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「知的財産推進計画2022」の策定に向けた製薬産業界からの意見・・・海外産業界からも医薬品のデータ保護制度の法制化を要望

2022年7月4日、内閣府知的財産戦略推進事務局は、「知的財産推進計画2022」の策定に向けて寄せられた意見募集の結果について公表しました。なお、「知的財産推進計画2022」は2022年6月3日付で公表されています。

製薬産業界からは、4団体から意見が提出されました。以下、各団体からの要望・意見の骨子。

日本製薬団体連合会

  • 医療関係者の求めに応じて行う複製を著作権法の権利制限規定の対象とする法改正
  • イノベーション創出のため学術論文のオープンアクセス化と権利制限規定の創設

日本製薬工業協会 知的財産委員会からの要望

  • ヘルスケア産業力強化のためのデータの活用促進に向けた環境整備
  • 「AI・データ 契約ガイドライン」の見直し
  • データ・人工知能(AI)の利活用促進のための知財制度上の在り方についてのさらなる議論
  • バイオ分野の特性を踏まえた産学連携における知財の取扱い
  • データ保護制度の法制化
  • 生物多様性条約に関する対応

日本ジェネリック製薬協会

  • 懲罰的賠償制度、利益吐出し請求権、二段階訴訟制度を導入すべきでない。
  • 「知的財産推進計画2021」の重点7施策を進めて知財活用の促進を図るべきである。

PhRMA(米国研究製薬工業協会)知的財産委員会からの要望

  • データ保護制度の導入
  • 特許延長制度の改善
  • パテントリンケージ制度の改善

また、日本知的財産協会からも、製薬産業に特有な事項についての意見・要望が提出されています。

一般社団法人 日本知的財産協会からの要望(製薬産業特有の事項のみ抜粋)

  • ヘルスケア産業力強化のためのデータの活用促進に向けた環境整備
  • 臨床試験データを保護する制度の法制化
  • 医療分野における「AI・データ 契約ガイドライン」の見直し
  • 医療分野におけるデータ・AIの利活用促進のための知財制度上の在り方についてのさらなる議論

以上を眺めると、日本製薬工業協会や日本知的財産協会といった国内産業界からだけでなく、PhRMA(米国研究製薬工業協会)という海外の製薬産業界からも、医薬品の「データ保護制度」の法制化を強く要望していることがわかります。

医薬品のデータ保護制度は、医薬品の承認申請に必要となる、開発に膨大な費用・時間・労力を費やして取得した臨床試験データという知的財産を、他社への開示及び他社による使用から十分な期間保護する制度です。

長い期間と莫大な投資とが必要でありながら、製品にまで至る確率が極めて低い医薬品産業において、新たな治療の開発に投資を促すためのインセンティブを提供し公衆衛生の発展を促進する重要な役割を担うものとして、少なくとも、米・欧州・中国では法制度化されています。

TRIPS協定(第39条(3))、日英包括的経済連携協定(第14章B7第14.42条)や日EU経済連携協定(第14章B7第14.37条)においても、臨床試験データを保護することが定められていますが、実は、この医薬品のデータ保護制度を規定する法律は、日本に存在しません。

いわゆる再審査制度がありますが、再審査制度の目的は、承認医薬品の安全性の確認であってデータの保護を目的としていません。

このため、制度目的の下で将来的に再審査制度が変更されてもデータ保護の役割が失われる懸念があります。

また、再審査期間が法律としてきちんと定義されていないことも、将来の制度変更の懸念につながります。

データ保護制度の法制化は、日本において安定して医薬品を開発するインセンティブを高め、公衆衛生の発展を促進することが期待されます。逆に言えば、先進国であるにもかかわらず、データ保護制度が法制化されていない日本において、国内外の製薬産業が医薬品を開発するインセンティブはますます薄れ、日本の公衆衛生の発展は他国よりも立ち遅れてしまうおそれがあります。もう既に遅れているのかもしれませんが・・・。

日本の国民の健康を守り、活力ある社会経済を維持していくためには、日本市場の魅力と競合優位性を確保し、イノベーションを呼び込む研究開発投資を継続し発展させていくためのインセンティブを提供する政策が必要なのではないでしょうか。

また、我が国産業の国際競争力の強化を図るための国家戦略を担う知的財産推進計画に、海外の産業界から苦言とも思われる意見が提出されたこと自体について、政府はこれを真摯に受け止めなければいけないのかもしれません。

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