再審査期間終了
11/25乳癌について効能効果及び用法用量追加承認




2013
6/14 乳癌について用法用量は1週間1回投与(A)又は3週間1回投与(B)となる




2014
10/3 特許登録日




2015
10/9 特許登録日




2016


2/15 審判請求(無効2016-800021)
6/17 審判請求(無効2016-800071)
12/27 訂正認めた上で請求不成立審決(無効理由なし)


2017

4/11 承認申請







8/17 東京地裁に販売等差止訴訟提起される
3/17 ファイザー参加申請
5/10 審決取消訴訟提起(H29行ケ10106)
7/5 請求不成立審決(無効理由なし)
8/10 審決取消訴訟提起(H29行ケ10165; 10192)


5/10 審判請求(無効2017-800062)





10/17 セルトリオン参加申請

2018

3/23 胃癌について承認
4/10 差止請求取下げられる
5/30 薬価収載
8/20 発売













11/28 乳癌について追加承認(1週間1回投与(A))
3/23 胃癌について承認


5/30 薬価収載
8/28 発売



10/11 審決取消判決(無効理由あり)
10/22 審決取消判決(無効理由あり)
11/12 上告受理申立
11/12 上告受理申立
11/28 乳癌について追加承認(1週間1回投与(A))






9/21 胃癌及び乳癌(1週間1回投与(A))について承認
10/12 東京地裁に販売等差止訴訟提起される

10/31 差止請求取下げられる




12/10 審決の予告(進歩性欠如)






9/21 胃癌及び乳癌(1週間1回投与(A))について承認
10/12 東京地裁に販売等差止訴訟提起される

10/31 差止請求取下げられる



11/28 薬価収載・発売
2019











7/22 和解プレスリリース
8/21 乳癌について3週間1回投与(B)の用法用量追加承認
3/7 上告受理申立却下
3/26 審判審理再開
4/25 ファイザイー参加取下げ
5/13 審判請求取下げ
5/13 審判請求取下げ
7/22 和解プレスリリース
8/21 乳癌について3週間1回投与(B)の用法用量追加承認




4/25 審判請求取下げ
5/13 セルトリオン参加取下げ

5/29 薬価収載
7/17 乳癌について3週間1回投与(B)の用法用量追加承認
8/22 発売









5/31 審判請求(無効2019-800043)
2020

5/9特許満了日(延長なし)
8/25特許満了日(延長なし)



2/21 口頭審理